どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい 作:as☆know
真夏の時期にはついついシャワーのみで済ませてしまう。
本当は湯船に浸からないと疲れは取れないって、言われなくてもわかっているんだけども。熱いのは熱い! そういう時にこそ、キンキンに冷やしたお水が染みるんです。
煮沸させ、粗熱を取った後に麦茶のパックを入れて、やかんごと冷蔵庫へ。
ただ、たまにはカルキの匂いのする水道水に氷を突っ込んで飲むのも風情がある。学生の分際でミネラルウォーターだのなんだの言ってらんねぇんだ。
寝起きの火照った体が冷めないまま、洗面台に戻って髪を乾かす。爆音を響かせながら髪を乾かし終わると、リビングの方から着信音。
この着信音だと、L〇NEの方だな。画面をのぞき込むと、AYAの三文字に、爆盛りされている彩の顔。正直、可愛いな。ムカつく。
「どうしたね」
『出た出た! 良かった~! 今、大丈夫?』
「うむ」
スマホを肩と耳で挟み込みながら、ベッドに腰を下ろして一旦落ち着く。
最近、夜になると時たま電話がかかってくるが、今日もそんな感じなのかもしれないな。
『じゃあね……じゃーじゃん! 明日、8月17日は、何の日でしょうか!』
「なんだっけ」
『マーくんの誕生日!』
「ほう、よく覚えてる」
本日は8月16日。あっという間の8月後半。去年はなんかやったっけ。一人暮らしが始まって初めての誕生日だったはずだけれど、何も記憶がない。あぁ、ケーキは食べたな。思ったよりも虚しくてさっさと寝たんだった。寂しすぎる思い出。
『去年は何にもできなかったけど、今年は違うからね』
「ほう、どんなご予定で」
『明日のお楽しみ!』
「まず、俺の予定がないかは聞かないんだな」
『任せてよ。ちゃんと千聖ちゃんとマネージャーさんに確認は取ってるから!』
彩にしてはやるじゃないか。ちょっとゆすってみたけど、普通に見破られた。誕生日だからフリーにしていたって訳では全然無い。本当にたまたま空いていた。
それじゃあ明日はと嬉しそうに切り出す電話越しにメモを取る。集合時間と集合場所。張本人よりも楽しそうでよかとね。クソ暑い中外に出たくもないし、家でのんびり甲子園を見るくらいの予定だった。
思わぬこぼれ球。正直、めちゃくちゃ嬉しいけど、それがバレないように、冷たくなりすぎない具合に返事を返す。
今日は寝れなくなってもいいように、早めに布団に入るとしましょうか。
暑すぎる太陽。大きな入道雲。晴れやかな空。
去年ぶりの潮風。人だかりで物凄いことになってる駅前。人だかりで物凄いことになってる着替え場。人だかりで物凄いことになってる砂浜。人だかりで物凄いことになってる海岸。
「ちょっと思ってたのとちがーう!」
「人多すぎやしねぇか?」
日焼け防止のフード付きラッシュガードに、いつもの身バレ防止グラサン姿のお団子スタイル。これだけでも十分可愛いんだけど、すれ違う人たちに迷惑をかけないよう、小さめに地団駄を踏んでいるのが、なんともまぁ小さな抵抗。不憫なのも栄養価高いな。
なんか今日はずっと人が多いんだよな。
集合場所に指定された駅前から、電車に乗り、海に着くまでずっと人が多い。
着いた~! の枕詞にやっとって単語が付いたもん。しかも俺は気を使って言わなかったのに、こいつはいいやがった。だが責められるまい。ずっとすし詰めだったんだもん。
「まぁ、お盆明け直後だからな」
「誕生日に行かないと意味ないじゃん!」
「もーちょっと母親の腹の中で耐えてたら多少空いてただろうにな」
俺の誕生日である8月17日は、世間一般で言うとお盆終盤、もしくはお盆明けにあたる。
幼少期の頃はそりゃあ良かった。毎年親の実家についていくと、誕生日が近いからとプレゼント代わりのお小遣いが貰える。それを持ち帰ってパーティ代の資金に変わるため、毎年誕生日はピザパーティと相場が決まっていたのだ。
だが、今は違う。移動するにもお盆の帰省ラッシュに巻き込まれ、かと言って各レジャー施設や観光地も大混雑。この誕生日。思い出を作るには、ちとハードな日程なのだ。
加えて、夏場と言えば悪天候。一昨日まで来ていた台風の影響で予定が後ろ倒しになったのか、お盆のラッシュだけでは片付けられないくらいの人がこの海岸に押し寄せている。
