獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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設定は捏造するもの。
魔竜ちゃん戦の推奨BGMは当然のように英雄殺しの滅亡剣です。


ある怪物の恋物語

「へぇ、これが騎神かぁ」

 

 誘いを受けて執行者となったシャーリィ・オルランドは目前に存在する緋色(・・)の騎神を見つめながらポツリと呟く。

 

「名前は確かテスタロッサ……私の武器と同じ名前だなんて運命感じちゃうなぁ」

 

「フフフ、とはいえ貴方がこの騎神に選ばれる可能性は限りなく薄いですわよ。何せこの機体は皇族たるアルノール家の専用機体。

 貴方の祖先がいくらかの英雄帝と言ってもその血は永い時の間に限りなく薄まっていますし、基よりあなた方闘神の血統は傍流も良いところですもの」

 

 そんな浮かれたシャーリィへと第二柱マリアベル・クロイスは笑いながらも釘を指す。

 

「アハハハハ、そもそも本当かどうかも眉唾な話だしねぇ」

 

 それは闘神を受け継ぐオルランド家の始祖に纏わる話。

 かつて暗黒竜によって死の都と化した帝都を奪還するべく動いていた英雄帝ヘクトル・ライゼ・アルノールは選りすぐりの勇士を国中からかき集めていた。事は帝国の存亡を賭けた戦だ。英雄帝は形振り構わずに戦力を求めた。そしてその中には当代に於いて最強と謳われる女傭兵《闘神》メレオレオナ・オルランドも含まれていた。

 そしてそんな英雄帝に対して闘神は不遜にもこう言い放った。「私を従えたければそれ相応の器を示してもらおう」と。敬愛する主君に対する余りの不遜な態度に周囲の騎士が怒りと共に抜刀せんとするが、それを制し玉座から悠然と降り立った英雄帝はその大剣を抜き放ち応じ、激しい激闘の末に見事打ち負かした……とまあ此処までが帝国でもよく知られている英雄帝の逸話なわけなのだが、実はこの話には続きが存在する。

 協力する事を約束したメレオレオナだが、英雄帝にある報酬を頼み込んだのだ。それは彼との子ども。「孕むとすればそれは私よりも強い男の子だと決めていた」と告げてあらゆる報酬の代わりに一夜の思い出を頼み、結果見事暗黒竜との決戦を生き延びたメレオレオナは孕んでいた子を出産し、それこそが闘神オルランド家の起こりであった……とまあそんな何処にでもあるような己が家の開祖に対する箔付け。眉唾話だ。そして正直に言ってシャーリィ・オルランドはそんな与太話に興味など欠片もなかった。

 

 何故ならば

 

「資格の有無なんて関係ないよ。成ると決めたら成るの。リィンがアレほど素敵になったのが騎神という花婿衣裳でめかしこんだからって言うなら、私も対等である為には花嫁衣裳の一つや二つ手に入れないとね」

 

「まあ好きにすると良いですわ。基より深淵が煌魔城が消滅するどさくさに紛れて回収したは良いものの、肝心の起動者がおらず持て余していた代物。執行者である貴方が緋の起動者に成れば瓢箪から駒というものですもの」

 

「ふふん、そういう事ならば早速」

 

 そうして意気揚々と乗り込んだシャーリィ・オルランドを当然のようにテスタロッサは拒絶する。

 彼が認めるのはアルノール家の正統が故に。

 

「アハハハハハ、なかなかに身持ちが堅いんだね。そういうところなかなかに好印象だよ。だけどさあ、こっちとしてもはいそうですか資格が無いなら諦めます。なんて言えないんだよねぇ!」

 

 身体に走る激痛をまるでそよ風のように受け流しながらシャーリィは笑う。笑う。笑う。

 無茶無理無謀、そんなものは知ったことかと意志力で以て道理をねじ伏せんとする。

 

「良いから私の物になりなよテスタロッサ!あんな髭面よりはよっぽど上手く貴方の事を使ってやれるんだからさぁ!」

 

