端的に言うと人工的に達人と呼ばれる人種を量産出来ねぇかなという発想で生まれた補助システム。何せ達人と呼ばれる存在は先天的な才能を持った人間が10年以上に及ぶ鍛錬によって至るとかいう軍隊と呼ばれる組織が求めている均質性と量産性に真っ向から喧嘩を売っている存在である。
当然それを人為的にもっと量産できないかという考えに至るのはある意味当然。
そうした発想で生まれたのが戦術オーブメントである。
七曜石からエネルギーを引き出すこのシステムによって先天的な霊力に恵まれずどう足掻いても闘気を纏えず、人間の壁を超えることが出来ない凡人君たちもそうした天才達と肩を並べるように出来る夢のパワーアップアイテムというわけだ。
しかし此処でも結局才能の壁が立ちはだかる事となる。
何故ならば戦術オーブメントにはめ込まれたクォーツ、それと感応して同調する能力、これもまた結局個人の持つ才能に依存していたからである。
つまりは結局これもまた才能の世界であり、凡人はどう足掻いてもある一定の壁が超えられないわけである(そしてどこの組織もそんな見込みのない凡人に貴重かつくっそ高価な装置を与えてはくれない。せめて最低限赤い星座とやり合えるような精鋭レベルになる見込みがないとね?)
そしてそんなお手軽パワーアップアイテムで強くなれるなら血反吐吐いて鍛えて強くなる意味ないやん?と思うかもしれないがそうでもない。
何故ならば所詮戦術オーブメントでのパワーアップはある意味ではドーピングのようなもの。
長い修練で培った戦闘感覚、気配察知。そうしたものを持っていないから戦術オーブメント頼りの人間は同調していない時、または装備していない時に不意を突かれたり、頼みの綱の戦術オーブメントを破壊されるとただの人と化すからである。
これが鍛えた達人ならば常識外の超長距離狙撃とかでもない限り瞬時に対応して見せるし、徒手空拳での戦闘技術だって泰斗流や八葉一刀流に限らず学んでいるものなので武器が無かろうと強いわけである。
前作での小ネタの光の剣匠のように無手で普通に小者のハイデルおじさんが自信満々で用意した機械兵器ぶっ飛ばせるわけである。
零序盤では街道歩くだけでバテていたエリィさんやティオが数か月で赤い星座やら風の剣聖やらとやり合えるようになったわけを考えた結果こういう設定となりました。
街道でばてていたのは戦闘時以外は戦術オーブメントで同調していなかったため、彼女たちの素の身体能力だったわけです。
そしてこの設定によって当作における旧Ⅶ最弱はマキアスで決定した模様。
(武術の心得もそこそこで、エリオットやアリサよりも戦術オーブメントの適性も低いため)
まあ彼らはもうそうした分野で戦う存在ではないのであんまり気にする必要はないんですが。
そしてこの設定だとオーラフが明らかに精神的に向いてないであろうエリオットを軍人にすることに拘っていた理由も説明がつくんですよね。
息子が「選ばれた側」であることを知っていたから。親のエゴとしての自分の仕事を継いでほしいという想い、才能があると知っていたからこそそれを活かせる軍人が天職だと思っていた、軍の重鎮として才あるものを軍に確保しようとする使命感ーーーそれら諸々が合わさっての判断だったという事でしょう。
その内以前書いた達人の設定と共にふわっとした登場人物紹介のところにでも纏めます。
亜音速にすら達する閃剣の乱撃が魔人の命を刈り取るべく疾走する。
焔を纏ったその剣戟は立ち所に万象を灰塵と化す魔人の黒き焔を突破し、その身へと肉薄する。
しかし、それは致命打にまでは至らない。
いまや魔人は目前の敵手を自身を打倒しうる英雄だと認識しているが故に。
その身から噴き出す焔の出力はかつてとは比べるのも馬鹿らしい程に桁違いだ。
「大したもんだな英雄。この俺を相手に此処まで肉薄してその剣が溶け落ちてないってのは大したもんだぜーーー俺を相手に此処までやり合えたのはお前で四人目だよ」