確かに有名どころではあるけども、人が多すぎて海岸の端の方に追いつめられるってそうそうないだろ。俺の誕生日、向いてなさすぎる。
「マーくんの水着姿を見てキュンってなるよりも先に、人ごみの多さに疲れちゃった」
「そのセリフ、本来逆じゃないか?」
「女の子だって、好きな人のそういう姿を見ると興奮するんだよ?」
「へー」
「もっと興味持ってよー!」
ここ最近、本来あったはずのオブラートを自ら放棄しているよねこの子。いい加減、慣れるべきなきもするけど、どんだけたってもどんだけたっても慣れないよ。これじゃあエアーマンも倒せやしないや。
興味ないように交わしてはいるけど、内心バックバク。まったく持って嫌ではないんだけども、勘弁はしてほしい。
俺だって、昨日の電話で水着だけ用意してねって海に行く匂わせがあった時点でずっと期待してたんだぞ。電車に乗ったあたりから煩悩吹き飛んだけど。お寺に行って肩をシバいてもらうよりも百倍煩悩無くなるだろ。
「ぐぬぬ……これじゃあパラソルも建てられない……」
「今日は厳しいな」
「わーん! 人が多すぎるよー!」
俺はともかく、前日どころか、恐らくもう少し前から予定と計画を立てていたであろうこちらのお方はもうずっとわんわん喚いている。
千聖さんがお盆の混雑具合を知らないはずないだろうし……って思ったけど、実際こういうのって来てみないと混雑状況もわからないから何とも言い難いのか。
それを加味しても、良い顔はしなさそうだけどな。押し切ったんだろうなーと、俺の中の脳内パスパレ会議シミュレーションがはじき出した。
「ちなみにだけど、本当だったら今日はどういうご予定?」
「……マーくんと海でデートして、パラソルの下で日焼け止め塗ったり塗られたり、お水かけ合ったりしてイチャイチャしたかった」
いや、それは俺もしてみたいという言葉をぐっと飲みこみ……
出来ないことはない、出来ないことはないんだけど、あまりにも人目が多すぎる。物理的に人が多い。本当に人が多すぎる。人が多すぎて逆にあきらめて帰っていく人がそれなりにいるレベルには多い。
まぁ今年は諦めて来年……という言葉が喉から出かかったが、それももう一回ぐぐっと飲みこむ。
俺にとってはただの高二の夏だが、彩にとっては高校最後の夏。そもそも、再開したのが去年という時点で機会があまりにも少なかったのもあるが、ともかく重要な青春最後の夏の思い出になるのだ。なるだけ苦い思い出では終わらせたくないというのが善人の心。
まぁ、ここから逆転弾を打つにはこころの力を借りてプライベートビーチにひとっ飛びとかでもしないと無理そうなんだけどね。なんであいつは逆転弾を打てる選択肢になれるんだ。
「……海、入るか」
「……うん。なんか、海岸の方は若干人少ないしね。プールに比べたら人も少ないもん」
夏場の屋外プールと比べるのは流石に……あれは泳げないところなので。流れるプールですし詰めになって、文字通り流れるだけのプールになるところだよ。
砂浜で人ごみをかき分けるなんてワードチョイスをする日が来るとは思わなかった。イケてるにーちゃんたちから彩をガードしつつ突き進む。そうしてずんずん歩を進めて波打ち際に近づくうちに、人はどんどん減ってきた。
「うおっ、つめてぇ」
「ひぁっ!? ……思ったより冷たいんだね」
夏場に海に来るなんて雰囲気以外のメリットないだろ……ってのは逆張りだったみたい。
思ったよりも大きなさざ波の音に、足首を何度も打ち付ける波。立っていると、少しずつ砂浜に足が埋まる。こりゃあ確かに納得だ。足元でちゃぷちゃぷしてるだけでも随分と気持ちが良い。
足元をばたつかせながら、波を蹴り上げてかけようとする。やりやがったなーと、こっちもやり返す。こういうので良いんじゃないか? 俺が夏場に唇をかみ殺してニュースで見ていたバカップル共はこういうことをしていた。非常に癪だが、今回ばかりはテンプレートを用意してくれたと感謝を……
「ふぃあやぁっ!?」
「うおおお!? っおぁ!?」
「くっ、クラゲっ!」
波を蹴り上げてくるわけでもなく、いきなりの体での前ダッシュ突っ込み。DAかと思ったわ。声に反応してとっさに正面を向けて良かった。しっかりと受け止める体制を取れ……
って言うか近い近い近い! 当たってる! 抱き上げてるんだから当然か。
違う! 下が水着で上も薄手だからすんごい柔らかい! それ以外の感想がガチでないこれは不味すぎる……ん? クラゲ?