 どれほど吠えようが、道理を捻じ曲げる事は出来ない。

 気合一つで覆されるほどにこの世は甘くはない。無を有にする事は出来ないのだ。

 ーーーなのに、これは一体如何なる道理だろうか。

 徐々にテスタロッサが纏っていた竜気とでも称すべき魔の力がシャーリィ・オルランドへと流れ込みだす。

 

 緋の騎神テスタロッサ。

 それはかつて英雄帝ヘクトル・ライゼ・アルノールと共に暗黒竜を打ち破り、帝国に平和を取り戻した伝説の存在。しかし、打倒した暗黒竜の呪いに曝された事で緋の騎神は魔へと堕ちた。

 魔へと堕ちたテスタロッサは、かつてであれば決して起動者に選ばなかったであろう男をあろうことか選んでしまった。その男の名こそオルトロス・ライゼ・アルノール。かつて獅子戦役にて最後の最後まで獅子心皇帝と争い、彼の最愛の女性リアンヌ・サンドロットを道連れにした“偽帝”である。

 そしてトドメとばかりに十月戦役の折にはそのオルトロスの子孫にして傍流であったクロワール・ド・カイエンが使った事でその条件は決定的なまでに狂い出す。

 テスタロッサは例え傍流であろうともアルノールの血を引いていればそれだけで起動者の条件をクリアしたと判断してしまうようになったのだ。

 無論オルランド家に流れるアルノールの血等はるか昔の話、傍流も良いところであり、その血統のものが起動者になる可能性は1%にも満たないものだっただろう。

 だが0ではない。そして0でないというのならば、後は意志力によってどうとでもなる問題だ。

 何故ならば騎神が、そして鋼の至宝が応えるのは何時だとて己の力を求める強き意志なのだから。

 

「私は……あの人と、愛しの英雄と対等になるんだぁ!!!!!!!!!

 

 核の中で響き渡るは魔竜の産声にして乙女の愛の叫び。

 そうして叫びに呼応するかの如く、テスタロッサの瞳が紅く輝きシャーリィ・オルランドは緋の起動者へと至った。

 総ては愛する英雄と対等である為に。

 七の相克という最高の式場で愛しの英雄と激突するために。

 その意志力によって道理を蹴飛ばして。

 

「ハハハ……アーハハハハハハハハハハハハハハハ!やったよリィン!これで私も貴方とおそろいだよ!必ず、必ず殺り(愛し)合おうね!私はそのためだけに緋の騎神(花嫁衣裳)を手に入れたんだから!!!」

 

 みなぎる竜気を滾らせてシャーリィ・オルランドは夢見心地で呟く。

 想い人との至福の逢瀬を夢見て。どこまでも陶酔しきった様子で。

 

・・・

 

 

「オオオオオオオォォッ!」

 

「アーハハハハハハッッ!」

 

 英雄と魔竜、両者が咆哮を挙げながら激突する。

 互いの間で血が飛び、肉を削ぎ、骨ごとその命を絶たんと斬閃の嵐が乱舞する。

 静謐に包まれていた広場は既に戦車砲の絨毯爆撃を喰らったが如き有様と化している。

 両者から噴出する鬼気と竜気は人の身を超えて神話の怪物の領域へと到達している。

 

 鬼気を纏いし英雄が振るう双剣はお伽噺の勇者が振るう伝説の剣の如く光輝いている。

 それは英雄が帝国に於いて双璧を為す二大流派の片割れたるアルゼイドの剣を修めた証。

 まともに喰らえば鋼鉄をも両断し、絶死を齎す必滅の威力を秘めた剛剣だ。

 しかも振るわれるは一太刀にあらず、嵐の如き連撃が双剣を用いて繰り出される。

 更に事態はそれに留まらない。双剣に灯る光が一瞬消えたかと思えば次の瞬間には英雄の身体がかき消え、瞬間移動でもしたのかではないかと疑う、あり得ざる方向からその光刃が振るわれる。

