各国首脳が2018年の覇権アニメを決めるようです   作:蚕豆かいこ

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各国首脳、覇権アニメについて語る

覇権アニメ、国連で各国首脳 熱弁

 

 2018年を象徴する覇権アニメを選出する国連総会本会議が、30日、米ニューヨークで開かれた。各国を代表する首脳陣は、今年おのおのが夢中になったアニメについて、年甲斐もなく熱く演説した。

 

 

英国首相 作画厨か

 

「アニメーション作品にとって重要なこととはなにか、その答えは十人十色であると思う。ストーリー、演出、声優の演技。それらと肩を並べる要素のひとつに、作画のクオリティが挙げられることは論を待たないだろう。美しい作画はただ見ているだけで私たちの目と胸を余りある幸福で満たしてくれる。

 だとするならば、2018年を代表するアニメとは、京都アニメーションが生んだ作画の暴力、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を置いてほかにはないとわが大英帝国は宣言する」

 冒頭、そう口火を切った英首相の語り口には迷いがなかった。EUからの完全離脱が決定している英国はいま激動の時代に突入しようとしている。軍事、経済の両面で変革を求められているなかでの覇権アニメ選出だった。

「愛を知らなかった少女が、文字を書けない依頼人の代わりに手紙を書く代筆業を通してさまざまな人生に触れ、愛とは何かを探すという『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のストーリーは、確かに古典的で、目新しいものではないかもしれない。つまりはロボットが人間らしい感情に目覚めるというパターンの類型だ。しかし、王道とは、いつの時代でも普遍的に多くの人間が感動できるからこそ王道であり、定番になれるのだ。物語の基本はいつでも王道だ。例のクソアニメのように瞬間的な話題性のために奇をてらった作品があふれる今の爛熟した時代に、人間の根源である隣人愛をテーマにした王道のアニメーションを、空前絶後の美麗な作画で視聴できた。そのことを私は神に感謝したい。

 youtubeの広告で予告編を見たとき、私は劇場アニメだとばかり思っていた。週1の30分アニメと知ったときは思わずBlu-rayをポチると同時に党の幹部たちにメールを送っていた。“彼らは正気なのか?”と。途中で万策尽きるのではないかという心配もあった。だが、最後までヴァイオレットちゃんは超絶美少女のままだった。ヴァイオレットちゃんマジ天使。作画のクオリティを保つためにいったいどれほどのスタッフの屍を積み上げたのか私ごときには想像もつかない。数学の世界で25年ものあいだ学者たちを悩ませてきた最小超置換問題の解決に多大なヒントをもたらした『涼宮ハルヒの憂鬱』を代表作とする京都アニメーションは、同作のライブシーンをはじめ、群を抜いた作画でつねに我々を魅了し続けてきた。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で私はその京アニの本気を見せつけられた思いだった。

 そして、背景美術も含めた、すべてのカットが1枚絵といっても過言ではない芸術作品のような作画は、王道のストーリーでこそ活かされることを私は再確認した。奇抜なストーリーでないからこそ安心して作画を堪能できる。そのことに理解のある技量確かなスタッフとこの作品との出会いは今世紀最大の幸運というほかない。丁寧を極めた心理描写、耳と心を浄福で彩る格調高い上質な劇伴、足音ひとつにまでこだわった効果音、主演から端役まで隙のない実力派ぞろいの声優陣の素晴らしい演技、それらがみごとに調和した本作は、3ヶ月で使い捨てにされるただのワンクールのアニメにとどまらず、次世代にまで語り継ぐべき人類の至宝であり、世界中の人々の心を永久(とわ)に暖かく燃やしつづけるであろうことは言うまでもない。

 普段は機械人形のようなヴァイオレットちゃんが、それぞれ事情をかかえた人々との出会いでいままで知らなかった情動を揺さぶられ、胸をかきむしられ、その感情がなんであるのかわからないために混乱し、とまどい、文字通り感情的になるという、難しい役を完璧に演じた主演の石川由衣氏には、この場を借りて最大級の賛辞を贈りたい。また、感情を持たないヴァイオレットちゃんを主人公に置くことで、笑い、泣き、怒り、そして人を愛する、そんな当たり前のことが、いかに大切で尊いことか、終始感動させられ通しだった。正直、尊すぎてしんどい。本アニメ作品を作り上げるにあたって、私が首相に登り詰めたことなど足元にも及ばない犠牲と努力が重ねられたことは想像に難くなく、その労に報いるためにも、Blu-rayの実用と観賞用と布教用に全巻3本ずつの購入、そして、2018年の覇権アニメの栄光を謹んで授けたい。それが英国の決断である」

 

 

カナダ首相 うつ病の疑い

 

「わがカナダは、国民投票の結果、圧倒的な指示を得て、あfろ先生原作、C-Station制作の見る抗うつ剤、『ゆるキャン△』を覇権として推挙することに決定しました。キャンプはアウトドアの雄といっても過言ではないポピュラーなレジャーです。都会の喧騒を離れ、木々と芝生の大自然に囲まれたなか、山々の間に沈む夕陽を眺めながら食べる夕食は格別ですし、星降る夜空を見上げながらなにも考えずに過ごす時間はなにものにも変えがたい。『ゆるキャン△』はまさにそんなキャンプを題材にとったアニメですが、ただのキャンプアニメではありません。主人公が女子高生であるだけに、タイトルどおり実にゆるく、気軽に旅を楽しむことが主眼に置かれていることが特徴です。