「だが、俺を相手に接近戦を挑むって事の意味が本当にわかってんだろうな?」
魔人の纏う焔ーーーそれは攻防一体の鎧だ。
その灼熱は自身の身を守ると同時に敵の身を焼く。
出力に於いて魔人を上回る事など人の身では不可能。
そして単純な力で負ける人が怪物に勝つには技を以てするしかない。
闘気の集束という技を以て。
しかし、一ヶ所に闘気を集束させるという事は当然、それはそれ以外の箇所の闘気が薄くなるという事であり、それ即ち己が身の守りが薄くなるという事である。
そして魔人の焔はただその場に立っているだけで人の身を侵す、ある種の猛毒だ。
吸い込む空気ですら、灼熱となって呼吸器を徐々に侵していく。
リィンの肉体が常人に比べて耐性があるとはいえ、それでも無傷というわけではない。
長期戦になれば一体どちらに勝利の天秤が傾いていくかは明らかであった。
故に
「クリミナルエッジ!」
一発逆転を狙い、英雄の相棒たるクロウ・アームブラストは完全なる死角から魔人の頸を刈り取るべく奇襲を敢行するーーーしかし、それはあっさりとその首筋に集中させた焔によって阻まれて終わる。
それは技と呼べるほどのものではないーーー単に首を狙われているのが分かったからちょっと首の辺りに気合を入れてみたとそんな程度のものだ。
芸術的とさえいえるほどに洗練された英雄のそれに比べれば、比べる事さえおこがましい程に稚拙なもの。
だがそんな稚拙な防御によって英雄と肩を並べるクロウの全霊を込めた剣が防がれる。
余りの理不尽さにクロウは舌打ちをする。
「ったく、一体どうなってやがる。
これでも大分強くなったつもりで居たのにあの怪物娘に聖女様にてめぇと言い、最近俺がやり合う相手と言えばどいつもこいつも桁違いの化け物ばかり。
思わず「アレ、俺って本当に強いのか?」って自信を喪失しちまいそうになるじゃねぇか」
「は、そりゃ仕方ねぇだろ。英雄譚ってのは英雄が乗り越えるのに相応しい試練なり強敵なりがあってこそ輝くもんだ。当然、英雄の相棒として付き合う事になるお前も一緒にそうした理不尽を味わう事になるってわけさ。
そして英雄の相方を務められているのはそれだけてめぇが強いからだよ、クロウ。現に基準を満たしていない連中は英雄の義兄妹だろうと戦力外通告を喰らっているじゃねぇか。今こうして立っているだけで紛れもない英雄の資格の持ち主ーーーそういう戦場だぜ、此処はなぁ!」
咆哮と共に魔剣が振りぬかれる。
技等というのは所詮弱者が必死に研いだ牙。
真の強者にはそんなものは不要、怪物はただその爪を無造作かつ力任せに振るうだけで容易く人間の命など刈り取れるのだと言わんばかりのその一撃は周囲一帯を一挙に焼き払う。
そしてそんな一撃を人の至宝たる英雄たちは磨き上げた技を用い掻い潜る。
火勢の弱いところ、それを磨き抜かれた闘争感覚で以て瞬時に見抜き、余波からその身を守る最低限の闘気を纏い、その剣で以て切り裂き突破する。
「だってよ親友、そうじゃないかとは思っていたが此処最近俺がこんなに苦労しているのはどうやらお前のせいらしいーーー転職して良いか?」
「冷たい事を言うなよ親友、俺たちは友達、一蓮托生じゃないか。我ら同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に死せん事を願わんーーーという奴さ。それにちゃんと危険な方は俺が引き受けているだろう?」
奇襲による一撃必殺を狙うクロウとその身を焼かれながら近接戦を演じるリィン、どちらが負担が重いかと言えばそれは当然リィンだろう。
最も親友を自分の戦いに付き合わせているからせめて危険な方を自分が受け持とうといった殊勝な心遣いによるものではない。
単にリィンの方がマクバーンの放つ焔に対する耐性が存在して長く持ち堪える事が出来るからとそんな純然たる合理の判断の結果だ。
何せリィンはことこの親友に修羅場をくぐらせることには一切の躊躇いを持っていない。
