かみさまに『イレモノ』を取り違えられてしまった『女の子』のおはなし

※試験的にpixivにも載せました。

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かみさまに『イレモノ』を取り違えられてしまった『女の子』のおはなし

※試験的にpixivにも載せました。


いじわる。うそつき。―――――ありがとう。

 「まぁちゃんって、おんなのこみたい!」

 

 近所のおともだちは、みんなそう言った。

 

 「豪さんちの正雄ちゃんってがばいやぁらしかねぇ」

 

 近所のおばさんもこう言ってた。

 

 「"まさお"ってなまえなのにおんなみてーでちゃーがつかぁ!*1

 

 なにがちゃーがつかか!

 だって―――――

 

 『まぁ』はおんなのこだもん。

 

 ガマンできなくって、まぁはパピィとマミィにたずねてみた。

 

 

 ―――――ねえ、どうして『まぁ』には、パピィと『おなじの』があるの?

 

 ―――――まぁ、『おんなのこ』なのに、どうして?

 

 

 ふたりとも困った顔をしていたのを覚えてる。

 前にパピィとおふろに入ったとき、パピィと『おなじの』がまぁにもあった。

 でも、マミィと入ったとき、マミィには『おなじの』は、なかった。

 本で読んだら、『それ』は『おとこのこ』にしかないって書いてあった。

 

 ―――――そんなはずないもん。

 

 ―――――まぁはおんなのこなのに。

 

 なんどもパピィに聞いてみたけれど、パピィははぐらかしてばかり。

 そんなある日、マミィといっしょにおふろに入った時に、マミィにこのことをたずねてみると、マミィはちょっと考えてからこう言った。

 それが―――――まぁが覚えてる、たったひとつのマミィとの思い出―――――

 

 「……それは……そうね、まぁちゃんが生まれる時に、『かみさま』が失敗しちゃったのかもね」

 「かみさまが?」

 「そう。マミィがマミィなのも、パピィがパピィなのも、かみさまが『カラダ』と『ココロ』をきちんと合わせてくれたから、生まれて、こうして、ここにいるの。……本当は、生まれてくる子はみんなそう。男の子のココロは男の子のカラダに……女の子のココロは女の子のカラダに入るけど、でも……『かみさま』はちょっとだけ間違っちゃったの。本当はまぁちゃんのココロも、女の子のカラダに入って生まれてこなきゃいけなかったんだけど……かみさまはまぁちゃんのココロを、間違えて男の子のカラダに入れちゃって……こうなっちゃったのかもね」

 「え~!?それじゃまぁ、このままおおきくなるとおとこのこになっちゃうと!?パピィみたいにゴリラさんみたいなっちゃうと~!?」

 「そうかもしれないけど……でもそれって、『特別なコト』なのよ?」

 「とくべつ?どうして?」

 「それはね……マミィは女の子だったから、『女の子のなりたいもの』にしかなれなかったけど……でも、まぁちゃんは違うわ。まぁちゃんは、『男の子』にだって、『女の子』にだって、どっちにもなれるの。他の子よりも、いろんなモノになれちゃうの。まぁちゃんってスゴいのよ?『どっち』を選ぶのも、何になるのも、全部まぁちゃんの自由なんだから!」

 「だったら、まぁはおんなのこがええ!まぁ、このままおとなにならんと!……『まさお』ってなまえも、おとこのこっぽいからすかんと!」

 「……あらあら♪……そうね。『名前』も、『カラダ』に合わせてつけちゃうからね……なら……ポイしちゃおっか♪」

 「ええと?マミィがつけてくれたんとちゃう?」

 「好きじゃないなら、変えればいいの。まぁちゃんはまだ子供だから、ね」

 「じゃぁ……マミィがつけて!まぁの、あたらしいなまえ!『おんなのこ』のなまえ!」

 「いいの?……う~ん……それじゃ―――――『リリィ』ってどうかしら?」

 「『リリィ』?」

 「かわいいユリの花のお名前。……ヘンかしら?」

 「ううん、そんなことなか!まぁ……じゃなくって、リリィはきょうから『リリィ』になる!」

 「その意気よ♪そのままいい子にしていれば、きっとかみさまも反省して、あなたに『女の子のカラダ』を返してくれるかもしれないわね♪」

 「ほんと!?それっていつと!?」

 「そうねぇ……あなたが『大人になるまで』には、きっと……」

 「よ~し!リリィ、がばいがんばって、おとなになるまでに、ほんとうのおんなのこになるけんね!」

 「マミィも応援するわ♪―――――リリィちゃんが将来『どんな子』になるのか、マミィはきっと見ることはできないけど―――――」

 「……?マミィ?」

 

 ―――――こうして、『まぁ』はマミィから新しい名前をもらって、『リリィ』になった。

 これからいっぱいいい子にして、大人になるその前に、かみさまに『女の子のカラダ』を返してもらうの!

