三五三鎮守府の軌跡―救済には悪意をもって   作:多々良ひつじ

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妖精さん?

「固いな!」

「泣き言を言わないの!」

「泣き言? 私の知らない言葉だな!」

「あら、そう?」

 

 那智のボヤキに、妙高が会話を重ねる。

 その気持ちも分かる。

 戦艦ル級。エリートとはいえ、一隻だ。

 自分たちの攻撃をたやすく受け止めている光景は、認めたくないものだろう。

 ル級は、技術か本能か。

 妙高、那智の砲撃を両手に持つ大楯のような兵装で、時には流し、時には受止め、自身の体へと及ばさせない。

 その中、那智の一撃がル級の大楯兵装を揺らした。

 

「そこです」

 

 神通が、静かに吐く。

 真直ぐ伸ばされた右腕に並ぶ、14cm単装砲三基の砲口が同時に火を噴く。

 三つの砲弾は、手の大楯をかいくぐり、ル級の胸元をとらえた。

 

「ここです」

 

 神通が示す。

 強敵と認識したのか、ル級が兵装ごと動かして、砲口を神通へと向けた。

 それが妙高、那智へ、ル級は腹をさらす事に。

 

「那智!」

「分かっている!」

 

 悲痛の声が上がった。

 

「ああっ! ……まだ……引けません……!」

 

 

 但し、妙高からだ。

 少し遅れて、ル級の咆哮があがる。

 ル級は顔を向けず、いわゆるノールック。残した右手大楯で砲撃してきた。

 それが妙高を直撃。

 中破までもっていかれた。

 

「奴も効いているぞ!」

 

 那智の言うとおり、ル級も妙高、那智の砲撃に被弾していた。

 大きく前後に体を振り、しきりに雄叫びを上げている。

 

「ここで、押し込む! なんだ?」

 

 那智は背後からくる威圧感に、動きを止めた。

 

「駆動音? にしては、高すぎるような――満潮さん!」

 

 神通が音源をさぐる。

 急速に接近する満潮がそこにいた。

 

「どういう事だ! 貴様はサルベージだろう。任務を投げ出したのか!」

「こっちまで砲撃が来て、探せないのよ!」

 

 那智が満潮を叱責した。

 満潮の言い分に、那智はさらに口を開く。

 

「がっ! ……なんなのよ。うざいわね!」

「なんだと!」

 

 しかし、それは憤慨ではなく、驚愕によるものだ。

 

「馬鹿な、ル級の、戦艦からの直撃を、駆逐艦が耐える。だと……」

 

 満潮の口上の最後。ル級からの斉射が、満潮の額をとらえた。

 ガクンと、頭だけが後ろへ吹き飛ばされる。

 那智は、満潮までも。と憤ったが、当の満潮はすぐに顔を戻して、赤くした額をさすっている。

 

「それに、なんだその光は?」

「本当に、うざいわね。時間がないのよ。満潮!」

 

 満潮が、意志を込めた名乗りを上げる。

 突き出した10cm連装高角砲の砲口へ吸い込まれるように、満潮が纏う緑の燐光が、流れ込んでいく。

 ル級が手の兵装を体の前に、門さながらに並べた防御姿勢を、駆逐艦の砲撃に構えて見せる。

 

「ル級が、警戒しただと?」

「バカね、その先にあるのは地獄よ!」

 

 電光雷轟一撃。

 違う、一閃だ。

 スペック以上の初速で放たれた砲弾は、光の軌跡を残し、さながらレーザーのようにル級の構えた大楯へと吸い込まれていく。

 こけおどしが。とでも言うように、ル級は不敵に口端を跳ね上げる。

 ゴキョと、鉄塊が歪む鈍い音がした。

 ル級の大楯からだ。

 

「満潮さんの一撃で、ル級の大楯がひしゃげたのですか?」

 

 神通の言葉通り、ル級の大楯の一枚は“く”の字にひしゃげ、一枚は下部が千切れ飛んでいる。

 

「まだよ、撃つわ! ……あ、あれ?」

 

 急速に満潮がまとう燐光は、弱まったと思う間もなく、スッと掻き消えた。

 強烈な脱力感に襲われて、満潮は膝からストンと崩れ落ちる。

 

「満潮! 先ほどのダメージ? それよりも今は――撃て―!」

 

 妙高は声を張り上げた。

 戸惑いを隠せない那智、神通だったが、強者としての資質か、ほぼ無条件に正しく砲撃を行う。

 

「終わったな」

 

 那智は見たままを口にした。

 三隻の集中砲火に、ル級エリートは絶叫の後、赤いオーラ散らせ沈んでいく。

 

「まだよ。那智、指令室へ打電! 私たちは、天龍の捜索に向かいます」

「いいのか?」

 

 那智が、妙高の指揮に意見を挟む。

 

