あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル48

 顔バレした。

 そりゃもう盛大に光を撒き散らしながら天使っぽい演出つきで顔バレした。

 顔バレがイコール身バレではないと思ってる。

 身バレっていうのは住所特定とかそういうのも含むものだから。

 ゾンビだらけの世界で、なかなか住んでる場所までは特定できないものだし、街頭カメラとかの映像で大きく佐賀のどこかに住んでることはわかってもきっとバレないんじゃなかろうか。

 

 あれから、ボクの配信の登録者数はあっという間に10万人を突破してしまった。たった三日だよ。三日。顔バレ配信から一瞬で5万人くらい追加されちゃったことになる。

 

 もちろん、純粋な意味でのヒロ友じゃないんだろうなとは思ってる。

 だって、ゾンビに対抗する能力を持った少女だしね。

 まさか顔バレしてかわいかったから登録しましたみたいなロリコンはいないと思うんだよね。

 

 ボクとしては――、できれば純粋にボクといっしょに配信を楽しんでくれる人がいいなとは思う。

 

 ゾンビ避け少女とかメシアとか天使とか、そういうふうにボクを呼ぶ人たちは、本当の意味でのボクを見ていない。

 

 もちろん、それもボクの要素のひとつではある。

 

 そういう属性をもっているのもボク。

 

 きっと純粋な意味でのボクそのものはボク自身ですら見えないのだし、他者にはもっと見えないものだ。

 だから、裸心を晒したいなんていうのは、そもそもおこがましい願いなのかもしれない。

 

 でも、最初の頃の配信はきっと――。

 

 今よりもっと純粋だったかなって思うんだ。

 

「マンネリかな」

 

「ご主人様ぁ。何事も続けていたらそりゃ飽きますよ」

 

 マナさんはいつもの柔らかな口調でいいながら、テーブルのところにパンケーキを置いた。はちみつたっぷりで甘ったるそう。

 笑点の座布団みたいに五段重ねになっているそれはボクのちっちゃな胃では、全部入りきることはない。

 

「いつもパンケーキじゃ飽きるのと同じです」

 

「うーん。そうかなー」

 

「そうですよ。でもご主人様がちっちゃなお口でがんばって食べてる姿なら、無限に見続けても飽きなさそうですどね♪」 

 

 はふはふ。ぱくぱく。

 うん。やっぱりマナさんの作る料理はおいしいなー。

 それに、ゾンビお姉さんだし。

 ボクが一番仲良くできたゾンビさんだし。

 マナさんって素敵な大人の女性って感じだ。

 姫野さんも大人なんだけど、あの人はボクのことをまだ怖がってるからなー。

 

「ん。ご主人様がわたしのことを視姦している?」

 

「ただ見てただけだけど……」

 

「わたしはご主人様をいつも視姦してますけどね!」

 

 堂々と言うのは、ある意味すがすがしいというか、なんというか。

 でもまあ、ボクの見目がいいのはボクも認識してるところではありますけど?

 ふふん。

 

「ゾンビ利権のために見ている人多そうだよね」

 

「そりゃそうですよ。人間、なにかしら自分に利益がないと見ません。読みません。フォローしません」

 

「そうだよね」

 

 それはなんというか――寂しくはあるけど。しかたないのかもしれない。

 純粋な交わりって難しいよ。

 

「ご主人様知ってましたか?」

 

 そっと両の手をあわせて、ボクに聞くマナさん。

 

「なにを?」

 

「ツブヤイターのフォロワー数の増やし方なんですけど」

 

「うん。気づいたら10万件に増えてたんだけど。怖いよね」

 

「通常はそうやって増えることはまずないんですよ」

 

「え、そうなの?」

 

「そうなのです。通常はフォローしたらフォローするっていうフォロー返しが基本なんです。そうやってフォロー返しをしていくと、フォロワーのフォロワーがつながりを求めて寄ってくるんですよ」

