当作では獅子心将軍とかいう最強のカードを所持しているわけです。
愛国心に満ち溢れた彼が列車砲奪取しようとしている猟兵団の存在を知ったらそりゃもうやる気満々です。
さてこんな状況でわざわざ「違約金払う事にするわ」で済ます猟兵団を雇うかというと……
ラマール州にラクウェルという都市が存在する。
いわゆる歓楽都市として知られたこの地では夜な夜な多くの人物が一夜の夢にふける事となる。
そしてそんなラクウェルの近郊たるラングドッグ峡谷地帯を今通りがかる人物がいれば、恐れ戦きすぐさま引き返す事だろう。
何故ならば、今その地には無数の死体が転がっているが故に。
「残敵は?」
転がる無数の死体。
それを見ながらも顔色一つ変えずに、死後女神に糾弾されるであろう殺人という悪行を今宵この地で無数に重ね、部下にも重ねさせた男は駆け寄ってきた己が副官へと問いかける。
「居りません。敵戦力の殲滅を完了いたしました」
「良し、撤収する。兵には十分に休息を取らせるように。
羽目を外しすぎなければラクウェルで心の洗濯をするのも大目に見る」
「承知いたしました。そのように取り計らいます」
己が指示を受け、その場を立ち去っていく副官。
それを見届けると男は双剣を収めぬままに丘の上へと視線をやり
「それで、何時まで覗き見しているつもりだ。
そのまま出て来ないというのなら、敵の残党として扱うが」
「おー怖い怖い。
こっちにあんたとやり合うつもりはねぇよ。
少なくとも
姿を現したのはどこか飄々とした空気を漂わせた中年位の男。
真実この場で事構える気は無いとアピールするかのように両手をあげている。
しかし、リィン・オズボーンは一切警戒を緩めない。
目前の人物は何せ紛れもない大陸有数の実力者であるが故に。
「猟兵王ルトガー・クラウゼル……報告には聞いていたが本当に生きていたわけか」
猟兵王ルトガー・クラウゼルーーーそれは大陸最強と謳われる二大猟兵団の片割れ西風の旅団の団長の名。
数年前に宿敵である赤い星座の団長たるバルデル・オルランドと相打ちとなったはずの男であった。
そんな過去の人物が現在の警戒対象としてリィンの耳に届き始めたのは凡そ三か月程前から。
死んだはずの猟兵王が部下である西風の旅団の大隊長と共に恐らくは帝国政府からの指示によって動いていると義兄にして部下たるアランドール中佐から報告を受けていたのだ。
「こんなロートルが今や大陸最強とまで謳われる名高き獅子心将軍閣下に覚えて頂けていたとは光栄だねぇ」
猟兵王の言葉は皮肉ではなく純粋な敬意の籠った賛辞であった。
大陸最強ーーーというのは帝国政府の威光によって多少盛られた部分もあるかもしれないが、こうして相対して見れば名前だけの張りぼてか、それとも実を伴った本物なのかは見分けは付く。
猟兵王という異名は決して伊達ではないのだ。自身の持つ人物眼に対してルトガーはそれなりの自信があった。
そして幾多の有望株を見抜いてきた自分の眼が言っているのだ。
目前の男は紛れもない
「しかしまあ随分と派手にやったもんだ。文字通りの殲滅戦とはずいぶんとまあ容赦がない」
殲滅ーーーそれは軍事用語に於いて皆殺しを意味する言葉。
通常であればまずあり得ない、戦いとすら呼べないような一方的な殺戮劇となったという事である。
「容赦するべき道理がもはやなかったが故に。
夢を見ていたいというのならば、暖かいベッドの中で何時までも微睡んでいればいい。
無益な行いではあるが無害だというのならば私にそれを咎める権利はない。
だが、それが帝国の地を脅かすものであるというのならば生憎私はこれ以外にもはや彼らを遇する道を知らなかった。ーーー私は教会の聖職者でも遊撃士でもなく軍人なのでね」
リィン・オズボーンが今回殲滅したのはノーザンブリアの英雄たる“北の猟兵”ーーーそこから離脱した過激派である。
ノーザンブリア併合にあたり北の猟兵は長を務めていたループレヒト・ラッカムとウィレム・ベッカーに従い、その多くが恭順した。
しかし、中には帝国の支配を受け容れずに離脱した者達が居た。
そしてそんな者達が何やらラマール州にて蠢動しているとの情報を情報局より入手したリィンはちょうど次の特別実習の行き先が領邦会議が開かれるオルディスであった事もあって、旗下の部隊を以て殲滅したのであった。
ようやく北の猟兵による“ケルディック焼き討ち”が過去の記憶へとなりつつあり、ノーザンブリア州が帝国の一部と認められ始めたこの状況下で離脱した一部過激派の行いでその足を引っ張られては困るのだ。
故に帝国政府からの「ラマール州にて蠢動する
帝国軍情報局と連携して此処に“殲滅”は為されたのであった。
獅子心将軍リィン・オズボーンとは帝国の敵を討ち果たすひと振りの剣であるが故に、そこに躊躇いは存在しない。
そう獅子心将軍は帝国の敵を討ち果たす英雄だ。
なればこそこの場に姿を現した男にも釘を刺しておく必要があった。
「覚えておくことだ、猟兵王ルトガー・クラウゼル。
我らは帝国の盾にしてアルノールの剣。
我らの祖国を脅かす者に対して一切の容赦も、一片の慈悲もない。
その事を肝に銘じておいて貰おうか」
言葉と共にリィンが叩きつけたのは裂帛の戦意。
返答次第では今この場で戦端を開く事も辞さないという意思表示であった。
七つ存在するはずの騎神の内残るは一騎。
