当作でレーヴェと一番相性が悪いのはリィン・オズボーンです(レーヴェの憎悪とかを受け止めたうえで「そうか、だがお前の目的は帝国軍人として看過できん。大人しく降伏するならば良し、そうでないならば貴様にはここで死んでもらう」とか言っちゃうので(国家による欺瞞を暴こうとしているレーヴェと例え時に悪魔と契約してでも国家を存続させねばならないと思っているリィン・オズボーンは完全に水と油))
なんでこいつら親友やれているんでしょうね?
ーーーおかしい、何かが妙だ。
ここ最近を振り返りミュゼ・イーグレットはそう訝しがる。
何がおかしいかと言えばそれはめぐり合わせの悪さというしかない。
ブリオニア島での一件で感じたセドリック皇太子の闇、それを何とか解きほぐすためにミュゼはこの数週間幾度となく何度も対話を試みた。
しかしその尽くが失敗に終わった。
対話を試みるたびに何故か毎度毎度本題に入ろうとしたタイミングで邪魔が入るのだ。
一度や二度であれば偶然と言えるだろう、しかしそれが既に二桁を超えればそこに作為的な何かを感じるなという方が無理がある。
まるで自分とセドリックが腹を割って話すことが出来ないように
よぎった焦燥と何をやっても無駄なのではないかという諦観の念、それを振り払うようにミュゼは頭を振る。
運命というのは便利な言葉だしロマンチックでもある。
運命の出会いだとか運命の人とかそういう者に憧れる気持ちをミュゼは馬鹿にする気はないし、自分自身乙女としてそれらを求める心がないといえばウソになる。
だが現実を見据えてその中で少しでも良い未来になるように手を打っていく“指し手”としてはそのような考えは厳禁だ。
こうなったのは運命だから、運命によってあらかじめそう決まれていたから、そんな風に運命という言葉は思考停止の原因になってしまう極めて危険な言葉でもあるのだ。
真に勝利を目指すならばそのような思考は厳禁だ。
勝つのは何時だとて真剣に考えて考え抜き、勝利のための努力を払ったものーーーもしも運命の女神が自分にそっぽを向いて別の誰かに微笑もうとしていたらあらゆる手段で篭絡して振り向かせようとするあきらめの悪いもの。
思考停止をした愚か者が勝てるほどに世の中は甘くはないのだ。
(今副宰相閣下と将軍はおそらくセドリック殿下の精神的なケアにまでは手が回らない状況にある)
遠くを見据えるものはどうしたとて近場を見落とすし、見えていたとしてもそこまで手が回らないものだ。
ギリアス・オズボーンという巨人に全霊で以て挑み勝利するための手を打っている今の二人にはおそらくセドリック・ライゼ・アルノールという少年の闇が見えていないーーーあるいは見えていたとしても彼ら二人ではおそらくどうにもできないだろう。かの皇子の心の闇は余りにも鮮烈に輝く二人の光によってできた影なのだから。
だからこそかの皇子の闇を祓うのは自分の役目だとミュゼは思っているし、何よりもそうした理屈抜きにミュゼはセドリックの事を放っておけないと思っていた。
入学してともに肩を並べて多くの事を学んだ級友として思い悩んでいる友人の力に何とかなりたいとそんな風に。
(意地悪な運命などに負けてやるものですか)
そうしてミュゼは両の頬を叩いて気合を入れ、再びセドリックを探し始める。
しかし結局彼女のこの努力は時が来るまで実る事はなかった。
まるで
・・・
パシャリと軽快なシャッター音が響く。
撮ったのは何のことはない部活に励む級友たちの姿だ。
アルティナ・オライオンの手には現在自称姉たるミリアム・オライオンに「あーちゃんがどんな学園生活を送っているか姉として興味があるからそれで色々撮っておいて今度会った時に見せてねーもしも何も取ってなかったらリィンとトワにアーちゃんが寂しい灰色の学園生活送っているって報告しておくから」などと言われながら押し付けられたーーーもとい貰った兎型のトイカメラが握られている。
全く以て勝手なものだと嘆息したものの、せっかくの学園生活の記録を残しておくことはアルティナ自身悪くないと思った。
