獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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クーデタークーデター
楽しい楽しいクーデター
国の実権我がものにー
政敵纏めて一掃だー♪


意思統一

「さて、此処までがハーキュリーズへの対応を協議となる。

 そしてこれより先はより深くこの国の根幹に関わる内容となってくる。

 心して聞いてほしい……ローゼリア殿」

 

「うむ」

 

 合図を受けたローゼリアが会議室全体を結界で覆う。

 

「これは……!?」

 

「案ずるな、別段我らに対して何らかの害を及ぼすものではない。

 むしろその逆、これは我らを外界から隔離し守護する結界。

 万が一にも盗聴される危険性を無くすための念のための措置という奴だ」

 

 害意のない事をリィンは示すが列席者たちは一様にその表情を引き締める。

 わざわざそのような念のための措置を何故彼がとったのかを考えればそれは必然。

 すなわち万一にも外に漏れないようにしなければならないような事を今から話されるという事なのだから。

 

「では心して聞いてほしい、この国にこれより何が起ころうとしているのかを……」

 

 そうしてリィンは話した。

 焔と大地、かつて存在した二つの至宝の激突から発生した鋼の至宝の事を。

 荒れ狂う鋼の至宝を制御する為に七体の騎神が作られたという事を。

 その中で一際大きな力を持つ黒の騎神イシュメルガが神と成るために暗躍している事を。

 鉄血宰相ギリアス・オズボーンはそんな黒の()()である事を。

 皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールは自らの子どもに塁を及ぼさないためにその命を賭すつもりだという事を。

 

「…………………」

 

「当然、共和国との開戦など許すわけにはいかない。

 故に我々がとるべき行動はただ一つ、黒キ星杯にて元凶たるイシュメルガ及びその傀儡たる鉄血宰相を討ち取る事にある」

 

 父に対して殺さぬように生かして捕らえる等という事をリィンは考えてない。

 そんなこと(殺さず生かして捕らえる)が出来るのは彼我の間に明確な力量差がある場合だけだ。

 敵はかの武神をして未知数と評さざるを得なかった難敵、そんな半端な気持ちで挑める程に容易い相手ではない。

 討つのだ、自分がこの手で父をーーーギリアス・オズボーンを。

 

「……にわかには信じ難い事ばかりでしたが閣下の仰る言葉です、信じさせていただきましょう。

 しかし閣下そこまでわかっているのならば何もその黒キ星杯とやらでの決戦に拘る必要はないのでは?

 それこそ今すぐにでも皇帝陛下にご協力頂き、宰相閣下ーーーいえ逆賊ギリアス・オズボーンを捕縛するなり討ち取るなりすれば良いのでは?」

 

「当然と言えば当然の指摘だな参謀長。

 しかし、それは難しいだろう、皇帝陛下は既に諦めておられる。

 黒の史書の予言は絶対であり、それを避けようと動いても結局それは無駄に終わるとそう考えた。

 ならばこそアルゼイド少将を護衛から外して、あえて自分が予言で示された対象になる事でご子息たる三殿下に塁が及ばぬようにしたわけだ。

 ならば我らに出来る事はその覚悟を無駄にせぬようにすることだ」

 

「しかし恐れながら閣下、予言を絶対のものと捉えるならば閣下の行いは聊か矛盾しているように小官には思えます。閣下は黒キ星杯にて黒の騎神と宰相を打倒し、黄昏とやらを未然に防ごうとしておられるではありませんか?それにも関わらず何故閣下は皇帝陛下の御身は守ろうとされないのですか?」

 

 常ならぬ様子で参謀長たるエミール・ローレンツは食い下がる。

 彼は良識人であり常識人だ、当然ながら皇室にも相応の忠誠と敬意を抱いている。

 そんな彼にしてみれば主君たる皇帝の死を前提にして動く事など余りにも罪深い事なのだ。

 彼の反応は軍人として極めて真っ当と言うべきものだろう。

 

「参謀長、この世で最も護ることが難しい護衛対象はどんな存在だと思う?」

 

 非難の色が多分に込められた参謀長の問いかけ、それに対してもリィンは一切揺らぐ事無く穏やかさを感じさせる口調で以て語り掛ける。

 