 でも、どうしてかみさまは、リリィに『女の子のカラダ』を最初からくれなかったの?

 リリィをこんな風に『ちぐはぐ』にしたかみさまって、ほんとうに『失敗』したのかなぁ?

 

 もしいるのなら、おしえてよ―――――かみさま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かみさまはおしえてくれなかった。

 それどころか、マミィをお星さまにして、連れていっちゃった。

 リリィを『リリィ』にしてくれたマミィを、リリィとパピィから取り上げて―――――

 リリィとパピィを、いっぱい泣かせて―――――

 本当は『女の子』のリリィを、『男の子のカラダ』にして―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

かみさまの、いじわる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 それからは、パピィとのふたり暮らしだった。

 マミィがいなくなってしばらくはさみしかったけど、パピィがいっぱいなぐさめてくれて、不思議とさみしくなくなっていって―――――

 パピィといっしょに過ごす時間が、とっても楽しかった。

 特にパピィは、リリィといっしょにテレビを見るのが大好きで、リリィもそんなパピィが大好きで―――――

 だから、パピィをテレビの中から笑顔にしたくって、リリィは子役事務所に入った。パピィはリリィのマネージャーになってくれた。

 いっぱいお仕事頑張って、いっぱいパピィも笑ってくれたけど―――――

 でも―――――いつからかな―――――パピィが、『テレビの中のリリィ』しか、見てくれなくなったのって。

 それに―――――リリィはずっといい子にしてるのに、かみさまはいつまでたっても『女の子のカラダ』をリリィにくれない。

 リリィが『ホンモノの女の子』になった姿を、パピィにも、お星さまになったマミィにも、見せてあげたいのに。

 このままじゃ……リリィが大人になっちゃうよ……

 そんなある日だった。

 

 「―――――これ、なに?」

 

 お仕事が終わったあと、着替えてた時に、それを見つけた。

 足のすねに―――――黒い糸みたいなのがくっついてる。

 引っぱってみると―――――いたかった。

 

 ――――――――――

 

 「正雄!開けんね!お前がおらんと現場が進まんやろ!」

 「イヤだ!絶対に開けん!」

 

 リリィは……間に合わなかったのかな。

 『大人になっちゃった』から―――――『男の子』として、大人にならなきゃいけなくなっちゃったの?

 

 「足の毛なんて、剃ればよかさぁ!正雄が少し『大人んなった』証拠ばい!」

 

 それが―――――

 それがイヤだってこと、パピィはわかってない!

 『大人』になっちゃうと、もうリリィはかみさまから、『女の子のカラダ』をもらえなくなっちゃうんだよ!

 

 「大人になんかならんもん!リリィはずっと『このまま』やもん!パピィのバカっ!」

 

 パピィはなんも……わかってない。

 いっぱいがんばって、いっぱいいい子にしてれば、きっと―――――きっと―――――

 

 「―――――昨日のお弁当のひじき?」

 

 鏡に映ったリリィのほっぺたに、この前みたいな黒い糸が一本くっついてた。

 引っぱってみたら……ほっぺたにくっついて、離れない―――――

 

 「………………ぁ……ぁ、ぁ、ぁぁ、ああぁぁ……ぁぁ」

 

 

―――――ひげええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!??????????

 

 

 その瞬間、リリィの胸の中がすっごく痛くなって、全身にぞわっとした感じが広がっていって―――――

 体中が、動かなくなっていって―――――

 

 世界が、まっくらになった。

 

 どうして―――――

 どうして、こんなことになっちゃったの?

 リリィ、ずっと……ずっと、いい子にしてたよ?

 なのに、かみさまは『女の子のカラダ』をくれなかった。

 『ホンモノの女の子』にしてくれなかった。

 マミィが楽しみにしてたのに。

 パピィをもっと、笑顔にしてあげたかったのに。

 それだけじゃない。

 かみさまは、リリィとパピィから、『また』取り上げるの?

