獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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この世のすべては貴方を追い詰めるためにある


進む者、取り残される者

 甲高い金属音が鳴り響く。

 弾き飛ばされたのはセドリック・ライゼ・アルノールがその手に握っていたはずの双剣。

 そして同時にそっとその首筋へと剣が突きつけられる。

 その光景は何よりも雄弁にどちらが敗者かを知らしめるものだった。

 

「そこまで!勝負あり、勝者クルト・ヴァンダール」

 

 決着を告げる教官の号令、それがセドリックにはどこか遠く聞こえる。

 互角ーーーとは以前から決して言えない関係であった。

 こと剣の腕を競えばセドリック・ライゼ・アルノールはクルト・ヴァンダールの後塵を拝していた事、これは厳然たる事実であった。

 当然と言えば当然の話だろう、クルト・ヴァンダールは兄と父に似ず体格という才にこそ恵まれなかったものの、こと剣才に関して言えば天稟を有している。

 そしてその才に奢る事無く幼少期から優れた師の下でその才を磨き続けてきた英才だ。

 如何にセドリックがその血に眠る力に目覚め始めたとは言え、1年やそこらで追いつける程にクルトが積み重ねたものは浅くはない。

 そこには厳然たる差が存在していた。

 だがそれでもその差は真っ向からやり合えば7:3でクルトの側に分があるといった程度のもので、此処まで()()()()()があったわけではなかった。

 何よりも剣の鍛錬に本格的に励みだしてからというもの着実にその差を埋めてきているという実感がセドリックには存在していた。

 これならばそう遠くない内に追いつけるはずだとそう思っていた。

 だというのに今回の対峙でのクルトとセドリックの差は圧倒的なものだった。

 終始セドリックはクルトに圧倒されて、余りにもあっさりとその決着は訪れた。

 もはやクルト・ヴァンダールはセドリック・ライゼ・アルノールとは立っているステージそのものが違うのだと言わんばかりに。

 

「……参ったな、クルト。一体いつの間にそこまで強くなったんだい?

 ひょっとして僕らには内緒でリィン教官から稽古をつけて貰っていたとか?」

 

 心の内で荒れ狂う嫉妬、焦燥、憤怒、憎悪ーーーそれらの黒い感情を必死に抑えつけるようにセドリックをその手を握りしめながらも努めて明るい笑顔を浮かべて目前の友人へと問いかける。

 それは皇太子などという立場で生まれたが故に身に着けたもの、内面で荒れ狂う感情を御して人好きのする笑みを浮かべる事でその本意を明かす事無くやり過ごす一流の処世術である。

 ---皇太子として余りに柔弱すぎるのではないか?そんな風に自分に向けられる嘲笑から自らの心を守るために身に着けた一種の防衛反応であった。

 

「そういうわけじゃないさ、ただ僕は学び取っただけさ。あの時見たリィン教官の雄姿から必死にね」

 

一般的に天才と称される才気に満ち溢れたものでもある種伸び悩む時期というものが存在する。

 それが中伝に至ってから皆伝に至るまでの時期だ。

 それまで鍛錬をすればするほど自らが成長する実感を覚えていた神童達は人生における壁という物を始めて実感する事になる。

 それはクルト・ヴァンダールも例外ではない。

 入学前に中伝に至っていたこの才気煥発な男も同様に入学後達人に至るための壁というものにぶち当たっていた。

 それでもめげる事無く努力を重ね続けた。

 その努力は目に見える形ですぐに出ずとも着実にクルト・ヴァンダールを次のステージに進ませるべくその肉体と魂を作り変えていた。

 そしてブリオニア島での英雄と聖女が繰り広げた死闘、そこから決して()()()()()()()()()全霊を以て学んだ事でクルト・ヴァンダールはついにその壁を乗り越えた。

 これまで積み重ね続けた努力という燃料にブリオニア島での経験という火種を加えた事で発生した爆発的な成長を以て。

 そう、つまりクルトはついに掴んだのだ達人と呼ばれる境地、そこに至るための階を。

 このままもう数か月もすればクルト・ヴァンダールは順当に達人の境地へと至るだろう。

 後はヴァンダール流の師範または師範代から奥義伝承をされれば、晴れて皆伝と認められるわけである。

 

「---------」

 

 そして告げられたクルトが殻を破るきっかけとなった出来事。

 それを聞いた事でセドリックは打ちのめされる。

 目前の友人は英雄と武神の死闘という神話の光景に居合わせた貴重な経験を無駄にする事無く、それをしっかりと己が成長の糧とした。

 翻って自分はどうだ?自分はあの戦いから目を背けてしまった。

 あの余りにも輝かしい、自分では決して届き得ない英雄の雄姿を見続けてしまえば自分は決して正気では居られないそんな風に思ってしまったから。

 だがクルトはそこから決して目を離さず学び取り見事成長のきっかけにした。

 それはセドリックにとっては単純な技量とかそういう次元ではない部分で目前の友人に後れを取った事を意味するように思えてーーー

 

「セドリック?ひょっとしてどこか痛めたのか?

