【艦これ】 五月雨「PSYCHO-PASSですか?」SS 作:名前のない艦娘
原作:艦隊これくしょん
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト クロスオーバー 艦これ PSYCHO-PASS 艦隊これくしょん 五月雨 朧 日向 千代田 天龍 不知火 時雨 クロス サイコパス
第1話の文字数3万4900字強!!
西暦2112年、世界は混沌に支配されていた。
新自由主義経済の歪みによる世界的な倫理道徳感の崩壊とそれに伴う紛争、犯罪の激化。
そして、その混乱に拍車をかけるかのように2100年頃に突如として世界中の海に現れた謎の人類に敵対的な生命体、深海凄艦。
深海凄艦の登場によって、ただでさえ混乱した状態であった世界はさらなる混乱へと叩き落され、世界はより深刻な混沌化の様相をみせていた。
だが、そんな中でも日本だけはまだ、法治国家としての体を守っている。
それを守るのは日本の法治システムの要、シュビラシステムと、深海凄艦の登場と同じく突如として現れた人類に友好的な生命体。
かつての軍艦の名と魂を持つ戦乙女達、艦娘である。
◇
半年前。
五月雨「えっと……五月雨って言います!よろしくお願いします!」
五月雨の声が部屋に響く。
初めて来たその施設の一室で五月雨が最初に発した声の先は……。
青色の三つのカメラを搭載した警備用ドローンだった……。
西暦2112年、新自由主義経済の歪みによる貧富の差の拡大から世界的な倫理道徳感の崩壊を招き、紛争・犯罪の激化による政情不安のため多くの政府や国の崩壊が起こった不安定な世界。
そんな中、日本だけは世界で唯一、法治国家としての体を成していた。
その法治国家の体を守る根幹とも言えるシステムがシュビラシステム。
シュビラシステムは人間の心理状態や性格的傾向を計測し数値化した。
あらゆる心理傾向が全て記録、管理される中、個人の魂の判定基準となったこの計測値を人々はPSYCHO - PASSの俗称で呼び習わした。
犯罪に関しての数値は犯罪係数として計測され、たとえ罪を犯していない者でも、規定値を超えれば潜在犯として裁かれる様になった。
そんな世界に2100年頃、突如として世界の海に現れた人類に敵対的な未知の生命体、深海凄艦。
深海凄艦はその圧倒的な物量と驚異的な能力によって瞬く間に世界の海を支配した。
今や世界の海上交通網は完全に破壊され、ただでさえ混乱状態であった世界はさらに混沌化の様相をみせていた。
だが、日本はまだ、法治国家としての体を守っている。
日本の平和を迫り来る深海凄艦から守っているその存在。
それは、深海凄艦と対の性質を持ち人類に対して友好的な存在である深海凄艦とまともに対抗ができるかつての軍艦の名を持つ戦乙女達、艦娘である。
彼女達は安全保障上の観点と一般市民への精神保全上の観点から、日本各地に作られた特別区と呼ばれる区画の中でのみ一定の自由を与えられ、世間から隔離された生活をしていた。
そして、ドロップと呼ばれる現象で新たに捕獲された艦娘は特別区内において厚生省が管轄する艦娘専門の教育施設にて現代日本での生活に順応が出来るように基礎的な専門の教育が行われているのだった。
横須賀特別区・厚生省教育施設・3F会議室
秋雲「はい。ここまでで、どこか分からなかった娘~いたら挙手して~」
モニターの前に立つ秋雲が指揮棒を持ちながら自分の前の席に座る5人の艦娘に聞く。
秋雲の目の前では左から不知火、曙、舞風、五月雨、不知火の順で座っている。
艦娘「「……」」
秋雲「それじゃあ、質問も無いみたいなんで~五月雨!」
秋雲が指揮棒を五月雨に向ける。
五月雨「は、はい!」
五月雨が席から立ち上がる。
秋雲「現代日本では全ての市民はサイマティックスキャンによってサイコパス測定が行われてるけど、このサイコパス測定を行っているシステムの名前は?」
五月雨「え、えーっと……その……しゅ、シュビラシステムです!」
秋雲「正解!ちゃんと覚えてるじゃん!じゃあ、サイマティックスキャンで色相が規定値まで悪化した人間はどうなる?」
五月雨「社会からの隔離と治療の対象となります!」
秋雲「正解!じゃあ、ここでクイズ!あ、別にここからはまだ教えてない所だから答えられなくても良いからね。私達、艦娘がサイマティックスキャンを受けるとどうなるでしょーか!人間と同じ?それとも違う?」
五月雨「え?ええーっと……その……人間とは……違う?と思います」
秋雲「うーん……まぁ、分かんなくても当然か……五月雨ちゃん、座って良いよー」
五月雨「は、はい……」
五月雨が席に着く。
秋雲「良いみんなー、感の良い子なら気がついてるかも知れないけど、ココからの話はこれからの皆の生活に直接関わる事だから絶対に忘れないようにしてね。私達、艦娘がサイマティックスキャンを受けるとそれは普通の人間と同じように測定されます。みんなも定期健診の時に色相チェックはされた事あるでしょ?これは私達の今の肉体が人間と99.8%同じ素材で出来ているからです。最近の研究では個人的は良く分かんないけど艦娘の精神構造は人間と殆ど同じという事が分かっています。だからサイマティックスキャンでサイコパス測定が受けられるという訳ね~」
秋雲はモニターに表示した図を指揮棒で指しながら説明する。
秋雲「つまり、私が何を言いたいかっていうと、私達、艦娘もシュビラシステムによる色相チェックの対象って事なんだよね。だから、色相を濁しすぎると……厚生施設や隔離施設に放り込まれちゃいます!だから、皆も気をつけるようにね~。この教育施設から出た後、皆はシュビラの支配する世界へと放り出されて限定的とはいえ自由の身となるわけ。今はドロップから間もない皆の教育期間だから色々と免除されてるけど……ここから出たら自分のストレスケアはしっかりとするようにね」
五月雨(色相……)
秋雲「それじゃあ、次は」
キーンコーンカーンコーン。会議室内だけにチャイムが鳴る。
秋雲「あっ終わった。それじゃあ、この続きはまた明日って事で。次は効果的なストレスケアについて教えるから、明日のこの時間までに教科書の32ページから37ページまでを予習しておくように。じゃあ、今日の講習はこれで終わりまーす。そんじゃ私はこれで」
ガラガラ、秋雲がさっさと荷物をまとめ扉を開けて出て行く。
それを見て不知火、曙、舞風の三人は自分の鞄を持って話しながら教室から出て行った。
五月雨「はぁ……終わったぁ……」
五月雨が机に突っ伏す。
時雨「あはは……五月雨、今日は5回も当てられちゃったね」苦笑い
五月雨「私、この授業苦手かも……」
時雨「この授業が好きな娘なんて滅多に居ないんじゃなかな?でも……五月雨ってここ最近、毎日当てられてるね」
五月雨「うぅ……私、嫌われてるのかな?」
時雨「うーん、嫌われてるって言うよりも、弄られてるんじゃないかな」
五月雨「えぇ……そんなぁ」
時雨「あはは、まぁまぁ、ジュース奢ってあげるから。それじゃあそろそろ帰ろっか」
五月雨「うん」
五月雨と時雨が鞄を持って教室を出て行く。
横須賀特別区・厚生省教育施設・3F廊下
スタスタスタ……五月雨と時雨が廊下を歩いている。
時雨「それにしても……」
五月雨「どうかした?」
時雨「いや……どうって事もないんだけど……僕達がドロップされてから、そろそろ半年だなぁと思って」
時雨が立ち止まって窓の外を見つめる。
窓の外には青空が見えている。
五月雨「そういえば……そうですね……もう半年かぁ……長かったような短かったような……なんだか不思議な感覚です」
五月雨も窓の外を見つめる。
時雨「そうだね……僕なんか今でもドロップされた時の日の事を夢で見ちゃうよ」
五月雨「私は夢で見るまでじゃないけど……でも、時雨ちゃんの気持ち分かります。私も今でもドロップされた日の事は鮮明に覚えていますから……」
時雨「やっぱり、そうだよね」
スタスタスタ……二人は歩き出す。
五月雨「目が覚めたら自分の体が人間の体になってて……変な形した機械に囲まれてて……」
時雨「あはは、確かに」笑み
五月雨「それで、しばらく病院みたいな場所に入れられてから、ここに連れてこられたんですよね……」
時雨「なんか、今じゃ良い思いで?……こういう場合ってこう言うのかな?」
五月雨「うーん、どうなんだろう。でも、私はここに来て私以外にも私みたいな娘が居るって聞いて嬉しかったです。時雨ちゃんにも会えましたし」
時雨「僕も。五月雨が僕と同期で本当に良かったよ」
五月雨「時雨ちゃん……」
五月雨と時雨が互いの顔を見て二ィっと笑う。
横須賀特別区・厚生省教育施設・1F自動販売機前
プシュ、アルミ缶のオレンジジュースの蓋を開ける音。
時雨「はい、五月雨」
時雨がベンチに座っている五月雨にオレンジジュースを渡す。
五月雨「ありがとう時雨ちゃん。今度、私からも何か奢りますね」
時雨「うん」
時雨が五月雨の隣に座る。
五月雨「あれ?時雨ちゃんは何も飲まないんですか?」
時雨「ううん、僕は……」ゴソゴソ
時雨が自分の鞄を漁る。
時雨「自分でお茶、持ってきてるから」
時雨は五月雨にピンク色の水筒を見せる。
五月雨「へぇ~時雨ちゃんって水筒持ってたんですね」
時雨「前に支給可能品の中からこれ選んだんだ」
五月雨「良いなぁ……私のポイントじゃ生活だけで精一杯だよ」
時雨「まぁポイントは成績の点数に応じて支給されてるからね。なんだっけ?貨幣の仕組みを覚えさせるのが目的なんだっけ?確か」
五月雨「そうだったと思います。ねぇ、時雨ちゃん……」
時雨「何?」
時雨が水筒のお茶を飲みながら答える。
五月雨「時雨ちゃんはここ卒業したら、どこに行くんですか?」
時雨「ここを卒業したら、か……もう半年後だからね……卒業。僕は海軍に行ければ良いなーって思ってるよ」
五月雨「私、大丈夫なんでしょうか……時雨ちゃんと同じ海軍に行けるでしょうか……」
時雨「と言うと?」
五月雨「今の成績のポイントじゃ心配で……もしかしたら海軍に行けないんじゃないかって……」
時雨「確かにね……心配する気持ちは分かるけど……でも、艦娘の大半は海軍に行ける事は殆ど間違いないし、そこまで心配しなくても……それに五月雨は定期診断の色相チェックでいつもクリアホワイトなんだよね?だったら大丈夫だよ。僕なんて、結構すれすれなんだから」
五月雨(そっか……確か時雨ちゃんは完全記憶保持艦娘なんだっけ……)
時雨「五月雨はちゃんと今のまま綺麗な色を保ちなよ?今の世の中、サイコパスが全てらしいんだから」
五月雨「う、うん……分かりました」
五月雨(完全記憶保持艦娘……軍艦だった頃の記憶を鮮明に覚えている艦娘……)
時雨「でも、勉強もちゃんとね?サイコパスも大事だけど勉強もそれと同じくらい大事なんだから」
五月雨「ははは……」苦笑い
時雨「笑い事じゃないよ。もぅ……一緒の海軍に行くんでしょ?だったら頑張らないと……って、あっ」
五月雨「どうかしました?」
時雨「いや、昔、五月雨がここに初めて来たときに警備ドローンに挨拶した事あったよね。ほら、この施設に連れてこられた時に五月雨が最初に会議室に入ってて後から僕が来たら五月雨がドローンに頭を下げてて」