 そして、私がこのアニメで最も好ましいと感じたことは、登場人物たちの絶妙な距離感です。主人公のひとり、しまりんことリンちゃんは、単身でキャンプを楽しむいわゆるソロキャンの名手であり、一人の時間を大切にする性格の持ち主です。もうひとりの主人公であるなでしこは、リンちゃんとは対照的にとても元気で外向的な女の子ではありますが、彼女は決して押すだけの人間ではありません。リンちゃんがソロキャンを好むと知るや、一人よりもみんなで行くほうが楽しいと無理やり引っ張っていくのではなく、一歩引いて、その気になったらでいいから一緒にキャンプ行こうねと言うに留める。この一歩引く、相手の都合を第一に考えるというスタンスが、本作を心地よく視聴できる秘訣であると、わが国の情報機関、カナダ安全情報局の分析結果も出ています。キャンプでわが身を預けるに足ると思わせる美麗な背景美術、ゆるさを裏から補強するしっかりとしたキャンプ考証、渋いナレーションも忘れてはなりません」

 また、カナダ首相は『ゆるキャン△』には為政者に対するメッセージも込められていると説いた。

「女子高生だけ、ましてや一人でキャンプなど、危険であるために現実味がないという声も聞きます。しかし、これこそ『ゆるキャン△』のメッセージなのです。女子高生が一人でキャンプできるような治安の良好な国を作っていかなければならない、それこそがわれわれ為政者の使命であることを思い出させてくれました。『ゆるキャン△』こそ、今年の覇権です」

 

 

中国国家主席 選んだのは『ゴブリンスレイヤー』

 

「本来、どのアニメが覇権というべきか、それは個人が各々決めることであり、高所大所から甲乙つけるものではない。だが一国の指導者として、覇権アニメを1本選出して推挙することもまた極めて重要な役割であることも理解している。そこに一切の妥協も許されるはずがなく、ゆえに私はこの1週間、部屋から1歩も出ず、もちろん他のすべての職務を中断して、今年度の個人的に気になったアニメを改めておさらいした。実は答えはすでに決まっていたのだが、おかげで私のなかで2018年を代表するアニメとはなにか、その答えはさらに揺るぎないものとなった。

『ゴブリンスレイヤー』。それが偉大なるわれらが中華人民共和国の決断だ。アニメ作品の基本である作画と脚本も良好であり、主人公のゴブリンスレイヤーをはじめとした個性豊かなキャラクターたちが織り成す、シリアスと微笑ましい日常とのめりはりは観るものを飽きさせない。『ゴブリンスレイヤー』は決して、まとめサイトで聞きかじっただけで知ったかぶりして中傷と害毒をまき散らす、それこそゴブリンのごとき連中の言うような、悪趣味なエログロだけが売りの薄っぺらいアニメなどではない。それらはゴブリンという悪役をひきたて、討伐したときのカタルシスを得るためのスパイスに過ぎず、『ゴブリンスレイヤー』の主題は、主人公を含めたキャラクターたちがあくまでビジネスとして魔物を駆除しているという地に足のついた生活感である。そのことは第3話を観ればわかるだろう。ただ野宿して食事をして駄弁っているだけなのに30分があっという間に過ぎてしまう。これは登場人物たちのキャラがいずれも立っており、作品の基礎である脚本、演出が高水準であることを意味している。もっと言うなら、このアニメはゴブリンスレイヤーという一人の男が、仲間と出会い、変えられない過去と決着をつけ、社会復帰を果たす成長物語でもある。例の地上波に乗せることも汚らわしいとは比べるべくもない、ハイファンタジーでありながらフィクションとしてのリアリティと、エンターテイメント性の両立を追求している本作の真摯な姿勢には敬意を表したい。

 むろん本作にもツッコミどころはある。だがアニメに限らずフィクションでは、突っ込んだら負けという雰囲気をつくることもまた欠かせないギミックのひとつだ。『ガールズ・アンド・パンツァー』では第1話のラストで街そのものが巨大な艦船の甲板だったというオチをみせることで、戦車砲の直撃を食らったり車体がひっくり返ったりして乗員がけがひとつしないのはおかしいとか、八九式があんなに速く走れるはずがないとか突っ込まれても、“おまえ学園艦なんてもんが存在する世界でなに言ってんの?”の一言で斬って捨てることができるようになっていた。『ゴブリンスレイヤー』もまた、突っ込んだら負けと思わせる工夫が随所に仕込まれ、しかもそれは普通に鑑賞しているだけでは気づけないほど巧妙に隠されており、没入の邪魔になることもない。

 作画と二人三脚でキャラクターに息吹を与える声優の好演にも触れておきたい。タイトルにもなっている主役、オルクボルグ、かみきり丸、小鬼殺し、ゴブリンのことになると早口になる男、圧倒的コミュ障、ゴブリン厨、隙あらば3DCGにされる男、ゴブリンスレイヤーは、兜と面頬でつねに表情が見えず、身ぶり手振りもしない性格であるため、声だけで心情のすべてを表さなくてはならず、しかも頼みの綱の台詞といえば“そうか”、“そうだ”といったぶっきらぼうなものばかりで、およそパーソナリティを全面に押し出すことはなく、演じきるのは困難を極める。主演の声優はまさにその難題をクリアしていたばかりか、その低音の効いた渋い声もあいまって、ゴブリンスレイヤーという作中屈指の変人をさらに魅力的に仕立てあげる試みに成功し、“ピカピカ!”だけで感情のすべてを表現したピカチュウにも匹敵する偉業を成し遂げた。

 なにより、小倉唯ちゃんが1話から嘔吐する演技が見られるのは『ゴブスレ』だけだということは、わが中国の歴史にもかならず書き残しておかなければならない最重要事項だ。私は自分用にあの嘔吐シーンを1時間リピートした耐久動画を編集して毎日聴いている。小倉唯ちゃんの声に癒しの効果があるとWHOによって立証されていることは諸君もよくご存じの通りだ。ましてや吐く演技となると、それを聴いた者の脳は例外なくアルファ波の洪水に溺れるだろう。

『ゴブリンスレイヤー』と『転生したらスライムだった件』を交互に視聴してゴブリンへの評価に悩んだこともあった。『ゴブスレ』の1話で視聴者の精神に大打撃を与えることとなった女武闘家の中の人が、『転スラ』ではゴブリンを演じていると知ったときは驚いたものだ。

