あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル12

 恭治くんの問いかけはシンプルだ。

 いわゆるコミュニティへのお誘い。

 まさか、エミちゃんを送り届けて、はいさようならというわけにはいかないだろうし、それなりに保護はしてもらえると思う。

 

 しかし、逆に言えば、それはなんらかの見返りを要求される可能性も高い。

 ありがちなのは、ここにある食糧。

 そして、人手。

 まさか今の段階で農業とかそういうのに手を出しているとは考えられないし、コミュニティの規模にもよるけど、なんらかの労働力は提供しないといけないかもしれない。ありがちなのは、食糧探索係とかだけど、そうじゃなくても食事を用意したり、ノクターンな展開では女の人が男の人の性欲を発散させたりもするよね。やだー。

 

 ボクの終末スローライフが崩れていく。

 

 それはいやだけど、じゃあ拒否してここに残るといった場合はどうなるかな。可能性として高いのは、恭治くんはいったん引くけど、ここに通うようになるってことかな。属しているコミュニティがヒャッハー系の略奪上等な集団だったら、ここの場所はバレてるし、襲われる可能性もあるかもしれない。

 

 エミちゃんをいわば人質にしていることになるけど、他の人にとっては会ったこともない他人である可能性が高いだろうし、恭治くん以外には抑止力になりえない。

 

 じゃあ、襲われたとして――、ボクが害される可能性はどのくらいなんだろう。はっきり言って、めちゃくちゃプリティなボクだけど、小児性愛者でもない限り、さすがに性欲の対象にはならないと思いたい。

 

 でも――、秩序が崩れた今の世界では、なにが起こっても不思議じゃない。

 例えば、人間を殴ってみたいなんていう、歪んだ暴力を発露させても変じゃないんだ。

 

 そんなふうにボクがいろいろと混乱していると――、

 

「恭治くん。少しいいかな」

 

 飯田さんは大人っぽい静かな声を上げた。

 飯田さんの言い分もまたシンプルだった。

 少しの間、考える時間がほしいということ。そのためにボクとふたりきりで話させてほしいということだ。

 その間は、バックヤードから出ていってもらうことになるけれども、トイレにこもっていれば、そこまで危険ではないということで説得していた。確かに外にはゾンビ一匹も見かけていない状況だ。

 恭治くんは、ショットガンを持っているし、渋々ながらも納得した。

 

 で――、いま、飯田さんはボクに問いかける。

 

「緋色ちゃん。どうしようか」

 

 さっきまでの落ち着いた様子はどこにもなく、小学生女児におどおどしながら話しかける大人の人がここにいた。

 

 はぁ……。なぜボクに聞くのかなぁ~~~~~。

 少しは大人っぽいなと見直したのに。

 

「飯田さんとしてはどのようにお考えですか?」

 

「うわっ。その塵芥を見るような目。素敵すぎるよ。もう最高にかわいいよ、そのジト目。緋色ちゃんがアイドルしてたらおじさん、速攻でブルーレイ10枚以上買っちゃうなぁ」

 

「じー」

 

「ハァハァ……」

 

「いい加減にしましょう」

 

「ハイ……」

 

 とりあえず落ち着いて考えを整理しよう。

 

「まず、この場所にとどまった場合は、どのような危険があるでしょうか?」

 

「恭治くんの仲間が来て、エミちゃんは連れ去られるだろうね。その際に運が悪ければ、食糧を強奪。最悪な場合は、君はかわいいから、そのなんというかね……私みたいなロリコンがいるとヤバイと思うよ」

 

「そういうふうに力説されても困るんですけど……」

 

 いやマジで。

 

 でも、小児性愛者でなくても、ボクの容姿がそれなりに人間の目を楽しませるということをボク自身も知っている。ナルシストとかそういう気もあるかもしれないけどさ、もう、わかっちゃうんだよね。

 

 ボクは――、人間という存在のコアな部分をとろかすような『禁忌』なんだって。ボクは確かに今は小さくて小学生みたいで、ロリな感じだけど、それでも圧倒的に禁断の果実と化している。