もうあと1年半もすれば自分も今は学院で毎日顔を突き合わせている級友たちも此処を巣立っていき、それぞれの道を歩んで行くことになる*1。
だからそう、いずれ終わることになる今のこの
全く以て寂しい灰色の学園生活など冗談ではない。自分は今間違いなく充実した時間を過ごしている。
だって士官学院では多くの大切な友達が出来たのだから。胸を張って自分は今幸せだとそう宣言することが出来る。
だからそう自分がどれだけ充実しているかをあの自称姉に見せてやってその鼻を明かせてやろうーーーなどと思いながらアルティナはそのトイカメラで幸せな風景を撮影していく。
いつか終わってしまう幸せな風景を自身の心に刻みつけるように……
・・・
帝国正規軍中将の地位を持つ高官獅子心将軍リィン・オズボーンは待ち合わせ場所足る帝都郊外の丘に来ていた。護衛もつれず不用心だとの誹りは彼には当てはまらないだろう。
何しろ彼と肩を並べて戦える人物など大陸最強国家たるエレボニアに於いても数える程度しかいない。下手な護衛などむしろ彼にとっては足手まといにしかならないのだから。
---これから会う人物が超特級の危険人物ともなれば猶更である。
そしてリィンより一足先に待ち合わせ場所に来ていた赤毛の少女は愛しの男の姿を見るとその顔に満面の笑みを浮かべ、大きくリィンの方へと手を振りながら叫びだした。
「リィン!会いたかったよ!!!」
少女の名はシャーリィ・オルランド、3か月前にリィン・オズボーンが確かにこの手で討ち取ったはずの少女であり緋の騎神の起動者であり、リィン・オズボーンとしては二度とその顔を見たくなかった接していて心底辟易とされる性質の悪いストーカーである。
「こちらからお呼び立てしておいて、お待たせして大変申し訳ないオルランド殿」
そんな内心を一切出す事無くリィン・オズボーンは最大限の努力を払い交渉の席で用いる笑顔の仮面を浮かべながら非礼を謝罪する。何せ彼女を呼び出したのは決してその息の根を止めるためではない、むしろその逆彼女の協力を取り付ける為なのだから。
現在リィン・オズボーンは帝国の歴史の影で暗躍してきた邪神イシュメルガを討つために全力で動いている。
そして黒キ星杯に於いてイシュメルガを討つために一つ大きな問題があった。
それは地精の側に存在するもう一体の騎神、紫紺の騎神ゼクトールとその起動者たる猟兵王ルトガー・クラウゼルをどうするかという点だ。
騎神の力は絶大だ。食い止めるためには同じく騎神をぶつけるのが最適解と言って良いだろう。
仮に騎神なしで猟兵王の駆るゼクトールを食い止めようと思えば光の剣匠と黄金の羅刹は黒キ星獣へと当てねばならぬ以上旗下の部隊に相応の被害が出ることを見込まねばならない。
そしてリィン・オズボーンとしてはそれは出来る限り避けたい選択肢だ。
何せリィン・オズボーンの旗下の兵士たちは一人一人が帝国の宝と言って良い最精鋭。
出来ることならば一人足りとて失いたくないというのがリィンの偽らざる本音だ。
だからこそリィン・オズボーンはこの出来る事ならば会いたくない傍迷惑なストーカー女*2をわざわざ呼び出したのだ。
ならばそう、転がす飴玉次第で黒キ星杯での決戦に際してこの女を猟兵王へと宛がう事も可能だと考えて。
「アハハハハ、そんなの気にしないよーリィンってばなんたって帝国の将軍様だもんねー色々と忙しいんでしょ?私はイイ女だからそんな程度では怒ったりしないよ♪」
「そう言っていただけると幸いです」
「そんな他人行儀な喋り方しなくたって良いって。私とリィンの仲じゃん♡」
どんな仲だ。内心そんな風に舌打ちしながらもリィン・オズボーンはそれを表に出す事無く微笑を浮かべたままに相手の求める通りに口調を砕けさせる。
「ではお言葉に甘えて。今回こちらの求めに応じて来てもらった事をまずは感謝させてもらう」
「リィンの為なら例え火の中水の中どこへだって駆けつけるよ♡それで話って何?」
