ゼロとタイガー   作:Yーミタカ

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フーケも当然のごとくレスラーです。もう全体悪ふざけなのであしからず。


第3話 叩きつけられた挑戦状!差出人は『土くれのフーケ』!!

 土くれのフーケと呼ばれる悪役レスラーがいた。土をこね固めたような不気味なマスクを被る女レスラー、名のあるレスラーの元へ果たし状を叩きつけ、そのレスラーの秘蔵の宝物に対して相応の金をかけて試合を挑む。それだけならば土くれのフーケはハルケギニアのどこにでもいる野良レスラーの一人に過ぎないが、ルールは常に『反則上等、ルール無用のデスマッチ』なのだからタチが悪い。そんなフーケから魔法学院に挑戦状が届いたのだ。

『トリステイン魔法学院、貴校が保有する【破壊の杖】をめぐり試合を申し込む。』

後には試合の期日、ルールが書かれている。破壊の杖が大事ならば受けなければいいだけの話なのだが、受けなければ破壊の杖など比べ物にならないほど価値のある魔法学院の名声が、『挑戦から逃げた』として地に落ちてしまう。

「困ったことになったのぉ・・・誰か、受ける者はおらぬのか?」

急遽集合をかけられた魔法学院の教師陣は学院長であるオールド・オスマンの頼みに目を背ける。現役を退いたとはいえ教師は皆、かつて名を博したレスラーなのだが、老いて気が弱くなったのか名乗りをあげる勇気のある者はいなかった。

「学院長、ここは現役の生徒たちに任せてはどうでしょうか?」

風のスクウェアというスタイルを持つ教師、ミスタ・ギトーがそう提案する。彼は若い頃、『偏在』という分身を作り出してシングルマッチを多対一の状況にしてしまう魔法プロレスを初めて使ったのだが、その頃の血気はとうの昔に無くなってしまっていた。

「ふむ・・・まぁ、代表して向かった生徒達が勝てなければワシらの負けじゃろう。よし、貼り出してみようかの。」

こうして、フーケの挑戦に立ち向かう生徒を募集する通達が掲示板に貼り出された。ファイトマネーは1000エキュー、フーケが提示した賭け金の半額だ。これほどの大金ならば誰もが飛びついてもおかしくないが、フーケが相手であると書かれているのを読むと皆、手を引いてしまう。フーケの戦績はここ二年ほどで67戦全勝全K.O.ただしそれは全て反則上等ルール無用のデスマッチというヒールの戦い方そのもので、再起不能にされたレスラーも少なくない。これを相手に戦うというのは命知らずなどというものではない。個人のレスラーであればまだしも、学院という大所帯なら『誰かがやってくれるだろう』という集団意識が働いてしまい、誰も受けようとしなくなるのも当然だ。そんな通達の前に桃色髪でリング上では悪魔と呼ばれる女子が立ち、それを隅から隅まで読んでいる。

「これよ、こいつに勝てば・・・」

桃色の悪魔ことルイズはしたり顔でつぶやく。

「お嬢さま、土くれのフーケって?」

彼女の後ろに執事ないしマネージャーといった雰囲気で立つ直人は少しずつハルケギニアの字を覚えつつある。忘れがちだが虎の穴出身のレスラーは皆、頭脳明晰である。たとえば直人であれば少なくとも母語の日本語、活動の中心アメリカの英語、スイス奥地に根城を置くイタリア系非合法組織傘下の虎の穴組織内公用語と考えられるイタリア語の三ヶ国語は理解できるはずで、世界で活躍していた以上まだいくつかの言語を使えても不思議ではない。それはさておき、ルイズはフーケのことを簡単に説明する。

「辻斬りまがいの試合を挑む野良の悪役レスラーよ。それよりこのファイトマネー 、勝った時の話だけど、これは欲しいわ!」

「しかし勝てるのですか?」

「トーゼン!むしろ勝たなきゃダメなのよ。何よりあのフーケは『ルール無用のデスマッチ』を売りにしてるのよ、このわたしが負けるわけにはいかないわ!」

そんなルイズを遠巻きに見る他の生徒達がヒソヒソと陰口を叩く。むしろ聞こえるように言っているのか、直人やルイズにも聞こえてくる。

「おいおい、やる気かよ、ヴァリエールのヤツ。あんなのが出たら学院の恥だってのによ。」

「親父さんやお袋さんの顔に泥塗るだけの反則レスラーのクセに。」

「ハリケーン・エレンも、あんなのが妹じゃ可哀想よね~」

これにルイズは野良試合をしかねない勢いで陰口を言っていた者たちをにらむ。が、ルイズが飛び出すより先に直人が彼らに話しかけていた。

「キミ達、フーケとかいうレスラーが学院に挑戦してきたらしいけど、キミ達は志願しないのかい?」

「反則レスラーと?冗談じゃないや!戦う価値もないよ!」

「価値がない・・・か。命が惜しいの間違いじゃないのかなぁ?」

直人が何気なく言った風で嫌味を言うと、彼等は激怒する。

「な!あの恥さらしのマネージャーの分際で!!」

「いやいや、お嬢さまのマネージャーなのは関係ないでしょう?さっきキミ達はお嬢さまのご家族のこと引き合いに出してたけど、それだってお嬢さまには関係のないことですし。」

