「ごめんねえ、リドル。この森は迷わせやすいところなんだよ。」
ルツはそう言って緩やかに少年の背中を撫でた。リドルは必死に涙を堪えようとするが、頂点まで達した感情に歯止めは利かずしゃっくりとしながらルツの服にそれらを擦り付ける様に顔を埋めた。
「わあ、珍しいねえ。君が泣くなんて。よっぽど怖かったんだね。」
ルツの不躾すぎる台詞にリドルは抗議の声をあげようとするが、今までたまりにたまった不安が爆発して涙と共に唸り声のようなものが漏れ出た。
「ゔゔゔゔゔゔ・・・・!」
怒りを表現するためにかルツの着ている服をぎっちりと掴んでいる。ルツはどうしたものかなあと困った顔で自分よりも少しだけ低い頭を見つめた。
「どうじて!」
「うーん?」
「がえっでっ、ごながった!?」
感情の発露で涙と鼻水交じりの濁った声にルツははてと首を傾げた。
「あれ、リドルのところには連絡言ってない?」
「れんらく?」
「そうそう。変だなあ。ダンブルドア先生に頼んだのに。」
ルツはそうぼやいた後、改めて周りを見回した。
「・・・・まあ、サプライズだと思おうか。リドル、森の中で何かに迷わされた時、どうする?」
「・・うわぎ、ひっくりかえして、きる。」
ルツの問いかけにリドルはまるで反射の様に答えを言った。それにルツはのんびりと笑って、正解だと微笑んだ。
「そうだよ、正解だ。」
ルツはそう言って微笑むと、緩やかに指先をくるりと回した。それは、彼女曰く花丸だよ、と微笑むものに似ていた。
ルツは着こんでいたジャケットをくるりと反転させて着こむ。リドルもまたそれに従ってくるりと気に入りの上着を反転させて着こんだ。
そこでリドルははっと我に帰る。
(・・・・僕はこいつに言いたいことがあるんだ!)
何時の間にかルツののんびりとした空気に飲まれてしまったけれど、そのまえにリドルは彼女に文句が言いたかったのだ。
共にあろうと言ったのはお前なのに。なのに、どうしてリドルを一人にしたんだ。
一人じゃ何もできない癖に、どうして、一人で、僕は。
怒りとも、悲しみとも、苦しみとも、それとも混ざりに混ざった感情の爆発とも言えるそれがリドルの中でぐつぐつと煮だって行く。
けれど、けれど。
小さな、幼いリドルからすれば大きな、白い手がそっと差し出された。
「行こうか。」
当たり前のように、そこにある手。リドルを招く手。迷子を導く、柔らかな灯り。
リドルの帰る場所へ、招く手。
「・・・うん。」
その声は、普段の彼を知る存在からすればたまらなく幼い声だった。まるで、母に甘える幼子のように、甘ったれた声だ。
けれど、そんなことをルツは気にしない。
その声が、彼女からすればひどくいつも通りの声だった。
カンテラの光だけが、もうすでに日が暮れかけた森の中でぼんやりと光を放っている。リドルは、お世辞にも舗装されているわけでもない道を歩いているが、不思議と不安感だとかそういったものを感じさせなかった。
「リドル、いいかい。森の中の目印は覚えたね?草木の生えていない、道があるところは通っても構わない。そこは、人の領域だからね。でも、それを外れては駄目だよ。そこは、人ではない者たちの領域だから。」
リドルは、ルツの言葉をどこか夢見心地で聞いていた。森の奥で、微かに何かの息遣いが聞こえた、ふわりと光る何かを見た、きゃらきゃらと笑う声がした。
けれど、不思議と恐ろしいとは思わなかった。
何となく、踏み込みさえしなければ、彼らはこちらに何もしてこないことを察したためだ。
ルツはそのまま、リドルと手をつなぎ、森を進んだ。そうして、森の行っていい場所、いってはいけない場所、それを丁寧に教え込んだ。
リドル。私たちは魔法使いだ。一人では生きてはいけない。だからこそ、境をちゃんと理解しなければいけないよ。
人である私たちと、人でない者たちの境。恐れなくていい。私たちは、彼らと敵対することも出来れば、友人になることも出来る。リドル、己が境に立つ、昼と夜の間にいる、黄昏の中で生きていることを覚えておくんだよ。
柔らかな声がする。リドルは、それに頷いた。うん、忘れないよ、覚えているよ。大丈夫だよ。
ルツの声がする。
スカボローフェアでも歌おうか?