愛しの男から告白を期待する恋する乙女そのものの様子で頬を紅潮させ瞳を潤ませ上目遣いでシャーリィはリィンを見つめる。
容姿だけならば水準以上と称して差し支えのない美少女にこんな態度をとられれば男ならば多少なりとも心を動かされそうなものだが当然リィン・オズボーンの心に一切の乱れはない。
何せリィンは目前の少女が少女の皮をかぶった猛獣だと否という程に知っているが故に。
「単刀直入に言おう、我々はこれより数週間後総力を以て七の騎神の内の一機黒の騎神イシュメルガを討ち取るべく動く。その際黒に加勢すると予想される紫紺の騎神ゼクトールとその起動者たる猟兵王の相手役を緋の騎神テスタロッサの起動者である君に頼みたい」
「へぇそれはそれは。随分と思い切ったことを考えたね。情報は聖女のおばさんから聞き出したんだろうけど、それにしたって私に声をかけるなんてさ。リィン、ちゃんと自覚ある?リィンってば私にとってはパパの仇なんだよ」
獰猛な笑みを浮かべながらシャーリィ・オルランドはむき出しの
「君は私怨を引きずる類の人種ではない。昨日の敵を今日の友とすることも昨日の友を今日の敵とする事にも一切の躊躇いがない人種だ、違うかな?」
しかしぶつけられたそれをリィンはまるでそよ風のように受け流す。
何せ今のリィン・オズボーンにとってもはや目前の相手は
この三か月シャーリィ・オルランドが彼岸の向こうに消えている間に英雄は彼女を上回る格上の難敵とやり合い、それを退けた事で大きな飛躍を果たした。
油断は禁物だがそれでも勝敗の天秤がほぼ五分であった三か月前と違い9割方勝つ自信がある。断るというのならばこの場で仕留めて憂いを断つだけの事。
猟兵王には義娘であるフィー・クラウゼルをぶつけるなりして精神的な動揺を突くなど別の手段を講じるまでだ。
リィンとしてはこれまでの言動などから分析したシャーリィ・オルランドの人物像を語っただけであった。
しかし、一体何がそんなに琴線に触れたのかシャーリィ・オルランドを頬を紅潮させてうっとりとした表情を浮かべたかと思うともじもじとどこか落ち着かない様子を見せだす。
「えへへ……嬉しいなぁリィンってば私の事ちゃんと理解してくれているんだ。
うんリィンの言う通り私はリィンの事全然恨んでいないよ。
こうパパの敵討ちっていうのもいつもと趣向が変わっていいかなと思ったけど、やっぱり私には合わないよ。
だって大好きな愛しい人を憎むなんて私には出来ないもん♡」
言っている事は愛の告白そのものと言って良いだろう。
何せ父の仇だったとしても私は貴方を憎むことなんて出来ない。なぜならあなたは私の大好きな人だからと彼女は言っているのだから。
感動的だし心動かされて当然だろう、彼女が一般的な感性を有しているというのならばだが。
「……そうか、ならばこちらの提案を受け容れてもらえるという事で良いのかな?」
心底辟易としながらもそれでもそれを表情に出す事無くリィンはシャーリィの妄言を聞き流して話を続ける。
「ちょっと待った!他ならぬリィンの頼み、聞いてあげたいのはやまやまだけど私は安い女じゃないよ!私の力を借りたいって言うなら相応の対価を貰わないとね」
「報酬は私との一騎打ち。黒キ星杯での決戦とその後の処理が終わり次第、私が一人で君の相手を務めることを誓約しよう」
「その依頼喜んで引き受けるよ!」
条件を聞くや否やの即答であった。
何せシャーリィ・オルランドにとって提示されたそれは余りにも魅力的なものであったが故に。
シャーリィ・オルランドは目前の青年が自分が眠っている間にさらに
今の自分ではおそらくほとんど一蹴に近い形で蹴散らされるであろうという事も。
だからこそ自分もまた彼と釣り合えるようにもっと女に磨きをかける必要があると思ったし、それには相応の格の獲物を喰らわねばならない。
そして猟兵王はその獲物として格好の存在であった。
自分が子どもの頃から伯父や父と鎬を削ってきた猟兵の世界に於いては闘神と並び称された伝説。
それを喰らった時、きっと自分はまた一つ上のステージに進むことが出来るとシャーリィは確信していた。