 そんな本能の奥底に(アンカー)を投げるような存在になってしまってるって、どうしようもなくわかるんだ。わかっちゃうんだよ。

 

 ボクという意思や心を考えなければ、これって効率的なのかもしれないね。ボクが犯されれば、ボクの中のゾンビウィルスは反対にその人間を侵しつくす。

 

 ほら簡単でしょ。

 

 おことわりだけどね。ボクの男としての自意識がそういった増え方を望まないというか。心は男なので、やっぱり女の子のほうがいいよ。たぶん。

 

「ともかく――、ついていかなければ危険があるってことですね」

 

「そう。でもついていっても当然危険だと思う」

 

「ゾンビ避けスプレーの件ですか」

 

「そうだな。小学校にいたはずのエミちゃんがどうしてここにいたのとか、どうやって連れて帰ってきたのだとか、そのあたりをつつかれるとヤバイかもしれないな」

 

「みんなに最初からバラしちゃえばどうですか?」

 

「うーん……、その場合、緋色ちゃんは永遠にゾンビ避けスプレーを量産し続けなければならないことに」

 

 それはいやだな。

 

「あ、でも誰かに作り方とか教えればどうですか?」

 

 もちろん嘘っぱちの適当なものになるけど、効かないものを渡すのも怖い。どうすればいいかな。要するにゾンビ避けスプレーをかけている人間を識別できればいいんだけど。そういったなんらかの目印をもとに、識別できれば、ボクは周りのゾンビを操って、襲わないようにプログラムできる。

 

 うーん……。なにかいい方法ないかな。

 

「君はそれでいいのかな?」

 

「それでって?」

 

「君が誰かにゾンビ避けスプレーの作り方を教えるってことは、君だけが持っている利益を損なうことになるってことだよ」

 

「あー、そうなりますね」

 

「この世界で、君が君らしく生きていくには、そういった力が必要なんじゃないかな」

 

「飯田さんは優しいですね」

 

「え?」

 

「そういったことをわざわざボクに教えなくてもいいじゃないですか。だって、飯田さんが飯田さんらしく生きるためには、ボクを好き勝手できるほうがいいんでしょ」

 

「それは違うかな。私はできることなら、誰も傷つかないでほしいんだ。自分がロリコンで、こうなんというか少女の造形に憧れている気持ちがあるのは身に染みている。どうしようもない性ってやつさ。佐賀だけにね」

 

 ひゅるりらー。

 あれおかしいな。エアコンが妙に寒く感じるぞ。

 

「と、ともかく、私としては緋色ちゃんみたいな『人間』を――、他人の心を傷つけたくないんだよ。それは私自身の弱さかもしれない」

 

「でも、ボクはいいですけど他の人は何もしないでいたら、飯田さんを傷つけるかもしれませんよ」

 

「そうだね。そういうこともあるだろう。私のできる範囲で、私の知っている人は誰も傷つけさせたくはないな。もちろん、エミちゃんも君もその中に含まれるよ」

 

「ふぅん……」

 

 わりといい人だよね。

 この人ってあまりブレないし。

 そこはいいところだ。

 ロリコンだけど。

 

「じゃあ、とりあえず結論を決めましょうか」

 

「残るか。残らないか、君が決めてくれると助かるよ」

 

 決断したくないという尻込みも含まれるけど。

 本来弱いボクの自由な選択というやつを尊重してくれてるのかもしれない。

 悩んだ末にボクは決める。

 

「ここを出たほうがいいでしょうね」

 

「その心は?」

 

「飯田さんが言ったとおりですよ。ここから出ないということになると、向こうからどのような攻撃を受けるかわからないですし、こちらもエミちゃんの輸送作戦を手伝ったという実績ができるわけです。合流するにしろ、そちらのほうが状況的にいいはずです」

 

「なるほどね。ゾンビ避けスプレーについてはどうする?」

 