五月雨「ちょ!?し、時雨ちゃん!?は、恥ずかしいですからその話は止めてください!あれはまだ、ドローンが何なのか良く分かってなくて……それで……って、そうじゃなくて!どうしてその話が急に出て来るんですか!」
五月雨が頬を赤らめる。
時雨「あはは……いや、特に意味はないんだけど、ちょっと思い出しちゃてね」
時雨が笑みを浮かべる。
時雨「五月雨ってあの時から少しドジが入ってるから、秋雲先生に毎回弄られてるんじゃないかな?」
五月雨「わ、私、ドジっ子なんかじゃ……うっ」
時雨「ドジっ子なんかじゃ?」
五月雨(うぅ……否定できない……)
時雨「あはは、ごめんね。ちょとからかいすぎちゃった」
時雨は五月雨の頭をなでる。
時雨「でも……」
五月雨「ん?」
時雨「そんな感じだからサイコパスが濁りにくいのかも知れないね」
五月雨「そう……なのかな?」
時雨「五月雨のそう言うところ良いと思うよ」
五月雨「時雨ちゃん……」
時雨「さあ、もう部屋に戻ろうか。心配のし過ぎはダメだよ?大丈夫、五月雨なら海軍に入れるって。半年後の職業適性試験まで僕も勉強教えるから一緒に頑張ろう!ね?」
五月雨「うん……そうですよね!時雨ちゃん!私、頑張ります!時雨ちゃんと一緒に海軍に行ける様に頑張ります!」
時雨「うんうん、そのいき、そのいき!」
1年後・西暦2113年8月5日土曜日午前9時。
横須賀特別区・厚生省教育施設・艦娘寮2F203号室・五月雨の自室
ピピピピ!ピピピピ!目覚まし音
五月雨「ん……んん……」
ピッ、布団から手を伸ばして目覚ましを切る。
五月雨「ふあぁ~」
五月雨がベットから欠伸をしながら上半身だけ起き上がる。
五月雨「おはよ……時雨ちゃ……て、寝ぼけちゃった。いけない、いけない」
五月雨「んん~……はぁ……よしっ!」
パシッ、五月雨は背筋を伸ばすと両手で自分の頬を軽く叩く。
バサッ、掛け布団を取りベットから出て立ち上がる。
そして、一年半、ずっと過してきた自分の部屋を眺める。
部屋には荷物は殆ど何も無くベットの枕元に置いてある腕輪型携帯端末と着がえの服以外に残っている荷物は寮備え付けの二人使用の机の上に置かれたペンギンの柄を模したリュックサックが一つだけ。
五月雨「今日でこの部屋ともお別れか……」
五月雨は感慨深かそうに部屋を見つめた。
五月雨「……着がえよっと」
五月雨はそう言うとパジャマを脱いでセーラー服に着がえる。
そして鏡の前に立ち身なりを整えた。
五月雨「よし……こんなところかな」
五月雨は鏡に映った自分の姿に頷く。
それから五月雨は机の前に移動し自分のリュックサックが置かれている机を軽く撫でてからリュックサックのチャックを開けた。
リュックサックから写真立てを取り出す。
写真立ての中には施設の卒業の時に施設の前にある桜の木の所で二人で記念撮影した写真が入っている。
五月雨「時雨ちゃん……私、頑張ってきます」
そう呟くと五月雨は写真をリュックサックにしまった。
リュックサックを背中に背負い部屋を後にする為に扉の方に向かう。
扉の取っ手に手をかけ扉を開ける。
だが、そこで一度立ち止まりもう一度、部屋を振り返った。
五月雨「…………行ってきます」
そう言うと五月雨は思い出深い自分の自室から出て行った。
横須賀特別区・厚生省教育施設・1F玄関ロビー
五月雨「先生方、本当に、本当に一年半もの間、ありがとうございました!」
五月雨が頭を深く下げる。
五月雨の前には微笑ましそうに五月雨を見た秋雲、最上、鈴谷の三人がいる。
秋雲「ふっふーん、ついに五月雨もここを出て行く日が来ちゃったんだねぇ~。留年娘がついに卒業か~」
五月雨「ひ、人聞きの悪い事言わないで下さいよ!秋雲先生!施設は半年前に卒業しました!」
秋雲「あはは、そうだっけぇかなぁ~」
最上「こらこら秋雲、また五月雨をからかって……五月雨、向こうに行っても元気に暮らすんだよ?風邪には気をつけてね」
鈴谷「ちょっと最上~艦娘は風邪引かないって~」
秋雲「いや、いや、分からないよ~?何せ、五月雨だからね」
五月雨「ちょ、ちょっと秋雲先生!だから、からかうのは止めてくださいよぉ~」
秋雲「あははは、いやー、やっぱ五月雨は面白いなー。ほら、うりうり」
五月雨「ちょ、ちょっとぉ~」
秋雲が五月雨の頭をワシワシと撫でる。
五月雨は頬を赤く染める。
最上「あははは、その辺にしておきなよ秋雲。それにしても、五月雨。本当に良かったの?朝ご飯食べていかなくて」
五月雨「あ、はい。ご飯は行く途中で食べていくつもりなんで大丈夫です」
鈴谷「まぁ、勉強三昧で殆ど外に出てなかったからねぇ~五月雨は。外でご飯食べたいってのも分かるね」
秋雲「うんうん。ここの食堂のご飯、美味しくないもんねぇ~」
五月雨「いや、そう言うわけでは無いんですけど……本当は最後にご飯、食べていきたかったんですけど……ちゃんと寝ないと後悔するって鈴谷さんに教えてもらって」
最上「鈴谷、何教えたの?」
鈴谷「いやー、だって、五月雨の勤務先って私達と同じ役所の管轄でしょ?絶対、退屈な話を長々と聞かされるって思ったからさ~だから、居眠り防止にちゃんと寝たほうが良いよってね。だって、引越しの準備で少し手間取ってたみたいだったし」
五月雨「ま、まぁ……」
秋雲「なるほどねぇ」
最上「あっ、そう言えば五月雨、部屋のキーカードだけど、ちゃんとドローンに渡してくれた?」
五月雨「あ、はい!寮の部屋のキーカード、寮母係のドローンに渡しておきました」
最上「うん。分かった。ありがとう。引越しの荷物はたぶんもう今頃、新しい宿舎についてると思うよ」
秋雲「それにしても、五月雨が居なくなると何だかここも暫く静かになるねぇ」
鈴谷「うんうん、確かにねぇ」
五月雨「あっ、いけない!もうこんな時間!早くしないと電車に間に合わない!えっと、それじゃあ、そろそろ行きますね!先生方、本当にありがとうございました!秋雲先生!最上先生!鈴谷先生!皆さんの事は決して忘れません!」
五月雨が端末で現在時刻を確認して少しだけ慌てる。
三人に五月雨は礼をすると少し駆け足で玄関から走って行った。
秋雲「おーい!五月雨ー!いつでも良いから元気な顔見せに来なよなー!」
最上「体には気をつけてねー!」
鈴谷「元気でねー!五月雨ならどんな場所でもやっていけるよー!」
タッタッタッタッタ…………五月雨が走りながら手を振って遠ざかる。
五月雨の姿が見えなくなると三人は五月雨に振ってた手を名残惜しそうに静かに下ろした。
最上「行っちゃったね……」
鈴谷「そうだねぇ」
秋雲「本当に静かになりそうだ」
最上・鈴谷・秋雲「「…………」」
鈴谷「戻ろっか」
最上「そうだね」
秋雲「はぁーあ、それでは私らは、いつも通り新入りの教育に戻りますかーってね」
横須賀特別区・水上バスターミナル・午前11時
五月雨「えっと……ここから乗れば良いんですよ、ね?」
五月雨がキョロキョロと周囲を見ながら確認する。
五月雨は1年半も過してた施設を出た後、横須賀行きの電車に乗って山を越えて途中、忘れ去られたような街並みの市街地を徒歩で歩いて今、この海際の水上バスターミナルまでやってきていた。
五月雨(五人……違う六人私の前に並んでる。皆、私と同じ艦娘……なのかな?)
五月雨は水上バスターミナルの向こう側の海に浮かぶ灰色とも銀色とも白色とも言える大きな島を見る。
ここから島まではそれなりに離れている為に島の姿は蜃気楼の影響で若干ボケて見える。
五月雨(あれが……海の上に作られた海上基地……新横須賀……確か、地球温暖化?の影響で昔の横須賀が海に沈んじゃったから作られたんだっけ……)
五月雨は海を見る。
陸に近い海には半ば水没し傾いたまま放置され草木が生い茂る高層マンションが2棟ほど見える。
そして五月雨は目線を水上バスターミナルの足場の下の海面の方へと写し見つめた。
五月雨(……海の下に……昔の横須賀が沈んでるんだ……なんなんだろう。この気持ち……)
五月雨がそんな事を考えていると、その時、波をかき分けながらゆっくりと進む電車をそのまま海に浮かべた様うな形状で近未来的なデザインの水上バスが水上バスターミナルに入ってきた。
アナウンス『本日もNYMBニュー横須賀マリンバスのご利用、ありがとうございます。この水上バスは南新横須賀、鎮守府前水上バスターミナル行きです。南新横須賀、鎮守府前水上バスターミナルに到着後、当水上バスは千葉市水上バスターミナルへと参ります。千葉市水上バスターミナル行きのお客様はIDと許可書をご用意の上、船内の巡回ドローンに提示するようお願い致します。繰り返し――』
五月雨「よし……この水上バスで合ってる」
五月雨「すぅ~はぁ~」
五月雨(なんだか緊張する……)
???『お客様、お客様』
五月雨「は、はい!」
五月雨が後ろを振り向く。
すると五月雨の前には一体のドローンが五月雨を見ている。
ドローン『お客様は当水上バスには、お乗りになりませんか?』
五月雨「え?」
五月雨は水上バスの方を見る。
すると、すでに自分の前に並んでいた客は全員、バスに乗っていた。
五月雨「あっ!乗ります!乗ります!」
五月雨は走って水上バスに乗り込んだのだった。
水上バス船内
ドサッ、五月雨が水上バス左側の窓際の座席に着く。
五月雨「ふぅ……乗れたぁ」
五月雨が席に着いたちょうどその時、水上バスが発進する。
そして発進から15分後。
五月雨「わぁ~……あれが新横須賀……」
五月雨の目に窓越しに新横須賀の姿が映る。
新横須賀には背の高いビルやドーム状の構造物など、五月雨から見て未来感の溢れる建物が幾つか立っていた。
水上バスは新横須賀を右周りで航行する。
五月雨(なんだか未来を感じますね……)
五月雨(卒業してからも忙しくて全然、寮から出られなかったけど……外はこんなに凄かったんですね……)
五月雨「はぁ……やっぱ、慣れないなぁ……目が回りそう……」
新横須賀・南新横須賀鎮守府前水上バスターミナル
五月雨「なんだか……艦娘なのに演習プールとかじゃない本物の海の上が久しぶりって、ちょっとまずいんじゃ……いや、でも、そもそも施設自体が山の中だったし問題ない……ですよね?」
五月雨は水上バスから降りてターミナルの乗り場で先ほどふと思った事を呟やいた。
それから、五月雨は腕の携帯端末を操作してここからの地図を表示する。
地図上には矢印も表示されナビを開始した。
五月雨「えっと……こっちか」
スタスタスタ……五月雨はナビに従って移動を開始する。
水上バスターミナルから出る時に五月雨はドローンに新横須賀への入島許可証を提示しその後はナビの示すままに歩いた。
だが、その道中、水上バスターミナルから出て新横須賀を囲っている防波堤を上ったすぐの所で五月雨は足を止めた。
五月雨「へぇ~……こんな建物もあるんですねぇ……」
五月雨(なんだか懐かしい気がする……)
五月雨はそこで見た光景に何処か懐かしさを覚えた。
五月雨の目の前には赤いレンガで造られた幾つもの洋式の庁舎や施設が建っていた。
建物は高くても3階建て、他は2階建てか1階建てだ。
五月雨「あっ……見とれてる場合じゃない!行かないと!」
ナビに目を落とし五月雨は道を歩き始める。
五月雨(同じ艦娘の娘が本当に沢山居る……まぁ当然ですよね。鎮守府なんですから……って、ここ明らかに海軍の施設じゃないですか……本当にここに私の職場が……?)