 昨今のアニメ界において、ハイファンタジーとはただ魔法を乱発して敵の軍勢を蹂躙するものばかりではないということを、比較的新しい世代にも啓蒙する役割を果たしたという意味でも、『ゴブリンスレイヤー』こそが2018年の覇権アニメであると、私は確信している」

 

 

米大統領に特オタの疑い

 

 米ホワイトハウスは今年度の覇権アニメ選出で大いに揺れた。今年は良作アニメが集中しすぎており、閣僚の間でもどれを覇権に選ぶか意見が割れたためだ。とくに秋アニメの豊作ぶりは異常ともいえるほどで、米国のみならず世界中が例年にない盛り上がりを見せた。米シンクタンクによれば、米小売り大手のシアーズ・ホールディングスが連邦倒産法11条の適用を申請し、事実上の倒産に追い込まれたのも、秋アニメがあまりに粒ぞろいで経営陣が視聴と考察に夢中になりすぎたためとの分析もあるという。

 そんな中、米大統領は壇上で堂々とした振る舞いを見せた。

 

「『SSSS.GRIDMAN』。それがわがアメリカの回答だ。

 1993年に放映された『電光超人グリッドマン』は、電脳世界を破壊する怪獣と、ウルトラマンの派生キャラとでもいうべきグリッドマンが戦い、現実世界を裏から守る、あまりにも時代を先取りしすぎた内容だった。当時はまだコンピュータウィルスの名称さえ一般的でなかったことを鑑みればその先見性もわかろうというものだ。とはいえ、ちょうど原作発表時の『攻殻機動隊』とおなじように、多くの人々がコンピュータやインターネットに馴染みがなかったために、デジタル世界から攻撃を仕掛ける敵の計画がどれほどの脅威であるのか理解しにくく、それゆえ主人公たちの戦う理由もまたわかりにくいという難点があったことも事実である。そのためグリッドマンは“早すぎた名作”として、コアな特撮ファンの間で密かに語られる、知る人ぞ知る作品でしかなかった。

 だが、ついに時代が追いついた。いまやインターネットは我々の生活に欠かせないものとなり、インターネットを支配するものが世界を支配することを誰もが認知するようになった現代こそ、グリッドマンのストーリーを余すことなく楽しめる時代である。

 そして現代にリメイクされたグリッドマンは、ただ原作をなぞってアニメ化するだけではなく、新たによみがえるにふさわしいストーリーとキャラクターを引っ提げて我々の前に姿を現してくれた。現代のアニメには美少女ヒロインが不可欠だ。太ももの擬人化、宝多六花ちゃんはそのキャラクターデザインの秀逸さもさることながら、“解散は……違うじゃん”に代表される自然な台詞回しと、中の人によるこれもまた自然な演技とがアクセス・フラッシュし、記号的ではない、実在感のあるリアルなJKへと昇華している。彼女にこそ秋アニメどころか2018年さいかわヒロインの栄誉が与えられてしかるべきだ。

 新条アカネちゃんは私に裸足のフェチズムに目覚めさせてくれた。豪邸に住んでいながら中が足の踏み場もないゴミ屋敷なのは、外見だけとりつくろっているものの胸のうちに鬱屈したストレスをため込んでいるアカネちゃんという人物そのもののメタファーとなっている。その危うさが魅力であることも確かだ。

 この2大ヒロインが、グリッドマンにも特撮にも興味のなかった層に『SSSS.GRIDMAN』の視聴を決意させた立役者であることには異論はないと思う。

 なによりも圧巻なのが、グリッドマンと怪獣との戦闘シーンだ。ビルがひしめく大都市をミニチュアのように破壊する巨大怪獣、ぐんぐんカットによるグリッドマンへの変身、足下から煽るように撮影して巨大感を演出するカメラワークなど、往年の特撮を十二分にリスペクトしていながら、アニメだからこそ可能なアクションも多く盛り込んであった。

 第1話の怪獣グールギラスの造形と動きかたには着ぐるみ怪獣を想起せざるをえないし、第3話の電柱の変圧器の変態的な描き込みには思わず唖然とさせられた。グリッドマンが着地したさいの土砂の舞い上がりには『ウルトラマンガイア』のオマージュが垣間見え、アカネちゃんのソフビコレクションの名前を言い当てる楽しみもあった。グリッドマンが敗北する回で映っていたソフビはパワードドラコやグローザムなどの、“ウルトラマンに完勝した怪獣”であるなど芸も細かい。

 台詞には『電光超人グリッドマン』からの引用が散りばめられ、過去のウルトラ作品や同じタカラ社の主力商品トランスフォーマーからも小ネタを引っ張ってくるなど、ファンサービスにも事欠かない。本作が素晴らしいのは、それらの小ネタを一切知らずとも楽しめるという点にある。知らなくても楽しめる、知っていればもっと楽しめる。それこそ理想的なファンサービスであると私は断言する。

 もともと特撮は基本的に30分1話完結で制作されていたため、テレビアニメというメディアと相性が良かったことも幸いした。ドラマパートと戦闘パートの黄金比は視聴者を強力にのめり込ませて離さない。懐かしさと新しさ、両方が同居した本アニメは、童心に返り、毎週アニメを観ることの楽しさを思い出させてくれた。

 そして12話をかけて積み重ねてきた物語の集大成である最終話は、まさに『電光超人グリッドマン』の第40話といってよい感動が詰め込まれていた。

『SSSS.GRIDMAN』こそ、覇権アニメである」

 

 

伊首相 南極を溶かす恋?

