獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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色んなリィンが居ますがアリサよりもイリーナ会長との相性が良いリィンってのは層々居ない気がしますね。


頂きの景色

 代表団によるクロスベルの視察が行われるーーーその情報をリィンが伝えられたのは退院直後の事であった。視察団のメンバーには副宰相を務めるオリヴァルト皇子を筆頭に経済界からイリーナ会長、政界からはカール・レーグニッツ帝都知事が選ばれ、さらにダメ押しとばかりにアルフィン皇女と層々たるメンバーが選出されている事から、帝国政府がどれほどクロスベルという地を重視していることが伺い知れるというものだろう。そして当然のようにこれだけのVIPが赴くとなれば道中に相応の警護が求められるのは必然というものでありーーー帝国最強たるリィン・オズボーン中将率いる光翼獅子機兵団がその任に当たることはある種の必然というべきものだっただろう。

 

 この度の視察に利用されているのは光翼獅子機兵団の旗艦たるカレイジャスではなく、かつて内戦の折貴族連合の総旗艦として用いられたパンタグリュエルである。というのも速度に於いてはカレイジャスが勝るものの、装甲の分厚さといった一番肝心な安全面については後者の方が勝っているのに加えて、かつての所有者の趣味が遺憾なく発揮された中の調度品と快適さは貴人を迎えるのに相応しいもの。正式な軍用艦となり現在の艦の主の方針の下改装が行われた前者に比べればそれは雲泥の差というべきものであった。

 

 クロスベル上空に現れたパンタグリュエルから二つの機影が飛び出してゆく。

 一つは視察団の面々及びその護衛と補佐を務める側近たちが乗り合わせた揚陸艇。

 そしてもう一つはクロスベルの民にとって決して消えぬ“畏怖”を植え付けられた機体。

 共和国の精鋭たる空挺師団を正面から打ち破った帝国の守護神(・・・・・・)たる灰色の騎士人形ーーー獅子心将軍の専用機たる灰の騎神ヴァリマールだ。

 そして一人の偉丈夫が姿を現す。その両眼には溢れんばかりの覇気が漲っており、頬につけられた傷は一目でその人物が掻い潜ってきた死闘の数々を見る者へと連想させる。

 警護にあたっている兵士はその帝国人ならば知らぬものは居ない英雄を前に心からの敬礼を行う。

 そして出迎えに当たるクロスベル総督はその端正な顔に普段浮かべる微笑ではなく満面の笑みを湛えて盟友(・・)へと駆け寄っていく。

 

「やあ中将!良く来てくれた!!!君が手傷を負わされたと聞いた時は一体何事かと思ったが壮健そうで何よりだよ!!!」

 

「総督閣下も壮健そうで何よりです。どうやらご心配をおかけしたようで」

 

「いやいや心配などはしていないさ。例え敵が結社と呼ばれるテロリストであろうと大陸最強と謳われる猟兵であろうと、君はリィン・オズボーンなのだから。例えどのような苦境にあろうと必ずやその手に勝利をつかみ取ると私は心の底から信じているとも。君の強さを私は良く知っているからね、今回もまた頼りにさせて貰うよ」

 

 常に優美な微笑を浮かべる貴公子の英雄に向けた少年のように屈託のないその笑みは見ている者に心からの好意と敬意が込められていると思わせるのに十分すぎるものであった

 

「恐縮です。まあ道中ならばいざ知らずよもや総督閣下のお膝元でしたら万一もまずないでしょう。のんびりと観光でもさせていただこうかと思っていますよ」

 

 おうわかってんだろうな、ここでVIPに万一のことがあったらこの地を治めるてめぇの責任でもあるんだからな?とそんな一部の人間にのみ聞こえる副音声を発しながら表面上は英雄も気安い様子で応じる。

 

「ハハハハハ、時間が許すのならばVIPの方々も含めてまた一緒にアルカンシェルの劇でも見に行きたいものだね」

 

 しかしそんな英雄の警告を気にした様子もなくルーファスは笑みを浮かべたまま応じる。そんなことは百も承知だと言わんばかりに。

 それはその場に居る者たちに両者の間に公を超えた私としての友誼が両者の間に存在すると思わせるものであった。そしてここぞとばかりに総督によって招待されている報道関係者はフラッシュを焚いて熱い握手を交わす帝国の双璧の姿を激写していく。