「黙っていたほうがいいと思います。エミちゃんはフラフラと偶然ここに来た。そう言っておけば、反証もできないはずです」

 

「世の中、水掛け論だらけだしね。確たる証拠がない以上は、私たちの言い分も通るかもしれないね」

 

 まあ危険がないわけではないけれど――。

 

「それに……」

 

「ん?」

 

「兄妹を引き離すのもどうかなと思いますし……」

 

「そうだね」

 

 飯田さんは優しげな表情を浮かべると、ボクの頭をポンポンと触った。

 

 だぁかぁらぁ。

 

 そうやって、無遠慮に撫でるのやめてー。

 

 んもう。

 

 お姉さんとは全然ちがくて、ベトベトしててちょっといやだけど、でもなんとなく気持ちよさを感じてしまうボクがいた。だから、手を振り払えない。今のボクの力はたぶん飯田さんの三倍くらいは優にある。

 

 でも、振りほどけないんだ。

 

 ゾンビ的な無機質の撫で方も悪くないけれど、たまには、そう、たまにはだけど、人間らしい気遣いも悪くないと思ったから。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 エミちゃんは飯田さんが背負い、恭治くんがショットガンを持ちながら警戒する。そして、ボクはそんな二人にぴったりとくっついていく。

 恭治くんはエミちゃんにボールギャグを装備させてもやむをえないって感じだったんだけど、飯田さんがべつにいいと言ったら、なにやら感動していた。

 

 まあ、半分ゾンビなエミちゃんが首元に噛み付いてきたら、ザ・エンドってな感じなんだろうけど、飯田さん視点からはゾンビ避けスプレーを出かける前にサッと一噴きしてきたから、そんなことはないと思っている。

 

 それでも怖いことは怖いだろうけど、そこはお人よしな面がでたんだろうな。これから先、恭治くんの仲間に会うときに、エミちゃんが半分ゾンビであると知られるとマズイし、恭治くんの立場も危うくなってしまう。

 

 それを避けたのだと思う。それと自分なんてどうなっても――とか、そんなふうに思ってるんだろうなぁ。面倒くさい。

 

 さて、そんなわけで久しぶりの遠征です。

 

 ゾンビハザードから約一週間ほど経過した町並みは、まだ驚くほど変わっていない。よくあるゾンビ映画とかのように、黒煙がもうもうと立ち上っていたり、車がどこかしこで大破してたりとかはしていない。

 

 とても静まり返った住宅街という雰囲気だ。

 ここはボクの町でも大通りにあたる。もちろん、ゾンビは一匹もいないように避けてやった。わざわざショットガンの餌食にするのもかわいそうだしね。

 

 それでも、恭治くんは緊張しているのか、猛暑の日照りの中とはいえ、汗をびっしょりとかいて、シャツをじっくりと塗らしていた。

 

 エミちゃんを担ぎながら歩いている飯田さんのほうも当然汗びっしょり。

 

 ボクはわりと涼しげだけどね。

 なにしろ緊張感もないし、今は麦わら帽子を装備している。夏といったらこれだよね!

 飯田さんもかわいいって褒めてくれたし、恭治くんもいいんじゃないかと言ってたから正義だと思います!

 

 そんなわけで、ボクとしては悠長にダラダラと緊張感の欠片もなく歩いていた。

 

「ゾンビいませんね」

 

「ああ……、ハザードのときは百匹以上いたんだが、もしかすると全部小学校のほうにおびき寄せられているのかもな」

 

 小学校への距離は、ここから通りを左に曲がって、ずっと行った先。

 

「ボクたちが向かう先は、どこなんです」

 

 恭治くんは恭治くんでボクたちに向かう先を教えなかった。

 ほとんどありえないことだと思うけど、飯田さんとボクが害する可能性もなくはない。だから、情報を伝えることに躊躇したのかもしれない。出発している今の状況でいまさらって感じだけど。

 

「もしかして町役場ですか?」

 

