獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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描写するキャラが……キャラが多い……!


アルノールの兄弟

「中々に濃密な時間だったね」

 

 イリーナ会長とレーグニッツ知事との会談を終えて部屋から退出したセドリックはポツリとそう呟く。

 

「新帝国八大都市構想か……きっとクロスベルとノーザンブリアを併合した時から宰相閣下はこれを思い描いたんだろうな」

 

 どこか圧倒されたようにクルトは呟く。

 クルト・ヴァンダールは極めて優秀な士官候補生であり、将来帝国軍を背負う一翼となることを期待されている俊英だ。

 だが、それでも彼は今あるシステムを良く運用する事、修正することに長けた秀才の部類だ。

 システムそれ自体を根本的な変革する事など思いもよらなかった。

 それもある意味当然だろうーーー彼はヴァンダール、改革者ではなく守護者なのだから。

 新しき秩序を構築するのではなく、今ある秩序を守る事こそが彼の生まれながらに背負った役目であり、立場だ。

 

「あるいはそれよりも前ーーー10年前ジュライ市国を併合した時から宰相閣下にはこの絵が見えていたのかもしれませんね。経済特区として栄えましたがジュライは基よりノーザンブリアとの海上貿易の要衝です。ノーザンブリアがかつてのように復興をすれば、政府に齎す税収は莫大なものとなります。それこそノーザンブリアという地を復興させるために要する初期投資、それを補って余りあるだけの」

 

「そんで、そのノーザンブリアを復興させるための金をどこから調達するかと言えば、大陸最大の金融都市であったクロスベルってわけだ。そうしてある程度併合したところが軌道に乗ったところで、貴族連中へのトドメも兼ねた八大都市構想とやらで名実ともに帝国は生まれ変わるーーー奴さんが思い描いた通りに。ククク、我らが教官殿も大概化け物だと思っていたが、その父親はそれ以上ってわけか」

 

 リィン・オズボーンが大陸有数の戦術家だというのならば、ギリアス・オズボーンは大陸有数ーーー否、大陸最高の戦略家と言えるだろう。

 壮大な構想を思い描き、それを実現するために緻密な計算を重ね、慮外の事態にも対応してのけ、突き進み続け、ついにそれは実現の手前までこぎつけている。

 まさしく当代の偉人とそう称す他なく、そのような人物が指導者であることは帝国人としては喜んで良いはずなのだが……アッシュの語る言葉にその手の憧憬めいた感情は全く以て混じっていなかった。

 

「領邦毎のくくりが取り払われる事で、軍は作戦行動が容易になるため軍部からの支持も得られ、経済活動も同様に容易かつ活発になることで先ほどイリーナ会長が語ったように企業の経営者からの支持も得られる。

 そしてこれの煽りを食らうのはあくまで貴族の中でも領地を持つ諸侯のため、中央にいる法衣貴族からの支持は取りつけやすいというわけですね。極めて合理的な構想かと」

 

 ミュゼにアッシュ、アルティナがクルトの言葉に乗っかるように各々八大都市構想への論評を行っていく。

 貴族と言えど総ての貴族が領地を持っているわけではない。

 貴族階級としては最下層である騎士階級、ヴァンダール家のように爵位があり公職に就いてはいるが、領地を持たぬ法衣貴族が存在する。

 そうした存在にとって新帝国八大都市構想というのはある意味では好機となり得るのだ。

 これが導入した暁には当然ながら中央から各領邦へと送り込む相応のポストが新設される事となるだろう。

 そしてその時こそ彼らのように貴族階級の礼節に精通している者達にとっては大きなチャンス。長年下風に立たされてきた諸侯と対等以上に振舞える地位に就けるというわけだ。

 

「でもそれは……」

 

 そういう意味で貴族と言えど皇族守護という名誉ある役目を担っているヴァンダール家の人間であるクルトにとってはある意味対岸の火事と言えるわけなのだが

 

「ええ、先ほども申し上げました通り我々領地持ちには死ねと言われているに等しい内容ですね」

 

 ラマール州に己が領地を持つイーグレット伯爵家などにとっては死活問題なわけである。

 

「ただレーグニッツ知事も仰っていた通り、その辺りは調整しながらやっていくつもりなんだろう。

 ちょうど来月にはオルディスでは領邦会議も開かれるし、諸侯の中にはシュバルツァー男爵家にアルゼイド子爵家と言った皇室からの信頼が厚い貴族だって居るわけだし。共和国とも和平がなった今、特に急がないとならない理由もないわけだしね」

 

 そんな風にクルトは極めて()()()()()()を口にする。

 それは常識的であるが故に一堂にとっても納得の行くものであったが故に

 

「ええ、そうですね。()()()()()きっとそのように考えておられるのでしょうね」

 

 ミュゼのどこか含みのあるその言葉も特に違和感を抱く事無く受け容れられ、ひと先ずの決着がつくのであった。

 

・・・

 

「皆様、ようこそお越しくださいました。改めまして、エレボニア帝国第一皇女アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。

 いつも弟がお世話になっているようで一度こうして感謝の言葉を述べさせて頂きたいと思い、こうした場を設けさせて頂きました」

 

「殿下の侍女を務めさせて頂いております、エリゼ・シュバルツァーと申します。どうかよろしくお願いいたします」

 

 まさしく天使のごとき可憐さを見せる故郷であるラクウェルでは決してお目にかかれない*1二人の少女を前にアッシュ・カーバイドはそっと口笛を鳴らす。

 そんなアッシュに「お前本当にわかってんだろうな?」とでも釘を刺すようにクルトはそっとアッシュの胸に肘鉄を入れる。

 