五月雨「なんだか……心配になってきました……もしかして間違ってる……?」
スタスタスタ……五月雨は周囲を見ながら歩いていく。
そして鎮守府内の敷地内を歩く事、約35分後。
五月雨は苦笑いを浮かべていた。
五月雨「ここ……で、良いんですよ、ね?というか……ここで合ってますね……多分」
五月雨はある建物の前で立っていた。
その建物の高さは鎮守府内の他の建物よりも2倍ほどの高さのある6F建ての建物でその概観は窓ガラスも無く外壁には繋ぎ目も無いダークブルー色の五月雨から見て鎮守府の建物とは明らかに違う現代的な建物だった。
その正面の入り口には白と黒で塗られ赤い警告灯がついた現代社会において日本の治安を守っている公安局のドローンが門番のように立っている。
五月雨「そ、それじゃあ……いきます……!」
そう呟くと五月雨はその建物へと恐る恐る入っていったのだった。
新横須賀・横須賀鎮守府・???・6F執務室
五月雨「……」
五月雨は背筋をピンと伸ばし緊張した様子で敬礼をしていた。
五月雨の目の前には建物の未来的な概観とは裏腹にこの執務室だけは五月雨が見ても特に未来的とは思えない、どちらかというと外の鎮守府のノスタルジックな建物とよく合いそうな部屋の光景が広がっていた。
そしてそんな執務室にある大きな机の向こうには五月雨が良く知っている軍服である旧帝国海軍の第一種軍装を身に付けた初老の女性が座っていた。
その女性の胸元には略綬や少々の装飾が付いており階級が非常に高い事が窺い知れた。
だが、五月雨の知っている物とは若干違い、制帽には公安局の証があしらわれていた。
????「ようこそ五月雨君。厚生省公安局、特別区担当刑事課へ」
五月雨「は、はい!五月雨って言います!本日付で厚生省公安局に配属になりました!よろしくお願いします!」
????「私はこの横須賀特別区において治安維持の任を公安局から一任されている特別区担当局長の禾生
五月雨「りょ了解です」
壌史「もう少し肩の力を抜いたらどうだ。そんな調子では全うな職務はできないよ」
五月雨「は、はい!」
壌史「はぁ……まあ、良い。君は今日から本格的に公安局に着任する事になった訳だが、君の配属先は特別区担当刑事課1係だ。君には監視艦となってもらう」
五月雨「特別区担当刑事課1係所属の監視、艦……ですか?」
壌史「そうだ」
五月雨「あ、あの……」
壌史「担当局長でかまわん」
五月雨「は、はい。担当局長……あの、少し伺いたい事があるのですが……」
壌史「何かな?」
五月雨「えっと……公安局に配属というのは分かったのですが……私は何をすればよろしいのでしょうか?」
壌史「公安局が治安維持の権限を持っている事は知っているな?」
五月雨「はい。渡された教材で基礎的な事は勉強しました」
壌史「ならばよろしい。君の役目は単純かつ明解だ。君はシュビラの判断に従って潜在犯の摘発をしてくれれば良い」
五月雨「は、はぁ」
壌史「まぁ、特別区におけるそれは外とは少し違うがね」
そう言うと壌史は机の上のパソコン端末を操作した。
壌史「入ってきてくれ」
通信『了解です』
壌史が誰かと通信を取る。
すると、その直後、五月雨の背後の扉が開く音がした。
?「失礼いたします!」
スタスタスタ、きびきびとした動きで一人の少女が歩いて入ってくる。
そして、その少女は五月雨の隣に立った。
その少女は壌史に向かってビシッと敬礼をする。
朧「特別区担当刑事課1係所属、監視艦、綾波型駆逐艦7番艦の朧、参上しました」
壌史「うむ、ご苦労。紹介しよう五月雨君。彼女は君と同じ特別区刑事課1係所属の監視艦、朧君だ。階級は君と同じだが君の先輩に当たる。もちろん君と同じ艦娘だよ。職務に関する詳しい説明は彼女から受けると良い」
五月雨「は、はい!え、えっと、朧監視艦!私、五月雨って言います!不束者ですがこれからよろしくお願いします!」
朧「ええ、よろしく。五月雨監視艦」
壌史「では、後の事は頼んだよ朧君。二人とも下ってくれたまえ」
朧「はっ!それでは、失礼しました!」敬礼
五月雨「し、失礼しました!」敬礼
五月雨は朧の後にくっついて、そのまま、二人は執務室から出て行った。
バタン、扉が閉まる。
壌史「…………」
壌史は自分の座っている椅子に背もたれに深く寄りかかる。
壌史「……さて、彼女がこれからどうなるか……見ものだね」
新横須賀・横須賀鎮守府・厚生省公安局庁舎ビル・5F廊下
朧「……」
五月雨「……」
スタスタスタ……廊下を歩く音。
朧「…………」
五月雨「…………」
スタスタスタ……廊下を歩く音。
五月雨「あ……あの……朧監視艦」
朧「朧で良いよ。階級は同じだから。で何、五月雨?」
五月雨「私、ここで何をすれば良いのかまだ分からないのですが……お、朧……さん。特別区担当刑事課というのは具体的に何をするんでしょうか?」
朧「……そっか。事前教育では確か組織と、艦娘の基礎海洋訓練しかしないんだっけ」
朧が顎に手を当てて思い出すように呟く。
五月雨「あ、あの……」
朧「あ、ごめん。えっと、それじゃあ、とりあえず事前教育を受けたと思うけどその教育の内容を簡単に教えて。何を教わった?」
五月雨「事前教育ですか?私は施設の方で厚生省の組織形態と、シュビラによるサイコパスの測定、それと艤装の使い方をあらかたやりました……施設が山の中にあったので艤装を使った基礎海洋訓練は海ではしませんでしたが施設内の演習用プールでホロシュミレーションを使用しながらしました」
朧「
五月雨「い、一応、錬度係数はレベル5です」
朧「まぁ、事前教育を受けてたのなら普通ね。事前教育の成績データは持ってる?持ってたら見せて」
五月雨「あ、はい。持ってます。えっと、これです」
五月雨は携帯端末を操作し投影した成績表を朧に見せた。
朧「海上航行の成績は標準。戦闘技能は……砲撃は錬度係数5にしては好成績。雷撃は平均以下……なるほどね。ありがとう五月雨、もう良いよ」
五月雨「はい。私、座学は正直言うと苦手なんですが砲撃の成績だけは施設でも褒められました。砲撃はお任せ下さい!」
五月雨が珍しく自身有りげに胸を張る。
朧「……胸を張って言ってる所悪いけど、事前教育の内容は殆ど役に立たないから。これは肝に銘じておいて」
五月雨「え、ええ!?じゃ、じゃあ、公安って何をするんですか?てっきり御巡りさんとか海軍の補佐的なお仕事かと……」
朧「公安は海軍の補佐はしないし基本的に私達、公安に属する艦娘は深海凄艦とも戦わない。五月雨が言った中では御巡りさんが正解ね」
五月雨「じゃあ、鎮守府内の警備とかを主にするって事ですか?」
朧「警備はドローンで間に合ってる。ざっくり言えば私達、公安の艦娘の仕事は特別区内において犯罪係数が悪化し潜在犯化した艦娘や人間を摘発する事だから」
五月雨「摘発……それって……つまり……同じ艦娘を……捕まえるって事ですか……?」
朧「その辺は施設でも習ったでしょ?色相が悪化し犯罪係数が一定値まで上昇した艦娘は人間同様、潜在犯として隔離されるの」
五月雨「つ、つまり、それをするのが……」
朧「そう。私達、公安局特別区担当刑事課なの……あ、五月雨、ここが私達のオフィスだから」
朧が急に立ち止まり明かりのついていないオフィスを指差す。
五月雨「え?ここですか?」
新横須賀・横須賀鎮守府・厚生省公安局5F特別区担当刑事課1係オフィス
パチ、スイッチを押す音と共にオフィスの照明が点灯する。
朧「ここが五月雨の席ね。私はこの席だから。何かあったらいつでも聞いて」
五月雨「はい」
五月雨はオフィスを見渡した。
オフィスのデスクの上には画面が幾つも付いているパソコンが何台か置かれ席の数は全部で6つあった。
だが、使用している形跡は無くデスクの上には公安局特別区担当刑事課1係と書かれた段ボール箱が幾つも置かれている。
五月雨「あ、あの、朧さん。他の方は……」
朧「まだ、私達もこのオフィスには昨日、来たばかりなの。今は引越し中。実はこの建物が出来なのは最近でね。他のメンバーはまだここに来てない。でも明日には護送されてくるはずだから」
五月雨(……護送?)
朧「ああ、そうだ。その辺も説明しなきゃダメか……五月雨、これはあなたの仕事にも関わってくるから覚えておいて欲しいんだけど……」
ピピピピ!ピピピピ!突然、朧の携帯端末が音を上げる。
その瞬間、朧の表情が険しくなった。
朧は腕につけている端末のウィンドウを開き内容を確認する。
五月雨「あの……なにかあったんですか?」
五月雨の問いに情報を確認した朧が険しい表情をしたまま五月雨の方を向いた。
朧「あなた……着任早々に事件とはツイてないね」
五月雨「え?」
そう言うと朧は端末を操作して五月雨の端末に情報を転送した。
五月雨の端末にも情報が表示される。
朧「状況が変わった。緊急で対処しなきゃいけない事件が発生……仕事について教えるって話だったけど、あなたも艦娘の端くれ、あとは現場で覚えて」
五月雨「それってどういう……」
朧「悪いけど刑事課の人手不足は深刻でね。事件が起きた以上、新米扱いはしていられない。あなたにも捜査にも加わってもらう」
五月雨「え、ええ!?」
朧「事件の概要は現場で説明するから。着いて来て地下駐車場に行くよ」
そう言うと朧はさっさと急ぎ足でオフィスを出て行った。
五月雨「ま、待ってください!朧さーん!」
突然の事に唖然としていた五月雨も朧を後から追いかけたのだった。
横須賀鎮守府・道路・サイレンを鳴らしたパトカー車内
五月雨「…………」
朧「…………」
五月雨は公安局ビルの地下駐車場で朧と一緒にパトカーに乗り込んでいた。
パトカーはサイレンを鳴らしながら鎮守府内の道路を走っていく。
パトカーには二人しか乗っていないが誰もハンドルを握ってはおらず自動運転で設定してある場所へと走っていた。
車内は沈黙に支配され五月雨はただただ緊張し、運転席に座る朧は端末のデータを真剣み眺めていた。
そんな空気の中、五月雨は声を出す事ができないでいた。
五月雨「はぁ……」
五月雨(なんで……こんな事に……今日はただ、公安局で簡単な挨拶があるって話だったんじゃ……それがいきなり事件だなんて……)
五月雨は朧をチラリと見る。
朧「…………」
朧は相変わらず端末のウィンドウを険しい表情で見続けている。
五月雨(うぅ……とても、話しかけられる状況じゃないぃ……私、こんな調子で大丈夫なんでしょうか……)
五月雨「はぁ……」
五月雨の今日何度目か分からないため息は車内に小さく吐き出されたのだった。
横須賀鎮守府・港・公安局出発から19分後
公安局からパトカーで向かった先は横須賀鎮守府の港だった。
どうやらここが現場なのか、港の一区画丸ごとに公安局のドローンがマスコットキャラクターのホロを纏った状態で規制線を張っていた。
五月雨と朧はそこに凡そ5分前に到着し二人はその区画内に張られていた公安局と大きく書かれたテントの下でパイプ椅子に座っていた。
五月雨はそのテントの下で朧から待機するように指示を受けていた。
一方、朧の方は相変わらず資料を見続けていた。
五月雨「……」
朧「……」
パトカー同様に両者の間には沈黙の時が流れる。
しかし、そんな時は唐突に終わるのだった。
朧「来た……」
五月雨「え?」
朧が急に席から立ち上がると朧の隣までやってきた。
五月雨は朧を見るが朧は五月雨は見てはおらず規制線が張られている方向を見ていた。
五月雨(護送車……?)
