これはぶっちゃけ騎神VS神機戦が作劇上ただの蛇足にしかならない為です。
剣閃が音速を超えて唸り、飛ぶ。
斬撃が空を引き裂き、大気を震撼させる。
「ハーハッハッハッハッハッッハッハ!!!!!!!!」
羅刹の喜びに満ちた笑いが響き渡る。
全身全霊を込めた一太刀、それをいとも容易く防ぐ敵手を相手に羅刹の胸を満たすのは屈辱ではなく歓喜。
紛れもない“最強”を前にして、挑戦者の身たる黄金の羅刹はそれを超えるべく己が中にある全力を超えた全力を絞り出す。
「おらよっ!」
そして羅刹の
黄金の羅刹と運命を超克した蒼の騎士、どちらも理に至りし達人。
帝国有数の実力を誇るこの両名を同時に相手取ることは帝国最強たるリィン・オズボーンをして至難と言わざるを得ないだろう。
どうにかやり合うことは出来たとしても劣勢に立たされることは疑いようがない。
しかし、そんな両名の攻勢を
それは力任せのものではない、技の極み。
才あるものが数十年ーーー否、
動作一つをとっても技量が活かされていない箇所は存在しない。
達人と呼ばれる存在が全精力を振り絞り為す行為を、アリアンロードは
余すこと無く、総てが絶技、総てが奥義。
巧いーーー戦闘技能と判断速度が常軌を逸して余りにも凄まじすぎるのだ。
“練達”という言葉さえもが侮辱にしかならないだろう、
一挙手一刀足に至るまで、悉くに意味が存在し、無駄な行動は微塵たりとも存在しない。
そしてそれを成り立たせているのは
どこまでも愚直に
「これ程、とはな……」
胸の内より溢れ出る
感動ーーーそう、オーレリアは感動していた。目前の敵手のその戦場に於いて一際輝きを放つ姿に。
何故ならばアリアンロードの姿こそが人という種の到達点に他ならないから。
想像を絶する程の密度と量の修練によって神域にまで至った存在だから。
己を高めて努力をするという行為を尊いと思う気持ちは人類にとってある種普遍的な思いだろう。
しかし、現実に於いてそれを真に実行できている者はそう多くはない。
何故ならば、それは痛く苦しい行いだから。
特に武の世界に於いて、それはなおさら顕著だ。
高みへ至る為にはどうしたって、自らの身体を鍛えるーーーすなわちイジメなければならないのだ。
だが、それはどうしようもなく痛く、苦しい。
練磨とはすなわち自らの身を磨いていくという事だから。
故にこそ、それを継続し続けるにはどうしたとて“意志”と呼ばれる野生の魔獣には持ちえない人だからこそ持ちうる魂の輝きが必要となってくる。
一体彼女がどれ程の修練を重ねた果てにその境地へ至ったかが
自らの身を磨く努力というものに敬意の念を抱いてしまう真っ当な人間であればある程、その姿に
人というのは、“努力”によってこれ程の存在にまで到れるのか、と。
「そりゃ心酔もするだろうよ、そんな姿を純真な
純真な若者であれば忠誠を誓いたくもなるはずだとそうクロウは鉄機隊の三人に対して心からの理解を示す。
何せ理に到達して武人としての矜持だの誇りだのといったことへの拘りが薄い彼でさえも、こうして剣を振るいながらも教えを乞いたいという想いが心の奥底より否応なく湧き出てくるのだから。
こんな姿を感受性豊かな若い時分に見せられでもしたら、一目で魅了されてしまう事は疑いようがなかった。
全くもって厄介な相手だった。敵の戦いぶりに
「まさに武神よな」
その証拠にオーレリアの呟いた言葉にはどうしたって理性によっては抑えきれない
心なき機械や怪物では決して持ち得ぬ意志の強さをそこに感じ取り、
仮にこれが一対一ならばとうの昔にオーレリアにしてもクロウにしてもその神域の絶技を前にひれ伏していただろう。
二人がかりで後先を考えずに全力を振り絞っているからこそ、からうじて神域にまで達した目前の敵手と渡り合う事が出来ているのだ。
「そう持ち上げる程の事でもありませんよ。今こうして私が貴方達二人と渡り合えているのは単に私が貴方達よりも長く生き、その分だけ修練を積んだ故のもの。そしてそれは決して老いる事がない肉体という本来であれば決して許されぬ反則行為あってのもの。
先程も語った通り、今の私は譲れぬ意地によって突き動かされる過去の亡霊も同然の存在。生者が範とするには甚だ不適格でしょう」
どこまでも涼し気な様子でアリアンロードは応える。
かろうじて拮抗状態に持ち込んではいるものの、どちらが不利かは明白だった。