 

「ふうん」

 

「つまり、人間なにごとも一歩一歩なんです。急速にわかりあえるってことはないのです」

 

「お姉さんの言うとおりかも」

 

「ああ、ご主人様がわたしを認めてくださったのですね」

 

「ボクはわりと、マナさんのことを大人だって思ってるよ」

 

 ロリコン趣味であることを除けばだけど。

 

「だったら、そのよいのでしょうか」

 

「え、なにが?」

 

「わたしも命ちゃんみたく、その、き、キスをしちゃっても」

 

「それはだめです」

 

 命ちゃんとのキスもボクは一度だって了承したつもりはない。

 なし崩し的にやっちゃったりはしてるけど、あれは命ちゃん曰く補給だ。

 つまり、ヒイロウイルス依存症であって、キスしたかったのが理由じゃないのではないかと思っている。

 

 そう、命ちゃんはヒイロウイルス依存症患者なのだ。

 

「なら――、わたしも。わたしも依存症です。ああ、苦しい。苦しい。ゾンビになっちゃう。ご主人様。早くキスを! 間に合わなくなっても知らんぞー♪」

 

 床にねっころがって、ジタバタともがくマナさん。

 20代半ばのお胸の大きな美人のお姉さんです。

 

 お姉さんはどこで人としての道を踏み外しちゃったんだろう。

 

 人類進化の系譜を夢想し、ボクは遠い目になった。

 

「あ、マナさん。そういえば命ちゃんがネットのシールドの仕方について相談があるみたいだよ。あとで命ちゃんのお部屋に行ってください」

 

「はい。わかりました」

 

 ちょっと残念そうだけど、すごく返事はいいんだよなぁ。

 

 ボクが無意識に命じているからではないと思いたい。

 

「えっと、マナさん……いつもありがとうね」

 

 ボクは普段のお礼もこめて言った。

 

「うひゃ。ひゃあああ。ご主人様がかわいすぎる件っ。できれば卑小なるわが身に祝福のキスをプリーズ!」

 

「残念なお姉さんだよね……」

 

 とはいいつつも、ボクも感謝の気持ちに嘘はない。

 ほっぺたに軽い親愛の情をこめたキスをした。

 すると、お姉さんはそのままぶっ倒れてピクピクと痙攣していた。

 幸せが限度を越えたのだろうか。

 ボクはお姉さんをまたいで他の人に会いにいくことにしたのだった。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 ところで、この世界において、倫理や法律が既に崩れてしまっているのは、もはや言うまでもないことだと思う。

 

 とはいえ――。

 

 とはいえである。

 

 恭治くんと恵美ちゃんが同じ部屋で暮らしているのはどうかと思うんだ。

 

 このアパートの作りは、ワンルーム。

 

 さすがに四畳半とかいう作りではないものの、お部屋を区切ったりはしていないんだ。ベッドに恵美ちゃん。その下に恭治くんが布団を敷いているとはいえ、彼我の距離はほんの指間。

 

 恵美ちゃんも12歳。

 

 まさか妹のことが大事でたまらない恭治くんのことだから、間違いなんて起こるはずもなかろうが、情操教育上、あまりよろしくないんじゃないかなと思う。

 

 恵美ちゃんはベッドのところでタブレットを使って、なにかしていた。

 

 って、ボクじゃん。

 

 絶賛、ボクのアーカイブを上映中じゃん。

 

「あ、あの。恵美ちゃんこんにちわ。恭治くんも」

 

「緋色ちゃんこんにちわ。すごい人気だよ!」

 

 にこって笑いかけてくる恵美ちゃん。

 

 なにこの子、天使なの?

