各国首脳、ブースター接種でアニメへの情熱にもブースターか
社会現象を巻き起こした『新世紀エヴァンゲリオン』のリビルド(再構築)となる新劇場版4部作の完結編『劇場版シン・エヴァンゲリオン:||』が公開され、すべてのチルドレンが25年越しに卒業し、庵野監督ともどもエヴァの呪縛から解き放たれたメモリアルイヤーとなった2021年は、主戦場のテレビにおいても話題作がひしめき合う群雄割拠の1年でもあった。
2020年から続くコロナ禍で社会が混沌とするなか、各国首脳が悪びれもせずことしの覇権アニメを熱く語るニューヨーク国連本部で開かれた国連総会も、また混沌の様相を呈した。
ドイツ首相、推挙は『ウマ娘』自身の引退に重ね
「大好きなアニメの第二期には、9割の喜びと1割の不安がないまぜになっています。二期で外れ馬券を掴まされたアニメは少なくない」
登壇したドイツ首相に各国の代表らが頷いた。ドイツ首相の言葉にPTSDを発症した南アフリカ共和国大統領が救急搬送される騒ぎもあった。ロイター通信によると、未だに『みなみけ~おかわり~』のダメージから立ち直れていなかったものと思われる。
「2021年は、2018年アニメの二期が目立った年でした。TVアニメの制作が放送日の2~3年前からスタートすることを踏まえれば、私たちが一期を楽しんでいる頃には、すでにスタッフが二期の制作に取り掛かっていたと考えると、感慨深いものがあります。なかでも『ウマ娘 プリティーダービー』は、本家となるアプリより先にアニメが放送されたということでネタにされることも多々ありましたが、作画と演出と脚本と演技、これらアニメのクオリティを支える基本的な要素がしっかり作りこまれていて、競走馬の美少女化というどうあがいてもイロモノにしかならない同作を由緒正しい熱血スポ根アニメに昇華させていました。あまりに素晴らしいアニメでした。だからこそ、私には1割の不安があったのです。二期はこの一期を超えられるのか、と。しかも制作スタジオが一期で実績を積んだP.A.WORKSからスタジオKAIに交代。もしヒトラーがタイムスリップで帰ってきても気にならないくらい心配でした」
これに国連総会会議場は爆笑の渦に包まれた。
「けれど、『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』は私のそんな干し草よりも軽い不安を一陣の風のように吹き飛ばしてくれました。さらに洗練されたアクション、さらにテンポよく繰り広げられる掛け合い。栄光と挫折を繰り返したトウカイテイオーの、笑いと涙、そして魂を揺さぶる物語。
すべての台詞に元ネタがあるといっても過言ではないほどの高密度な情報量が私を吞み込みました。3話でスぺちゃんの頭にケーキが乗っていたのは元ネタとなった年の阪神大賞典の開催が武豊騎手の誕生日の3月15日だったからで、しかもゴルシのとなりには実際のゴールドシップが大変懐いていた今浪隆利厩務員と思しき御仁が立っているという詰め込み具合で、そんなの言われなければわからないネタの宝庫でした。
そして、もはやスズカが生きているだけでうれしい。たとえ出番の99%が画面越しでもスズカが全力で走れる世界が見られるだけで私の胸は幸福に満たされます。
なにより、トウカイテイオーの涙です。あんなに澄んだ涙を見たことがありません。こんな健気ないい子を泣かせたり、ナイスネイチャをあんなに持ち上げといて菊花賞で4着に沈ませたり、ようやくライバルのテイオーと戦えるというときに今度はメジロマックイーンを故障させたり、原作者には人間の心がないのかと憤りましたが、原作者は史実だったというどうしようもない現実にゲシュタポを復活させようとも思いました。“運命のいじわる~”っていじわるってレベルじゃねーぞ。
けれども、彼女たちは挫けず、あるいは挫けても仲間に支えられながらただひらすら戦い続けます。それは走るという意味だけではありません。人間は誰しもが持って生まれた天命と戦う義務を負っています。彼女たちはその義務を全うしました。その先には権利があります。自分の宿命から逃げずに立ち向かった者だけが見ることのできる光景。それを目にする権利です。どうか世界中の人々に、彼女たちの見た光景がどんなものだったか確かめてもらいたい。
