ようこそ堀北至上主義の教室へ   作:かわらまち

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第15話

「鳴海!ちょっと来てくれ!」

 

 自室で今日の堀北ちゃんの可愛さと、未だ見ぬ未来の堀北ちゃんの可愛さに思いを馳せていたら、須藤が慌てた様子で訪ねてきた。

 

「なんだよ。忙しいんだけど」

 

「わりぃ!でも大変なことになっちまって……」

 

「他をあたれ。今は頭の中の堀北ちゃんを愛でるのに忙しいんだ」

 

「妄想してるだけじゃねぇか!俺の謝罪を返しやがれ!」

 

 キレのあるツッコミが返ってくる。こいつ意外とツッコミ属性か?キレながらキレのあるツッコミか……。こいつ、ボケのセンスはいまいちだな。

 

「何故かいわれのない評価をつけられた気がするんだが」

 

「き、気のせいだ」

 

 清隆といい、こいつら本当に心が読めるのではないだろうか。この学校はエスパー集団の集まりかよ。そもそも妄想とは人聞きの悪い。予行練習と言ってほしいものだ。ゆくゆくは愛でて愛でられる関係になるんだから。

 

「とにかく、付いてきてくれ。頼む」

 

「ういー」

 

「軽いな、おい」

 

 須藤の様子を見るに、相当切羽詰まっているようなので大人しく付いていく。俺は頼まれたら断れない男なのだ。別に須藤のためじゃないんだからね。

 

「……」

 

 すごく怪訝な顔でこちらを見る須藤。それはもう汚物を見るような目だ。ムカついたのでデコピンをお見舞いしてやった。人を汚物のように見るなんてどんな教育を受けてきたんだか。あ、堀北ちゃんは特別なので問題無し。

 

 

 

 

 須藤は涙目に額を抑えながら数歩廊下を歩くと、ポケットからルームキーを取り出し、さも自分の部屋かのように鍵を開けた。

 

「なんで清隆の部屋の鍵持ってるんだ?あれか変態か。そういうことか」

 

「一人で納得してんじゃねぇよ!つーかお前にだけは変態とか言われたくねぇ」

 

「クラスメイトの部屋の合鍵を持ってたら犯罪者かストーカーのどっちかだろ。どっちにしろ変態だ」

 

「ちげぇよ!この間池とかと一緒に作ったんだよ!お前も知ってるだろ」

 

「どっちにしろやってることは変態と変わらんぞ」

 

「うるせーな!」

 

 キレ散らかしすぎたのか、須藤は肩で息をしている。バスケ部のくせに体力ないな。そういえば以前、清隆の部屋に集まったときに三馬鹿が合鍵を作っていたな。てか、クラスメイトの部屋の合鍵作るって普通にヤバくない?非常識じゃない?俺でも分かるよ?だって俺は常識人だからね。

 

「人の部屋の前で何を騒いでるんだ」

 

「ばんわー」

 

 須藤に軽蔑の眼差しを送っていると、部屋の中から家主である清隆が出てきた。迷惑そうな顔をする清隆を差し置き、玄関にある靴に目線がいく。女物の靴だ。

 

「なんだよ清隆、女連れ込んでんのかーこのこのー」

 

「そんなんじゃない」

 

「いい、みなまで言うな」

 

「言わせろよ」

 

 言う必要はない。清隆も男だったということだ。ここは親友として触れずにスマートに帰ったほうが……ん?あの靴なんか見たことあるような気がする。

 

「あのサイズ感、そして使用感はあるがしっかりと手入れされて新品のような輝き、さらにどこか気品が漂うのは……堀北ちゃんの靴じゃねぇか!!」

 

「なんでそれで分かんだよ!こえーよ!」

 

「普通に引く」

 

 肩で息をしていたはずの須藤から今日一番のキレツッコミがきた。根性あるじゃねぇか。さすがバスケ部。さて、外野がガヤガヤとうるさいが無視だ。正直面倒臭いなと思っていたが、堀北ちゃんがいるなら話は別。むしろ夜にも堀北ちゃんに会えるなんてご褒美以外の何物でもない。……待て、夜ということは堀北ちゃんは今、私服あるいはパジャマなんでは?