「言いなさい、那智」

「天龍をロストしてから、時間が経っている」

 

 那智は、満潮に目をやる。

 満潮は、妙高から天龍のサルベージを指示されていた。

 事をなす時は、時間を掛けるか、人を揃えるか、だ。

 天龍には時間がない。

 ならば、人を揃える――人海戦術しかないわけだが、今は那珂しか行っていない。

 ル級打破の貢献が有ろうとも、満潮の行動を那智は容認できない。

 

「今も探している那珂からは、発見の報告はない」

 

 それゆえ那智の眼は、隠すことのない怒りを湛えていた。

 

「提督へ、サルベージ続行の是非を、確認すべきではないか?」

 

 那智の言う事は、もっともである。

 妙高は、中破。

 満潮はわからないが、この後の戦闘参加は、期待できないだろう。

 想定外のル級。

 さらなる想定外が起きても、おかしくない。

 この状況で無用に長居する事は、得策ではないだろう。

 むしろ危険だ。

 

「いいえ、提督は、死体でも引きずってこい。と言われました。それを通すのみです」

 

 妙高は瞳に力を込め、那智を説得するように宣言した。

 

「三十分だ。それ以上は、危険すぎる」

 

 那智は、承諾の代わりに条件を出すと、さっさと那珂の元へと向かった。

 照れ隠しか。

 それとも、那智の優しさか。

 ともなければ、無駄な時間を極力避けた結果だろうか。

 

「那智、打電!」

 

 妙高へ、那智は背中を向けたまま、手を上げ振って了解の意思を示す。

 

「妙高、その……指示を無視して、ごめんなさい」

「そうね。勝手は自分以外も殺すわ。気を付けなさい」

 

 神通に肩を借りている満潮は、力無く頷いた。

 

「『自分がいなくなる。その後の周りを考えろ』よ」

「な、何で知っているのよ!」

 

 満潮の右頬骨にある赤丸いフェイスペイントを、妙高はそう言って指でつつく。

 

「急ぎましょう。天龍が待っているわ!」

 

 □ □ □

 

 那珂のもとにいち早く、那智が駆けつけた。

 

「那珂! どうだ?」

「天龍ちゃんは、まだ迷子なの」

「貴様!」 

 

 那珂の振る舞いに、那智は激高した。

 

「……そうか、早く見つけてやらなけばな」

「本当に、困ったちゃんだよねー」

 

 それも、一瞬。

 那智は、静かに那珂を見つめた。

 那珂は微笑む。

 瞳に涙を溜め、口元を引きつらせていても、那珂は微笑む。

 後に那珂は、『何があってもアイドルは泣いちゃダメ。なんだよ?』と、周囲に話していた。

 

「どう?」

「遅いぞ、妙高」

「申し訳ないわ。那智、打電は?」

「完了している」

「それで――」

「天龍を捜索中。それだけだ」

 

 吐き捨てる那智を、妙高は目を細めて眺める。

 

「な、なんだ? 別に本当の事だろう。ンッンッ、そら、探すぞ」

 

 明るい空気に包まれたのもつかの間、那智の声は見渡す海の黒さに、しぼんでいった。

 

「皆、集まってどうしたの?」

「姉さん?」

「うん、どうしたの神通?」

 

 背後からの突然の声に皆が振り向けば、そこには――川内。

 

「川内、どうしてだ?」

「いやだな。夜戦だよ。夜戦と言ったら、私でしょ。まあ今回は、夜はあってるけど、戦いは無いんだけどさ」

「では、なぜだ?」

「これ」

 

 川内は、肩から背中へとつながる縄紐を強く引く。

 

 ――天龍!

 

 それぞれが、ぞれぞの言い方で、天龍の名を叫んだ。

 

「そ」

 

 川内は、アッケラカンとしたものだ。

 天龍は大量生産のプラスチック製雪ソリのような代物に、仰向けで寝かされていた。

 

「亡骸だけでも、拾えたのは幸いだな」

「そうね」

 

 那智の言葉に、妙高は天龍から目を逸らさずに同意した。

 

「よく姉さんを。しかも、単機で送り出しましたね」

「え? 神通。それどいう意味? 私じゃ戦力にならない?」

「そうではなくてですね……」

 

 神通は周りの目を気にしながら、言ってよいのか迷うように、続けた。

 

「第二艦隊の天龍さん。第三艦隊の私達。回航中の龍田さんや、第六駆逐隊の皆さんを迎える役目の明石さんは、第四艦隊」

 

 うん、と一つう頷いて神通は、川内を見た。

 

「姉さんは今……第一艦隊。それも旗艦――ですよね?」

「あ」

 

 妙高達は互いの顔を見合った。

 

「んー、まーね。でも、大丈夫!」

「えー、川内ちゃんがセンターなの?」

 

 川内はポリポリと、自分の頬を指で掻く。

 注目が照れくさいのだろうか?

