とある科学のベストマッチ    作:茶の出がらし

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戦兎「台本新しいのだよな?よし・・・」

美琴「天才物理学者であり、仮面ライダービルドである桐生戦兎は、科学の街、学園都市での生活を始めたわ」

黒子「教員として初春と佐天さんのいる中学校にやってきた桐生さんでしたが、不用意な発言で佐天さんを傷つけてしまいましたの」

美琴「デリカシーなさすぎじゃない?あのナルシスト」

戦兎「ちょっと!!何勝手にはじめて勝手に貶し始めてんの1?」

初春「まあまあ。桐生先生のところから逃げ出しちゃった佐天さんでしたが、警備員の仕事をしていた万丈さんに遭遇、そこで桐生先生の過去の話を聞きました」

佐天「万丈さん、戦兎さんのことめちゃくちゃ褒めてましたよね。流石公式からヒロイン扱いされるだけあります」

万丈「別に褒めてねえし!!なんか鶏天が落ち込んでたから話しかけただけだし!!」

佐天「間違い方雑じゃありませんか!?勝手に揚げないでください!!」

戦兎「ちょっとー!?そういう恥ずかしい話、本人の前でしないでくんない!?てか台本勝手に割り振るんじゃないよ!!」

黒子「時を同じくして、お姉様と桐生さんの身にもとあることが起きていたわけですが・・・おっと、ここから先は未来の話でしたわね」

戦兎「いや確かに黒繋がりではあるけども!!??」

美琴「さあ、どうなる第十話!!」

戦兎「終わった!?主役俺なのに!?」





第十話 都市伝説

「卵1パック120円は安いな・・・でもセール時間までには間に合わないか」

 

初春と分かれ、戦兎は一人第7学区の通りを歩いていた。手には書類の入った茶封筒とビルドフォンがあり、近隣のスーパーのチラシをチェックしていた。

 

「つーか万丈のやつ、一人で3人前も食いやがって・・・食費だけでいくらになるんだよ」

 

そうぼやきながらもより安い食材を探すためにサイトをはしごする戦兎。と、画面表示が受話モードに切り替わった。ディスプレイに書かれた名前は月詠小萌。

 

「もしもし」

 

「もしもし、月詠です」

 

自分より年上とは思えない幼い声がスピーカーを通して聞こえてくる。ちなみにビルドフォンの通信は携帯ショップで購入した安いシムカードでまかなっている。

 

「桐生先生、予定の時間なのですけど、少し遅らせてもらえませんか?」

 

「?俺はいいですけど、なんかあったんですか?」

 

「いえたいしたことではないのですが、受け持ちクラスの生徒さんが落第寸前なので、補修をしなくてはいけないのです」

 

「落第って・・・本当にあるんですね」

 

「ないほうがいいんですけどねー、っと、もう時間なので終わり次第連絡しますね」

 

「わかりました」

 

そう言って通話を切り、ビルドフォンをポケットにしまう。今着ている服は教師ということもあり白いカッターシャツに赤と青の幾何学模様が入ったサマーベスト、スラックスという出で立ちだ。

 

「暇になっちまったな・・・どこかで時間でもつぶすか」

 

言いつつ前方にコンビニがあるのを発見。この世界では大手らしくここ第七学区にも複数店舗あるチェーン店だ。

 

「いらっしゃいませー」

 

あまりやる気のない挨拶とともに冷風が戦兎を迎える。やっぱ冷房はいいなー科学が創る未来だなーと思いつつ雑誌コーナーに行くと。

 

「お、御坂じゃん。なにしてんだこんなところで」

 

雑誌を立ち読みしている常盤台中学の制服姿に声をかける。

 

「なんだアンタか。今日はいろんな人に会うわね・・・」

 

「そうなのか?」

 

言いつつ美琴の隣に陣取り、手ごろな週刊誌を手に取る。

 

「さっきもその辺で万丈に会ったのよ。最近連続して起きてる爆発事件の現場でね」

 

「爆発事件・・・ああ、この間黄泉川さんがそんなこと言ってた気が。犯人が能力者で能力の内容も大方わかってるのに検索しても出てこないんだろ?」

 

「らしいわねー、ま、私は風紀委員(ジャッジメント)じゃないから?詳しいことはわからないけど。・・・一般人一般人うるさいのよ、あんたたちが来るの遅いから片付けちゃうんでしょうが。」

 