 また、パピィを泣かせるの―――――?

 

 おねがい……!パピィから、リリィを取り上げないで……

 リリィから、『リリィ』を取り上げないで……!

 

 もうこれ以上、リリィとパピィに、さみしい思いをさせないで――――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのおねがいは、届かなかった。

 結局リリィは、『何』にもなれなかった。

 『ホンモノの女の子』にも、パピィをいっぱい笑顔にできる『星川リリィ』にも―――――

 マミィが見たがっていた、『将来』にも―――――

 

 

 こんなの、残酷すぎる。

 

 かみさま―――――

 

 リリィがこんなにおねがいしたのに、がんばってたのに、こんなのないよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かみさまの、うそつき。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 「いいか?お前らは死んだ。そして"ゾンビィ"になった。そんでもってこの現代社会に―――――」

 

 気が付くと―――――なんだかとっても古いお屋敷みたいな場所に、リリィは立ってた。

 このアヤシイおにーさん―――――タツミが言うには、リリィは他の6人の女の子といっしょに、『ゾンビ』になって生き返ったらしいけど……

 『ゾンビ』って、時々映画でやってる、うーうーうなって両手を前に出して襲ってくるアレのこと?

 でもリリィはリリィってことがわかるし、カラダは自由に動くし……

 鏡を見てみると、おハダが青白くなってて……それに動くと、みしっ、とか、ぱきぱきって、カラダから時々ヘンな音がする。

 どんなに走っても疲れないし、ころんでも痛くない!……リリィの好きなクレーン車みたいに、大きくて重いモノだって簡単に持ち上げられちゃう!

 でもちょっと無理すると、手足やアタマがポロッて取れちゃう。……これも痛くなくって、くっつけちゃえばあっという間に元通り!

 あとは……胸から『ピンクなの』が出てきちゃってるけど……ま、いっか♪

 ……本当に……リリィは『ゾンビ』になっちゃったんだ……

 

 「これからお前等には、サガを救うためにアイドルをやってもらう!」

 

 よくわかんないけど、リリィ、アイドルになれるの!?

 歌って踊って、ファンのみんなからカワイイって言ってもらって、笑顔になってもらえるお仕事!

 やるやる!それならリリィ、がんばってアイドルやるよ!

 ……でも、ひとつだけ心配なことがあって―――――

 『レッスン』をはじめる前に、タツミには聞いておきたいコトがあって―――――

 

 「なんだリリィ?さっさとスタジオに行け。レッスンを始めるぞ」

 「ねぇ……ゾンビって―――――カラダが大きくなるの?」

 「……そんなことを聞いてどうする」

 「ねぇ、教えてよ!ゾンビのカラダって、成長するのっ?」

 「お前………………」

 「…………ごくり。」

 「そんなワケェあるかーーーいッッ!!」

 「びぇっ!?」

 「ゾンビィの身体ってそりゃ『死体』じゃろがァッ!?死体の骨や筋肉や脳ミソが成長してたまるかいッ!!ゾンビィが巨大化したらそれこそホラーかC級映画じゃろがぁぁぁィ!!!!」

 

 ―――――そう、なの……

 ―――――もうこの先、かみさまに『女の子のカラダ』をもらえなくなっちゃった……

 リリィはずっと、『男の子のカラダ』で過ごしていかなきゃいけない―――――

 でもちがう。この『ゾンビのカラダ』はトクベツだもん!

 リリィはこれからもず~っと、『リリィ』でいられる!

 どれだけ時間が経っても、大きくならないし、ひげも生えてこない!

 ずっと子供のままで……ずっとこの姿で、アイドルになれるもん!

 見ててね、パピィ……マミィ!

 パピィとリリィからマミィを取り上げて、パピィからリリィを取り上げて、最後まで『女の子のカラダ』をくれなかった、いじわるなかみさまを見返してあげるんだから!

 そしたら、パピィとマミィも、きっと―――――

 

 そう思ってから、リリィは思い出しちゃった―――――

 

 パピィ―――――今なにをしてるのかな……?

 リリィがいなくなって、パピィはきっと、ひとりぼっちになっちゃってるよね……

 今でも、リリィのおうちで暮らしてるのかな……?

