「つまり、狙うべきは黒キ星杯で奴らが大地の聖獣を討たんとする時だと」
「ええ、その通りよ。皇族への暗殺を防ごうとしている貴方のそれを無駄とは言いはしないけど、そのやり方ではおそらく黄昏を止める事は出来ない。因果律さえも操作する敵を相手に100%それを止めるなんて事が出来るかしら?」
「不可能だな。どれだけ細心の注意を払おうとも守る側というのはどうしたとて後手を踏む。
総ての暗殺の機会を潰す事など出来はしないーーー元より皇族の身辺警護を現在担当しているのは衛士隊だ。
半ば強引にアルゼイド子爵を護衛へとねじ込んだが、夏至祭の際は、我らはあくまで遊撃戦力として動く事になる。
完全な警護を行うというのは現実問題として不可能と言わざるを得ない」
具体的な時期や実行犯、そしてやり方がわかっているならばともかく「贄によって古の血が流れる時」等というひどく抽象的な内容では精々が信頼出来るものを護衛につけておく位しか打てる手はない。
そしてこちらから積極的に仕掛けるために行っている地精の本拠地の探索も遅々として進んでいない現状のリィンは手詰まりと言って良かった。
なればこそ結社の幹部であり、黄昏について多くの情報を握っているヴィータ・クロチルダの言葉へも耳を傾けていた。信頼は出来ないが最低限信用する事は出来るために話を聞く価値はあると考えて。
「ええ、そうでしょうね。
何よりも元凶たる《黒》をどうにかしない事には事態は解決しない。
だからこそ狙うべきは如何にして古の血が流れるのを未然に防ぐかという点ではない。
流れたその後、《黒キ星杯》へと敵が戦力を集結させたその時貴方とクロウの手で黒の騎神イシュメルガを打倒する。そして私達魔女の眷属が黒を封印する。
これが現状私たちの打てる最善の一手よ」
「わからないな、何故それを私に持ち掛けた。
結社にはかの鋼の聖女が居る。
その計画を実行するならば私よりも彼女に持ち掛ける方が余程早かっただろうに」
元凶たる黒を封印するには最低限封印できる程度にまで弱体化させる必要がある。
だからこそ、それを為せる起動者を求めるというのは良い。
だが結社身喰らう蛇にはその役を担う最高の駒を手に入れているではないか。
執念と修練によって武神と呼べる境地にまで至った存在ーーー結社第七柱たるアリアンロードを。
「“勝てない”そうよ」
「何?」
「今の自分では黒に勝つことが出来ない。
相剋を果たしていき、黒以外の騎神の力総てを一つに束ねない限り勝負の土俵にすら上がれない。
---それが彼女の回答だったわ」
「---ならば何故、他の騎神の起動者を放置している。
彼女の実力ならばそれこそ俺やクロウの奴を討ち取る機会などいくらでもあっただろうに」
「相剋というのは本来であれば黄昏によってこの世界そのものが闘争の意志によって満たされる事で初めて果たすことが出来るものなのよ。私はまあそれを帝国の内戦という小規模なもので起こせないかと思って貴方とクロウの激突を導いて結果的に成功したわけだけど……それは貴方たち二人が実力伯仲のライバル同士であり、奇しくも足りない分が貴方たち二人によって賄われていたというのが大きい。
もしも彼女があの内戦で貴方達を倒していた場合それはとても戦いとは言えない一方的なものになっていただろうから、おそらく相剋を果たされずに終わっていたでしょうね。まあそれだけが理由というわけではないのでしょうけれど」
ヴィータ・クロチルダから見て目前の青年が絡んだ時のアリアンロードの行動はどうにも合理的とは言い難い部分がある。弟子が自らを超えていく事を望む師のような期待をリィン・オズボーンに対しては抱いているーーーそんな節があるのだ。
「そうしてまあ肝心要の彼女の協力を得る事も出来ずにどうしたものかと悩んでいるところでようやく彼女の代役に成り得る存在を見つけたってわけ。本来不可能であったはずの騎神同士の融合を果たし、かの魔神をも退けた御伽噺の結末を書き換える事の出来る
そこで魔女は男であれば見惚れずにはいられないような妖艶な笑みを浮かべて
「というわけで返答は如何かしら獅子心将軍殿。
今の婆様では穢れてしまった大地の聖獣を抑えるのがやっとで黒まで手が回らない。