強めの静電気を発しながら美琴はイライラした口調で言った。

 

「御坂の安全を考えての言葉・・・ってよりかはお前の電撃で二次被害が生まれるのを防ぐための言葉だろうに」

 

週刊誌をぺらぺら捲りながら戦兎は言う。

 

「そんなことわかってるわよ。っていうか」

 

と立ち読みしていた雑誌を戻し美琴が言う

 

「何で私の隣でさらっと立ち読み始めてるわけ?なに?暇なの?」

 

「天っ才には休養が不可欠なんだよ。たまに脳を休ませることですばらしいアイデアが浮かぶってこと」

 

「出た、ナルシスト」

 

「なんとでも言いなさい。ま、それは冗談として、月詠先生と会う約束してたけどさっき用事ができて遅れるって連絡があってな。時間まで暇をつぶしてるところなんだよ」

 

「月詠・・・、あの小さい先生か」

 

「そっ、あのとても小さい先生」

 

「じゃあ本当に暇人なんじゃない。・・・あ、そーだ」

 

新しく開きかけていた雑誌を閉じ、美琴は戦兎に言う。

 

「暇ならあたしと勝負しなさい」

 

「はい?」

 

蝉の鳴き声がただでさえ高い気温を聴覚から増幅させる。風鈴の逆だな、と戦兎は夏の風物詩に思いをはせていた。

 

「いやー、夏はいいなー。暑いけど」

 

「ちょっと、何無視決め込んでんのよ」

 

コンビニから出て、第七学区にあるという小萌が教鞭をとっているという高校を目指して歩く戦兎の後ろで、美琴が言った。

 

「無視なんてしてない、いい年した大人が女子中学生の言葉を無視するわけないだろ?まして俺は天っ才物理学者にして学校の先生なんだからな」

 

「御託はいいからとっとと勝負しなさいって言ってんのよ」

 

「あー、夏はいいなあー」

 

バチっという音と共に戦兎の目の前に雷撃が打ち込まれた。

 

「あっぶねえな、何すんだよ電撃姫」

 

「あんたが白々しくスルーするからでしょうが!!」

 

怒った美琴の様子に戦兎はやれやれというように肩をすくめた。

 

「あのねえ、俺は大人、君は中学生、普通大人は中学生と勝負なんかしねえんだよ。」

 

「あたしはレベル5の超能力者であんたは仮面ライダー、戦力差は関係ないでしょ」

 

「わかってねえなあ・・・、いい年こいた大人が女子中学生に本気で戦うわけないでしょうが。そもそもの前提が間違ってんの」

 

やめやめ、と言い戦兎は歩き出そうとするが、その眼前に美琴が立ちふさがる。

 

「おい、いい加減にしないと俺でも怒るぞ」

 

「・・・なんであんたたちは戦ってんのよ」

 

「はあ?」

 

少しうつむいた美琴の顔には、苛立ちと不安の感情が共存していた。

 

「あんたたちはこの世界の人間じゃないんでしょ?元の世界に戻るためにスマッシュが発生している原因を突き止めたいんじゃないの?」

 

「そのとおりだけど?」

 

「だったら、やり方はいくらでもあるじゃない。出てきたスマッシュを倒さずに敵の本拠地を見つけるとか-」

 

「はいアウトー」

 

パシン、と持っていた茶封筒で戦兎は美琴の頭をはたく。いつもならギャーギャー反撃するであろう美琴は、しかし何もせず俯いていた。

 

「ま、確かにそういう方法を使えば誰がどうしてこんなことしているかすぐわかるかもな」

 

でも

 

「それはできない。スマッシュになってるのは罪のない子どもたちだ。それを放っておくなんてことはありえない」

 

「なんでよ。あんたたちはこの街には関係のない人間なんでしょ、なのに、力があるからって戦って、いつ死んで自分たちの目的が果たせなくなるかもわからないのに、なんでこの街を救っているの?」

 

それは、戦兎に対して美琴がずっと抱えていた疑念だ。

思えば初めて会った時も、風紀委員(ジャッジメント)である黒子から逃げる方法なんていくらでもあったはずだ。正体不明の怪物を倒すだけの力があれば、美琴や警備員(アンチスキル)の追跡を振り切るなど朝飯前だろう。なにより、この街を救うことにそこまでのメリットが彼らにあるとは思えない。

 

「自分たちの世界のことと人助けと、どっちが大事なのよ」

 

その問いに戦兎は即答する。

 