規制線を超えて二台の護送車が規制線内に入ってくる。
朧「五月雨監視艦」
五月雨「え?あ、はい!」
朧「これから会う連中を同じ艦娘と思わないで」
五月雨「え?」
護送車の後部ドアが自動的に開く。
朧「ヤツラはサイコパスの犯罪係数が規定値まで超えた人格破綻者よ。本来なら潜在犯として隔離されるところを唯一つ許可された社会活動として同じ犯罪者を狩り立てる役目を与えられてる」
護送車から四人の艦娘が降りてくる。
朧「ヤツラは猟犬。獣を狩る為の獣。それが執行艦。あなたが、預かる部下達よ」
五月雨「猟犬……」
テント内
テント内では五月雨、朧の二人に加えて新たに護送車で運ばれてきた4人の艦娘が加わった。
朧「彼女は白露型駆逐艦の6番艦、五月雨監視艦よ。今日からあなた達にとって二人目の飼い主になる」
???「その子が前に言ってた新入りの娘ね」
朧「そういうことよ」
???「おい、おい、こんな見る限りにチンチクリンそうなヤツで大丈夫かよ」
五月雨「え、えっと、本日付で特別区担当刑事課の配属になった五月雨って言います!よろしくお願いします!」
五月雨はそう言うと執行艦たちに頭を深く下げる。
???「「……」」
だが、執行艦たちは五月雨の挨拶に対してその様子を見ながら一瞬、静かになった。
すると、その中から一人の執行艦が前に出てくる。
???「ちょっと!ほら皆!挨拶!挨拶!」
一人の執行艦が手のひらをパンパンと二回ほど叩いて声を出した。
そしてその執行艦は五月雨の方を向く。
???「どうも、執行艦の水上機母艦、千代田です。これからよろしくね。五月雨執行艦」
五月雨「あ、はい!よろしくお願いします!」
執行艦の千代田が最初に五月雨に挨拶をすると、それを皮切りに他のメンバーも挨拶を始める。
???「オレの名前は天龍だ。フフフ、怖いか?」
???「伊勢型戦艦2番艦、日向だ。執行艦だ。よろしくだな」
???「執行艦の陽炎型駆逐艦2番艦、不知火です」
執行艦の挨拶が一通り終わると朧が口を開く。
朧「よし、自己紹介は終わったわね。それじゃあ、事件の概要を説明する。資料は全員の端末に転送してある。各自確認して」
朧がそう言うと全員が自分の手首に装着している端末を操作した。
五月雨も慣れない手つきで端末を操作し資料を映し出す。
資料には人物の写真と経歴などが添付されていた。
朧「対象は国防軍海軍、横須賀鎮守府所属の提督、
五月雨「フォレストグレーン……そんなに色相が濁るまで治療を受けなかったなんて……」
朧「しかも、違法薬物に手を出した可能性もあるシュビラ判定を待つまでも無い潜在犯」
五月雨「それで……あの、事件現場は……」
朧「現場は横須賀特別区の旧横須賀市内。だけど、問題は逃げ込んだ場所。見て」
朧は地図を表示した。
朧「神岡は国防軍の無人化高速輸送艇に忍び込み逃走。その後、海上警備ドローンによる追跡の結果、神岡が逃げこんだのは伊豆諸島の旧新島村だった」
五月雨「旧新島村?」
不知火「……確か、かつて東京都に存在していた伊豆諸島の村ですね。人口の激減によって放棄されてからは、国防軍の無人補給基地が設置されていたはずですが……」
朧「その通り。国防軍から提供された無人補給基地の防犯カメラの映像には施設に逃げ込んだ神岡の姿が確認されている。だけど現在、無人補給基地は電力が何者かに遮断され完全に外部からの干渉を受けない孤島と化している。これは、恐らく神岡の仕業ね。それに国防省からの情報によると、神岡が指揮している艦娘が一人、消息不明になってる」
不知火「消息不明……人質ですか?」
五月雨「ひ、人質!?」
朧「確かに人質の可能性もある。人質の場合は早く助けないとサイコパスが濁る危険性が高い……もしくは神岡の逃亡に協力しているか……いずれにしても厄介な案件よ」
日向「それでその消息不明の艦娘というのは?」
朧「消息不明の艦娘は長良型軽巡洋艦3番艦の名取。艦娘社会保障番号はL.C.N.N.052(※Light Cruiser,Nagara-class,Natoriの略)。錬度係数は65。まぁ、私は51だから私と五月雨監視艦を除いて大体、あなた達、執行艦の錬度係数と同じくらいかそれ以上ね。不知火や日向は遥かに上だし大丈夫ね。名取は神岡の艦隊では対潜任務の主力だったらしいわ」
千代田「なるほど……」
天龍「名取か……そりゃあ、もし人質だとしたらサイコパスが濁りそうだな。そうじゃなくても性格的に考えて、もう濁ってそうだぜ」
朧「そういう事よ。それじゃあ、全員、艤装を装着後そこの桟橋の所で集合でいいわね?」
護送車近く
護送車の側面が重い音と共に自動的に開かれる。
すると、その開かれた場所から最初に黒いボックス状のドローンが降ろされた。
そしてその後から車体から迫り出すように自動的に六人分の艤装が車体から降ろされる。
ここにある艤装は駆逐艦、戦艦、軽巡洋艦、水上機母艦だ。
車体から艤装が降ろされた瞬間、執行艦や朧は慣れた様子で艤装の装着を始めた。
朧「どうしたの五月雨執行艦。はやく準備して」
五月雨「あ、はい!」
五月雨も遅れて自身の艤装に手を伸ばす。
足に航海用の靴を履き背中には魚雷発射管を……。
五月雨「って……あれ?魚雷発射管が……あれ?あれ?それに私の主砲も……え?」
五月雨は自分の装備が見当たらずに混乱した。
主砲、魚雷、武装と呼べる物が全て見当たらなかった。
天龍「おい、何やってんだ監視艦」
五月雨が困っていると横から天龍が気づいたようで話しかけてくる。
五月雨「あ、えっと、天龍さん……じ、実は私の武装が見当たらなくって……」
五月雨がそう言うと天龍が呆れた顔をした。
天龍「おいおい……初日からこんなんで大丈夫なのかよ……」
五月雨「うぅ……すいません」
日向「落ち着け監視艦」
五月雨「えっと……日向さん?」
日向「日向でもかまわん。それで?何に困っているんだ?」
天龍「自分の装備が見当たらないんだとさ」
天龍が苦笑いを浮かべてジェスチャーを交えながら言う。
日向「……そういうことか。朧監視艦に聞かなかったのか?」
五月雨「え?」
日向「私達の装備を見てみろ。艦娘としての武装をつけているヤツは一人も居ない」
五月雨は日向に促されて全員を見回した。
すると、五月雨はあることに気がついた。
日向も天龍も不知火も千代田も朧も誰も艤装の武装を装備していなかったのだ。
五月雨「武装が無い……?」
日向「そう言うことだ。私達、公安局の艦娘には艦娘の武装は配備されない」
五月雨「日向さん……どういう事ですか?武器無しでどうやって……」
五月雨はさらに困惑する。
日向「こっちにきて監視艦」
日向はそう言うと先ほど護送車から降ろされた黒いボックス型のドローンの方に歩いていった。
五月雨も日向のあとを追いかける。
五月雨「これは……」
五月雨が見たのは黒いボックス型ドローンの上部が開きその中に見たことも無い銃の様なものが何丁か入っている姿だった。
そのドローンの側には先にその銃を手にとって握っていた千代田がいた。
千代田「あ、五月雨監視艦。日向さんも。どうかしたんですか?」
日向「監視艦が自分の装備が無いって言って困ってたからな。お連れした感じだ」
千代田「あーなるほど……これは朧監視艦がちゃんと説明してなかった感じですかね」
日向「そうかもな。ちゃんと説明していたら、こんなにあたふたしないだろう」
千代田「それもそうですね。えーっと、五月雨監視艦。ドミネーターの使い方は分かる?」
千代田が五月雨に優しく語りかける。
五月雨「どみねーたー?」
五月雨(どこかで聞いた覚えが……あっ!)