 

 ボクも言われ慣れてる感のある『天使』だけど、やっぱり生粋のJSは一味違うな。抱きしめたいぞ恵美ちゃん。卑猥な意味はなく。

 

「緋色ちゃん。おまえ、自重って言葉知ってるか?」

 

「むう。ボクもいろいろと事情があるんだよ」

 

「そうだよお兄ちゃん。緋色ちゃんを悪く言わないで!」

 

「お、おう。わかったからそんなに怒るなよ」

 

 恵美ちゃんってわりと快活だと思う。

 

 優等生風味な容姿なんだけど、陽キャ成分多めというか明るいというか、お兄ちゃんの前では素の表情を晒していて、心地いい感じ。

 

 人間やっぱり素直が一番だよね。

 

 それだけにボクも思うところがある。

 

 ボクが配信をしたのは、きっとボクの素直な心だし。

 

 人間との距離感も今の状況が一番好ましいと思っている。

 

 でも、人間は人間のほうできっといろいろと考えるだろうし、どんどんとボクに注目が集まっているのも確かだ。

 

 だから――、伝えておかなくてはならない。

 

 ボクはボクのわがままでふたりをこのアパートにとどめおくように仕向けたけれど、このままだと危険かもしれないんだ。

 

「ねえ、ふたりとも。危ないと思ったら恵美ちゃんの家に避難してもいいからね。ここに人間が大挙して押し寄せてくるってことだってありえるし」

 

 ふたりは顔を見合わせた。

 ボクが何を言っているのかわからないはずはないだろう。

 あれだけ目立ってしまったんだ。

 ホームセンターの二の舞にならないとも限らない。

 

「緋色ちゃん」

 

 じっとボクを見つめてくる恵美ちゃん。

 彼女の透徹とした眼差しは、凛としていて涼やかだ。

 ボクが後ろ暗い気持ちになっていると、やっぱり恵美ちゃんって陽キャなんだなぁと思っちゃう。

 

「私はお兄ちゃんを助けてもらって、緋色ちゃんには本当に感謝してるんだよ」

 

「うん」

 

「だから、そんなこと言っちゃダメ!」

 

「うん……うん?」

 

「いっしょにいなきゃダメだよ」

 

「そうかなー」

 

「そうだよ!」

 

 論理がよくわからない。

 でも、小学生らしい気迫のようなものを感じる。

 そもそも、恵美ちゃんみたいな子どもに全力で言い切られると、大人なボクとしましてはですね、あまり逆らえないのです。

 

「まあ……、いざとなったらゾンビ集めて追い返せばいいだろ」

 

 恭治くんも恵美ちゃんには逆らえないんだろうなぁ。

 こんなにも天使なんだもんね。

 

「それはあんまりやらないほうがいいって命ちゃんは言ってたよ。なにしろ、こんななんの変哲もないアパートのまわりにゾンビがいたら明らかにおかしいからね」

 

「それもそうだな……。じゃあ、バレないように引きこもってるしかないな。ほとぼりが冷めるまでってやつだ」

 

「うん。わかってる」

 

「でも、配信は続けてほしいな」と恵美ちゃん。

 

 もしかして恵美ちゃんもヒロ友なのかな。

 

「配信は続けるけど、今やっちゃうと、いろいろとまずいような気がする」

 

「大丈夫だよ。だって、ここに住んでるってバレたわけじゃないんでしょ」

 

「まあ、完全にはバレてないと思うけど」

 

 ただ、時間の問題かもしれない。

 べつに秘匿回線を使ってるわけじゃないから、おおざっぱな住所はわかるだろうし、街頭カメラをいくつか駆使すれば、ボクがどこらへんに住んでいるか特定するのは不可能じゃないだろう。

 

 問題は、その調べた誰かさんが、ゾンビを掻き分けて来れるのかってことだけど、まあ――たぶん、普通の人間じゃ無理だ。

 

 佐賀は田舎で人口が少ないけれど、ここのあたりは道が狭い。

 少ない数のゾンビでもすぐに囲まれてしまう。

 

 ボクのところまでやってきたらやってきたで、おそらく無傷ということはありえないんじゃないかな。

 

