森精種(エルフ)の名門貴族の次女として産まれたアリシアは五重術者(ペンタ・キャスター)の天才だった。当主と推される程に。
   そんな彼女だったが面白ければ他がどうなろうと知ったこっちゃないという考えの彼女は国を飛び出し、世界を回っていた。
   そして彼女は人類種(イマニティ)最後の都市エルキアへ向かっている途中にテトによって召喚された『  』(くうはく)を目撃し、「面白そう!」と目的も忘れ『  』(くうはく)の下へ向かい、そして3人は出会った。

   作者が少し前に短編集の「思いつき置き場」に投稿したものです。少し変更されています。
   そして、作者は1、2、3巻を持っていないのでおかしなところがあるかも知れませんが読んでくださると嬉しいです。

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   少し前に短編集の「思いつき置き場」に投稿したものです。
   投稿はかなりスローペースになると思います。


第1話 ニルヴァレン家の次女

   ニルヴァレン家。位階序列第7位森精種(エルフ)の名門貴族にその少女は生まれた。

 

   彼女は『五重術者(ペンタ・キャスター)』——つまり、5つの魔法を同時展開出来る。

   『四重術式(クアッド・キャスト)』を展開出来れば一流の術者であるとされるため彼女は超一流といっても過言ではない。

 

   彼女は天才だった。

   もちろん、空前絶後の天才シンク・ニルヴァレンには及ばないがそれでも非常に優秀な術者だ。

   しかし、そんな彼女は少し——いや、かなり変わっていた。

 

   彼女はいつも退屈していた。

   何をしても人並み以上にでき、周りには凡人ばかり。

   彼女にとって人生はつまらないゲームだった。

 

   彼女には姉がいた。姉の名はフィール・ニルヴァレン。

   フィールは刻印術式(リンクタトゥー)や、初心者用補助魂石(ブースター)に頼ってようやく『二重術式(デュアル・キャスト)』ができる程度と思われていた。フィールがそうなる様に演じていたのだ。

 

   それをアリシアが知ったのは姉であるフィールが人類種(イマニティ)の奴隷だったクラミー・ツェルと遊んでいる場面を目撃した時からだ。

 

   興味を持ったアリシアは五重術式(ペンタ・キャスト)を駆使して盗み聞き、盗み見た。

   そして、知った。姉のフィールは友であるクラミーのために己の力を隠していたことを。自分を超える六重術者(ヘキサ・キャスター)だったことを。

 

   アリシアは驚愕した。

   フィールが自分以上の術者だったことも驚いたが、そんな超一流と言われるのが普通な程の力をたかが人類種(イマニティ)ごときのために隠し、ニルヴァレン家の恥と蔑まれ続けていたことが自身の——いや、森精種(エルフ)の価値観では考えられなかったのだ。

 

   故に興味を持った。森精種(エルフ)の——いや世界の常識では人類種(イマニティ)は虫ケラ。にも関わらず、フィールが庇うことにとても興味を惹かれた。

 

   それを知ってから彼女はフィールが落第した学院——国内最高の学府『白の楼樹(ガーデン)』では図書館以外に行かなくなった。

   そもそも彼女は天才だった。全ての学問をそこらの森精種(エルフ)以上にはもう出来た。

 

   図書館では人類種(イマニティ)について調べ始めた。それで気づいた。おかしいと。

   大戦時の人類種(イマニティ)の記録が不自然な程に一切無い。しかも、大戦終結時、大陸1つが人類種(イマニティ)の領土であった。これが偶然か。否だろう。

 

   それに気づいた時彼女は笑った。面白い、と。

   彼女が初めて笑った瞬間だった。

 

   それからアリシアは変わった——いや、本来の性格が表に出た。

   元々の彼女は自分が面白ければ他がどうなろうと知ったことではないという性格だった。

   面白くなるならば何であろうと切り捨てる。

   家族や知人、国——世界。

   果ては自分さえも。

   彼女にとってはこの世界の全ては自分が楽しむためのものでしかないのだ。

 

   それからは他種族についても調べ始めた。森精種(エルフ)はその生まれにあぐらをかいて他種族を蔑んでいる。

   しかし、他種族にも優秀な部分はあるだろう。森精種(エルフ)を超える部分が。

 

   それから彼女は他種族を見下すことをやめた。そして、自分の目で世界を見たいと思うようになった。

   だが、彼女は次期当主として期待されていた。姉が無能を演じている上、彼女は『五重術者(ペンタ・キャスター)』なのだ。

   それが煩わしくてかなわなかった。しかし、フィールに無能のフリをやめろと言っても聞かないだろう。

 

   そこでいいことを思いついた。奴隷の少女を贔屓にすれば良いのだ。

   虫ケラの人類種(イマニティ)を贔屓にしているとなると外聞がかなり悪い。そうすれば両親達も諦めるに違いないと。

   そもそも、人類種(イマニティ)のことを疑問に思った今では人類種(イマニティ)を見下すことなど簡単にはできない。

 

   実際に行動に移すと驚かれた。当然だろう。今までは虐めていたわけではないが興味を示してすらいなかったのだから。

   怯えていたクラミー——この時初めて名前を知った——とこちらを警戒していた姉には念話(まほう)で伝えておいた。

   すると2人は驚いた。どうやら気づかれているとは思っていなかったらしい。

   尊敬していた姉の抜けている部分を知って少し笑った。

 

