あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル154

 その結果は意外――。

 いや、意外でもなんでもないけど。

 アンケートの結果は、おうどん食べたいの圧勝だった。

 

 ゾンヴィーガンは浸透しそうにないね。

 やっぱり、どうしてもヒト型のものを食べるという悪趣味さが第一に来るらしい。

 共食いのイメージが先行しちゃって、それだけでダメって人が多いのだろう。

 

 いや、それよりも……。

 中眞知事はそんなことなかったけど、ゾンヴィーガンの思想の根底にあるのは理想論だ。

 要するに誰も傷つかない世界を達成したい。そのために『あなた』にも優しくなれと強要している部分がある。その強要に対しての拒絶が『そんなことより』という気持ちになったんだろうな。

 

 つまるところ――。

 とどのつまり。

 ボクもそう思っていたというわけです。

 アンケートの選択肢は結果にすごく影響するからね。

 ボクのなかのモヤっと感を表現すると、うどんが食べたくなってしまった!

 

 とはいえ。

 

 ボクが配信で言ったことはさっそく波紋を広げている。

 匿名掲示板で、議論スレまでできているみたいだ。

 ちょっと怖いけど、覗いてみよう。

 

 

 

【無限の】ヒロちゃんが提唱するゾンヴィーガンについて語ろう【食料?】

 

 

1:名もなきゾンビ

 

今日ヒロちゃんの配信で、ヒイロゾンビを利用した無限の食料調達方法が提示されたわけだけど

正直なところどう思う? アンケート結果はぶっちぎりでおうどん食べたい派だったわけだけど。

 

 

 

15:名もなきゾンビ

 

そんなことよりおうどん食べたい!

 

 

 

 

19:名もなきゾンビ

 

うどんは食べたい。食べたいが……、うどんが無ければどうするでござるか。

ヒロちゃんがいなかったとき、拙者は虫を喰ってたでござる。

最初はつらかったでござるし、まずかったでござるが餓えるよりはマシでござった。

 

 

28:名もなきゾンビ

 

武士がいて草。

なに食ってたの?

 

 

33:名もなきゾンビ

 

メインは芋虫でござるな。一番食べかさがあるでござる。

コオロギとかバッタも炒めるといい感じでござる。

 

 

34:名もなきゾンビ

 

養殖すんの?

 

 

37:名もなきゾンビ

 

養殖するでござる。芋虫はミカン科の葉を食べるのでござるが、ちょうどいいところに葉っぱがあってござってな。最初はてふてふになってしまったりと、食べごろがわからんかったでござるが案外にうまくいったでござる。

 

 

39:名もなきゾンビ

 

いまもしてるの?

 

 

55:名もなきゾンビ

 

実を言うと、普通の食事ができるようになった後も、芋虫は食べるようになってしまったでござる。ゾンヴィーガンも訓練次第で忌避感が薄れていくのではと思うのでござる。

 

 

65:名もなきゾンビ

 

オレはカラス食ってたけど、スズメはマジでお勧めできない

小さいと生物濃縮が起こりやすい

食中毒になりやすいし寄生虫の心配もあるから注意

カラスはいける

ハトもまあありだがカラスのほうが身がしまっててうまかったな

 

 

76:名もなきゾンビ

 

カラス推し兄貴は今でも狩猟してんの?

 

 

86:名もなきゾンビ

 

いやしてない

普通に鶏のほうがうまいし

金出して買えるならそっちのほうが圧倒的に楽

 

 

99:名もなきゾンビ

 

人間を喰うとかありえんだろ

山で遭難してソレしか食うもんないとかだったらわかるけど

 

 

101:名もなきゾンビ

 

ヒロちゃんを食べる……もぐもぐぺろぺろごくん

 

 

114:名もなきゾンビ

 

みんな野菜くえ野菜。

適当に畑を囲っとけば、ゾンビいても案外いけただろう。

 

 

120:名もなきゾンビ

 

野菜は場所にもよるな

都会のビルの屋上とかで菜園開いていたやつもいるっぽいが

枯れたら終了だし怖すぎるしな

大規模なやつは郊外しか無理

おまえどこに住んでんの?

 

 

133:名もなきゾンビ

 

茨城ですが何か?