「決まってんだろ、人助けだよ」

 

断言する。かつて似たような質問をされたな、なんて思いながら。

 

「俺だって、元の世界がどうなったとか、新世界に無事みんなの命を繋げられたのかとか気になるさ。でも、それは目の前の悲劇を見過ごす理由にはならない」

 

それは、桐生戦兎の、仮面ライダービルドの根幹。ライダーシステムという力を使う理由。

 

「ラブ&ピース。この力はそのために使うって決まってんだよ」

 

「ラブ&ピース?そんなのただの綺麗事じゃない」

 

「いいじゃねえか、綺麗事が言えるくらい平和な世界が一番だろ?」

 

戦兎の言葉に美琴は溜息を吐く。

 

「・・・もういいわ、なんかやる気そがれちゃった。勝負はまた今度」

 

「だからやんねえって・・・、っと、まだ時間あるな。スーパー寄ってから行くか」

 

「スーパー?」

 

美琴の疑問に先ほどまで見ていたビルドフォンのページを見せる。

 

「これこれ、特売で卵が1パック120円なんだ。うちにはよく食う馬鹿がいるからこういう時に買っておかねえとな」

 

「・・・アンタ、滅茶苦茶この街に順応してない?」

 

「ん?そうか?」

 

こいつもあのバカと似たりよったりかもしれない、美琴はそんな感想を抱いた。

 

「そういえば御坂、この街の都市伝説って知ってるか?」

 

「都市伝説?」

 

スーパーの道すがら、戦兎が美琴に尋ねた。

 

「さっき佐天と初春と話しててさ、確か、脱ぎ女とか」

 

「それなら私も佐天さんたちに聞いたことある。虚数学区とか幻影御手だとか、あとは―」

 

「どんな能力も効かない能力、だな。どんな街にも都市伝説ってあるもんなんだな」

 

「・・・くだらない、あるわけないじゃないそんなの」

 

美琴の少しの沈黙に、戦兎は何かを感じ取った。

 

「なに、心当たりでもあんのか」

 

「なんで今の話からそうなるのよっ・・・はあ・・・」

 

溜息を一つ吐き、美琴はここ最近抱えているもう一つの案件について語り始めた。

 

「この間、ゲーセンを出るときにスキルアウトに絡まれたのよ」

 

「レベル5に絡むとかいい度胸してるなそいつら」

 

「それについては同意だわ。で、面倒くさくなったから電撃ちらつかせて追い払おうと思ったのよ」

 

「選択肢が物騒だが、まあ正当だな」

 

絡まれて電撃なんて食らったらトラウマもんだな、と戦兎は思った。

 

「で、電撃ぶち込もうとしたその瞬間に・・・あー駄目、思い出すと腹立ってきた」

 

「いややめてくれる?体の周りバチバチしてるから」

 

戦兎の言葉をよそに美琴はその当時のことを思い出していた・・・・

 

『なあなあ、俺たちと遊びにいかなぁーい?』

 

『あれ、この制服常盤台じゃん。お嬢様に夜遊びを教えてやろうぜ』

 

見るからに頭の悪そうな四人組が、万丈よりも頭の悪い言葉をかけてくる。大通りに面しているわけではないが、最終下校時刻間際の道は帰りの学生や仕事終わりの大人たちが数人、こちらを窺いつつ素通りしていくのが見えた。

 

『(別に彼らが薄情ってわけじゃない。わかってる)』

 

実際、ここに割って入ってきても、なにかができるわけじゃないし、怪我をするだけだ。誰だって自分が一番かわいい。それが普通。

見ず知らずの人間の為にそんなことするやつは、ただの馬鹿か、それとも―

 

『あーいたいた。いやー連れがお世話になりました』

 

と、いい加減絡まれるのも飽きたし、勇敢な誰かに風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)へ通報されても面倒だ、と雷撃を発生させようとしたその時。

 

『駄目だろー勝手にはぐれちゃー』

 

見覚えのない男子学生がにこやかな顔で割り込んできた。中肉中背で、この近くの高校の制服を着ている。特徴という特徴はやたらツンツンと立っている髪形くらいだろうか。

その学生は美琴の手をつかむと引っ張りながら

 

『じゃあどもー、あっははは』

 

と言って男たちの輪から連れ出そうとする。

 

『誰?アンタ』

 

『あはははは・・・え?』

 

思ったそのままを口にした美琴の前で、ツンツン頭の少年は笑いをやめた。

 