立っている者は我が子でさえ使っているのだから、明らかに自身の方の貸しが超過している上にきちんとその立場に見合う給料だって払っている相棒に共に戦ってもらう事に何の不都合があるのかとさえ思っている。
そして、だからこそこの二人は強い。
どちらかが一方に頼り切りではなく並べ合う関係だからこそ。
必要とあらば敵の注意を引き付ける役をクロウが受け持つ事だとて可能であり、それは即ちまさしく変幻自在の連携が可能という事。
共に剣聖級の実力を持つ親友同士、学生時代から培ってきた連携の密、信頼し合いながらも片方が苦境に陥ろうと揺らぐことがない関係性ーーー紛れもなくこの二人がゼムリア大陸最高峰のコンビである事は疑いようがない。
王道と詭道を併せ持つ二人の英雄の変幻自在の連携ーーーそれが猛攻となって魔人を襲う。
何度も何度も何度も何度もーーー魔人を討ち取るべく齎される殺戮の舞踏。
その身を焼かれながらも、それでも決して怯むことなく強靭な意志で以て痛みと恐怖をねじ伏せて、勝利へと邁進するその姿は紛れもない“英雄”の雄姿、そのものだ。
少しずつーーー魔人のその身に傷が刻まれていく。回復能力も桁違いであるが故に、それは立ち所に治っていくがそれは想定の範囲内。
端からこの程度で削り殺せると思う程にリィン・オズボーンは目前の魔人を侮ってはいない。
故にこれは単なる撒き餌だーーー自分達二人はお前が本気で殺しにかかる価値のある獲物なのだと目前の魔人を吊り上げるための。
そしてそれが功を奏したのか劫炎はそっと笑みを溢して……
「あア、イイジャネエヵ」
瞬間、劫炎の振るうその魔剣へと焔が
その意図するところは明白ーーー劫炎は目前の敵手を本気で殺す気となったのだ。
それは今まで無造作に放たれた、どこか生き残る事を期待する遊び半分の攻撃ではない。
本当の本気で以て相手を殺す事を目的とした必殺の一撃だ。
その身を守る焔を攻撃に回してまで。
そうするだけの価値がある敵だと劫炎のマクバーンはリィン・オズボーンとクロウ・アームブラストの二人を認めたのだ。
なればこそ二人もまた全霊を振り絞る。
劫炎の放つ奥義ーーー文字通りの必殺技を相手にすればどれほど力を振り絞り、技巧の粋を凝らそうと
故に、二人が選んだのは協力し合う事。
互いの闘気を共鳴させ、高め合う。
放たれるのは一人では決して放つことのできない、心を通わせた真のコンビのみが放つことのできるコンビネーションの究極。
「ジリオン・ハザード!!!」
「蒼覇十文字斬り!!!」
ぶつかり合う二つの奥義。
その衝撃は轟音となって大気を揺らす。
散らし合う火花が閃光となって空を駆け巡る。
そして訪れた一瞬の均衡の刹那、一発の弾丸が魔人の胸を貫いた。
・・・
この世界には厳然たる才能の壁というものが存在する。
残酷なようだが、これは揺るがざる真実だ。
その身に宿す霊力と称される生命エネルギー……これが達人と称される生きた人間兵器となるにはどうしたとて一定量必要なのだ。
無論どれほどの輝きを秘めた原石であろうと磨かねば玉となる事は出来ない。
達人と称される者達がそれこそその身を削るが如き錬磨を、常人に及びもつかない“努力”を重ねた事は否定できぬ事実である。
ではだからといって、諦めずに“努力”をすれば誰もが彼らのようになれるかと言えばーーーそれは残念ながら否だ。
努力だけではどうしたとて超えられぬ壁が存在する。それが現実だ。
後天的に超人を生み出す目的で作られた戦術オーブメントも結局は同じだ。
高い同調率を示し、超人と言えるだけの領域に至ることが出来るのは結局極一部。
かくして近代兵器が戦場の主役となった今でも達人と呼ばれる超人たちは戦場に於いて無視しえぬだけの価値を有している。
クレア・リーヴェルトもまたそんな軍より価値を見出された超人の一人である。
その身に宿した先天的な霊力だけでは達人に至るまでには至らなかったものの、戦術オーブメントとの高い同調率を有していた事でその資格を得て、それに奢る事無く研鑽を重ねた結果若くして氷の乙女等と称される程の使い手となった。