彩を両手で抱きかかえたまま、海の方をよーく注意してぐるっと見渡してみる。うむ、やっぱり砂浜に比べて人が少ない。不自然なほど。そんでもってよーく少し沖の方の海面に目を凝らすと、ぽつぽつと肉眼で確認できるほどクラゲが浮いてる。俺のすぐ横にも、打ち上げられたぷかぷか。
「……あー、お盆明けって、クラゲが大量発生するんだっけ」
細かいメカニズムとかはよく知らない。それこそ、大昔に民放の番組で見た記憶。8月中旬の所謂お盆時、海水浴場などにもクラゲが大量発生するという。むやみに触らないよう、気を付けてと。
実際、ガラス越しで見る分には無害で神秘的だが、ガラス板無しで近くにいられると結構怖い。刺される+毒があるという、なんとなくの知識があるだけで、人はここまで見る目が変わるのだ。
俺も刺されたくないし、彩が刺されても困る。海辺で泳ぐのは、ちょっとだけリスキー。
砂浜も人だかり。若干、来た時よりも人が減っている風に見えなくもない……いや、変わってないな。
つまりだ。
「退散ですか?」
「うわーん! サプライズがなんにもうまくいかない~!」
行きも帰りも電車の中はさほど変わらず。平日とまま変わらないほどの混み具合。それでも都心部を抜ければ、座席に座るくらいの余裕はできた。
荷物を両手でキュッと抱えたまま、スマホを見ることも無く揺れるピンク頭。
座るかと声をかけると、俯いたまま促されて座席の端に座り込む。サングラス越しにもわかる。ドチャクソ凹んでいる。スマホも見ないって相当。
どうするもんかなーと考えるのもよしなに、下半身が結構来ているのに耐えれず、欲に任せて隣に腰を下ろす。
立ちっぱなしと多少の日焼けで削られた体力。足の間に荷物を挟むと、ドッと溜まっていたものが肩から来た。落ち着くと急に来るよね。そんでもって意識飛ぶよね。あるある。
車輪が線路を捉える。ベースとは全く違う、響かない重低音。普通列車に並んで揺らればがら、頭の中はなんだか空っぽ。
こういう時、ぱっといい案が思い浮かぶのが主人公適正ある男なんだけどな。こうなんか……良い題材転がってないかな。SNSとかにこう……へー、今度のフェスにRoselia出るんだ。これ、有名なやつだよな。あいつらすげえな~……
「あっ」
良いこと思いついたかもわからん! 何が良いかはわからんけど、良い感じで彩を必要とする彩にやってほしいこと!
「なぁ、彩」
「……ごめんね。マーくん」
「いやいやいや、違くてさ。俺、誕生日プレゼントが欲しい」
「誕生日……プレゼント……?」
俯いた顔が、ゆっくりとこっちに向く。暗く落ち込んでるけど、少しだけいつもの感じ。
俺よりも一回り小さな右肩をポンと叩き、口角を思いっきり吊り上げる。
「そう! プレゼント! お前が欲しい!!!」
「………………へ?」
高校最後の夏。最初で最後の思い出作って見せようや。
丸山彩
一か月前から頑張って計画をいろいろ立てていたが、前週になってシンプルに行きたいと路線変更した。この混雑は想定外だった。
白鷺千聖
彩ちゃんに付き合って色々とサポートをしてくれていた聖人。色々考えすぎてもトチると思っていたので、直前の作戦シンプル化は大賛成。この混雑は想定外だった。
浅尾愛斗
彩がこういう系で気合を入れてくるタイプなのは知っているつもりだったので、全力で盛り上げるつもりだった。この混雑は想定外だった。
過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。
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今のが好きなので書き直しておk
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昔のが好きなので書き直したらアカン