--リュー・リオンは、あの【深層】での一件以来彼の事が頭から離れなかった。

 初めて抱く気持ちに翻弄される彼女が取る選択は、果たしてーー

















 ダンまち14巻を見て書いたベル×リューSSです。気の向くままに見て頂ければ。

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リュー・リオンの憂鬱

 

 --あの少年の、ベルの事が頭から離れない。

 

 それは私、リュー・リオンがあの【深層】での一件以来頭を悩ませていた事柄だった。

 

 仕事中は、まだいい。仕事に没頭していれば、その忙しさから何も考えずにいられる。

 

 けれど、ふとした拍子……たとえば仕事の休憩中などに物思いに耽ってしまうと、いつの間にかあの子の事を考えてしまっていた。

 

 ベル・クラネル……【ヘスティア・ファミリア】の眷属であり、私を……救ってくれた相手。

 

 最初は、頼りのないヒューマンに見えた。ただ【冒険】に憧れるだけの、無垢な子供。それが、彼を最初に見た時抱いた印象だった。

 

 けれど、彼は……ベルはこの短期間で驚く程の成長を遂げた。少し前まで新米だった筈の少年は遂には私と同じレベル4まで上り詰め、あの【深層】での戦いでは私の悪夢の象徴……あの破壊者(ジャガーノート)までもを破ってみせた。

 

 そこに至るまでの【冒険】も、目を見張るものがあった。私の教えを着実に吸収し、自分なりに応用までしてみせる。

 その学習能力は並外れており、これこそが彼の強さなのか、とそう思えた。

 

 彼の短期間でのレベルアップには恐らく何らかの【レアスキル】あたりが絡んでいそうだが、そんな細かい理屈はどうでもいい。

 

 稀少であっても、【スキル】である以上その者の力である事には違いない。たとえ彼の成長のカラクリが保持している【レアスキル】だったとしても、私の彼への評価が変わる事はないだろう。

 

 ふと、私の脳裏にあの【深層】の【闘技場(コロシアム)】の地下の水場で服を乾かす時、ベルと肌を寄せ合った時の事を思い出す。あの時、私を抱き締めてくれた彼の体温はとても暖かくて……

 

 --男の人が、女の人を守りたくなる気持ち……わかるような、気がしましたーー

 

 「……っ!!??」

 

 顔がかぁっと熱くなり、思わずダンッ!とテーブルに拳を叩きつけた。周囲にいた同僚達が何事かと目を向け、その中の二人……猫人のアーニャ・フローメルとクロエ・ロロが私が赤面している事に気付いてしまい、ニヤニヤと笑みを浮かべながら近寄って来てしまった。

 

 「ニャー、どうしたのかなあ顔真っ赤にしてぇ……? もしかして、あの白髪頭の事でも思い出してたのかニャ?」

 「きっとそうだろニャ……ニャハハ、今のリューの顔、あの時半裸で飛び出して行った時とそっくりだからニャア」

 「……いや、私は……」

 

 アーニャとクロエに詰め寄られ、私はどう答えていいか分からず煩悶する。その様子を見て二人は更に調子に乗ったようで、顔をにやけさせながら迫って来る。

 

 「なんなら、今度あの白髪頭が来た時にお持ち帰りしてみたらどうニャ? あいつ、超絶下戸みたいだから多分酒勧めれば一発で落ちるニャ」

 「その時はミャー達もフォローしてやるからニャア。安心してしけこむといいニャ」

 「なっ、何を言って……っ!?」

 

 二人の下世話な企みを聞かされ、私は柄にもなく狼狽してしまう。二人の話の馬鹿さ加減に呆れた、からではない。

 

 むしろ、二人の誘いは私にとってこの上なく甘美な誘惑に思えた。酒に酔ったベルをベッドに横にして、介抱する私。ベルは赤らんだ顔で私を引き寄せてそのまま……!

 

 「……一体、何の話をしてるのかなあ?」

 「「げっ……っ!?」」

 「……っ! シル……っ!」

 

 --驚く程冷たい声が響き、私の妄想を遮った。同時に悲鳴じみたアーニャとクロエの声があがり、私は声の主に目を向けた。

 

 そこには、自分達と同じエプロンドレスに身を包んだ銀髪のヒューマンの少女、シル・フローヴァが立っていた。

 

 シルは常の温和な表情ではない、冷たい笑みをアーニャとクロエに向けており、その威圧感に気おされたアーニャとクロエは冷や汗を流す。

 

 「し、シル……っ! みゃ、ミャー達はその……っ!」

 「アーニャ達は、なあに? リューを誑かして、何を企んでいるのかしら?」

 「ご、ごめんニャー……っ!!」

 

 シルの眼光に屈した二人はそう言って一目散に逃げだし、その場には自分とシルだけが残された。

 

