グラン・ミラオス迎撃戦記   作:Senritsu

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>>>> 前哨戦(4)

 

 

 エルタたちがリオレウスと邂逅してから数時間が経過した頃。狩りは大詰めを迎えていた。

 かの竜はあれから窪地を飛び去って浅瀬の広がる見晴らしのいい平地へと移動し、彼らは今そこで戦っている。浅瀬は夕焼け空の赤色を映し出し、そこに空を飛ぶリオレウスと三人のハンターの長い影が落ちていた。

 

「──ッ!」

 

 リオレウスが空へ飛び立つ直前まで剣を振るっていたソナタとアストレアに向かって、ブレスが薙ぎ払われた。普段の炎ブレスとは異なる、地面の広い範囲へと火炎の吐息を吹き付けるブレスだ。

 見てからの回避はできない。そのブレスを浴びてしまった二人のうち、ソナタはあえて大げさに吹き飛ばされることで全身から浅瀬に飛び込む。水飛沫と共に二転三転、ソナタの身体に纏わりついていた炎は蒸気を上げて掻き消された。

 対してアストレアは、熱気を吸い込んでしまわないように息を止めてその場から離脱はしたものの、特にアクションは起こさない。炎が纏わりついていないのだ。防具の特性によるものか。

 

 大きく後退したソナタと側面方向に移動しただけのアストレアを見比べて、リオレウスはアストレアに追撃の狙いを定めたようだった。

 翼膜は大きく斬り裂かれているものの、その飛行能力は完全には失われていない。何度も羽ばたいてその身を空高く持ち上げたリオレウスは、アストレアに対して太く鋭い爪を生やした両足を向けた──急降下攻撃。

 狙いは正確無比。目標を目で追いつつ翼で姿勢を制御する。自由落下に等しい速度で迫るそれは、その爪の持つ猛毒も相成って凶悪な殺傷力を持つ。

 

 アストレアはリオレウスが自らを捕捉していると気付いたと同時に駆け出した。リオレウスから見て時計回りとなる方向にじぐざぐに、狙いがつけにくくなるように。

 さらに、リオレウスの空中での動きを見定める。そのときを待って──リオレウスが急降下に入るべく、身体を強張らせたその瞬間に。

 

 毒爪が襲い掛かる。後方に逃げても追いかけられ、左右に避けようにもリオレウスの両足のどちらかに捉えられてしまう。

 だから思い切って前方への回避を選ぶ。毒爪と尻尾の間にある僅かな空間。その空間へと素早く針を通すイメージでその身を滑り込ませる。

 瞬きの間に、リオレウスは地上すれすれまで舞い降りた。身体構造的に先んじて尻尾が地面に叩きつけられる。次いで毒爪を握りこむように脚を動かすものの、そこに在るはずの手ごたえはない。アストレアは背中に爪を掠めさせつつもその脅威を避け切ったのだ。

 

 地上や海上の獲物を捕らえるべく鍛え上げられた急降下攻撃をも避けられて、リオレウスは息を切らしながら憎々しげに唸る。再び空へと舞い上がろうとして──その背後に人影が踊った。

 ごっ、という鈍い音と共に、背中の甲殻が弾け飛ぶ。脊髄に走った痛みにリオレウスは怯み、すぐさまその身を翻して()()()を仕掛けてきた相手を見やった。

 橙と赤の色合いの衣を纏った小さきもの。両の腕に穿龍棍(つばさ)を持ち、空の領域へと躍り出る。急降下攻撃の間は標的のみに注意が集中する。その隙を狙われたのだ。

 

 リオレウスは大きく後退し、その者が地上へと降り立つ間際を見計らって炎ブレスを放った。炎ブレスは一秒と経たずに地面へと着弾するが、そこに彼の姿はない。

 立て続けに二度目の跳躍。以前と同じく爆風を背中に受けてさらに大きく飛び立ち、彼は一気にリオレウスへと肉薄する。右手の穿龍棍を大きく振りかぶった。

 リオレウスは今度こそ彼の動きをよく見ていた。眼差しは自らと同じ飛竜種と戦うときのそれだ。

 