そうクレア・リーヴェルトは紛れもない超人の一人なのだ。
その力量は凡百の兵士ならば歯牙にもかけない。
だが、そんな
「ハハハハハハ、良いぜ良いな最高だ!クロウ!リィン!!!もっともっと熱くなっていこうじゃねぇか!!!」
目前で繰り広げられる戦闘は次元が違うと言わざるを得なかった。
クレアが受ければ立ち所に蒸発するであろう攻撃を前にしても怯む事無く挑む二人の勇者。
そしてその二人の以心伝心の巧緻極まる連携の攻撃を受けながらも未だ底を見せぬ劫炎。
どれもこれもが桁外れだ。劫炎の攻撃のその余波でさえ、喰らってしまえばクレアはただでは済まないだろう。
しかし、クレアの頭の中に回避や防御の二文字は存在しない。
何故ならば
「ミリアム!左斜め下から来るぞ!!!」
「OKレクター!ガーちゃん!!!」
飛来してきた
そしてその間にもクレアは微動だにせずに、その銃身に渾身の霊力を込めながら劫炎に隙が生じるーーー否、リィンとクロウの二人によって隙が作り出される瞬間を待ち続ける。
その銃身に込められているのはたった一発限りの弾丸ーーーかのG・シュミット博士が精製した《塩の杭》の弾丸だ。
ノーザンブリアを併合した事によって、帝国は自国の領土となったノーザンブリアの塩の杭の除去に本格的に乗り出した。
ラインフォルトグループ全面協力の下、帝国の頭脳がノーザンブリアへと一時的に集結したのだ*1。
そしてそうなれば当然、帝国最高の頭脳と称されるG・シュミット博士にも白羽の矢が立つことは当然の成り行きであった。
あくまで自身の知的探求心に基づき行動する博士も、この塩の杭という理外の存在には以前から興味を惹かれていたためかあっさりと了承。
そうして軍は当然の如く博士にある事を打診するーーー塩の杭の兵器転用である。
かつてノーザンブリア大公国は帝国と共和国には及ぶべくもないが、それでもリベール王国とレミフェリア公国と並ぶ歴とした西ゼムリア大陸の主要国の一つであった。
そんなノーザンブリアを壊滅に追いやった塩の杭は各国の首脳たちに消えぬ恐怖を刻み込んだ。
何せ何故そんなものがノーザンブリアに出現したのか、それが全くの謎に包まれているのだ。
お前たちの祖国がノーザンブリアのようになっても良いのか?と言外に示されれば、先ず以て帝国に歯向かおう等と共和国も思えなくなるだろうとそんな目論見の下に。
これで打診を受けたのが同じ三高弟であっても、リベールのラッセル博士であれば拒絶しただろう。
しかし、シュミット博士はそうした人並みの倫理観等というものを持ち合わせておらず何よりも己が探求心をこそ優先させる人物である*2。
帝国最高の頭脳はあっさりとこれを受諾。
かくして帝国軍全面協力の下行われたプロジェクトで流石と言うべきかシュミット博士は一発の塩の杭の結晶とも言うべき弾丸の精製に成功する。
そして小型の弾丸を作る事に成功した帝国軍はそのままの勢いで本命たる列車砲用の大型砲弾を作る事をシュミット博士に要請する。
しかし
「列車砲用にこれと同じ弾丸を作れだと?ああ作ってやってもいい、ただしそれをやれというのならば大陸全土のエネルギーを賄える程のジェネレーターをまず用意して貰おうか」
そんな帝国最高の頭脳の無慈悲な返答によってこの計画は暗礁へと乗り上げる。
塩の杭より列車砲用の砲弾の精製ーーーそれには現実的に用意する事が先ず以て不可能と呼ばれる莫大なエネルギーを用意する必要があったためだ。
そして自らの理論を実証させた事によってシュミット博士の関心は完全に塩の杭より外れ出す。
基よりシュミット博士は新兵器の開発や理論の実証には興味があるが、量産にあたっての低コスト化などにはとんと興味のない人物だ*3。
弾丸を作ろうと、砲弾を作ろうと規模が違うだけで結局やる事は同じとなった事で博士のやる気は一気に薄れる事となったのだ。
「やることは弾丸を精製した時と変わらん。ただそれの規模がデカくなるだけだ。後の事は好きにするが良い。
