sideコナミ
「……やはり俺はラーイエローか。まあ教官のガチデッキを倒したとなれば無理ないか…」
俺はごくごく普通の漫画喫茶でアカデミアの受験生の仮の合格通知のデータを見ていた。
何故ごくごく普通の漫画喫茶のPCでそんなものが見れるかって?そりゃもちろんハッキングだ。
「しかしラーイエローだと何かと動きにくいんでね…」
ただでさえあんなカードを使って目立ってしまったんだ。なのに新入生のエリートのラーイエローなんかに入ってしまったら……
……まあ単に黄色より赤が好きだっ手のもあるが、帽子も赤いし。さらに言えばレッド寮の良心的な狭さとボロさの方が落ち着くのでな。
「と言うわけで、結果を偽装させてもらうよ」
ハックして俺の結果を偽装した後、形跡を全て消して、その場を後にした。
あれから3日後、デュエルアカデミアから合格通知が届いた。もちろん結果はオシリスレッドだ。
廃墟住みなのになんで通知を受け取れたかって?細かいことは気にするな。
それからは面白いこともないので割愛。
数日後、俺はデュエルアカデミアへ行くための船に上にいたわけだが……
周りが俺の事を話しているのが聞こえる。そりゃ今まで見たことのない召喚方法を披露したんだ、無理もない。
俺のトレードマークの帽子のせいで顔?も覚えられたし。視線に耐えかねた俺は、看板から室内の人気のない場所に逃げた。
「あうぅ、あうぅぅ」
そこでは1人の少女がへたり込んでいた。
「……大丈夫か?」
一応声をかけてみた。このまま無視するのは後味悪いし。
「あうぅ、船によってしまって……」
「酔い止め飲まなかったのか?」
「忘れて、しまいましたぁ」
「そうか」
俺はポケットから酔い止めと水を取り出した。
「ほら、もう酔ってるからあまり効き目はないだろうけど、気休めにはなるだろう」
「あ、ありがとうございます」
俺から受け取った酔い止めを何の疑いもせずに飲んだ。素直な子だな。まあ本当にただの酔い止めだけどさ。
「ありがとうございます、少し楽になった気がします」
いや、そんなすぐには効かないだろ……
「うーん」
調子が少し戻った少女は、俺の顔をまじまじと見つめた。まあ帽子かぶってるから顔は見えないだろうが。
「やっぱり、あなたは試験ですごい召喚をした」
「ああ、あの時居た子だったか」
まあ新入生はだいたい居たよな。居なかったのは興味のないエスカレーター組ぐらいだし。
「すごかったです、シンクロ召喚でしたっけ?」
「ああ。まあそこまですごい召喚でもないが」
「そんなことないですよ。……あの、お名前聞いてもいいでしょうか」
「……コナミだ」
「コナミさんですね。私は宮田ゆまです。ゆまとお呼びください」
その後も2人でしばらく話していた。主に俺のシンクロ召喚についてだったが。ただ彼女のデッキも興味深かった。
何しろあの《E・HERO》だったのだから。しばらくして船は到着したようだ。
「じゃあな」
「はい、また会いましょう」
ゆまとはクラスが違うので、島に降りたらすぐに別れた。
島へと下りた一同は、まず受付を済ませた。そしてアカデミアの生徒手帳とも呼べるPDAや制服等を支給された。
新入生達は早速それぞれの寮に行く、俺もその波に乗って移動した。
俺がオシリスレッドの寮に行くとみんな驚いていた。まあ、筆記実技ともに上位の生徒がいたらそりゃ驚くだろうな。
その視線を無視し自分の部屋で制服に着替えた。
そして入学式が始まる時刻となり、寮を出た。
入学式はこのデュエルアカデミアの校長である鮫島先生の挨拶で始まり、保険医である女性、鮎川からの注意事項等が行われた。
入学式を終えた一同は数時間後の歓迎会まで自由時間だ。学園を見たり寮でくつろいだりしている様だが。
「はぁー」
俺がこれからやることを考えると自然と大きなため息を吐いていた。
「あら、そんな深いため息なんかついて、悩み事?」
突然後ろから色っぽい女性の声が聞こえ、その女性のものと思われる腕が抱きつくように首に絡みついてきた。
「はい?」
「貴方……あの時のボウヤね?」
「あの時?ていうかボウヤって、この時間にこの場所に入るって事は同い年じゃないのか」
「私にとって認めた真の男以外は年上だろうとボウヤなのよ。それよりも…シンクロ召喚、だったかしら?それで龍牙教官の本物デッキに勝ったボウヤ…そうでしょ?」
「……まあ、そうだが」
「そんなボウヤが何故オシリスレッドなのかしら……気になるわ。何故?」
女性、いや一応少女はそう言い寄ってきた。何故か所々俺の身体に触れながらだが。
「さあね、一応龍牙教官の言うことも一理あるし、身だしなみが気に入らなかったんじゃない?」
俺が適当に言ってごまかすと少女はピクリと眉を動かし、前に回りこんで顔を近づけた。
ようやく顔を見ることが出来た少女は、薄紫色の髪をツインテールにした少女だった。
いや、声から創造できるように少女というよりも女性と言わせるほど大人びている。
……ああ、この間の試験のとき龍牙の事を話してくれた生徒か。
「本当にそうなのかしら?」
「なんのことかな?」
突然間近に顔を寄せられ少し同様したが、何とか悟られないように対応した。
「私の名前は藤原雪乃。あなたの名前も聞いていいかしら?」
「……コナミだ」
「コナミ……本名なの?」
「さてね…でも名前なんてものはただの識別信号、それが個人を断定できるものであれば真でも偽でも問題ないだろ」
「ふふ、なかなか深いことを言うのね。でも今はそれよりも、あなたには入学試験の事とか色々聞きたいことがあるのよ。そう、色々とね……」
「……」
何だろう、本能的に危険な香りがするのだが、
「でも残念、そろそろ歓迎会が始まってしまうわね。本当はいきたくないのだけれど、最初ぐらいは顔を出さないとだから。また会いましょう?ボウヤ」
そう言って藤原は去っていった。
「名前聞いといてボウヤって呼ぶのかよ」
ふと周りを見渡すと、より一層鋭い視線で見られていた。主に男子生徒から。
もしかしてさっきの藤原とかいうやつ結構な有名人だったのか?
