獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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今話の投稿に際して読者の皆様に言いたいことがございます。
皆さん、冷静になってよく考えてください。
頸刎ね飛ばされたんですよ?残された肉体が塩の結晶になっているんですよ?
常識的に考えてください、これで生きていられる人間とか居るはずないでしょ?
かの大勇者アバンも首を刎ねられて生きていられる生物は居ないって言っているんですよ?







まあアバン先生がそう言って勝利宣言した相手、実は生きていたんですけどね。
ちなみに今話の推奨BGMは当然のように「赫怒の煌翼」です。


魔神顕現

 刎ね飛ばされ、宙を舞う頭部。

 塩の結晶と化していく肉体。

 その光景を前にして誰もが勝利を確信する。

 それは油断と慢心からは程遠い英雄でさえも例外ではない。

 だってそうだろう、首を刎ね飛ばされて生きていられる()()など()()()()()()()のだから。

 これが致命打である事は他ならぬ魔人自身が証明していた事だ。

 もしも首を刎ねられたところで平気だというのならば、わざわざ防御する必要などないのだから。

 

 ーーー帝国の軍人足る彼らにとって、結社身喰らう蛇とは国際的な犯罪組織であり、その構成員足る劫炎のマクバーンも討つべき敵でしかない。だからこそ気が付くことは出来ない。まさか彼が世界を壊さないように()()()()()()()結果があの状態だったなどと。

 存在していた肉体が、彼にとっては本当の自分を封じ込めていたある種の枷であった事など思いも寄らぬ事なのだ。

 そして今、その枷は破壊された。頭部は宙を舞い、首より下の肉体は塩の結晶と化していくこの状況に於いてまで自制をする者等居ようはずもない。

 故にこそ、さあ余興はこれにて終わりだ。

 いざ刮目するが良い、英雄伝説(サーガ)を超えた神話の戦いが幕を開ける。

 

「あア、いいゼ。そっちがそのつもりならこっちももう()()はなしだ。()()()()()()()()()としようかぁ!!!」

 

 轟く気合の大喝破が、致命傷を木っ端微塵に粉砕する。

 空間が、世界が、そ()()()()()()()()()()と悲鳴を挙げだす。

 しかし、自制が吹き飛んだ()()はもはやそのような事は考慮しない。

 知った事かと真実の本気をーーー()()()()()()()を放ちだす。

 その身はもはや完全に人を超越し、異形のーーーされどどこか神聖さを宿した姿へと。

 立ち昇る圧倒的な焔と神気の奔流は矮小な人の身とは比較する事さえおこがましい。

 魔神メア(M)=(C)=バルウド(B U)=ルアウング(R N)が此処に顕現した。

 

「「「「-------------」」」」

 

 その光景を前にもはやクレアらは絶句するしかない。

 当然だが、彼女達は全員無能とは程遠い人物。

 戦場に於いてその硬直がどれ程致命的な物なのか等全員百も承知。

 しかし、その上で尚硬直せざるを得ないほどに目の前の光景は余りにもーーー余りにも常識外れの光景であった。

 そうあっていいはずがないのだ、こんな光景等。

 そう彼女たちの脳内が悲鳴を挙げ続けるーーーまるで見てはいけないものを見てしまっているかのように。

 

「ッ!?来い!ヴァリマール!」

「来な!オルディーネ!」

 

 そんな中、流石というべきだろうか、異常を見て取った英雄とその相方はすぐさま行動へと移る。

 魔人の奥義の直撃を喰らった事でその身はもはや共に満身創痍。

 とてもではないが白兵戦を行える状態ではない事をーーー否、例えその身が万全であろうと生身で立ち向かう事など不可能だと悟った両者は己が愛機を、伝説に謳われし巨いなる騎士を呼び出す*1

 そして、それは間一髪のタイミングで間に合ったのであった。

 

「やれやれ、まさか彼を此処まで追いつめるとはね。さすがにこれは想定外……というか不味いねこのままだと」

 

「ええ、このままいけば黄昏の前にこの世界が終わってしまいかねませんわね」

 

 特等席から覗いていたのだろう。

 マリアベルとカンパネルラ、昨夜オルキスタワーにて姿を見せた結社の二人が姿を現す。

 真実想定外の事態なのだろう。その表情と言葉には常にない焦りが滲んでいた。

 

「だよね……流石にそれは見届け役として看過出来ないわけで……

 居るんだろう、深淵、それに守護騎士様も。

 手を貸してくれないかい!君たちだって今世界を終わらせるわけにはいかないはずだろう?」

 

 一見すると虚空に向かってしているかのようなカンパネルラの呼びかけ。

 しかしそれに応える形で、二人の男女がその姿を見せる。

 

「仕方がないわね」

 

「背に腹は代えられませんか」

 