 大きく羽ばたいて高度を上げ、彼の軌道上から自らを逃がす。さらに上方から毒爪で以て彼を掴みにかかった。

 彼もまたこの反撃に冷静に対応する。毒爪の一本に右手の穿龍棍の一撃を叩きつけ、空中での位置をずらして掴みを掠らせるのみに留めた。さらにもう片方で追撃を放とうとするが、それを察知したリオレウスが尻尾で打ち払って牽制、尻尾のブレードへのガードを片腕で行った彼は、大きく弾き飛ばされつつも受け身を取って着地する。

 まさに空中での肉弾戦だ。本格的にリオレウスが対処しにかかれば彼も空中での行動が制限されてくるようであるが、他二人の地上にいる狩人たちから見てみれば、地に足をつけずにモンスターとやり合っている時点で十分な衝撃だった。

 

 エルタを追い払って地上に降り立ったリオレウスは、視界にいる三人の狩人を見て苦しげに吼えた。

 もう空を飛び続ける体力もあまり残されていない。肉を喰らって疲労を和らげたいが、手ごろな草食竜はいなくなってしまっている。このままでは……

 

 リオレウスが見せた後ずさるような動き。それを察知したアストレアがソナタに目配せをした。ソナタは頷きを返し、ポーチから拳大の手投げ弾を取り出す。

 

「閃光玉を────」

 

 そのときだった。

 

 ──ぴん、と空気が張り詰める。

 

 それは遥か彼方から運ばれてきた、さざ波のような微かな波動だった。

 リオレウスは冷水をかけられたかのように落ち着きを取り戻し、彼方の空を見る。その様子を見てエルタとソナタは首を傾げた。

 三人の中でただ一人、アストレアだけはリオレウスと同じくその波動を感じ取っていた。夕焼け色に染まる空を眺めるように、遥か遠方へと目を向ける。

 

 時間で言えば数秒にも満たない短い時間。しかし、その沈黙はかの竜のその後の行動を大きく変えた。

 再び翼をはためかせ、助走をつけて空へと飛び立つ。低空に留まるようなことはせずに上空へ。夜空の彼方へと飛び去って行く。

 

 あの先で休息をとるつもりか。次こそは止めを刺す。後を追って駆け出そうとしたエルタをアストレアが引き止めた。振り返ってみれば、その場に佇んでやや怪訝な顔をしたソナタの姿が目に入る。

 

「……逃げた……?」

 

 その一言が、この四半日に渡る狩りの唐突な終わりを示していた。

 

 

 

 

 

 日が落ちて、夜になった。ソナタたちはベースキャンプへと戻り、焚火を囲んで狩りの後始末に勤しむ。

 

「ホットミルク、飲む? ミルクって言っても豆乳だけどね」

「……いただこう」

 

 ソナタから手渡された陶器のコップに、鍋から仄かに湯気を立てる豆乳が注がれる。

 エルタは舌を火傷しないように気をつけながら豆乳に口をつけ、少し目を見開いた。

 

「……美味しい」

「そう? 外から来た人にそう言ってもらえると嬉しいな。農場長さんが喜ぶよ」

 

 ソナタは穏やかに笑って、傍に座るアストレアにも声をかけに行った。

 彼らは頭以外の防具を身に纏ったままだが、返り血の匂いは特にしない。消臭玉で血の匂いを消しているのだ。

 大怪我をしたり悪臭を浴びたときはともかく、ベースキャンプとは言えど狩場で防具を脱ぎ取るわけにもいかない。近くの水辺から水を汲み取り、布巾を浸して自らの防具と身体を拭いていく。そんな程度だ。

 

 エルタは豆乳を少しずつ飲みながら、胴だけ防具を脱いで怪我の手当てをする。

 腫れている部分の多くがリオレウスの突進を受けて吹き飛ばされたときのものだ。揉み解した薬草を張り付けて、上から布包帯を巻いていく。これで一日もすれば腫れはだいぶ収まっているだろう。骨折をしていなかったことが何よりの幸いだった。

 