 

 

138:名もなきゾンビ

 

関東圏の佐賀ポジだからこそできること

 

 

149:名もなきゾンビ

 

おまえらが何喰ってるかとかどうでもいいからゾンヴィーガンについて語れよ

ヒイロゾンビが謎の力で無限に再生するなら、食料問題は一気に解決だろ。

ついでに言えば、ヒイロゾンビが適当にタービン回せばエネルギー問題も解決。

最高じゃないか。何を迷うことがある。

 

 

163:名もなきゾンビ

 

あー、食料問題だけでなくて、例えばヒイロゾンビがゾンビーフ食べながら北斗の拳の発電機みたいなやつグルグル回せば、無限のエネルギーが得られるわけか。エコだな。

 

 

177:名もなきゾンビ

 

超能力使える人気者なら、ひとりでタービン回せるんじゃね?

 

 

185:名もなきゾンビ

 

人肉ポリポリしながら発電するヒイロゾンビか

ていうか別に発電だけならノーマルゾンビを操ってもできるよな

どっちが効率いいかはわからんけど

 

 

190:名もなきゾンビ

 

どこかの事業者がそれ始めたら、ヒイロゾンビの奴隷化が始まりそう

 

 

196:名もなきゾンビ

 

エネルギー問題とか食料問題はべつにして

食べることはプライベートな領域に属していると思うんだよな

そのプライベートな行為を強制されるのはいやだな

 

 

206:名もなきゾンビ

 

そんなことよりおうどん食べたい!

 

 

222:名もなきゾンビ

 

環境問題とかエネルギー問題とかより

うまいもん食べたいし、オレの食うもんに口出してくんなよって思うな

 

 

228:名もなきゾンビ

 

貧乏なやつはいままでもスーパーの半額惣菜とか買ってただろ

それと同じく、ゾンビーフがめちゃくちゃ安い値段になったら買うやつもでてくるんじゃ

 

 

234:名もなきゾンビ

 

ゾンビーフの値段は安くなるだろうけど

政府のお偉いさんが、ゾンビーフを喰うように仕向けるのが怖いな

スーパーのレジ袋が有料化したみたいに、錦の旗印かかげてさ

 

 

245:名もなきゾンビ

 

ヒロちゃんはたぶんそれを許さないと思うけどな

 

 

253:名もなきゾンビ

 

ヒロちゃんは政治不介入だろ!

小学生だぞ

いい加減にしろ!

 

 

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 ボクは政治不介入です。

 なんか言われたらボクなりに答えるけどさ。

 ゾンビ発電については、たぶんだけど、人気なヒイロゾンビによるタービンを回すほうがゾンビを操るより効率的だろうと思う。

 

 ただ――ずっと、電気を作り続けるだけの仕事ってつらくない?

 回り続ける巨大タービンをじっと観察しつづける仕事。

 ハムスターじゃん。短時間だったらいいけど、何十年も続けるとか絶対持たない。

 ボクだったら半日で飽きる。

 

 ただ人によっては、めちゃくちゃ対価が高ければありって考える人もいるかもしれない。

 結局はお金の問題かな。

 

 昨日は聞きそびれてしまったけど、福岡のお金事情はどうなってるんだろう。

 復活しているという話もあったし、昨日の料理を見る限りでは、流通もそれなりに回復してそうではあった。もちろん、ボクに対してよくしてくれてる可能性はある。

 

 いずれにしろ――。

 ゾンビハザード前の世界であってもゾンビハザード後の世界であっても。

 搾取する側される側はでてくる。

 客観的にはそうでなくても、主観的にそう考える人はでてくる。

 完全に平等で公平な世界なんて無理だろうし、貧困を根絶できるのかはわからない。ヒイロゾンビが変なふうに扱われるとしても、できる限りそうならないように気をつけたいとは思うけれど、全てを引き受けることはできない。

 

 つまり、放っておくしかない。

 ボクは一石を投じるしかない。

 

 とりあえず、ベッドの中で横ピースしながらスマホのカメラでパシャリ。

 掲示板に張りつける。

 

333:夜月緋色

 

 うどんいいよね!

 実をいうと、博多ではラーメンだけじゃなくてうどんも有名みたいだよ。

 かまかけって言って、ぶっかけうどんの汁なしみたいなのもあるみたい。

 ともかく、みんなが何を食べようと自由だと思うし、ボク自身は誰かに強制することはしたくありません。

 

 

 

 

 

 すぐに反応は返ってきた。

 

 

 

337:名もなきゾンビ

 

 スケスケ下着スケベ

 

 

338:名もなきゾンビ

 

 ヒロちゃんのシースルー姿キター!

 

 

339:名もなきゾンビ

 

 え、うどんよりヒロちゃん食べたい

 

 

340:名もなきゾンビ

 

 ちょっと待って、後ろにかすかに映ってるのって後輩ちゃんじゃね?

