獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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ノーザンブリア併合を受けての身内からの祝辞

パッパ「私の息子は最強なんだ!」(ドヤ顔集中線)
ルーファス「さすがは我らが筆頭。これは私も負けてはいられないな」(すごく上機嫌な笑顔)
レクター「いやー人使いが荒い義弟だぜ。昔の純真な様子はどこへ行ったのやら」(割と疲れた顔)
クレア「このアメとムチを巧妙に使い分けて的確に反抗の意志を削ぐ手腕……まるで閣下のようです」(畏怖の顔)
ミリアム「リィンってば頑張っているなー。僕も頑張らなくなちゃなー。あ、ユーシス、お茶のお代わりちょうだい。ミルクたっぷりでねー」(ソファーに寝そべりながらお菓子を食べる)
アルティナ「やっぱりリィンさんは凄いですね」(得意気)



幕間~蒼の騎士と紫電~

 首府ハリアスクに存在するある酒場、そこは半年前までの頃が嘘のようにかつて無い活気で賑わっていた。

 季節は11月、もうじきこの地の民にとっては一番辛い季節である冬が訪れる。

 極貧国であるノーザンブリアの民にとっては食料はもちろん、暖を取るための導力製品も何もかも使い古しで例年餓死者や凍死者が出るのが当たり前で、この時期になると冬籠りの支度で一部の富裕層を除き大忙しとなるのが通常で酒場に来る面々も辛気臭い顔を浮かべながら、「越冬の準備は大丈夫か?」と囁き合いながら身体を暖めるための安酒で暖を取りながらちびちびと少しでも粘るような客が普通であった。そう、昨年まで(・・・・)は。

 

「「「乾杯!!!」」」

 

 しかし、今やどうだろう。

 酒場に居るものの表情には満面の笑みが浮かび、その前には豊かな料理の数々が並んでいる。

 

「いやーしかし、帝国領になるだなんて言われた時はどうなるかと思ったけどなってみれば何のことはない、前よりも遥かに生活が良くなったじゃねぇか」

 

「灰色の騎士様万歳だな。このままあの人が此処の総督閣下、なんなら大公殿下になってくれねぇかなぁ。あの人がなってくれたらおりゃあ安心だよ」

 

「そりゃそうなってくれたら俺も嬉しいけどよぉ。難しいだろ、あの人は皇帝陛下の騎士様とやらなんだからよぉ」

 

 交わされる会話は本来侵略者の側であったはずの帝国に対する隔意等一切見えない、畏敬の心に満ちていた。

 

「おいおい、灰色の騎士様だけじゃなくてちゃんと皇帝陛下にも感謝を捧げないと行けねぇぞ。

 灰色の騎士様は皇帝陛下への畏敬を疎かにして、自分だけ讃えられても喜ばねぇんだからよぉ」

 

「おっと、そうだったそうだった。皇帝陛下万歳!ってな。しかし、あんな立派な人がそこまで言うだなんて帝国の皇族の方々はさぞかし立派な方々なんだろうねぇ。全く、逃げ出したうちのとは大違いだ」

 

「なーに言ってやがる。今じゃ俺達だって栄光ある帝国の一員じゃねぇか。ちゃんと働いて税金だって納めているんだからよ」

 

 そう、此処に居る者達は皆揃ってRFグループが新しくこの地に立てた工場の一員だった。

 イリーナ・ラインフォルトは冷徹な合理主義者ではあるが、それは別段社員を劣悪な環境で働かせる悪徳経営者である事を意味しない。

 むしろ、合理主義者だからこそ人材に対しては相応しい賃金を出すし、根性論によって無理を超えて働かせるような真似もしない。ラインフォルト程の世界的な企業ともなると悪評が広まった時の被害というのもバカにならないため、劣悪な環境で酷使するような真似はしない。特に現在この地を治める統括官が“法の守護者”等と称されて、この地の民を真実本国の民と同等に扱っている事も熟知している。