「違う。そっちはそっちで生き残りがたくさんいるみたいだけど、そこはオレがいるところよりも人が多くて自由がきかないんだ」

 

「ふぅん? 自由のために小さなコミュニティに属しているの?」

 

「難しい言葉を知ってるね。まあそうかな。役所のほうは最初に武器になるものを取り上げられるみたいだし、エミを助けることができなくなると思ってすぐに抜けたんだ。で、大門さんに会った」

 

「大門さんって?」

 

「実際に会ってみればわかるけど、自衛官だよ。いや、元自衛官といったほうがいいかな」

 

「もう自衛官じゃなくなったの?」

 

「ああ。詳しくはわからないけど、自衛隊員はみんな首都に招集がかかったらしい、でも、大門さんはこの現場にいる人をひとりでも多く助けたいから、残ったってさ」

 

「いい人なの?」

 

「わかんないな。でも、あの人が武器を貸してくれたから、エミを助けにいけたのは事実だ」

 

「そのことなんだけど――、どうしてお兄さんはひとりでエミちゃんを探してたの。だれかに手伝ってって言えばいいのに」

 

 我ながら小学生っぷりがすごい。

 無垢な少女っぷりが今の身体にとてつもなくマッチしている。

 ああ、腹黒小学生になれそう。

 あれれーおかしいぞー。

 

「自分のことは自分でケリをつけないとな……。それが大人だよ」

 

「お兄さんは大人なの?」

 

「たぶんね」

 

 無駄口を叩いているうちに開けた場所にでた。

 そういえば、ボクはちょっと前に、この町には畑はないと言ったな。

 

 あれは嘘だ。

 

 いや、嘘というか、嘘じゃないんだけどさ……。なんというか、通りを隔てて、住宅が密集しているエリアとそうじゃないエリアの差が激しいって感じなの。

 

 だから、通りを一本隔てると、そこは広大な畑エリアが広がっていて、周りを見渡すことができる。

 

 ずーっと遠くまで見渡せるから、実は住宅地よりも危険は少ないかもしれない。

 ゾンビが畑にはいないのがまるわかりだからね。

 

「よし、大丈夫そうだな。ここからあっちの住宅密集地まではダッシュするぞ」

 

「ええ、百メートル以上はあるじゃないか」

 

 飯田さんが非難の声をあげる。

 なんとなく言わんとしていることはわかる。今は視界に入る限り、ゾンビの影は見当たらない。でも、もしも、この広大な畑のど真ん中で襲われたら、隠れる場所はない。ゾンビは人間の出す音や臭いで寄ってくるけど、わりとしつこいんだよね。だから、見つからないに越したことはないってことなのかもしれない。

 

 冷静に考えると、ボクはエミちゃん情報でしかゾンビの戦闘力を見てないし、よくわかんないけど、ゾンビの長所はたぶん数としつこさだろう。

 

 なので、たとえ一匹でも見つからないようにするというのが大事なのかもしれないね。まあボクがここにいる時点で、全部無駄ではあるんだけど……。

 

 百メートルを駆けると案の定、飯田さんは息もたえだえといった感じ。

 恭治くんも少し汗をぬぐって、バックパックの側面に挿している500ミリペットボトルで給水した。

 

 ボクも黒無地の肩提げカバンから水を取り出してちびちび飲んだ。

 ちなみにまったく疲れてない。

 

「よし。ここまで来たらあと少しだ」

 

「んー。この先にあるのはやっぱり町役場だと思うんだけど」

 

「その近くにホームセンターがあるだろ」

 

「あるけど……」

 

 この町って実をいうとあまり高い建物がない。もともと佐賀の平野部は柔らかくて、高い建物を建てると危険なんだよ。

 それに土地なんていくらでも余ってるし。

 

 問題は、ゾンビというのは階段が一般的には苦手とされていること。

 つまり、高い建物はそれだけ安全を確保するに適しているんだけど、そういった建物がこの町には……、いや、はっきり言おう。この佐賀県にはほとんど無いってことなんだ!