「だ、か、ら!戦う価値のない反則レスラーに恥さらしの反則レスラーがぶつかったら学院の面目は丸つぶれだって言ってんだよ!」

「それこそキミ達の誰かが出ればいいだけじゃないですか?」

人間は痛いところを突かれれば感情的になる。彼等も同様に逆上し、直人に殴りかかった。

「言わせておけばあぁ!!」

「うわ!暴力はいけませんよ~!」

直人は彼等の攻撃を避ける避ける。全て偶然を装い、腰を抜かしたフリをして拳を避けて他の者に当てたり、怖がって逃げた風を装い相手を投げたりと、無様に逃げまどうフリをしながら三人全員を自爆させた。

「お嬢さま~、助けて~!僕は暴力沙汰とかおっかないことが大の苦手なんです~!」

すでにレスラーは全員ノビており、ルイズは呆れながら尋ねる。

「直人ってたまに変なことするわよね。もう全員気絶してるわよ。」

「え?あら、ホントだ。助かった~」

間の抜けた風を装う直人に、ルイズは小さくつぶやく。

「・・・とね、・・・れて。」

「え?何かゴハッ!?」

直人が聞き返そうとするとルイズは彼を突き飛ばした。

「何でもないわよ、バカ!学院長室に行くわよ!!」

そう言ってドシドシと音を立てながらルイズは学院長室に歩いていく。直人は聞き返していたが実は聞こえていたルイズの言葉は、

『ありがとね、怒ってくれて。』

であった。

 

 学院長室でフーケの試合に志願したルイズは学院長からこれまでのフーケの試合をビデオのようなマジックアイテムで見せてもらう。フーケはルイズや直人ですら鼻じらむほどの反則レスラーであった。土魔法のゴーレムに凶器を投げてよこさせ、マイクで殴るゴングで殴るは当たり前、組み技には噛みつきで対抗、急所攻撃もバレないように平気でやってのけ、毒霧噴霧も何のその。再起不能にされたレスラーが多々いるのもうなずける。

「先に言っておく、危ないと思えば降参してくれて結構。キミの将来に比べれば学院の名声、破壊の杖など大したものでないし、金なんぞ元から向こうのものじゃからな。」

学院長がこう話すのは、仮に生徒からも志願がなければ自ら殺されるのを覚悟でフーケの前に立つつもりであったからに他ならない。歳を取ったオスマンは、身体が若い時のように言うことを聞くのであれば率先して戦いに赴いたであろう。しかし今は100も近く、フーケのような現役とデスマッチなどすれば本当に殺される。しかし命を捨てても学院の名誉を守るため、自ら試合に応じる所存であったのだ。だが、生徒の一人が立ち向かう以上、彼女のフォローと試合の段取りまでしかできることはない。あとは精々、『降参しても構わない』と言って試合に赴く彼女の緊張をほぐすのが限界だ。

 そしてルイズは、試合に向けて調整を始める。だが、問題が発生した。誰も彼女のスパーリングパートナーになろうとしないのである。皆、『反則で壊されてはかなわない。』と、倦厭するのだ。仕方なくルイズは一人でサンドバッグ打ちから始めることにしたのだ。

「フンッフンッフンッフンッ!!!!」

バシンバシンバシンバシンッと鋭い音だけが響く。ピンクデビルとなった時、ルイズはこうなることを予想してはいた。事実、これまでもそうであったが、このような大きな試合ですら手伝う者がいないとは思わなかったのである。

「ハァッ・・・ハァッ・・・」

肩で息をするほど打ち続けたルイズは、練習場を見回す。夕食後の練習は彼女が気づかないうちに全員、上がってしまっていてルイズしかいない。だが、誰かがいるような気配がするのだ。

「誰?いるなら出て来なさい!」

「いや、ずいぶん熱心なものだと感心してね。」

「・・・タイガー。」

声がした方にいたのは虎のマスクを被った男、神出鬼没のタイガーマスク。

「だが、サンドバッグと人間では感覚が違うのはわかっているかい?」

「当たり前よ、小さい時からずっとやってるんだから。スパーリングパートナーがいないから仕方ないじゃない。」

「そうか・・・ならば、リングに上がれ。」

タイガーは言うが早いかリングに跳び上がる。

「え?」

「俺が相手をしよう。」

「で、でも・・・」

ルイズは先日の果し合いの引け目でタイガーに素直に頼めず口ごもる。

「どうした?キミのプロレスへの熱意はそのくらいで押し止まってしまうのか?」

「・・・なわけないじゃない!!」

ルイズはそう言ってリングに跳び上がる。

「そう、いい笑顔だ!!」

タイガーマスクの表情はマスクのせいでわからないが、マスクの下でほほえんでいるだろうと、ルイズには確信が持てた。

 

