バンドリの女の子はみんな百合だと思っていた。
だからTS転生して推しと恋愛しようと思ったのに、みんな普通にNLだったからただのモブ女になってしまった。

「……性別返してよ」

これは、そんなひどい扱いを受けた元男の、なんか可哀想なお話。

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落書きです。


バンドリの世界にTS転生したのにみんなNLなんだけど。

 誰だって一度は思うはずだ。自分の推しと、恋愛がしてみたいと。

 無論、僕もその一人だった。自分の推しに、ガチ恋をしてしまったのだ。

 

 けれど推しというものは、絶対に手の届かない存在。2次元であろうと3次元であろうと、それは絶対に届かない存在なんだ。

 だがそれでも、恋という気持ちは簡単には消えてくれない。手が届かなくても、夢を見てしまうものなのだ。

 

 幸い、僕が恋した推しはバンドリという世界の、いわゆる2次元の女の子だ。だから自分の好きなように妄想することに、後ろめたさはあまり感じなかった。最初から息をしていない彼女を、自分の好きなように操ることに罪悪感など生まれるはずがなかった。僕はずっと、そんな痛々しい妄想だけで満足な生活を送っていた。

 

 ──しかし、僕はとあることに気づいてしまったのだ。

 

「……バンドリの女の子って、なんかみんな百合百合しくない?」

 

 ゲームのストーリーを進めていくたびに、そんな思いが強くなっていったのだ。

 それはそうだろう。何故ならあの世界、登場人物のほとんどが女の子なのだ。出てきた男なんて、メインキャラクターのお父さんたちだけで、それも3人くらいしか出てこない。一人はドラゴンとか呼ばれてるし。しかもその女の子たちはみんなガールズバンドを組んでて、全員女子校に通っている。そんな世界だと、そりゃもう百合百合な展開しか存在しないのだろう。硝子の花園展開しちゃってるんだろうよ。

 

 僕はそんなことに気づいてしまったために、焦ってインターネットでバンドリの2次創作を探してみた。みんなはもっと普通な、夢を見せてくれるイラストを描いてくれているはずだ。そんな期待を胸に抱きながら、僕はパソコンの画面とにらめっこを始めたのだ。

 

 しかし、現実は厳しいものだ。

 そうやって探した結果、みんな百合百合なイラストや2次小説ばかり書いていた。僕の期待は、あっけなく崩れ去っていった。

 

「バンドリの女の子は、みんな百合だったんだ……」

 

 僕はバンドリのキャラにガチ恋をしているのが、なんだか惨めになってきた。ガチ恋自体惨めなものなのだろうが、百合であるキャラに、男である僕がガチ恋するなんてあってはならない。そんなこと、キャラに対する冒涜でしかないのだ。

 

 それが、自分の気づきが事実なんだと悟った日。

 それ以降、僕はバンドリの女の子に恋ができなくなってしまった。彼女たちのことを想うと、どうしても百合百合な世界が邪魔してしまうのだ。

 

「バンドリの世界に、TS転生したい……」

 

 挙げ句の果てには、そんなことを口にしていた。

 彼女たちの世界に、性転換してから転生がしたい。そうすれば、きっと彼女たちの恋愛対象になることができる。そんな叶いもしない願望を持ちながら、僕は現実という枯れた世界で、まるで腐ったかのような生活を送っていた。

 

 だがしかし、そんなある日のこと。

 

「──危ない!!!」

「……へ?」

 

 横断歩道を渡っていた時だった。

 大型トラックが、信号を無視して勢いよく僕の身体に衝突してきた。吹き飛ばされた僕の身体は、血に塗れて動かすことなんて叶わない。動かないそれが、自分の身体だとは到底思えなかった。そんな痛いのかもよくわからない感覚の中で、僕は意識が遠のいていくのを感じた。

 

(来世は、バンドリ世界の女の子に……)

 

 そんな惨めなことを願いながら、僕は命を落とした。トラックに轢かれて死ぬという、王道な死に方で。僕の人生は、最後の最後まで情けない人生だったのだ。

 

 

 

 ──これが僕の、かつての記憶。前世で生きていた頃の世界での記憶だ。

 

 前世。

 そう、前世だ。僕がトラックに轢かれて死ぬというテンプレな展開とともに、最後の最後に願ったこと。

 

 ──来世はバンドリの世界で女の子に。

 

 そう願ったおかげか、僕は──いや、()()()

 

「バンドリの世界に、TS転生した!」

 

 家の鏡の前で、拳を上に突き上げる。黒くて長い、綺麗な髪が揺れる。

 目の前の鏡に映っているのは間違いなく、可愛い女の子だった。

 

「……あんた、さっきから鏡の前でなにやってるの?」

 