 

 

341:名もなきゾンビ

 

 同衾キター!

 百合の波動を感じる

 

 

342:名もなきゾンビ

 

 うどんとかよりもそっちのほうが気になるんやなって

 やっぱりみんなロリコンなんやなって

 

 

 

 

 ううむ。みんながはしゃいでいるから少し恥ずかしくなってきたぞ。

 布団にもぐりながら撮ってるから、上半身しか映ってないし、そんなにセンシティブでもないと思ったけど、ミスったかな。

 

「先輩。朝にスマホをポチポチするのはお勧めできませんよ」

 

 ベッドの中で、命ちゃんがささやくように言う。

 いつのまにか起きていたみたいだ。さっきまで気配なかったのに。

 

「昨日のことが気になってさ」

 

「ゾンヴィーガンですか」

 

「そう。ボクが提言しちゃったからね。みんなもいろいろ考えると思って」

 

「ヒロちゃんが言うってだけで、影響力はすさまじいと思います。いずれ聞かれたでしょうけどね。スレッドで人喰いの話が出ていた以上、最終的に中眞知事は自分の考えを開陳するつもりだったのでしょう」

 

 雄大が教えてくれた人喰いの噂。

 たぶんそれは中眞知事のことだったのだろう。

 野愛さんがそこまで徹底的に隠している様子もなかったから、そこには中眞知事の考えも混ざってるのかもしれない。

 

 いずれは――、結局は――。

 ボクにも意見が求められるかな。たぶん、そうなっただろう。

 

 命ちゃんが配信でゾンヴィーガンに対する意見を求めるのを、特に反対しなかったのは、ヒイロゾンビの総元締めであるボクに意見が投げかけられるからだ。先んじて問いかけていたほうが、柔らかく着地できる。そんな考えもあったからだと思う。

 

「人間にとって食べるって行為は重要だからなぁ」

 

「それもあるでしょうし、人類にとっては新しいことですからね」

 

「新しく経験する世界か。まあ悪いことばかりじゃないと思うけど」

 

「将来的には、ゾンヴィーガンが席捲するとしてもですか」

 

「アンケートの結果だとそうはならないと思うけどな」

 

「わかりませんよ。例えば千年も昔は食べなかった食材をいまは食べているという例もあります」

 

「まあそうだね」

 

 ただ千年も後になれば、ボクはいないだろうし――。

 そのときのことはそのときの人たちが考えればいい。

 パンタレイ。万物は流転するのだから。

 

 ボクはしばらくベッドの中で遠い未来を夢想した。

 いつのまにか眠くなって……うとうとと。

 二度寝……。

 

 と、そのときだった。

 ボクのスマホが突然鳴った。

 ちょっとびっくりしたけど、もう9時だ。そろそろ起きてもいい時間だ。

 誰だろうと思ってみてみると、ぼっちさんだった。

 

 ぼっちさん。

 ボクの町の探索班のひとりで、20歳くらいの大学生。

 縁あって探索班の人たちとは仲良くなってるから、電話番号くらいは交わしあっている。

 

 ボクとしては身近な男友達って感じで気安くつきあえる感じ。

 向こうとしてはボクが異性の女の子だって感じだろうから、イリーガルなあれこれを考えているかもしれないけどね。

 

「はい。緋色です」

 

『ヒロちゃん。助けて!』

 

「前にもこういうことがあったような……。いったいどうしたの?」

 

『僕は食べられてしまうかもしれない。このままじゃ……』

 

 食べられてしまうってタイムリーな話題だな。

 とはいえ、ぼっちさんの場合、文字通りの意味ではないだろう。

 

「もしかして未宇ちゃんのこと?」

 

 ぼっちさん絡みといったら未宇ちゃんのことくらいしか思い浮かばない。

 

 杵島未宇ちゃん。10歳。

 前は耳が聞こえないおとなしい子だったけど、なんやかんやあって、ヒイロゾンビになり今は耳が聞こえている。耳が聞こえないときに唯一手話ができたぼっちさんとなんやかんやあったらしく、要するにぼっちさんを慕っている。

 

 つまり、ぼっちさんはボクの敵。リア充だった。

 

『もともとグイグイくる隠れ肉食系だとは思ってたんだけどね。最近は特にひどいんだよ。いつのまにか僕のベッドにもぐりこんでくるわ。ヒロちゃんの指輪の件とかあったよね。あれ見て、わたしも結婚するとか言い出したりね』

 

 やべえ。

 なんだか聞いててイライラしてきたぞ。

 