そして黒の封印という大事を為すには私一人でもエマ一人でもまず無理。
グリアノスとセリーヌ、そして私達二人が揃っていて初めて可能性が出てくる。
この場で私を帝国の敵として処断したらきっと後悔するわよ」
まともな計算が働く人物であれば確実に自分の提案を呑むはずだと言わんばかりの自信たっぷりな宣言、それを聞いてリィン・オズボーンがその手を取るべきか否かを考慮したのはほんの一瞬。
すぐさま微笑を湛えてその手を差し出して
「---あなたの帝国に対する献身に心よりの感謝をクロチルダ殿。
これから協力者として頼りにさせて頂く」
手を組んだ場合に得られるメリットは莫大。
その手を跳ねのけて結社の幹部として処断した場合に得られるメリットは極小。
それがリィンの下した結論であった。
競う相手はかの鉄血宰相ギリアス・オズボーンに翡翠の城将ルーファス・アルバレア。
こと戦略の面においては未だリィンが後塵を拝している難敵である。
魔女と契約する位の事をせずに盤面をひっくり返す事など不可能だろう。
ここに英雄と魔女の契約は交わされた。
総ては“悲劇”に彩られた御伽噺の結末を輝ける英雄譚へと書き換える為に。
・・・
クロスベルより帰還したリィン・オズボーンは多忙を極めた。
理由は他でもない、通常業務とはまた別に取り組まなければならないことが出来たからである。
取り組まなければならない事というのは他でもない、魔神マクバーンを相手にして土壇場で行ったヴァリマールとオルディーネの融合を土壇場の瀬戸際の一か八かではなく、意図的に実行できるようにする事である。
騎神の融合という興味深い事象を聞いたシュミット博士は兎にも角にもそれのデータを取りたがった。
リィンの方はリィンでかのアリアンロードさえも敗北を喫した黒の打倒を目指す以上、最低限騎神の融合を意図的に行えるようにならなければならなかったし、“神鬼合一”の持続時間を一秒でも長くする必要があった。
オリヴァルト皇子へと頼み込みオリヴァルト殿下の親衛隊所属のエマ・ミルスティン少尉*1が光翼獅子機兵団へと出向。
ヴィータとエマというローゼリアの愛弟子たる二人の協力、そしてシュミット博士観測の下リィンはクロウと共にヴァリマールとオルディーネの融合の再現、および融合後の運用の習熟へと取り組んだ。
騎神の操縦だけではなく自身の白兵戦技能の向上とて当然疎かにはしていない。
聖女との激闘を経てユミルにてかの剣仙ユン・カーファイに八葉の剣を学び更なる飛躍を果たしたオーレリアと剣を交わす事で自らの剣に更なる磨きをかけた。
そしてそれらは全て光翼獅子機兵団司令官としての業務と並行して行われるものである。
必然私事にそそぐことのできる時間というものは減り、自宅に帰らず仕事場に泊まり込む日々が続いた。
そしてそれでも尚黒へと刃を届かせるには足らないとリィンは踏んでいた。
何故ならばすべての元凶たる黒はかの槍の聖女をして黒以外の六体全ての力を結集してようやく届くと豪語したものなのだから。
黒を討ち取ろうと思うのならば最低もう一段階のパワーアップが必要となるだろう。
そしてその方法自体は間違いなく存在することをリィンは確信している。
何故ならばリィン・オズボーンは知っているのだから。
緋き終焉の魔王E.O.Vへとその姿を変えた緋の騎神テスタロッサの姿を。
それはまさしく魔王と呼ぶにふさわしい圧倒的な力だった。
魔女の長たるローゼリアと灰を駆る獅子心皇帝、そして銀を駆る槍の聖女の三人を以てして劣勢に追い込まれ、槍の聖女の死と引き換えにようやく討ち果たしたという代物なのだから。
内戦の折リィンとクロウがああも容易く倒せたのは、目覚めたてであったのと目覚めさせ方が強引だったために本領をまるで発揮していなかったからに過ぎない。
ヴァリマール・デスティニーとなった状態でそれを行えばその刃は最強の騎神たる黒にも届き得るとリィンは踏んでいた。
「というわけで何かいい手はありませんか、ローゼリア殿」
とはいえまさかそれを実行するわけにはいかない。
何せそれをやるというのは帝都に住まう100万の民を犠牲にすると同義だ。
戦いを行うにあたって犠牲が出る事は止む得ないがそれにしても100万の犠牲は余りにも重すぎる。