 もしも属州人だからという理由で奴隷のようにこの地で雇った社員を扱えば、必ずや容赦のない告発が自社に待ち受けているであろう事をイリーナは知っていた。ーーー実際既に幾つかの大企業がこの地の政府より、違法労働による是正勧告を受けている。

 故にこそ、今この地の民は幸せであった。自分の金で愛する家族を食わせてやれる。

 猟兵の稼ぎに頼らずとも自分で働いた金で食料だけではなく、RF社製の導力製品を始めとしたいろんなものが買えるのだ。

 

「そうだったそうだった。そんじゃ改めて、リィン大公殿下とユーゲント皇帝陛下、そして俺達の偉大なる祖国であるエレボニア帝国(・・・・・・・)にーーー」

 

「「「乾杯!」」」

 

 グラスのぶつかる甲高い音が響く。

 そんな喜びに湧く故郷の人々の様子をA級遊撃士にして紫電の異名を持つサラ・バレスタインは嬉しさと寂しさの入り混じった複雑な顔で眺めながら、何かを飲み干すようにグイッとアルコールを流し込む。

 

「アンタとしてはやっぱり複雑か、サラ」

 

そんなサラへと傍らに座るクロウが語りかける。

「クロウ・アームブラスト少佐は特務部隊を率いて遊撃士協会と協力しながら、住民サービスの向上へと当たれ」そんな命令が麗しの隊長殿から下されたのは今から2ヶ月半程前。以来クロウはこうして恩師でもある人物と共同で仕事に当たる機会が増えていた。今日もそんな風に一仕事終えた帰りの一杯、というわけである。

 

「……基本的には嬉しいのよ。こんな風に故郷の人たちが冬を前に笑って過ごせるだなんて、一年前までは想像出来ない事だったもの。誰もが今を生きる事に精一杯で、未来への希望だなんてものを思い描けるのは極一部の恵まれた人だけだった。それが今じゃこうして笑顔で将来の希望を皆語り合っている。そういう意味で、この光景を作ってくれたあの子には感謝してもしきれないわ」

 

 エレボニアの故郷への侵攻。そしてそれを率いるのが自分にとっても馴染み深い教え子だとサラ・バレスタインが聞いたのは総てが終わった後であった。速攻等という言葉が生温い文字通りの電撃戦、大陸の各地で独自の情報網を持つギルドでさえも完全に後手に回った。

 教え子が故郷へ侵攻する軍を率いた事、それは確かにサラにとってはショックな出来事であった。ただ同時にある種安堵もしていたのだ。何故ならばリィン・オズボーンという教え子ならば、少なくとも民間人を巻き込むような真似はしないだろうとそう信頼する事が出来たから。

 そしてその信頼は裏切られる事はなかったーーーどころか、帝国に併合された故郷は急速に復興し始めていた。それはサラにとってもずっと夢見ていた光景だった。血まみれのミラに頼る事無く、誰もが頑張れば明るい未来が待っているのだと信じられる、そんな風に故郷がなる事をずっと祈ってた。

 だからそう、本来であればこれは諸手を挙げて喜ぶ事なのだろう。

 

 だが、しかし、それでもーーー

 

「だけど、それでも思っちゃうのよ。私達のやってきた事ってなんだったんだろう?

 そんな、あの子に対する嫉妬じみた思いがね……」

 

 それが、サラ・バレスタインの本音であった。

 ノーザンブリアの民にとって今やリィン・オズボーンの名はほとんど救世主と同義語に近い。

 もしも今、この地で選挙を行えばそれこそ本人が立候補しなくてもほとんどの人間が彼へと投票するだろう。

 当然だろう、何せ帝国に併合されて彼らの暮らしは良くなったのだから。

 食料が配られた、治安が良くなった、インフラが整えられていっている、仕事が与えられたーーーどれも今まで出来ていなかった事だ。

 そう、稼いだ外貨でなんとか餓死者を減らすように食料を買うのがやっとだった自分達では、どれも出来なかったことだ。

 