 鏡の前で奇妙なポーズをとっているボクに向かって、母が心配と蔑みの声で疑問をぶつける。ボクはなんでもないよと、笑いながら母をかわした。首を傾げながらも、母は忙しそうに家事へと戻る。

 

「鏡に見惚れるのはいいけど、あんた早く出ないと遅刻するわよー?」

「あ、はーい!」

 

 台所の方から母にそう言われて、慌てて身だしなみを整える。

 

「制服……」

 

 改めて、じっくりと鏡を見つめる。

 身につけているこの制服は、羽丘女子学園のもの。毎日当たり前のように着ている、ボクの制服だ。

 

 正直な話、この世界に転生した経緯なんかは覚えていない。覚えているのは僅かな前世の記憶と、この世界が前世では「バンドリ」と呼ばれる世界であるということぐらいだ。というより、それ以上のことを思い出そうとしてもなにも思い出せないのだ。どう考えてももっと重要な記憶があるはずなのに、思い出すことが出来ないのだ。

 この世界で生まれて17年も経ったからか、記憶がごちゃごちゃだ。どうしてここがバンドリの世界だと気づけたのかも、いまいち思い出せない。そんなことを考えていると、少しだけ不安な気持ちになってくる。

 

「なにぼーっとしてるの、遅刻するわよ!」

「えっ? あ、ヤバっ」

 

 母の声にハッとして、慌てて家を出て行く。

 

「ちょっと、カバン!」

「うわわ、忘れてたー!」

 

 少し騒がしい、いつもの朝だ。なにも不安なことはない。

 

 

◆◇◆◇◆

 

「ギリギリセーフ!」

 

 教室に走り込み、自分の席へとカバンを下ろしてそう声に出す。

 あれから全力で走ってきて、なんとかチャイムまでには間に合った。家から学園まで割と近い距離だから、15分程度で教室に着くことが出来た。

 

「あっ、やっときた。おはよー、(かえで)

 

 楓。それがボクの名前。この世界のボクを示す記号だ。

 息が切れてるボクに、となりの席の女の子が挨拶をしてくれる。

 

「お、おはよ、リサ」

 

 今井リサ。それが彼女の名前。ボクのクラスメイトで、仲のいい女の子。そしてボクが今、恋している()()()だ。

 

「遅かったね〜、なにかあったの?」

「いや、まあ、ちょっとね」

 

 リサは息を切らして登場したボクに、当然の疑問をぶつけてくる。ボクはその質問を曖昧な言葉で流す。鏡に映る自分に見惚れていたなんて、口が裂けても言えない。

 

「そういえば楓にさ、ちょっと相談したいことがあって……」

「なに、どうしたの?」

 

 リサは突然、少し言いにくそうにそんなことを口にする。彼女がボクに相談とは、珍しいな。

 

「楓ってさ、好きな人とかいる?」

「ふえっ!?」

「え! いるの!?」

「い、いや、そういうわけじゃないけど……」

 

 突然の質問に、思わず変な声を上げてしまった。いるもなにも、目の前の貴女だよ。

 

「急にどうしたの?」

「いや、そのー、楓に相談があってねー」

「それはさっきも聞いたけど」

 

 なんだか少し歯切れが悪い。

 

「その、実はちょっと気になる人が出来てさー。楓に相談しようと思って……」

「え?」

 

 完全に予想外の言葉に、思わず呆気にとられてしまう。朝からそんな相談するとか、どう考えてもタイミングおかしいでしょ。しかも、よりによってボクって……。

 

「と言っても、ちょっと気になるってだけだから!! 好きってわけじゃないから!!」

 

 その言葉がもう好きだってことを示してるんだよ、と心の中で突っ込みを入れる。

 

「それで、気になる人って誰? 友希那ちゃん? てか友希那ちゃんでしょ。それ以外いないわ」

 

 なんとか落ち着いて、彼女の気になる人というのを聞き出す。というかリサが好きな人なんて、それくらいしか思いつかなかった。

 

「違うよ!? なんなのその、あたしが友希那しか好きじゃないみたいなの!?」

「あ、違うんだ。じゃあどんな女の子なの?」

「なんで女の子前提!? 普通に男の子だって!」

「……え?」

「え?」

 

 男? リサの好きな人が男の子? あれ、バンドリの女の子って百合じゃなかったの?

 

「リサって、男の子が好きなの?」

「え、う、うん……?」

 

 それは聞いてない。いや、ボクは貴女たちが百合なのだと前世に教えられたのだけど。もしもみんなが、リサのように普通に男が好きなのだとしたら──。

 

「……性別返してよ」

「楓、何か言った?」

「なんでもないよ……」

 

 虚無感が、ボクの心を支配した。

 

 




めちゃくちゃな話の進み方ですけど、最後のがやりたかっただけです。はい。


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