二期そのものへの不安、制作スタジオが変わったことへの不安を、トウカイテイオーの走りのごとくに振り切ってくれた『ウマ娘二期』こそが、真の覇゛権アニメです」
ルーマニア大統領 Y談おじさんに遭遇か
「吸血鬼はいつの世も創作のネタ元だ。『吸血鬼すぐ死ぬ』では吸血鬼が主人公だと聞いて、私はてっきりアーカードの旦那のようなすっげえ強い不死者が大暴れすると期待していたが、ドラルクくんは開始40秒で死んでいたよ」
ルーマニア大統領に英国首相は笑みを隠せない。英国首相はOVA『HELLSING』のエンディングでV2ロケットがロンドンの観光名所を次々爆破していく様子に貴族院議長ともども爆笑したことで知られる。
「われわれがアニメを観るのはさまざまな理由がある。穏やかな気持ちになりたいから。現実を忘れたいから。尊死したいから。どれも正しい理由だ。私は“笑い”が欲しくてアニメを観る。『吸血鬼すぐ死ぬ』はまさに24分間の笑いを私に提供してくれた。さながら『銀魂』の流れを汲むハイテンション/ハイテンポコメディは、まさに予測不可能回避不可能の怒濤の展開で、腸捻転で救急車を呼んだことも一度や二度ではない。あまりにすぐ死ぬので、視聴を続けるうちにOPのステップで死にやしないかと心配になるほどだった。まだ観てない人においては、とにかく2話までは観て欲しいと強調しておきたい。むろん1話も十分に面白いが、本領発揮するのは2話からだ。うちの首相のように1話切りすることなく、ぜひ2話まで視聴して判断してもらいたい。あと、秋田書店はこわい。大統領おぼえた」
さらにルーマニア大統領は続けた。
「女性の蒸れた腋の下が好きだ。汗で蒸れて湯気がホカホカ見えそうな腋に顔をうずめて深呼吸したい。腋の下の匂いを嗅がれて羞恥に染まる女性の反応をうかがいながら舌を這わせたい。しょっぱさと酸味とワキガの風味を味わいたい。あと、3日ほど入浴も着替えも禁じて、“ばっかじゃないの!?”と罵られたい。そのあと“歯磨きはしてもいいのよね?”と訊かれ、なんだかんだ言って付き合ってくれる彼女の3日3晩熟成された体臭を胸いっぱいに堪能したい。そして自分の濃縮された発酵臭を嗅がれる恥ずかしさに耐えている彼女の顔が見たい。やはり恥じらいの表情こそが究極のエロスである」
ルーマニア大統領の目に迷いはなかった。AP通信によれば、大統領はルーマニアを出発する直前にY談おじさんの催眠術にかけられていたという。現在ルーマニアでは国民が猥談でしか会話できない状況が続いている。現地を視察したアムネスティ・インターナショナルは「意外と平和そうだったからほっといた」とし、事態の対処に当たっている国連人権高等弁務官も「私はヤンデレヒロインが好きなんじゃなくて、ヤンデレヒロインに迫られて恐怖したり困惑したりする主人公を見るのが好きなんだ」と性癖を開示するに至った。専門家は、この猥談パンデミックはしばらく続くだろうと、誰でも言えそうな見解を示した。
ウクライナ ガス代も払わずキャンプ
若きウクライナ大統領がことしの覇権アニメに選んだのは、『ゆるキャン△ SEASON2』だった。
「2018年に私たちをソロキャンパーにした至高のアニメ『ゆるキャン△』が、3年の時を経て帰ってきてくれた。冬独特の澄んだ凍てつくような空気感、なでしことリンちゃんたちのゆるやかな関係。3年という時間など感じさせなかった。一期と二期の継ぎ目を感じさせない画面の雰囲気作りと声優陣の演技に感動を禁じえなかった。
個人的なMVPは、アヤちゃんこと土岐綾乃ちゃんだ。まさに原作と同じ声だった。『響け!ユーフォニアム』のときもそうだったが演技が自然すぎて本当に身近にいる女の子感がやばい。
同作は冬を舞台としたアニメだが、このアニメを観ていると、むしろ心が温かくなり、氷が解けていくような安らぎを覚える。いわば『ゆるキャン△』は、観る暖炉なのだ。この心温まる、それでいて押しつけがましくない温もりが多くの人々を癒すことを切に願っている。他国を侵略することしか知らないロシア大統領にも彼女らのゆるさを知ってもらいたいものだ」
これにアルメニアやベラルーシといった旧ソ連構成国の代表が頷きかけて目をそらした。そのとき、固い音が何度も会議場に響いた。ロシア大統領がウクライナ大統領の演説を妨害しようと靴を脱いでテーブルに叩きつけていた。これにウクライナ大統領は「誰か今のロシア語を翻訳してくれないか」と発言して総会の笑いを誘った。