 タイガーのスパーリングはフーケを想定したものであった。さすがに毒霧はマスクが邪魔でできないが、反則技は可能な限りフーケに似せている。それに対しルイズは正統派の技で戦っていた。その姿はとても桃色の悪魔とは思えない。

「どうした?反則技は使わないのかい?」

休憩に入り、タイガーはルイズにそう尋ねる。

「気分よ気分!わたしだってたまにはちゃんとした技で戦いたいのよ!」

ルイズは口ではそう言っているが、ギーシュとの決闘、タイガーとの果し合いの時のような悲壮感あふれる表情などしていない、とても充実した様子である。それを見てタイガーはかつての自分のことを思い出していた。虎の穴に強制されて反則レスラーとして戦っていたが、虎の穴から追われる身になったのを機に正統派レスラーに転身した時も彼は今のルイズのように充実した表情をしていた。そのように自分とルイズを重ねたからか、つい話す必要もなさそうなことを口にした。

「今のキミを見ていると、ある男のことを思い出すな。」

「ある男?どんな人?」

ルイズは興味津々といった様子でタイガーに尋ねる。

「その男はルイズ君より酷い反則レスラーだった。もしかすると土くれのフーケよりも。黄色いマスクと肌の色で『黄色い悪魔』と呼ばれていたヤツはある時から正統派に転向した。」

「・・・その人はどうして反則をやめたの?」

ルイズとしても今の自分そっくりで、タイガーの話を真剣に聞いている。

「アイツは自分を鍛え上げた反則レスラー専門の育成所にファイトマネーの半額を上納しなくてはならなかったがその約束を破ったそうでね、そこから命を狙われることになった。その育成所は裏切り者を制裁するためプロレスリングの上で死の制裁を下す。そこで、どうせ殺されるならば自分のやりたいプロレスをやって死のうと、アイツは正統派へ転向したというわけだ。」

「その人はさ、上納金を納めなかったらそうなるってわかってたのよね?どうして?」

タイガーの話を聞く限り、そのレスラーは反則レスラーであることに嫌気がさして上納金を納めなかったわけではなく、何らかの理由があって納められなかった、または納めなかったと取れるのだ。

「さぁ?入れ上げたクラブの姉ちゃんにでも貢いだんじゃないか?さ、最後に一本やって上がろう。もう夜も遅いからな。」

そう言ってタイガーが立ち上がり、ルイズもそれに倣う。

 

「ふぅ・・・」

すでに皆、風呂を終えていたため貸切状態であった風呂を浴び、久しぶりに満足のいく練習ができたルイズは自室に戻るとベッドに倒れこんだ。気づいたらいなくなっていた直人はなぜか部屋にも戻っていないが、彼女には気にする余裕もない。それよりもタイガーマスクの話の方が気になっていた。

「(あれ、絶対タイガーのことよね?)」

黄色いマスクに黄色っぽい肌、明らかに知りすぎていることからタイガーマスクが語ったのが彼自身の話であることはルイズにも簡単に想像がついた。彼が酷い反則レスラーだったのならばルイズの反則技が通用しなかったのもうなずける話である。

「(最後の、女の人に貢いだってのは絶対ウソよね。)」

だからこそ、彼の話の中で嘘だと断言できる部分もわかるのだ。少なくともルイズには、タイガーマスクが後先考えずにそんなことをする男には見えない、止むに止まれぬ理由があったが、その理由のせいにしたくない一心で嘘をついたのだとルイズは確信している。それは彼女も同じ、反則レスラーをやっていることを、その理由のためにしたくないからわかるのだ。

「(とにかく、フーケに勝つことだけを考えなきゃ。今は・・・)」

だんだんと意識が遠のき、ルイズは毛布の一枚も着ずに眠ってしまうが、しばらくすると彼女に優しく布団をかける男がいた。誰なのかは言うまでもない、タイガーマスクこと伊達直人である。彼は二つの顔を使ってルイズを育てることを考えたのだ。一つは伊達直人、この顔は素人として、素人の目線でマネージャーのように彼女を支える。もう一つはタイガーマスク、こちらは先輩レスラーとして彼女の標べとなることだ。ルイズはまだいくらでも変わっていくし成長していく。そしてゆくゆくはハルケギニア一のレスラーとなり、自分が地球で成し得なかったことも成してしまうだろうと、直人は確信している。そしてそのためにはフーケという名の反則レスラーとの戦いが大きな契機になるだろうと、直人は考えていた。二人の奇妙な師弟関係は続き、試合の日が訪れる。




タイガーマスクの過去を断片的に知ったルイズ。彼女はどうフーケと戦うのか?
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