「そして私は殿下の護衛を務めているアデーレ・バルフェットと申します。

 念のために言っておきますが、殿下は我が帝国の至宝。

 触れてよい男子は父たるユーゲント皇帝陛下、そして御兄弟たるオリヴァルト殿下とセドリック殿下、そして未来の伴侶たる殿方ただお一人と決まっております。

 もしもその輝きに目を奪われて無礼を働く者あらば、我が剣を以て相応の報いを与えるのが私の役目ですのでくれぐれも胸に留め置くように」

 

笑みを浮かべながらそうアルフィン皇女の親衛隊隊長を務める女傑アデーレ・バルフェットは主に一人の男を注視しながら告げる。

 

「だってよクルト、早まったことするんじゃねぇぞ」

 

「いや、中佐が釘を刺しているのはどう考えても君の方だろう」

 

「フフ、義母上からも話は聞いていたがどうやらお前にも仲のいい友人が出来たようだな。兄として少々安心したぞ、クルト」

 

 そんなクルトとアッシュのやり取りをどこか微笑まし気な様子で黒髪の偉丈夫が告げる。

 

「兄上……まあ友人と言っても悪友と呼ばれる部類のですが」

 

「てめぇが固すぎんだよお坊ちゃん」

 

 久しく見た記憶の無い気安いやり取りをする弟の姿それを見てミュラーは顔を綻ばせる。

 

「結構な事じゃないか。()もまた学院でそうした存在と出会ったことで大きく成長したのだから。

 俺が言うのもなんだが、お前は少々真面目過ぎるところがあったからな。道を踏み外さない程度に付き合って視野を広げると良い」

 

 そこでミュラーは自己紹介を怠っていたことに気づいて

 

「と、自己紹介がまだだったな。俺の名はミュラー・ヴァンダール。階級は中佐。

 副宰相閣下の親衛隊隊長を務めていて、クルト・ヴァンダールの兄でもある。見知り置き願おうか」

 

 そうしてミュラーが挨拶を行うと今度は小柄などう見ても年下にしか見えないような少女が前へと進み

 

「そして私は副宰相閣下の秘書を務めているトワ・オズボーンです。

 そこのアルティナちゃんの家族でもあります。みんな、よろしくね

 アルティナちゃん、学院生活はどう?ちゃんと友達は出来た」

 

「はい、現在の席次は三位。そこのクルトさんとセドリックさんに現状後れを取っていますが卒業までには必ずやトワさんとリィンさんに恥じぬ成績で卒業して見せます」

 

「もう~三位だって十分立派な成績だからそんなに気負わなくたって良いのに。

 それも学生として大事だけど、私が聞きたいのはちゃんとお友達は出来たかって事」

 

 苦笑しながら問いかけられた言葉、それを聞いた瞬間先ほどまでのアルティナの表情に満ちていた自信が霧散した。

 

「えっと、それは……」

 

 自分は友人が出来たのだろうか?

 未だ自分はかつて与えられた友とはいかなる存在かという問いかけに対して明確な答えを返せるわけではないし、絶対的な信頼を抱ける存在が出来たわけではない。

 だけどこの期待に満ちた視線に見据えられて出来ていないなどと返すのは憚られるし、などとアルティナが困っていると

 

「ええ、ちょっと嘘でしょ。アルってば私たちのことまだ友達だと思ってくれてなかったの!?」

 

 愕然とした表情を浮かべて信じがたいものを見るような目でユウナが叫びを挙げた。

 

「哀しいです……この一年寝食を共にして多くの苦楽を共有してきたというのに。友達だと思っていたのは私たちだけだったなんて……」

 

 ユウナに続くかのようにミュゼもまたよよよよとわざとらしく泣き出す。

 そしてそんな二人を見てアルティナはきょとんとした顔を浮かべて

 

「私はお二人の友達だったんですか……?」

 

「ええ……アルってばそんなこと真顔で聞かないでよ。自信なくなって来ちゃうじゃない」

 

「少なくとも私達はそのつもりですよ。何と言っても私達は所謂同じ釜の飯を食った仲……どころか履いている下着がどんなものかもお互いに知っている仲なわけですし♡」

 

「ええい、いやらしい言い方をするんじゃないわよ!同じ部屋で寝ているんだからそりゃ当然そうなるでしょうが!」

 

 いつものような二人のやり取りそれを見たアルティナはクスリとほんの少しだけ微笑を浮かべて

 

「というわけで、友達もちゃんとできました。トワさん」

 

「そっか良かったねアルティナちゃん。友達は大事にね」

 

「はい……!」

 

 微笑ましい少女たちの友情。それを見てどこかあたたかな空気が部屋を満たしていく。

 そしてそんな中、金髪の青年が部屋の奥より現れて

 

「やはりいいねぇ、青春というものは。政治に首を突っ込んでからというもの自分が薄汚れてしまったことを自覚してしまう。晩餐会を前にいいものを見せて貰ったよ。

 さあそういうわけでセドリック、久しぶりの再会だ。この兄の胸に飛び込んでおいで。感動の再会と行こうじゃないか!」

 

 どこか芝居がかった言葉と共に大仰な様子で両手を広げた憧れでもあると同時に()()()()()()()()()()()()に対してセドリックは

 

「謹んでお断りさせていただきますよ、()()。僕も()()()()()()()()()()()ではないのですから」

 

 もう昔の自分とは違うのだとどこか燻ぶり燃え続ける思いをそっと胸の奥にしまいながら、()()()苦笑を浮かべて告げるのだった……

 

*1
歓楽都市であるラクウェルにこの二人が居たら大変である




ミュラー:クルトの兄
オリビエ:セドリックの兄
アルフィン:セドリックの姉
トワ:アルティナの保護者
エリゼ:女学院時代のミュゼの先輩
アデーレ:・・・・・・・一応トールズOG

これが異分子であるオリキャラの宿命か……
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