 でもタツミは、ゾンビのことは絶対ヒミツって口をすっぱくして言ってるから、本当のことは言えないし、パピィに連絡することもできないし……

 それに何より……こんな『真っ青』になったリリィ、パピィが見て笑ってくれるはずがないし……

 

 決めた―――――

 

 パピィのことは……忘れよう。

 パピィはリリィよりもずっとおっきくて、ずっと強いから、きっとリリィがいなくなってもさみしがってないと思うから……

 それに、同じ佐賀でもせまくないんだし、パピィとばったり出くわすなんて、そう無いはずだから……

 ごめんね、パピィ―――――リリィは……『星川リリィ』っていう子は……

 パピィの子どもの、『豪正雄』っていう子はね……

 

 もう、()()()んだよ―――――

 

 ――――――――――

 

 それからリリィは、『フランシュシュ』のみんなといっしょに、レッスンをいっぱいして、ライブやイベントにいっぱい出て、がんばったの!

 失敗しちゃったり、くじけそうになったこともあったけど、みんながリリィを助けてくれたから、リリィはぜんぜん平気だよ!

 

 

 おっちょこちょいであわてんぼうだけど、みんなをまとめてがんばってるさくらちゃん。

 

 レッスンの時はキビしいけど、誰よりもみんなのことを考えてる愛ちゃん。

 

 歌がとっても上手で、笑った顔がステキな純子ちゃん。

 

 まるでマミィみたいに優しいゆぎりん。

 

 最初は一番ゾンビっぽくてコワいって思ったけど、本当はとってもカワイイたえちゃん。

 

 『ちんちく』って呼んでいっっっつもからかってくるけど、いざって時にはとっても頼りになる、『お姉ちゃん』みたいなサキちゃん。

 

 お仕事が終わって帰ってくると、一番に出迎えてくれるワンちゃんのロメロ。

 

 言ってることはヘンだけど、リリィやみんなをかわいくメイクしてくれたり、ステキな歌を作ったり、お仕事を持ってきてくれるタツミ。

 

 

 みんながいるから、リリィはぜんぜんさみしくないもん!

 お仕事いっぱいがんばって、リリィたちを見てくれる人たちに、いっぱい元気になってもらうの!

 

 ――――――――――

 

 その日も、いつも通りのイベントだった。

 撮影会のリリィの列に並んできた、その人は―――――

 普通のヒトよりもとっても大きなその体、髪の毛の生えていない頭、低い声―――――

 見まちがえるはずもなくって―――――

 

 「すまない……あの子が……似ていたんだ……7年前までよくTVに出ていた……『星川リリィ』という名の子役に……!」

 

 ―――――パピィだ。

 

 ―――――パピィが、リリィに会いに来てくれた……!

 

 こんな事が起きるなんて、思わなかった。

 リリィは、パピィのことを忘れようとしてたけど、パピィは、リリィのことを忘れられなかったんだ―――――

 そしてパピィは、少し後のイベントにも、リリィに会いに来てくれた。

 

 「おじさんにもね、君くらいの子供がおったとよ……でもね、おじさんいいお父さんになれんやった……自分のことばっかりで、その子のことちゃんと考えてあげられんやった―――――」

 

 ―――――ちがう。ちがうよ……

 リリィだって……リリィだって、パピィのこと、考えてなかった……!

 いつもリリィは、リリィだけのことばっかり考えてて、ゾンビになってからだって、パピィのこと、忘れようとした……!

 

 「いろいろと、怖がらせてしもて悪かったね。おじさんはもう来んけん……すまなかった……それだけ言いたくて……それじゃ」

 

 ……あやまらなきゃいけないのは、リリィの方だよ……!

 パピィがどれだけ、リリィがいなくなってからつらい思いをしたのか、どんな思いで、リリィに会いに来てくれたのか―――――

 今日、リリィにお別れを言いに来たのか―――――

 

 つらいのは、パピィもいっしょだったんだ……

 パピィは……さみしかったんだ……リリィのことを、ずっと大好きでいてくれたんだ……

 それなのに―――――リリィはどうして―――――

 

 ―――――そんなパピィを、『忘れよう』だなんて思ったんだろう……―――――

 

 ――――――――――

 