『ちょ、おまっ、知り合いのふりしてこっそり連れ出す作戦が台無しだろ!!』

 

『なんでそんなめんどくさいことしなくちゃいけないのよ』

 

美琴の返答にツンツン頭の少年は頭を抱える。

 

『おいてめえ、なめた真似しやがって』

 

『何か文句でもあんのか、あぁ?』

 

『いやー、その、ええっと・・・はぁ、しゃあねえなあ』

 

美琴達のやり取りに業を煮やしたのか、チンピラが少年に詰め寄ると、当の本人はしどろもどろになったあと、溜息を吐いて言った。

 

『ああそうだよ。恥ずかしくねえのかお前ら。こんな大勢で女の子一人を囲んで情けねえ。大体お前ら、声かけた相手をよく見て見ろよ』

 

―へー、今時熱血漢もいたものね、と感心した美琴の耳に、少年の言葉が届いた。

 

『まだガキじゃねえか!!』

 

『がっ』

 

その一言に反応した美琴をよそに、少年の熱弁は続く。

 

『さっきやり取り見ただろ!!年上に敬意を払わないガサツな態度!!見た目はお嬢様でも、まだ反抗期も抜けてねえじゃん!!とんだガキだぞ!!』

 

バチバチ、と。

彼らの背後からかすかに電流を迸らせているお嬢様に、しかし少年は気付かない。

 

『俺はな、お前らみたいな群れなきゃガキ一人相手にできないような奴ら、むかつくんだよー』

 

バチバチイ!!

 

と空気を焦がすような音とにおいを感じたチンピラAが振り返ると、そこには辺りに電流をまき散らしている少女の姿が―

 

『私が一番むかつくのは・・・』

 

怒気を孕んだ声で美琴は言う。

 

『お前だぁぁぁぁ!!!!』

 

怒声と共に電撃が美琴を中心に周囲を走る。勿論生命の危機に陥るほどの威力ではないが、その一撃で周囲の人間は黒焦げになる。

 

『ぐぁ・・・・』

 

バタン、とひとり、またひとりチンピラがうめき声をあげて倒れていく。あの少年を入れて五人分の人間が倒れる音が生じる。

 

『フン・・・えっ』

 

はずだった。

 

前髪を払い、帰路に就こうとした美琴の眼前。

ツンツン頭の少年は、その身体に傷一つなく、右手をこちらに突き出して立っていた。

まるで。

 

「まるで電撃を消したみたいに、ってことか?」

 

美琴の話を聞いた戦兎は言った。

 

「そうね・・・現に周りは焦げ跡ばかりだったから、電流が流れてないってことはまずないと思うんだけど」

 

「焦げ跡が残るほどの電流を人に向けてぶっ放つのはどうかと思うけどな」

 

「不可抗力、あるいは正当防衛よ」

 

「ま、まあ命に別状がないならいいか・・・」

 

言いながら戦兎は先ほどの話について考える。

 

「電撃に限って言えば、無力化するのは可能じゃないか?誘電するとか」

 

「何の装置もなしに?」

 

「それこそ、能力なんじゃねえの?この街何でもありだし」

 

投げやりな戦兎の言葉に、美琴は若干腹を立てる。

 

「なによその適当な意見。あんた一応物理学者なんでしょ?」

 

「一応じゃない、天才物理学者!!なんだけど・・・」

 

いつも通り否定する戦兎だったが、途端に肩を落とす。

 

「この街の能力って、一応物理法則に基づいている。基づいてはいるけど、理論上可能ってだけの事象が多すぎて、いざ実際に目の当たりにすると、さすがの天っ才でも戸惑うってわけよ。正直、この件に関しては素人同然と認めざるを得ない」

 

「へー、殊勝なとこもあんの—」

 

「しかーし!!天才は天っ才であることに意味がある!!ということでコレ!!」

 

そう言って手に持っていビルドフォンの画面を示す。

 

「月詠先生と初春から、閲覧できる限りの能力関係の論文、資料を貰ったんだ!!あと数日もすれば全部読み終わるから、俺の天才性は揺るがない!!」

 

フゥゥゥ↑↑とテンションを上げる26歳に引く中学生の美琴だったが、先ほどの話を思い出した。

 

「(見たところ能力者って感じじゃなかったし、まさか本当に都市伝説通り・・・)」

 

ぶんぶん、と首を振り自らの考えを否定した。

 

