獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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最初は鳥かご作戦喰らっている予定だったんですが、心の中のルーファス総督が「彼らにはもっといい使い道がある」と囁き出しました。


政治には火に対するごとくすべきなり

 打ちひしがれるユウナに向けて大人たちは声はかけることが出来ない。

 彼らとて冷血漢というわけではない。目前の女がユウナ・クロフォードにかける言葉は誠意の籠った忠告ではなく、ただ悪意の籠った嘲笑であるという事には当然気が付いていた。

 だが此処で帝国人である自らが庇うような真似をすれば目前の女は嬉々としてそれを抉るだろうこともまたわかっていた。だからこそ動く事は出来なかった。結局これはユウナ・クロフォード自身が向き合い、乗り越えねばならぬ壁なのだから。

 

 そう、良識ある大人たちは判断した。

 

「オラァ!」

 

 ならばこそ弾かれたように動いたのは理性によって己を律する大人ではなく、感情によって動く子どもであった。

 確かな怒りと共にアッシュ・カーバイドがマリアベル・クロイスへと襲い掛かる。

 

 そうアッシュ・カーバイドは怒っていた。

 ユウナ・クロフォードという少女はアッシュ・カーバイドにとってみれば何かと小うるさくうっとおしい存在だった。なんだかんだで警官志望で真面目なユウナと自他共に認める不良である、ラクウェルきっての悪童と言われたアッシュは水と油と言って良く、当然のようにそんなアッシュに対してユウナは何かと口うるさく注意してきたし、アッシュはアッシュでそんなユウナに辟易とさせられたことはこの一年間一度や二度では効かない。

 だけどそんなユウナの事がアッシュは決して嫌いではなかった。素直な男ではないために口に出しては言わないが、友達(ダチ)とそう思っている。だからこそそんな友達(ダチ)を嘲笑われて黙って見過ごすなんて事をこの男が出来るはずもない。

 自分よりも格上?それがどうした、友達(ダチ)の夢をこうまで笑われてなんで指を咥えてただ眺めているだなんてことが出来るーーーと怒りと共にマリアベルへと襲い掛かる。

 

 

「あらあら、つくづくお友達に恵まれたようですわねぇ。でも哀しいですわねぇ。そんな友情が大事なお友達を殺す事になるだなんて」

 

「!?グ……うおおおおおおおおおおおお」

 

 しかし、それはマリアベルの障壁によって容易く防がれるーーーのみならずアッシュ・カーバイドの身に猛烈な悪寒が駆け巡る。

 すぐさま離脱しようとするも、その身体が縫い留められたように動かない。

 そうして若さゆえの無謀を命という代価によってアッシュが支払う事となる刹那

 

「させるかよ!」

 

 子どものお守り役を務める大人、彼らの副主任を務めるクロウ・アームブラストが己が教え子に向けて放たれた光弾総てを打ち払うーーーのみならず、そのままマリアベルへと切りかかる。

 流石に剣聖級の実力を誇るクロウと正面からやり合うのはマリアベルも避けたいのだろう、アッシュに拘泥する事もなくあっさりと距離を取り、クロウもまた深入りを避ける。

 

「……くそったれ!」

 

「ったく、不用意に格上相手に突っかかるんじゃねぇよ。ま、友達(ダチ)の為の行動だったから説教はしないでやるけどな」

 

 悔し気に地面を叩くアッシュに対してどこかクロウは微笑まし気に声をかける。

 入学した時の刺々しかったころに比べて大分丸くなったものだと教え子の成長を寿ぐように。

 

「全く無茶をし過ぎだよ、アッシュ」

 

「こちらを動揺させる意図を以て行われた初歩的な精神攻撃。真面目に相手をする価値はないかと」

 

「心外ですわねぇ。私はただ事実を述べただけの事。こんな程度で動揺する程度の覚悟しか持っていないのならどのみち遅かれ早かれというものでしょうに」

 

 無茶をやった友人に対して声をかけるセドリックとアルティナの両名、それに対してマリアベルはどこまでもふてぶてしく応じる。

 

「それにしては聊か虚偽情報が混ざっていたように思うがね」

 

 そしてそんなマリアベルに対してクロスベル総督ルーファス・アルバレアが悠然と前へと躍り出る。

 

