獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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ハーメルを襲った連中:猟兵くずれ
オズボーン家を襲撃した連中:猟兵くずれ
レンハイム家を襲撃した連中;猟兵くずれ
鉄血宰相を襲撃した連中:Vの猟兵団
ユミル襲撃した連中:北の猟兵
ケルディックを焼き討ちにした連中:北の猟兵
クロスベルを襲撃した連中:トップ猟兵団である赤い星座

リィン将軍「人間正しくなければ生きる価値なし!お前ら猟兵生きる価値なし!!」(帝国に全面的に服従するなら許してやらんでもない)

真面目に猟兵くずれと猟兵の境ってどこなんでしょうかね?
猟兵崩れの連中にしても超一流の猟兵団とされるところと同様に依頼主からの依頼に基づいてやっただけでしょうし。
民間人巻き込まない云々が基準だとするなら下の連中も平然とやっている。
一流の猟兵はコラテラルダメージとしてそうした被害が多少出るのは仕方ないけど最大限それを抑えるように努力しているというわけでもない(リーシャに本気を出させたいという私情からアルカンシェルを襲ったシャーリィがシグムントからそのことを咎められたりした描写はないので)
まあハーメルで猟兵くずれがやった女性に対する暴行とかを一流の猟兵がやるイメージは確かにないですが、それにしたって平気で民間人巻き込んで殺している時点であんまり大差ないといえば大差ないですし。
単なる練度や実力の差なんでしょうかね?

そしてこの辺猟兵や猟兵崩れの連中が作中でやっている事見れば誇り高いラウラが猟兵であったフィーに思うところあったのも当然なんですよね。
ラウラはアルゼイド子爵家という地方領主の息女であり領地と領民を代々守護していた貴族なわけですから。
猟兵なんて連中は守るべき民の安寧を脅かす存在として隔意があって当然と言えば当然でしょう。

ちなみに今回R-18ではないもののこれはまあR-15やろうなというアレがあります。
いつも英雄がやっている理想の為に殺しまくりな方向性とは別方向で。
後オズボーン家襲撃のエピソードが原作とは色々変わっていますがまあその辺はいつもの独自設定です。


狩人だと嘯いたお前は飢えた獣

 

 人の記憶というものは存外当てにならないものだ。

 それは単純に忘れていくという事もそうだが何よりも人は無意識の内に思い出の美化や改竄というのは自然と行ってしまう生き物だからだ。

 辛い出来事、哀しい出来事、恥を覚えた出来事、怒りを覚えた出来事ーーーそうした思い出すだけでも心に負荷がかかるような記憶を人は普段は思い出す事はない。

 それは決して薄情と言われるような悪い事ではなく自身の心を守るための防衛行動だ。

 人は思い出すだけで胸が張り裂けそうになるような過去を常に振り返りながら生きられる程強くはないのだから。

 自身の心を守るために過去の思い出を改竄することもそれは生きていくために()()()()()事なのだ。

 

 ---と()()()であるならばそれでも良いだろう。

 しかし、“英雄”足る者にそのような脆弱さは許されない。

 自身の原点とでもいうべきその心に怒りの炎が宿った()()()()()()()()()()()()()()

 リィン・オズボーンはアリアンロードとの戦いによりついに神域へと踏み込んだ。

 それはすなわちより深く力の根源へと繋がったという事でもある。

 なればこそ闇は決して輝く英雄の魂を逃しはしない。

 眠りについた英雄へと今日もその悪夢を見せつけるのだ。

 その器を必ずや己が物としてみようと暗く嗤いながら……

 

・・・

 

 幼い頃リィン・オズボーンにとって世界というものは穏やかで、優しくて、幸福に満ちたものであった。

 無論世の中にはどうしようもなく“悪い奴ら”がいる事も彼は知っていた。

 何故ならば彼の父は軍人。そうした悪い連中からみんなを守ることが仕事なのだから。

 リィン・オズボーンの父ギリアス・オズボーンは端的に言って完璧と称して何ら差し支えのない男だった。

 平民でありながら帝国軍で准将の地位にまで登り詰めた優秀極まりない軍人で在り、性格も公明正大そのもの。

 軍に於いては上官に信頼され、同僚に頼られ、部下からは慕われる。

 家庭に於いては良き父良き夫として妻と我が子に惜しみない愛情を注いだ。

 そんな父に幼いリィンが憧れるのはある意味当然の成り行きだっただろう。

 大きくなったらお父さんみたいな立派な軍人となるんだ!がリィンの口癖であり、リィンがそう口にする度に父は嬉しそうな顔をしながらその大きな手でリィンの頭を撫でてくれ、母であるカーシャ・オズボーンはそんな夫と息子を優しい笑顔で見守るそれがオズボーン家の日常であった。