 身体のあちこちにあった打撲もあらかた手当てを終えたか、というところでエルタはアストレアへと目を向けた。

 彼女は背中に担いでいた大きな巾着袋から、大人の腕程の大きさの肉の塊を取り出してそれを血抜き、解体していた。その先の部分には黒光りする大きな突起が生えている。それはリオレウスの四本の指の内の一本だった。

 これまでの戦いの間に一本を切り落としていたらしい。そう言えばかの竜とやりあったときに片足の毒爪が少なかったなとエルタは思い返す。

 

 慎重に爪の周りの義手の仕込み刃で削ぎ落していく。肘から先に取り付けられているだけのような刃なので小回りは利かないはずだが、かなり器用にそれを扱って両腕がある人とほとんど変わらない手捌きができていた。

 そうやって爪の根元まで切り込んでいった末に現れたのは、太く白い骨とそれにくっついた内臓のような管。リオレウスの毒腺だ。

 アストレアはその管の口を押さえつけてその口を切り、中に入っていた毒液を置いてあった瓶の中へと注いだ。それなりに大きな瓶がその管に入っていた毒液でいっぱいになる。

 

「……その毒液は、狩りで使うのか」

「うん。リオレウスのこのどくは血を流しつづけられる。ふつうに使ってもいいけど、血のあとを追いかけるときとか、使える」

 

 アストレアの言う通り、リオレウスの毒爪に含まれる毒は強力な出血毒だ。もしこの毒を傷に打ち込まれると、血が止まらなくなる。下手をせずとも出血多量で死に至るため、リオレウスの狩りに赴くときは止血に特化した解毒薬が欠かせない。エルタたち三人ももちろん携帯していた。

 彼女曰くあまり日持ちはしないようだが、確かにかなり有用だ。ペイントボールよりも隠密に向く。ただ、エルタは今まで狩りをしてきて、こうやってリオレウスの爪から毒腺を直に抜きとる光景を見たことがなかった。それを素直に彼女に伝える。

 

「……僕はその捌き方を知らない。せいぜいゲリョスやドスイーオスから毒袋を取り出す程度だ。……なんというか、狩りが暮らしに根付いているんだな」

「……よくわからないけど、わたしはこれがふつうのことだ」

 

 アストレアはやや不愛想にそう答えた。何かおかしなことを言っただろうかとエルタは頬をかく。大剣を研ぎながらその様子を見ていたソナタがくすりと笑った。

 

「アスティはちょっと返事に困っちゃったみたい。ところでエル君ってさ、フリーのソロハンターだよね」

「……ああ」

「ずっとソロでやってるの?」

「……いいや。バルバレにいたころは仲間がいた。今は離れ離れだが」

「そうなんだ……。ハンターになってからずっと狩猟とか討伐のクエスト一筋なのかな」

「ああ。よく分かったな」

 

 エルタは少しばかり驚いた顔でソナタを見やる。ソナタは少しだけ迷うようなそぶりを見せて、しかし穏やかな口調のまま話を続けた。

 

「ええとね、気に障ったら申し訳ないんだけど、エル君の狩りの仕方がすごく前のめりに見えたんだ。無謀って意味じゃないんだよ。ちゃんと技術が伴ってるから、逃げ腰よりも命の危険はずっと少ないと思う」

「……」

「でも、ちょっと不思議に思ったんだ。エル君みたいな人がよくこんなクエストを受けてくれたなって。標的も特に決まってないし、見返りも少ないと思う。タンジアだったらもっとちゃんとしたクエストがあったと思うんだ」

 

 ソナタは大剣を傍に置いて、焚火を挟んで向こう側のエルタの方を見る。アストレアは口を閉ざして聞きに徹していた。エルタは少しの間考え込んで、やがて小さく息を吐いて口を開く。

 

「……このクエストを受けたときは、特に何も考えてはいなかった。ただ手ごろなクエストが受けられればいいと。今の話を聞いて、自分の中でも疑問が生じたくらいだ」

 