そして確かに死んだはずがよみがえった猟兵王。
目前の人物が起動者である事はほとんど間違いがなかった。
故にこその忠告であった。
そして小心者であれば泡を吹いて気絶するような圧迫感を齎すそれを受け流すようにルトガーは肩を竦めて
「OK。了解した。そう心配せんでも俺たちは赤い星座の連中と違ってそこまで戦うのが好きな戦争狂ってわけじゃない。むしろあんたみたいなのとやり合うっていうのは俺みたいなロートルとしては出来るだけ遠慮したいんでね。そう怖い顔しなくてもアンタの邪魔になるような事はしないさ」
あくまで飄々とした態度で以て応じるルトガーの態度にリィンはどこか気勢を削がれ、ほんのわずかに考え込むようなそぶりを見せた後その双剣を鞘へと収める。
そしてそのまま立ち去ろうとする際に一言
「ああ、それとこれは獅子心将軍としてではなく、士官学院でフィー・クラウゼルの先輩だった者としての言葉なんですがーーー
せっかくそうして生き返ったんです。親離れできていなかった
・・・
「やれやれ、アレで21歳かよ本当に」
立ち去っていくその後ろ姿にも隙は欠片たりとも見当たらず。
かつてやり合った自分の生涯最大の好敵手であった男と同等かあるいはそれ以上かもしれない重厚な覇気。
規格外とそう評する他ない。
全く以て恐ろしいもんだとルトガーは葉巻に火をつけ、自らの肺を紫煙に焦がしながらしばし物思いにふける。
「年頃の娘ともしっかり話をしろ……か。わかっちゃいるんだがなぁ」
今の自分の状況がある種のボーナスタイムのようなものだという自覚がルトガーにはある。
そう自分はもうとうの昔で死んだ身だ。それが永らえているのは相剋とやらを起こすための駒に選ばれたからに他ならない。
相剋を最後まで勝ち抜けば鋼の至宝の力によって完全なる不死者となる事も出来るらしいがーーーどうにもルトガーはそうまで必死に勝ち抜こうとは思えないのであった。
何せルトガーは相応に満足して死んだのだ。
猟兵など所詮ヤクザな稼業。何時死んでもいい覚悟をしていたし、宿敵との相打ちという結果にルトガーはそれなりの充足感を覚えて逝った。
まあ結果としてそれは第三者に誘導された結果だったわけだが、是非もなし。
嵌められた方が悪いのが戦場である以上、そこに文句を言う気はルトガーには毛頭ない。
唯一の心残りと言えば自分が死んだ跡に残された団の人間が元気にやっていけるかという点だったが、一番心配していた末っ子は猟兵というヤクザな稼業から足を洗って遊撃士となり、他の面々もそれなりに元気にやっていると聞いている。
故にルトガーにとっては正直に言えばこの世に未練らしい未練などないのだ。
無論成長したであろう義娘に会いたいかどうかと言えばそれは会いたいという気持ちはある。
だがせっかく猟兵などというヤクザな稼業から足を洗い、日の当たる道を歩けるようになったというのに死んだはずの自分が会っては邪魔になってしまうのではないかとそんな風にルトガーは……
「いや、それは単なる言い訳か。単に会うのが照れ臭いんだろうな俺は」
そう、照れ臭いのだルトガーは。
会おうと思えば目覚めてすぐにでも会う事は出来た。
しかし、それは辞めた。
いい機会だと思ったのだ。猟兵というヤクザな商売以外にも生きていく道があるとフィーが知るのに。
だからこそ自分が死んだ際にそれが酷な事だとわかりながらも、団の者達にはフィーを連れて行くなと言い含めてあったのだから。
そう酷な事であり荒療治であると知りながらルトガーは世間の荒波にフィー・クラウゼルは放り出した。
それは親としての責任を放棄したに等しい行為だ。
だからこそ思ってしまうのだ、そんな自分が今更どの面下げてと。
「とはいえ、何時までもそんな風に迷っても居られねぇか」
自分が蘇った理由である七の相剋ーーーそれが起こる日は近い。
そして一度起これば自分は先ほどの
故に本気で勝つ気があるのであれば然るべき準備を整えて臨むべきなのだが、生憎とルトガーはそこまでのモチベーションを抱く事が出来なかった。
何しろルトガーが死に際に唯一抱いていた未練ーーー残された団員たち、特にまだ年若かったフィーは自分が死んだ跡もきちんとやっていけるかというそれは既に解消しているが故に。
もしも女神が目の前に現れて「地獄へ行く前の泡沫の夢は終わりだ」と告げてきたら信仰心など持ち合わせてなかったルトガーもその慈愛と慈悲に感謝しながら、喜んで地獄へ赴くだろう。
故に自分は七の相剋を勝ち抜く事はまず以てあり得ないーーー何せ競い合うのは自分を殺した宿敵と同格以上の怪物ばかりなのだから。
そして自分以外の者は文字通りで全霊を賭して勝ちに来るのだから。そうしたモチベーションというものが決定的に欠けている自分が序盤で脱落するのはある種の必然というものだ。
故に残された時間というのは何時までも残っているわけではなく、運よく最期の時に義娘と話す機会があるとも限らないのだ。---いや、むしろそんな僥倖はまず以てないと考える方が妥当だろう。
何せ彼の義娘は起動者でも何でもない遊撃士ーーー力なき民を守る正義の味方なのだから。
「その内時間を作って会いに行くとするかね」
一言、そう呟くとルトガーもまたその場を立ち去っていくのであった……
相剋レース現状最下位は猟兵王。
理由は他に比べてやる気が全然ないから。
他がやる気に満ち溢れ過ぎているともいう。