 そんな穏やかで幸福な日々がある日唐突に終わるだなんてリィン・オズボーンは考えた事もなかったのだ。

 

 その日リィン・オズボーンは思い知った。この世には人が大事にしているものを平然とした顔で踏みにじる事が出来る畜生共がこの世界に居る事を。

 何の変哲もない一日、そう何の変哲もない一日になるはずだった。

 だけど気が付いた時にはなぜか優しい思い出のつまった家には炎が一面に広がっていて。

 美しかった母は血まみれで目の前で倒れていて。 

 自分も胸のあたりがとても痛くて苦しくてーーー気が付いた時には自分はクレイグ家に引き取られていた。

 それがリィン・オズボーンの覚えている限りの記憶。

 胸に大きな傷跡が残されて激しい無力感と喪失感、そしてそれを奪った存在に対する激しい怒りだけがリィンの中には残されていた。

 

 そこに嘘偽りは存在しない。幼いリィンは真実それだけしか覚えていなかった。

 だがしかし、本当に()()()()()()()だろうか?

 重ねて述べるが人間の記憶というのは余り当てにならないものだ。

 自己の心を守るためならば平気で自分自身にさえも嘘をつく。

 思い出すだけで()()()()()()()()()()()ような記憶、そうしたものを封印して、あるいは改竄して心の平穏を保とうとする。

 だからそうこれよりリィン・オズボーンが見ることになるのはそんな忌まわしき記憶。

 人倫を何ひとつとして介さない畜生に己が幸福を蹂躙された怒りの記憶だ……

 

・・・

 

「お母さん、お父さんまだ帰って来ないのかなぁ?僕もうお腹ペコペコだよ」

 

「もう少しだけ待ちましょうね。最近お父さんはお仕事が忙しいみたいだから。

 リィンは将来はお父さんみたいな立派な軍人さんになるんでしょ?だったらちゃんと待てるわよね?」

 

「……うん、待てる」

 

 幾分かの葛藤を要したのだろう。

 答えるまで間が少しだけあったがそれでもリィン・オズボーンの中では理性が欲求に勝ったらしい。

 

「良い子ね」

 

 母に優しく頭を撫でられてリィンは嬉しそうに目を細める。

 15年後の彼を知る者であればおそらく目を疑う光景だろうが英雄とて何も生まれつき英雄であるわけではない。

 英雄となるに相応しい試練なり苦難なりを乗り越えて未熟な少年はいつしか決意を以て進む英傑となるのだから。

 そして英雄とは往々にして悲劇の中産声を挙げるものであり、悲劇というものは何時だとて理不尽に襲い掛かるものなのだ。

 

 それは本当に唐突かつ突然の出来事であった。

 けたたましい音が玄関の方で鳴り響き一体何事かと母子は驚く間もなく無粋な乱入者ーーー否、獣の群れは押し入ってきた。

そしてそこから先に繰り広げられた光景は余りに凄惨な光景だった。

 自身の恐怖を押し殺しながらも母親は愛する我が子を守るために勇気を振り絞り身を挺して庇った。震えるその手についさっきまで料理を作るために使っていた包丁を持ちながら。

 カーシャ・オズボーンは気高く美しい妙齢の女性であり、家に押し入ったのは人語は発するが人倫は解さない畜生共だった。

 恐怖を押し殺しながら我が子を庇おうとする母の美しい愛情を見て自らの行いを悔い改めるような倫理は無論存在しない。

 ならば彼女がどうなったかなど余りにも決まり切っている。

 「私はどうなっても構わないからどうかこの子だけは助けてください!」という懇願に対して「俺たちも鬼ってわけじゃない、あんたの態度次第では考えてやってもいいぜ」などとお決まりの言葉を嗤いながら言われればもはや何の力も持たない普通の女性(民間人)であった彼女にはそれに縋るより他ない。

 なぜなら自分と()()()()()()()()()()()()()()()()の命運は目前の畜生共に委ねられているのだから。

 例えその口約束が()()()()()()()()()()ものであったとしても。

 耐えて少しでも時間を稼げばこの世界で一番頼りになる人が駆けつけてくれるとーーーそんなか細い希望に縋る以外の選択肢が彼女には存在しなかったのだ。

 

