ちょっとしたリハビリなので短めです。
ニュートさんのキャラクターがつかめてないです。
「・・・・・・トム、あのね。ルツのことなんだけど。あの子、その、養子にでることになってね。ここには戻らないの。」
その時、リドルはいつも通り、自室にてベッドに座り本を読んでいた。彼は、部屋に入って来た職員の告げた言葉に目を真ん丸にした。
皮肉にも、その顔は職員の女が見てきた中で一番に年相応と言えるほど幼かった。
職員はそれだけを告げると、そそくさと逃げるように部屋を去っていく。
荷物に関しては、すぐにまとめて先方に送るからとだけ添えて。
出て言った職員の背などに目もくれずにリドルは膝の上に置いた古びた手記に目を向けた。
「嘘だ。」
口から漏れ出た声は、ひどく掠れていて、そうして本人は気づいていなくてもひどく弱々しく部屋に響いた。
リドルはその手記を、ルツから預かった父の形見を、強く抱きしめた。
「嘘だ。」
そんなこと言ったって、どうしたと問うてくれるものはいない。
リドルにルツのことが告げられてから少しして、部屋からルツの私物であったものは知らない間に消えていた。
職員に話を聞くと、リドルが庭に出ている間にやって来た保護者の代理人であるという存在がそそくさと荷造りして持って行ったらしい。
それを聞いて、リドルは急いで部屋に戻った。
確かに自室からはあからさまに物が減っている。クローゼットの中を開けると、並んでいたはずの書籍類も消えていた。
リドルは、それに飛びつく様にベッドへと駆け寄った。そうして、彼の秘密の隠し場所である壁に手をかけた。
「・・・・よかった。」
その声は、心の底から安堵に満ちていた。
狭い隠し場所から、リドルは恐る恐る、目当てのものを取り出した。
古びた、本。
リドルは、それを幼いころからの友人のように抱きしめた。
「分かってなかったんだ、そうだ、だから、大丈夫だ。」
そうだ、ルツの荷物の中で一番に大事なもの。これだけが、彼女に取って唯一のもの。
「僕は、見捨てられてなんて、ないんだ・・・・・!」
そうだ、大丈夫。これを置いていったなら、きっとルツは自分を見捨てて何ていない。
だって、これはルツにとって一番に大事なものだから。
信じて、預けられたものだから。
リドルは、本を抱きしめてまるで幼子のように丸まった。
まるで、院の中に囁かれる、ひそひそとした声から耳を塞ぐように。
ルツが養子、正確には後見人がつき、孤児院を出ると知らされたのは丁度、夏休みがもうすぐ始まるという夏の初めの事だった。
もちろん、リドルはそんなことがあり得ないと断じていた。
聞いたところによると、ルツは中々有名な家の出であるらしい。ならば、彼女に元より身元を引き受ける様な存在いるならばここに来る前にそうなっていたはずだ。
(・・・・何かに巻き込まれてるんだ。)
リドルはそうだと思った、そうに違いないと思った。周りから聞こえて来るひそひそ声だって気にならなかった。
そんなこと、ありはしないとおもっていたから。
リドルはじっと彼女の手紙を待った。両面鏡に話しかけた。けれど、返事は返ってこなかった。
そうして、彼女がいつだって帰って来る夏の始まり。
元より、気温の低い英国に少しの暑さがやって来てもルツは帰っては来なかった。
がちゃん!
何かが壊れる音がする。
がたん!
誰かが階段から転げ落ちた。
僕のがない!