ーーー何、もっと効率的に精製できるようにはならないのかだと?そんな事は私の知った事ではない。お前たちのお抱えの技術屋共にでも頼むのだな」
そう言い残して自分がやりたいことはやった後は知らんと言い放つシュミット博士を掣肘出来る者はいなかった。
G・シュミット博士は軍に対しても極めて協力的な帝国の偉人である。
高圧的に出てへそでも曲げられれば困ったことになるし、強制的に取り組ませたところでモチベーションが上がるはずもない。好きにやっていてもらうのが結局一番なのだという事をこの国の上層部は良く知っていた。
かくして塩の杭を兵器へと転用するというプロジェクトはあっさりと終わりを迎える。
何せ軍の目的はあくまで列車砲とセットで運用できる戦略兵器を作る事であり、銃弾等というのは結局どこまでいっても対人用のものでしかない。
そして人を一人殺したいというのならば他にいくらでも手段はあるし、わざわざ高コストの弾丸を使う必要がないーーー通常の鉛玉だって脳天や心臓に直撃すれば容易く人を殺せるのだから。
とてもではないが割に合わないーーーそれが軍の下した最終的な結論であった。
かくしてパンドラの箱が開かれる事はなく、エレボニアは塩の杭の軍事利用を諦め、あくまでもその解析と除去へと集中しだす。
当たりさえすれば如何なる相手でも確実に殺す事のできる、たった一発の必滅の弾丸を置き土産にして……
クレア・リーヴェルトの構えるライフル銃には今、その一発限りの弾丸が込められている。
用意したのは無論彼女の上官にして帝国軍の重鎮リィン・オズボーン中将その人である。
自分とクロウで以て劫炎の隙を作る。その瞬間にこれを叩き込めーーーそれが今回クレアが命じられた任務だ。
そして現在戦場となった星見の塔の屋上ーーーよりも上空に浮く、クレア達をマクバーンは完全に認識していない。
それは気に留めるだけの価値がないからとかではなく、真実彼が気づいていないが故だ。
アルティナの操るクラウ・ソラス、それによって光学迷彩がかけられているからだ。
これが武を極めた達人相手であれば、アルティナの行為には何の意味もなかった。
何故ならば第六感を働かせて気配を察知してのけるのが、達人と呼ばれる人種なのだから。
視覚だけを誤魔化したところで何の意味もない。
だが、相手が劫炎のマクバーンならばこそ、それは意味を為す。
何故ならば彼は
その圧倒的な強さ故にーーー彼にはそうした警戒をする必要がないのだ。
しかし、だからといってこれは簡単な任務かと言えばそうではない。
何せ劫炎の力は圧倒的だ。その余波でさえもクレアとアルティナを殺すには十分過ぎるほどの威力がある。
そして狙撃に集中している以上クレアの足場となっているアルティナはその場から動いて回避することは出来ないし、光学迷彩にその力を注いでいる状態で防げる程に劫炎の炎は甘くはない。
だからこそそこから身を守る役目をミリアムが担う。
レクター・アランドールがその予知にも等しい直感によって危険な攻撃だけを的確に見抜き、ミリアムがアガートラームで以て防ぐ。
そしてクレア・リーヴェルトは自身の義弟妹達を信じて待ち続けるのだ。
怪物を殺す千載一遇の好機ーーーそれが英雄達によって作り出される瞬間を。
・・・
「ジリオン・ハザード!!!」
「蒼覇十文字斬り!!!」
「クレア!今だ!!!」
齎された千載一遇の好機、それを逃すことなくクレア・リーヴェルトはその引き金を引く。
そう、クレア・リーヴェルトはーーー否、獅子の騎士達はこの瞬間をこそ待ち続けてきた。
劫炎は不意打ちの類を全く警戒していないーーーそれは油断ではない、絶対の実力から来る自信だ。
狙撃など彼にとって警戒する価値のないものでしかない。
何故ならば例え狙撃を行ったとしても通常であれば、纏う焔によってその身に届く前に融解してしまうからだ。
そして例え直撃したところで心臓を貫かれた程度では劫炎のマクバーンは死なないのだから。
彼にとっては警戒する
