キャラの生死やら今後の展開やら結末どうするかやらで諸々悩んでおりましたがほぼほぼ定まり、またぼちぼち更新していくのでどうか最期までお付き合いいただければ幸いです。
前回までのあらすじ
・クルト(セドリック視点)「ですが笑えますねぇ。あの戦いから目を背けた貴方は中伝程度で足踏み。一方それを糧にした僕は今や皆伝間近。随分と差がつきました。悔しいでしょうね」
・ユーゲント皇帝「生贄役にはもちろん余が行く……息子たちはこれからの帝国を支える若き獅子の意志たちだ」
・リィン将軍「教えてくださいオリヴァルト殿下……ほかに方法があるなら教えてくださいよ!!!」
大柄とまではいかないまでも小柄とは決して言えない男の身体が宙を舞う。
当然のように重力という星の法則に縛られた男の身体をすぐさま地面へと叩きつけられる。男が叩きつけられる際にとった受け身は極めて流麗なものであり、見る者が見ればそれだけで吹き飛ばされるという無様を演じた男が尋常ならざる使い手であることを悟っただろう。
「グッ………畜生!!!」
その尋常ならざる達人たる男ーーークロウ・アームブラストは地面を叩きながら吐き捨てる。
その表情はどこか飄々とした普段とは打って変わり焦燥に満ちていた。
地獄が始まってから二週間、クロウの修業は難航していた。
最初の一週間は順調といってよかった、クロウの肉体も技術も吐いた血反吐の数に比例するかのように成長していった。地獄で生き残るために彼の肉体は必死にその環境へと適応を果たしていったわけである。
しかし一週間が経過してアリアンロードとも
---当然と言えば当然の話だろう。そもそも今のクロウ・アームブラストは既に大陸有数、人類の最高峰と言って良い使い手だ。
これより先は文字通り
つまるところクロウ・アームブラストはついにぶち当たっただけなのだ。自身の持つ
別段何一つとしておかしいところなどない、世の大半の人間はそもそもクロウがぶつかるよりもはるか前の地点でそうした壁にぶち当たるのだから。
今のクロウがいるのは剣聖と謳われる至高の領域、そこに至れるようなものは帝国や共和国のような大国に於いても片手の指の数で足りる程度の人間しかない。
当然そこに至るために重ねた修練は並大抵のものではない、才に驕り修練を怠るような愚物に到達できるほどにそこは甘い場所ではないのだから。
誇っていいはずだ、恥じるような事など何ひとつとして存在しない。
しかし、クロウ・アームブラストは自身が限界に到達してしまったことに何よりも焦りを覚える。
何故ならば相棒足る親友は既にこの先の領域へと進んでしまっているから。
もしも自分が追いつけなかったとしても親友は別段責めはしないだろう。
ただいずれ追いついてくることを信じて一人で進むことを選ぶだけだ。
無理無茶無謀、そんなものを一切合切気にする事無く平気な顔で。
ーーークロウ・アームブラストにはそれが我慢出来ない。
そんな有様でどうして対等の親友だと言えるだろうか?