「(あり得ない!!あたしが全力を出せば・・・今度会ったら・・・)」

 

そんなことを考えていた時だった。

 

「えーっと、目印とか何か覚えていないんですか?」

 

「目印か・・・」

 

美琴達の右手側の路地で、件の少年と見知らぬ女性が話していた。

 

「あっ」

 

「んー?どうした?」

 

思わず足を止めた美琴に戦兎が気付き、声をかける。美琴の視線の先では二人が何やら話していた。

 

「目の前に横断歩道があったな。」

 

「横断歩道じゃ、あまり目印とは・・・」

 

と首を書きながら困惑している少年を戦兎が見ていると。

 

「ちょっとあんた!!」

 

「ん?」

 

と、隣で何故かお怒りの美琴がその少年に怒声を発していた。ちょっいきなり喧嘩かよラブ&ピースでいこうぜ、と戦兎が美琴を宥めようとすると。

 

「おービリビリ中学生」

 

「ビリビリじゃない!!」

 

「火に油ぶち込むようなことを・・・」

 

呑気な少年の声と、美琴の大声に紛れ、戦兎の呟きが風に舞った。

 

「御坂美琴!!今日という今日こそ、決着つけてやるんだから!!」

 

「なんだ御坂、知り合いか?」

 

戦兎の問いに美琴は振り向いて答える。怒りながら。

 

「さっき話したむかつく高校生よ!!ここで会ったが100年目、勝負してやる!!」

 

「いや展開が世紀末過ぎるだろ。少し落ち着きなさいよ」

 

「うっさいわね、アンタには関係ないでしょ!!」

 

と悶着をしている二人、というか美琴にツンツン頭の彼は言った。

 

「ってことは、お前今、暇なんだな?」

 

その問いに美琴は振り返り胸を張ってこたえる。

 

「ええ!時間ならたっぷりあるわ!!」

 

「じゃあ、この人の駐車場探すの、手伝ってくんない?」

 

「もちろん!!・・・は?」

 

と少年の言葉を受けてフリーズしている美琴に、彼の隣にいる女性が言った。

 

「いやあ、車を停めた駐車場がどこだか、わからなくなってしまってね。」

 

「えっ、ちょっと、なんで」

 

混乱している美琴に少年は軽く謝りつつ告げる。

 

「俺、行かなきゃならないところがあってさー、お前暇なんだからいいだろ?あ、そっちのお連れさんもお願いできます?」

 

「え、俺も?」

 

と、それまで黙っていた戦兎の言葉を無視して美琴は怒鳴る。

 

「い、いいだろじゃねえっつの!!またそうやって適当なこと言ってごまかそうったってそうはいかないんだから、大体いつもいつも―」

 

続く美琴の言葉は、しかし少年の耳には届かなかった。

 

「・・・はあ、いやあ、それにしても暑いな・・・」

 

と言いながら、隣の女性がいきなり着ていたシャツを脱ぎだしたために、だ。

 

「ぬわぁ!!」

 

驚く少年をよそに女性は完全にシャツを脱ぎ、下着―ブラジャーを晒していた。顔を赤らめて声を震わせた美琴が、女性に問う。

 

「な・・・何をしてしるんですか・・・?」

 

「炎天下のなか、随分歩いたからね・・・汗びっしょりだ」

 

「確かに、汗かいたままの服でいると身体が冷えて風邪ひくからな」

 

と、場違いな返答に場違いなコメントを発した物理学者を残し、美琴はずんずんと二人の元に歩いて行った。

 

「なによ!!この人!!」

 

「俺もさっき知り合ったんだよ!」

 

女性の姿を見ないよう目を手で覆う少年だったが、周りの目を気にしたのか、傍に落ちていたシャツを女性に突き出す。

 

「と、とにかく、シャツを着てください!!」

 

突き出されたシャツを不思議そうに見る女性。美琴の後をついてきた戦兎は、その光景を見て思わず。

 

「あ、それ誤解招く構図」

 

その戦兎の言葉通り、道行く女子学生が少年を指さし叫んだ。

 

「女の人が襲われてる!!」

 

「あの男の人が脱がしたの!?」

 

あらぬ嫌疑を受けた少年は、後ずさると隣にいた美琴にシャツを押し付け、

 

「違う・・・誤解だぁーー!!」

 

と叫んで走っていった。

 

「ちょっとぉ!!?」

 

「おー見事な逃げ足」

 