「おや、私は何か間違ったことでも言いましたか?」

 

「ああ、大有りだとも。君はクロスベルの英雄ロイド・バニングス軍警中佐を私が不要だと断じて閑職へと追いやったかのように言っているが、それは事実無根の中傷というもの。()()()()()()こそ、私は彼にリーヴェルト中佐率いる鉄道憲兵隊、アランドール中佐率いる帝国軍情報局と共に現在ミシュラム方面に潜伏していると思われる大罪人アリオス・マクレインの捕縛という大任を任せているのだからね」

 

 言葉と共に浮かべた優美な微笑には常と変わらず一片の陰りも存在せず。

 自分は心の底からロイド・バニングスという男を信じているのだと言わんばかりにルーファスは告げる。

 そしてそれにマリアベルは一瞬呆気にとられたような表情を浮かべて

 

「ウフフフフ……アハハハ……アーハッハハハハハハハハ!!!

 なるほどなるほど流石はやり手と噂の総督閣下。随分とえげつない手を使いますわねぇ」

 

 ロイド・バニングスへとアリオス・マクレインを逮捕させるーーーその意図するところは明白だ。

 いわばこれは踏絵なのだ。かつてクロスベルの守護神と謳われ、現在手配中の身となった男《風の剣聖》アリオス・マクレインをその手で拘束する事で帝国への忠誠心を証明せよと。

 独立騒動でその声望を落としたとはいえそれでもクロスベル市民の間には未だアリオスを支持する声が根強く、彼の逃亡及び潜伏に手を貸す人物は無数に存在する。それが今日までアリオスが帝国軍の追跡を躱し続けられている理由の一つなのだから。

 そのクロスベル市民から未だ根強い支持を誇るアリオスを逮捕して帝国へと引き渡した瞬間にーーーもはやロイド・バニングスは()()()()()()()()ではなくなる。単なる()()()()()として市民から扱われるようになるだろうーーーその決断を下すまでに彼がどれ程葛藤したか等まるで斟酌する事もなく、()()()()()()()()()()()()()()()()を売り渡した等と声高に叫んで。

 

「フフフ、何のことやら私にはさっぱり理解しかねるね。私はただバニングス中佐の事を高く評価していればこそ()()()()を自らの手で証明して貰おうと思っただけさ。総ては彼の能力と()()()()()()()()()を正当に評価すればこそさ」

 

 ルーファスの語る言葉に前半はともかくとして後半には一切の嘘偽りはない。ロイド・バニングスの能力と気概をルーファス・アルバレアは確かに高く評価している。この地における自らの片腕とする事もやぶさかではないと思える程に。

 ならばこそ彼がもしも自らの手を取るつもりがあるならば相応の地位を与えて重用してやるつもりだった。

 だが、もしもロイド・バニングスがサボタージュという形で何時までも成果を挙げられず帝国への忠誠を示さないのであれば、それを理由に閑職に回すまで。

 明確な当人の失態があっての更迭ならばそれに対する反発等というのもまず起こるまい。

それこそ現在ミシュラムで()()()のヘンリー・マクダエルの警護という()()()()()でも与えてやればいいだろう。

 

「……ルーファス総督、君はバニングス中佐にーーークロスベルの英雄に帝国への忠誠を証明せよと()()をさせるつもりだというのか?」

 

 自身に口を差しはさむ権利などないとわかりながらもオリビエは口は出さずにはいられなかった。

 

「いいえ殿下、そのような事は決して。このルーファス・アルバレア、かつて独立騒動の際に逆賊ディーター・クロイスを捕縛し帝国と皇帝陛下への忠節を示したマクダエル議長とバニングス中佐を疑ったことなど決してございません。なればこそ、私は彼をその才に相応しき地位へと抜擢したのですから。そして彼は私からの信頼に見事答え続けてくれました。疑う道理がどこに存在するでしょうか」

 

 常と変わらぬ微笑を浮かべながらルーファスは告げる、()()彼を決して疑っていないと。

 しかし、そこでルーファスはその優美なる笑みを曇らせる。

 

