何せ四大名門を筆頭とした大貴族に対してめっちゃ挑発的な行動に出ていますから。
皇帝であった彼の父親も諫めたのにそれに聞く耳持たずでです。
そんでその忠告を聞かずご覧の有様だよ!な事になって一番大事だった人を守る事も出来ず死なせた&皇帝となって帝国にまつわるクソッタレな真実知るのコンボの結果心へし折れてオズボーンパッパに丸投げ状態になったって感じの変遷のイメージです。
四大名門からじゃなくて下級貴族で侍女だったプリシラさんを皇妃に迎えたのはこのままいけばどうにか命を拾ったオリビエまでまた危険にさらされる、でも最愛の女性を殺した四大名門の連中には従いたくないからっていうせめてものの反抗だったんでしょうね。
ちなみにレンハイム家襲撃には別に呪いは関与していないと作者は思っています。
ユーゲント・ライゼ・アルノールにとって皇帝という地位は豪奢な牢獄のようなものであった。皇太子であるときは違った。幼少期から文武双方に秀でた才を示しトールズでも当然のように首席であった彼は希望と活力に満ち溢れ、自分は女神に選ばれた存在なのだと疑っていなかったーーーそれは若さから起因する青さだったのだろう、彼は真の意味で皇帝という地位の重みを理解していなかった。
だからこそ士官学院で平民の女性に恋した彼は当然のように彼女を己が妃に迎え入れようーーーなどと皇太子としては余りにも短慮が過ぎる事を考えた。四大名門を筆頭とした大貴族達は当然のように反発し、父たる皇帝も「侍女として迎えて妾とする程度ならば認めよう。だが妃は有力貴族から迎えその者と子を為し、その者を後継者とせよ。それがお前の
それこそがユーゲントの生涯における最大の後悔。彼女を愛したことをではない、愛した女性がなぜ頑なに宮中に上がる事を拒み故郷で慎ましやかな生活を送る事を選んだのかを考えようともせず、皇帝たる父の諫めにも一切耳を貸さずに自分を女神に選ばれた特別な存在などと思い込んだ若き日の己の増上慢をこそユーゲント・ライゼ・アルノールは後悔しているのだ。
少し考えればわかる事だったのだーーー次期皇帝たる皇太子に熱烈に求愛され息子まで設けた平民などという存在が貴族勢力から見ればどれほど目障りなのかを。それでいて市井で暮らしているが故に大した護衛もつけられていないという状態が四大名門の歓心を買いたい貴族から見ればどれほど
そしてそんな傲慢さは余りにも呆気なく砕け散る事となる。最愛の女性を失い、その最愛の女性を奪った連中に報いを与える事さえ出来ないというこの上なく自身の無力さを突きつけられる形で。そのまま妃を迎えなければ残された最愛の女性の忘れ形見の命も危うい事は明白だった。されど自分から最愛の女性を奪った連中の思い通りになりたくなかったユーゲントは下級貴族出身の侍女を妃へと迎え入れた。四大名門の面々もこれ以上強硬な事をして完全に次代の皇帝と決裂する事は避けたかったのだろう、ユーゲントの
---ああ、何故だ。どうしてよりにもよって
若かりし頃に抱いていた自信を打ち砕かれたユーゲントにとってその真実は余りにも重く、心をへし折るのに十分過ぎるものであった。もはや彼にとって皇帝という地位は牢獄以外の何物でもなかった。最愛の人を奪った貴族たちに報いを与える事さえ出来ない
本音を言えば国がどうなろうと良いのだ。ユーゲントの心の中にあるのは最愛の女性の忘れ形見である我が子、こんな自分などを愛し支えてくれ自分もまた愛するようになった皇妃、そしてその皇妃との間に生まれた二人の我が子の幸福ーーーそれこそがユーゲントの真実たった一つ望みなのだ。皇帝として義務を果たしているのもそれが結果として彼らの幸福に繋がると思っているからに他ならない。歴史に名を残したいという功名心もない、彼女を奪った貴族達への復讐心さえもはや消え失せた。ただただこんな自分に残された愛する家族の存在。それこそがユーゲント・ライゼ・アルノールが生き続ける望みであり希望なのだ。
大それた望みではないはずだ。人ならば誰しも抱くあたりまえの願い。だというのにーーーだというのに一体何なのだこのふざけた“運命”は!贄により古の血が流れし時だと?それはつまり自分か自分の三人の子の内のいずれかという事ではないか!しかもその後に起こる巨イナル黄昏とはなんだ?具体的な内容はわからない、されどろくでもないことになるのは確かであった。
自分にはもう大それた望みなどない。歴史書に凡君、特筆すべき功績を持たぬ灰色の皇帝と記述されて一向にかまわなかった。ただ愛する家族と穏やかに暮らしていけるのであれば、三人の我が子が健やかに成長していく姿を見られるのであればそれで構わなかった。構わなかったというのにそんなささやかな願いさえも叶わないなのだと突きつけられてしまった。