 

 イタリア首相は2018年を代表するアニメに、『宇宙よりも遠い場所』を選んだ。

「南極は、この地球においてどの国の領土でもない、最後のフロンティアです。およそ人間が永住できる環境ではない、皮肉にもそのために、地球上で最も清浄な空気と水が残されている楽園でもあります。人の手が届かないために地球の本来の美しさが残されている。そんな南極は、ただ行くだけでも相当の費用と時間、訓練が必要であり、物理的にも、ハードルの高さでも、ある意味で宇宙より遠いとさえ言えます。『宇宙よりも遠い場所』、通称『よりもい』は、そんな最後の楽園に向けて女子高生4人が旅をするロードムービーです。こう言うと“女子高生がメインキャラだから選んだんだろ”と批判を受けそうですが、否定はしません。私も最初は井口裕香氏の演じる巨乳キャラがいることが理由でとりあえず視聴したのです」

 イタリア首相は率直に認めながらも、

「前述のとおり、南極は近くの山を登るような感覚で行ける場所ではありません。言うなれば宇宙に行くようなものと考えておく必要があります。私もアニメ視聴後にお忍びで聖地巡礼しましたが、あまりにも寒すぎて、吐息の水分が空中で凍るような世界です。厳密に消費カロリーを計算してそれを上回るカロリーを摂取しておかなければ死んでしまう。想像を絶する、純白の地獄。それが南極です。ですが、そこには、われわれの日常からはかけ離れた、大自然の雄大さ、過酷であるがゆえになにものに対しても平等である地球の本来の姿を、視界のすべて、いや、体全体で感じることができました。報瀬ちゃんの母親が南極を愛したのも無理はありません。地球でありながら地球ではない。まさに宇宙より遠い場所でした」

 と南極を舞台にしたことの意義を評価した。

「またストーリーも毎回が完璧でした。これ以上の神回はないだろうと思っていると常に次の話数で上回ってきました。たしかに細かい粗はありますが、そんなの知ったことかと若さで突っ走る4人のエネルギーは、まさに青春そのもの。歳を重ねたわれわれが失ってしまった、まぶしさのようなものが画面から放たれていました。浄化されるとはまさにこのことです。最後までとことん付き合ってくれる友人の尊さを、あらためて認識させられました。これほどまでに泣ける“ざまあみろ!”を私は他に知りません。3年のあいだ止まっていた母娘の時間が、メールの受信という形で一気に進み始める演出は、今年でいちばん涙を流しました」

 イタリア首相は目をうるませながら演説した。

「南極という旅は終わりましたが、彼女たちの人生はまだ始まったばかりです。ですが彼女たちなら、この先の人生という旅もきっと乗り越えていけるでしょう。南極に行くという突拍子もないストーリーで見事に4人の青春を描いてみせた『よりもい』こそ神アニメであり、今年の覇権アニメです。あと、日向を裏切った部員は許さない」

 とイタリア首相は演説をしめくくった。

 

 

デモ頻発の仏 大統領はアニメに夢中

 

「私が『やが君』と出会ったのは全くの偶然だ」

 壇上に上がったフランス大統領は開口一番、『やがて君になる』を覇権に選んだことを表明した。

「原作第1話の時点で、『やが君』は私の背筋を伸ばさせるなにかがあった。単純に女の子がいちゃつくだけのファストフード的な百合ではない。私はそういった美少女動物園としての百合も大好物だが、『やが君』には文学的な匂いがした。谷崎潤一郎の描く百合の世界を現代風にアレンジし、漫画という媒体に落とし込めばこのような作品になるのだろう。

 生き生きとした伸びやかな線で描かれたキャラクターデザイン、情景に人物の心理描写や暗喩を託した演出、コマ割り、台詞運び、脚本、すべてが高水準でまとまっていて隙がない。私が驚いたのは、この作品が作者の連載デビュー作であるということだ。無論、作品の評価は純粋にその作品についてのみ吟味されるべきものであって、作者の来歴、いや、作者が誰であるかでさえ、本来は考慮に含めるべきではないことは重々承知している。

 しかし、漫画の連載は、たとえ月刊誌であっても肉体的、精神的に厳しいものであることは周知の通りだ。並みの作家なら原稿を仕上げるという目の前の作業をこなすだけで精いっぱいで、作品の全体図を気にかける余裕などないのが普通だ。フィギュアスケートで例えるなら、ジャンプやステップといった、個々の技術を成功させるだけで精いっぱいというところだろう。

 だが『やが君』は違った。作者はすでに、原稿を仕上げる作業を当たり前にこなし、さらには作品全体を通して何を読者に伝えたいのか、自身の作品を俯瞰して漫画を描く余裕さえ見られた。やはりフィギュアスケートで例えるならば、ジャンプもステップも完璧に成功させて当たり前、むしろそれらは演技を構成するひとつの手段に過ぎず、どうすれば観客に感動を伝えられるかを考える、そんなレベルに『やが君』は到達していたのだ。

 そんな『やが君』はいつかアニメ化するだろうとは漠然と予測していた。しかし実際にアニメ化が発表されたとき、私は一人のファンとして踊り出したくなるほど喜び、期待に胸を膨らませたのと同時に、心の片隅にわずかな不安が巣食っていることもまた否定できなかった。ずっと追いかけてきた原作がアニメ化され、不本意な結果に涙を呑んだ経験を持つものは少なからずいると思う。

 漫画原作のアニメ化、それは口で言うほど簡単なことではない。漫画はコマ割りと吹き出しを含めた1ページ1ページが視覚的に読者に受け入れられるようデザインされている。大きなコマ、小さなコマの組み合わせ。重要なカットは見開きにするとかね。アニメでは、テレビ画面がコマになる。画面という常に同じ大きさのコマで、基本的に1カットごとを映し出さなくてはならない。つまり漫画で言えばおなじ大きさの1コマだけを強制的に視聴者に見せなければならないんだ。だからただ単に原作の絵をトレースして動かせばいいというものではない。すべてのカットをアニメ用に入念に検討を重ねて作り直していく必要がある。

 今年のアニメなら、『ゆるキャン△』の第1話、隠れていた月が不意に顔を覗かせて、本栖湖と富士山を幽玄に照らし出すシーンだ。原作では効果的に見開きを使ってなでしこの感動を読者と共有していた。アニメでは見開きというカタルシスは使えない。だからこそエモーショナルなBGMで盛り上げたんだ。その試みが成功を収めたことはご存じの通りと思う。