 結社第二柱たる蒼の深淵ヴィータ・クロチルダと教会の守護騎士第二席たるトマス・ライサンダー。

 前者はともかく結社とは仇敵の中である守護騎士までもがカンパネルラの呼びかけに応え、あろうことか協力の意志を見せているという事実。

 それが今この状況が、この世界にとってどれほど危ういのかを如実に示していた。

 発動するのは魔女、錬金術師、そして教会騎士の世界の裏側に纏わる存在ながらも決して相容れぬ者達。

 その者たちが今この時だけは手を取り合い、三人がかりで三重の結界を展開する。

 常であれば余裕に満ちているはずの三人の表情が苦悶にゆがみ、吹き出た汗がしたたり落ちる。

 その甲斐あってと言うべきか、済んでのところで世界そのものが砕け散る事は免れた。

 

「「リィンさん!」」

「「リィン!」」

 

 しかし、それは即ち現在魔神と相対しているリィンとクロウは退路を封じられたという事を意味する。

 クレアとアルティナ、レクターとミリアムの悲鳴に近い叫びがその場に木霊する*2。 

 

「生きているか、クロウ」

 

「なんとかな……と言っても正直身体中ガッタガタで今にも布団の中に倒れ込みたい感じだけどな」

 

 オルディーネの核の中からクロウは相方からの呼びかけに答える。

 本当に間一髪だったと言って良いだろう、後ほんの少しでも騎神を呼ぶのが遅れていれば、二人は満身創痍の生身で灼熱と化した戦場に立たなければならなかったのだから。

 かろうじて騎神を呼ぶのが間に合った事で、二人は即死する事を免れたのだ。

 

「ああ、思う存分そうすると良いさ……この修羅場を乗り越えたらな!」

 

 弾かれたように灰と蒼、二体の騎神が左右に分かれて魔神へと仕掛ける。

 魔神が顕現した事で既に戦場はあらゆる命を奪う灼熱の状態となっている。

 如何に騎神のフレームがゼムリアストーンによって作られているとはいえ、この地獄の中に長時間居るのは余りにも危険すぎるし、何よりも肝心の中にいる起動者が既に満身創痍の状態。

 長期戦などどう足掻いても不可能である以上、速やかに眼前の敵を仕留める以外に二人としては道はなかった。

 

 閃光と化した灰と蒼、それが左右から魔神を襲う。

 そしてそれを前にしても魔神は微動だにしない。

 ただ、何かを噛み締めるようにそこに佇むのみである。

 ---とった

 それを見ていたクレア達は確信する。

 渾身の霊力が込められたゼムリアストーン性の双剣とダブルブレードには必殺と呼ぶに相応しい威力が込められている。

 二機の速さに認識が追い付かず、回避行動は愚か防御行動さえもとっていない、無防備を晒している今の魔神を倒すには十分すぎるーーーとクレアらには思えたのだ。

 

「!?なん……だと……」

 

 しかし、そんな希望的観測はあっさりと打ち破られる事となる。

 両者の放った一撃は魔神のその身に届く事はなく、正体不明の障壁なものによって阻まれた事で終わる。

 魔神にとっては、()()()()回避も防御もする必要さえないのだと、立っているステージが違う事を示すかのように。

 

「あア……やっぱり、お前らでも駄目か。こうなるってわかっていたからこそ、出来るだけこの状態にはならねぇようにしていたってのによぉ……」

 

 先ほどまで死闘を繰り広げていた、自身を最高に熱くさせてくれていた二人の英雄。

 その二人の渾身の攻撃でさえも()()()()()()()()()の自分に届かないーーーそんな()()()()()()()()()()を前にマクバーンはどこか哀しそうにつぶやきを漏らす。

 そこには相手を圧倒できている事に対する優越感ーーーそんなものは存在しない。

 ただ自身の目の前に広がる当たり前の光景に対する物足りなさが滲み出ていた。

 

「ああ……わかっていたのさ。俺が本気を出したらこうなるって事はな……だからこそ自重していたっていうのに……全部、全部お前たちが台無しにしちまった。

 もうこうなっちまったら、俺自身にも止められねぇ。俺が一体何だったのか、どうしてこの世界に来たのか……記憶が戻るまで思う存分に暴れて満足するまでか、それとも俺をこうしたお前らが目の前から消えるか……そのどちらかが満たされねぇ限りは人間の姿には戻れねぇ。

 そして今のお前達じゃ、いくら騎神を持ち出そうが俺には届かねぇ。なぜかわかるか、どれだけ騎神が強力だろうとそれはこの世界の法則に縛られた存在だからだ。わかるか?おしまいなんだよ、お前たちはな!」

 

 言葉と共に噴出されたのは焔の奔流。

 それは攻撃ですらない、魔神にとってはただ少しだけ気合を入れて呼吸をしてみたとそんな程度の()()だ。

 たったそれだけ……たったそれだけでE.O.Vを打ち破った巨いなる騎士が吹き飛ばされる。

 