 自らの手の平を見る。風牙竜の皮で編まれた手袋は着始めたばかりのころよりも色褪せて、日々穿龍棍の柄を握り込んでいることがよくわかる擦り切れ具合になっている。

 

「成し遂げたいことが、ひとつだけある。()()()()()()()は、実は分かっていない。それでも、ハンターとしての実力を高めていく理由としては十分足りえるものだった。

 ……その成し遂げたいことが、もうすぐ分かる予感がしている。あとはそれを待つだけだ。だから、それまでの間は……強くなることよりも、ここで起こっていることを知れたらいい」

 

 エルタはそう締めくくった。焚火の炎が彼の背後にゆらめく影をつくっている。その揺らめきはまるで、彼の内にある静かな気迫を浮かび上がらせているようだった。

 

「なるほどね。エル君にとって、今は強くなるために頑張るときを過ぎて、実力を発揮するのを待っているときなんだ」

 

 ソナタの言葉にエルタは頷きを返す。

 

「成し遂げたいこと、それが分かるとき。それで君がここに来たってことは、何かがここで起こるってことだよね。……うん、それはその通りかもしれない」

 

 ソナタは少し険しい顔をして呟いた。もはやその不穏な雰囲気を感じ取っていない者はいないのだろう。海の商人、タンジアやモガに住まう人々、この地を拠点とする狩人たち。誰もが違和感に気付いている。

 

「あのリオレウス、たぶん上位以上の個体だった。ハンターとやりあったことはなさそうだったけど、かなり体力と力に恵まれてたんだろうね。それが寝床にも戻らず縄張りを捨てて逃げ出すなんて……まだ早計かもしれないけど、滅多に起こらないよ。彼らの縄張り意識はそんなにやわじゃないはずなんだ。

 アスティ、リオレウスが急に逃げ出したあのとき、何か気付いたことはあった?」

 

 ソナタは黙していたアストレアに向けてそう問いかける。彼女は頷きはしたものの、どう言葉にしたものかと悩んでいる様子だった。ややあって訥々と語りだした。

 

「とても遠くからだとおもう。風でも音でもない。でも、地面をつたわってきた。むねに手を当てたら、しんぞうが動いているのが手につたわるみたいに。()()()()の地鳴りとは違う。なんて言えばいい……。……とうさんの声にちょっと似てた」

「……それは、リオレウスが逃げ出すのも納得かもしれないね。アスティのお父さんの声に近いものだったら、私やエル君が気付けなくても仕方ないよ」

 

 ソナタの顔の険しさが増す。対してエルタは頭の上に疑問符を浮かべていた。彼女たちが何を言っているのか分からなかったのだ。ただ、それはとても大事なことのように思えて、聞き流すことなく疑問を口にする。

 

「父さんの声、とは? アスティの父親は竜人族じゃないのか」

「ああ、それについては……話してもいい? アスティ」

 

 ソナタがアストレアに向けて問いかけると、彼女は唇をきゅっと結んで、それから「わたしが話す」と言って、エルタの方は向かずに、焚火を見ながら話しだした。

 

「わたしのとうさんは、昔この森の主だった竜、ラギアクルスだ。わたしはとうさんに守られて生きてきた。ソナタと出会うまではずっとこの森で、とうさんといっしょにくらしてきた。とうさんはすごく長く生きた竜だったから、人の言葉を話せたんだ」

「それは……僕たちのような人と会話ができたということか」

「ううん。ふつうの人はこわがるから話せない。ちゃんと森の主に向き合える人にだけ、とうさんの言葉は聞こえる。音じゃなくて、心につたえる。そんな声だった」

 

 それは彼女にとってとても大切な記憶なのだろう。アストレアの瞳に穏やかな光が宿る。

 永い時を生きた竜は、人の言葉を解する。それは書物でこそ多く語られた事柄ではあったが、実際にそれを成したという話を聞くのは初めてだった。

 人によっては、そんなことがあり得るわけがない、と一笑に付すだろう。しかし、エルタはアストレアの言葉をすんなりと受け入れた。

 

「そうか。君はドラゴンコミュニアなんだな」

 