「そして別番組ではあるが、実写ドラマ版の『ゆるキャン△』も推しておきたい。とくに大垣。大垣が大垣してた。とにかく大垣が大垣だった。大垣の擬人化だった。あまりに再現度が高すぎて、実写版を観たあとアニメを観ると大垣が出るたびに笑ってしまう体になった。あんな前髪パッツンに黒縁メガネという出で立ちを120%こなしてみせた女優魂に最大限の敬意と称賛を送りたい。
まあ、ホロライブのぺこーらの挨拶を“アーモンドアーモンド”だと本気で思い込んでいたロシア大統領がこのアニメのよさを理解するには、まず不老不死を手に入れるところから始めなければならないだろうが」
としめくくった。
ロシア 宇宙大国のプライド
「全人類が不変の常識として知っていることとは思うが、世界で初めて有人宇宙飛行を成功させたのは偉大なるソヴィエトだ。そのソヴィエトの正当な後継者たるロシアの大統領として、2021年の覇権アニメに『月とライカと吸血姫』を推挙しない選択肢はない」
元KGBのロシア大統領の口調は有無を言わさなかった。シベリアの氷河のような瞳の奥には、かつての超大国だったプライドがツァーリボンバのように燃え盛っていた。
「『月とライカと吸血姫』は、地球によく似た星でよく似た歴史を歩んだ東西の超大国が宇宙開発競争にしのぎを削っている世界の物語だ。わがロシアの前身たるソ連をモチーフとしたツィルニトラ共和国連邦が、人類初の有人飛行に先がけ、犬のテスト飛行に成功するが、さらなるテストのため、犬よりも詳細に報告でき、かつ失敗しても人身事故にはならない、人でありながら人とは認められていない吸血鬼を試作ロケットに乗せることを決める。成功したとしても人ではないため、記録には残らない。失敗すればマニュアルに追記する血となるだけ。命を捧げるのに決して名誉のない任務に、同志イリナ・ルミネスクが挑む。そんな彼女のお目付け役に任命されたのが主人公のレフだ。レフは人間に心を閉ざしているイリナに人として寄り添い、ともに訓練に汗を流し、ともに感情をぶつけあい、ともに成長していく」
ロシア大統領は、イリナの声優に生きるレジェンド・林原めぐみ氏がキャスティングされたことにも触れた。
「イリナは単なるツンデレではない。彼女はツィルニトラに目の前で両親を焼き殺され、村を離れて人間の世界に連れてこられてからは犬以下のモノ扱いされてきて、なおそのツィルニトラのために人身御供同然のテストパイロットに志願し、反抗的どころか模範的な姿勢で訓練に取り組んでいるという非常に複雑な過去を持っている。その性格はツンデレという記号で表せるものではない。
それでいて、どこまでも献身的なレフを前に、もう一度信じてみようとイリナの心が揺れ動く。これほど微妙な機微を表現できるのは、キャラの魂を自身に憑依させて演じることからイタコ声優とまで呼ばれる林原めぐみ姉貴しかいない。それは2話の水泳の訓練で“そんなわけないでしょ”というつぶやきで確信した。大御所声優を使うと、大御所使えばいいというもんじゃないなどと吹聴する不届き者が必ず現れるが、イリナは林原めぐみ姉貴以外にはありえない。あと林原めぐみのツンデレは体にいい。そのうち寿命が延びるようになるだろう。
宇宙開発競争時代の遺風を感じさせてくれるのもこのアニメの魅力だ。私はZIL-151トラックが好きだ。炭酸水の自販機もよく学生時代に友人らと利用したものだ。世界に冠たる超大国の時代を思い出させてくれると同時に、ロシアはこれまでも、これからも偉大であり続ける真の先進国であることを再確認させてくれた。
そして、サガレヴィッチ副長官だけは許さない。わが娘イリナへの無法の数々は必ず流血によって報いを受けることになるだろう。国による不法行為も同様だ。ウクライナはすみやかにわが国へガス代を払うべきだ」
これにはウクライナ大統領も苦笑い。ロシアのガスパイプラインの一部はウクライナを経由している。ウクライナはソ連時代から国ぐるみでこのパイプラインからガスを無断で抜き取ってきた。またロシアから正規に購入しても支払いを滞納することが現在に至るまで常態化している。