「わかってたのよ……元々無理があるってことは。

 私はあの教頭みたいに政治や経済を専門に学んだわけじゃないけど、それでも猟兵稼業で稼いだ金でなんとか出来るのはあくまでその場しのぎだけ。

 荒れ果てた故郷をどうにかするにはもっと根本的な部分で大きな力(・・・・)が必要となってくる、それこそ今あの子が持っているようなね」

 

 「ノーザンブリア大公殿下」、そんな風に今のリィンを呼ぶ声が存在する。

 そう呼ばれる程に今のリィンがこの地で有している権力は強大だからだ。

 司法、政治、軍事、権力者の権力の源泉たるそれらを現在リィンはこの地で独占している。

 事実上の全権委任と言えるほどの権限を皇帝より直々に与えられている、今の彼はまさしくこの地の王であった。そしてその王は類稀な名君であった。

 常人ならばとうに倒れているであろう想像を絶するような激務を平然とこなし、難治の地の復興と統治のための土台作りを凄まじい勢いで固めている。

 それこそこのまま正式に大公に就任でもすれば、この地の民は喝采を挙げて歓迎するだろう。

 

「ああ、そうだな。そんな風に目に映るだけの人間じゃなくて、もっと多くの人間を助けたかったからこそアイツは常に上を目指し続けていたんだろうな」

 

 理想を成し遂げるには力が必要である。

 それは単純な武力ではない、権力や財力と呼ばれる力だ。

 自分の周囲だけ幸福であればいいと考えるならば、それらはむしろ邪魔になるかも知れない。

 だが大きな理想を掲げるものは必然大きな力を求める事になる。

 リィン・オズボーンはそんな典型例と言えよう。

 

「感謝は、当然しているのよ?故郷を救ってくれてありがとうって。

 だけど、どうしても思っちゃうのよ。私がしてきた事は一体何だったんだろう?って。

 血がついていないミラを故郷に送るため、そんな風に考えて猟兵を辞めて、遊撃士になったけど、結局私はただ逃げただけじゃないのかって。

 罪もない外国の人達や土地を血と硝煙にまみれさせる事でなんとか決定的な破綻を防いでいる故郷の現実から。

 本当に私が故郷を救いたいと思っていたのなら、あの子のように何とか出来る“力”を求めて足掻き続けるべきだったんじゃないのかって。

 ……遊撃士になったのは、そんなどうしようもない現実から目を逸した“逃げ”だったんじゃないかって」

 

 心の中でずっと溜め込んでいた想い、それをサラは吐き出す。

 無論人には向き不向きというものがある、自分に政治家だの将軍だのと言った器が無いこと等百も承知だ。

 だが、それでも思ってしまうのだ。あっという間に自分を置き去りにして自分に出来なかった事をああも見事にやってのけた教え子を見ると、命と引き換えに自分を救ってくれた尊敬する父の死に、何ら報いる事が出来ていないのではないかと。そんな弱音が、気がつけば零れ落ちていた。

 

 

「なあサラ、あんた俺達やあいつらと出会った事を後悔しているか?」

 

「え……?」

 

 思いがけない問いかけにサラの頭の中が一瞬真っ白となる。

 

「だってそうだろう?もしも仮にアンタが今言ったように仮に政治家でも目指していたか、もしくはそのまま北の猟兵に所属したままだったらどう考えたってトールズの、俺達の教官になんかならなかっただろ?そっちの道を歩んでおくべきだったって思うって事は、つまり俺達と過ごした日々を否定するって事じゃねぇか」

 

「そ、そんなつもりは!?」

 

「無いなら、辞めておこうぜらしくもない。

 なんだかんだで俺達は皆、アンタの事が好きなんだぜ?