 

「さて、このまま旧交を温めたいところだが生憎総督として出迎えねばならない方々が居るので、積もる話はまた後で行う事としよう」

 

 そうしてクロスベル総督ルーファス・アルバレアは普段通りの微笑を湛えてこの地へと降り立った視察団の出迎えを行うのであった。

 

・・・

 

 総督府にて行われる晩餐会。

 それに演習中のトールズ士官学院の面々も予備戦力として警護に当たることはあらかじめ決められていた。

 無論これは戦力として当てにしているというものではなく、あくまで帝国の将来を担う若獅子達に経験を積ませるというのが主としたものである。

 そしてそうなれば何かと多忙な皇族の二人が弟とそして弟が世話になっている友人たちにせっかくだから挨拶を行いたいと思うのはある種必然というものであったわけなのだが……

 

「はぁ、緊張してきたかも……いきなり初対面の、しかも帝国の皇族相手に挨拶とか、ちょっと無茶ぶりが過ぎると思うんだけど?」

 

 純然たる一般庶民の出であるユウナ・クロフォードがそれに気後れするのもまた当然と言える事だろう。

 

「……何を今更。普段から皇太子殿下のことを君づけで呼んでいるのは一体どこのどなたですか?」

 

「はい、クロスベル出身のユウナさんだったと思います、アルティナさん♡」

 

「やれやれ、それはアレかな?兄上とアルフィンに比べて僕はいまいち皇族としての風格に欠けるという事かな?だとしたら少々傷つくな」

 

「そ、そういうわけじゃないけど!でもほらセドリック君はこう同じ制服着ていたし、自分で此処に居る間はただのセドリックとして接してくれって言っていたからあんまり壁を作らずに出来たけど……今からは“士官候補生”として“皇族”に会うわけでしょ?緊張するなっていう方が無理ってもんじゃないの?」

 

 冗談めかしたセドリックの言葉にユウナは慌てて弁解を口にする。

 実際のところいくら当人が「他と変わらず同列に扱ってくれ」と言っても皇族相手にそれが出来るのはそうは居ないだろう。

 実際教官達もセドリックに対する指導の際はどうしたって遠慮が出ているし、それは同級生達も同様だ。

 それほど帝国人にとって“皇族”とは重い存在なのだ。

 だからこそユウナやアッシュのような“臣下”としてではなく“友”としてセドリックへと接することが出来る人物は貴重だった。

 この両名を皇太子と同じ班にしたのは教官であるリィンの今まで周囲に居なかったような者と接することがセドリックの成長に寄与するであろうという考えに依る物であったが、現状それは狙い通りに行っていると言って良かった。

 

「は、そう気にする必要もねぇだろ。要は「いつも弟がお世話になってます。これからも弟と仲良くしてやってね」って定番の話をしたいってだけだろ?ダチの兄貴と姉貴に会うーーーただそれだけの事じゃねぇか。緊張する必要なんてどこにあるよ?」

 

「まあ……ここまでリラックスしすぎるのはどうかと思うが、アルフィン殿下にしてもオリヴァルト殿下にしてもとても気さくな方々だからそこまで緊張する事はないさ。ユウナなら普段通りで大丈夫だよ。アッシュの方はもう少し歯に衣着せるってことをした方がいいと思うけどな。……もしもあまりに無礼が過ぎるようだったらその時は母上にあいつが今年も夏季休暇の際にうちで特訓したいと言っていたと伝えるから覚悟しておけよ」

 

 クルトの脳裏に過るのは自分の母親を口説きだした悪友の姿。

 クルト・ヴァンダールはアッシュ・カーバイドを友人として信頼しているが故に決して信用していなかった。

 

「おいおい……勘弁しろよ。さすがの俺も皇女なんてめんどい存在を口説いたりはしないっての」

 

「本当だろうな?」

 

「信じろって。俺たちダチだろ?」

 

「ああ、だからこそ信じられないんだ。普段の自分の行いをよくよく振り返ってみることだな」

 

「クスクス、帝国淑女の嗜みをこよなく愛する身としてはお二方のやり取りをいつまでも眺めていたいところですがいつまでもお歴々をお待たせしては申し訳ありませんし、そろそろ行きましょうか」

 

