「なあ、相棒」
「なんだい、相棒」
虫の音一つとしてしないダンジョン内に相棒の声が木霊する。
「帰ったら何するよ」
僕と目を合わせず、虚空を眺めながら語りかけた。
「俺か?そうだな......」
「おい、僕はまだ何も言ってない」
僕の話を無視しながら彼は腕を組んで考え始めた。
しばしの間頭を捻り、そしてようやく言葉を発する。
「そうだな、やっぱりまずは飯に行こうぜ。ほら、『豊穣の女主人』!俺、まだ行ったことなくってよ!めっぽう美人なエルフの女の子がいるんだろ!?」
男の性と言うべきか、彼もまたかわいい女の子が好きなのだ。特に冒険者という常に死と隣あわせの職業ではそうじて、こう言ったものであったり、他にも酒だったりタバコだったりを好む物も多い。
「はぁ、またそれ?いい加減にしないと奥さんに怒られるよ?もう一緒に怒られてあげないからね」
「いや〜、でも今回の稼ぎは半端ないからな!何でも食いたい放題だな!」
喜色満面の笑みだ。彼のそういう少年にも似たこの笑顔に惹かれる人は多い。
「もしかしたらランクアップしてるかも知れないな!これで俺もレベル5。一端の上級者ってわけだな」
「まだ気が早いでしょ。だって君、この間ランクアップしたばかりじゃないか」
取らぬ狸の皮算用とはまさにこの事を言うのだろう。だが、彼のその自身に満ちた表情は自分がランクアップすることに何の疑いも持っていなかった。
「そういやアイズ何ちゃらって言うロキんとこの奴がランクアップしたんだってな!確かレベル6だろ!?すっげえよな!」
「あれは本物だね。一回見たけど、彼女はオーラから違ったよ。本物の天才って彼女のことを言うんだって思った」
羨ましそうに語るコイツの顔は、どこか聞かされた英雄譚に思いを馳せる子供の様な純粋さで満ち溢れていた。
「なあ、お前もそう思うよな!」
噛み合わない会話をする彼の視線の先は、僕ではなくただただ無骨なダンジョンの天井に向かっていた。
ダンジョンの下層。何階かすらわからないそこで、一人の男が褐色のダンジョンの壁に背を預けて座り込んでいた。
目は虚ろに光り、ただ虚空を眺めている。おそらく何日もダンジョンに潜っていたのだろう。新品同様に整備されていたであろう鎧も引っ掻き傷や凹みでボロボロになっており、留め具のほとんども原型をとどめていない。銀色に光っていたその剣も刃こぼれを起こしてガタガタになっていた。
そこには彼以外の生存者はなく、ただ一つ、鎧を着た屍が横たわっていた。
答えを返す者はいなかった。