 実のところ自分が満足するまでーーー記憶が取り戻されるまで付き合えることのできる相手、そんな存在にマクバーンは一人だけ心当たりが居た。

 人の身でありながら、200年にも及ぶ修練の果てに武神の領域へと至った、まさしく人の執念というものの結晶とでも言うべき存在、結社第七柱たる《鋼》のアリアンロード。愛機アルグレオンを駆り、本気を出した彼女であれば。

 故にこそ、初めて彼女と邂逅した時、当然のようにマクバーンは彼女に対して嬉々として戦いを挑もうとした。しかし、それはすげなく断れる事となる。

 理由としては他でもない、マクバーンとアリアンロード、それが結社にとってはどちらも切り札とも言える最強の手駒だったからだ。

 どちらが欠けても結社にとっては大損、相打ちにでもなればそれこそ目に当てられない事となる以上、静止されるのは当然の帰結であった。

 だがマクバーンにとって、そんな組織の思惑など知った事ではなかった。彼が結社へと所属しているのはあくまでその方が衣食住などで色々とやりやすいからで、別段長である盟主に対して忠誠を誓っているわけではない。

 執行者に()()()()()()のも、あらゆる行動の自由が保証されていればこそ。

 故に、自身の最大の目的を果たせそうだというのならば躊躇う道理などなかった。

 

「貴方の意志は理解しました。しかし、貴方からの誘いに乗る事は私は出来ません。

 私にもこの残された命を遣い、果たさねばならぬ目的がーーー()()が存在するからです」

 

 しかし、そんな熱烈なマクバーンのラブコールに対して帰ってきたのはそんな拒絶の言葉。

 無理やりにでも本気を引きずり出してやろうかという想いがマクバーンの頭に過ったがーーー結局辞めた。

 それは言葉の中に込められたアリアンロードの強固な意志を感じ取ったから。

 自分ではない()()()()()()()()()()()()()()()()を、無理やり自分のワガママに付き合わせるなど余りにも無粋だと思ったのだ。

 

「心配せずとも、貴方が本気を出すことが出来る日は遠からず訪れます。

 《巨いなる黄昏》ーーー大戦と連動し、この世界そのものを錬成場と変えるその時であれば、この世界も貴方の本気を受け止めることが出来るでしょう。

 総ての元凶たる《黒の騎神イシュメルガ》。我が怨敵たるかの存在ならば、貴方の本気も思う存分に受け止めてくれる事でしょう。その日までの辛抱です。

 ええ、私はその時をこの200年待ち続けたのです。()()()()5()0()()()()でもう待てないーーーとは言わせませんよ」

 

 以来、マクバーンはずっと自分を()()()()()()()()()()()()人類最高峰の使い手達と時に戯れながら、その時を待ち続けていた。

 そして今、魔神は余りにも早すぎる覚醒を迎えた。英雄の死力を賭した()()が彼の()()を引きずり出してしまったのだ。

 

「甚振る趣味はねぇ。せめてもの情けだ、下手に抵抗なんかせずこいつで逝っちまいな」

 

 その言葉と共に魔神の掌に形成されるのは灼熱の光球。

 小さな太陽とすら言える、万象を焼き尽くす神威の焔だ。

 

「クロウ!」

「わかってらぁ!」

 

 しかし、そんな魔神の()()を英雄は拒絶する。

 否、否、否だ!こんなところで終わってたまるか!と。

 神の慈悲によって齎される安らかな終わりなど御免被ると。

 矮小な人の身で運命に立ち向かうべく、精一杯友と生き足掻かんとする。

 例え、目前の攻撃を凌いだところで勝機などおおよそ皆無だとわかりながらも。

 勝機が皆無だという程度で諦めるような()()は、自分(英雄)には許されないのだと。

 闘気を振り絞り、共鳴させ合い、二人揃っていてこそ放つことのできる最大最強の奥義で以て迎え撃たんとする。

 

「ジリオン・ハザード」

「蒼覇十文字斬り!」

 

 ぶつかり合う、二つの奥義。

 しかし、今度は均衡が訪れる事はなく。

 霊力を纏ったゼムリアストーン製の双剣とダブルブレード、それがその焔に呆気なく呑み込まれていく。

 太陽が地上へと降臨したような閃光が場を包む。

 

 光が消えたその後、場に残されたのはどこか哀し気な様子で佇む魔神ーーーそしてもはや元あった色が判別がつかない程に黒焦げとなった二体の騎神。

 如何なる英雄であろうと神と戦うなどというのは勇気ではなく、蛮勇なのだと知らしめるような無情な光景であった。

*1
これまでの戦いで呼び出していなかったのは騎神はその大きさからどうしても攻撃が大振りになり、対人戦に不向きな為である

*2
誰もクロウの名前を呼んでいないのは単なる付き合いの長さと親密度の差であって決してクロウが嫌われているというわけではない




触らぬ神に祟りなし。
なお、英雄はその首を刎ねて身体を塩の結晶にした模様。
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