『やが君』のアニメはどうだろうかと、私は精神の安定を欠き、放送前の1週間はなんら執務に手がつけられなかった。おかげでフランス全土に反政府デモが広がることとなったが、ささいなことだ」

 と仏大統領が言うと加盟各国の代表団からは笑い声が上がった。

「1話を視聴し終えた瞬間、私のあらゆる心配は杞憂だったのだと確信した。

 アニメ化に際し、最も重要なことは、原作の持つ雰囲気、空気感を表現できているかどうかだと思っている。だがそれが最も困難な仕事であることも私は理解している。雰囲気や空気感は明文化できないものだけに共有もできない主観的なものだからだ。『やが君』のアニメは、まさに原作の終始一貫した透明感、木漏れ日のようなきらめき、田舎の古びた校舎のノスタルジー、たった一度しかない青春の輝き、それらがあますことなく再現され、カメラワーク、作画、色彩設計、音楽や音響、声優のキャスティングと演技、すべてが渾然一体となって、『やが君』の世界に新たな命を吹き込んでいた。気がつけば、踏ん切りをつけられずにいたBlu-rayの全巻予約をすませたあとだったよ。『やが君』は単体の成功だけでなく、異性の多いなかでの百合という新機軸をもスタンダードとして確立させる、百合界のエポックメイキング、コロンブスの卵となるだろう。2018年覇権アニメは、『やがて君になる』で決まりだ」

 

 

揺れる朝鮮半島 鍵はコーヒーカップか

 

 北朝鮮は2018年の覇権アニメに、2014年放映の「ご注文はうさぎですか」を推挙したが、国連の安全保障理事会から「レギュレーション違反」として拒否されたことを受け、「ごちうさは21世紀の覇権アニメであり、よって2018年の覇権であることもまた自動的かつ完全に運命づけられている。国連の不当な対応に、わが国は全人民を挙げて最後の一息まで徹底抗戦する」と反発した。朝鮮中央通信が伝えた。

 国連総会に出席した北朝鮮の国連大使は「朝鮮半島の非核化か、ごちうさを覇権アニメとして認めるか、国際社会の選択は二つに一つ」と主張。朝鮮半島の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化は、安全保障常任理事国5カ国の長年の課題であるだけに、国連は難しい対応を迫られている。国連事務総長が「ごちうさが人類史上まれに見る素晴らしいアニメであることは全面的に同意するが、今年の覇権アニメは2018年度の作品から選ばなくてはならない」と改めて述べると、北朝鮮の国連大使は「わが国ではごちうさを毎日一挙放送している。よってごちうさは2018年度のアニメでもあることは明らか」と語調も強く反論した。

 これに対し米国国務長官は記者会見で「ごちうさを人質にとる卑劣極まりない行為。非核化とごちうさなら、人類はごちうさを選ぶほかない。それを北朝鮮は利用している」と非難し、「あらゆる選択肢を排除しない」と、さらなる制裁強化も匂わせた。

 緊迫した情勢が続くなか、北朝鮮分析サイト「38ノース」は北朝鮮のごちうさ化が進んでいるとする商業衛星画像に基づく分析結果を公表した。

 同サイトによると、今年8月に撮影された衛星画像を比べたところ、首都平壌の金日成広場に並べられた無数の大小さまざまなコーヒーカップの量が増えていることがわかった。コーヒーカップは通常の食器用のサイズのものもあれば、なかには日本や韓国の遊園地から拉致してきたと思われる巨大なものもあり、それらを使ってモザイク画のようにチノちゃんの顔が描かれてあった。顔は縦210メートル、横180メートルの巨大なもので、今年11月の衛星画像では、その隣にやはり無数のコーヒーカップで描かれたほぼ同じスケールのココアちゃんが新たに追加されていた。首都にミルク色の異次元を作り出そうとしているものと思われる。

 同サイトは「平壌に集められたカップの数は想像もつかないが、北朝鮮の人口を上回っていることは確実」と分析している。

 今年の9月、建国70周年を記念した軍事パレードで、行進する兵士たちが「万歳(マンセー)」のかけ声の代わりに、北朝鮮で「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」を意味する「ア~ マウミ ッカンチュンッカンチュン ハヌンクナ~」のスローガンを叫んでいたことは記憶に新しい。ごちうさは19年にはOVA、20年には3期も予定しており、「朝鮮半島の動乱は終息する気配を見せない。つぎに広場に現れるのがリゼちゃんなのか千夜ちゃんなのか、事態は予断を許さない」と同サイトは警鐘を鳴らしている。

 

 

キルギス 遊牧民の誇り

 

 キルギス共和国大統領は、登壇したときからすでに目元を腫らしていた。

「私たちキルギス人は、遊牧民を祖先に持っています。馬とともに大地を駆け、馬とともに生き、人馬一体となって勇壮に戦うわれわれを、ヨーロッパの人々はケンタウルスと呼んで恐れました。今でも私たちにとって馬は家族であり、大自然からの使者であり、彼らとの絆は子々孫々に至るまで受け継いでいかねばならないものです。馬と人との繋がりは先祖から頂いた大切な贈り物であり、私たちキルギスの民はそれを次世代に渡す役割を背負っているのです。

 そんなわれわれキルギスタンが覇権アニメとして選ぶのは、『ウマ娘 プリティーダービー』以外にありえません。軍艦や日本刀、果ては細胞までも擬人化されている現代にあっても、実在する競走馬を美少女化するなど、おそらくだれもが耳を疑ったのではないでしょうか。“まーた擬人化か”、“なんでもかんでも美少女にすればいいってもんじゃないぞ”という印象を抱いたのではないかと思います。実を言うと、私もその一人でした。馬は馬だからこそ可愛い。