五月雨「あっは、はい!研修で少しですけど使い方を教わりました!」
千代田「これは狙った相手のサイコパスを読み取る銃よ。相手が潜在犯だった場合のみセーフティーが解除される。全部ドミネーターの言いなりになって撃てといわれれば撃てばいいから」
五月雨「う、撃てばいいって……」
五月雨がうろたえている間に日向はドミネーターを手に取った。
千代田「基本モードならパラライザー。撃たれても体が動けなくなるだけだから、それで身柄確保して一件落着。難しく考える事はないからね。さ、論より証拠。まずはドミネーターを手に取って」
五月雨「は、はい」
五月雨は緊張した面持ちでドミネーターをその手に取った。
すると、その瞬間、五月雨のブルーの瞳がさらに青く輝いた。
『携帯型心理診断鎮圧執行システム、ドミネーター起動しました』
五月雨(なにこれ……)
五月雨の頭の中で律動的な女性の機械音声が響いた。
さらに五月雨の視界にまるでデバイスの画面の様な文字や図の様な物が現れる。
『ユーザー認証。白露型6番艦駆逐艦、五月雨監視艦。艦娘社会保障番号D.S.S.177。公安局特別区担当刑事課所属。使用許諾確認。適正ユーザーです』
千代田「あーそれはね。思考性音声だから握っている、あなたにしか聞こえないから。気にしないでね。最初はうるさいかもしれないけど、そのうちなれるから」
五月雨「……」
千代田「私達、公安の艦娘は他の艦娘みたいに艤装の武装は一切使わない。でも、その銃だけは別。それは、私達、公安局にしか配備されない特別な武器。これからあなたが公安局に居る限り使う事になる武器よ。正義を執行する為のね」
五月雨「正義……」
千代田「ドミネーターを使う時の注意点ですけど、撃つ時はちゃんとドミネーターの射線上に対象を捉えて。その銃は艦娘の艤装の主砲とは違って弾道軌道を描いて飛ばない。ドミネーターの攻撃は真直ぐと飛んでいく。だから撃つ時はその点は気をつけてくださいね」
日向「さぁ、準備ができたなら早く桟橋の方へ行こう。朧がうるさいからな」
千代田「うん。そうですね。それじゃあ、行きましょうか五月雨監視艦」
そして、五月雨、千代田、日向の三人は遅れて桟橋の所へと向かった。
桟橋の上には朧、不知火、天龍の三人が既に準備を終えて待っていた。
朧「遅いわよ。三人とも」
五月雨「す、すいません!」
日向「すまん」
千代田「まぁ、まぁ、そうカリカリしないで。朧監視艦」
朧「はぁ……まぁ良い。それじゃあ、全員揃ったわね。これから私達、一係は二手に分かれて神岡を追う。不知火、天龍の両名は私と来て。旧横須賀市内に駐屯している神岡の艦隊のメンバーから聞き取りを行い終わり次第、空路から神岡のいる伊豆諸島に向かう。あとの二人は……五月雨監視艦に同伴。海路で現場まで向かって。現場の周辺は極まれだけど深海凄艦の威力偵察機が出現する海域。万が一を考えて護衛の対空迎撃用のドローンをつける」
不知火「ということは……神岡の摘発は少なくとも今日の17時以降ですね?」
朧「そういうことよ。今回は場所が悪い。本来なら一気に空路で向かいたいところだけど輸送機が深海凄艦の艦載機に補足されると、厄介な事になる。どちらかが先に現場にたどり着いた時は現場の判断で動いて」
不知火「了解しました」
千代田「分かりました」
朧「なお、今回の事件は五月雨監視官の担当する初事件だ。日向と千代田は五月雨監視官を可能な限り補佐して。以上。それじゃあ各々行動を開始して」
桟橋横・海上
五月雨「それでえっと……私達だけになっちゃいましたけど……」
千代田「そうですね」ニコニコ
日向「そうだな」
五月雨・千代田・日向「「…………」」
日向「さぁ、ぼやぼやしている暇はないよ監視艦。私達も動こう」
五月雨「は、はい……そうですね」
千代田「と、その前に、日向さんこれを紹介しておいたほうが良いじゃないですか?」
日向「ああ、そうだな。忘れてた」
五月雨「あの……えっと、何を紹介するんですか?」
日向「これだ」
日向と千代田が見つめる先。そこには海上をホバー移動で進んでいる白いボックス状のドローンが三人の下に近づいてきた。
そのドローンの大きさはドミネーターを収容していたコンテナタイプのドローンよりも大きく、小さなコンテナほどの大きさはある大きなドローンだった。
そのドローンは前方に三つ目のメインカメラを供えた頭を有しその体の側面には英語でPOLICEという文字と公安局のマーク、それに公安局という文字が入っていた。
五月雨「あの……このドローンは……」
五月雨がドローンを指差して聞く。
日向「こいつは対空迎撃用のドローンだ。小型のボックス型ミサイルが搭載されていて一度に最大で45の空中目標に対して攻撃できる。私達の武器は基本的に一部の特殊装備を除けばドミネーターが配備されているだけだ。だから航空母艦の艦娘や深海凄艦なんかの航空攻撃があった際の為に配備されているんだ」
五月雨「なるほど……」
日向「これでだいたい装備の説明は終わりだ。何か質問はあるか?」
五月雨「い、いえ、大体分かりました」
千代田「それじゃあ、五月雨監視艦。そろそろ出撃しますか?」
五月雨「は、はい……そうしましょう」
日向「それじゃあ、私が先陣を務めよう。その後に、五月雨監視艦、千代田執行艦、対空迎撃用ドローンと続き単縦陣で行く。それで良いかな監視艦?」
五月雨「え、ええ。それでお願いします」
千代田「それじゃあ、出発といたしますか。いざ抜錨ってね」
五月雨(私の初任務が……始まる……)
◆
伊豆諸島・旧新島村・補給基地内・管理室
神岡「くそ!くそ!くそ!何で……なんで俺がこんな目にあわないといけないんだよォ!!たった一回だけじゃねぇか!!たった一回チェックに引っかかったくらいで俺は犯罪者かよ!!」
ガン!ガン!ガン!下着姿の神岡がロッカーを何度も何度も何度も蹴る。
そんな神岡の居る部屋には空の注射器や緑色の薬物が入った注射器が何本も散乱している。
神岡「へっでもここなら公安の連中もわからねぇはずだぜ……島の電源は全部落としたしよ……へっ、へへへへ」
名取「…………」
神岡は急に態度を急変させるとニタニタと気味の悪い笑みで笑い出す。
そんな神岡の近くでは軽巡洋艦名取が部屋の隅で神岡の様子を見ながらガタガタ震えていた。
神岡「おい……なんでそんな目で俺を見てんだよ……なぁ!名取よ!!」
名取「す、すいません!すいません!」
神岡「すいませんじゃねぇよ……大体よ……おかしいんだよ。全部おかしくなっちまってんだよ。そうだ。おかしくなっちまってんだよ!俺はよ!毎日、毎日、毎日、ちゃんと朝から晩までちゃんと働いてよ!なんなんだよこれ!?全部おかしくなっちまってんだよ!」
神岡が名取に迫る。
名取「ひっ」
神岡「てか、なんでお前なんだよォ!なぁ!?俺はよォ……どうせ一緒に逃げるんだったら、金剛とか比叡がよかったのによ!」
名取「あぐっ……」
ガシッ、ガン!神岡は名取の髪の毛を鷲掴みにすると後ろの壁に名取の頭を叩きつける。
ガン!ガン!ガン!神岡は何度も何度も名取を殴る。
名取「や、やめて……下さい……お、おねがいします……」
神岡「あぁ!?」
名取がそう言うと神岡は手を止める。
すると今度は涙を流し始め名取に抱きついた。
神岡「あぁ……ごめんよ名取ぃぃぃ、お前に会えて本当はすごく嬉しかったんだぁぁぁ」
名取「ひっ……ひっ……」
神岡は涙を流しながら名取の首筋を舐める。
神岡「でもよ!もう安心していいからなぁ!!この基地の電源はもう切ったしよぉ!!これで安心だ……俺はぜってぇに捕まれねぇ……えへへへ……ああ、お前も大丈夫だからな?名取ぃ!ここには食料もあるしぃぃぃぃ?無人の輸送艇が定期的に水も食料も送ってくれるしよぉ!」
名取「て、提督さん……も、もうやめましょうよ……で、電源を切っても、公安には……」
神岡「だから大丈夫だって!大丈夫だよ!だから大丈夫なんだよ!大丈夫って言ってんだろ!!」
名取「きゃっ!!」
ガシャン!!神岡は近くに落ちていた灰皿を部屋のドアの曇りガラスに投げつけ壊す。
神岡「あああああ、怖がらせちゃったねぇぇえ。ごめんよおおおお名取りぃいいいいい!!もう怖い事しないからさぁ!」
名取「ガハッ……いやッ!うぐっ……もうっ……やめ……」
神岡は名取の腹や顔を何度も何度も殴る。
そして殴るのを止める。
神岡「だからさぁ、ここは俺達しかもういねぇんだ。俺達だけの天国なんだよぉ……へへへ」
名取「う、うう…………」
名取は涙を流す。
神岡「泣くなよ名取ぃぃぃぃ……ほら、飴玉あげるからさぁ……」
神岡は飴玉の包み紙を床から拾って名取の顔に押し付ける。
神岡「泣くなよ名取ぃぃぃぃ……なぁ、泣くなよ……泣くなっつってんだろ!!」
名取「ひぐっ」
バン!名取の後ろの壁を殴る。
名取「ご、ごめんな……」
神岡「ほら飴ちゃん……飴ちゃん……」
名取「う、うぐっうえっ……」
神岡は名取の口に飴玉の包み紙を押し付け人差し指で無理やり飴玉の包み紙を名取の口の奥へと詰め込む。
神岡「そうだよ……食えばいいんだよ……好意はちゃんと受け取らないとな……おかしくなっちまうんだよ……へへへへ。ほら、飲み込めよ。なぁ!!」
名取「う、うう、ん、んん……」ごっくん
名取は苦しそうに飴玉の包み紙を飲み込む。
神岡「そうだよ……それでいいんだよぉ……あ、でも、さっき名取が言ってた事は一理あるよなぁあ?公安が万が一にも俺達の楽園に来るかもしれないしぃ……なぁ?名取?どうしたらいいと思うぅ?」
名取「……わ、わかりません……」
名取がおびえきった様子で答える。
すると神岡はおもむろに自分のパンツを脱いだ。
名取の目が点になる。
名取「……な、なにを」
神岡「戦力を増やせばいいんだよ……これ名案だろ?俺ってば天才ぃぃぃ!!そうだ!そうだ!ほら、よく言うじゃないか!アダムとイブって!!そうだよ!!俺と名取がこの島のアダムとイブになれば良いんだよおおおおお!!それで全部解決つうううううううううううううう!!」
名取「え?いや……え?」
名取は後ろに下がろうとするが既に後ろは壁、下がる事はできない。
神岡「名取ぃぃぃ、えへへへ……俺と一緒にアダムとイブになろうなぁ!!あははははは!!ああ、そうだ!!アダムとイブになる前に、お注射もしねぇとなぁ!!」ニタァ
神岡は笑みを浮かべ近くにあった薬物の入った注射器を一本取り出す。
そしてそれを名取へと向けた。
名取「い、いや……いやです……いや!いや!!いや!!誰か!!誰か助けて!!誰か!!」
神岡「ひひひひ……大丈夫だって……これを注射すると最高の気分になるんだ……へへへへ……それに叫んだって誰もこねぇよ……ああ!そうか!名取ぃ、これが噂に聞くツンデレってやつか……へへへへ、さっきまで俺達あんなに、イチャイチャだったのに急に叫んでよぉ……へへ、えへへへへへ」