全力を振り絞りながら戦い続けているオーレリアとクロウは何時までもそれを発揮し続ける事が出来ないのに対して、露払いと語った言葉に嘘はないのだろうアリアンロードは未だその本気を出しては居ない。
クロウとオーレリアが全身全霊を振り絞りやっている事はアリアンロードは
肉体的にも精神的にもどちらの消耗が激しいかは火を見るよりも明らかだろう。
そう此度の戦い、主演は彼らではない。
あくまで主演の舞台を盛り上げるための前座に過ぎないとアリアンロードはそう認識していた。
故に、英雄と魔竜の決着、それを見届けると同時に武神は用件を済んだと言わんばかりに両者から距離を取り、後方へと下がる。
「その気概は買いますが、余り無理はしない事です。まさかそれ程の傷を負いながら、この私とやり合える等と思える程に貴方も自身の力量を過信してはいないでしょう」
自らの胸を貫いた魔竜の爪痕、それを焼き切りかろうじて止血を施して決して衰えぬ闘志を両目に宿しながら自身を見据える英雄へと武神はねぎらいの声をかける。
そして満足そうな笑顔を浮かべた束の間稽古を施した少女のその遺骸を抱きかかえると跳躍して丘の上へと退く。
「デュバリィ、アイネス、エンネア。頃合いでしょう。此処での目的は達成しました」
「「「イエス・マスター」」」
主の言葉と共に鉄機隊の面々もその場より退き、主の下へと馳せ参じる。
「リィンさん!」
「おいおい、胸に大穴空いてるじゃねぇかよ」
「リィンってば無茶しすぎだよぉ」
駆け寄ってくる己が兄妹達それに身体を苛む激痛から脂汗を浮かべながらも英雄は毅然とした表情で応じる。
「無茶の一つや二つ、やらなければ勝てない相手だったからな……この程度は必要経費という奴だ」
そうしてリィンは丘の上へと姿を移した敵手を見据える。
「結社の目的とは一体なんだ?貴方ほどの方がこの地が一体如何なる地か知らぬはずがないだろうに、その静謐を乱してまで一体何をしようとした」
「答える義務はありませんね。貴方はあくまで今宵見逃されただけに過ぎぬという事をお忘れなきよう」
「っ!?」
冷然と告げられたアリアンロードの言葉にリィンは奥歯を強く噛みしめる。
見逃すとアリアンロードは告げた。そしてその言葉に対してリィンは反論する事が出来ない。
リィン・オズボーンの負った傷は致命傷ではないものの紛れもない重傷だーーーとてもアリアンロードとやり合える程の余力など残されては居ない。
そして息一つ乱していないアリアンロードと既に隠しきれぬ疲労の色が滲んでいるオーレリアとクロウのコンビとではどちらが優勢かは火を見るよりも明らかというものだ。
「正直に言いましょう、私は貴方に敬意を抱いています、灰の起動者よ。
良くぞその年でそれ程にまで練り上げたものです。
今の貴方はかつての私をーーーリアンヌ・サンドロットを超えている。
ですが、それでも今の私ーーー結社第七柱たるアリアンロードには未だ及んでいない。それが厳然たる事実です」
反論する事は出来ない。
先程シャーリィ・オルランドと戦った時と同様に鬼の力を全力で解放すればオーレリアとクロウの両名を同時にやり合う事も出来はするだろう。
しかし、それでも全力を振り絞ってどうにか均衡状態といったところだろう。
二人とやり合って呼吸一つ乱さず、闘気に揺らぎ一つ起こさぬ事など到底不可能だ。
「ですが、今日貴方は彼女との激突を経て一つ壁を超えた。
今は及ばずともいずれ私を超えうる可能性を秘めているーーーそう認識しました。
ならばこそ今宵はその可能性に免じて
奮起しなさい。貴方が真に祖国を守らんとするならばーーー帝国最強という名を背負う覚悟があるというのならば、当の昔に終わってしまった過去の亡霊など容易く超えて見せることです」
それだけ告げると結社の面々はその場より姿を消す。
後に残されたのは魔竜相手の勝利の余韻をかき消された満身創痍の英雄の姿。
聖女の告げた言葉は魔竜の残した爪痕よりも遥かに英雄の胸を刳り、さらなる飛翔を英雄は心に誓うのであった。
ちなみにぶっちゃけますが当作におけるアリアンさんの兜は盟主より授かった一種の拘束具です。
これを取り外した時桁が一つ位更に跳ね上がります。何故つけているかというと勿論修行のためです。
つけておかないとマクバーンさん以外はあっさりと沈んでしまい彼女の修行にならないのです。