呑気にしてる場合か、と後を追おうとした美琴に、女性が声をかける。

 

「君、シャツを持っていかれると困るんだが」

 

その声ではっとなり、周りを見渡す。

 

上半身下着の女性。

腕を組んで少年が走った方を見ている青年。

女性のものと思わしきシャツを抱えている中学生。

好奇の視線に晒されるには申し分ない三人組がそこにいた。

 

「・・・とりあえず、服着てください。見られてます、見られてますからっ!てかあんた、ぼさっとしてないでこの人隠しなさいよ!!!」

 

「とばっちりくらった!?」

 

美琴と戦兎の声だけが、夏の空に響いていった

 

「いやあ、ここは涼しくて気持ちがいいな」

 

第七学区で一番の人気を誇る複合ショッピング施設、セブンスミスト。

その手前の広場に戦兎たちは移動していた。

 

「・・・なんなのあの人・・・」

 

「人前でいきなり脱ぐなんて、露出狂くらいしか思いつかないんだが」

 

カフェスペースのようなベンチに腰掛け、テーブルに頬杖を突く美琴に戦兎が言った。

 

「露出狂ってわりには、その・・・見せつけてはこなかったわよね・・・」

 

「ただ服をいきなり脱ぎだす・・・あ」

 

―えー、実際遭遇したら怖くないですかー?いきなり脱ぎだす都市伝説脱ぎ女!―

 

美琴も同じことを思ったのか、はっとなって戦兎を見たが、

 

「「・・・いやないない」」

 

と同時に首を横に振った。

 

「面白がって都市伝説につなげるから、世の中陰謀論とか流行っちゃうのよ。まったく、ここは科学の街、学園都市なんだからね。」

 

「そうそう。大体あの人だってちょっと変わってるけど普通の人間だしな」

 

「変わっているというのは、私のことかな」

 

「うおわっ」

 

と話していた二人の背後に当人が立っていた。

 

「そ、そんな!見ず知らずの人を捕まえて変だなんて、ね、ねえ?」

 

「まったくだ。俺も天才ゆえによく『実は戦兎くんってバカなんじゃないの?』とか言われるけど、人の表面だけみて判断するなって教わらなかったのかって言いたいね」

 

微妙にずれたコメントをする戦兎と、その後ろでひきつった笑いをしている美琴に特に何も言わず、女性は持っていたものを―缶入りの飲料をテーブルに置いた。

 

「これ・・・」

 

「ああ、付き合ってもらうお礼だ。」

 

付き合うことは確定なんだ・・・と戦兎は思いつつ缶を持つと。

 

「えあっつ!」

 

てっきり冷たいものと思い込んだからか、いつもより強い刺激が掌を襲う。もう一度、今度は慎重に缶を持つ。黄色いパッケージにアラビアンナイトのようなランプのイラスト。

 

「・・・なぜホット、そしてスープカレー?」

 

「・・・個性的なチョイスですね・・・」

 

若干引いた声で戦兎と美琴が言うが、女性は何ともなしに言う。

 

「ああ、暑いときには熱い飲み物の方がいいのだよ。それに、カレーのスパイスには疲労回復を促すものが含まれている。」

 

「ま、まあ理屈は分かる気もしますが、気分的には冷たいものの方がいいなあ、なんて」

 

よくこの場でそんなセリフが言えるな、子どもってすごい。と思いつつ戦兎としても、外気温と体温と水分吸収効率の関係を理解していてもなお、冷たい三○矢サイダーなんかたまんないよなーとか思っていた。

 

「気分、か・・・。若い娘さんはそういう選択の仕方をするものだったな・・・買い直そう。何がいい」

 

「い、いやいいですいいです!お気持ちだけで十分です!!」

 

スっと席を立とうとした女性を美琴が慌てて制止する。女性は浮かしかけた腰を椅子に戻し、足を組んだ。

 

「すまないね、研究ばかりしているせいか、理論的に考える癖がついているものでね」

 

「研究って、学者なんですか?」

 

研究、という二文字にいち早く反応した戦兎が問う。

 

「ああ、今は主にAIM拡散力場について研究をしている。」

 

女性は自分の分のスープカレーを開け、一口飲むと微笑みながら君らも飲め、といった感じのジェスチャーをする。

 

「AIM拡散力場!?」

 

「・・・それって、能力者が無自覚に周囲に発散している、微弱な力のことですよね」

 