カンテラの光と同様に、暗闇と木々の中を、色とりどりの光がふわりと浮かんでいた。
あれはなに?
ぼんやりとした思考の中でリドルは問うた。
あれは、風に末路うもの、炎と踊るもの、水と揺蕩うもの、土と育むもの。あるいは、それら自身。名を必要とせず、ただ、私たちの隣りにあるもの、優しく、そうして怖いもの。
仰ぎ見た先で、少女が微笑んでいる。
ほら、スカボローフェアを歌おうか。不安がらなくていい。大丈夫だよ。
子守唄の様に、優し気な声が響く。
それに、リドルは夢心地の中、カンテラの光と森の中、木々の合間に垣間見える人でないものを見つめた。
どうか、リドルはふわふわとした心地の中、その手を握り込んだ。
どうか、放さないでほしいと。
「リドル、着いたよ。」
柔からな声に意識を戻す。そうすると、リドルはいつの間にか自分が開けた場所にやってきていることに気づいた。
石を加工したらしい平たいそれらは細くではあるがくみ上げられて道を作っている。もう、日は暮れており、辺りは殆ど暗闇の中にある。
その小道には一定間隔でルツよりも少しだけ高い柵に囲まれており、その一つ一つにカンテラがぶら下がり、辺りを照らしている。ルツは、一番近くにあった柵に持っていたカンテラをぶら下げた。
「夜に森に出る時は使うといいよ。必ず、家に帰れるから。」
「あ、うん。」
リドルはまるで夢から醒めた様な、ふわふわとした心地のまま、ルツに手を引かれる。そうして、細い通路を辿った先、そこには小さな家があった。
「わあ。」
リドルは思わず声を上げた。何故って、その家はリドルの思う、魔法使いの家にそっくりだった。
石造りのその家は、表面に走る傷などから中々に年代が立っていることが察せられた。そうして、家に絡まりつくように生えた蔦も又その家の時間を感じさせる。可愛らしい煙突からは煙が出ており、家に誰かがいることが察せられた。
ルツはそのままリドルの手を引っ張り、そのままに駆け出した。そうして、勢いよく彼女は扉を押し開けた。
「ただいま。」
弾んだ声とともに滑り込んだその先には、心配そうに互いの顔を見る大人たちの姿があった。
「ルツ!」
真っ先に飛び込んできた二人の子どもに反応したのは、年若い男の方だった。
「君が飛び出していってしまうから・・・・」
「ごめんね、先生。でも、この森は初めての人には意地が悪いから。それに、先生をこの森に出したら、リドルと離れた時みたいに植物とかに夢中になってしまうでしょう?」
ルツの言葉に、男、ニュート・スキャマンダ―はさすがに何とも言えない顔をした。自分があまり見たことの無い存在たちに目を奪われて頼まれた子供の面倒を怠った自覚はあったのだ。
「まあ、森も久しぶりに子どもがいてはしゃいでたみたいだけれどねえ。」
ルツののんびりとした声を聴きながら、リドルは周りを見回した。
全体的な部分を見れば、部屋は平凡だ。
入口のすぐ先にリビングがあり、大きなテーブルが置かれている。そうして、椅子が四脚。丁度、入り口の真正面にドアがあり、左手にはキッチンらしき部屋への入り口があった。
机の上には湯気を立てたカップが二つ。
そうして、こちらを見る、アルバス・ダンブルドアが一人。
じっと、青い、キラキラとした目がリドルをじっと見ていた。凪いだそれは、まるでリドルを観察しているように無機質で不気味だ。
自分と正反対の眼がこちらを見る、そうして、頼りの綱のそれは自分を置いていった男と暢気に話している。
唐突に襲ってくるのは不安感だ。
何と言っても、リドルは自分がどうしてここに連れてこられたのか、ここが何なのか、どうしてダンブルドアがいるのかさえも分からない。
何よりも、今までルツにおいていかれたと思っていた精神にいきなりやって来た負荷によってぎりぎりと悲鳴を上げていた。