「緋色ちゃんの配信みたいなぁ」

 

 うっ。

 

 純真無垢な眼差し攻撃。胸のあたりで指を組んで祈るようにしている。

 

 恵美ちゃんはアイドル並の容姿で、とてつもなくかわいらしい。

 

 そんな子がボクに対して全力でお願いをしてくるという事実。

 

「しょ、しょうがないなぁ……、ふへへ、ちょっと考えてみるね」

 

 ボクはふたりの部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 飯田さんと姫野さんにも同じような説明したけど、姫野さんがおどおどしているんで、そこそこで切り上げて自分の部屋に戻ってきました。

 

 飯田さん曰く、ボクとはお隣さんだから勝手に出て行くことはないらしい。

 

 もう一度死んでるから、余生だから、ボクの行く末を傍で見届けたいらしい。

 

 ポンポンって撫でられてしまった。

 

 くそう。うれしいぞ。

 

 でも、言うまでも無いことだけど、ゾンビ化してしまっている飯田さんたちは二度とゾンビ化することはない。耐久力はゾンビ並みだけど、今度殺されたら本当の死だ。

 

 そう考えると、ゾンビ化する前の人間たちはボクの視点でいえば残機がふたつある状態ともいえる。

 

 人間がゾンビ化するというのは、きっと人間視点では死ぬのと同義なんだろうけど、ボクからすれば残機を一機失ったに過ぎない。

 

「さってと……命ちゃん。そろそろ配信してもいい?」

 

「小学生にほだされる小学生」

 

「うっ……」

 

「恵美ちゃんかわいいですもんね」

 

「かわいいよ。妹みたいな感覚かな」

 

 背格好はほぼいっしょなんだけどね。

 

 ときどきはボクの部屋にやってきて、いっしょにご飯とか食べたりする。お風呂にもいっしょに入りたいといってきたときは最近の小学生って積極的と思ったけど。冷静に考えれば、ボクって小学生の女の子だったわ。

 

「それであれだけ先日焦ってたのに、すぐに配信しちゃうんですね」

 

「ふ、ふへへ……それは言わないお約束ってやつですよ。命さまぁ」

 

「まあいいですよ。セキュリティレベルはあげておきました。今日はバーチャルな先輩でやるんですか? それとも生配信するんですか?」

 

「生配信ってリアルなボクでもいいの? 危なくない?」

 

「既に掲示板とかで拡散しちゃってるんで、いまさらという感じです。住んでいるところがバレないようにカーテンとかは締め切ったほうがいいですけどね。背景とかからバレる可能性がありますから」

 

「ふうん。どうしようかな……」

 

 ヒロ友に限らずだけど、視聴者はきっと配信者のことを知りたいのだと思う。正確にはキャラクターを掴みたいというか、配信ごとに明らかにされる知っていくという過程を楽しんでいる。

 

 それはボクも同じで、配信者ごとに視聴者の属性は異なるように思うし、ボクはボクでヒロ友のことを知っていくという過程がうれしい。

 

 仲良くなっていってるのは確かだと思う。

 

 新規さんが増えて、また知り合いレベルから始めないといけない人も多いかもしれないけれど、古参な人たちがボクの配信における『作法』みたいなのを定着化させている。

 

「顔バレしちゃってるし、今日は生のほうでいこうかな」

 

「わかりました。背景描写だけ、リアルタイムでトリミングしちゃいますね」

 

「よくわかんないけど、命ちゃんにまかせるよ。ありがとう」

 

 既にツブヤイターで時間告知をしていて、待機列は二万人以上になっている。

 

 アイドルがバックヤードから出て行くときってこんな気持ちなのかな。

 

 ドキドキがとまらない。

 

「やっほー。終末配信者のヒーローちゃんだよ。みんな元気してた?」

 