だからこそユーゲント・ライゼ・アルノールは砕かれた心をもう一度だけ奮起させて戦う事を決意したのだ。
帝国を守るためなどではないーーーただただ愛する家族を守り抜くために。
凡夫に過ぎない自分にとてその位の意地はあるのだと示さんが為に。
されどそれらの足掻きは全て無駄に終わった。自分の無力さを突きつけられるがように全ては徒労で終わり、百日戦役が始まった。
そうして必死に奮起させた心をもう一度砕かれてしまえばもはや残るのはただただ“諦観”のみ。
自分は父として我が子の未来を守る程度の事さえ出来ぬちっぽけな男なのだと突きつけられて、完全に心はへし折られた。無責任な外野ならば言うのだろう、それでも諦めず抗い続けろと。何故ならばお前は帝国の皇帝なのだからと。それは確かに正論なのだろう。だがそんな正論を体現出来る人間がこの世に一体どれほど居るというのか?ユーゲント・ライゼ・アルノールは凡君なのだ。英雄帝や獅子心皇帝のような今も物語で主人公として謳われ続けている英傑などではないーーー自分をそんな風に思えた青臭く傲慢な時代はとっくの昔に卒業している。
それは何も自分だけではない、歴代の皇帝の大半がそうだ。帝国憲法に於いて皇帝は万機を総覧するなどと謳われていてもそれを為しえるような傑物など数百年に一人いるかどうか。多くの皇帝はただ与えられた役目を務めてこなすだけで精いっぱいであり、遠くの未来を見据えて体制の変革だの改革だのを出来るような名君など極稀に出現する程度。そしてユーゲントは自分がそんな希少例の側ではなく、極々ありふれた凡君に過ぎない事をこの上なく痛感させられていたのだ。
「お初におめにかかります皇帝陛下。私の名は帝国正規軍准将ギリアス・オズボーン、ご無礼を承知で直截にお願いを申し上げます。此度のリベールとの停戦についてですが委細私におまかせ頂けませぬか」
だからこそ突如として現れたその鋼鉄の男は絶望の中にあった皇帝にとっては一筋の光明に他ならなかった。
老練ささえ感じさせる見事な交渉術と速やかにリベールとの停戦を取り付けたその手腕は明らかに一軍人の領域を超えるものであった。そうして准将程度では知りえぬはずの代々皇帝のみしか知りえぬ情報について彼の口から説明されると彼の口から語られた荒唐無稽な内容ももはや信じる他なかった。
だからこそ
「私のかつての名はドライケルス・ライゼ・アルノールーーー獅子心皇帝と謳われし汝の先祖である。
これより先は私がこの国を導こう。来るべき終わりに備えんが為に。まずはそうだなさしあたって宰相の地位を用意して貰おうか。さすれば後は私が汝が担うべきはずだった全ての責任を背負おう」
臣下としては無礼にも程がある上段から見下ろすかのように告げられた
それを聞かされたユーゲントの心に過ったものは怒りではなく
ーーーああ、これでもうあとは委細この者に任せておけばいいのだ。
こちらを見据えている瞳からは覇気が漲り、目前の存在が自分等とは違う隔絶した傑物なのだと思い知らされた。
言い返す事無く告げられた内容を受諾したこちらの反応を見て相手の目にほんのわずかな失望が過った事もユーゲントにとってはどうでもいい事だった。もうユーゲントは疲れ果てて限界だったのだ。誰でも良いから背負った重責を預けて楽になりたかったのだから。それを預ける相手が帝国中興の祖、正確にはその生まれ変わりとのことだが、だというのなら一体何の躊躇いがあるだろうか。自分等よりもかの獅子心皇帝ならばはるかに上手くやってのけるに決まっているのだから。
自身が宰相へと任じた男、それが鉄血宰相と呼ばれるようになり瞬く間に勢力を拡大させていく様を間近で見てその想いは深まるばかりだった。自分が若き日に憧れたあらゆる憎悪を飲み干し、如何なる脅迫や不条理にも屈することなく鋼鉄の意志で以て突き進む英傑の姿がそこにはあった。
だからこそ、そんな鋼の意志に呑まれることがなく新たな道を示さんとした長子であるオリビエの姿は諦観に囚われていたユーゲントにとってこの上なく眩しかった。リベールから帰還した際にその成長した姿を見た時はまさしく鳶が鷹を生むとはこのことかと自嘲したものだ。
オリビエだけではない、獅子の子は獅子であるとでも示すかのようにギリアス・オズボーンの息子足るリィン・オズボーンもまたそうだった。残酷な運命を知りながらも決して諦める事無くそれに抗わんとする熱き気概、それは自分には決して持つことが出来なかった真に女神に選ばれた英雄だけが持ち得る物だった。