それだけの数を犠牲にしてしまって得た勝利などもはや勝利とは呼べまい。
何よりもリィン・オズボーンは帝国の民を守る責務を負った帝国の軍人だ。
戦いの結果止むなく犠牲が生じるならばともかく、自らの意志で生贄にするのはやはり違うだろうと思うのだ。
それは理屈ではなく極めて感傷的なものだが、そうした感傷を失くしてはいけないのだとリィンは思っていた。
「おぬし……毎度毎度無茶ばかり言ってくるのう」
「それだけ貴方のことを頼りにしているのですよ。
何せあなたはかのドライケルス大帝陛下の盟友であり数百年を生きた魔女なのですから。
この分野で貴方を上回る存在というのは生憎思い浮かびませんので」
「ま、あるにはある。
かの英雄帝が暗黒竜を打倒した際に使用した長のみが使える秘術がな。
名を“
かの暗黒竜を打倒する際に先代が用いたとっておきじゃな。
霊的な繋がりを介し、霊力を騎神へと集める事で騎神を更なる高みへと至らせる。
獅子戦役の折オルトロスの奴が使ったのはいわばそれの“改悪版”じゃ」
「改悪版……ですか」
「そうじゃ、本来であればこの術式は英雄帝のように絆を結んだ者達が合意に基づきその力を結集させるためのもの。オルトロスの奴ーーー正確には奴を導いたアルケー*2の奴めはそれを霊脈を介して強引に収奪するものにしおった。効果という面では確かにそちらの方が上かもしれんが、それをわらわは改良とは呼びたくない」
そこでローゼリアは苦々しい記憶を振り払うかのように頭を振って
「というわけで可能かどうかで言えば、可能であると答えよう。
ただこれをやるにはアルノールの血を引く者の協力が必要不可欠じゃぞ。
皆の想いを束ねることが出来るーーーかの英雄帝に負けぬだけの器を持つな」
「それならば問題ありません。
こちらにはオリヴァルト殿下が居ますから。
帝国に巣食う闇を祓うためとあらば快く協力してくれるはずです」
器という点に於いてリィン・オズボーンが現在最も高く評価しているのは長子たるオリヴァルト・ライゼ・アルノールである。
懸念としては要たるかの皇子をこそ敵もまた狙ってくるであろうという点であるが、その辺りはオリビエ本人と護衛を務めるミュラーの腕を信頼する他ない。
ーーーもしもかの皇子が倒れてしまったその時は、皇太子たるセドリック皇子に賭ける他あるまい。
「あいわかった。
そういう事であればこちらもそのための準備はしておこう」
「ええ、ご苦労をおかけしますがよろしくお願いいたします。
これも総ては1000年にわたる因縁に終止符を打つ為です」
リィン・オズボーンは気づいていなかった。
無意識の内に自身がオリビエの方をこそセドリックよりも頼りにしたという事を。
そしてそれが若き皇太子の劣等感をどれほど刺激するのかという事を。
そして帝国にはそんな人の抱く負の感情へと付け込む禄でもない悪神が巣食っていることを。
「勝利をこの手に。“勝つ”のは俺たちだ」
強靭な意志によってその悪神の囁きをねじ伏せて己が全霊を賭して運命を超越せんとする“英雄”はその強さ故に若き皇太子の抱いた闇に気づく事が出来ないのだった……
当作は黒キ星杯の決戦に際してこれなら勝てるんじゃね?と皆様に思って貰える様に主人公陣営の戦力大増強でお送りしています。
なんたって既に原作では敵だったクレアさん、レクター、蒼のジークフリートもといクロウが味方になっていてそこにかの光の剣匠と黄金の羅刹も加わるわけですからね!
一方の敵は既にマクバーンさんとシャーリィが欠けている状態。
おまけにヴァリマールはヴァリマール・デスティニーなんてものに進化してお婆ちゃんの知恵袋によって更なら進化を遂げるための秘策まであり!
これだけ揃えれば鉄血宰相とイシュメルガがなんぼのもんじゃってもんですよ!!!
ちなみにロゼえもんが獅子戦役の際に「決着術式」を発動できなかったのは人材不足によるものです。
この術を発動するには長と長に匹敵するだけの術者がもう一人は必要なのですが
250年前そうやって見込んでいたオリキャラのアルケーさんがオルトロス側に付いてしまったため出来なかったんですね。
当作ではヴィータさんとエマが居るからそれが出来るわけです。