 無論英雄は転移の術を使うことなど出来ない、故にその原理は至って単純。

 ただ双剣へと集中させていた鬼気を両足にへと集中させて、高速で移動したとただそれだけの事である。

 しかし、当然だがこれは言うほど単純な事ではない。

 ほんの僅かな一瞬で瞬時に闘気を一箇所へと集中させるその集束技術は基礎故にある意味では究極の奥義ともいる。

 

 そもアルゼイドの剣が何故光り輝くかと言えば、それは常人でも可視出来るほどに剣へとその闘気を集束させているからに他ならない。膨大な闘気を集束させたその剛剣によってあらゆる物を断つ先の先を極めた剛剣術。それこそがアルゼイドの真価である。すなわちアルゼイド流を極めるという事は闘気の集束技術を極める事に他ならない。

 

 かつて黄金の羅刹との戦いで英雄が会得した神速の型・疾風はその高速機動の反面闘気を脚部に集中させているが故に一撃の破壊力が落ちるという欠点が存在した。

 しかし、アルゼイドの剣を修め、闘気集束に更なる磨きをかけた事でもはやその欠点は消失した。

 無論、欠点がないというわけではない。闘気を集束させ高速機動と攻撃の両立を果たしたという事は、それすなわちその身を守る闘気が薄くなっているという事*1

 一手読み間違えればその瞬間にその速度はそのまま英雄の身へと牙を剥く事となるだろう。

 故にこの型をを成立させるには前提として後の先を極めた末の未来予知染みた先読み(・・・・・・・・・・)が必要不可欠なのだ。

 そうヴァンダールの教えなくしてこの型は決して成り立たない。

 ヴァンダールの先読み、八葉の高速機動、そしてアルゼイドの光刃、それらを総て修め一つへと昇華させたこの型こそがリィン・オズボーンの至りし究極の型。閃光の型・麒麟である。

 

「アハハハハハハハハ」

 

 一手読み違えれば死あるのみの閃剣の乱撃。

 そんなものがまるで同時に複数の敵手を相手にしているかのようにあちらこちらから多角的に飛んでくるそれはもはや理不尽とさえ言って良いだろう。

 凡百の使いであれば一撃で仕留められ、皆伝へと至ったものでさえも数合もやり合えばあっという間に死に追いやられるそれを前にしてシャーリィ・オルランドは渡り合っていた。

 喜びの余り滂沱のような涙を流しながら魔竜は歓喜の咆哮を挙げ続ける。

 もはやその頭の中にいずれ来る相剋の事など欠片たりとも存在しない。

 今、この瞬間こそが自分にとっての聖戦なのだと感激の坩堝を味わっていた。

 

「いい、いい、いい、良いよ!最高すぎるよ!やっぱり貴方こそが私の運命の相手!貴方じゃなければ私はもう満足出来ないの!」

 

 必ず殺してやると必滅を誓うその鬼眼とも称すべき殺気に漲った鋭い、それに見つめられる度にシャーリィの胸はキュンとなる。

 一撃でもまともに喰らえば終わりを齎すであろう光剣がその身をかすめる度に絶頂を迎える。

 もしも彼女がノバルティスより受けた施術によって生殖器を残していたら、とうに下の服はその愛液によってびしょ濡れになっていただろう。

 愚直なまでに魂の咆哮の命ずるがままに限界を超えて覚醒をし続ける。

 宿願の成就を前に、その身より湧き出る竜気は一秒毎に増し続ける。

 重ねてきた準備は総てこの時のために。祝福に満ちた逢瀬を一秒でも永く味わい続けるがために全力以上の全力をその魂を燃やして振り絞り続ける。

 