 いつものようにやり合い始めたクルトとアッシュをいつものようにミュゼが宥めるといういつも通りの光景を広げた後5人はまずはイリーナ会長とレーグニッツ知事の待つ部屋を訪れるのであった。

 

「ようこそお越しくださいました皇太子殿下、本来であればこちらが出向くのが臣下としての務めでありながら、こうして殿下自ら足労をいただくという不敬極まる行い誠に申し訳なく……」

 

「お気になさらず知事閣下、イリーナ会長。今の自分はエレボニア帝国の皇太子ではなく、トールズ士官学院に所属する一介の士官候補生です。お二人にもどうかそのつもりで接していただければと思います」

 

 立ち上がり恭しく礼を行うカール・レーグニッツ、イリーナ・ラインフォルト、シャロン・クルーガー、そして両者と話をしていたリィン・オズボーンを制しながらセドリックは鷹揚とした態度で告げる。そこにかつての気弱な態度はなく、確かな覇気に満ちていた。

 

「寛大なお言葉感謝の念に絶えません、さあどうぞご学友共々席におかけください」

 

「シャロン、お茶の用意を」

 

「はい、かしこまりました」

 

 勧めに従いソファーへと腰をかける一行だったが、本題に入る前にこの場に居るとは思っていなかった担任教官へとまず疑問をぶつける。

 

「それで、なんであんたは此処に居るんだ?あのちっこい副宰相の秘書はあんたの奥さんだろ?いろいろと積もる話があったりするんじゃねぇのかよ?」

 

「夫婦の会話ならば自宅で行えばいい。それよりも帝国正規軍中将として今後(・・)の事について色々(・・)とお二方と話したいことがあったとそれだけの事さ」

 

 革新派のNO2にして政界に確固たる勢力を持つカール・レーグニッツ

 ラインフォルトグループの会長にして財界に絶大な影響力を誇るイリーナ・ラインフォルト

 この両名との親交は帝国宰相たるギリアスを蹴落とすことを目論んでいるリィンにとって極めて重要なものだ。士官学院時代にこの両名との縁を紡ぐことが出来たのはリィンにしてみれば僥倖という他ない幸運。積極的に関係を深めていく必要があった。

 私人として妻といちゃつくのは公人としての義務を果たしてからであることを英雄はこの上なく弁えていた。

 自身の軽口に小動もしない英雄の姿にアッシュは若干面白くなさそうに閉口する。

 そうしてシャロン・クルーガーがお茶を淹れ終えるまでの間にとイリーナが話の続きをするべく口を開く。

 

「さて話の続きだけれど、こちらとしても今後(・・)とも貴方とは良き関係を築き上げたいと思っています。だけど、実際のところどうなのかしら?あなたは()()()()()()()()()()()

 もう今の地位で満足しているのか?それとも軍の頂点にまで昇り詰める気があるのか?あるいはお父君である宰相閣下に倣われるつもりがあるのか?その辺りをはっきりしていただかないことにはこちらとしても態度を決めかねるわね?」

 

 イリーナ・ラインフォルトはそうして見定めるような視線をリィンへと送る。意志を表明してもらわないことにはこちらとしても態度を決めかねると。

 

「……未だようやく山の中腹までなんとかたどり着いた身。今はまず自らが登っている山の頂上までたどり着くのが最優先ですよ。

 別の山に登るかどうかは頂上からの景色を眺めた上で改めて決めますよ、そちらの頂上が空くのは当分先の事でしょうしね」

 

 そしてイリーナの問いに対してリィンは軍部の頂点への野心を露わにするのみに留める。

 何故ならばリィン・オズボーンはギリアス・オズボーンの腹心たる後継者と周囲に見せ続けておかねばならないから。刃を向けるその時まで周囲にはリィンがギリアスに反するなど、()()()()()()()()()()()()()()()()と思わせなければならないのだ。

 

「あなたが今登っている山の方も頂上はすでに埋まっているような気がするのだけど?」

 

「ならば丁重にお退き頂くだけの事。時代の変化というのは残酷なものです。それまでのやり方が通用しなくなる変革の時期というのは否応なく訪れるもの。

 そうした時に柔軟さを失ってしまった()()()が頂点に居ては皆が不幸になることを他ならぬイリーナ会長ならばご存じなのでは?」

 

「ええ、そうね……頑固な老人の厄介さというものは嫌というほどに知っているわ……」

 