そこでようやく沈黙を有していたダンブルドアが立ち上がる。
「ルツ、おかえり。大丈夫じゃったかの?」
「はい、先生。特に何もありません。ただ、久しぶりに帰ってきたせいか、はしゃいでるものがいただけです。ああ、そうだ、リドル?」
くるりと、ようやく少女はリドルに振り返る。
黄金の髪に、緑の瞳、陽だまりのような、柔らかな笑みを浮かべて彼女はリドルに歩み寄る。
「君を送って来てくれたあの人、ニュートは私の父の同僚でね。これから私たちの後見をしてくれるんだ。ダンブルドア先生の紹介でね。そうだ、屋敷しもべもいるんだよ。学校にいたんだけど、ちょっと悪さをして追い出されたのを引き取ったんだけど。ちょうど、ダンブルドア先生から出された条件の最後だったから運がよくて。」
柔らかな声が自分の名前を呼んだ時、リドルの中で何かが決壊した。
ぶわりと、視界がまるで水の中の様に揺蕩うように揺れて、頬を暖かな何かが流れていく。
大人たちはそれに目を真ん丸にしていたが、ルツだけはああと頷いた。
リドル、と少女は少年に手を伸ばした。
ばしりと、叩きつける様な音がなる。ルツは、叩かれた自分の手を見た後、睨み付けて来るリドルを見た。
「怒ってるの?」
その言葉に、少女の、無邪気なそれにリドルは何もかもがせり上がって来る。
涙声の混じった、恥も外聞も無い、彼にしては珍しいプライドなんて放り出した声音だった。
ダンブルドアのことも、ニュートのことも目に入っていない。
それは、翠の瞳の少女へのことばだった。
「うぞづき!!」
叩きつける様な声音に、ルツは変わることなくぼんやりとした目をリドルに向けていた。
「がえっで、ぐるっていった!みやでだって、もってかえる゛って、いっだ!」
なのに、かえってこなかった。
それは、本当に喉からせり上がって来た感情をそのままに放り出したような声だった。
「ま゛ってだのに、ずっと、ま゛ってた。ばかから、いわれてもきにしなくで、ずっど、もんのほう、み゛で。」
リドルは抱えた、ルツの父親の形見である本を抱きしめた。まるで、それこそが自分にとっての蜘蛛の糸のように。
「ま゛ってたのに。」
とびっきりの、おくりものをくれるって、そういったのに。
掠れた声が辺りに響く。それに、大人たちは固まった。
ニュートはお世辞にもあまり仲の良くない子どもを慰められるほどの器用さは持っていなかったし、ダンブルドアはといえば警戒心を持っていた子どもの爆発への対応が思いつかず、固まった。
そんな中、ルツは笑みを深くして、そっとリドルの肩に触れた。自分よりも低いリドルの目線に合わせた。
「リドル、遅くなったけれど、君に贈り物をあげるよ。」
美しい、若葉の眼がリドルを見た。
ルツはそっとリドルの手をひいて、リビングの奥にあった扉を潜る。リドルはそれに素直に従った。心の奥で負担になった、ルツの怒りを吐き出した彼はそれにつれられるままに足を進めた。
扉の奥は人が一人ならば悠々と通れる廊下で、左右に二つずつ、奥に一つ、扉があった。
ルツは、右側の奥の扉の前に立つ。
それは、あめ色に磨かれた扉で、ドアノブは恐らく多くの人間が幾度も触ったせいか、彫り込まれている模様も曖昧になっている。つるつるとしたそれは、金属製でひんやりとしていた。
ルツはその扉を開け、そっとリドルを中に促した。それに従って、リドルは部屋に入る。
部屋の中は、がらんとしている。
最低限の家具だけしかなく、そこそこに広い部屋だ。
入り口から右側の壁には大きめの本棚が二個、ぎちりと詰められている。けれど、本棚には何故か一冊も本がない。そうして、向かい側には窓が付いており、それを避ける形で机が一つ置かれていた。見て左側にはリドルは三人は寝ても支障がなさそうな大きなベッドが置かれている。
家具の一つ一つが、リドルから見ても年代物であることが分かった。