神岡はそういいながら名取の着ていた服をビリビリと破り始める。
神岡「俺は悪くねぇんだよ。ああ、そうだよ。ぜんぶおかしくなっちまってんだよ!!うん。そうだよ。隣の家のヤツが毎晩毎晩、変な音ならすしよぉ!!全部おかしくなっちまってんだよ!!昨日なんて、金剛のヤロウが這いずり回るしよ!!おかしくなっちまってんだよ!!おかしいんだよ!!俺の周り全部おかしいんだよ!!上官だか何だかしらねぇけどよ!あのヤロウいちいち俺の事、馬鹿にしてきやがってよ!!おかしいんだよ!!周りのヤツは俺のこと変な目で見るしよ!!おかしいんだよ!!全部おかしくなっちまってんだよ!!俺は普通なんだよ!!全部おかしくなっちまってんだよォオオオオ!!」
名取「い、いや!!離して!!もう、やめて!!」
神岡は名取の足を無理やり開く。
そしてその間に自身の体を入れると名取の太ももに注射器の針を向けた。
神岡「はぁ……はぁ……一回誰かとやってみたかったんだよなぁ……名取はマジで俺の天使ちゃんだわぁああああああ!へへへへ……」
名取「い、いやああああああああああああああああああああああああ!!!!」
その瞬間、名取の足にチクッとした痛みが走った。
◇
16時半頃・伊豆諸島・旧新島村沖・太平洋洋上
千代田「少し予定より早いですが、どうやら私達が一番乗りみたいですね日向さん」
五月雨、日向、千代田、対空迎撃ドローンの3人と1機は海上で一列に並んで停止していた。
そんな中、千代田が日向に話をかける。
日向「ああ、そうだな。なんとか、何事もなくたどり着いたな」
千代田「ええ、そうですね。あの子も使わずに済みましたしね」
千代田は自分の後ろにいる対空迎撃ドローンに目をやる。
一方で五月雨は自分達の前方にある一つの島に目を奪われていた。
五月雨「あれが……新島……」
日向「おい、監視艦。どうする?」
五月雨「え?」
日向「え?じゃない。朧から言われただろ。どちらかが先に現場にたどり着いた時は現場の判断で動くようにと」
五月雨「あ、ああ、そうでした……えっと、でも、何をどうしたら……」
千代田「そんなに強く悩まなくてもいいんですよ?あなたは、ただ、私達に方針を指示すれば良い」
五月雨「指示って……」
日向「私達、執行艦のやる事は単純明快だ。私達が獲物を狩り、お前がそれを見届ける。それだけの事だ」
五月雨「い、いえ、もうちょっと具体的に……」
千代田「まぁ、私達にまかせておけって事です。私達もこう見えて専門家ですから」
日向「私達の飼い主である監視艦の指示は聞く。例えばお前が今、新島に突入を命令すれば私達はそれに従う。だが、私達には私達の流儀がある。それで何があっても、その責任を負うのは監視艦であるお前だ。だから私達のやり方が気に食わない時はそのドミネーターで私達を撃て」
五月雨「え!?」
日向「私達、執行艦も対象と同じ潜在犯だ。ドミネーターはちゃんと作動する。ドミネーターは特別な武器だ。ドミネーターによる攻撃は艦娘の肉体を保護している
五月雨はドミネーターで撃てという日向の言葉に動揺する。
千代田「まぁ、そういう事ですよ。監視艦と執行艦っていうのは。私達は潜在犯なんですからね」
一方で千代田はにこやかに笑顔で言う。
五月雨「…………でも」
日向「それで?監視艦」
五月雨「は、はい」
日向「どうするんだ?朧達が到着するのを待つか?それとも突入か?」
五月雨「えっと……」
千代田「ここで帰還を命令してくれれば楽ですけどね~」
日向「給料泥棒は止めておいたほうがいいぞ千代田」
五月雨(どうしよう……いきなりこんな事になるなって……でも、私がやるしかないんですよね……そうだ。消息不明の艦娘がいるんだ……朧監視艦は協力者かもしれないって言ってたけど……もしも、人質だったら……)
五月雨「日向さん、千代田さん」
五月雨は日向と千代田に向かって真剣な表情を向ける。
五月雨「……と、突入しましょう」
日向「本当にそれでいいんだな?」
五月雨「もしも消息不明の艦娘が神岡の協力者ではなく、被害者であった場合。サイコパスが濁ってしまうかもしれません。そうだとすれば、そうなる前に早く助けないと……」
日向「了解だ。監視艦」
千代田「分かりました。五月雨監視艦」
五月雨は若干、自信なさげに言う。
その五月雨の命令を受けた日向と千代田は頷いた。
日向「そうと決まれば行くぞ監視艦。気を引き締めろよ」
日向はそう言うと真っ先に新島に向かって移動を始める。
五月雨「は、はい!」
千代田「ふふふ、それじゃあ、行きますか」
日向の後に続いて五月雨、千代田、対空迎撃ドローンも進路を進めたのだった。
新島・無人補給基地・港湾施設区画
五月雨「あ、あの……ここって無人補給基地……なんですよね?少し、大きすぎませんか……というよりも……少し不気味です……」
千代田「ここは深海凄艦が出現するまでは、厚生省の潜在犯を隔離する施設があったんですよ。でも深海凄艦が現れるようになってからは放棄されて、今では国防軍に払い下げられて無人補給基地という事になってるんです」
五月雨「なるほど……」
五月雨、千代田、日向の三人は無人補給基地の港に到着すると対空迎撃ドローンを港に残して無人補給基地の港湾施設区画内を歩いていた。
無人補給基地には五階建ての庁舎施設と思われるコンクリート製の幾つかの建物や港側には格納庫の姿が見えた。
無人補給基地は全体の感じからして古ぼけた感じで倉庫以外は殆ど手入れがされていない状況なのか庁舎施設は壁面の塗装が剥がれ、ひびが入り、まるで廃墟の様な姿をしていた。
日向「監視艦、いつ何が起きるか分からない。ドミネーターはいつでも使えるように準備しておけ」
五月雨「は、はい……」
千代田「ここからは言わば敵の領域です。この廃墟のどこかに神岡や人質か協力者の名取がいるという事ですからね」
日向「あまり私達から離れるなよ?どこから見ているか分からないからな。それと、ここからは会話は小声で行え」
五月雨「……はい」
五月雨はそう言うとドミネーターを持つ手に力をこめた。
一向は薄暗い道の足を進める。
千代田「どうやら、神岡は全ての電源を落としたわけではないようですね」
日向「ああ。街灯や消火栓の灯りは点いたままだ」
千代田「あ、日向さん。あれ」
千代田が急に立ち止まり庁舎の方を指差す。
その指差した方向を五月雨と日向も見た。
千代田「あそこだけ、扉が開いています……」
五月雨「は、犯人でしょうか……?」
日向「可能性は高いな。ここは無人補給基地とはいえドローンに管理された施設だ。施設の扉がひとりでに開くとは考えにくいからな」
千代田「どうしますか?日向さん」
日向「……よし、私が先に中に入る。千代田は監視艦と一緒に入ってきてくれ」
千代田「わかりました」
日向「それでいいな?監視艦」
五月雨「は、はい」
日向「よし、それじゃあ、行くぞ」
そう言うと日向は日が落ちてきて薄暗くなっていた庁舎施設へと入っていった。
そして、その後、送れて千代田の後に続いて五月雨も施設へと入る。
施設の中は窓から入る夕暮れの光によって辛うじて見えるが薄暗い。
五月雨「く、暗いですね……」
千代田「しー」
五月雨が喋ると千代田は五月雨に静かにとジェスチャーを送る。
五月雨「……」
五月雨は千代田の指示に従い静かになる。
そして二人は施設の中を進んでいった。
五月雨「はぁ……あぁ……」
どこから神岡が現れてもおかしくない状況。
五月雨の呼吸は緊張と恐怖から荒くなった。
施設の廊下が長く感じられる。
だが、そんな時、なぜか五月雨の頭にふと、日向の言葉が思い出された。
五月雨(そういえば……日向さんは執行艦も対象と同じ潜在犯でドミネーターはちゃんと作動するって言ってた……じゃあ、これを向けたら犯罪係数が分かるって事……?)
五月雨はおもむろに千代田にドミネーターを向ける。
そしてドミネーターは反応を示した。
『犯罪係数オーバー127。刑事課登録執行艦。任意執行対象です。セーフティを解除します』
五月雨「っ!」
セーフティの解除という言葉に五月雨はヤバイと思いドミネーターを下げる。
五月雨はこの時、気がついていなかったが千代田は五月雨がやっている事を認識し何も言わずに笑みを浮かべていた。
五月雨(ほ、本当に潜在犯なんだ……あんなに普通に話してたのに……)
それから五月雨と千代田は施設を進み続けた。
二人は施設の三階から四階へと昇る階段へと差し掛かり警戒しながら上る。
五月雨には先に施設の中に入っていった日向が何処に行ったのか検討が付かなかったが、千代田にはそれが良く分かっているようだった。
千代田「五月雨さん、これは私が言う事は入局のお祝いの品として聞いてください」
五月雨「は、はい」
千代田「施設の教育で艤装の使い方云々や艦隊戦の基本を教え込まれたと思いますが現場じゃ何の役にも立たないのでそれだけは肝に銘じてください」
五月雨「それ、朧監視艦にも言われました……」
千代田「あれ?もう聞いちゃってました?」
五月雨「い、いえ詳しくは聞いていません……でも、よく分からなくって……施設の教育が役に立たないってどういう……」
千代田「理不尽だと思います?」
五月雨「……え?」
千代田「せっかく艦娘になった私達の戦い方とかを頑張って施設で教えてもらったのに何でって。でも、私達、公安局の艦娘の仕事は理不尽の塊なんでよ。私達は深海凄艦と戦う為にこの世界に再び蘇った。でも、私達の仕事は同じ艦娘や人間を取り締まる仕事です。でも、誰かがそれをやらなきゃいけない……誰が何を思い何を願うのか。人だけでなく艦娘の心までもが全て機械で見通せる時代だっていうのに、それでも誰かを憎んだり騙したり傷つけようとする人が昔と変わらず、わんさかと居る。そして、そんな所に艦娘も人間という不慣れな体で生まれ変わって人間と同じような生活を送るよう様になった。多くは幸せに生きるけど中には幸せになれず、心に闇を抱えたり悪意を持った人間に毒されたりして、その純粋な魂を汚してしまう娘が少なからず居る。私達の仕事はそんな理不尽の中にあるんですよ」
五月雨「…………」
千代田「五月雨さんが教わってきた事は、表の世界の事なんです。それがどれだけ無意味な物かすぐに思い知る羽目になると思いますよ。まぁ……私が言いたい事は一つです。覚悟だけはしておいたほうが良いです」
五月雨「……わ」
五月雨「私は」
五月雨が思った事を言おうとしたところで腕につけている端末が反応した。
日向通信『こちら日向。五階の管理室内で神岡と思われる人物の痕跡を発見』
千代田「了解です、日向さん」
五月雨「そ、それで神岡は?」
日向通信『いや、ここにはいない。神岡は少なくともこの建物には居ない可能性が高い。だが、少し気になることがある管理室まできてくれ』