しかしそうしてパワーアップしたところで当然ながら愛する人との同意が無ければ逢瀬は実現しない。
そしてシャーリィ・オルランドの愛する男は帝国正規軍中将という要職にある。
相応の場所と彼の仲間を足止めできるだけの人間をこちらも用意しないとそれこそ自分が袋叩きにされて終わるなどという何とも味気ないものに終わってしまう可能性が極めて高かった。
そして古巣である赤い星座が壊滅し、アリアンロードとマクバーンという二大戦力が抜けた結社から光の剣匠に黄金の羅刹、そして蒼の騎士たちを足止めするだけの戦力を抽出するのは至難と言える。
だからこそリィンから持ち掛けられた猟兵王とやり合えば一騎打ちに応じるという提案はシャーリィにとっては断る理由がない極めて魅力的なものだった。
この誓約を反故にするような真似をリィンがするという考えはシャーリィの頭の中には毛頭ない。
それは好きな人を信じたいという乙女心もあるが、猟兵としての冷徹な思考も自分の愛する男がそんな馬鹿な真似はしないと告げていた。
何せシャーリィ・オルランドは今や緋の騎神という戦術兵器を有している。
もしも誓約を反故にして
シャーリィ・オルランドが心を奪われたのは自分の身可愛さに愛する祖国を危険にさらす臆病者とは対極に位置する人物なのだから。
まさしく断る理由を探す方が難しい最高の依頼。シャーリィにしてみれば頷く以外に無いのだ。
「君の協力に心より感謝する。よろしく頼むよ、
「!うん任せてよリィン!猟兵王なんてロートル!!あなたの為だったら楽勝だからさ♪」
「ああ、期待しているとも」
出来る事ならば相打ちになってくれとそんな内心はおくびも出さずにリィンは将官となって以来散々に鍛えた表情筋を総動員して努めて柔和な笑顔を浮かべながらシャーリィと握手を交わす。
「それでねそれでねリィン、もしも良ければなんだけどこの後デートでもどうかなって……」
「すまないが何分決戦の為の準備を整える為に多忙な身でね。こうして会うための時間もやっとの思いで作り出したんだ」
恋する乙女そのものの様子でもじもじと頬を赤らめながらされた誘いはリィン・オズボーンは冷たく断る。
別段これは嘘というわけではない、現在のリィン・オズボーンは彼でなければとっくに倒れているような殺人的スケジュールをこなしているのだから。
王様をたぶらかしていた悪い大臣を王子様が倒してめでたしめでたしで締めくくられるのは御伽噺の世界だけ。
現実では王子様は大臣を打った後には混乱を最小限に収め早急に国権を掌握して新たな秩序を築き上げるという大仕事が待っている。
そしてそれには事前の準備が物を言うわけだが、当然その準備は大っぴらには出来ずに水面下で行うしかない。
共和国の最精鋭部隊たるハーキュリーズの鎮圧という皇帝より与えられた勅命を遂行しながらだ。
さらに言えば今回のクーデターに於いて軍事的指導者の立ち位置にあるリィンは黒との戦いにおける決戦存在の役目も担っている。
つまりは司令官としての任務をこなしながら戦士としての自分を研ぎ澄ますことも怠ってはならないのだ。
このような時間で遊ぶ時間など確保できるはずもない、自宅にも帰らず愛する妻とさえずっと会えていないというのにストーカー女とデートする時間などあるはずがなかった。
「そっかそれじゃ仕方がないね……安心して、シャーリィはイイ女だから仕事と私どっちが大事なの!?なんて言ってリィンを困らせたりはしないから♪」
「……そう言ってもらえると助かる。それではまたいずれ」
「うん、
そうしてリィン・オズボーンは颯爽と外套を翻すと堂々とした様子でその場を去っていく。
その雄々しき背中をシャーリィ・オルランドは恍惚とした表情で眺めてその目に焼き付ける。
彼との約束された逢瀬を心待ちにしてうっとりとした様子で……
家には全然帰らず嫁さんにも義娘にも数週間以上会っていない状態で部下も誰もつれず一人郊外に赴いて赤毛の美少女と逢引きしているリィン将軍……フリンなんだよ、いけないんだからね。