「ですが、そうではない者が居る事も哀しいことにまた事実です。曰く、手配中の容疑者アリオス・マクレインとバニングス中佐は裏で結託しており、バニングス中佐は彼の逃亡を幇助している等とーーー大方バニングス中佐を妬む者たちの流した事実無根の噂でしょうが、それでもいつまでもそのような疑惑を抱かれては彼も何かとやりにくいでしょう。ならばこそ彼自身の手によって風の剣聖を捕らえて貰おうと()()()()()()のですよ」

 

「………ッ!」

 

 ()()()()()()()が、部下の中にはそうではないものもいる。

 今回彼をこの任務に宛がったのは疑っているからではなく、あくまで()()()()()によるものだと、そう言われてしまえばオリビエに言える事は何もない。

 何せクロスベル総督としてのルーファスの発言には一切の非がない。

 アリオス・マクレインは帝国から見ればクロスベル独立騒動の首謀者の一人の上に現在も潜伏・暗躍中の特級の危険人物。その捕縛も生かしてとらえるのが望ましいが、最悪死んでも構わないというものであり、クロスベル総督たるルーファスは当然クロスベル軍警察への指揮権も有している以上、そこに所属するロイド・バニングスへの命令は至極正当なもの。何一つとして批難に値するようなところはないだろう。

 故に帝国の副宰相たるオリビエにはもはや何も言える事はない。これが()()による命令であれば助け舟の出しようもあっただろうが、()()()()()に基づく命令となればそこに口を差しはさむのは単なる越権行為なのだから。

 

「ならばこそ、顔を上げ胸を張りたまえ、ユウナ・クロフォード候補生。

 ()()()等という悪意に満ちた解釈に惑わされる事はない。

 確かにこの地は聊か複雑な経緯を持つとはいえ、歴とした()()()()()でありそこに住まう君たちもまた等しく我々と同じ()()()()なのだから。

 その君が()()()()()()()()()ためにトールズ士官学院の門を叩き、そこに入学したことは賞賛されこそすれ、非難されるような事は何一つとして存在しない。

 さあ立ち上がりたまえ、そして君の()()()()()()()を示すのだ。君の憧れた()()のようにね」

 

 告げられた言葉はどこまでも帝国にとっての都合のいい解釈に満ちたものでーーーならばこそユウナにとっては決して認めることが出来ずに憤然と立ち上がって

 

「違う!()()()()()が戦ってきたのは!貴方や帝国の為なんかじゃ「ユウナさん!!!」」

 

 ないと告げようとした言葉はギリギリのところで最期まで言い切る事無く、ギリギリのところで傍にいたミュゼ・イーグレットによって遮られる。

 それは()()()()()()だと言ってしまえば取り返しがつかない事になると心からユウナを慮り、常の余裕をかなぐり捨てて必死の形相で。

 そんな国も立場も関係なくただただユウナ自身を思う友情が伝わったのだろう、ギリギリのところでユウナは踏みとどまることが出来た。

 

「総督閣下……クロフォード候補生は現在少々動揺しているようです。無理もありません、そちらのマリアベル・クロイスは彼女にとってみれば憎むべき裏切り者なのですから。

 同郷人ともなれば平静さを失って当然でしょう。ここは一つ御寛大な心でご容赦して頂ければと」

 

「僕からもお願い致します、総督閣下」

 

 そして間髪入れずにクルト・ヴァンダールとセドリック・ライゼ・アルノールが同級生の非礼を総督へと詫びる。

 そんな若者たちの友情に少しだけルーファスは眩しい物を見るかのように目を細めて

 

「ハハハ、クロフォード候補生は確かに良い友人に恵まれたようだね。顔をお上げください殿下、いずれ至尊の地位に就かれるお方がそう軽々に頭を下げるものではございません。

 クロフォード候補生、未だ二度目の実戦故大目には見るがもう少し君は心を律することを学ぶように」

 

「………はい、申し訳ございませんでした」

 

 唇を噛みながら血が滲む程に強く手を握り締めて、ユウナは自制心を総動員させて必死にその言葉を己が口から絞り出す。

 それっきりルーファスはユウナに対する興味を失ったかのように再びマリアベルの方へと向き合う。

 