誰かの宝物が無くなった。
リドルには興味がないことだ。
僕を嫌な目で見た大人にガラスの破片が降り注いでも。ルツが僕を捨てたんだという虐めっ子も、僕の抱えたルツの宝物を取り上げようとした誰かの宝物も、全部、全部どうだっていい。
(・・・・ルツは、帰って来るんだ。)
リドルはまるで呪文のように心の中で呟いて、本をまるでぬいぐるみの様に抱きしめた。それでも、ルツは帰ってこなかった。
孤児院の中は、まるで刑務所の様にうつうつとしている。誰もが、たった一人の挙動を気にしているし、たった一人の子どもに皆が怯え、支配されていた。
けれど、話題の中心であるはずの少年はその皆の自分への怯えに苛立ち、孤児院の空気は更に悪くなる。
リドルにはそんなことは関係ない。気にも留めない。彼は日がな一日窓から孤児院の玄関を眺めつづけた。帰って来る姉貴分を待ち続けた。
「リドル・・・・」
「・・・・・なんですか?」
この頃は食事を何も言わずに自室に運んできていた、孤児院の職員が珍しくリドルに話しかける。リドルがピリピリとした空気を放つと同時に、職員の女性の後ろから年若い男が顔を出した。
「・・・・あー、こんにちは。」
リドルは珍しく自分を訪ねて来たらしい男を睨み付けた。くしゃくしゃの赤茶の髪に青い瞳。どこか落ち着かないという風体の男だ。青いコートを羽織った彼は、一つのトランクを持っている。どこか、品のある男だった。
リドルは今まで見たことのないタイプの人種にじとりとした視線を向けた。
「リドル、この方は、そのあなたを引き取りたいと言われているんです。」
職員の言葉にリドルの眉間に皺が寄る。男はそれに職員の方に目くばせをすれば、彼女はそそくさとその場を後にした。
「・・・・トム、リドル君だね?」
「僕に何の用?」
猫を被る気分にもならず吐き捨てる様にそう言えば、青年はそっとリドルと視線を合わせる様に屈みこんだ。そうして、ちらりとドアの方を見た後に、青年はそっとコートに手を滑り込ませた。
「何する気だ!」
リドルの警戒に満ちたけたたましい声に、青年はしっと静かにするように口に指を与えてとあるものを取り出した。
「・・・・・杖。」
それは、リドルの庇護すべき彼女がもっていた、彼の憧れの魔法の杖だった。
「あー・・・・大丈夫かい?」
「平気。気にしなくていいよ。」
つんと澄ましたような声を吐きながら、リドルは今まで抱き付いていた男からすっと身を引いた。男はリドルのその様子をあまり気にした様子も無くそうかい、と軽く返した。
「じゃあ、今からこの森の中にはいっていくけど、僕から絶対に離れないようにね?」
「分かってる。」
リドルはそう言いながら、彼の数少ない荷物の入った小さな鞄と、ルツから預かった形見の本を抱え直した。そうして、彼の宝物である銀のペンダントをぎゅっと握りしめた。
リドルは目の前に広がる森と、後ろに広がる片田舎の光景に小さく息を吐いた。
男の名前は、ニュート・スキャマンダーというらしい。唐突にやってきたその男はリドルの親族の使いであると名乗った。
「君の家族から迎えを頼まれているんだ。荷物をまとめて僕について来てほしい。」
ニュートのリドルへの要求はそれだけで特別な言葉など欠片だってない。
「・・・・父親の使いだっていうの?」
「いや、違うんだが。僕も急いで頼まれただけで分からないんだ。ただ、相手のことは保証できるよ。」
リドルの一番の可能性である存在の名前を口にしたがニュートはそれをあっさりと否定した。ただ、リドルの親類だと言う存在に興味が湧いたのも事実だ。
何か魔法を見せてと言えば、彼は簡単に杖を振り、枕を浮かせた。男が魔法使いであることを確信して、リドルは頭をフル回転させる。
今、この男についていけば少なくともこの地獄のような環境から抜け出せる。そうして、魔法使いとのコネクションも作ることができるかもしれない。何よりも。
(・・・あのジジイと連絡が取れるかもしれない。)
リドルの脳裏にはすました顔をした、真っ白な髪と髭、そして、真っ青な瞳の老人の姿が浮かぶ。
あの老人ならば、今の今まで連絡を遣さないルツの行方も知っているかもしれない。
そんな思惑でリドルは男に連れられ、この国の片田舎までやってきた。といっても移動は魔法族の主要な方法だという姿現しというものだそうだが。
リドルはむくむくと湧き上がって来る好奇心を封じ込めて、森の中を歩く。最初は平淡だった道も、奥に行くにつれて大木が目立ち、リドルが通るには一苦労といえる足場になっていく。
そんな中、ニュートは一応はリドルのことを気にはしていても、どうも森の中の植物に関心が向かっているらしくせわしくなキョロキョロしている。
(・・・・信用してよかったんだろうか。)
そう思えるほどに、なんだろうか。ニュートと言う存在へ頼りがいと言うものは感じない。リドルの嫌いなあの老人でさえ、大人として頼るべきところは頼ろうと思わせるのに。
ニュートと言う存在は、大人と言えば大人なのだが子供じみたまっさらな感触を覚える。
それを、それに、リドルはけして認めないが、彼は無意識のうちにルツを重ねてみていた。
どこか、人とずれている様で、確かにそこにいると思わせる存在感。
リドルは少しだけ視線を下に向けてぼんやりと考える。
(・・・・どこにいるんだよ。あいつ。)
考えられるのはそれだけだった。
リドルは、ずっと、ずっと、待っていた。少し前までは、いつも通り帰って来るはずだろうと思っていた。下手をすれば、学校で何かやらかして補習でもさえられているのかもしれないと意地の悪いことを考えた。
けれどいくら待ってもルツはリドルの元に帰ってこなかった。
何かあったのだろうか、もしかしたら学校で何かあったのかもしれない、怪我をしたのかもしれない、病気をしたのかもしれない。
マグルの孤児院だから、知らせられないことがあるのかもしれない。
いく枚も手紙を書いてもフクロウは訪れなかった。幾度も両面鏡に話しかけても返事はなかった。
捨てられたんだよ、あいつ。
まあ、あんな奴と一緒にいるよりほかの家にいた方がましだよ。
くすくすと、嗤う声がする。
煩い、煩い、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!