『うああああああ。今日もリアルヒロちゃんだ』『お可愛いこと』『アーカイブの再生が止まらないんだけど』『うちの妹はやっぱりかわいいな』『お兄ちゃん、病院から抜け出したらダメって言ったでしょ』『好き』『今日もヒロちゃんのお歌でゾンビ避けできたよ』

 

「うん。みんな元気そうだね。えっと、今日はゲームとか歌とかじゃなくて、みんなの疑問に答えていこうかなと思うんだ。ボクについて知りたいこととかあったら、ドシドシ質問してね。あ、でも答えにくい質問はスルーします」

 

 ツブヤイターのほうには質問箱を用意している。

 もう既に200以上の質問が来ているけれど、捉えきれる限りではコメントの質問も拾っていこうかな。

 

 超高速でコメントが流れていってて、とてもじゃないけど全部は追いきれそうにないけど。

 

『超能力みせて』『ヒロちゃんのスリーサイズが知りたい』『恋人とかいますか?』『ゾンビ避け能力に気づいたのはいつ?』『超能力って生まれたときから持ってたの?』『ヒロちゃんにどうやったら会えますか?』

 

「えっと、超能力についてはある日気づいたら覚醒しました。今ではほらこのとおり……」

 

 机の上の消しゴムとシャープペンシルをふわふわと浮かせる。

 自分で言うのもなんだけど、結構うまくなったな。

 

『マジックじゃないよね』『いっつわんだほー』『ああメシア様ぁ』『ゾンビ避けもこの力でやってるのか?』『全世界からゾンビを消滅させてくれ』『むしろ、ゾンビから回復できる力があるなら、みんな人間に戻してほしい』

 

「ゾンビから人間に戻すというのは、目の前にいないとたぶん無理なんだ」

 

 雄大を治したのは、ヒロ友のみんなにはバレていない。

 無音の映像で、誰かと電話で話していたことくらいしかわからないはずだ。

 それに、あれはたぶんボクのテンション次第なところがある。

 雄大はボクにとっても特別な――大事な友達で、だから遠隔でのウイルス操作ができたのだと思う。

 

 普通の知りもしない人を映像だけ見て、はい回復というわけにはいかないよ。

 そこまでボクの力は万能じゃない。

 

『オレの母ちゃんをゾンビから戻してほしい』『妹を戻して』『父親の頭たたきわってたら回復はもう無理ですか?』『どう考えても救世主だよなぁ』『ヒロちゃん自身は家族いないの?』

 

「ゾンビから戻すのは、時間が経ってボクのレベルが上がればもしかしたら広範囲で可能になるかも。でもいまは無理なんだ。ごめんね。あと――、頭を叩き割っちゃったら、もう……」

 

 そう。頭を叩き割るということは、ゾンビとしての仮初の生すらなくなり、完全に死亡しているということだ。ここに、ヒイロゾンビも頭を撃ち抜かれたら死ぬんじゃないかとボクが考える根拠がある。

 

 不思議なことに、死体からはゾンビウイルスの気配が消える。本当のウイルスだったら身体に残留しそうなものだけど、そうはなってない。

 

 仮に死体をついばむカラスとかネズミがいても、ゾンビカラスとかゾンビネズミにならないのはたぶんそういう理由からだろう。

 

 死体からはウイルスは散逸するということだ。

 

『ヒロちゃんを信じてゾンビには黙って噛まれろってことだな』『死体全部食われたらさすがに回復できんくね?』『腸がびろーんでも回復できますか?』『顔半分がなくなってるけど回復できるの?』『親父……』

 

「実を言うと、ボクは回復魔法も使えるんだ。だから、頭を破壊されていない限りはたぶん大丈夫だと思う」

 

 もちろん、この場合はヒイロウイルスを感染させる方法だ。

 どこまで回復できるかは試したことがないからわからないけれど、身体中穴だらけでもすぐに回復できる程度には力がこめられている。

 質量保存の法則とかどうなってるのか謎だけど、ボクの血液というかヒイロウイルスにはそれだけのエネルギーがあるのだろう。

 