 悲壮な顔で衣服を脱ぐ母、下卑た声でそれを囃し立て家を荒らし金品を漁る野獣共。

 そんな光景を幼いリィンはただ茫然と見ていた。

 

 ---この人たちは一体何なのだろうか。

 

 リィンは目前の光景が何ひとつとして信じられずまるで現実感がなかった。

 人の嫌がることをやってはいけない、誰も見ていなくてもいつも女神様は貴方の事を見ている。だから悪いことをしてはいけないーーーそんな風にリィンは両親から教わった。

 

 ーーーなのになんでこの人たちはこんなことが出来るんだろう。お母さんは嫌がっているのに。

 

 そう嫌がっている母は間違いなく嫌がっている。だというのにそんな母の様子を見ても男たちはごめんねと謝ったりはしない。それどころか表情を歪めて服を脱ぐ母の手が止まるたびに嬉しそうな声で「ガキがどうなっても知らないぜ」などとひどく物騒な事を言いながら囃し立てていた。

 ーーーわけが分からない。目の前で起こっていることがとても現実だと幼いリィンには何一つとして思えなかった。

 茫然と目の前の光景を見ていたリィンだったが、一糸も纏わぬ状態となった母が男に組み敷かれ、その瞳から零れ落ちるひとしずくの涙を見た瞬間にその脳裏に尊敬する父から教えられた言葉が浮かび上がった。

 

「良いかリィン、お前は私とカーシャの宝だ。何かあれば必ずや私がこの命に代えてでもお前とカーシャを守って見せるし私もカーシャも何時だってお前の味方だ。だがお前は子供であると同時に一人の男だ。()()()()()()()誰かが泣いている時はその涙をぬぐってやれる存在になれ。私が今お前にこうして教えている武術というのはその為にあるのだから。間違ってもそれを振りかざすような真似をして誰かを泣かせるような事はするな。それは余りにも()()()()な行いなのだからな。もしもお前がそんな事をしたら私は全力でお前を叱る、いいな」

 

 強請るリィンの求めに応じて軽い武術の手ほどきをする際にギリアスはそう告げた。

 それは至極真っ当な言葉だった。お前に教える武術という力とは誰かの涙を拭うために存在するものであり、決して誰かを泣かせるためにあるようなものではないと。綺麗事なのかもしれないが、親が子にまず教えるべきはそうした綺麗事である以上何ら非難に値するような事ではないだろう。

 そして父のその言葉を思い出した瞬間呆然としていたリィン・オズボーンの心に激しい感情が満ちる。

 それは泣いている母の涙を自分が拭わねばならないという使命感と力を振りかざし母を泣かせている()()()()()に対する()()だ。

 

「そうだ僕が守るんだ。僕がお母さんを。だって僕は()()()なんだから」

 

 そうだ守らなければいけない大切な母を。

 幼いリィンには今母が何をされようとしているのか理解していない。

 だけどそれを母が嫌がっているのは明らかだった。

 だって母は()()()()()のだから。

 そして自分が父から教わった力は大切な人の涙を拭うためにあるのだから。

 「やめて」と言葉でお願いすることは無意味だ。

 だって今母を泣かしている連中は()()()()なのだから。

 たまたま人の言葉を喋って、人の形とよく似ている()()()

 そんな奴らの蛮行を止める為に必要なのは言葉ではない。

 ()だ。言葉ではなく()だけがそれを為しえる事が出来る。

 それを理解した瞬間リィン・オズボーンの身体は弾かれたように動き出していた。

 母が抵抗を断念するとともに置いた包丁を手に取り、母の身体を穢そうとしている男に一瞬で詰め寄った。

 

「ーーーは?」

 

 リィン・オズボーンは()()だった。

 優れた師の下で向上心を持ち修練に励めば理と呼ばれる武の至境に到達し得るだけの才を持つ選ばれた存在だった。

 激情の命じるままに放出された荒々しい闘気ーーーと呼ぶ程には研ぎ澄まされていない霊力の放出が肉体を強化してそれが5歳児では到底あり得ないはずの瞬発力と腕力を生んだ。