 ーーー本来であれば、心の力のみで限界を超えて覚醒し続ける等という事は不可能だ。

 窮地に於いて覚醒するという事は不可能ではない。何故ならば人の肉体というのは平時に於いてはその身を壊さぬようにリミッターがかかっているが故に。

 そのリミッターを取り払う事で平時を超える実力ーーー所謂火事場のクソ力を発揮するというのは決して絵空事ではない。医学的にも立証されている現実だ。

 しかし、人の肉体というのはどうしたって純然たる物理法則に依る縛りを受ける。

 心の革新はきっかけ一つで起こり得たとしても、その心によって動かされる肉体は血と肉によって構成されている。

 故にどれ程心が猛ろうともどこかで肉体は付いていけなくなるーーーそれこそがこの世に存在する厳然たる“理”だ。

 

「俺が剣を振るうのは貴様を満足させるためなどではない。総てを愛する祖国と愛する民草と、何よりも最愛の人を護らんが為に!彼女たちが住まう世界に貴様のような怪物は邪魔でしか無い!故に貴様を始末するのが軍人たる俺の責務だ!」

 

 ならばこれは一体如何なる原理によるものなのか。

 歓喜の咆哮を轟かせる魔竜に負けじと英雄のその身から発せられる鬼気はどこまでも増していく。

 邪悪なる竜を対峙するのが英雄の運命なれば、その程度の事は不可能でもなんでもないと言うかのように。

 

「知っているよ!貴方だったらそうする事位!そうだよ!邪悪な竜(わたし)を退治するのが英雄(あなた)の役目なんだから!貴方は誰よりも強く無ければならない!!!だってもしも貴方が負けてしまえば、貴方の大切な人はみんなみんな怪物(わたし)に食べられちゃうんだから!」

 

 だからほら、そんなの許せるはずがないよね?と笑みを浮かべれば返してくれるのは掛け値なしの憤怒(思い)

 それをそのまま力へと変えて英雄は更に更に高みへと昇っていく。

 だからそれがシャーリィ・オルランドには嬉しくて嬉しくてたまらない。

 あの日見た素晴らしい輝きを見せてくれた想い人がそのままで居てくれた事がーーー否、もっともっと素晴らしくなってくれていた事が。

 本音を言えば、ほんの少し……ほんの少しだけシャーリィは不安に思っていたのだ。

 もしも想い人が愛する妻との穏やかな生活とやらで従兄のように腑抜けてしまい、見る影もない有様になっていたらと。

 ーーーそんな風になっていたらかなり強めの気つけも止む得ないだろうと。

 

「だけど、そんなの杞憂だった!貴方は素晴らしい!こんなにも素晴らしい!!!」

 

 そう、想い人たる愛しの英雄はちゃんとわかっていた。

 誰かを守るために剣を振るう者には決して敗北が許されないことを。

 自身の敗北はそれすなわち、自身の護ろうとしている存在の死にも繋がるという事を。

 何かを護り続けようとする存在は誰よりも強く在らねばならぬという当然の理を。

 だからシャーリィはほんの少しでも英雄を疑った事が恥ずかしくてたまらない。

 腑抜けて歩みを止める?否、愛しの英雄に限ってそんな事はありえない。

 そう恥じたが故に魔竜の覚醒を止まらない。

 だって目前の相手はとてもとても素晴らしく愛しい人だから。

 自分の全力に付いてこれずに自分をひとりぼっちにするだなんて事は有り得ないから。

 歓喜の咆哮と共にひたすらに竜気を高めていく。

 限界など知らない。見えない。聞こえない。そんなものは粉砕していくものだと言わんばかりに埒外の覚醒を続けていく。

 

 両者のこの埒外の連続覚醒、限界突破ーーーそれを支えるものが何かと言えばそれは彼らへと流れ込む“呪い”すなわち帝国に存在する鋼の至宝の力だ。

 焔の至宝は人の精神を司り、大地の至宝は肉体を司る。

 そして彼らは共にその鋼の至宝の器たる騎神に選ばれし起動者だ。

 かつて焔の眷属と大地の眷属が相争い、至宝同士が激突したように闘争の理によって動く鋼の至宝は騎神を介し、起動者の闘志へ呼応し力を授ける。

 そして大地の至宝がその意志へと呼応し、その出力に耐えうる肉体へと作り変えていく。

 生きながらに肉体を作り変えられていく発狂(・・)して当然の激痛を両者はその意志によってねじ伏せながら、斬り結び合う。

 