 下半身がなくなってる這いずり状態でも回復できるのかは知らない。

 たぶんできるかな。

 

「あと……、ボクの家族は後輩ちゃんとかお姉さんとか、ボクといっしょに住んでる人たちだよ。血がつながってる家族はいないかな」

 

『おう……』『こんな小さな子がひとりかよ』『お兄ちゃんがお兄ちゃんになってあげるね』『オレもお兄ちゃんになってやる』『わたしがパパだぞー』『やったねヒロちゃん家族が増えるよ』『おいやめろ』

 

「ふへへ。みんながいるから寂しくないよ」

 

『ゾンビとはいったいどういう存在なのか貴殿の意見を求む』『なんだこいつら。ヒロ友じゃねえな』『政府のエライ人なんじゃね?』『ゾンビってなんなんだろうな。確かに』『ゾンビはゾンビだろ』

 

「ゾンビはエイリアンなんじゃないかな」

 

 前に配信で言ったとおり、パンスペルミア仮説、彗星からの生命起源説だ。

 思考経路が人間の知覚範囲を超えているため、言語化できていないだけのように思う。

 そういうふうな感じで滔々と語った。

 

『我々がゾンビウイルスを知覚できないのはなぜか貴殿の意見を求む』

 

「素粒子レベルにちっちゃいんじゃないかな」

 

 粒であり波である光のように、波動の存在として空間に寄生する生命というか。

 

『なぜそれを貴殿が知覚できるのか?』

 

「えっと……超能力?」

 

『やべえ。なんだか圧力がすげえぞ』『科学者がいる感じ?』『ひとりだけ質問してズルイぞ。ヒロちゃんの好きな食べ物はなんですか?』『小学生並の質問』

『波動存在として同一位相の存在を感知しているというのか?』

 

「好きな食べ物はえっとね……パンケーキです」

 

『かわいい』『かわいい』『女の子』『好き』『天使ですよね。知ってます』『ゾンビウイルスが波動存在だとすれば、貴殿はフェイズシフトによって位相中和しているのか?』『おまえだけ質問の毛色違いすぎて草』『でも科学者なら知りたいのもわかるしなー』『ゾンビ対策になるならいいんじゃね。答えるのはヒロちゃんだし』

 

「フェイズ……えっと、わかんない。後輩ちゃん。フェイズシフトって何?」

 

「クラッキングが十二箇所から来てますね。それやめろっていってくれません? そうしたら答えてあげますとお伝えください」

 

「えっと……クラックするのやめてくれたら答えてあげるって」

 

『心証を損ねたのであれば申し訳ない。こちらでおこなっているのは3箇所のみだ。我々のところは停止する』『ナチュラルにクラッキングしてて草』『俺らみたいに純粋にヒロちゃんの配信を楽しめんのかねぇ』『ヒロちゃんのおろおろする顔がかわいくてドキドキする』『はぁ。もうゾンビになってもいいや』

 

 命ちゃんはうなずいた。

 

「いいでしょう。フェイズシフトとは位相転移のことです。波に同じ位相の波をぶつけると消滅するでしょう。そういうことをしているのかって聞いているんですよ」

 

「えっと……わかんないよ。単に消えてって思ってるだけだし」

 

『自覚がないということは貴殿は自己の力を解明しているわけではないのか?』

 

「ボクはただの小学生ですしおすし!」

 

『ですしおすしとか懐』『お顔が真っ赤でかわいい』『小学生相手に大人気ないぞ政府』『ていうか、マジで日本政府なん?』『生きてたのかおまえ』『自衛隊は関東方面行ってるからなぁ』

 

『貴殿はゾンビなのか?』

 

「ちがいます!」

 

 とりあえず全力で否定しておきました。




急いで書いたんで、後からちょっと手直しするかも。

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