 龍と交信する者(ドラゴンコミュニア)。伝承やおとぎ話において、竜や龍と意思疎通を行う者たちの総称だ。モンスターが身近にいるのもあり、このような話や人物には事欠くことがない。

 ドラゴンとは本来古龍を表す言葉だが、ここでは竜の場合でも一括りにされている。

 

「……()()()()。あなたはふしぎに思わない気がしてた」

「むしろそちらの方が気になるんだが。ソナタもだ、二人とも初対面なのに勘が優れすぎる」

 

 エルタのやや困り気な言い方にソナタは吹き出してしまった。ますます居心地の悪そうな顔をするエルタに謝りながら、ソナタはアストレアに代わって話す。

 

「ごめんごめん。狩場ではあんなに勇ましかったエル君がたじたじなのを見るとつい。ところで、どうしてそんなにあっさり信じてくれたの?」

「そういうこともあるだろう。アスティの話し方が独特なのも、リオレウスが逃げた原因に気付けたのも彼女の経歴がそれなら納得がいく」

 

 感性の違いというやつだ。とエルタは語る。普段は相容れることなどありえないはずの竜と共に暮らしたのであれば、人でありつつも竜の側に感覚が研ぎ澄まされていってもおかしくはない。人に飼いならされた竜が竜としての威厳を失うのと同じように。

 それと、とエルタは付け加えた。

 

「アスティと初めて挨拶を交わしたとき、まるで竜に瞳を覗かれているような感覚があった。あれはラギアクルスと共に生きたことによって培われたものだったんだな」

 

 少なくとも人として生きたならば、たとえハンターであったとしてもあのような眼光を宿すことはできないはずだ。

 きっとアストレアは竜の在り方に近いのだ。右腕がないにもかかわらずハンターを続けているのも、この職がモンスターたちの世界に近しいからなのだろう。

 

「なるほどね。何はともあれ、エル君がこの話を信じてくれて本当によかったよ。きっと受け入れてくれる人の方が少ないからね……」

 

 ソナタはしんみりと話す。エルタもまた、自らのような受け取り方をする人はごく少数だろうと思った。アストレアはそれだけ特異な少女なのだ。

 少しの間沈黙が続いて、やがてソナタが咳払いでその沈黙を打ち切った。

 

「さて、話を戻そうか。アスティが感じた気配の話だよね。

 ひょっとしたらあの龍が戻ってきたのかもしれないって思ってたけど、地鳴りじゃないっていうアスティの話からすると微妙な感じかな……それでも一度、海底遺跡には行ってみるべきかもしれない」

「……あの龍といえば、ナバルデウスか」

「うん。そういえば、アイシャと村長さんから話を聞いてたんだったね。海底遺跡はナバルデウスの縄張りだった場所なんだ。ところでエル君って泳げるんだっけ?」

「ああ。水中での狩りも一通り訓練を受けている」

「それなら、調査を手伝ってもらっていいかな。あそこすごく広いからアスティと私でも調査が大変だし、もしナバルデウスがいたらまた追い出さないといけないしね」

「それは構わないが、明日以降はどうするんだ」

「そうだねー。リオレウスが戻ってこないとも限らないし、また厄介なモンスターがやってくるかもしれない。だから数日はこの狩場を見て回って、海底遺跡の調査はそのあとから──」

 

 エルタとソナタは焚火を挟んで話し合いを続けていく。いつの間にか夜も更けて、月は空高く昇り、空の雲間からは星が瞬いていた。

 アストレアは黙って二人のやり取りを聞いている。ただ、その内心では別のことを考えていた。

 

 エルタがアストレアの話をあっさりと信じた理由は、きっと今話したことだけではない。むしろその話していないことの方が大きな要因だ。そしてそれは、アストレアがエルタを見て感じ取るものと密接にかかわっている。

 きっと話したくないことなのだろう。ソナタも流石に気付けていない。それくらい彼の内の深くに隠されていて、なぜか自分だけは見透かしてしまえている。

 

 やはり彼とはもう少し話してみたい。そう感じてしまう自分の気持ちが、アストレアは自分でもよく分からなかった。

 

 


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