 これは決して私がケモナーだからこんなことを言っているのではありません。馬とは草原を風のごとく駆け抜けるために完成されたフォルムを持っています。雄々しいたてがみの生えた首から背中、お尻に流れる美しいライン、均整のとれた四肢、チャームポイントの尻尾。それらすべてが馬という芸術品を構成しているのです。それをわざわざ女体化する意味とは、なんなのだろうか。奇抜なネタでいっときの注目を集めたいだけではないのか。爆死するに決まっている。そんなネガティブなイメージが拭えませんでした。思えば私はこのときすでにスタッフの術中にはまっていたのかもしれません。白状すると私は批判がしたいために第1話を視聴しました。

 見終わったとき、私はひどく後悔しました。なぜ偏見をもってこの神アニメの視聴に臨んだのかと。これは馬の美少女化という荒唐無稽なネタだけのイロモノではない。『ウマ娘』は、日本一の夢を実現するために主人公が奮闘し、おなじ夢をもつ仲間にしてライバルたちと切磋琢磨しあい、かけがえのない出会いと別れを描いた、ド直球の由緒正しいスポ根アニメなのです。

 主人公のスペシャルウィークのみならず、ウオッカ、ゴールドシップ、ダイワスカーレット、セイウンスカイにグラスワンダー、エルコンドルパサーなど、それぞれが主役で映画が撮れる歴代の名馬たちが、アニメのなかとはいえ、勢ぞろいして生き生きと走るさまは涙を禁じ得ません。

 さらには実際のレースや実馬のエピソードをモチーフにしたストーリー展開は、馬を愛するものとして、目の前に人参をぶら下げられた思いでした。気がつけばOPテーマのエンディングが流れており、私はしばらく呆然としていました。スペシャルウィークを主軸にした魂を揺さぶるアニメがはじまったと確信させられていたからです。

 そして、忘れてはならないのはサイレンススズカです。“観ている人に夢を与えられるウマ娘になりたい”。私もかつてススズに夢をもらいました。だからこそ、一抹の不安を覚えたのです。スズカの物語をどう描くのか。

 今でも覚えています。98年秋の天皇賞のゴール直後を撮った当時の競馬雑誌『Gallop』に掲載されていた写真です。観客席の観客が、だれもゴールを見ていない。みんなゴールとは反対側の左を見ていたのです。レースの行方よりも、彼らはススズの身になにが起こったのか、それだけが心配だったのです。ススズはまさに伝説の馬でした。

『ウマ娘』において、レース中のスズカが足を大地に踏みしめるカットのたびに変な声が出ていたのは、きっと私だけではないでしょう。あの運命の大欅(おおけやき)を通りすぎたときに起きた悲劇は、残念ながら避けることはできませんでした。しかし、『ウマ娘』は、アニメという世界にススズを生まれ変わらせるにふさわしい展開を用意してくれていました。そこで待っていたのはただただ純粋な感動でした。スズカだけでなく、だれもが主人公と言っても過言ではありません。

 このアニメを作ってくれたスタッフに最大の感謝を捧げたい。ボテ腹の需要にも答えてくれました。最後になりましたが、アニメ放映中に急逝したスペシャルウィークの冥福と、彼がOPのように天国でサイレンススズカと走っていることを切に祈ります」

 

 

韓国が選んだのは あのアイドルアニメ

 

「世界のどんな先進国であっても、人口減少、過疎化に悩む地域は存在するものです。そのような地域の取るべき選択肢は二つです。衰退を座して静観するか。それとも起死回生をねらって地域おこしを試みるか。風前の灯火だった佐賀県がとった道は後者でした」

 壇上に立った韓国大統領は冒頭、こう述べ、佐賀県の全面協力のもと制作された『ゾンビランドサガ』を2018年の覇権アニメに選出したことを表明した。

「ゾンビといえば、ジョージ・A・ロメロの映画で一躍有名となったクリーチャーであり、それ以降ゾンビを題材にした映画やゲームは数知れません。2015年には『がっこうぐらし!』のアニメも放送されました。しかしながら、ゾンビにアイドルをさせるアニメが出るなどと、一体だれが考えたでしょう。ましてや地域おこしとしてひとつの県が公式にバックアップするなど、死者がよみがえるよりも現実味のない話だとだれもが思ったことでしょう」

 と同作の奇抜さを挙げながらも、

「しかし蓋を開けてみれば、『ゾンビランドサガ』は、不慮の事故で未来を断たれた、前途ある少女たち……いや、うん、少女たちが、ゾンビという形で第二の人生を得て、志半ばだった夢を実現させるためにゾンビ仲間と協力し、奮闘し、自分という生き方に決着をつける、普遍的なヒューマニズムを描いた傑作でした」

 と絶賛した。

「第1話や2話では、このアニメ大丈夫かと心配になったことも確かです。それこそ地方の無名アイドルのステージを見たときのような、一種のいたたまれなさがありました。共感性羞恥をこれでもかと刺激されました。しかし、ストーリーが進むにつれ、生前の自分がどんな人間だったか、そしてどんな最期を迎えたか、それらのつらい事実から目を背けずに向き合い、そして前へ進んでいく彼女たちの姿に、私はいつの間にか感動させられていたのです。水野愛ちゃんのステージはまさに白眉でした。メイクが雨で落ちないように靴用の防護スプレーを全身に吹きかける、その状態でステージ中に直撃した落雷で帯電し、指からテクノレーザーのごとく乱れ打って、ついでにトラウマも克服。なにを食べたらこんな脚本を思いつくのかわかりません。笑いあり、涙ありとはまさに『ゾンビランドサガ』のためにあるような言葉です」

 また、韓国大統領は同作を影に日なたに支援した佐賀県の功績も大きいと語る。

「コッコちゃんの声優が現役の公務員と知ったときは食べていたピーナッツがすっ飛びました。Aパートに比べると明らかにアフレコが上達しておられた、本人役でご出演されたドライブイン鳥の社長も、本作の忘れてはならない立役者のひとりです。最終回のライブに彼も来てくれたときは涙をこらえようもありませんでした。わが韓国の釜山広域市蓮堤区は、佐賀市と姉妹都市の締結をしていますが、隣人として、素晴らしい作品と出会えたことを幸運に思います」