 イリーナ・ラインフォルトは実父たるグエン・ラインフォルトを蹴落として会長へと就任した。

 そのことを示唆したリィンの発言を受けてイリーナはそっと目を閉じる。

 その内面に渦巻くものを周囲の者は推し量ることしかできない。

 ただそれでも彼女が実父をただ疎んでそうしたわけではないのだと何となくだがリィンには思えた。

 

「良いでしょう……そういう事ならば頂上に昇るまでに必要な装備が在れば申しつけて頂戴。遠慮は要らないわ、ラインフォルトとしては貴方とは末永く続く良き関係を築きたいと思っているのだから」

 

 ラインフォルト社が開発した機甲兵という新兵種。

 これの導入を積極的に推し進めているリィンが軍部の頂点に立つことはラインフォルトにとってもメリットのある事だ。

 それだけではないリィン・オズボーンが推し進めている兵士の待遇改善の一環たる兵舎や軍学校の学舎への導力クーラーの導入などリィンが勧めようとしている軍部の改革にはラインフォルトにとっての多数のビジネスチャンスが見込めるものが目白押しなのだ。

 そしてリィン・オズボーンにはそれを成しうるだけの実力と名声が備わっている。

 だからこそイリーナ・ラインフォルトはラインフォルトの会長として投資に値する存在だと判断した。

 要はそういう話なのだ。

 

「それはそれは会長のご厚意には感謝の念が絶えません」

 

「フフ、わかっているでしょうけど企業が投資を行うのはそこに相応の利潤が見込めると思えばこそ。くれぐれも投資をしたことを後悔させるようなことはしないで頂戴ね」

 

「それは無論。決して損はさせませんよ」

 

「やれやれ、お二方とも余り誤解を招くような発言はしないで頂きたいですな。

 軍の高官と財界の雄の癒着など政府としては見過ごすわけにはいきませんよ」

 

 常にないにこやかな笑みを浮かべる両名にレーグニッツ知事は嘆息しながら告げる。

 

「これは失礼、ですがどうかお気になさらず。ただの()()の話ですから」

 

「ええ、帝国の英雄にうちの製品を使っていただけるならいい宣伝になると要はその程度の話ですから」

 

「そして叶う事なら()()()()()()()()()()()について知事閣下とも盛り上がれたと私は思っているのですが、如何でしょうか?」

 

 カール・レーグニッツは政界に確固たる勢力を築いている。

 しかし行政官僚出身の彼は軍部出身のギリアス、ヴァンダール家という懐刀が存在するオリビエと異なり、軍の高官とのコネクションが薄い。

 そして軍事と政治というのは切っても切り離せぬ関係。なればこそ確固たる実績を持つ軍の俊英とのコネクションは彼にとっても前々から欲して止まぬものであった。

 「自身が軍部の頂点に駆け上がるのに協力しろ。代わりにこちらも軍事のプロフェッショナルとしてあなたの力になろう」ーーーリィンのレーグニッツ知事にした提案は要はそういうものであった。

 先ほどのイリーナのように知事もまたそっと目を閉じながら考え込む。

 様々な思いがその内面で渦巻く。

 ---どこか急いているこの若者を年長者として諫めるべきではないかという思い。

 ---帝国の英雄にして軍の頂点まで昇り詰める事が確実視されている彼との協力関係が齎す恩恵を考える政治家としての冷静な打算

 

 そうして知事が下した結論は

 

「……そうだね。確かにそちらの山から見える景色については私としても気になるところだ。

 喜んで今後意見を交わし合わせて貰えたらと思う。その結果止揚へと至ることが出来ればそれはお互いにとっての最善と言えるわけだしね」

 

 目前の若者の手を取ることだった。

 万が一目前の若者が焦りから軽挙に及ぼうとした場合に止めることを考えるならば、それこそ距離を置くよりも親交を深めた方が効果的だとそう判断して。

 

「ありがとうございます。それでは今後ともどうかよろしくお願いいたします。会長、知事閣下」

 

 にこやかな笑みをリィンが浮かべながら礼を述べると同時にシャロン・クルーガーの用意したお茶が並べられ、大人たちの会話は終わりを告げるのだった……

 

 




新七組「知事閣下たちの部屋に招待されたらなんか担任教官が今、上に居る人間蹴落として頂点まで昇り詰めてやる宣言していたでござる」

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