 

「堀北ちゃん、こんばんわ!」

 

「騒がしいわよ」

 

「ジーザス!」

 

 天才の如きひらめきを発揮した俺はすぐさま清隆の部屋へ突入した。そこには清隆の殺風景な部屋に光り輝く存在がいた。しかし、俺の期待とは裏腹にいつもの制服姿だった。神は俺を見捨てたのか?いや、どちらにせよ可愛いからいいか。神様今日もありがとう。

 

「こんな面白味も人間味もない部屋でも掘北ちゃんがいるだけで華やぐね」

 

「掘北を褒めるためとはいえ、酷い言われようだな」

 

「あら、後半はともかく、前半部分は何も間違ってはいないわよ」

 

「俺は本当のことしか言わん」

 

「オレに追い打ちする必要あったか?」

 

 呆れたように溜息をつきながら、清隆は台所へ向かいお茶を入れてくれた、おもてなしの心を持つ奴に悪い奴はいない。

 

「みんな揃ったことだし、お話を聞いてもいいかな?」

 

「なんだいたのか」

 

「いたよ!鳴海君より先にいたよ!」

 

 こちらもいいツッコミをすることで定評がある櫛田がいた。堀北ちゃんの輝きでかすんでいたが、どうやらこいつも須藤に呼ばれていたらしい。

 

「櫛田も怒鳴ったりするんだな。意外だ」

 

「えっ?いや、これは鳴海君だけっていうか、その」

 

「めっちゃわかるぜ!こいつの訳の分かんねぇ発言に苦労させられるよな」

 

「そう!本当にそうなの!やることなすこと奇天烈すぎて、ほんっとうに大変で」

 

 なぜか意気投合しだす二人、そして会話に参加せずとも同じ意見だと言わんばかりに頷く堀北ちゃんと清隆。解せぬ。俺が何をしたというのか。

 

「須藤君、そろそろ本題に移りましょう」

 

「ああ。俺が今日担任に呼び出されたのは知ってるよな? それで、その……俺、もしかしたら停学になるかも知れない」

 

「どんまい、お疲れ」

 

「話の腰を折らないで頂戴」

 

「はい、すんません」

 

 堀北ちゃんに注意された俺には意にも介さず須藤は話をつづけた。

 

「実は俺、昨日Cクラスの連中を殴っちまってよ。それでさっき停学にするかもって言われて……。今、その処分待ちだ」

 

「殴った?何か理由があったの?」

 

「先に喧嘩を吹っかけてきたCクラスの連中だ。俺はそれを返り討ちにしただけだっての。そしたらあいつら俺が喧嘩を売ったことにしやがったんだ。虚偽申告って奴だ」

 

「それだけじゃよく分からん。落ち着いて最初から話せ」

 

 須藤は頭の整理がついてないのか、はたまた興奮してか話の内容が伝わってこない。これだけでは情報が少なすぎる。堀北ちゃんも俺と同じ判断なのか黙って須藤に話を促した。

 

「わりぃ。ええっと、昨日、部活の時に、顧問の先生から、夏の大会でレギュラーとして迎え入れるっつー話をされたんだよ」

 

「レギュラーって凄いね!おめでとう」

 

「まだ決まったわけじゃないんだけどな。その可能性があるっつーだけで」

 

「それでも、かなり強豪と言われてるうちの部活で1年からレギュラーは凄いな。まぁ、それも意味はなくなりそうだが」

 

「うっ」

 

「鳴海君」

 

「すいやせん」

 

 話が進まないから黙っとけという意味が込められた一言にお口にチャックをする。

 

「その帰りに同じバスケ部の小宮と近藤が俺を特別棟に呼び出しやがった。無視してもよかったんだが、バスケ部の二人とは部活中にも度々言いあってたからいい加減ケリつけてやろうと思って。もちろん話し合いでだぜ? そしたら石崎ってヤツがそこで待ってやがったんだ。小宮と近藤はそいつらのダチでよ、Dクラスの俺がレギュラーに選ばれそうなのが我慢ならなかったんだと。痛い目みたくなけりゃバスケ部を辞めろと脅してきやがった。そんでそれを断ったら殴り掛かってきたから……」

 

「それで殴り返したのね」

 

「いや、その時はここでやり返すとまずいと思ってよけるだけにしたんだ。お前らに、特に鳴海に申し訳ねぇと思ってな」

 

「俺?なんで?」

 

「そりゃ、勉強会で世話になったし、俺のせいで退学になりかけたし……とにかく、こんな俺でも恩は感じてんだよ」

 