そう思えばこそユーゲントは両者にもまたその器に相応しき地位を与えた。皇帝という卑小な器に見合わぬ分不相応な地位に就いたものでも、いや就いた者だからこそせめてそうした英雄達の手助けになる程度の事はしなければならないと思って。
「この段取りで夏至祭中に声明を出そうと思っております」
「そうか……いよいよか。そう簡単に事が運ぶとも思えぬが……まあそなたの事だ。何かしらの手立てを講じているのだろうな」
宰相が語る今後の内容に一応の耳を傾けながらもユーゲントにはそれに口を差し挟む気はない。
目前の存在が自分程度が思い至る事に考えていないのはずがないのだから。
ーーー卑小な凡君に為せる精一杯は果たした。後はもはや委ねる以外にあるまい。
夏至祭が始まる前目前の宰相ーーー否獅子の心を持つ王はこのまま私に任せて良いのか?と言っていた。
それはこのままいけば史書の予言によって自分が死ぬことを指すものであると同時にある種の期待だったのだろう。オリヴァルト・ライゼ・アルノールにリィン・オズボーン、この若き英傑たちの熱き気概に感化されて自分もまた運命へと抗わんとする事をーーーかの王は自身の跡を継ぎ玉座へと座った自身の子孫に期待したのだ。
だが生憎とユーゲントにはそんな英雄の期待に応えられるような器など存在しない。真実これがユーゲント・ライゼ・アルノールという男の精一杯なのだ。全く以て情けない事だと我が事ながら思う。だが自らの可能性などというものを信じて再び立ち上がるには自分は余りにも歳をとりすぎた。何よりも運命へと抗わんとした結果、自分ではなく三人の子のいずれかが命を落とす事にでもなれば目も当てられない。自分等とは違い、子供達にはまだ未来があるのだから。
それこそが凡君にして凡夫であったユーゲント・ライゼ・アルノールの皇帝としての判断であり父としてのウソ偽らざる想いだった。後は自分の命を以て予言を成就させる事でユーゲント・ライゼ・アルノールの為すべき事は総て終わる。
そんなユーゲントにとって気がかりなのは鳶から生まれた鷹の方ではない、もう一人の息子の方だった。
ユーゲントから見てセドリック・ライゼ・アルノールの姿は若き日の自分に似ていた。
英雄という存在に心の底から焦がれていたかつての自分。
自分と決定的に違うのは自分とは違いセドリックの方は間近で本物を見続けてしまった事だろう。
決して届かぬ輝きにその身と心を焼かれることがどれほど苦しい事かユーゲントには痛いほどよくわかる。
だからこそ、ユーゲントは伝えてやるつもりだった。
もしもセドリックにとって皇太子という地位が重荷でしかないというのならば
そうなったとしてもおかしくないだけの実績を既にオリヴァルト・ライゼ・アルノールは積み重ねているのだから。
そしてそんな兄と比較され続けてリィン・オズボーンという英雄を臣下として御し続けなければならないという事がどれほどその心に負荷を与えることになるのか、皇帝という地位が豪奢な牢獄に過ぎない事を知っているユーゲントにとっては痛いほど良くわかるから。
代わりにオリビエの方がその重責を担う事になるが、その点は問題ないだろう。何せオリヴァルト・ライゼ・アルノールは自分のような凡夫とは違い数百年に一人現れる希少例の側だったのだから。多少窮屈な思いをするかもしれないが、すぐに皇帝という衣を着こなして見せる事だろう。副宰相という衣をすぐにでも着こなして見せたように。
「父上、セドリック来ました。入ってもよろしいでしょうか?」
「そなたに閉ざす扉を私は持ち合わせていない。入ると良い」
ユーゲント・ライゼ・アルノールには悪意などなかった。
彼は心の底から息子であるセドリック・ライゼ・アルノールを愛し、その未来を慮っていた。
それだけは確かな真実であった……
親の心子知らず。子の心親知らず。
ユーゲント皇帝って傑物だとかじゃない普通の人だと思うんですよね。
自分の無力さを痛感させられクソッタレな運命に絶望し、それゆえに自分ではない偉大な存在に全てを任せることにした普通の人。理想を掲げながら現実を見据えて戦い続けているアリシア女王やマクダエル議長のような方とはその辺が根本的に違う人だと思います。
そして運命に抗おうとする傑物や不撓不屈の英雄がどれほど異常な存在かはそういう大きな運命に巻き込まれてしまった凡人の悲哀と絶望、そしてそれでも譲れないささやかな願いを描いてこそ引き立つものだと思っています。
まあそういう個人の抱くささやかな願いを呑み込んでいくのが激動の時代何ですがね。