「えっと、ボクにそれを言ってどうしようって言うの? ボクいま福岡だよ。というかまだ福岡来てから一日しか経ってないよ。せめて出発する前に相談してくれたらよかったじゃん」

 

『覚醒したんだ』

 

「は? 覚醒? なに覚醒って」

 

『事の起こりは、未宇ちゃんが結婚したいって昨日言ってきたことにあるんだと思う』

 

「はあ。リア充自慢ですか」

 

『怒らないで聞いてよ。それでまあ、そのこと自体はうれしいことなんだけどさ。ただ未宇ちゃんも小学生だし傷つけちゃいけないって思ってね。僕には甲斐性がないから断ったんだよ』

 

 うーむ。甲斐性ね。

 

 正直なところ今の経済状態で、甲斐性もなにもないよねって思う。

 

 我が町の経済事情はようやく物々交換ができるかなーっていうのと配食券が金銭と同じ価値を持ってきつつある段階だ。

 

 それに、ぼっちさんってなんだかんだ言ってあの町の英雄的側面がある探索班だしな。べつに甲斐性がないってわけではないだろう。

 

 ただ、ぼっちさんの言わんとしていることもわかる。

 未宇ちゃんの恋撃を躱すためにわざと自分が悪者になったのだろう。

 

『そしたら未宇ちゃんがね。ぼっちに甲斐性がなくてもわたしのヒモになればいいって……。わたしが食べさせてあげるからって言いだしたんだよ』

 

「小学生のヒモとか……」

 

『さげすんだ声出すのやめて』

 

「まあいいんじゃないですか。ぼっちさんを養うって言っても、しょせんは小学生だよ。むりむりのかたつむりってやつで」

 

『僕も最初はそう思っていたんだ。でもこの世界は"人気"を得れば、それが経済的にも社会的にも力になる。実をいうと今の段階でも、未宇ちゃんのほうが僕より力が強かったりしたんだけどね。もし、未宇ちゃんが人気ものになれば、その差が絶望的になる。もう身体的能力だと絶対に勝てなくなる。経済的にも社会的にも小学生の女の子に負けちゃうんだよ。いや負けるのはいいんだ。負けるのは。男としてのプライドとかそういうことも考えないわけじゃないけどね。ただ――食べられそうで怖いってだけで』

 

 めっちゃ早口でした。

 まるでホラー映画で追い立てられる被害者みたいな感じで。

 

「配信か。まあそれもありなんじゃないかな。スカイちゃんのような例もあるし、ピンクちゃんだって小学生だし。いまどき珍しくもないよ」

 

『そうだね。ただの小学生ヒロチューバーだったらそうかもしれない。でもそうじゃないんだよ。未宇ちゃんは覚醒してしまったんだ』

 

 声の調子は肉食獣に追い立てられる草食動物みたいだった。

 さすがにリア充でも、困ってるのは本当みたい。

 

「さっきからよく出てくる覚醒って何?」

 

 電話の向こう側で、しばし沈黙が満ちる。

 

『ネコミミだよ』

 

「は?」

 

『だからネコミミだよ。わかるよね。ヒロちゃん』

 

「ネコミミってラノベとかでよくあるような頭頂部についているアレ!?」

 

『そうだよ』

 

 なんだそりゃ。

 自分の身体的特徴をいじれるヒイロゾンビたちだけど、まさかネコミミモードになっているのは世界初じゃない? ていうか絶対人気でるわ。一日で100万人クラスのファンができても不思議じゃない。

 

 おそるべし未宇ちゃん。

 

「ぼっちさん教えてくれてありがとう。恋人がネコミミになってよかったね」

 

『じゃなくて! 止めてくれないの?』

 

「配信して人気者になって、未宇ちゃんが離れていくようでさみしいの?」

 

『ま、まあそういう感情もなくはないけど』

 

「人気者になっても、未宇ちゃんはぼっちさんから離れていくことはないと思うけどね。それに人気のちからは今の世界だと経済的社会的なちからそのものなんでしょ。それを例えばボクが言ってきかせて奪っちゃったりしたらダメだと思う」

 

『それはわかるんだけど……』

 

「未宇ちゃんは無理やりって感じのタイプじゃないと思うけどな。ぼっちさんがダメって強く言わないからグイグイいってるんじゃない?」

 

『そうかもしれないけど……』

 

「襲ってほしいんじゃないの。未宇ちゃんに」

 

『そ、そんなことないよ! そんなことあるわけないじゃないか。小学生にそんな邪なこころを抱くなんて。それに、ヒロちゃんに助けを求めるでしょ」

 