「なにそれ気持ち悪。キャラじゃないだろ」

 

「んだとてめぇ!やんのかコラ」

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

 憤って立ち上がった須藤を櫛田が宥める。おかしい、須藤がこんないい奴なわけがない。マジで人格入れ替わったんじゃなかろうか。

 

「今の話だと須藤は殴ってないようだが、どうなったんだ」

 

「そ、それは……最初は我慢してたんだ、そしたらあいつら俺を挑発してきやがって」

 

「挑発?何を言われたの」

 

「……鳴海や堀北を馬鹿にされたんだよ。こんなクズを助けようとするなんてあいつらもクズだって、それでカッとなって……殴り返しちまった。それで先生たちにチクりやがったんだ」

 

「馬鹿ね」

 

「うん、馬鹿だな」

 

 理由を聞いて堀北ちゃんと俺は揃ってため息をついた。そんなことでキレて殴りかかるなんて馬鹿以外の何者でもない。というかこいつは本当に須藤か?やっぱ偽物か?

 

「馬鹿だなんてひどいよ二人とも!二人のために怒ってくれたんでしょ?」

 

「それで殴って停学になりかけてるんだから世話ねぇよな」

 

「鳴海君の言う通りね。理由はどうであれ殴ってしまったのは愚行と言わざるを得ないわ」

 

「ぐっ、すまねぇ」

 

 須藤も重々承知なのかがっくりと項垂れた。これが漫画やドラマの世界であれば友人を馬鹿にされて怒ることは美談になり得るだろうが、現実はそんなことはない。暴行というのは重いものだし、その行為には間違いなく責任が伴う。

 

「けど、その気持ちだけは悪い気はしない。それに以前の須藤ならすぐにやり返して、俺は悪くないと言い張って反省なんてしなかっただろう。まぁ、聞く限りでは正当防衛ではあるしな」

 

「鳴海……」

 

「だが、結局のところ普段の行いが祟ってか、その話は教師たちには信用されなかったんだろ?自業自得だな」

 

「クソ、ぐうの音も出ねぇ」

 

「そ、それなら私たちで先生に説明したらいいんじゃない?」

 

「無駄ね。確たる証拠もなければ、いわば身内である私たちが説明したところで意味をなさないわ」

 

 堀北ちゃんの言う通りだ。いくら櫛田が外面が良くて先生からの評判が高くても、同じDクラスの人間というだけでその証言の信ぴょう性は低下する。仮に須藤が停学になって困るのはクラスメイトである俺たちなのだから。

 

「オレたちが須藤をかばってもポイントを減らされたくない嘘としか捉えられない。それに相手には須藤に殴られたという証拠があるが、須藤には殴りかかられたという証拠はない。現状、須藤に勝ち目はないだろうな」

 

「そんな……じゃあ、Cクラスの3人に正直に話してくれるよう頼んでみようよ。悪いと思ってるならきっと罪悪感でいっぱいなんじゃないかな?」

 

「あいつらはそんなタマじゃねぇよ」

 

「あちらが学校側に問題を報告している以上、その気はさらさらないでしょうね」

 

 ふと疑問に思ったのは、彼らはなぜ学校側に被害を訴えたのかだ。須藤がレギュラーに選ばれたことが気に食わなくてわざわざ呼び出すような奴らだ。相当プライドが高いと思われる。それなのに、三人がかりで仕掛けて返り討ちにあったのにもかかわらず、あっさり引き返し、尚且つ先生に泣きつく?彼らのプライドがそれを許すだろうか。この事件が公になれば須藤の評判もさることながら、彼らの評判だって落ちるだろう。それを許せるような人間か?ただ単に考えもなしに突発的に動いてしまっただけの馬鹿なだけなのか。あるいは最初から計画されたものなのか。

 

「じー」

 

「なんだよ珍しいものを見たような顔しやがって」

 

「だって鳴海君が真剣に考えこんでるなんて珍しいじゃん。いつも何も考えず本能で動くサルみたいなのにね」

 

「誰がサルじゃ!普段の俺も冷静沈着、超クール系男子だろうが。ね、堀北ちゃん」

 

「そうね、サルではないはね。だってあなたと一緒だなんてサルが可哀想だもの」

 

「ほらみろ、俺はサルじゃない、もっと特別な存在だって堀北ちゃんも言ってるだろ」

 