「答えは自らの命を守ろうとしていない、どころか進んでその命を捧げようとしている人物だ。

 仮に私があらゆる権限などを使って皇帝陛下の護衛に何とかアルゼイド少将を再びねじ込んだとしよう。

 だがアルゼイド少将とて四六時中陛下の護衛をしていられるわけではなく、黒は因果を操る力を持っている。

 このような状況下で陛下の命を守る事は光の剣匠をして至難と言わざるを得ない。

 そうして陛下が凶弾に倒れる事となれば当然護衛を務めていた人物、ひいてはそれを推挙した者も当然その責任を問われる事になる。

 そうなってしまえば終わりだ。我らが満足に身動きが出きない内に黒の目的は達成される。

 ならばこそ我らが為すべき事は陛下の御身の守護に非ず。

 陛下の覚悟に報いるべく、黒を討ちこの国をその呪いから解き放つ事に他ならない」

 

「…………」

 

 淡々としたその言葉に漲る烈火の如き気迫。

 それに気圧されるかのように参謀長は黙り込む。

 事はもはや軍人として()()()な思考でどうにか出来る次元の段階ではないのだ。

 何せ敵は1000年前よりこの国を蝕んできた人に非ざる悪魔なのだから。

 そんな悪魔の上を往こうと思うのならば尋常ならざる手段を取らざるを得ない。

 そうそれは例えばーーー主君に命の危険が差し迫っているとわかりながらもそれを囮にすると言った。

 それを痛感したが故にローレンツ参謀長は己が無力感を痛感させられたかのように悲痛な面持ちで黙り込む。

 

「陛下と閣下の覚悟に感服いたしました。

 貴方の部下で在れることはまさしく私にとって至上の誇りです」

 

 一方そんな上官の覚悟を前にして副参謀長の身を満たすのは歓喜であった。

 素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしいーーー素晴らしい。

 敬愛する父であろうと一たびそれが祖国に害を為すというのならば討つという覚悟。なんと素晴らしい事だろう。

 まさしく軍人の鑑と評す他ない。上官がこれほどの覚悟を示したのだ、ならば当然その部下足る自分もそれに続かなければならないだろう。

 そんな風にブルーノ・ゾンバルトは()()()()と父の名誉を回復してくれた()()たる宰相を討つ事を受け容れる。

 なぜならばかつて彼が忠誠を誓ったのは祖国を繁栄に導く偉大なる宰相であって、邪神の走狗などではない。

 共和国との全面戦争などという祖国に対して益するものを何一つとしてない事を画策している狂った独裁者に捧げる忠誠など彼の中には存在しなかった。

 

「ああ、頼りにしているぞ副参謀長。

 貴官のような優秀な軍人を我が旗下に加えられた事は私にとっても得難い幸運だった。

 副参謀長だけではない、私は今この場に集った諸君の事を信頼している。

 おそらく今諸君の中には様々な思いが渦巻いている事だろう。

 だがこれはこの国の未来を拓くために誰かが為さねば為らぬ事なのだ。

 全ては愛する我らが祖国を守るために、諸君の力をどうか至らぬ私に貸してほしい」

 

 リィンがこれから渡ろうとしているのは極めて危ない橋だ。

 鉄血宰相ギリアス・オズボーンの権勢は絶大だーーー彼こそがこの国の真の皇帝である等と揶揄する声がある程に。

 そんな存在に真っ向から挑もうというのだ、敗北した時どうなるかは推して知るべしというものだろう。

 負ければその瞬間、光翼獅子機兵団の名声は地へと落ち、帝国最強という羨望のまなざしは一転愚かな逆賊として扱われるようになるだろう。

 そんな危ない橋をともにわたってくれとリィンは目前の者達に頼んでいるのだ。

 

「ありがとう、君たちのような戦友を持てた事は私にとって至上の喜びだ」

 

 そしてそんな上官に対する部下たちの返答は無言の敬礼であった。

 そんな部下たちにリィンは微笑を浮かべながら感謝をささげる。

 

「戦おう、そして共に未来を切り拓こう我らの手で。

 では改めて諸君の同意を得られたところで具体的な作戦内容について討議したいと思う。

 まず黒キ星杯の所在がどこかだが、これも既に判明しているーーーそうですねローゼリア殿」

 

「うむ、カレル離宮と呼ばれる皇帝家の別荘。まずそこで間違いあるまい」

 