だからこそクレア達は待ち続けた。
劫炎がその身を守るための焔を攻撃に用いる瞬間を。
自身の霊力で貫通する事が出来る程度になる好機を二人が作り出す瞬間を。
そしてそれは此処に結実する。
クレアの放ったたった一発限りの必滅の弾丸はついに魔人へと届いたのだ。
「あア……?何かと思えば随分と萎える事をしてくれるじゃねぇかよ英雄。
こんなちんけな攻撃でこの俺が倒せるとでも……」
齎された余りにも萎える横槍。
小賢しい自分と戦うに値しない雑魚の足掻き。
それをよりにもよって自分が認めた数少ない相手にされた事に対して劫炎は哀しさと共に奥義の激突で吹き飛ばされ、倒れ伏した状態のリィンへと侮蔑の言葉を紡ごうとしたが
「なん……だとォ!?」
瞬間、自身の身に訪れた異常に驚愕する。
「グ……ガアアアアアアアアア」
撃ち抜かれたところからその身が徐々に塩へと変わり出す味わったことのないその激痛に、劫炎は何を撃たれたのかを悟ると同時に初めて苦悶の声を漏らす。
その様にクレアは勝利を確信する。
勝ったと。
如何に人外の魔人と言えど、これを喰らえばもうどうしようもないはずだと。
「舐めんじゃ……ねぇぞ!!!」
しかし、咆哮と共に劫炎はなんとその身の焔で以て自身の身を焼き始める。
ふざけるなふざけるなーーーふざけるな!
こんな無粋な横槍による決着など自分は認めはしない。
こんな終わりを自分は求めていたわけではないのだと。
そしてあろうことか、塩の杭の浸食が徐々に止まり始める。
(いけない)
すぐさまクレアはとどめを刺すべく、通常の弾丸をマクバーンへと放つ。
しかし先ほどの一撃に文字通りの全霊を注いだ後のそれは、あえなく劫炎の放つ炎によって防がれて終わる。
不味いーーーとクレア達の心を焦燥感が包み込みだしたその瞬間であった。
「言ったはずだぞ……劫炎のマクバーン。貴様は……この俺が殺すと!」
劫炎の放った奥義、それを受けて息も絶え絶えの満身創痍の状態で英雄が立ち上がる。
最後の気力と力を振り絞り、此処を逃せばもはや後はないのだと文字通りの死力を尽くして。
「リィン……オズボーン!!!」
劫炎の放った言葉、それはこれまでの大上段から格下を見下ろしていた余裕に満ちたものではない。
その身が塩へと変わっていく激痛をねじ伏せ、劫炎が魔剣を振りぬかんとする。
「遅い!」
しかし、それよりも速く振りぬかれた一閃が魔人の両腕を切り落とす。
満身創痍の状況で明暗を分けたものーーーそれは技に他ならない。
英雄が幼き日より磨きぬき続けた師より授かったーーー否、脈々と人が受け継ぎ磨き続けた“技”によるもの。
圧倒的な強者たる魔人が学ぶ必要などなかった
「さらばだ、劫炎のマクバーン。
お前が取るに足らぬと歯牙にもかけなかった我が誇るべき義姉妹の足掻き。
それがこの結果を齎したのだという宣言と共に振りぬかれた英雄の一閃が、魔人の頸を確かに断ち切る。
浸食を阻んでいた魔人の強靭な意志と焔、それを喪失した事によって魔人の胴体も塩の結晶へと変わり、此処に決着は訪れるのであった。
カンパネルラ「塩の杭で自由を奪って首を撥ねるだなんて……!辞めろよ卑怯者!!!」
コンビとしてリィンとクロウが最高峰なのは実力もですが、親友同士という関係性もあります。
例えばエスヨシュの場合どっちかがピンチになると、その時点で敵の撃滅よりも相方のピンチを助ける方を優先するでしょう。
この二人の場合は「あいつならこの程度しのぐだろ」の精神で敵の撃滅を優先します。
絆で結ばれながらも互いの関係の中にある種のドライさがある、こうしたコンビの方が戦場という冷徹さがどうしたって求められる分野では強いわけです。
マックさんやアリアンさんと言った規格外を除けばこの二人は相手どれるコンビはおそらくオーレリア&ヴィクターの師弟コンビ、オーレリア&ウォレス、後はカシウス&ユン老師、アリオス&ユン老師の八葉師弟タッグ位でしょうか。
割といますね。やはりゼムリア大陸は魔境です。