 続いて大統領は、『ゾンビランドサガ』は決してフィクションであると片付けてはいけないと指摘。

「彼女たちは、一度死んで、ゾンビとして人生をやり直しています。しかし、現実にそんなことは起こりません。ゾンビなどというものはこの世にありませんし、死んだ人間は生き返らないのです。だからこそ、われわれは、たった一度しかない人生を、いつ死んでも後悔も未練もないよう、アイドルを目指す作中の彼女たちのように全力で生きていかねばならない。『ゾンビランドサガ』は人間ではないゾンビの頑張る姿を通して、われわれにそう訴えかけていたのだと思います。この作品を語るにはそれこそゾンビになるくらいの時間が必要ですが、あえて、たった一言で表すなら、“よか”。それが『ゾンビランドサガ』です」

 と、大統領が一筋の涙を流す場面もあった。

「最後になりましたが、『ゾンビランドサガ』の個人的な一押しヒロインには、私はだれあろう、巽幸太郎を選ばせていただく。ありがとう」

 

 

日本 血迷った国家戦略

 

 日本政府は24日の閣議で、本年度の覇権アニメに『』を推挙すると決定した。推挙は官房長官が25日の記者会見で明らかにした。「官房長官談話」も発表し、「アニメとは何か。物語とは何か。芝居とは何か。それらを総合的に問題提起した意欲作であるとし、同作こそ本年度の覇権アニメにふさわしいと判断した」とする政府の立場を説明した。

 

「『ポプテピピック』は、一見すると、たしかに一時的な話題性と売り逃げを目的とした、奇をてらっただけのアニメと感じられるかもしれない。“ザ・エンドってね”や、BBの提供、イ゛エ゛ア゛ア゛ア゛など、知る人ぞ知るネタ、特にネットスラングが目白押しであるだけに、ともすれば、悪ノリしすぎている、プロの表現者としてのプライドがないという意見が多いことも理解できる。私も、安易にジョジョネタに頼ったりするラノベはISBNコードを与えるに値しないとすら考えている。『ポプテピピック』も実は似たようなものなのかもしれない」

 総理は臨時国会の冒頭、こう述べた上で、「しかし、要素をひとつひとつ解剖していくと、それらのネタはあくまで表層的なものに過ぎず、このアニメの神髄は、表現とはなにか、声優という顔のない表現者にとって芝居とはなにか、その深遠な哲学に踏み込んだことにある」と指摘し、「『ポプテピピック』は声優リセマラと言われるほど多くの声優を起用した。注目すべきは、AパートとBパートでまったく同じストーリーを展開しながら、声優だけを変えて製作されていたことだ。これによって、女性の声優ならこう演じる、男性の声優ならこう演じるという違いを、より明確に比較することができた。仮にもキャラクターが女子中学生であるにもかかわらず、男性のベテラン声優のほうが違和感がなかったという不測の事態もあったが、彼ら彼女らが、ポプ子やピピ美といった何もバックボーンのないキャラクターを演じた経験は、これからの声優にとって、ある意味で芝居の教科書の一章になると信じている。これは他のどんなアニメにもできなかった偉業」

 と『ポプテピピック』を覇権に選出する意志が固いことを改めて表明した。

「『ポプテピピック』はあくまで一過性のネタアニメに過ぎず、そのようなアニメを今年の日本の顔として選べば、将来的にわが国の汚点となり、外交関係も含め、わが国の国益にかなうものではない」と、質疑で野党に追求された総理は「あーなるほど完全に理解した」と答弁するにとどめ、「『ポプテピピック』は日本を代表するアニメにふさわしくないという声も多数上がっているが、どう思うか」という質問には「ごめん、ヘルシェイク矢野のこと考えてた」と答えた。

「ニコ動で全話ミリオン達成とイキッてたわりには円盤は芳しくなかったじゃないですか。どこが覇権なんですか。そもそも、あのアニメを高画質で視聴して何が楽しいんですか」という批判に、「ネット配信が普及しつつある現代において、円盤の価値は相対的に縮小しており、円盤の売り上げが作品の収益の全てではなくなってきている。またOPは、アニメーションのクオリティの高さと、すみぺの魅力的なOPテーマとが相乗効果を成していて、内外から高い評価を得ている」と首相が答えると、野党議員は「OPに関しては全面的に同意するが、アニメ作品の出来はOPだけで決められるものではない。到底、国民の納得は得られない」と追及の手を緩めなかった。

 首相は「かつて消費税を導入した、当時の総理大臣だった竹下登氏は、いつか国民は自分に感謝する日がくると述べていた。2018年の覇権アニメに『ポプテピピック』を選んだことに、いつか国民が感謝する日がくると信じている。国民にも理解を求めていきたい」と答弁をしめくくり、野党からは中指を立てながらの罵声が飛んだ。

 続いて連立与党代表の「アニメとは、あくまでも絵によって展開される世界であり、最終回に実写の蒼井翔太が登場するのはあまりに常軌を逸していて、悪ふざけが過ぎ、そもそもアニメとしての品格を問われている。このことについてはどう思うか」

 という質疑には、

「実写のキャラクターが最終回に絡む演出は、『マイアミ☆ガンズ』にもあった。というか『SSSS.GRIDMAN』でも重要な役割を果たしていた。よって必ずしも『ポプテピピック』の評価を下げるものではない」と反論した。

 翌25日の衆議院採決では、与党の全議員が起立。野党議員らは着席したまま両手の中指を立てて最後まで抵抗した。『ポプテピピック』を2018年覇権アニメに推挙する案は起立多数で可決され、その日の内に参議院でも可決、成立した。

 野党はこぞって反発し、野党第一党党首は採決後の取材に「よりにもよって『ポプテピピック』を選ぶなど、日本の恥。他国に顔向けできなくなる」と政府を非難。また、ある野党幹部は「本来は国民投票で信を問うべき事案。内閣不信任案も視野に入れ、徹底的に糾弾していく。覇権は『甘い懲罰』」と語気を強めた。