リドルは、どこからか聞こえて来る、大人の声、子どもの声に耳を塞いだ。
何が分かる!お前たちみたいな、凡人に、特別なリドルとルツの関係など理解が出来るはずがない!
ああ、そうだ。分かるはずがない、分かって何てたまるものか!
リドルはぎゅっとルツから預かった、いつか彼女に返すはずの宝物を抱きしめた。
ルツがリドルを裏切るはずがない。
だって、だって、だって!
(・・・ルツは、ぼくがいないと駄目なんだ。)
ルツ、ルツ、ルツ、みんなに好かれる、黄金の髪に緑の瞳の美しい少女。
優しくて、穏やかな彼女を皆が好いた。けれど、彼女はリドルを選んでくれた。自分が彼女と同じ特別だから。
そうだ、だから、きっと彼女は自分の元に戻ってくる。宝物を、自分は託されたのだから。
そうして、リドルが顔を上げると、そこにニュートの姿はなかった。
茫然とリドルはその場に立ち尽くした。
辺りにはざわざわと何かの騒めく音がする。
リドルは素早く、辺りをぐるりと見回し、自分のいた地点からあまり離れない程度に当たりを探した。
結果としてニュートはおらず、リドルだけは取り残されていることに気づいた。
(・・・・騙された?)
そんなことが思い浮かんだが、今はそんな時ではない。
今、リドルがすべきなのはここで生き残ることだ。
深い森で迷子になったらあまりそこから動かないこと。歩き回れば誰にも見つけてもらえないかもしれないから。
ルツの言葉を思い出して、リドルは考える。
今、自分はニュートが迎えに来ることを信じていいのか?
頭をぐるりと回るそれに、それでもと、リドルはニュートの青い瞳を思いだす。
青い、瞳。どこか人とずれた場所を見ている目。
ルツと、よく似た瞳。
信じたいと、思った瞳。
リドルは動かそうとした足をそっと止めた。
リドルは、木の足もとに腰を下ろしてニュートを待つ。なにか、煙でも出せればいいのだろうが、あいにくそんな便利なものはない。
リドルは、ぎりぎりと締め付ける様な不安感にルツの本を抱きしめる。
もう、誰も迎えに来ないかもしれない。
そんな言葉が頭の中でグルリと回る。騙されたのかもしれない。いや、孤児院にいた自分を態々こんな所に置き去りにする理由はあるのか?
そこまで考えて、リドルはまるで怯える子どものように膝を抱えた。
(・・・ルツ。)
思い浮かべるのは、自分に微笑む緑の眼。澄んだ、緑の眼だ。
そうだ、こんな時こそ迎えに来るべきだ。なんといっても自分は彼女に導かれるはずのものだから。
迎えになんて来ない。
違う。
だって、彼女は自分に何も告げずにいなくなった。
理由があったんだ。
僕なんてどうだっていいんだ。
ちがう、自分は、ルツの、特別で。
いや、違うのかもしれない。本当は、ルツにとって自分は、この宝物は、自分の過ごした時間は、結局。
心の奥が冷えていく。まるで、日向ぼっこをしている最中に陰りがあったように、体がどんどん冷えていく。それと同時に、頭の奥もまた冷たく、胸の奥で何かがはちきれそうになって。
「・・・・リドル?」
ああ、それは、ずっと、ずっと聞きたかった声だった。
リドルがばっと見上げた先、そこにはなじんだ金の髪に、そうして緑の瞳の少女は変わることなくのんびりとした顔でリドルを見ていた。
「よかった、迷子になったって聞いて心配したよ。」
リドルは、それに返事もせず、ただ、溺れる者が藁を縋るかのようにその少女に抱き付いた。