単語に反応した戦兎の髪がアンテナのように逆立つ。美琴は女性からのジェスチャーに観念し、仕方なさそうにプルタブを開けつつ言った。

 

「もう授業でやったか。そちらは・・・研究職かなにかで?」

 

一年生の時に・・・と呟きながら缶を一気に煽る。絶妙な生ぬるさと共にスパイスの味が鼻を抜ける。冬場なら大変ありがたい味だった。

 

「今は教師ですが、元は天才物理学者です。」

 

「ほう、物理学ですか。しかしこの街で天才を名乗るなんて随分自信家だな」

 

「そりゃ、自意識過剰でナルシストなのが謳い文句ですから」

 

そう言って戦兎もカレーを一気に煽り、女性に話しかける。

 

「確か、人間の五感では感じ取れず、専用の計測機器がなければ観測もできないほどの弱い能力による力場のことですよね」

 

「ああ。私はその力を応用する研究をしているんだ」

 

「へえ・・・ってことは、能力についても詳しいんですか?」

 

力場の応用!?フウゥー、テンション爆上がりっしょー↑っとビルドフォンで論文データを漁り始めた戦兎をよそに、美琴は女性に尋ねた。

 

「ああ、それなりにはな・・・何か知りたいことでも?」

 

「えっ・・・あ、ええと、どんな能力も効かない能力なんてあるんでしょうか」

 

「ふむ」

 

それまで眠たげだった女性の目に、かすかに光が差す。やはり研究者なのか、興味が湧いたらしい。

 

「能力と言っても色々あるからねえ。どんな能力が効かないんだ?」

 

「高レベルの電撃を受けても何でもない、とか」

 

「電撃か・・・例えば避雷針のようなものを発生させ、電撃をそらす能力とか」

 

「・・・そういうものとはまた違った感じなんですけど・・・」

 

当時を振り返りつつ美琴が答えた。

 

「ふむ・・・それは君の知り合いか?」

 

「へっ?」

 

予想外の質問に一瞬戸惑うが。

 

「いや、都市伝説ですよ都市伝説、ちょっと小耳に挟んだだけです。ねえ?」

 

と隣でビルドフォン片手にぶつぶつ呟いている戦兎に振る。

 

「ん?ああ、都市伝説な、あとはレベルアッパーとか、脱ぎお―ゲフっ」

 

と余計なことを言いそうになった戦兎の鳩尾に美琴の肘が直撃した。躊躇のない一撃にそれ以上続けられず蹲る戦兎。

 

「ん?そっちの彼は大丈夫かね」

 

「大丈夫、大丈夫。カレーが辛かったんじゃないかなー」

 

はははーという美琴の誤魔化しには気付かず、女性は微笑みながら続けた。

 

「しかし、都市伝説か。最近の若い子でもそういう話をするのか」

 

「まあ流行ってるってほどでもないんですけど・・・」

 

と美琴が言った時だった。

 

「わーい、そこで食べよー!」

 

と小学生くらいの女の子が美琴達の後ろにあるベンチへと走ってきた。手には近くの売店で買ったのであろうアイスクリーム。

 

「待ってよー、―うわっ」

 

と、後を追ってきた男の子が美琴達の手前で転んでしまった。手に持っていたアイスクリームは宙を舞い―

 

「あっ」

 

べちゃっという音と共に女性のスカートにアイスクリームが付いてしまった。

 

「ご、ごめんなさい」

 

と少年はすぐに女性に謝るが、女性は何ともなしに立ち上がり、

 

「気にすることはない。すぐに洗えば問題ないさ」

 

と言いつつ自然な動作でスカートのホックに手をかけ、降ろし―

 

「だから脱ぐなって!!」

 

「えっ?」

 

赤面した少年と蹲る26歳、そしてスカートを半脱ぎした女性。

この上なく犯罪チックな光景がそこにはあった。

 

「脱ぎ女ぁ?」

 

美琴が駄目な大人たちに呆れている同時刻。万丈はマシンビルダ―のを運転しつつそう言った。

 

「はい。最近流行っている都市伝説なんですよ。知りませんか?」

 

「知らねえなそんなの。つーかなんだよそれ、脱ぐだけなんだろ?別に襲い掛かってくるわけじゃねえなら怖くもなんともねえ」

 

と、戦兎や美琴と同じく実害なければ無問題派の万丈の言葉に、涙子は反論する。

 