「知っての通り、カレル離宮は天然の要害。陸路での移動手段は限られている以上、空より精鋭を以て強襲をかける事となるだろう。残りの者には戒厳令が発令した帝都の掌握に当たってもらうーーー万が一にも皇族の方々に害の及ばないようにしなければならない、わかっているな」

 

 リィンの言葉に一同は頷く。

 リィンたちがしようとしている事、それはすなわち皇帝暗殺の罪それを宰相へと着せる事だ。

 そしてそれを行うには皇帝の遺児たる三人、それを確実に抑えなければならない。

 オリヴァルト皇子とは同盟を結んでいるから良いが、オリヴァルト皇子だけでは帝位惜しさに目が眩んだ等と逆にこちらがその罪を押し付けられるのがオチだ。

 皇帝暗殺の罪、それを鉄血宰相へと押し付けるためには三人の皇子全員ーーー特に帝位を継ぐ者たる皇太子を抑えられるかが大きいだろう。

 とはいえ、この辺りは然程問題ではないと言えば問題ではない。

 結局のところ今回の作戦の成否は鉄血宰相を討ち取れるかどうかーーーそれに全てが掛かっている。

 それさえ出来てしまえば自動的に行政は副宰相たるオリヴァルト殿下が掌握する事となる。

 軍部については光翼獅子機兵団が参謀本部を電撃戦で以て抑える。

 帝都防衛を務める第一機甲師団司令官のライエル・モートン中将は名将だが、それでも光翼獅子機兵団と真っ向勝負で勝てる部隊などもはやこの大陸には存在しない。

 十二分に勝利する自信があるし、何よりも皇族という権威をこちらが要していれば説得する事も難しくはないだろう。

 そして帝都に於いてクーデターが発生した際に鎮圧を務めるドレッグノール要塞司令官のゼクス・ヴァンダール大将の説得を行う。ゼクス大将は古くからの副宰相派であり、リィン自身も知らぬ仲ではない。こちら側に就くように説得する自信は十分にあった。

 後は参謀総長マインホフ元帥、司令長官シュタイエルマルク元帥を筆頭とする帝国軍宰相派を軍部より一掃して、ヴァンダイク名誉大元帥に一時的に現役復帰して貰う。

 さすればもはや趨勢は明らかだ。皇帝弑逆の大罪人ギリアス・オズボーンはその息子たる皇子と忠臣によって討たれ、新しい帝国が始まる事となるだろう。

 

「---当然、我らがこうした動きに出る事を宰相は読んでいるだろう」

 

 クーデターというのは()()()()()()()と思われるような人物が起こしてこそ意味がある。

 叛意を事前にわかっているならば起こされる前に捕らえてしまえば良いだけなのだから。

 そしてリィン・オズボーンが鉄血宰相を討たんとしているというのはこの大陸に居る者にとってはまさしく晴天の霹靂だが当の本人であるギリアスはとっくの昔に見抜いているはずだ。

 

「それにも関わらず我らを放置しているのは自信の現れに他ならない。

 挑んできた挑戦者を真っ向から粉砕してのけるだけの余裕があるのさ」

 

 あるいは、そうひょっとすると黒の傀儡に甘んじている事は父にとっても不本意な事で黒を葬る為にあえてそうしているのかもしれないーーーそんな心の中にある儚い()()をリィンは振り払う。

 そんな事を期待してはいけない、戦いに際して相手に願望を抱く事は厳禁なのだから。

 司令官は努めて楽観的に振舞い将兵を鼓舞しながらもどこまでも冷徹に現実を見据えなければならない。

 

「だがそれこそが奴らの驕りであり致命的な失敗となる。

 儀式が行われる黒キ星杯は皇帝家の別荘であり衛士隊が常時警護についている以上如何に宰相とはいえ早々下手な事は出来ない。

 それこそ動けるのは皇帝崩御という非常事態が起こり、皇族の警護を務める衛士隊がその罪を問われて満足に動けなくなるような状態でもない限りな」

 

 穢れた大地の聖獣それを貫く根源たる虚無の剣、それがアルティナとミリアムを含めたOZシリーズだとリィンは推定している。

 だがそうなるとアルティナとミリアムの二人は敵の本命ではない可能性が極めて高い。

 それはそうだ真に計画の遂行に必要ならば一体どうしてわざわざそれを他人に委ねたりするだろうか?