 さくらちゃんとみんなに相談したら、アイドルにしかできない『心を伝える方法』で、パピィにリリィの想いを伝えようって言ってくれて……

 『歌』をつくって、パピィに届けることに決めた。

 リリィが歌詞を書いて、タツミが曲を作って、みんなで振り付けをして―――――

 そうしてできたこの曲を、必ず、ぜったいに、パピィに―――――

 

 パピィがお仕事してる会社の近くでライブをすることになった、8月17日。

 ライブ会場に向かう途中の車の中のリリィは……ちょっと不安だった。

 本当に、パピィは来てくれるのかな―――――

 もし来てくれなかったらどうしよう―――――

 

 「……大丈夫。りりぃはんのお父上は、必ず"らいぶ"に来てくれんすよ」

 「ゆぎりん……」

 「親はそう簡単には、子を忘れらりんせん……たとえそれが、『死』で区切られたとしても……」

 「……うん……そう……だよね……うん……」

 「あらあら……泣いたらお化粧が流れてしまうでありんすよ……?涙はきちんと想いを伝えたその後に、とっておくんなし」

 

 そうだよね、大丈夫―――――

 パピィは、きっと来てくれる―――――

 リリィも、信じて待ってるから―――――

 

 ――――――――――

 

 もう、残りは最後の曲だけ。

 なのにパピィはまだ来てない―――――

 このまま、パピィは来ないの……?

 この、最後の曲だけは、どうしてもパピィに聞いてほしいの……!

 そうじゃないと、リリィがここにいる意味なんてないの……!

 二度とパピィに会えなくなっちゃうかもしれないなんて、そんなのイヤ!

 

 おねがい―――――かみさま―――――

 

 もう、リリィとパピィに、いじわるしないで―――――!

 

 

 もうこれ以上、リリィとパピィに、さみしい思いをさせないで――――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな体が、お客さんたちの一番後ろに立って、息を切らして―――――

 でも、まっすぐに、リリィを見てて―――――

 

 「…………パピィ……!」

 

 来て、くれた……!

 パピィが来てくれた!

 飛び上がりたいほどうれしいけど……ここはステージの上。

 今から、リリィの想いを……パピィに届けるよ。

 言葉に出すのはダメかもしれないけど、この『歌』が、パピィの心に―――――

 それから、お星さまの海にいる、マミィにも届くように―――――

 

 「聞いてください―――――『To My Dearest』」

 

 

 パピィ―――――それから、マミィ―――――

 リリィは、とっても幸せだったよ。

 『ホンモノの女の子』になろうとして、一生懸命がんばって……一度は、パピィと悲しいお別れをしなきゃいけなかったけど……

 

 でも……今になって、こう思うの。リリィが『男の子のカラダ』じゃなかったら―――――

 かみさまが、『間違えて』いなかったら―――――

 『豪正雄』も、『星川リリィ』も、『フランシュシュの6号』も、今ここにはいないんだって。

 今は、『ゾンビのカラダ』になっちゃったけど……これはパピィとマミィにもらった、大事な大事な宝物。

 ゾンビになったから、パピィよりも長生きしちゃうかもしれないし、マミィにはずっと会えないかも知れないけれど……リリィは絶対、忘れないよ。

 

 パピィとマミィの思い出を、忘れずに胸にしまっていくから。

 リリィのカラダは死んでるけど、思い出は心の中で、ずっとずっと、生き続けるの!

 これから、リリィはパピィと離れて生きていくけど……もうさみしくなんかないから……!

 パピィも、リリィのことを絶対絶対、忘れないでね!約束だよ!

 

 マミィも見てる?マミィにもらった名前も今はちょっとお休みしてるけど、それでもフランシュシュのみんなに、『リリィちゃん』って呼んでもらうたびに、うれしくなるの!

 マミィは言ったよね……『何になるのも、全部自由』って。

 だからリリィは、リリィを見てくれるひと、みんなを笑顔にできる……そんなリリィになるから!

 お星様の海から……ずっとリリィのこと、見守っててね!マミィも約束だよ!

 

 

 

 

 

 

 ねぇ、かみさま―――――

 

 いじわるなんて言って、ごめんなさい。

 

 うそつきなんて言って、ごめんなさい。

 

 こんな風に、パピィとマミィにお礼ができるようにしてくれたのが、かみさまの『反省』っていうのなら―――――

 

 

 

 リリィ、とってもうれしかったよ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かみさま、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ちゃーがつか=佐賀弁で『カッコ悪い』




―――――あとがきは活動報告に載せます。


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