 無論、ただそうして力を授けるだけであれば“呪い”等とは称されない。

 まるで悪魔の如く、与えた力に見合う代償を至宝は要求する。

 力に溺れて狂ってしまえと両者を奈落に引きずり込まんとする。

 

「ヴァンダールの双剣は守護にして破邪顕正!我が双剣は愛する者を守り、彼女たちが笑顔でいられる未来を切り開く為に!!!」

 

 だが()の力がそれを防ぐ。

 守るべき祖国、民草、そして何よりも大切な愛しき妻、娘。

 彼女たちを守らんとする矜持が、彼女たちより貰った宝が英雄を踏み留める。

 (祖国)を、()を、()を、(家族)を守り抜かんとするが故に英雄は無敵だ。

 明日の光を奪わせまいと誇りと共に光刃を振るい続ける。

 

 そして魔竜にはそんな宝は存在しない。

 故に踏みとどまる矜持など存在せぬ魔竜は容易く呪いへと堕ちる。

 そしてそうなってしまえばもはや英雄の敵ではない。

 どれほど力のみが強くなろうと、技と心が伴わぬ完全なる怪物に英雄は決して負けはしないのだから。

 故に此処に勝敗は定まった。守るべき宝を持たぬ魔竜では英雄には決して勝てない。

 それがこの世の理なのだから。

 

「乙女の初恋!甘く見るなぁ!!!!!!!!」

 

 いいや否、否、否、ーーー否だ!

 ふざけるなよ、この想いを失ってなど溜まるかと自分の心を奪わんとする呪いに向けて愛の乙女は激怒する。

 魔竜には守りたい物など存在しないーーーされど貫きたい恋心が存在する。

 その想いが魔竜を踏み留める。決してこの心を譲り渡しなどはしないのだと。

 

 故に両者は止まらない。どこまでも激烈に神話の如き戦いを繰り広げ続ける。

 交わした剣戟は既に数千を突破し、数万合へ。

 続く至福の時間を前に魔竜はどこまでも歓喜の咆哮を挙げ、英雄の顔が僅かに歪み始める。

 まずいと。このまま行けば限界(・・)へ突き当たると。

 そう、どれ程英雄が常軌を逸した精神力を有する存在であってもそれでも確かに限界というものは存在する。

 それが証拠に英雄を支えてくれる愛する妻と娘より貰ったペンダントは悲鳴を挙げている。

 このまま行けば遠からず砕け散り、限界が訪れるのは明白だった。

 

 それは魔竜の方も同じだ。

 何故ならばシャーリィ・オルランドを支えるのは英雄への思いなのだから。

 英雄が終わる瞬間ーーーそれはすなわち魔竜も終わる時なのだ。

 だが、シャーリィ・オルランドはそれで本望なのだ。

 愛しの英雄と相打ちになるのは彼女にとって最高といえる死に様。

 この一戦でその生命がーーー否、魂さえも燃え尽きてしまおうが一切構わないと心の底から思っている。

 しかし、英雄は違う。こんなところで果てるわけには断じていかないのだ。

 彼には共に生きていたいと願う、愛する者がいるが故に。

 

 だからこそ英雄は決着をつけるべく勝負へと出る。

 脚部へと闘気を集中させ、敵へと踏み込むのではなく一気に距離を取る。

 そしてその双剣へと闘気を集束させる。

 

「破邪顕正焔の型・朱雀!」

 

 それはあらゆる邪悪を焼き尽くす焔纏いし神鳥。

 此処に貴様の居場所はないのだと魔竜を焼き尽くさんと神鳥が飛翔する。

 そしてそれを前に魔竜は猛り、自ら神鳥へと飛び込む。

 肉焼けるーーー否、融解していく。

 生きながらにその身を溶かされる激痛が魔竜を襲う。

 されど、魔竜は止まらない。その身が焼けただれ、溶け落ちようとも構うものかと駆け抜ける。

 どうか届け、この想いよと。発狂して当然の激痛を聖印のように感じながらただ愚直に突き進み続ける。

 