 そしてリィン・オズボーンの持つ才能はそうした武術の才能だけではなかった。

 彼が先天的に有していた才能ーーーそれは一度敵と定めた相手を一切の躊躇を見せることなく踏みにじることが出来る()()()()()だ。

 人の持つ倫理観というのは決して馬鹿にならないものだ。

 人を殺すことに悩む罪悪感で苦しみ、結果として心を患う事になる兵士というのは多い。

 まして彼は軍人である父親から少しだけ手ほどきを受けただけのまだ5()()()()()に過ぎない。

 本来であれば恐怖で身がすくんで動けなくなるはずだし、仮に母親を助ける為に勇気を振り絞ったとしてもがむしゃらに包丁を振り回して暴れるのが関の山だろう。

 だからこそその場にいた誰もそんなことになるとは予想が出来なかった。

 呆けていたはずの5歳の子供が一瞬で距離を詰めて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などと。

 カーシャを穢そうとしていた男の首から噴水のように鮮血が飛び散り、その獣欲を満たす事無く男は絶命した。

 

「こ、この餓鬼!」

 

 にたついた顔で()()()()していた男が慌てて銃を構えようとする。

 

 しかし、遅い。

 これがただ武術の才能があるだけの少年であれば一人殺して終わりだっただろう。

 人の命を奪うというのは重い事なのだから。

 真っ当に両親の愛を受けて育てられた子供ならば激情のままに一人殺したとしてもその命が尽きる光景を見た事で正気に戻って動きが止まった事だろう。

 しかしリィン・オズボーンは幼いながらも紛れもない英雄(殺戮者)の器を持つ子供だった。

 彼は憎しみという狂気に囚われて男を殺したわけではない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という使命感によって()()()()()()()()()()()のだ。

 だからこそ彼の行動は一人殺した程度では終わらなかった。

 そのままの勢いでもう一人、今度はその心臓へと包丁を突き刺した。

 

 瞬く間に殺された二人の仲間。そしてその仲間の返り血を浴びながら幽鬼の如く血まみれの包丁を構える()()()

 その常軌を逸した光景を前に襲撃者たちの心に恐れが過る。

 元より仕事中に暴行に及ぶような連中だーーー猟兵と呼ぶことがおこがましい猟兵崩れ。練度など推して知るべしというものだろう。

 一方的に狩る側である事に慢心した彼らは人質にするつもりだった子どもに仲間が二人も殺されるという余りにも信じ難い展開に明らかに浮足立っていた。

 そして当然()()はその好機を逃さない、そのままの勢いで残りの害獣共も駆除しようと

 

「ゲホッゲホッグッ……ゴホッ」

 

 しかし、彼の快進撃は否()()はそこで終わる。

 火事場の馬鹿力というのはそう長くは続かない。

 本来5歳の肉体では到底出しえない力を出した反動がその身を襲う。動きが止まり、その場でせき込み出す。

 そしてそれらをねじ伏せるような胆力もその胆力に呼応して力を与える奇跡も彼は未だ有していない。

 どれほど才能を持っていようと未だリィン・オズボーンは大した訓練も積んでいない子ども、雛ですらない未だ卵から孵る前の存在に過ぎなかったから。

 

「良くもやりやがったなこの餓鬼が!」

 

 もはや目前の小さな悪魔に抵抗する力がないとわかった男は仲間を殺された怒りのままにリィンを殴り飛ばす。

 幼いリィンの身体はあっさりと吹き飛ばされ、未だわけがわからず呆然としているカーシャの近くへと投げ出される。

 

「くたばりやがれこのクソガキ!」

「おい待て、ガキと女は人質として生かしておく必要がーーー」

「ガキが死んでも女の方が居るだろ!人質ならそれで十分だろうが!!」

 

 カーシャ・オズボーンは何が起こっているのかわけがわからなかった。

 愛しい我が子が二人の人間を鮮やかに殺害してのける光景が信じられずにただ茫然としていた。

 しかし吹き飛ばされた我が子を見て、その我が子に向けて引き金が引かれようとしていると理解した瞬間弾かれたように身体が動いていた。

 銃弾は我が子を思う母の愛を嘲笑うかのように覆いかぶさったカーシャの身体を貫通してリィンの心臓を抉った。ーーーどちらも疑いようがない致命傷であった。

 

「お母……さん…?」

「大丈夫よリィン、何があってもお母さんが貴方を守るから……お父さんがきっとすぐに助けに来てくれるから……」

 

 息絶え絶えな様子ながらもカーシャは必死にリィンを抱きしめながら我が子を安心させるために精一杯笑顔を作って語り掛ける。

 

