転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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|Д゚)<…この時間なら人もおるまい…



第六十八話

 

 

「よう、久しいな」

「はっ、お久しぶりです」

 

 節々の痛む体を伸ばし、腕を上げ肘をきっと折り畳み、指先を米神にあてる。

 鷹揚にうなずくのは宇宙攻撃軍の首魁、他ならぬドズル・ザビその人だ。

 

 地上に降りて以来、数か月振りにドズルを前にして冬彦は報告を行っていた。

 前もって電子媒体であったり、紙の書類であったりと何かしらの手段でもって報告はその都度行ってはいたが、文面の上では伝えきれない事もあるし、何より文字に残すとまずいこともある。いかに機密に気をつかおうとも、だ。

 連邦のMSとの戦闘に関してや、戦場の空気。ドズルだからこそ気にすることもある。必要と思われるとは書いているが、時に思ってもいないことを聞かれることも、やはりあるものなのだ。

 

「随分と無茶をしているらしいじゃないか、ええ?」

「……はっ」

 

 いわんとするところは、地上においての親衛隊との鞘当てのことか。それとも、ギニアスからの要請に従って新型機が地上に欲しいと強請ったことか。はたまた一昨日の模擬戦のことか。あるいはそれら全てであるかもしれないが、迂闊なことを言うべくもなく、冬彦は曖昧に相槌をうつ。

 

「あまり上手くはことが運ばなかったようだが…ま、いい。サハリン家を取り込めたのは幸いだ。それより、コンスコンから今の粗方のことは聞いているな?」

「はい。連邦との和平を進めているとか」

「そうだ。その通りだ」

 

 ドズルは神妙にうなずいた。顔の前で指を組み、前のめりになられると、広々としたデスクが小さく見えた。

 

「連邦の動きが思ったよりも早い。MSが、たった数か月でロールアウトされるとは思わなかった」

「閣下、お言葉ですが、あれは…」

「わかっている。ザクのコピーだ。どこから漏れたか考えたくもないが……なんにせよ連邦のもとにMSがあるのは事実だ。ジオンが何年もかけて作り出した優位が、わずか数か月で覆されつつある。

ヒダカ、仮にあれが量産されればどうなるか…、貴様はどう見る」

 

 地上で相対した、連邦製のザク。およそジオンのザクⅡともほぼ劣らぬと見えぬアレは、すでに反攻作戦に出るだけの数が量産され、広域に配備されて運用する段階にある。

 まして、部分的には追い抜かれている面すらある。空挺してきた機体の持っていたビームサーベルなどは、今後の技官の働きに期待するしかない。

 

「今後、こちらも順次アップデートは行われていくのでしょうが……工業力の差から考えるに、数、質ともに、いずれ逆転されることも考慮にいれるべきでしょう」

「やはり貴様もそう見るか……詳報が上がってきたときの情報部の混乱がどのようなものだったか、想像もつかんだろうな。最重要機密がまんま抜かれたのだ。どれだけの関係者が一時的にとはいえ拘束されたことか……」

「そこまでですか?」

「多くはまだ拘束されたままだ。下手人が確保できていないせいでな」

「それは」

 

 いくら何でも、まずいのではなかろうか。口にすることは自制したが、すっと冷たいものが背に走る。

 

「今しかない。今であればまだ話をまとめられる。たとえ恒久和平でなくとも数年の停戦がなれば、地上に確保した領土でもって国力を増強できる。そうなれば今度こそ恒久和平への道が開ける…!」

 

前のめりになっていた体を背もたれに倒し、ため息をつく。

 

「とりあえず、兄貴からも短期間ではあるが一時的に戦闘を止める言質をもらった。親父も乗り気で古い伝手で話をつけてもらった。あとは乗るか反るかだ」

 

 最初は気づかなかったが、よくよく見るとドズルの目にはうっすらとクマが見て取れた。人並外れた体力を持つこの男でも、やはり相当な難事にあたって消耗しているらしかった。

 

「それはそれとして、閣下」

「うん?」

「式はいつ頃なさるので?」

「おお、それか!」

 

 一転して、喜色満面の様子に逆に話をふった冬彦が面を食らう。

 心なしかクマも薄くなったような気がする。

 式というのは、ドズルとカーン家の長女、ハマーンの姉マレーネとの結婚の件である。ずっと停滞していたのが、ハマーンの帰還によって

 

「二週間後を予定している。もっと早くにやりたかったのだが、ずいぶんと遅くなってしまった。貴様も無論招待するぞ」

「ありがとうございます」

 

 堅苦しい場であるし、情勢を鑑みるに高官どうしの腹の探り合いも相当行われるだろう。

 まあ、タダ飯が食えると思って耐えるしかないだろう。

 そんな内心を隠す冬彦に、ドズルから更なる命令が下る。

 

「そこで、一つ貴様に頼みたいことがある」

「はっ、なんなりと」

「姉であるマレーネとの式だ。ハマーンにも是非出てほしい。が、キシリアの目もある。そこを、うまいこと貴様の知恵でごまかしてくれ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「それは中々に難題だねぇ」

 

 ドズルに報告を終えて官舎に戻った冬彦は、隊の首脳部を集めて知恵を絞っていた。炬燵から布団をとった四角い机を囲み、フローリングに敷いた畳の上にそれぞれ思い思いに座っている。

 冬彦の右隣にアヤメ、向かいにハマーン。左手側は空席だが、フランシェスカが買い出しに向かっている。

 

「難しいかね」

「カーン家の令嬢といえば、いいとこの人間なら誰だって知ってるさ。子供は成長が早いから、よほど親しくなければごまかせるかもしれないけど、キシリア閣下は顔を知ってるんだよね?」

「はい、何度か視察で顔を合わせたことがあります」

「さーて、どうしようか」

 

天板を指でたたきつつ、アヤメは斜めに座るハマーンを見る。冬彦はネタが思い浮かばないので、アヤメ頼りだ。

 

「やはり、私がお姉様の結婚式に出るのは、難しいのでしょうか」

 

 小さな背を丸めて、ハマーンがうつむきがちにつぶやいた。

 冬彦は、アヤメを見る。彼女のほうも、思案顔だ。

 

「……まあ、予算次第だけど、なんとかしてみようか」

 

 

 

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