「ともあれ、12話において漢気を見せたレフに私の永久凍土が解けたことも事実だ。レフ・レプス少佐こそイリナを託すにふさわしい。願わくは、イリナとレフの二人が、オーナック連合王国に先んじて月へとたどり着かんことを。そして、オーナックなどこうだ」
ロシア大統領は隠し持っていたチーズバーガーを高く掲げると丸かじりしてみせた。アフガニスタン代表やイラン代表らから拍手が起きた。
「国家の政治と陰謀の渦中にあっても、人が人を想う気持ちは誰にも止められない。その厳然たる事実をあますことなく描いた『月とライカと吸血姫』は、ノエル団長のビジュアルを見てグランブルーファンタジーのキャラだと本気で勘違いしていたウクライナ大統領では理解の及ばない境地に到達している。偉大なるロシアと世界に栄光を。ありがとう」
中国、絶対王政への回帰なるか
「まず、2020年から続くパンデミックのなかにあって、2021年もアニメ豊作の年にしてくれた制作陣に感謝する。われわれは資本主義をさらに高度に進化させた共産主義世界を目指す者として、順位をつけることをよしとしない。しかし、あえて本年の1位を決めるとするなら、それは『王様ランキング』であると断言する」
会議場には少なからず衝撃が走った。『王様ランキング』の世界では、世界中の王様が強さや国の豊かさでランク付けされており、王様ランキング1位を目指すことが王の責務となっている。純然たる階級社会の世界観は、建前とはいえ社会主義を標榜する中国とは相性が悪いと思われた。
「主人公である第一王子ボッジは巨人の子なのに体は小さく非力、しかも耳も聞こえずしゃべることもできない。たしかに、次期国王としては第二王子のダイダのほうがふさわしい」としながらも、「しかし、なぜ王様ランキング7位、強さだけなら1位のボッス王の息子であるボッジが短剣すら持てないほど非力なのか。この時点で強烈なフックとなって引き込まれる。なにか理由があるのか。そう考えているうちに、ボッジはダイダと剣の稽古をすることになる。剣の才能に恵まれたダイダに勝てるはずもない、そう思えたが、ボッジには類まれな別の才能があることが明らかになる。この高揚感の持っていき方は驚嘆に値する。カゲと一緒に、そうだ、この子は本当はすごいんだぞ、と登場人物たちに自慢したくなる。
前後してしまったが、このカゲがボッジと友達になる経緯が原作よりもさらに丁寧に描かれ、カゲがボッジと一蓮托生の仲になる理由がさらに納得のいく構成となっている。ボッジとカゲの友情のみならず、原作を上手くほぐして編み直す脚本はまさに匠の技だ。脚色ランキング第1位の称号を与えたい。
1話はさながら劇場版のようなクオリティだった。1話で引き込んで次週も必ず見せるという決意が画面の端々から感じられた。カメラがPANしながらキャラクターが動いていると劇場版のように見える。
そして2話はさらに上回り、3話はその上をいく。話数を重ねるごとに神回がインフレしていき、物語の行く末が気になってしょうがない。
ボッジとカゲのコンピはいうまでもなく、キャラがどれも魅力的で一筋縄ではいかない。嫌味ではあるが強くなることに一切の妥協をせず闇堕ちもしないダイダ。実はいい奴だったベビン。株が乱高下するドーマス。愛おしいヒリング。諸悪の根源なのか哀しき悪役なのか判断のつかない鏡。
第2クールの放送も決まり、ますます目が離せない『王様ランキング』こそ、2021アニメランキング1位であることはいうまでもない」
中国国家主席が最後に、
「もし現実世界で各国の首脳をランキングづけするとしたなら、わが中国が1位を獲得するのは歴然たる事実であることをここに確認しておきたい」
とくくると、台湾代表が「お前はこのアニメでなにを学んだんだ」と野次を飛ばす一幕もあった。
どけ!俺は大統領だぞ! タリバン政権は『呪術廻戦』
電撃的な侵攻でアフガン政府を崩壊させ、政権奪取を果たした武装勢力タリバンは、国連総会にアフガニスタン・イスラム首長国代表として出席し、2021年の覇権アニメに『呪術廻戦』を選出した。同アニメは2020年10月から放送開始したが、第2クールは2021年3月まで放送していた。
「まず『呪術』はそれ自体が覇権コンテンツであることを世界は理解すべき」と最高指導者。