 すまない、ちゃんと()()()()()()()()()()()()つもりだったんだが……」

 

 そしてトドメとばかりに目前の友人から伝えられるのはこちらへの()()の発言。

 もはや自分など目前の友人にとってはそうして手加減するだけの余裕がある相手、好敵手等とは到底言えない程に彼我の力量差が開いた事を示す言葉だ。

 

「ご配慮ありがとう、心配せずとも()()()()()で何ともないよ」

 

 培われた理性それを総動員してあくまでセドリックは笑顔を浮かべて応じる。

 それは長い付き合いのクルトでさえも欺くことのできる洗練された完璧な笑顔だ。

 その笑顔の陰に潜む物を見抜く事が出来る者がいるとすれば、それは余程セドリックの事を注意深く観察している者に限られるだろう。

 

「そうか、なら良かった。これで何とか守護役をクビにされずに済みそうかな?」

 

 焦りを覚えていたのは何もセドリックだけではない。

 クルト・ヴァンダールもまた必死だったのだ。

 何せ彼にとってリィン・オズボーンは幼少期の頃から慣れ親しんだ兄弟子だ。

 その兄弟子が帝国で知らぬ者は居ない英雄となる一方自分は伸び悩み、守護対象たるセドリックに追いつかれ始めているという状況にあって全く焦りを覚えない程クルトは太平楽な性格はしていない。

 その必死の努力が実を結び、ついに自分は壁を一つ乗り越えたという成長の実感を得られたのだ。

 それが嬉しくないはずがないし、だからこそセドリックの抱えている内面の葛藤に気づくことが出来ない。

 何よりセドリックは皇子であり、クルトはその守護役だ。

 クルトにとって剣の腕は必須のものだが、皇帝となるセドリックには武勇などあるに越したことはないが別段なくても問題のない程度のものに過ぎない。

 だからこそクルトは気づけないのだ、その武勇に於いて自分に後れを取った事にセドリックが劣等感を抱いている事に。

 

「さぁてそれはどうかな、その辺りは卒業の暁にきっちり答えを出させて貰うよ」

 

「手厳しいな、まあ確かに成長しているのは何も僕だけじゃない。

 これに慢心してうかうかしていたらあっという間に追い越していきそうなのも居るしな」

 

 そうしてクルトが示す方向に視線をやればそこには見知った二人がぶつかり合う姿があって

 

「は、中々やるじゃねーかよユウナ!」

 

「何時までも負けてられないわよ!こっちにだって意地があるんだから!!」

 

 その動きはオルディスでの実習前よりも両名ともはるかに洗練されている。

 ユウナとアッシュ、この二人もまたクルトと同様にあの二人の戦いから何かを学び取った事を明らかだった。

 ーーーセドリック・ライゼ・アルノールが目を背けてしまった光景をその目に焼き付ける事によって。

 

「全く、僕もうかうかしていられないな」

 

「……ハハハ、そうだね……全く以てその通りだよ」

 

 表面上の態度とは全く異なる荒れ狂う内面、それを必死に抑えてセドリックはクルトに対する相槌を行う。

 その演技力は流石は幼少より社交界に出続けた皇太子と称すべきだっただろう。

 何せその場に居合わせた級友たちはそんなセドリックの内心に全く以て気づいていなかったのだから。

 

「…………」

 

 ただ一人そんなセドリックの事を見つめ続けている翠色の髪の少女を除いては……

 




大まかなイメージとしては一定のところまでレベルを上げるとレベルキャップがある感じ。
例えば100レベルに到達した時点で達人と称される領域になれるとするなら80レベル位のところでキャップがあって、才能がない奴は至宝に類する外付けブーストでもない限りそこでストップするし、才能のある奴でもきっかけをつかむまではそこで足止めを喰らう。
クルトは入学時点で既に75位あったのであっという間に80になってその壁にぶち当たった。だけどブリオニア島での見取り稽古によってついにその辺のキャップが外れて、それまで溜まっていたレベルアップ処理がされて一気に90になった。ゲーム的に考えるとそんな感じのイメージです。
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