ミリアムがブリオニア島で消息を断った。
その情報を得たリィンは即座に灰の騎神を駆って現地へと赴く事にした。
現地には既にクレアとレクターが赴いていたが、くれぐれも先走るなと言い含めた状態で。
何せ単純な戦闘力で言えばミリアムの実力はクレアとレクターの両名に既に匹敵している。
そのミリアムが遅れを取ったという事は二人だけでは二の舞となる可能性が高い。
故にリィンは遊撃戦力として待機させていた頼りになる
「それで何故お前たちまで此処に居る」
ブリオニア島に着いたリィンが目にしたもの、それはクレアとレクターの二人だけではなかった。
特別実習を実施中のクロウ率いる第一班の6人もその場に居たのだ。
咎めるような視線をリィンはお目付け役足る親友へと送る。
ブリオニア島へ赴く際、当然リィンは目前の親友へと連絡する事も考えた。
しかし辞めておいた。親友に連絡して現場に赴いてもらうとなれば当然、行動を共にしている皇太子たちもまた付いてくるだろうと考えたが故に。
しかし、蓋を開けてみれば何故か全員揃ってこの場に居る始末。
お目付け役として宛がっておいた男に対する視線がある程度キツイものになるのは必然と言えただろう。
「ユーシスの奴に頼まれてな、ミリアムを探して欲しいって。
そんでオルディスで聞き込みをしてどうもここに来たって話を聞いたんでな。
お姉ちゃんを心配する妹心って奴を汲んでこうしてこの場に来たってわけさ」
「別段、私は心配などして居ません。
単にあの人が情報局員としては余りにも迂闊すぎる行為をしたみたいだから、一言文句を言ってやりたかっただけで……」
「なるほど、おおよその事情は理解した。
ご苦労だったなお前達、後は私達に任せてお前たちは実習を続けると良い。
リーヴェルト中佐及びアランドール中佐の両名はアームブラスト中佐に代わり第一班の面々を連れてこの地より離脱せよ。
アームブラスト中佐はオーレリア将軍共々私に同行するように。
---これより、我ら三名でオライオン少尉が消息を断ったと思しき遺跡に突入する」
咎めるような視線を送ったが、ある意味でこの場にクロウが居る事は僥倖と言えた。
リィン・オズボーンとオーレリア・ルグィンの二人が揃って後れを取ることなど億が一と言って良いだろう。
しかしその億が一があり得る相手をリィンは知っている。
これから突入する遺跡でその人物が待ち構えている可能性は決して0ではないのだ。
そう考えれば此処でクロウという貴重な戦力を加えておくに越したことはない。
皇太子の護衛にはクレアとレクターの両名をつけておけば、そう滅多な事もあるまい。
故にクレアとレクターの両名をお目付け役にして第一班の面々にはこの場を離れて貰い、クロウを加えた自分達三人で突入するーーーそれがこの場に於ける最善だとそうリィンは判断した。
そしてそれは正しい。もしもこの先に待ち受けている存在が彼女であるならば、最低限達人の力量に達していなければ話にはならない。未だ半人前に過ぎない教え子達等足手纏い以外の何物でもない。
レクターとクレアの両名も離脱する事は多少なりとも痛いが、よもや皇太子を
故にリィン・オズボーンの判断は正しい。理屈で考えればそこに反論の余地は存在しない。
「---待ってください!」
しかし、そんな大人の理屈で納得が出来ないのが子どもの感情だ。
理屈で考えれば従う以外の選択肢などないリィンからの指示になんとあろうことかリィン・オズボーンを最も崇拝して止まぬアルティナ・オライオンが食ってかかった。
「私はミリアムさんの事をあの人の言うように姉妹だと思っているわけではありません。
性格も全然違いますし、何よりも情報局員としてあの人の行動には余りにも不合理で文句を言いたくなることが山ほどありますから。
でも、それでも放っておけないんです!あの能天気でお姉さんぶって、何もかも全然違う感じのにそれでもどこか私に似たあの人のことを!