「一介の少年がある日、世界を揺るがすほどの力を手に入れ、否応なく戦いの日々に巻き込まれる。プロット自体は王道だ。だが、主人公の虎杖をはじめ、同期の伏黒と釘崎、自称最強でほんとに最強の五条、冷静なように見えて熱いななみん、なにより虎杖に取り憑いた特級呪物の両面宿儺、いずれもがおそろしくアクが強い。
とくに宿儺。こいつの人格破綻ぶりにはアルカイダもびっくりだ。『ヴェノム』のように虎杖と宿儺がなんだかんだ悪態の応酬をしながらもいいコンビとなって呪霊と戦う、そう思っていた時期が私にもありました」
第2クールが放送されたことしの覇権に選んだ理由については、
「交流戦により、京都校の個性的な面々が登場し、ストーリーも本格的に動き始めたことが大きい。オカルト漫画とは思えないほど自由なキャラ造形には驚かされる。なんだあのロボット。そしてブラザー。私もタッパとケツのでかい女が好きです。エリザベス・デビッキとか」
と性癖を暴露した。アフガニスタンにもY談おじさんの出現が懸念される。
オランダ 飾り窓に翻弄か 選出は『「鬼滅の刃」遊郭編』
「『鬼滅の刃』は今や押しも押されぬ世界的コンテンツです。原作が終了し、ポスト鬼滅ともいわれる『呪術廻戦』が台頭してきてもなお、その人気は衰えることを知りません。なぜなら、単純に面白いからです」
『鬼滅の刃』は、原作コミックスの第1巻から第7巻までを映像化した『竈門炭治郎 立志編』2019年4月から9月にが放送され、続編となる『無限列車編』は国内興行収入が約404.3億円、全世界の興行収入は5億300万ドルを記録し、2020年の年間興行収入第1位の座に輝いた。
『遊郭編』は、その『無限列車編』の続編。上弦の鬼が潜む遊郭へと赴く炭治郎らかまぼこ隊と音柱・宇髄天元の死闘を描く。放送に先立って劇場版『無限列車編』をテレビ放送版に全7話で再編集したテレビアニメ『「鬼滅の刃」無限列車編』が放送され、劇場版を観ていない視聴者にも配慮を見せた。
「遊郭。それは華やかな世界であると同時に、性産業に身を落とさざるをえなかった女性たちからの搾取で成り立っている悲惨な世界でもあります。『遊郭編』で戦う上弦の鬼・堕姫と伎夫太郎の兄妹は、そうした矛盾をはらんだ世界で泥水をすすって生きてきた弱者であり、被害者です。しかし二人はふとしたことから加害者になってしまいます。虐待された子供が親になるとわが子に虐待するように、被害者はそれゆえに加害者になることもある。その負の連鎖が『鬼滅』のテーマでもありますが、この兄妹はそのテーマを色濃く反映したキャラでもあり、炭治郎と禰豆子のありえたかもしれない鏡でもあるのです。
なにより、堕姫の声優があの沢城みゆき氏なのだから期待せざるをえない。今からラストの伎夫太郎に背負われた堕姫の慟哭が待ち遠しい。そして二人に送られる炭治郎の、少年漫画の主人公としては異常ともいえるほどの優しく残酷な叫びも早く聞きたい。
まだまだ『鬼滅』旋風は終わっていない。無駄に脳を増やした男を倒すまで『鬼滅』のアニメは止まらない。覇権アニメは『鬼滅』に決まりだ」
日本 選出はまさかのストップモーションアニメ
「わが国は、本年度の覇権アニメ選出におきまして、『PUI PUI モルカー』を推挙することで一致いたしました。
『モルカー』は羊毛フェルトで作られた、モルモットのようなかわいい自動車「モルカー」が所狭しと走り回るストップモーションアニメです。アニメとあるのですからアニメです。監督のお姉さんなどの実写キャラも出演したりしますが、アニメです。
台詞がないにもかかわらず感情がダイレクトに伝わってくるサイレント映画のような作りですが、言葉がないからこそ、言語の壁を越えてメッセージを伝えてきます。
救急車のモルカーが患者を一刻も早く病院へ運びたいのに渋滞に巻き込まれて涙を流しているシーンでは、なぜか私も泣いていました。
銀行強盗にモルカーがジャックされてしまう話では、横断歩行を渡っていた歩行者がいるにもかかわらず強引に走らされ、歩行者を危険にさらし、モルカーとしての尊厳を踏みにじられたようで、涙が止まりませんでした。そして勲章をもらっても自慢することなく、本来のご主人を乗せて走ることのほうがよほど嬉しいさまに、夕陽が滲んで見えました。