 国会議事堂前では連日、『ポプテピピック』を覇権アニメと一方的に決定した政府に反発するデモが開かれ、機動隊が出動するなど、一時物々しい雰囲気となった。デモに参加したある女性は「『ポプテピピック』を推挙するなんて言語道断。日本の民主主義は現政権によって冒とくされている。覇権は『日ノ丸相撲』以外ありえない」と涙ながらに話し、取材の途中で「いや、覇権は『あそびあそばせ』」と割り込んできた別の女性と乱闘に発展する一幕もあった。

 

 日本が『ポプテピピック』を覇権アニメとしたことについて、諸外国も敏感に反応を見せた。北朝鮮は国営メディアを通じて、「日本がかくのごときクソアニメに、栄光と威厳で祝福されるべき覇権の栄冠を与え、神聖なるアニメーションという芸術を貶める愚挙を続けるのならば、わが国は天を割り地を揺るがす正義の(いかづち)をもって竹書房をこの地上から永久に消滅させ、ついでにソウルも火の海にする」と表明した。

 この恫喝ともとれる北朝鮮の発表を受け、防衛相は26日、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、自衛隊によるミサイル迎撃を可能とする破壊措置命令を出した。複数の防衛省関係者が明らかにした。

 自衛隊は命令を受け、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊を竹書房本社ビルの屋上に展開した。

 ところが、29日に防衛相が地元の後援会の挨拶で「あんなもん(竹書房)守る価値ないよ」と発言したことが問題視され、与党内からも「正論だが失言だ」との声が相次いだ。防衛相は取材に対し、「秘書がやったことになんねーかなー」としながらも、進退について明言は避けた。防衛相の対応からは、ポプテピごときで辞任したくないという考えが透けて見える。

 

 防衛省は28日、韓国海軍の駆逐艦が石川県・能登半島沖の日本海で海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題で、哨戒機と韓国海軍クァンゲト・デワン級駆逐艦との間で当時交わされた、緊迫感に満ちた無線内容の公開に踏み切った。

 

(けたたましいレーダー警告音)

韓国海軍「おこった?」

哨戒機 「おこってないよ」

(再びけたたましいレーダー警告音)

韓国海軍「おこった?」

哨戒機 「おこってないよ」

 

 日韓関係に詳しい専門家によると、日中間ではこうした軍事的に緊張が高まる局面が過去にもしばしば見られたが、日韓で火器管制レーダーの照射という危険行為が起きたことは初めて。

「根底には『ポプテピピック』の覇権選出がある。韓国軍の現場には不満がくすぶっている」と前出の専門家は語る。

 

 また、シリアのイスラム過激派組織ISISは、インターネット上に公開した動画内で「日本が『ポプテピピック』を覇権とすることは、すなわちアッラーへの宣戦布告に他ならない。いますぐ取り下げて『はたらく細胞』を覇権にせよ」と声明を出した。

 政府は「わが国はテロリストとのいかなる交渉にも、また、いかなる内政干渉にも応じない」との立場を崩していないが、「イスラム国の兵士たちの間では今、血小板ちゃんのコスプレが流行している」(外交筋)という情報もあり、血小板ちゃんの熱狂的なファンが多いとされる連立与党からも、「『はたらく細胞』は擬人化の極北であるだけでなく、今年の夏には原作の熱中症をテーマにした回を無料配信するなど、コンテンツとしての社会貢献度も段違い。党の中にも、同作を差し置いた『ポプテピピック』の選出には疑問の声も多い」(連立与党中堅議員)との本音が漏れる。

 

 政府の発表は経済にも影響を与えた。25日の東京株式市場は日経平均株価が急落し、節目の2万円を約1年3カ月ぶりに割り込んだほか、終値も前週末比1010円45銭安の1万9115円74銭と、1年8カ月ぶりの安値水準となった。米国大統領がアニメに夢中になりすぎるあまり予算執行のサインを忘れて米政府機関の一部が閉鎖するなどし、米株式市場が大幅続落した流れを引き継いだ形だが、「それはあくまで引き金にすぎない。日本政府が『ポプテピピック』を覇権に選出したことが、投資家たちにとってはピストルに込められた弾丸となった。それが撃たれてしまった格好だ」と、ある証券経済研究所のシニアマーケットアナリストは足下の市場心理を代弁した。

「『ポプテピピック』の推挙による影響だとしても、政府として態度が揺らぐことがあってはならない。株価と『ポプテピピック』のどちらをとるかと聞かれたら、政府としては『ポプテピピック』と答えるしかない。痛みを伴う改革だ」。財務相は25日の閣議後会見で、大幅に下落した株式市場に対して「仕方がない」という認識を示した。

 

 国連総会で首相が「わが国が覇権として選んだのは『ポプテピピック』」と述べると、各国代表は両手の中指を立てて応じた。

「多数の声優の熱演と怪演、サブカルチャーからの幅広いパロディー、AC部による高速紙芝居で展開されたヘルシェイク矢野、女性声優バージョンよりも原曲のキーに近かった玄田哲章氏の熱唱。アニメはここまで自由に作っていいんだと同作は教えてくれた。日本のアニメに風穴を開けた。よって、これから未来のアニメに与えるであろう影響も鑑みて、わが国は『ポプテピピック』を覇権に推挙する」

 と演説した首相が、最後に、

「それとともに、『星色ガールドロップ』のアニメ化を強く熱望していく所存である」

 としめくくると、各国代表団は打って変わって総立ちとなってスタンディング・オベーションで賞賛した。拍手は3分間続いた。

 

 

 国連総会は最後に、「今年も素晴らしいアニメと感動の数々をありがとう」と、すべてのアニメ制作関係者に感謝する声明を全会一致で採択した。国連事務総長は「アニメを制作する環境は年々厳しくなっているが、来年もまた笑いと涙、そして驚きをもたらしてくれる素敵なアニメとの出会いを期待したい。そのためなら国連はいかなる助力も惜しまない」と結んだ。






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