「ボクに助けをもとめるのが免罪符になってたりして」

 

『ヒロちゃん助けてよほんと』

 

「だったら、ぼっちさんも配信して人気者を目指してみるとか? 未宇ちゃんと同じくらいの人気ものになれば力で拮抗するからいいんじゃない?」

 

『僕って陰キャだからさ。たぶん配信で人気者になるのは難しいと思う』

 

「バーチャルなほうとかいろいろやりようはあると思うよ」

 

 そもそもの話。ボクは未宇ちゃんをスポイルしたくない。

 好きな人のために何かしたいって気持ちを踏みつけにするなんてできないからな。

 ぼっちさんが怖がってるのはわかるけど、それはもうよく話をしろとしか言いようがない。

 

『バーチャルか……まあそれなら多少は可能性あるかな』

 

「バーチャルは生身じゃない分、恥ずかしさがまぎれたりもするね」

 

『わかったよ。ごめんね。こんなことで電話してきて』

 

「いいよ。ところで、未宇ちゃんのネコミミ配信っていつになりそう?」

 

 正直なところ、あわてふためくぼっちさんより、そっちのほうが10倍くらい重要だった。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 というか、ボクは未宇ちゃんと電話を代わってもらい、その場でいますぐ配信しようと促した。

 

 もともと未宇ちゃんに否はなく、ボクの言葉が最後の一押しになったみたいで、それから一時間もしないうちに、記念すべき第一回かつ世界初のネコミミ配信が始まったのである。

 

「ミウです」

 

 未宇ちゃんだった。

 配信名はカタカナでミウ。なんとなくネコな感じの名前なのでマッチングしている。

 

 そして、なんといっても生ネコミミはやはり素晴らしいものだった。

 つややかな黒髪の上、頭頂部のあたりからわずかに白い毛の混じるネコミミ。

 いやそれだけじゃない。

 ぼっちさんは言わなかったけど、座位の状態で上半身を映した未宇ちゃんの背後のあたりにふりふりとネコしっぽまで映っていた。

 

 コメントは狂喜乱舞の一言。

 

『キタキタきてんだろ!』『日本始まってる』『古参を名乗れるように光の速さで登録した』『長い黒髪が綺麗だね。人間耳あるのかな?』

 

 人間耳があると、いわゆる四つ耳状態になってしまう。

 四つ耳については宗派がわかれていて、絶対ダメな人から、むしろそれがいい派までいろいろだ。

 ボクはどちらかというと容認派。それでもいいかなというタイプだ。

 

「えっと耳は大事。だから四つあるの。ダメ?」

 

『ダメじゃないテイジン』『むしろそれがいい』『人間耳あってもいいけどないほうが好きだな』『はっ? 戦争かよ』『初配信でいきなり喧嘩するのやめろ』『しっぽもあるとか神かよ』

 

「配信をはじめたのは人気者になって金持ちになりたいからです」

 

『ストレートすぎるwwwww50000』『50000だよ。受け取り』『うおおおお。久しぶりのスパチャ』『パパ活してるみたいで若干きがひけるなwww』『ネコミミの魔力』

 

 うーん。すごいな。

 未宇ちゃんってなんだか眠たげな感じで話すのが、舌ったらずふうでかわいらしいんだよな。

 それとファンシーなネコミミモードがあわさり最強に見える。

 あ、お金が入ってうれしそうに揺れるしっぽ。

 

 そして、しっぽでハートマーク。

 加速する欲望はついに危険な領域に突入する。

 

『おじさんがたくさんお金をいれてあげるからね』『金ってでも意味あるのかな? まあ予算はたくさんあるけどさ』『徐々に物流回復してきてるからお金の価値も復権するだろ』『そんなことよりミウちゃんってこれからなにしていくのかな』

 

「ミウは音楽を聞くのが好きです。ラジオのDJさんがしてるみたいなことしたいです」

 

 控え目に言ってかわいさが天元突破しているんだよな。

 いつのまにか小悪魔化してリスナーをお豚様扱いしていた恵美ちゃん(スカイちゃん)とはちがって、君はこのまま純粋なままでいてほしい。

 

 とりあえず――ボクは『かわいい』と一言だけ述べて、50000円を投げた。

 

『ヒロちゃんも推しとるやんけ』『世界初のネコミミヒロチューバーだろうしな』『あっという間に登録数が増えていってる』『この子も知り合いなのかな』

 

「ヒロちゃんは友達」

 

 未宇ちゃんがうれしいことを言ってくれる。

 そんなこんなでお昼ごろまで楽しみました。




遅れちゃった……
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