その視線に耐えかねた俺は小走りでそこを移動した。走っていると誰かとぶつかった。
「きゃっ!?」
そのまま床に倒れそうになったところを手を掴み止めた。
「悪い、大丈夫か?」
「べ、別に僕は平気なんだから!離してよ!」
そう言ってピンク色の髪の少女が俺を払いのけると、彼女が持っていたカードがバラバラになってしまった。
「……《六武衆》?」
「ちょっと!勝手に見ないでよ!」
「ああ、悪い。ぶつかったのは俺のよそ見のせいだしな……これで全部か?」
そう言って俺がカードを渡す。少女はカードをひったくる様に受け取った。
「べ、別に感謝なんかしてないんだから!……でも、ありがとう」
そう言って顔を紅くし、立ち去ろうとしたが、
「ちょっと待って」
あわてて俺は腕を掴みとめた。
「ちょ、ちょっと、何!?」
彼女は突然のことで顔を真っ赤にしてあわてながら言った。
「君の名前を聞いてもいいか?」
「僕はツァン・ディレ……って、なんでアンタなんかに自己紹介しなきゃいけないのよ」
「そうか……俺はコナミ、引きとめて悪かったな」
「……さよなら」
そう言ってツァンは走って行った。
「よくわからんまま名乗ってしまった」
やはり俺は人見知りでこそないが、若干コミュ症なところが否めない。何しろ人と会話しない期間が多かったから。
などと考え前を見ずに歩いていると、突然ドサッと人が倒れる音が前でした。
え?また誰かとぶつかったか?だが、さっきとは違って全く何かにぶつかった感覚は無かったが。
そんなことを考えながら前方を見ると、日本人形のように黒いおかっぱの少女が倒れていた。
まさか、俺がぶつかったからじゃないよな?
とりあえず見てしまったからにはしょうがないと、俺は彼女をお姫様だっこで保健室まで運んだ。
「失礼しまーす、って誰も居ない」
入学式の後で忙しいのか保健室には誰も居なかった。とりあえずベッドに少女を寝かせて立ち去ろうとしたが、
……なぜかこいつ、俺の制服の袖を掴んでいる。
寝ているはずの少女は、俺の制服の袖をしかっりと掴んでいた。それは俺が強引に引っ張ってもなかなか取れないぐらい強く、本当は起きてるのかと疑惑もあがるほどだった。
俺はあきらめず掴まれていない左手で少女の掴んでいる右手を掴み、力いっぱい袖を掴まれた自分の右手を引っ張った。
「よし、外れた」
と、歓喜したのもつかの間、少女の右手は今度は俺の左手をがっしり掴んだ。
……手は駄目だろ。心底困り果て仕方なくすぐそばにあった椅子に腰を下ろした。
「う……うう~ん……」
それからあまり時間のたたない内に、眠っていた少女がもぞもぞ動き始めた。お?起きるのか?
「う~ん……うん?あら……ここは?」
少女が目を擦りながらキョロキョロと周りを見渡す。そして正面にいる俺に気づいた。
「あなた様は?」
「ああ、俺は」
名乗ろうとしたとき、少女は自分の右手が俺の左手を握っている事に気づいた。
「あなた様は、もしかするとわたくしめが眠りについている間ずっとこの手を握っていてくださったのですか?」
「えっと、念のため言っておくが、この手は」
「わたくしめ、殿方からこのようなご好意を受けるのは始めてで、大変嬉しゅうございます」
「あ、嬉しいんだ」
少女はさっきまで俺に握られていた右手を胸に当てながら感激していた。
「もしかして、倒れたわたくしめをここまで運んでくださったのもあなた様なのですか?」
「そうだけど、そもそも君が倒れたのは」
「何から何まで、ありがとうございます。あの、わたくしめは紬紫と申します。あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「はぁ……俺はコナミだ。よろしく紬」
「……」
突然悲しそうな顔をして上目づかいで見てきた。
「どうした?」
「わたくしのことは紫と呼んでいただいても」
「え?あ、ああわかったよ紫」
「はい!」
今度は嬉しそうに俺を見上げた。どうも話がかみ合わず、心底困っていると、ガラガラっと音を立てて扉が開いた。
「あら、誰かいるのかしら?」
どうやら先ほど入学式で注意事項を言っていた保険医のようだ。
「すいません、彼女ちょっと体調が悪いそうで」
「彼女?ああ紬さんね」
どうやらこの保険医と紫は顔見知りのようだ。
「では、俺はちょっと用があるので後を頼んでいいですか」
「はい、解かりました」
「え……もう行かれてしまうのですか?」
俺が立ち去ると聞くと、紫が寂しそうな声を上げて聞き返してきた。
「えっと、大丈夫、このアカデミアに入る限りまた会えるから」
「……そうでございますよね。ではコナミ様、また会えるときを楽しみにお待ちしております」
そんな別れの挨拶を終えて、俺は保健室を後にした。