「さて、些か話がそれてしまったがまあそういうわけで現在バニングス中佐には風の剣聖の捕縛にあたって貰っている。そうして追い詰めて所在を特定し終わったところで我ら帝国の英雄にトリを飾ってもらう予定だったのだが……随分とまあ厄介なタイミングで現れてくれたものだね身喰らう蛇の諸君。かつての独立騒動の際の好という事かな、マリアベル・クロイス殿」

 

「ウフフフフ、さあてどうでしょうか?この地に()()()()()()が居る事は事実ですが、それが風の剣聖とは限りませんわよ」

 

「……まあ良い。だが私はクロスベル総督ルーファス・アルバレア。この地の安寧を守る義務が存在する。君たちがこの地と帝国に仇名すというのなら私は()()()()と共に全霊を以て打ち砕くのみ。礼儀は弁えて貰おうか、身喰らう蛇の諸君」

 

 発せられたのは宣戦布告。

 その言葉にはこの地を預かるクロスベル総督としての使命感が満ち満ちているとーーー()()()()ものであった。

 

「怖い怖い。か弱い淑女としてはそうも荒々しい殺気をぶつけられては縮こまるばかり。

 基より今日ここを訪れたのは軽い挨拶が目的でしたからーーーここらでお暇させて頂く事とします。

 それでは皆様、御機嫌よう」

 

「今宵はお付き合いくださり、誠にありがとうございました」

 

 そうして場をかき乱すだけ場をかき乱してマリアベル・クロイスは姿を消していき、道化師カンパネルラもそれへと倣う。

 程なくしてマクバーンも同様に撤退したのだろう屋上で渦巻いでいた凄まじい魔気もまた消える。

 そして帝国の英雄がその健在な姿を一同に対して示す。

 

「申し訳ございません、劫炎を取り逃がしました」

 

「中将、それは違う。取り逃がしたのではなく、食い止めたのだよ。

 このオルキスタワーを灰塵に帰することが出来る怪物を君が。たった一人でね。

 それは誇りこそすれ、なんら恥じる必要はないはずだ。今こうして我々が無事なのは紛れもない君の功績なのだから」

 

「……恐縮です。ですが、劫炎をこのまま放置するわけにはいかないでしょう」

 

「ああ、当然だろうな。これほどの事をしでかしてくれたものを取り逃がしたとあっては帝国の沽券に関わる。無作法者に対しては相応の報いをくれてやらねばな」

 

「ええ、ですので閣下。そのために現在バニングス中佐と共に風の剣聖に追跡にあたっているリーヴェルト中佐とアランドール中佐の指揮権を私にお戻し頂きたく」

 

「ふむ……止む得ないか。君がこちらに居るうちに風の剣聖を捕縛しておきたいところであったが、劫炎の脅威はそれを上回る。もしも君が居なければ私を含めて今この場に居る者たちの命はなかったのかもしれないのだからね。それでは劫炎の方は済まないが君に一任させて貰う。こちらはこちらでやらねばならぬ事があるのでね」

 

「ええ、どうぞ吉報をお待ち下さい」

 

「ハハハ、秘蔵のワインを用意して待っているよ。

 君が劫炎を討ち果たして戻った暁にはそれで一杯やるとしよう」

 

「……ええ、その時は是非ともご相伴に預からせて頂きます」

 

 すさまじい速度で以て両者の間で話が進められていく。

 それはその場に居合わせる者たちに帝国の双璧の阿吽の呼吸というべき堅い紐帯とルーファス総督の語った風の剣聖の捕縛に関してリィン・オズボーンも把握していたという事を認識させるに足るものであった。

 

「さあそれでは皆様、どうかご安心を。此度の暴挙を為した賊は必ずや我らが帝国の英雄が討ち果たす事でしょう。これより改めて皆様を迎賓館に送り届けさせて頂きますので、どうか皆様は枕を高くして我らが英雄が吉報を持ち帰るのをお待ち抱ければと思います。そして我々は我々でまた改めて帝国のために為すべきことを為そうではありませんか」

 

 さわやかな微笑と共に告げられたルーファスの言葉に反論の言葉を述べる者はおらず。

 かくして結社によるオルキスタワー襲撃事件は一先ず幕を下ろすのであった…… 

 




しれっと結社と繋がっているのを風の剣聖とマクダエル議長に押し付ける男ルーファス(当然手持ちの部隊使ってその手の情報工作はしているよ!)
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