「お前の耳は都合がよすぎるな」

 

「はぁ、話を戻すわよ」

 

 お決まりの溜息を堀北ちゃんが吐く。溜息は幸せが逃げるらしいからその分俺が幸せを運んであげなければな。……昔のくせで考え込んでしまった。そんなの俺のキャラじゃないな。飄々と気の向くままに、それが鳴海幸だ。

 

「証拠かー。須藤君、何かないのかな?」

 

「もしかしたら俺の勘違いかも知れないんだけどよ……。あいつらと喧嘩してた時妙に気配を感じたっつーか、傍に誰かいた気がするんだよな」

 

「それは、目撃者がいたかもしれないということかしら」

 

「ああ。でもハッキリと姿を見たわけじゃねぇんだよ」

 

「なんとも要領を得ないな」

 

「だが、一番可能性があるのはその目撃者を見つけ出すことだろうな。清隆、茶のおかわりくれ。あと甘いもの」

 

「図々しい奴だな。茶はあるが甘いものなんてないぞ」

 

 そう言いながらも茶のおかわりを入れに行ってくれる。極限まで無駄を省いた清隆の部屋に甘いものなどあるわけがないか。飯とかもサプリで済ませてそう。

 

「ちゃんと飯は食った方がいいぞ」

 

「急に何の話だ。その、哀れんだ目をやめろ」

 

 清隆から茶を受け取り、すする。うん、普通のお茶だ。

 

「あのよ、こんなこと言える立場じゃないってのは分かってるんだけどよ」

 

「分かってるなら言うな」

 

「いや、せめて聞いてあげようよ」

 

「今回の件、誰には言わねーでくれないか。噂が広まるとバスケ部の耳にも入るだろ。俺からバスケ取り上げたら何も残らないんだよ。ようやく掴んだチャンスなんだ。頼む」

 

 そう言って須藤は頭を下げた。彼なりに部活には真摯に向き合っていることが伝わってくる。俺らが言わなくても十中八九、バスケ部の顧問の耳にははいるはずだ。だからこそ俺らがむやみに噂を広める必要はない。

 

「時間の問題ではあるだろうけど、極力広まらないように気を付ける。それでいいかな堀北ちゃん」

 

「ええ、わざわざ広める必要はないもの。取り敢えず、目撃者を探すとして、須藤君は関わらない方がいいわね」

 

「だな、当事者が動くのは得策ではない」

 

「でもよ、お前らに押し付けるわけには……」

 

「下手に動かれてまた問題を起こされると困るんだよ。分かったら大人しくしとけ」

 

「うっ、わりぃ頼むわ」

 

 須藤は自分が関わると余計にややこしくなることを理解したのか、がっくりと項垂れた。須藤ってこんな殊勝な奴だったか?何度も言うが人格入れ替わってるんじゃね。

 

「じゃあ、今日はこれで解散かな?明日から頑張ろうね」

 

「おう、頑張れ」

 

「なんで他人事!?」

 

「いや、冷静に考えてみろ、残るメンバーは清隆と堀北ちゃんだぞ。他クラスに友達はおろか知り合いだっているわけがないだろ」

 

「はっ、確かに……」

 

「納得されるのも癪だが、何も言い返せないな」

 

「……別に聞き込みくらい知り合いがいなくてもできるでしょう」

 

 こころなしか堀北ちゃんの声が細く聞こえた。ついでに清隆もダメージを受けていた。こればかりは本性はどうあれ、顔が広い櫛田が役に立つ。それに堀北ちゃんの分は俺が働けばいい。というか堀北ちゃんみたいな超絶美人に話しかけられたら、その辺のモブ男子なんて緊張で話せないだろうし、変に勘違いして堀北ちゃんのストーカーになられても困る。堀北ちゃんは俺が守らなければ。いわば堀北ちゃんは姫で俺は騎士。

 

「というわけで、姫、俺とディナーでもどうだい?」

 

「……堀北さんならもう帰ったよ」

 

「ジーザス!」

 

 膝から崩れ落ちた俺を横目に今度こそ解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまですよっと」

 

「おかえりなさい、幸くん。ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも……ふふっ。幸くんったらおませさんですね」

 

 自室に帰るとなぜか鍵が開いており、なぜかエプロンを付けた美少女が部屋にいた。この現状に驚かなくなっている自分に恐怖を覚えながらも、俺はご飯を選択したのだった。

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