足手纏いになるなら見捨てて頂いても構いません!ですからどうか私も……!」
「いいや、駄目だ」
しかしそんな娘の懇願をにべもなく親は切って捨てる。
時として親は心を鬼にして子どもの我儘の跳ねのけねばならぬ時があるだと示すかのように。
「貴官は言ったな、いざという時は自分を見捨てても構わないと。
だがそれは出来ない、何故ならばいざその段階で
ーーーお前は私達夫婦の自慢の娘だからな。親としては余り娘に危険な事をして欲しくないというのが本音だ」
「--------」
どんな冷徹な人間にも特別な存在というのは居るものだ。
リィンにとっては妻であるトワ、そして娘であるアルティナがそうだ。
犠牲が怖くて戦う事など出来ないという事をリィンは良く知っている。
用兵というのはつまるところ如何に効率よく味方を犠牲にして敵を殺すかというものなのだから。
そして将として公正であろうとするならば、それで犠牲が最小限に抑えられるならば犠牲となる側に例え自分にとって特別な存在が含まれようと切り捨てねばならない。
そんな事はリィン・オズボーンはよくよく理解している。
しかし、それでもきっと目前の少女が窮地に陥れば自分はおそらく迷い、その行動は確実に遅れるという事をリィンは半ば確信している。
それでもクロスベルの時のようにどうしても必要ならばリスクを承知で戦場に連れて行く。
しかし、そうでないのならば出来るだけそうした鉄火場に連れて行きたくないというのがリィンの親としての本音であった。
そうしてリィンは愛娘の頭を優しくなでながら優しく語りかける。
その視線にはユウナ達は見た事もない優しさと慈愛が満ちていた。
「信じろ、アルティナ。お前の父は無敵の男だ。
必ずミリアムを連れて帰ろう。例え伝説に謳われる存在が立ちはだかったとしても。
我が双剣の絶対を誓おう。これでは不服か?」
「ーーーいいえ、いいえ、そのような事は決して。
リィン・オズボーンはエレボニア帝国の誇る至宝にして不可能を可能にする不撓不屈の英雄であることを私は誰よりも知っています。どうかご武運を。私たちはその凱旋を待っています」
「ミリアムを思うお前の気持ちは嬉しく思ったよ。
だが想いには力が伴っていなければ意味がない。
今回は私たちに任せておきなさい。
---いずれまたクロスベルの時のようにお前の力を借りる事もあるだろう。
その時まで腕を磨いておく事だ」
告げられた言葉にアルティナはただコクリと頷く。
もはやその心に迷いも躊躇いも存在しなかった。
そうリィン・オズボーンは不可能を可能にする英雄なのだから。
そしてそんなやり取りを見せられては折を見せてアルティナに加勢して自分達も同行しようとしていたセドリック達も何も言えなくなる。
現状セドリック達が半人前に過ぎない事を事実であり、セドリック達にとってみれば雲の上の実力者足るリィンにこのように宣誓されてしまえば。
獅子心将軍と蒼の騎士、そして黄金の羅刹という理に達した大陸有数の実力者が三人もそろって赴くというのだ。
未だ皆伝至っていない半人前の身で言える事などもはやその武運を祈る以外にはなかったのだ。
「いいや、ちょっと待てよリィン。お前の言いたい事はわかったけどよ、俺はこいつらを連れて行くべきだと思うぜ」
そう未だ半人前でしかない生徒たちに言える事など何もない。
なれば異を唱えられる者が居るとすればそれは、リィンが肩を並べて戦う仲間とみなしている者しかあり得ない。
「足手纏いになるから安全なところに居ろ」というリィンの言葉にクロウ・アームブラストが異を唱えていた。
それは教え子たちの成長を間近で見続けてきたが故の判断であった。
「何を言っているアームブラスト中佐、これより赴くのが紛れもない死地であるという事位貴官ならば理解しているだろう。
貴官は可愛い教え子をみすみす死地に追いやるつもりか?だとするならば聊か以上に教官としての自覚が足りていないと言わざるを得ないが」
---こいつどの口でこんな事言ってやがんだ。
クロウの頭に浮かんだのはまずその想いであった。
当然の帰結と言えただろう、何せクロウ・アームブラストは知っているのだ。
最初の特別演習の際に目の前の男が生徒たちを敵を釣り出すための餌に使った事を。
最もその辺りを指摘したとしても意味は無いだろう。
あの時はそれが必要だと判断したからそうしただけで、今回は必要がないから無駄に危険に晒したくないだけの話だとかあっさりと言ってのけるだけだろう。
(本当にまあいい性格になったもんだぜ……)
能力と知識があって硬軟織り交ぜる事の出来る馬鹿というのは全く以て性質が悪いものだとクロウはしみじみと思う。
故にリィン・オズボーンを説得しようと思うのなら情に訴えかけても効果は薄い、目前の男を説得する際に必要なのは“理”なのだ。
目の前の男は馬鹿で勝手な奴だが、それでも狭量では決してない。
相手の意見の方に理があると考えればそちらに耳を傾ける柔軟性と器は持ち合わせているのだから。
「陽動の可能性は?ミリアムの野郎を捕縛してそれを囮にしてこうやって俺たちを釣り出して、皇太子の警護が手薄になったところを狙う。---そういう可能性だってあるんじゃねぇか」