自分だけは付いていってやらねばならないのだ、いざというときにはぶんなぐってでも連れ戻してやる為にも。
だというのに自分の器がその想いに付いて来ない。
かれこれ二週間も武神に稽古を付けて貰っているというのに親友はほんの一瞬でやってのけた神域の到達への兆しすら見えていない有様だ。
もう残された時間はそう多くないというのに。
(うだうだ考えている場合じゃねぇ、考えている暇が有ったら身体を動かさねぇと)
そんならしくもない必死さでクロウは立ち上がる。
出来る出来ないの話ではない、やるしかないのだとそんな
「…………」
「おい、どうしたんだよ。時間が無いんだぜ」
黙ってひたすらにこちらを睥睨するアリアンロードをクロウは訝しむ。
奇妙だ今までであれば立ち上がったならばすぐにでも打ち込んできたし、いつまでも寝転がっていたならば厳しい叱咤が飛んできたというのに。
「……ここまでにしましょう」
「は?」
「今の貴方の状態でこれ以上やっても効果はほとんど望めないでしょう。
既にあなたの心技体の内技と肉体は限界まで鍛えられ上げています。
そしてあなたに必要なのはその限界を飛び越える事です。
こうして私とやり合い続ける事で貴方が壁を越えることを期待していましたが……どうやらこのやり方では此処が打ち止めのようです」
どこか淡々とした様子でアリアンロードは告げる。
そこにはクロウを責めるような色はなくただ粛々と事実を確認しているが如き態度であった。
「あなたに必要なのは地道な成長ではない。
それこそ別種の生命体へと生まれ変わるが如きブリオニア島であの子がやったような飛躍的かつ爆発的な覚醒です。地道な修練のみでそこに至ろうと思うのならばそれこそ数十年は見る必要があるのですから。あくまで私が施していた修練はそのきっかけです。ですがこのまま続けても貴方は壁を乗り越える事は出来ないでしょう」
アリアンロードという神域の存在とやり合う事で集中力とオルディーネとの同調を極限にまで高め、リィンとヴァリマールがやったように限界を超える事、それが今回の修練の最大の目的だ。だがこのまま続けてもそれを為しえる事は無理だとアリアンロードは判断する。何故ならば……
「クロウ・アームブラスト、貴方の剣には“愛”が欠けている」
「は?」
大真面目な顔で頓珍漢なことを言い出した武神にクロウは呆気にとられる。
しかし武神の方はと言えば至って大真面目だ。そのまま至極真面目な顔で続ける。
「“愛”という形容では納得が出来ないのであれば“理由”と言い換えても良い。
クロウ・アームブラスト、貴方が剣を振るう理由はなんですか?」
「そんなものは……」
そんなものは決まっている。
何せ黒の騎神とやらを止めないことには世界大戦へと一直線だ。
別段ヒーローを気取るつもりはないがそれを止めなければならないという思いに嘘や偽りはない。
「それは貴方が心から命を懸けられると言えるだけのものですか?
私には決して譲れぬ理由があります。それを彼をーーーわが主君にして朋友たるドライケルスとこの国を黒の呪縛から解放すること。そのために私はこの250年間歩み続けてきました。
あの子にもまた譲れぬ理由があります。帝国へと忠誠を捧げた軍人として国とそこに住まう民を守ること、それこそがあの子の剣を振るう理由です。
今一度問いますーーーあなたは一体何のために戦うのですか?」
「俺は……」
虚偽も虚飾も許さないというその問いに対してクロウの口から出た本音、それは……
「俺はアイツのように国の為になんて戦うことは出来ねぇ。そんな義理はねぇしな」
エレボニアという国そのものに対する愛着、そんなものはクロウには存在しない。
何せクロウにとってエレボニアは祖国でも何でもない、むしろもともと仇ともいうべき国だ。
そこに住む者たちの中に心を通わせて友となれたものが居たとしてもそれでそのまま帝国という国そのものを好きになれるかと言えばそれは当然否だ。どこまでも国の為に在り続ける事の出来る誰かさんのような英雄の如き在り方、そんなものはクロウ・アームブラストにとって程遠い境地だ。
「そして顔も知らない誰かとやらの為に戦えるほどに出来た存在でもねぇ、そんな資格もねぇしな」
自分は罪人だ。復讐の為に、憎悪を晴らすために多くの人間を犠牲にした。
司法取引とやらで法律の上では無罪放免となったわけだが、だからといって犯した罪そのものが消えるわけがない。それは生涯自分が背負い続けなければならないものだ。そんな男が今更ヒーローを気取ることが出来ようもはずない。そういうことを胸を張って言って良いのはどこまでもまっすぐに真面目に生き続けてきたような奴だけだ。
「だから俺が剣を振るう理由は俺が気に入った奴を助けるため、そんなどこまでも身勝手な理由だよ。これじゃ不足かい?」