「脱ぎ女の怖いところは、もっと他にあるんですよ」

 

「ほーん?」

 

ちなみにバイク上でも問題なく会話できているのは、ヘルメットに内蔵されている無線機能のおかげである。戦兎と万丈の物に、それぞれの車輌に一つずつ予備がある。

 

「脱ぎ女って、伝染するんですよ・・・!!」

 

「電線って、タイツなのか?そいつ」

 

「・・・なんでとっさにそっちの意味が出てくるんですか?」

 

それはかつての恋人、小倉香澄がよくタイツが電線したー、と言っていたのを覚えていただけだったのだが。

 

「いや、前にちょっとな・・・で、伝染がどうしたって?」

 

二度と会えない思い人に、一瞬でも気持ちが沈みかけないよう万丈は涙子に先を促した。

 

「脱ぎ女に出会った人は、自らも脱ぎ女になるんです!!」

 

「はあ?」

 

「つまりですね、脱ぎ女に戦兎さんや御坂さんが遭遇するとするじゃないですか」

 

「おう」

 

「すると、2人ともところ構わず服を脱ぎだすわけですよ!!」

 

「・・・それは確かに怖い、というか嫌だな・・・」

 

「でしょー?ま、都市伝説なんですけどね」

 

そう言って再び他愛もない話に戻る二人。

 

まさにその二人が脱ぎ女に遭遇しているとは露とも知らずに。

 

「すまないね。面倒かけて」

 

「いえ、乗りかかった舟ですから」

 

セブンスミストの店内。女子トイレの個室からの声に、美琴はハンドドライヤーでスカートを乾かしながら答えた。

 

「っと、これでいいか。どうぞー」

 

クリームの汚れが落ちたスカートを個室のドアにかけると、色の白い手が布地をつかみ、引っ張った。

 

「ありがとう。―そうそう、あの彼にもお礼を言っておいてくれ」

 

「彼?それなら自分で―」

 

「知り合いなのだろう?途方に暮れた私に声をかけてくれたのだよ」

そこまで聞いて、話しているのが戦兎ではなく、あのツンツン頭の高校生のことだと気づく。

 

「へえー、あいつが」

 

「いい子だな」

 

「お節介なだけですよ。かっこつけっていうか。大体声をかけておいて人に押し付けて姿くらますなんて、無責任ですよ。」

 

言葉とは裏腹に美琴の表情は柔らかい。

 

「なんていうか、人のあしらい方が上手いというか、てきとうというか、色々むかつくんですよ。いつだって自分が―」

 

「楽しそうだな」

 

「えっ?」

 

突然の言葉に疑問符を発する美琴に、女性は着替えながら問う。

 

「君はあれか、彼が好きなのか」

 

「なっ、なにを・・・」

 

動揺する美琴に女性は淡々と言葉をつづけた。

 

「ほら、好きな相手には冷たくしてしまうという、昔流行った、ツン・・・ツン・・・」

 

その先の言葉を予測し、わなわな震える美琴の周囲に電流が迸る。

 

「ツン・・・ツンダラ?違うな・・・」

 

「あり得ないから!!」

 

足踏みと共に多量の電流が流れ、トイレ内の照明機器がダウンし、異常感知の警報が鳴った。

 

「どうした、何かあったのか?」

 

と不思議そうに個室から出てきた女性を、美琴は慌てて連れ出すのであった。

 




サブタイトルは変わると思いますが、第十話と次回の第十一話は前後編になります。
あと、原作アニメの黒子、初春の新人研修編、美琴の風紀委員一日体験するみたいな話に関しては割愛します。補填としてオリジナルストーリーを入れられればと考えておりますので、原作アニメファンの方々はすいません。ロり春達は出ません。

本編にようやくとあるの男子キャラこと上条さんが出てきました。上条さんとは一言も紹介してない?そう見せかけた叙述トリック?そんなことを誰がすると思う?

作者だ(大嘘)

ちゃんと上条さんです。その辺次回で明言されますよきっと。

ここからは謝辞を。

おかげさまで今作の総UAが30,000を突破しました。
これもひとえにいつも読んで下さる方々のおかげでございます。
お話は始まったばかりですが、一応最終話までのプロットはできておりますので、マイペースに走っていきたいと思います。
皆さま今後ともお付き合いいただければと思います。
あらためて、ありがとうございました。


仮面ライダークイズがレッドバスターか・・・果たして鶏ネタはあるのだろうか・・・

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