「それは当然考えた。だからこそアランドール中佐とリーヴェルト中佐の二人を貴官に代わりつける事にした」
「だけどこいつらも同行させれば、その二人もそのまま戦力に換算出来るだろ?」
「いざという時に犠牲を厭わず戦えるという前提ならばな。
皇太子であるアルノール候補生が居る以上臣下としてはそのような事は出来ず、心情の面としては先ほど述べた通りだ。
おそらくいざその段階になれば私の心には迷いが生じる。だからこそその迷いの要因と成り得るものは今回は出来るだけ遠ざけておくべきだと判断した」
「劫炎が相手ならお前の判断は妥当だと思うだぜ。
だけどそうでないならそのリスクに見合うだけの価値は十二分にあると俺は思っている。
こいつらだって未熟ではあれど着実に成長している。何時までもそう足手纏いのままってわけじゃない」
「生徒たちが成長してきている事は私も当然知っている。
だがそれでも相手が相手だ。劫炎ならばいざ知らずこれから挑む武神に区々たる小細工は無意味だ。
結局最後は正面きっての力頼りにならざるを得ない。
---故に連れて行った際のメリットをリスクが上回ると私は判断した」
二人の語る内容は平行線であった。
クロウは教え子たちの成長とその力を知っているし信じている。
それ故にそうそう足手纏いになる事はないと判断し、だからこそ連れて行った場合のメリットの方が大きいと判断している。
一方のリィンはその真逆。
教え子達は未だ半人前であり、連れて行った場合のリスクが大きいと判断している。
どちらの言う内容にも理はある以上、後はどちらを重く見るかという話であった。
そしてこの場に於いてその判断を下すのはリィン・オズボーンである以上、必然クロウの発言は退けられる事に……
「つまるところ、争点は雛鳥達がどの程度育っているかとそういう事だな。
リーヴェルト中佐とアランドール中佐だけならば連れて行く事に中将は異論はない。
しかし、生徒たちに関しては未だ未熟故連れて行けば足手纏いになるだけだと判断しているーーー要はそういう事であろう?」
「ええ、まあ」
「そして自覚しているようだが、中将は己が義娘たるオライオンに対してどうにも過保護なところがある様子。
そういう意味でアームブラストの言にも一理はあるだろう。
しかし、アームブラストはアームブラストで雛鳥達に少々入れ込み過ぎているきらいはある。
故、此処はこの黄金の羅刹が裁定を下すとしよう、果たしてそこの雛達が巣立ちを迎えるに相応しいかどうかをな」
そう告げると黄金の羅刹は笑ったーーー獲物を見つけた肉食獣が如き獰猛な笑みを浮かべたのだ。
叩きつけられた圧倒的格上からの殺意の奔流、それに身体が硬直しかけたのはほんの一瞬。
すぐさま6人がアークスを起動させて臨戦態勢へと移ると同時にオーレリアの身体がその場から掻き消える。
ほんの一瞬の間に剣戟がいくつも交差した甲高い金属音が鳴り響く。
そうして音が止んだ後にその場に居たのはーーー
汗一つかかず不敵な笑みを浮かべる羅刹と息を荒げながらも決して膝をついては居ない生徒たちの姿。
「見ての通りだ、オズボーン。
どうやら子どもというのは親が思っている以上に成長しているもののようだな。
これならば少なくとも足手纏いにはなるまいよ」
己が姉弟子より告げられた言葉と目前の光景、それをよくよく噛み締めた後にリィンは一度深くため息をついて
「アルノール候補生」
「は!」
「貴官は兎にも角にも自身の身の安全を最優先するように。
いざという時には学友を見捨てる事になろうとも生き延びる事が貴官がその身に生まれながらに背負う責務だ」
「……承知しました」
「ヴァンダール候補生、貴官はいざという時にはその身を盾にしてでもアルノール候補生を守り
「は!了解致しました!」
「オライオン候補生、貴官はいざという時にはヴァンダール候補生が稼いだ時間で以てアルノール候補生を連れてただちに離脱しろ」
「了解しました」
「イーグレット候補生、カーバイド候補生、クロフォード候補生もいざという時にはアルノール候補生の身を最優先に考えて行動しろ。そして自分の身は自分で守るように、良いな?自らの意志で死地に飛び込み庇護対象から外れる事を選んだのは他ならぬ貴官達だ」
その言葉に三人もまた頷く。
「これよりオライオン少尉救出作戦を開始する。全員心してかかれ」
「「「「「「「「「「イエス・サー」」」」」」」」」」
クロスベルでは通常攻撃が全体攻撃でリィン将軍のSクラ級な魔神さん(なので下手な奴は居ても攻撃の余波で消し飛ぶだけ)
そして今回待ち受けているのは通常攻撃は単体攻撃だけど貫通属性がついていて一ターン三回行動で生半可な攻撃をぶち込むとカウンター叩き込んでくるお母さん(仮)(やべぇけど攻撃事態は単体攻撃なのでやり合える前衛が複数いるなら援護できるかはともかくとして居ても問題ない)
新Ⅶ組は連れて行く。
武の至境というものがどれ程のものかその目で見ておくいい機会だ(目で戦闘を追いきれるとは言っていない)