「あのねあのねママはとてもすごいんだよ!お仕事もとっても頑張っていて、それでいてパパともとーっても仲良しなの!それにすっごくやさしいんだから!おっぱいや背が小さいことなんかでママをバカにするような真似アルティナがぜったいゆるさないんだから!!!え?ママなんで怒っているの……?アルティナなんかママを怒らせるような事した……?」
大体こんな感じになります。
「やあ中将、よく来てくれた。
「お招き頂きありがとうございます、総督閣下。私もまた共に轡を並べた
そうしてルーファス・アルバレアとリィン・オズボーン、帝国の若き双璧とも謳われる二人はどちらもさわやかな笑みを浮かべる。
第三者が見ればそれはまさしく気の置けない親友同士が久方ぶりの再会を喜ぶ姿にしか見えぬ光景であった。
「そういう事ならば総督閣下等という他人行儀な呼び方でなくルーファスとでも気軽に呼んでもらいたいものだね」
「承知しましたルーファス卿、そういう事であれば私の事もリィンと呼んでくれて結構ですよ」
無論、リィンは目前の男に心を許して等居ない。
むしろ心の中にはぬぐい切れない不信感が渦巻いている。
理で言えばリィン・オズボーンにルーファス・アルバレアを嫌う理由などない。
ルーファス・アルバレアは極めて優秀な男であり、クロスベル総督という要職も大過なくーーー否、この上無い程に見事に果たしている。その地位は帝国宰相たるギリアス・オズボーンに次ぎ、副宰相たるオリビエに勝るとも劣らないと言えるだろう。
故に目前の男を味方へと引き込む事が出来たときのメリットは計り知れないものがあるのだが……
「そうかね、それではその言葉に甘えさせて貰うとしよう。これからもよろしく頼むよ、リィン。
ふふふ、いやはや実に愉快な気分だ。3年前に会った時、君はまだ優秀ではあれどそれだけの一学院生に過ぎなかった」
「ええ、覚えています。あの時の私は貴方がまさか
「ふふふ、仮面を被る事には慣れていてね。
かつて明かした時にも語ったが、人間というのはどうしたって先入観に囚われる生き物だ。
弟にも父にも悟らせていなかった私の素顔をそう簡単に見破られては私の沽券に関わるというものさ」
それでもどうにもリィンは目前の人物に対する警戒を拭い去ることが出来なかった。
それはおそらく目前の人物の
貴族派に先がないという事をその先見性から読み取り、秘密裏にギリアス・オズボーンと手を結んでいたーーーこれはまあ良いだろう。
貴族連合に参加していた者たちからすれば許されざる裏切りだが、リィンはその裏切りによって恩恵を受けた側だ。とやかく言う権利はあるまい。
目前の人物が
「正直、少々物足りなさを覚えていたよ。
我らが筆頭は
いやはや、とんでもない過ちだったよ。獅子の子はやはり獅子であった。
全く以て自分の不明を恥じるばかりだ」
そうーーー
だが、リィンにはそんなルーファスの今見せている顔がかつて貴族派の貴公子として名を馳せていた時と同様にそう見せかけている
「お気になさらず。実際あの頃の私はそう大した存在ではありませんでした。
今日の地位があるのも偏に騎神の恩恵に依るところが大きいのですから」
「フフフ、確かにかの大帝から学ぶことはさぞ多かった事だろうとは思うが、しかしそれにしてもかの大帝の記憶に耐えうる君の強靭な意志力があってこそ。ならばこそ私は心の底より君に敬意を抱いているのだよ、リィン。何故ならばそれは、生まれ持った才や
「ええ、思いますとも心から。---察するに貴方がアルバレア家次期当主という立場にありながら、宰相閣下に協力したのもその辺りが理由ですかな?」
故にこそ少しでも見極めんとする、目前の人物の素顔を。一体彼が何を望んでいるのかを。
それを知ることが出来れば、あるいは目前の人物との間に妥協を成立させる余地が生まれるのではないかとか細い望みを抱いて。
「それも理由の一つではあるーーーだが、更に踏み込んで言うのならばやはり一番大きな理由は