五月雨「分かりました」
千代田「それじゃあ行きましょう五月雨監視艦」
五月雨「はい……」
五月雨と千代田は日向の居る5階へと向かった。
そして5階のフロアの一番はしにある部屋へと向かう。
部屋の前では日向が手を振ってこっちだと示していた。
日向「来たか」
千代田「なにかあったんですか日向さん?」
日向「いや、何かあったというわけではないんだが……まぁ、ちょっとな。とりあえずこの部屋を見てくれ。千代田の見解が欲しい」
千代田「分かりました」
五月雨「?」
自分を置いて進む話に五月雨は頭の中にクエスチョンマークを浮かべる。
千代田「それでは……」
そう言うと千代田は管理室と書かれた扉ののぶを回して扉を開けた。
千代田と日向が中に入る。
それに続いて五月雨も入った。
暗い部屋だが目が徐々に慣れてくる。
そして、部屋の全貌が五月雨の目に映った時、五月雨は目を見開いた。
五月雨「ッ!?」
千代田「これは……すごい惨状ですね」
日向「ああ。だが神岡が違法薬物を使用していた事は間違いないようだ」
管理室の中は酷い荒れようだった。
無数の注射器や缶詰、破れた布の様な物がちらばり、そしてさらに床や壁に夥しい量の赤い鮮血がベットリとついていた。
五月雨「ひどい……一体誰が……ま、まさか人質はもう……」
五月雨は青ざめる。
千代田「……いえ、これはもしかすると少し違うかもしれませんよ」
五月雨「え?」
千代田「見てください。あちこちに激しく争った跡があります。日向さんこれは」
千代田は日向の方を見る。
日向「やはり千代田もそう思うか。やはり最初から睨んでいたとおり神岡に連れて行かれた名取は人質だったんだろう」
千代田「ええ、これはかなりまずい事になりそうですね……五月雨監視艦これは……」
千代田が五月雨の方を向いて説明しようとする。
すると、その時だった。
千代田「ッ!?あぶない!!」
五月雨「え?キャ!?」
五月雨の方を向いた千代田は一瞬、目を見開いた。
そして五月雨の体を引っ張ると五月雨を横に倒して覆いかぶさり地面に倒れた。
そして次の瞬間。
五月雨が入ってきたドアの後ろの方から窓ガラスが割れたような音と自分の真上を空気が切るような音が響いたかと思うと突然、自分の前の方から強烈な爆風が五月雨を襲った。
五月雨「い、一体何が……」
五月雨は目をゆっくりと開くと呟く。
そして五月雨が爆風がした方を見るとそこには管理室の壁があったはずだが一面、跡形も無く吹き飛んでいた。
千代田「五月雨監視艦、大丈夫ですか?」
五月雨「は、はい……ありがとうございます……っ!そんな事よりも千代田さんの方は!?」
千代田「心配ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですよ」
千代田はそう言うと中腰の姿勢のまま五月雨の上からどく。
千代田「日向さん、生きてます?」
日向「何とかな」
千代田の呼びかけに日向が立ち上がる。
五月雨「一体これは……だれがこんな事……」
日向「名取だ」
五月雨「え?」
日向はそう言うと扉の無くなった管理室の入り口から顔だけを覗かせ外を見る。
五月雨も日向の下から覗いた。
日向「砲撃だ。恐らく名取だろうあの窓から狙ったようだ」
見ると廊下の窓ガラスが粉々に粉砕されていた。
千代田「日向さん……ここは危険では?」
日向「そうだな……よし、監視艦。走るぞ。全力疾走で廊下を抜けて階段まで急げ。詳しい事はそれからだ」
五月雨「りょ、了解です!」
日向「私が合図したら走り出せ。千代田、監視艦から離れるなよ。よし……今だ!走れ!」
五月雨「は、はい!」
千代田「それではお先に」
五月雨と千代田は身を低くしながらさっき自分達が通っていた廊下を全力疾走した。
すると、次の瞬間、五月雨と千代田が走る廊下が後ろの方で爆発する。
その爆発は五月雨と千代田が走った後からまるで五月雨と千代田を追ってくるかのように、二人のすぐ後ろで数回続いた。
五月雨「キャッ!」
千代田「階段に着いたらすぐに駆け下りて!!」
五月雨「は、はい!!」
五月雨は廊下を全力疾走し階段が近づくと滑り込むように階段を駆け下りた。
五月雨に続くように千代田も階段を駆け下りる。
そして二人が一階まで一気に駆け下りると気がついたときには砲声はやんでいた。
千代田「どうやら……砲撃はやんだようですね……」
五月雨「はぁ……はぁ……そ、そうですね……」
二人は一旦立ち止まり、息を整える。
五月雨「あの……千代田さん、一つ聞いてもいいですか?」
千代田「手短にね」
五月雨「先ほど、日向さんと千代田さんは神岡に連れて行かれた名取は人質だったと言っていましたが、なぜ、その人質の名取さんが私達に攻撃をしかけてきたんでしょうか?」
千代田「……五月雨さん、あの部屋にあった物を覚えています?」
五月雨「管理室ですか?えっと……確か壁や床についていた大量の血と……」
五月雨は管理室に入った時の状況を思い出す。
五月雨「沢山のゴミ……でしょうか?」
千代田「それ以外には何も無かった?」
五月雨「うーん……缶詰のゴミ以外にも飴かガムの包み紙……それと……あっ!注射器が沢山落ちていました」
千代田「正解です……まず端的に言うと神岡が重度の薬物中毒者という推測は当たっていたようです。でこの島へと逃亡後、薬物を大量に摂取した」
五月雨「はい。ですがそれが人質の名取さんが私達に攻撃を仕掛ける理由は」
千代田「ここから繋がります。私の経験上、この手の重度の薬物中毒者は一緒に人が居た場合、その人物にも薬物を摂取させようとする事が多い」
五月雨「それじゃあ……」
千代田「そう……恐らく神岡は人質の名取に対して薬物を投与した。あの部屋の状況を見る限り恐らく薬物の投与が行われる前に神岡は人質に対して何らかの暴力的な行為を行っていた可能性が高いですね……そして薬物を投与された人質は薬物の作用によって、これまで我慢していたストレスを爆発させ……」
五月雨「今の状況になっている……そう言うことですか?」
千代田「もっとも恐れていた事です。あの部屋にある血痕のつき方はまるで人を床や壁に叩き付けたようについていました。あの様な血痕のつき方は神岡程の人間には出来ません。間違いなく艦娘が関わっています。艦娘の力はその気になれば大の男程度なら簡単に倒す事ができますからね。恐らく薬物を投与された名取はストレスが爆発し神岡に対して暴行を行ったのでしょう。そして、先ほどの砲撃は間違いなく艦娘の攻撃だった。そして現状、この島に居る艦娘は私達3人と人質となっていた名取だけです。となれば答えは自ずと見えてくる……」
五月雨「そんな……」
千代田「もはやこうなっては……とにかく行って確かめましょう五月雨さん。私が先行しますので後からお願いします」
五月雨「……はい」
千代田を先頭に五月雨の二人は所々で壁などに隠れながら外の様子を伺い移動を始める。
二人は建物から出て外へと出る。
千代田「早く二人を見つけないとこれは大変な事になりますね……」
五月雨「確かサイコハザード……でしたっけ」
千代田「はい。犯罪係数は伝染しますからね。もしも、ここで取り逃がし本土の方へと逃げられでもしたら、大変な事になります」
五月雨「……怖いですね」
千代田「これは警告ですが、明日はわが身と考えてください」
五月雨「え?」
千代田「そもそも、私達がなんで執行艦なんてものになってしまったのかを――っ!」
千代田が立ち止まる。
五月雨「どうしました?」
千代田「見てください……います!」
五月雨「!」
二人はドミネーターを構える。
千代田の目線の先には名取も神岡の姿も見えていないが目の前の道路の地面には血の跡が点々の残っていた。
その血痕は路地の方向へと続いている。
二人は慎重に顔を出して路地を覗いた。
五月雨「っ!?」
五月雨は路地を覗いて目を見開き驚愕した。
薄暗い路地の向こう側。
日は殆ど落ちて街灯の光のみが周囲を所々照らしている。
そして、その人物は街灯の下を歩いていた。
地面にポタポタと落ちる血痕。
その人物は何か赤くて大きい物を肩に担いでいた。
千代田「行きますよ」
五月雨「え?」
千代田は五月雨にそう言うと路地へと駆けていった。
五月雨は一瞬、呆然としてしまったがすぐに千代田の後に続いた。
千代田「止まりなさい!」
千代田はドミネーターを構えた。
五月雨も続いてドミネーターを構える。
ドミネーターは犯罪係数の測定を始める。
『犯罪係数オーバー365。執行モード、リーサルエレミネーター。慎重に照準を定め対象を排除して下さい』
ドミネーターはそう断定すると銃が変形しリーサルエレミネーターモードに切り替わった。
五月雨(犯罪係数……オーバー300っ!?)
??「…………」
その人物は一瞬、たち止った。
それからその人物は二人の方をゆっくりと振り向いた。
五月雨「……っ」
五月雨はその人物が振り向いたその瞬間にその人物の姿に戦慄する。
名取「あーー!公安局の皆さんじゃないですかぁ!私ぃ皆さんに会いたかったんですよぉ!」
その人物とは名取だった。
名取は満面の笑みを浮かべて殆ど下着姿の状態で立っていた。
片方だけになったニーソックス。
半分以上が破けスカートの機能を果たさなくなった赤いスカート。
その上のセーラー服も所々破れ大きく二つに破れておりまるでちゃんちゃんこの様になっておりその下には下着は無く名取の豊かな胸が露になっていた。
右手には艤装である14cm単装砲を持っている。
さらに多く見える肌にはあちこちに青い痣ができておりそして、それらを上塗りするかのように大量の血痕が破れた服と肌を濡らしていた。
五月雨「……ひどい」
名取「見てくださいよこれ!この制服ぅ私のお気に入りだったのにぃいいいいい!提督が酷いんですよぉ!!」
千代田「壊れてる……」
名取「だからぁ!私、皆さんにこんな酷い事をする提督の事は叱ってもらいたかったんですよ!でもでも、皆さんが来るのが遅いからぁ私がめっ!って怒ってあげたんですぅ~。ねぇ提督?」
そう満面の笑みで焦点の合っていない目で名取は言うと今度は肩に背負っている大きい物を降ろしてそれを持ち上げた。
五月雨「ひっ……」
五月雨はまたしても目を見開き驚愕する。
だが、今度の驚愕にはあからさまな恐怖がこめられていた。
名取が肩から下ろしたのは名取の体よりも大きい男性だった。
名取はその男性の頭を左手で鷲掴みにし千代田や五月雨の方へと向けた。
千代田「……それが神岡というわけですか」
千代田は名取を鋭い視線で見る。
神岡と思われるその男性はあからさまに死んでいた。
神岡はシャツらしき物だけを着ていた。
その体は血だらけで全身真っ赤だ。
死体からは血が滴り落ちその顔面は、何か硬い物に何度も叩きつけたのだろうか?