「おいどうすんだよ!ガキだけじゃなくて女の方まで死んじまったじゃねぇか!」

「し、仕方ねぇだろ……あの女が自分から飛び出してきたんだからよ……」

「あーあ勿体ねぇ。せっかくのイイ女だったのによ」

「しゃあねぇ前金は貰っているんだし今回はこの辺で引き上げるとしようや。なぁに依頼の失敗の件については気にする必要はねぇさ。依頼主様だって俺たちにこんな事を頼んだなんて言えるはずがねぇんだからよ」

「そうすっか。流石に帝国正規軍准将様なんて怪物を人質なしでどうにか出来るなんて思えねぇしな」

「そういう事そういう事。()()()ところで満足しておくのがこの商売のコツだからな」

「あーあーでも本当に勿体ねぇなぁ。そうそういない上玉だったのによぉ。お前()()()()()は一番最後な」

「ち、わーったよ」

「しかしまあとんでもねぇガキだったな。5歳のガキがああも簡単に人二人殺せるか普通?俺がガキの頃はもうちょい可愛げってもんがあったぞ」

「全くだ。あのまま大人になってたらきっとさぞかしとんでもねぇ悪党になっていただろうさ。それを思えば此処で殺しておいた方が世の為人の為ってもんさ」

 

 勝手な事を口々にほざく畜生共。

 そこに他者の幸福を蹂躙した事への罪悪感など欠片も存在しない。

 リィン・オズボーンは生まれて初めて心底本気で誰かを憎悪した。

 死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえお前らなんてみんな死んでしまえーーーいいや、()()()()()()()()()()()()()()

 だというのにどうして自分はこんなにも無力なのだ。大切な母を守る事もできずに。()()()()()()()()()()()()()のが自分の憧れた軍人のはずなのに。自分の無力さに対する怒りからリィンの瞳から涙が零れ落ちる。

 しかし、救いは現れず畜生共に齎されるべき裁きは訪れない。女神などこの世界にはいないのだと少年に突きつけるかのように。

 

「カーシャ!リィン!」

 

 いいや否、ようやく救いの手は現れた。

 カーシャ・オズボーンとリィン・オズボーンがこの世で最も頼りにしている男が現れたのだ。

 

(お父さん……来てくれた……)

 

 そのことが余りにも嬉しくてリィンの頬を再び涙がつたう。

 だがそれはさっきまでとは決して同じ涙ではなかった。

 そうリィン・オズボーンは嬉しかったのだ。父が自分と母を助けに来てくれたことが。嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。例えもう手遅れだったとしても。

 

「貴様らアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

 

 ギリアスの怒りに満ちた絶叫がその場に響く。

 ギリアス・オズボーンは公明正大な人格者だ、だが人倫を弁えぬ畜生共に対してまで無制限で寛大であるわけではない。交渉する気も生かして捕らえる気も一切ない。一刻も早く目前の畜生共を駆除して血まみれで倒れている妻と子供を助ける。ギリアスの頭の中に存在するのはそれだけであった。

 そして百式軍刀術の達人であるギリアスがたかだが猟兵崩れ程度に後れを取るはずもなし。畜生共の命乞いにも似た喚き声を全て無視し、その尽くを一人の例外もなく皆殺しにした。

 

「ああ……来てくれたのね……あなた……」

「遅れてすまないカーシャ、だがもう大丈夫だ。こんな傷もすぐに治るさ。待っていろカーシャ今すぐ治療を」

「私は……いいわ……自分でもわかっている……もう助からないって……」

「何を言っているカーシャ!君は治る!!いいや治して見せる!!絶対に!この命に代えても君たちを守り抜くと俺はそう約束しただろう!?俺が君たちに嘘をついたことが一度だってあったか?ないだろう。だから大丈夫だ。大丈夫に決まっている」

 

 父の声は震えておりその瞳からは涙が零れ落ちていた。

 そんな父と弱弱しい声で答える母をリィンはもはや身動き一つすることもできない状況で見ていた。

 

「ええ……そうね貴方は何時だって私との約束を守ってくれた。だからねあなた、一つだけ……約束して……この子は……リィンだけは必ず助けるって……」

「ああ、ああ勿論だとも。()()()()!リィンは必ずや俺がこの命と魂に代えてでも助けて見せる!」

「良かった……」

「リィンだけじゃない!当然君もだ!君も助けてみせるぞ!俺には君が必要だし、この子にだって君が必要なんだからな!」

「……………」

「カーシャ………?カーシャ!どうしたんだカーシャ?返事をしてくれ!!」

 

 どれほど必死にギリアスが呼びかけようともカーシャは答えない。

 カーシャ・オズボーンは死んだのだ。愛する夫に愛する我が子を託して。

 