一方で、空飛ぶサメ戦艦が出てきたり、ヘリの墜落シーンが一瞬スローモーションになってローターの回転する音だけが残るなど、カオスなストーリーと映画的な演出も目立っていました。わが国の官房長官は無類のサメ映画好きなのですが、官房長官はその話数を“下手なサメ映画よりよほど出来たサメ映画”と絶賛していました。
モルカーの世界は毎回逮捕者が出るほど治安の悪化が懸念されていますが、現実の私たちがモルカーに見放されるような人間にならないことを、一人の人間として誓いたい、こう思うものであります」
各国代表の演説がすべて終了し、会議場はざわめきに包まれた。どの国も『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』を推挙しなかったためだ。関係筋によると、「同作は間違いなく名作だ。どこの国もほかの国が推戴すると思っていた」ため、被るのを恐れて推挙を見送り、いわゆるアフロ田中現象が起きていたものと思われる。特別に国連事務総長が急遽登壇した。
「『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』は小説投稿サイト『小説家になろう』において長期間累計一位の座にいた、まさにネット小説の王者です。『小説家になろう』にはテンプレートという概念があります。異世界転生、ナーロッパ、魔法、チート、ハーレム。これらのテンプレを激しく嫌う人々も多い。テンプレ要素があるだけで敬遠する層もいるでしょう。
しかし、テンプレという食材がダメなのではなく、すべては調理をするシェフの腕次第です。面白く書けば面白くなる、テンプレの有無は関係ない。それを『無職転生』は累計1位という形でこの上なく証明していました。
ゆえに同作のアニメ化は私の悲願でもありました。しかし、いざアニメ化が発表された際、私の心に影が差したのも確かです。クオリティを心配していたのではありません。正直言うとアニメ化が遅きに失したという感は否めなかった。『この素晴らしい世界に祝福を!』や『Re:ゼロから始める異世界生活』など、異世界テンプレを逆手にとった作品が先にアニメ化された現状では、テンプレを王道で極めた無職転生が旬を逃したのではないかと懸念していたのです」
だが国連事務総長は顔を上げた。
「私が間違いだった。シェイクスピアが400年経っても名作であるように、本当に素晴らしい作品には遅すぎるということはないのです。
かっこいいものはかっこよく、かわいいものはかわいく、美しいものは美しく、とにかく丁寧に。まさにアニメ界の大河ドラマとでもいうべきクオリティで描かれるルーデウス・グレイラットの第二の人生がそこで待っていました。
原作あってのアニメであるとは重々承知ですが、文字で紡がれていた『無職転生』を、アニメ版はさらに一段上の芸術へと押し上げることに成功していました。まさか居合い抜きで星虹が見られるなど思ってもいなかった。小説版をウェブで読んでいたあの初見のころのワクワクと興奮までも再現してくれた。アニメスタッフには感謝しかない。
杉田智和氏の貢献も大きい。彼の独特な声と語り口のおかげで、姪の裸の写真でブリッヂオナニーするクズニートだった主人公のキモさとクズさが愛すべきバカへと昇華されています。『無職転生』がアニメ化するこの時代に杉田氏が声優という職業に就いてくれていたことを神に感謝したい。
あと、私もディズィー使いなので、ディズィーの風評被害だけはなんとしても食い止めたい」
最後に事務総長は国連総会をこう総括した。
「未だに新型コロナウイルスの猛威はとどまることを知らず、それどころか新たな変異株までが牙をむいています。しかし、われわれはウイルスには負けない。ウイルスごときではわれわれがアニメを楽しむことを邪魔することはできない。
私は新型コロナウイルスに宣言する。2022年も人類はさらに面白い神アニメを作り、われわれは毎週テレビの前で、PCの前で、スマホで、それらを楽しむだろう。お前たちではわれわれから笑顔を奪うことはできない。われわれにはアニメがある。どれだけお前が変異を遂げて悪あがきをしようとも、世界中の人間がアニメを観ているかぎり、おまえが勝利を収めることはできないと。そう、人類には常に“来年”があるのだ。
だから私はこの場にいる各国の代表と、中継を見ている人々に言うのだ。
――よい新年を」