 「……シル、私は……」

 

 ……何かを言おうとして、声が途切れた。私はこの少女に、ベル(あの子)に想いを寄せるこの少女に、後ろめたさを感じている。その()()から、私は意図的に眼を背けていた。

 

 本当なら、こう言ってしまえばいいのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。けれど、何故かそれだけは出来なかった。

 

 ……そんな()を言っても、この少女には容易く見抜かれてしまう……そう無意識に、感じていたからだ。

 

 「……ねぇリュー、ちょっと向こうで話しましょうか」

 「……え……?」

 

 突然のシルの申し出に私は目を白黒させながら戸惑うが、シルは私の手をしっかりと握って立ち上がらせた。

 

 「ーー大丈夫だから、おいで」

 「………………分かった」

 

 私のシルの言葉に何故か従わなければいけないような気がして、彼女の促すままその場を離れる事になった。

 

 

 「……シル、こんな所で何を……?」

 「ちょっと、二人だけで話したくて。大丈夫、取って食べたりなんかしないから」

 

 シルに連れられて来たのは、店の裏手にある倉庫だった。此処は構造上店の中を通って来ないと辿り付けず、店から誰かが来ればすぐに分かる。確かに、秘密の話をするには打ってつけの場所と言えた。

 

 店の裏口がしっかり締まっている事を確認すると、リューはこちらを向いて真剣な表情で口を開いた。

 

 「--単刀直入に言うね、リュー。貴方、ベルさんの事……好きなの?」

 

 --シルは、容赦なく本題を突いて来た。私はどう答えようか一瞬迷い……結果、本心を話すしかないと観念した。

 

 「…………男女間での好意について、私は疎い。けれど…………あの子を、ベルの事を考えると……暖かい気持ちになるのは、確かです……」

 「……そう……」

 

 シルは私の返答を聞き、顔を伏せて黙り込んだ。その顔は何処か、寂しげな空気を醸し出していた。

 

 ……罵倒される覚悟は、出来ている。私は、シルの気持ちを知りながら……彼女の想い人に、懸想してしまったのだ。

 

 シルからしてみれば、裏切り同然だろう。私は、彼女に拾われた恩も忘れて……彼女に対して、最低の行いをしてしまったのだ。

 

 ()()()、次に彼女の口から出た言葉を聞いた時は耳を疑わざる負えなかった。

 

 「--うん、いいよ。リューが、ベルさんを好きでいても」

 「----え……?」

 

 --だって、彼女は……私の想いを、肯定してくれたのだから。

 

 「な、なんで……だって、シルは……」

 「--うん。私は、ベルさんの事が好き……その気持ちに、変わりはないよ。けどね……」

 

 そしてシルは、困ったような顔をして……

 

 「--そんな、泣きそうな顔を見せられたら……認めてあげるしか、ないじゃん」

 「……あ……」

 

 ……そこで、初めて気付いた。シルの瞳に映る私の顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた。

 

 自分がそんな顔をしている事に気付き、恥ずかしくなって俯いてしまう。シルはそんな私を抱き寄せ、囁くように告げた。

 

 「それにね、私は勿論ベルさんが好きだけど……リューの事も、大好きなんだよ。だから、リューがベルさんが好きだって言うなら、それを否定したりはしない」

 

 それに、とシルは告げる。

 

 「--折角、リューのあんな笑顔が見れるようになったんだもん。今のリューからベルさんを取ったら、可哀そうだよ」

 「……シル……」

 「あ、でも私もベルさんを諦めたワケじゃないからね? 私もアプローチを緩めたりはしないし、たとえリューとベルさんが結ばれたとしても、愛人枠狙うくらいはやるからね。その時はちゃんと受け入れてくれると嬉しいな」

 

 にこりとした顔でそう宣ったシルの笑顔に、私は頬を緩ませた。

 

 --私は、良い友人を持った。ベルがそうであるように、この子も……私にとっては、掛け替えのない……大切な、ヒューマンだ。

 

 だから、この子が肯定してくれた私の気持ちを、私は……受け入れようと、思う。

 

 男の人にこんな気持ちを抱いたのは初めてだけれど、それでも……他ならぬシルがこの想いを肯定してくれたのなら、私は……この気持ちと、向き合いたいと思った。

 

 どうすべきかは、なんとなく分かる。だから、敢えてシルにはこう告げた。

 

 「--シル、ありがとう。私、行きます」

 「うん。頑張ってね」

 

 私は、シルに見送られてその場を去った。行き先はもう、決まっている。

 

 --------その日私は、彼に告白した。返事は最早、言うまでもなかった。





 というわけでダンまち14巻を見て衝動的に書いたリューさんSSです。ちゃんとリューさんの魅力を書けてればいいんですが。
 尚、R-18版も投稿しますのでそちらもどうぞ。


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