「届けぇ!」

 

 とったと魔竜は確信する。

 最大最強の奥義を放った瞬間にこそ最大の隙が生じる。

 そしてそれは英雄でさえも例外ではない。

 如何な神速の剣と言えど、ここからの迎撃は間に合わず、回避も同様だ。

 左右どちらに避けようが魔竜の爪は違う事無く英雄の心臓を貫く。

 

 ーーー故に英雄伝説は此処に潰える。

 この一戦に総てを燃やし尽くさんとした魔竜と異なり、帰る場所を考えてしまった事が敗因となって。

 

「俺は……生きる!」

 

 いいや、否だと英雄は吠える。

 終ってなどたまるかと。自分を支えてくれる大切な人達の想いを願いを、敗因などにさせてたまるかと。

 左右どちらかに避けるのではなく前へと強く踏み込む。

 英雄の予想を超えたその踏み込みが絶妙な回避行動となる。

 胸部を貫いたものの心臓を貫く事は出来ず。

 だが、ほんの一瞬死が遠のいただけだとそのまま武器を薙いで今度こそその命を断ち切らんとした刹那

 

「ッ!?」

 

 英雄の牙が魔竜の喉笛を噛み破る。

 双剣も徒手空拳による迎撃も間に合わぬと悟った英雄のとった行動それは噛み付く事であった。

 奥義を放った後のなけなしの闘気を防御に回す事無く、その牙へと集中させて。

 無論、その程度で魔竜は止まらない。予期せぬ一撃を前に意識に空隙が生じたのはほんの一瞬(・・)

 すぐさま英雄の命を刈り取らんと武器を持つ手に力を入れようとした瞬間

 

 それよりも早く動いた英雄の光刃がその両手を斬り飛ばす。

 胸に大穴を空けられた英雄の傷は喉笛を噛み破られた魔竜に負けず劣らずのものだった。

 されど英雄にとってその傷は奥義を突破された瞬間に覚悟したものーーー故に耐えられる。

 

 だが魔竜にとってはそうではなかった。

 想い人からされた首筋へと施された濃厚な接吻ーーーその喜びに初心な乙女はほんの一瞬忘我へと陥った。

 そしてその一瞬が両者の命運を決定的に別けた。

 

(ああ、やっぱり……素敵だなぁ……)

 

 魔竜へと向けられるはあの日一目惚れした時と変わらぬーーーいや、その時よりも遥かに素敵になった鬼眼。

 必ず殺してやるぞという必滅の意志、それを鋼鉄の理性によって極限にまで濃縮させた極上の殺意だ。

 

(貴方に……会えて、良かった)

 

 自身に終わりを齎す迫りくる光刃ーーーそれを宝を欲して叫び続けていた魔竜はどこまでも穏やかな気持で受け容れる。 

 貴方とのこの一時こそが私にとって至高の宝だったと。貴方に殺されるのならば私は本望だと。貴方でなければ嫌なのだと。

 

 振り抜かれた英雄の光刃が魔竜の肉体を両断する。

 断末魔は響き渡る事無く、後に残されるはどこまでも穏やかな笑顔を浮かべた乙女の顔。

 誰になんと言われようと自分は幸せな恋をしたのだと勝ち誇る顔。

 

 英雄が紡ぐ伝説は未だ終わらず。

 満身創痍ながらも難敵を打倒した英雄はまた一つ高みへと昇ったのであった。

*1
それでもそもそもの闘気の出力が図抜けている為闘気の籠もっていない並の銃撃程度で終わるほど柔ではないが




クレア「」
リィン「負けはしないとは言ったが流石に無傷で勝つとは言ってない」(死ななければ安いの精神)
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