 二人はあくまで本命の為のサンプルであり、父と自分の下に二人が派遣されたのはそれがデータを取る為の一環だったからと考えるのが妥当だろう。

 

「ならばこそ敵が動き出すのは皇帝陛下の崩御という国家の大事が起こった後。

 恐らくそこで宰相は皇帝暗殺の罪を共和国へと擦り付け、共和国への宣戦布告を行い戒厳令を発令するだろう。

 そして皇帝暗殺を許した責を以て衛士隊を謹慎処分とし、混乱に乗じてがら空きとなった離宮にて儀式を執り行うーーー我らが動くのはそのタイミングだ」

 

 宰相が帝都に居る際にその身柄を抑えるのは容易な事ではない。

 しかし、宰相がカレル離宮に赴いたときは別だ。

 何せ執り行わんとしているのは余りにも馬鹿げた内容だ。

 正規軍を動かす事は出来ず動かせるような手駒はそれこそ西風の旅団のような雇われの猟兵等になるだろう。

 そして国家の非常時にも関わらず皇帝家の別荘にて怪しげな儀式にふけっていたなどというのは鉄血宰相にとって致命的な政治的な失点ーーーようやくさらけ出した隙となる。

 その機会を逃す事無く宰相を討ち取り間髪入れず皇帝暗殺の真犯人が共和国ではなく鉄血宰相ギリアス・オズボーンであった事を発表する。

 そうして誰もが何を信じればいいのかわからず混乱状態へと陥った帝都を制圧して掌握する事は帝国の英雄(獅子心将軍)足る自分と副宰相にして皇族であるオリヴァルト皇子ならば決して難しい事ではない。

 混乱と犠牲を最小限に抑えた上で目的を達成する事が出来るだろう。

 鉄血宰相を討ち取る事さえ出来ればそれは十二分に実現可能な成算のある計画だと言えた。

 

 そしてクーデターを行うにあたって一番警戒すべき身内の離反も今潰した。

 もはや出席者たちの間にも動揺はない。

 誰もが強い意志で以てどこまでもついていくまでと態度で以て示している。

 それを確認したリィンは満足気に頷いて

 

「それでは以上を以て本日の討議を終了とする。

 諸君の今後の働きに期待する事大である。解散」

 

 かくして会議は幕を下ろし、列席者たちはその場を跡にする。

 

「……………」

 

 ーーーリィンは将来はどんな大人になりたいのかしら?

 ---うん、僕はねお父さんみたいな立派な軍人になりたいんだ!

 ---おおおおリィン、なんと嬉しい事を言ってくれるのだ。聞いたかカーシャ!私のようになりたいのだとリィンが言ってくれたぞ!

 ---お、お父さん……苦しいよぉ……

 ---はいはい嬉しいのはわかりましたけど、リィンが苦しがってますよ。

 

 不意によぎったのは幼い日の幸せだったころの記憶。

 母が居て父が居てそんな幸せがずっと続くのだと無邪気に思っていた幼い頃の記憶だ。

 母は今の自分をどう思うのだろうか、父をこの手で殺そうとしている自分を。

 ---考えるまでもない、嘆き哀しんでいる事だろう。どうしてあなたがそんな事をしなければならないのだと涙を流しているだろう。必死に思い留まるように説得する事だろう。

 

(だが、止まるわけにはいかない)

 

 なぜならばリィン・オズボーンはこれまでも国の為に多くの者をその手にかけてきたのだから。

 相手が実の父だからとて止めるわけには断じていかないのだ。

 これはリィン・オズボーンが選び自分の意志で踏破すると誓った道なのだから。

 それが自分の身を引き裂くような痛みを伴うものだとしても進み続けなければならないのだ……踏みにじってきたその屍に報いるその時まで。

 死という終わりが齎されるその時まで。

 英雄譚という栄光に光輝にあふれた地獄を踏破する事それこそがリィン・オズボーンが自分の意志で選んだ事なのだから……

 

 




クーデタークーデター
悲しい悲しいクーデター
失敗すれば終わりだクーデター
一族郎党縛り首ーみんなで仲良くあの世行きー♪

クーデター起こす系主人公!
間違えた皇帝弑逆の大罪人の宰相を皇帝の遺児たる皇子の下討伐する将軍という物語ではよくあるパターン系主人公!
なお宰相は実の父親だ!それが国の為なんだから是非もないよネ!
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