もはや原型は留めておらず見るにも耐えないほどグチャグチャになっていた。
さらに出血が頭部に続いて次に最も多いのは神岡の股間の部分であり、そこには本来、男性にあるべき物がついてはおらず、代わりにクシャクシャにしたビニール袋の塊の様な物体がぶら下がっていた。
名取「ちょっと提督ぅ~せっかく公安の皆さんが来てくださったんですからぁ返事くらいしてくださいよ~」
名取は死体をブンブンと揺らす。
そして揺らしながら腕につけた端末を起動させる。
名取「ほら~提督、見てくださいよぉ~私のサイコパス、提督のと同じになっちゃいましたよ……あぁ!もう泥みたいじゃないですか!!あはははははははははは!!」
千代田「名取!武器を捨てて大人しく投降しなさい!」
名取「…………」
五月雨「そ、そうです!名取さん!武器を捨てて……」
五月雨が言おうとしたその時。
名取「うるせええええええええええ!!」
五月雨「ひっ……」
名取「もう私は終わりなんですよぉおおおおお!!誰も、誰も助けてくれなかったじゃないですか!!おっせぇんだよぉおおおおお!!」
千代田「私達の助けが遅れた事は素直に謝罪します。ですが、あなたがこんな事をして自身を貶める必要はない!!」
名取「だから……うるせぇえええええって言ってんだろうがよぉおお!!」
名取はそう言いながら14cm単装砲を五月雨や千代田に向けた。
千代田「っ!五月雨さん!」
五月雨「っ!!」
千代田が五月雨の手を引いて建物の壁に隠れる。
すると、それとほぼ同時に地面が爆発した。
千代田「大丈夫ですね。行きますよ!」
五月雨「は、はい!」
五月雨は千代田に続く形で再び路地へと飛び出した。
それと同時にドミネーターを構えるが、名取はすでにそこに居なかった。
千代田「追いかけましょう!」
五月雨「はい!」
二人は路地を走り出した。
地面には血のあとがポツポツと落ちている。
五月雨「あ、あの千代田さん!」
千代田「なんですか?」
五月雨「その……どうするんですか?あの人、人質ですよね!?」
千代田「厳密には元人質です。もはやあれは手遅れです」
五月雨「じゃ、じゃあ……もしかして……」
千代田「そうです。残念ですが」
千代田がそう言うと五月雨はもう何も言う事が出来なくなっていた。
千代田の言う事が正しいのは分かる。
人質だった名取のあの姿を見てしまえば誰でも言うだろう狂っていると。
あんな状態の人物を野放しにしてはいけない。
しかし、五月雨は心に何かトゲが刺さったような感覚を覚えていた。
五月雨と千代田は路地を走っていく。
そして、路地を曲がる角が見えてきたその時。
爆発が路地の角から発生した。
千代田「くっ……」
五月雨「はぁ……はぁ……」
二人は路地の方まで入ってきた爆煙の為に立ち止まり目を腕で爆煙から守る。
だが、すぐに二人は動き出した。
千代田が先頭で路地の曲がり角手前で停止しドミネーターをいつでも撃てる様にして立ち止まる。
そして千代田は顔を半分出すようにして路地の向こう側を確認した。
千代田「なるほど……」
千代田は睨みをきかせると小声で呟く。
千代田「突入です!行きますよ!」
五月雨「は、はい!」
千代田の掛け声と共に千代田と五月雨は路地より飛び出した。
路地の角を抜けると建物と建物の間の中庭の様な場所に飛び出す。
五月雨「あっ!日向さん!」
日向「おお、来たか二人とも」
千代田「ちょっと日向さん……私たちを囮にしたでしょ?」
日向「私はお前なら大丈夫だとは思っていたさ」
千代田「その信頼は嬉しいですが、待ち伏せをするなら、しくじらないで欲しいですね」
日向「ん……すまん」
すると、そこには二人が追っていた名取と日向の二人が向き合う様にして対峙していた。
その日向の元へと千代田と五月雨も駆け寄りドミネーターを名取へと向ける。
日向の近くの足元には主砲が炸裂した痕が残っている。
『犯罪係数オーバー368。執行対象です。執行モード、リーサルエレミネーター。慎重に照準を定め対象を排除して下さい』
ドミネーターが名取のサイコパスを瞬時に計測しロックを解除する。
五月雨(さっきよりも上がってる……)
日向「気をつけろ。名取は神岡の死体を盾にしている」
千代田「なるほどですね……」
五月雨は名取を見た。
名取は鬼の様な形相で3人を睨み、主砲を三人へと向け、もう片方の腕では神岡の死体を盾のようにして持っていた。
その神岡の死体は腕が一本無くなっていた。
何故無くなっているかは分からない。
千代田「名取さん!もう無駄な抵抗は止めなさい!!今ならまだ助かりますよ!!」
千代田が大きな声を出して十数メートル離れた名取に警告をする。
すると、名取は鬼の形相をさらに硬化させていった。
五月雨は人間がここまで恐ろしい形相になるのかと戦慄した。
名取「うるせええええええええええええええ!!うるせぇええええええええんだよおおおおおおおおおお!!」
名取は耳が痛くなるほどの声を叫ぶ。
名取「どうせ、あなた達は私を殺す気ですよねぇ!?どっちにしろ私を殺すんですよねぇ!?だって私、真っ黒だもん!!提督もこんなんなっちゃったしぃいいいいいいい!!」
千代田「武器を捨てなさい!投降すれば、治療施設に入る事ができる!!」
名取「はぁあああああ!?意味分かんない!!意味分かんないです!!意味分かんないですよ!!意味分かんねぇえよ!!何で私は何にもしてないのにいいいいいいいいいいいいい!収容所なんかにいいいいいいいいいいいいいい入んなきゃいけないんですよおおおおおおおおおおおおおお!?!?」
千代田「それが決まりです!」
名取「なんなんですかさっきからあああああああああああああああ!!」
千代田と名取との話が始まる。
だが、千代田がどう説得をしても名取には通じているようには五月雨には見えなかった。
恐らく薬のせいなのだろうと考えた。
そして、五月雨はふと、日向の方を見る。
日向が何をしているかが気になったからだ。
そして、五月雨は見た。
突然、日向のドミネーターから青い一筋の光と不思議な発射音が放たれた。
その光の槍は真直ぐ名取へと向かっていく。
五月雨は目を見開いた。
名取「ッ!?!?」
名取が日向の行動に気がつく。
すると名取はとっさに盾の様にして持っていた神岡の体を日向の方へと向けた。
そして光の槍が神岡の胴体へと命中する。
その瞬間、命中してからまもなくして、神岡の体はぶくぶくと膨れ上がった。
そして焼いた餅が破裂するように、電子レンジの中のサランラップが膨張して破裂するように、風船が破裂するように、神岡の体は大量の血を撒き散らして破裂した。
五月雨「え……?」
五月雨は何が起きたのか脳の処理が追いつかず一瞬フリーズした。
だが、それはそれで終わりではなかった。
千代田「……」
隣の千代田が無言で引き金を引く。
そしてドミネーターからは光の槍が真直ぐ名取へと向けて放たれたのだ。
五月雨は意味が分からなかった。
なぜ?さっきまで説得をしていたのになぜ?説得も終わっていないのになぜ二人はドミネーターを撃っているのか?訳が分からなかった。
だが、千代田の放ったドミネーターの光は命中はしたがそれは名取をその絶対的な威力で絶命させる物ではなかった。
名取「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」
名取の左腕は気がつくと血しぶきとなって無くなっていた。
名取は痛みから叫ぶ。
名取はドミネーターの裁きの光をとっさの行動で最小限に留めたのだ。
しかし、左腕のついていた肩からは大量の血液が噴出し名取は余りの激痛に14cm単装砲を落として右手で血液の噴出部を必死に押さえた。
日向「もう盾は使えないぞ」
千代田「日向さん、言っておきますけど私じゃないとその策は通じませんからね」
日向「重々承知はしてるさ。まぁ給料分の仕事というわけだな」
千代田「もう、あなたは」
五月雨は目を疑う。
二人はこんなにも人が、それが潜在犯だとしてもその人が苦しんでる中で普通の会話をしていた。
日向が前に進み出て痛みでうずくまる名取の下へと歩いていく。
五月雨「な……何をやってるんですか!!こんなのおかしいでしょ!?もしかしたら武器を捨ててたかもしれないのに!!」
五月雨は心からの声を二人へと向けて放った。
それに対して千代田が五月雨の方を冷たい目で見る。
千代田「捨てませんよ」
五月雨「え……?」
千代田「あの人はもう手遅れなんです。五月雨監視艦。薬のせいで通常の判断力は無いに等しい。あなたも分かるでしょう?私が彼女に話しかけなければすぐにでも撃ってきていたでしょう」
五月雨「でも……でもその人は被害者なんですよ!?今は薬のせいで混乱してるだけです!!」
千代田「いいですか。ドミネーターはシュビラの目。この国のシステムその物が彼女を脅威として認定したんです。その意味を考えて下さい。これが現実です」
五月雨「でも……でも……だからって……!」
五月雨は精一杯抗議する。
すると日向が歩きながら答えた。
日向「私達のやり方が気に食わないならば、そのドミネーターで撃て」
五月雨「え……?」
すると日向は名取のすぐ前で立ち止まるとドミネーターを向ける。
五月雨「や……」
日向「三度目は言わん」
日向は五月雨の方を一瞬見ると名取の方も見る。
恐らく、日向の指はもう既にドミネーターの引き金へと伸びているのだろう。
五月雨「やめ…………」
恐らく、日向の指はも既にドミネーターの引き金にかけられ指に力を入れているのだろう。
そして、引き金が押されたときには……。
その瞬間、五月雨の感情は爆発した。
五月雨「やめてええええええええええええええええええええ!!!!」
五月雨はドミネーターを日向の方へと向けるとすぐに引き金を引いた。
千代田「あっ……」
五月雨の放ったドミネーターの光は迷う事なく日向の背中へと真直ぐに命中した。
千代田が思わず声を漏らす。
日向は力なく崩れるように倒れた。
日向を襲ったのは基本モードのパラライザーだ。
その為、死ぬような事ではないただ気絶したのだ。
五月雨「はぁ……はぁ……」
五月雨は力なくドミネーターを降ろすとしばし、自分のやった事を見た。
五月雨「はぁ……はぁ……あっそうだ!」
五月雨は思い出したように名取の元へと走り出した。
自分が身柄を確保しなければと思ったのだ。
左肩を押さえながら、うずくまる名取の元へと五月雨は駆け寄る。
そしてそっと、名取の背中に手を添えた。
五月雨「あの……もう……もう、大丈夫ですから……」
名取「…………」
五月雨「お願いです……もう……抵抗しないで下さい……でないと……この銃が名取さんを殺しちゃう……大丈夫。大丈夫ですから……ね?」
五月雨は引きつった笑みを作って名取に向ける。
名取「…………」
五月雨「あっそうだ……すぐに手当てをしますね……まずは血を……血を止めないと……」
五月雨は自分が着ていた公安局のジャケットを脱いでそれを使って止血をしようとする。
が、しかし。
五月雨「え……?」
五月雨が手当てをしようと名取に手を伸ばした瞬間、名取の体は力なくうずくまった体勢から横に倒れた。
倒れた名取から赤い水溜りが広がっていく。
千代田「五月雨監視艦」
五月雨「あっえっと千代田さん。あの、すぐに救急車……じゃなかった。治療を要請してもらえませんか?この人、すごい重症で……」
千代田「五月雨監視艦」
五月雨は二度目の千代田の声に千代田の方をふり向いた。
千代田「ドミネーターを向けてみてください」
五月雨「え?」
千代田「そうすれば分かりますよ」
五月雨は言われた通りに名取へと向けてドミネーターを向けた。
ゆっくりと。
『犯罪係数0。生態反応無し。執行対象ではありません。トリガーをロックします』
五月雨の脳内にドミネーターの思考性音声が無情にも響く。
五月雨「…………そ……そんな……」
五月雨は力なく崩れるようにドミネーターを向けた腕を下ろした。
千代田「終わったんですよ。全て」
千代田はそう言うと空を見上げた。
すっかり暗くなった空には星が煌き始めていた。
そして、その空の中には五月雨は気づいていない様子だったが、つい先ほど前から一機のティルトローター型機が上空を旋回飛行していた。
そしてその機内ではハッチを開けて眼下の光景を眺めている三人がいた。
天龍「おいおい、ありゃ大丈夫かよ」
不知火「……大変そうですね」
天龍が強襲型ドミネーターを下方に構えた状態で呟きその後ろの不知火が呟く。
そして不知火の隣に立っていた朧は冷たい目線を眼下の光景に送っていた。
朧「…………五月雨監視艦。あなたの状況判断については報告書で説明してもらう」
千代田「これは……とんでもない新人が来ちゃったみたいですねぇ」
千代田は五月雨の姿を見ながら笑みを浮かべたのだった。
◇
人間や艦娘の心理状態や性格的傾向を計測し、数値化できるようになった世界。
あらゆる真理傾向が全て記録・管理される中、
個人の魂の判定基準となったこの計測値を人々や艦娘達は、
「サイコパス(PSYCHO - PASS)」の俗称で呼び習わした。
新年、明けましておめでとうございます!
そして……
全国の名取ファンの皆さんごめんなさい!!
ユルシテ...作者は名取ちゃん大好きです。
誤解シナイデ...
今回は艦これの要素をPSYCHO-PASSの世界観に入れて書いてみました。
ベースはPSYCHO-PASSの世界観ですね。
一応、今回は第一話ですが、今後、続くかは未定です。
好評でしたら、続ける方向で考えようと思います。
なので、ぜひ!読んで頂けたのなら感想を頂けると嬉しいです!!
皆様からの感想が投稿者の励みになります!!
用語資料
◇艦娘社会保障番号
説明:艦娘はドロップによって容姿や名前が同じ艦娘が現れる事から従来の社会保障制度が通用しない為に設けられた制度。基本的には海防艦、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、水上機母艦、戦艦、航空戦艦、潜水艦、軽空母、空母など艦娘の艦種で分けられ、さらにそこから級名、さらに艦名で分けられドロップした順番ごとに社会保障番号が付けられる。
艦娘社会保障番号の基本形は、艦種・級名・艦名・社会保障番号。
例えば今回登場した長良型軽巡洋艦3番艦の名取はL.C.N.N.052(※Light Cruiser,Nagara-class,Natoriの略)。つまり今回の話で登場した名取は軽巡洋艦名取としては52人目にドロップされた名取。
五月雨の場合はD.S.S.177(※Destroyer,Shiratsuyu-class,Samidareの略)。つまりこの作品の主人公の五月雨は駆逐艦五月雨としては177人目にドロップされた五月雨。