「ええ、不足ですね」
虚偽も虚飾もない本音とクロウ・アームブラストが自分で思っている言葉をアリアンロードはあっさりと切って捨てる。それを前にしてさすがのクロウも鼻白む。
「おいおい勘弁してくれよ、まさかここにきてあんたやアイツのように見も知らぬ誰かの為に戦えるような存在でなければアンタ達の境地には至れないっていうんじゃないだろうな。だとしたら俺には無理だぜ、どうあがいたってそんな風にはなれっこない。そりゃアイツに比べたら我ながら卑小な理由だとは思うが……」
「理由の貴賤の問題ではありませんよ。そも戦う理由に貴賤などというものがあるのかも疑わしいことですから。
国を守りたいという思いも結局のところはそこに住まう自らの大切な人を守りたいという思い。
私の場合であればドライケルス、そしてあの戦いで散っていた多くの戦友たち。
あの子の場合は妻や義娘といった家族。そして多くの友に部下。
突き詰めて考えればあなたのそれと大差などない。
結局のところは己が道理を、“欲”を押し通すがために敵を排除すること、それこそが戦いであり“武”なのですから」
戦場で勝つのは正しいものではない強いものだ。
無論人は迷う生き物だ。だからこそ将は戦う際に大義を用意する。
正義は我らにある。だからそのために命を懸けろ。これはお前たちが命を懸けるに値する戦いなのだと嘯く。
ーーー大半の人間は酔いもせずに戦えるような存在ではないから。
「……わけわかんねぇな、じゃあさっき俺が言った理由じゃ何が足りていないっていうんだよ」
理由の貴賤が問題ではないというのならばなぜ不足だと言われたのかがクロウにはわからなかった。
「それはこれから貴方が見つけるべき答えです」
その言葉を合図に待機していた蒼の深淵がアリアンロードの隣に立ちクロウへと語りかける。
「クロウ、これから貴方には自分の心に向き合ってもらうわ。
私の使う秘術を使って貴方は自分自身の心の深奥に潜ることによってね。
そこにはきっとあなたが自分自身ですら自覚していない貴方の真実が潜んでいる。
もしも失敗したらその時はきっと貴方は“呪い”に取りつかれる事でしょう。
だからもしも自信がないというのなら止めておいた方がいいわ」
常ならぬ真摯な様子でそう蒼の深淵は語り掛ける。
そこに平時において彼女が纏っている男を惑わす蠱惑やどこか面白がるような様子はない。
ならばこそこれから行うそれが極めて危険なものであると否が応にも理解させた。
「……別に止めたところで私は責めはしないわ。だって最初から無茶な話なんだもの。
だって彼女は200年もの時間をかけてようやくその境地へとたどり着いたのよ。
それをたった一ヶ月でやれなんてどう考えてもおかしい事だもの」
「どっかの馬鹿は一ヶ月どころか一瞬でそれをやりやがったみたいだけどな」
嘆息しながらクロウは答える。
全く以てここまで来ると笑ってしまう。必死に追いついたと思ったらまたとんでもないところにかっ飛んで行ってくれたものだと。
「……アレは例外中の例外よ」
「その例外が一人で突き進んで馬鹿やらかさないか見張っていざというときにはぶん殴ってやるのが俺の役目なんでな、今更此処で退くつもりはねぇよ」
ここで自分が無茶をやらなければその分を親友が肩代わりする事になる。
そして無茶を押し通せばそれはどこかで必ず代償を支払う事になる。
その代償がわが身を削るものだとしてもリィン・オズボーンは何の躊躇いも見せずに破格の取引だと言わんばかりの態度で無理をするに決まっているのだ。
そんなことになればクロウとしてはトワの奴に合わせる顔がないし、何よりもクロウ自身が嫌なのだ。
クロウ・アームブラストとリィン・オズボーンは対等の親友なのだから。
「そう……わかったわ。そこまで言うのなら私もまた覚悟を決めましょう。この命貴方に預けるわ」
「あん?どういう事だよ?」
「どうも何も言葉通りの意味よ。貴方はこれより自らの心の深奥に潜り込む。それの案内役を私は務める事になる。当然貴方が自分を見失い呪いに侵されてしまえば私もその巻き添えで終わりというわけ」
「そりゃまた責任重大だな。蒼の唄姫殿を冥土の道連れにしたとあっちゃ復活を心待ちにしているファンに死んだ後まで祟られそうだ」
「あら敵に回すのはオペラファンだけじゃないわよ。全国1000万のミスティファンだって敵に回すことになるんだから。それがいやだったらちゃんとエスコートしてくださいね、蒼の騎士様」
「ああ、任せておけよ。鼻歌混じりでクリアしてやるからよ」
決意は定まり、今夜蒼の騎士は己が導き手足る歌姫と伴い己が心の深奥へと挑む。
それはある意味でどんな難敵に勝つことよりも困難な難事であり、なればこそ彼が真に“英雄”と並び立つために避けては通れぬ道であった。
さあ然るべき試練を与えよう