   話してからはクラミーも徐々に打ち解けてきて友人になることが出来た。疎遠だったフィールとも仲良くなることが出来た。

 

   しかし、問題の両親はというと。彼女を説得しだした。

 

   あれはゴミだや、お前のような奴が関わるべきではないなど。終いには脳異常や精神異常を疑われた。

 

   彼女は両親を見損なった。なんと視野の狭いことかと。

   貴様らこそゴミだと何度となく思った。

 

   腐っても親。ここまで育てた恩や、親の権力や財力に世話になった恩もあり、穏便に済ませようと思っていたがこれにより完全に気が変わった。

 

   フィールとクラミーに別れの挨拶を済ませて、置き手紙1つなく彼女は飛び出した。

   フィールとクラミーには寂しがられたが前々からそのつもりだった為引き止められることは無かった。

 

   問題の両親は彼女がいなくなるとあらゆるコネを使い捜索したそうだ。

   しかし、彼女は前々から決めていた見つからないルートを通り、最短で国外へ消えた。

 

   時々やりとりしていたフィール達との手紙によると彼女がいなくなったのが理由で床に伏せ、そのまま死んだらしい。

   彼女はそれを聞いてもざまぁ、としか思わなかった。

 

   そして、自由になった彼女は色々な国を見て回った。普通の森精種(エルフ)が嫌悪する地精種(ドワーフ)も嫌悪より好奇心が勝り、国を見て回り、悪魔とさえ言われる天翼種(フリューゲル)にもゲームで勝ち、だが本は奪らず見せてもらうだけにして。

   虫ケラであると言われる人類種(イマニティ)の国も恐怖の視線を向けられながらもそれを流し、見て回った。

 

   そんなおかしな森精種(エルフ)の名は

 

   ——アリシア・ニルヴァレン

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

   さて、そんな彼女が今どうしているかと言うと——

 

「ふ〜ん♪ふふ、ふ〜んふ〜♪」

 

   そう未だ幼さが残る顔を綻ばせ、上機嫌にスキップしながら大きなリュックを背負って歩いていた。

   彼女が歩くのは位階序列第16位人類種(イマニティ)に残された僅かな領土の端の方である。

   大戦終結直後はルーシア大陸全土を領土としていたが6000年の間に減り続け、いまや見る影も無く、最後の都市を残すのみである。

 

  さて、そんな絶望に沈む人類種(イマニティ)の領土を何故彼女は上機嫌に歩く歩いているかと言うと。

   なに、ただの——気まぐれだ。

 

   先王の遺言により人類種(イマニティ)最後の都市エルキアの王はゲームによって決めるそうだ。

   それを聞いた1つ思いついたのだ。

   エルキアを手に入れてそれでエルヴン・ガルドを潰そうと。

   底辺だと思っている人類種(イマニティ)に潰されればさぞ、上の老害共はいい吠えずらを見せてくれることだろうと。

   そんなえげつないことを思いついたアリシアの顔は誰もが見惚れる美しい笑顔だった……。

 

   そんなことが出来るのか、失敗したらどうするのか、などは彼女の頭にはない。

   誰かが問うたとしてもこう答えただろう。

   「それはそれで面白い」と。

 

   さて、そんな上機嫌なアリシアは空から何かが落ちてくるのに気がついた。

 

「?」

 

   首を傾げ、五重術式(ペンタ・キャスト)を駆使して見ると、それは黒髪黒眼の人類種(イマニティ)の青年と白髪紅眼の少女。

   そして、大きな帽子を被り、両目にはダイヤとスペードの少年——唯一神テトだった。

 

   そして、それらはここより遠くで落ちた。

 

「何あれ!?面白そう!」

 

   そう叫ぶとアリシアはなんのためにここまで来たのかを全て忘却の彼方に追いやり、3人が落下した所へ向かった。

 

「っと、これじゃダメかな?」

 

   その前にふと気がついたように立ち止まり、自分を見下ろした。

   人類種(イマニティ)にとって森精種(じぶん)は恐怖の対象だ。変装する必要があるかも、とアリシアは考えた。

 

   そして、そう思ったアリシアが右手の指を鳴らすと、高速で編まれた術式がヴェールが取れるようにアリシアの姿を変えた。

 

   煌びやかな金色の髪はエメラルドのような緑色に。

   四つ菱を宿した碧い瞳はルビーのような鮮やかな赤色に。

   そして森精種(エルフ)の特徴たる長い耳は人類種(イマニティ)のような耳へと変わった。

 

「う〜ん。こんなものかな?」

 

   どこからともなく現れた手鏡に顔を写し、髪を構いながらそう呟く。

   高速で偽装魔法と念の為それを感知させないようにする魔法を編んだアリシアはしばらく真面目な顔をしていたが直ぐに、ニッコリと笑い、

 

「っま、いっか♪さ〜、行こう♪」

 

   そう言って、手鏡をポイッと投げ捨てる。

   それは空中で溶けるように消え、アリシアは再び、落下地点へ向かって歩き出した。

   バレたらバレたで面白そうだ考えながら……。

 




   おかしなところがあればご指摘ください。


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