 

「また、英断をしたものだな。今、川内が沈めば、鎮守府は解体だぞ。ただの無謀か?」

「どうかしらね。策を講じるタイプだと思っていたけど、激高すると我を忘れてしまうのなら、困り者ね」

 

 那智と妙高が意見を交わす。

 

「あの腹黒グチャグチャ司令官が、怒りに狂って何も考えないなんてありえないわ! むしろ、何かロクデモない事を考えるわよ!」

 

 それを聞いていた満潮が、自身の体験談だと豪語するかのような啖呵を切った。

 

「そ、そうよね。やっぱりよね」

「そんなだったのか? 満潮よ」

 

 妙高は気後れしながらも、同意。

 那智は、満潮のトラウマにでもなったかと、気遣う。

 

「えー、そうかな? 結構楽しいよ」

「そう……ですね」

「那珂ちゃんも、提督は悪い人だけど、ファンは大事にしないとね。キャハ」

 

 川内型三隻の意見は、おおむね好意的だった。 

 

 妙高、那智は、その評価に意外だと、見開いたり、片眉を上げたりしている。

 満潮は敵認定と、川内型をねめあげる。

 

「あ、戦いだけだよ。他は駄目だよね」

 

 これでもかと川内は、顔の前に立てた手先をメトロノームのように高速で動かして、全力否定をアピール。

 神通は、そっと目を逸らして、悲しくスイング……失礼、素振りを見せる。

 那珂は、一隻あれ? とアウェーを感じていた。

 

「さあ、天龍を連れて帰りましょう」

 

 笑みをこぼして雰囲気を楽しんでいた妙高が、能面をつけたように表情を一変させる。

 

「ああ、仲間が沈むのは、分かっていてもやり切れないな」

「そうね。あれだけの死を見てきたのにね」

 

 皆、軍艦の魂に刻まれた記憶の残滓へと、思いを馳せていた。

 

「死んでないよ?」

「どれが?」

 

 人は驚くと思考が混線すると言うが、艦娘も同様のようだ。

 『どれが』ではなく、『誰が』が、適正な質問ではないだろうか?

 

「これ、死んでないよ?」 

 

 川内は、『どれが』と言われたからか、『これ』と足元を指さす。

 

「川内ちゃん。そんな事言わないで」

 

 川内が指差す先は、天龍。

 那珂は、みえみえの慰めはいらないと、川内の片手を取った。

 

「えー、信用無いなー。じゃあ、ほい」

「罰当たりな!」

 

 川内は、ひょいと天龍を蹴る。

 死体蹴りの言葉はあるが、味方にはさすがに。だろう。

 那智が憤慨するのも当然だ。

 

「川内! いくらなんでも――」

「うっ」

「――『うっ』?」

 

 妙高がたしなめようと、川内へにじり寄る中、うめき声がポツリ。

 

「あー、うー、あー、いー」

「ゾンビ! 天龍ちゃんが、ゾンビになったよ? えっと、お塩だっけ?」

「お浄めが効くのでしょうか? なら海水を掛けてみてはどうでしょうか?」

「え? 神通。ゾンビと言ったら、頭と心臓にダブルタップでしょー」

 

 呻きを上げる天龍を見ての川内型。

 はやり姉妹艦は、どこか根本は同じなのだろうか。

 

「馬鹿を言っていないで! 天龍! 聞こえる? 天龍!」

 

 満潮が天龍へにじり寄り、その肩をゆすった。

 

「あー、だりー。あー死ぬ。まじ死ぬ。龍田ー、水くんねーか?」

 

 寝返りをするように天龍は身をよじると、片腕を顔に当てて龍田の名を呼ぶ。

 

「天龍! 貴様、生きてるなら生きてると、さっさと申告せんか!」

 

 那智は天龍の肩を掴むと、全力で揺さぶった。

 

「あ、え、那、那智! わ、わか、痛ててててて。痛てーって!」

 

 天龍は、死体と見間違うかという大破状態。

 自身が動くならともかく、他人に動かされれば、予測できない痛みは、余計に痛い。

 

「あー、そうか。助けに来てくれたのか。悪ーな」

「助けるのは当然でしょ? そちらこそ、よく助かったわね天龍」

「その通りだ、妙高。しかし、この那智の目から見ても、望みが無い状態だったが」

 

 仲間の無事を喜ぶべきなのだろうが、妙高、那智は単純に奇跡が起きたと、受け止める事ができない。

 天龍が身をよじって、腰裏をごそごそとあさる。

 

「こいつらの、おかげだ」

 

 仰向けの腹に置いた手を退けるとそこには、

 

「妖精さん?」

 

 白いヘルメットをかぶった三人の妖精がいた。

 一人が、親指を立てる。

 グッド・サムズアップ。

 ニカッっと、歯を見せる笑顔も忘れなかった。

 

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