 

 そう考えると、一階構造だけど、スーパーとかを占拠したほうがまだマシかもしれないね。それと、もう既に別のグループが占拠しているらしい町役場くらいしか防衛に適しているところが思いつかないよ。

 

「その……大丈夫なの?」

 

「ゾンビかい? まあもっといいところに引っ越そうって計画はあるみたいだけど、それにはどこかめぼしいところを見つけないといけないしな」

 

 なんとなく察せられるのは、恭治くんのコミュニティもそんなに人がいるわけではなさそうってところ。

 

 ホームセンターひとつを占拠するというのはたいしたものだけど、一夜の間に占拠してしまえば、ホームセンターそのものは、そんなにゾンビはいないということなのかもしれない。

 畑が左側に見える道を進んでいくと、ようやく建物が見えてきた。

 引きこもりのボクも大学に通うときは横目に何度か見かけたこともある。

 

 交差点のちょうど接するように位置している。

 入り口は二箇所。その一箇所は車を三台ほど横に並べ、その奥には土嚢を積んで完全に塞いでいた。

 

 もう一箇所も同じように塞いでいる。

 

「えと……どうやって入るんですか?」

 

「あれだよ」

 

 恭治くんが指差した先には……脚立?

 場違いなほどに銀色に輝いているのは、伸ばせばはしごにもなる二つ折りの脚立だった。

 今ははしご状態で、地面に置かれている。

 

「なるほど。これを使うんだね」

 

「ああそうだよ」

 

 恭治くんは脚立状態に戻して、塀にぴったりとくっつける。

 

 先に行くよう促されたので、ボクは脚立を上った。本気出せばジャンプして飛び越せそうだったけど、さすがに小学生として最強すぎるので自重しておいた。

 

 そして、向こう側にはご丁寧にも同じように脚立が置かれてあった。これを使って降りろということらしい。

 

 何事もなく到着したあとは、飯田さんとエミちゃんだ。一歩一歩確かめるような動きだったけど、問題はなかった。

 

 最後にショットガンを肩のほうにかけて、恭治くんが脚立を上る。

 そして、塀のところで脚立を引き上げて梯子状に戻して、地面に放った。

 ガシャンと比較的大きな声が鳴ったけれど、ゾンビが周りにいないのは確かめている。

 

「さて、いこうか……」

 

 ボクたちはホームセンターの中へ入っていく。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 ホームセンター前では、みんなワクワクした気分になるものだと思う。

 男の子だったら特にね。

 だって、秘密基地を作るワクワク感って、男だったらいつまでも持ってるものだし、

 

――ボクは男の子。

 

 と思うからだ。

 

 最近のホームセンターはわりと高い天井に完全な地階構造。つまり、二階建てではなく、一階建て構造。しかも、完全なワンフロア。壁にさえぎられていない巨大なフロアが広がっているものだと思う。

 

 でも、違った。

 フロアはいくつものパーテーションを置いて、擬似的な小部屋を作っているみたい。

 通路を擬似的に作って、快適に過ごせるようにしているんだ。

 なんとも人間らしい文化的営みにボクはうれしくなってくる。

 創意工夫というのは人間の専売特許で、ゾンビには無理だからね。

 

 奥まったところには、リビングあるいは執務室と思しき部屋が作られていて、そこに豪奢な椅子に腰掛けている男がいた。

 

「さて……、よく来たな」

 

 たぶん、この人が大門さんなんだろう。

 自信に溢れる様子は、圧倒されるようであるし、なんというかカリスマ性がある。

 でも――、そんなことはどうでもよかった。

 

 驚くべきことに――。

 驚くべきことじゃないかもしれないけれども。

 私的なことで、ボクはそれどころじゃなかったからだ。

 

 大門さんが座る机の傍にはコミュニティの全員が立っている。

 その中に、ボクの後輩。

 命ちゃんがいたんだ。

 

「命ちゃん?」

 

 ボクは思わず口にしていた。


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