 だらしなくて酒好きで渋いおっさんが好みでこのまま行くと婚期逃しそうで、それでもなんだかんだで教官として俺達をずっと気にかけてくれた今のアンタ(・・・・・)をな。

 なのに、そのアンタが今の自分を否定しないでくれよ」

 

「クロウ……」

 

「アンタは立派だよ。アイツに比べたらちっとばかし数が少ないってだけで、それでも猟兵だった頃は故郷の連中を、遊撃士になった後はその目に映る“誰か”の事を助けてきたんだからよ。

 ーーーどっかの恨み拗らせて自分の中の憎悪を晴らすためだけに、親友(ダチ)を裏切った大馬鹿何ぞその真逆の事ばっかりやってきたんだからな。

 アンタが今の自分を後悔するなら、そいつの方はそれこそ死んで詫びるべきだろうさーーそれだけの事を仕出かしたんだからな」

 

 そこでグイッとクロウは酒を呷る。胸の中に渦巻く思いを飲み干すように。

 

「だけど、それでもそいつは恥知らず(・・・・)にも今も生きている。

 バカ話をしてダチと笑いもすれば、こうして酒だって飲む。なんだかんだで人生を楽しんでいるわけさ。

 なら、アンタみたいに誰かを助ける為に頑張ってきたような立派な人間はそいつの百倍人生を楽しんで生きる権利があると思うわけさ」

 

 そうしてクロウはらしくも無く落ち込んでいる恩師(・・)に向けて軽くウインクをする。

 そんな教え子の気遣いにサラは確かに心が軽くなる思いを味わうが、改めて聞いておきたい事があると問いかける。

 

「クロウ……さっき私にされた質問をそのまま貴方にも返すわ。

 貴方は私達と出会った事を後悔していない?今、幸せ?」

 

 それはサラにとってずっと気がかりな事であった。

 “蒼の騎士”は鉄血宰相の軍門へと下った。

 クロウ・アームブラストの光翼獅子機兵団への入隊は周囲からそう受け取られた。

 何故ならば皇帝直属という立場であるものの、司令官が誰の息子であるかを思えば、建前はどうあれ事実上鉄道憲兵隊と情報局のように半ば宰相直属のような働きをする事は目に見えていただけに。

 そしてそれは目前の教え子にとってはこの上なく不愉快な事のはずなのだ。

 

「言っただろ、なんだかんだで人生を楽しんでいるってな。後悔なんぞしちゃいねぇよ。

 強制されたわけじゃねぇ、これは俺自身が選んだ道なんだからな。

 だからアイツにだけ何もかも背負わせる気なんざ毛頭ねぇよ。親友(ダチ)なんだからな」

 

 今の立場に思うところは幾らでもある。

 文句も山のようにある。

 だが、それをリィンにぶつける気は今のクロウには毛頭ない。

 何故ならばリィン・オズボーンはクロウ・アームブラストの友達なのだから。

 

 文句を言えば、自分の心は確かに軽くなるだろう。

 自分は反対していた、だけど命令されたからしょうがなく、渋々従ったのだとそんな風に自分への言い訳を用意できる。

 だがそれはつまるところ本来自分が背負うはずだった罪を親友に背負わせただけに過ぎないのだとクロウは思う。

 

(そんなダサい真似出来るかよ)

 

 何故ならば自分たちは対等の親友なのだから。

 荷物を一方的に背負わせて、自分だけ楽をするつもりなどクロウは毛頭ない。

 自分は自分の意志でダチの手を取った。故にこれは自分の背負うべきものなのだと。

 クロウ・アームブラストは思っているのだ。

 

「……本当に立派になったわね」

 

 そしてそんな成長した教え子の姿をサラ・バレスタインを眩しそうに眺める。

 

「はは、これも一重に教官殿にご指導頂いたおかげですってな」

 

「ふふふ、そういう事なら今日はとことん恩返しを兼ねて付き合ってもらいましょうか。

 貴方の奢りでね、高給取りの少佐さん♪」

 

「へいへい、付き合わせて頂きますよ。大恩ある教官殿(・・・)

 




ちなみに2人が語らっている間もノーザンブリア大公殿下(尊称)は当然のように仕事の真っ最中です。
ひたすら仕事です。とにかく仕事です。君主は国家第一の下僕なのです。
久方ぶりに恩師に会う暇すら無いぐらい忙しいのです。
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