瞬間、ルーファスはどこか照れ臭げに笑う。それは常の貴公子然とした優美なものとは異なる、少年のように屈託のない笑みであった。
「12年前、私は己が境遇というものに諦観を抱いていた。
血統に囚われる貴族という人種にも、そしてそんな家柄に縛られている虚ろな自分自身が何とも滑稽かつくだらぬ存在に思えて仕方がなかった。君も組織を率いる立場になってわかっただろう?地位と権限を与えられた者はその地位に相応しい振る舞いをしなければならなくなる。
次期当主等と言ってもそれは家を存続させるための歯車の一つに過ぎない。そうそう替えが効かない立場ではあれど、それでも替えが効かぬというわけではない。あまりにも目に余る振る舞いをすれば廃嫡されてそれで終わりだ。どれほど、内心で馬鹿馬鹿しいと思っていようとそれを決して表に出すわけにはいかない。本音を打ち明ければ、そこにつけ込まれるーーーそれが“貴族”というものだからね。そしてそんな諦観に包まれていた時に私はあの方に出会ったーーー軍部出身の帝国史上初の平民宰相ギリアス・オズボーン閣下にね」
ルーファスは語るどこまでも楽し気に。それこそが自分という男が真に始まった瞬間なのだと言わんばかりに。
「震えたよ、圧倒されたと言っても良い。そして決めたのだよ、私はこの方を
それはただ言われるがままに己が役目をこなす人形だった少年にとっては初めて芽生えた自身の望み。
誰に押し付けられたわけでもない、ルーファス・アルバレアの抱いた初めての“夢”であった。
「なるほど……そういう事でしたら如何でしょう?此処は義弟と協力して見るというのは?」
「ほう?」
そんなさらけ出されたルーファスの素顔を前にしてリィンは決意と共に切り込む。
実現できるのであれば、それこそが最善だとか細い希望を抱いて。
そしてそんなリィンの提案にどこか愉快気にルーファスは目を細める。
「父を超えたいという思いを抱いているのは私も同じです。いつかあの背中に追いつき、追い越す日をずっと夢見て全力でひた走ってきました。
そしてその甲斐あってと言うべきか、どうにか私も手が届く程度の位置にはたどり着いたつもりです。貴方の慈悲に助けられなければ自らの身を守る事さえできなかったころとは違う。
一年前の共和国との戦いの時のように、肩を並べて戦う事が出来るようになった」
先ほど発せられたルーファス・アルバレアの言葉はこれまでと異なり紛れもない本心であった。
彼は真実鉄血宰相ギリアス・オズボーンを超克することを目指している。それがリィンにはわかった。
「今の私ならば貴方と組む価値も十分にあると自負しているのですが、如何でしょうかルーファス卿?」
だからこそリィンもまたそこに協力の余地を見て取り踏み込むが……
「魅力的な提案だが断らせてもらおう。何故ならば私が超えたいと願っているのは閣下だけではないーーー君もまたそうなのだからね」
返ってきたのは拒絶の言葉。
自分たちは同じ場所を向いている同志等と考えてくれるな、いずれ雌雄を決する事となる宿敵なのだと戦意と今まで見せたことのない昏い情念と共にルーファス・アルバレアは己が意志をリィン・オズボーンへと叩きつける。
「無論、君とは今後も
だがそれでも私はやはり“夢”というのは誰かに叶えてもらうのではなく、自らの手で叶えるものだと思うのだよ。
最も何を以てして宰相閣下を超えたと言うかは難しいがね。何せ我らは敵同士ではなく、共に祖国と皇室に忠誠を誓った同志なのだから」
そうしてルーファス・アルバレアは再び仮面を被りだす。
それを前にリィン・オズボーンもほんのわずかに抱いた希望を捨て去るのであった……
ルーファスはオズボーンに出会う前にオリビエと出会っていたら案外オリビエの友にして頼りになる参謀役にでもなってくれたんじゃないかと思いましたが、オリビエにしっかりとした芯が通ったのはリベールでの忘れられない旅を経た後ですから昔のオリビエだと駄目かもしれませんね。