光が俺を飲み込んで揺さぶる。
NT―D。ニュータイプ・ドライブを通して俺と完全に同調した《ユニコーン》がサイコミュを逆流させて、機体のダメージをフィードバックさせた。
全身を形容しがたい衝撃が貫く。
コックピット内に火花が散り、リニア・シートの上で俺は悶える。
コロニー・レーザーの光に焼かれる痛みを味わいながら、それでも俺の頭の片隅は冷静だった。《ユニコーン》のサイコフレームに思意を焼き付かせ、サイコフィールドを展開する手助けをしてくれている人々。――俺をバナージ・リンクスと思って手を貸してくれている彼ら彼女らへの申し訳なさの思いで。
ここまで言ってしまえば、分かるだろう。俺は本物のバナージ・リンクスでは無い。
彼と言う人間に乗り移ってしまった紛い物。或いは偽物。そんな存在だった。
異世界転生、或いはその類似。そんなサブ・カルチャーが前世にはあった。そして、偶然にもその対象であった俺は転生をする事になった。
転生の際に希望を聞かれた俺は、モビルスーツに乗りたいと、そう答えた。その結果がコレだった。
バナージ・リンクスと言う主人公に乗り移り、あるべき彼の未来を奪い取ってしまった。さらに、関わってきた人々全てを騙してしまっている。
前世では醜い容姿によって誰からも虐げられ、いじめられっ子だった俺には、憑依という物は喜びよりも苦しみが勝っていた。
関わる人間の死を知っていながらそれを妨げられず、愛情を与えてくれる憑依されたバナージ・リンクスの親を騙し、箱の流出を阻止しようとするミネバ・ラオ・ザビを欺いた。
本来、バナージ・リンクスに与えられた筈の全てを奪ってしまった俺は罪悪感で死にそうになりながらこのラプラス戦役を駆け抜けた。
感応波によって互いの全てを見たマリーダ・クルス。彼女にはそれを見られてしまった。が、彼女はそれに何も言う事はなかった。ただ、何も言わずネェル・アーガマ内で抱き締めてくれた。それすらも俺は罪悪感に駆られていたのだが。
「――ォォオオオッッッ!」
永遠とも思えるコロニー・レーザーの光。烈白の気合いと共に俺は《ユニコーン》のサイコフレームと完全に同調する。
それでも。いやだからこそ、俺はこのコロニー・レーザーによる攻撃を絶対に防がなければならなかった。これまでの全てはシナリオ通りに進んでいる。ネオ・ジオングとの戦闘も、フロンタルに空のうつわと断じられながらも、シナリオ通りに人の可能性を伝えそれを撃破した。
贋作は贋作なりに後ろめたさを乗り越えてここまで来た。ならば、ラプラス宣言が完了するまで、宇世紀に希望をもたらすまで俺は”バナージ・リンクス”と言う役目を放棄する訳にはいかなかった。
そして、極大まで拡張したサイコミュが俺の感応波を増幅させ虹色の光へと辿り着いた。
真のニュータイプへの覚醒、そして《ユニコーン》との融合。その結果を知っている俺は、それを甘んじて受け入れようと光の中を進み―その手を後ろに引かれた。
後ろを振り返った俺の瞳に飛び込んできたのは一人の少年の姿だった。
俺がよく知る、そして身命を賭して謝罪すべき”彼”は俺が進んでいた方向とは別の方へと指を指す。
何故、と問いかけた俺に”彼”は答える。
――今まで、俺の代わりにありがとう。次こそ君の人生を。
その答えに俺は首を振る。そして、真に謝るべきは自分であると返答した。
が、”彼”はそれに緩やかに微笑しながら首を振ると、何かに指示をするように腕を動かした。
そして俺は、突如として傍に現れた一角の獣に首根っこを咥えられ”彼”の示した方向へと連れ去られる。
そうして、俺は虹の彼方へとその存在を連れ去れて行く。”彼”はそれを微笑ましく見ると、同じ様に、しかしながら別の方向への彼方へと飛び去っていく。
それが、俺の見た最後の光景だった――。
喧騒が耳に飛び込む。ふと気がついた俺は見慣れない街中に立っていた。
先程まで《ユニコーン》のコックピットに居た筈であるのにこのような場所に居る。
困惑の極みにある俺はキョロキョロと周囲を見渡し、そしてある一点でその視線を止めた。
俺が見た物。それは店の硝子だった。よく磨かれたそれは人の顔を反射させる程だった。そう、あたかも鏡の如く。
そこに写っていたのは勿論、俺の顔だ。しかし、それは十六年見馴れたものではなかった。それよりももっと以前。バナージ・リンクスに憑依するよりも以前の顔だった。
それを認識すると同時、トラウマが脳裏を過り溜まらず蹲ってしまう。
そうして、視線を下げた俺の目に飛び込んできたのは新聞だった。
ヨレヨレになったそれにはアルディギアと戦王領域との戦争の事が描かれている。
トラウマと意味不明の地名や場所。最早、俺の処理能力は限界だった。
そして、俺は声に成らぬ叫び声を上げた。
絃神島内、要石の部屋。
そこで二組の男女が戦っていた。
「疾く在れきやがれ、五番目の眷獣“
雷光が弾け、金属が擦れる音が響く。
”獅子の黄金”による雷光と、“雪霞狼”による刺突。その同時攻撃。
しかしながら、人工人間たるアスタルテの操る”薔薇の指先”が雷光をかき消し“雪霞狼”をも弾き返す。
その衝撃によって少女―姫柊雪菜は吹き飛び、少年―暁古城へと激突した。
「……ッ!」
「今です!アスタルテ止めを!!」
「
迫り来る巨大な拳。衝撃によって身動きが一瞬とれなくなった二人には回避する術はない。
吸血鬼、しかも真祖たる暁にはたいした事にはならない。しかし、人間である姫姫には致命となる一撃。
迫り来るそれに反射的に目をつぶる二人。
そうして、それが命中―する事なく、代わりに鋼の悲鳴を響かせた。
目を開ける二人、そこに居たのは白い人形のナニカだった。
その白い人形―《ユニコーン》は拳をシールドで受け止めていたかと思うと、いきなり“薔薇の指先”の腹を蹴飛ばして距離をとった。
「――征くぞ、ユニコーン!」
人形から響く声。その声に呼応するように《ユニコーン》から光が漏れた。
装甲下のサイコフレームが延伸して、露出したサイコフレームが赤い輝きを放つ。そして、口元のマスクが開き本来の顔を現す。そして、一角の獣を思わせるブレード・アンテナが左右に開いてVの字となる。それは紛う事なきガンダムの姿であった。
その姿に宣教師は悲鳴にも似た声を上げた。
「ば、馬鹿な…。何故、このような場所にアルディギアの守護神が!!」
しかし、《ユニコーン》はそれに答える事なく神速で“薔薇の指先”へと接近。その体に掌を当てた。
瞬間、《ユニコーン》から発せられた
そして次の瞬間、固まる宣教師の背後に移動すると手刀落とす。
崩れ落ちる宣教師。状況は完全に終了していた。
ゆっくりと光が収まり、元の一角獣の姿に戻る《ユニコーン》。その背に姫柊が声をかけた。
「貴方は一体……何が目的で」
「……分からない。俺もそれを探しているんだ」
そう言って離脱して行く《ユニコーン》。その姿を二人は唖然として見送った。
これはそんな彼の、違う世界で可能性を求める物語――