「おおおおおおおおッ……!どうしてだアランドール!カーシャが、息子が何をした!?襲うなら俺を襲えば良いだろうが!!!」

 

 ギリアスの悲痛な絶叫が響く。

 命乞いのつもりだったのだろう、畜生共はペラペラと囀ってくれた。

 曰く帝国軍のアランドール准将に頼まれてやったのだと。

 自分たちは依頼されただけなのだからあんたが憎むべきは自分たちではなくそいつなのだと。

 それを喋ったところでギリアスが目前の畜生共に行う対処は何ひとつとして変わらないというのに。

 説得に応じてくれたはずの士官学校時代からの友人、それがこのような蛮行を為したという真実にギリアスは哀しみで心がどうにかなりそうだった。

自分に真実たった一つ残された宝物ーーーまだかろうじて生きているそれを必死に抱きしめてギリアスは再び叫ぶ。

 

「女神よ!!いや、悪魔でも何でもいいーーーこの身がどうなろうと構わないから俺たちの息子を助けてくれえええ!!」

 

「---ソノ言葉ヲ待ッテイタゾ」

 

 獅子の心を持つ男のなりふり構わない真実心からの懇願。

 それが発せられた瞬間にその黒い影は現れたーーーこの時を待っていたと。

 

「どらいけるすヨ、200年待ッテイタ。今度コソ、《灰》デハナク我ガ乗リ手トナルノヲ受ケ容レルガヨイ

 ---サスレバ幼子ノ命ヲ助ケテヤロウ」

 

「貴様……は……そうか……貴様が……全てを……!」

 

 此度の元凶が誰であったのか、それを理解した事でギリアスの心に怒りの炎が燃え盛る。

 誰が貴様の提案など受け入れるものか!とそう叫んでやりたかった。

 

 だが

 

「だからねあなた、一つだけ……約束して……この子は……リィンだけは必ず助けるって……」

 

 脳裏に過るのは妻が真実最後に残した願い。

 そして今もこの瞬間に消えていく大切な大切なーーー自分自身よりもはるかに大切な宝物を救うには目前の悪魔に縋る以外に無いが故に

 

「いいだろうーーーこの魂と肉体、貴様にくれてやる!代わりに息子を、リィンを助けろ!!黒の騎神イシュメルガアアアアアアッ!!!

 

 かくして獅子の心を持つ男は悪魔に自らの魂と肉体を譲り渡した。

 たった一人の息子を救うために。築き上げた地位も信頼も矜持も何もかもを投げ捨てて……

 

 そしてそんな自身の記憶を夢の中でリィン・オズボーンは黙ってみていた。

 心の内に燃え盛るすべてを焼き尽くすような烈火の如き怒りとは裏腹に不自然なまでに凪いだ表情で……

 




リィン将軍「イシュメルガ……お前はこの世に存在してはならないものだ」

・オズボーン家を襲撃した連中は猟兵崩れの屑共(倫理観など存在しないしプロ意識も存在しない)
・カーシャマッマは美人
・もう十分に物心がついていた年だったはずなのになぜか全くといっていいほど本編でカーシャマッマの事を思い出さないリィン
あっ(察し)
アランドール准将にはイシュメルガの介入があったがアランドール准将から依頼を受けた畜生共は別にその辺の介入を受けていないのがミソ。ハーメル襲った連中同様真実救いようのない塵屑がこの世には存在するのです。
同じ致命傷負いながら大人であったカーシャマッマよりも5歳児のリィン君の方が長生きしているのはカーシャマッマは真実一般人だったのに対してリィン君の方はガチの天才でその身に宿る霊力の桁が違ったからです。

リィン・オズボーンの猟兵に対する基本的な認識をこの手で血祭りにあげたい塵屑共。
ただその塵屑の中にも比較的マシな連中がいるとまあそんな認識。故郷の為が根底にあった北の猟兵はある意味特別枠。ノルドの時に猟兵崩れ共が図々しく身の安全を要求するとか言っていた時は(何言ってんだこの塵共)と思っていた模様。
恐ろしいのはこの男、そんな大嫌いな猟兵の掃討の際にも軍人としてきっちり降伏勧告なりを行っている(降伏を一切許さないという態度と相手も死に物狂いで抵抗して死ぬ部下が増えるので)程度には理性が鋼鉄超えてオリハルコン製だという事。多分後世のゲームだと当然のようにラインフォルトが最新技術を使って作ったロボットになったりしている。
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