本棚にしても、机にしても、椅子にしても、ベッドにしても、それぞれで細かなデザインが施されていた。
連れてこられた部屋に困惑していると、隣りに立ったルツがそっと屈みこむ。そうして、翠の瞳が赤い瞳と重なった、
「リドル、導き手の話を覚えている?」
「・・・うん。」
リドルは、幼い動作で頷いた。ルツはそっとリドルの手を掴んだ。
「私たちはね、元々は血ではなく力で繋がっていたそうだよ。只人ではないと覚るゆえに、それら自身のコミュニティを作る必要があった。そちらのほうが楽だし、そちらのほうが正しかったんだろうね。」
ルツはそう言ってリドルの頬に残る涙の後を拭った。
「己と同じように只人ではないものを見付ければ、助けてやることが義務だったんだよ。己が、いつかの日に助けられたのと同じように。それは、時として任せるべき誰かを探すことであったり、あるべき場所に返すことであったり、そうして、己で導くことであったり。導くものは母として、父として、導かれるものは子として、何時か飛び立つ子どもたちのために、住みかや寝床を貸すものだったんだ。」
私はね、リドル。
柔らかな声が、部屋に響く。空っぽの、必要最低限の部屋の中に、穏やかな声が響く。
「君に、帰る場所をあげたいと思ったんだ。リドル、ここを君の帰る場所にしないかな?」
その言葉にリドルは目を見開いた。
元々、リドルはそこまで感情的な子どもではない。
昔は、リドルと言う少年はそれでも望まれたことだってあったのだ。
誰だって、美しいものへ関心を向けずにはいられない様に。
天使のような赤ん坊だと、そういってちやほやされていたこともあった。けれど、リドルの周りで不思議なことが起こるたびに、人は赤子を遠巻きにした。
未知は恐ろしい。それは仕方がない。けれど、それでも、赤ん坊は確かに寂しかったのだ。
リドルを養子に望むものはいた。
美しく、人よりも賢しい子どもをちょうどいいと望むものはいた。そのたびに、リドルは、ひねくれて歪んでいたけれど、それでも、居場所を獲得できたのだと信じたのだ。
いつだって、その思いは裏切られたけれど。
大人たちはひそひそとリドルを遠巻きにして、孤児院へと送り返した。送り返されたリドルを、子どもたちは惨めだと笑い、当然だと頷き合った。
だから、リドルは、泣くことも無く、感情を揺らすことも無く、だから何だと周りを見下した。その程度で傷つくことこそ馬鹿らしいと思った。
ああ、そうだ。当たり前だ、誰も僕を理解しない。何故って、僕こそが特別なのだから。そう思って、背筋を伸ばして、前を見た。
リドルは、自分のことを柔らかに微笑んで見つめる翠の瞳へ嘲笑を向けようとした。
そんなのごめんだと。
それは、自分を裏切ったのだ。言えたはずなのに、言いもせずに自分の前から消えたのだ。そこに何かしらの偶然があったとしても、リドルは絶対に許さないと、そう思ったのに。
「どうして?」
口から漏れ出たのは、そんな拙くて、主体性も無い言葉だった。
そんなことが言いたいわけではない、そんな甘ったるい問いかけをしたいわけではない。
その言葉が、まるで自分がこの家にいたくて、けれど不安に思っているようにしか聞こえないではないか。
けれど、けれど、それ以上に言葉を紡げばまた涙が溢れてしまいそうで。
これ以上涙は流したくなかった、自分の弱さをさらけ出したくなかった。
歯を食いしばったリドルに、ルツは苦笑を混ぜて微笑んだ。
「リドル、ありがとうね。」
予想だにしなかった言葉にリドルは胡乱な目を女に向けた。それはゆるりと微笑んで、リドルの持っていた、形見の本に指先で摩った。
「君は私に裏切られたと思って、きっと傷ついただろうし、私のことだって嫌いになったはずだ。でも、君は、私の宝物を守って、こうやって抱えてきてくれた。君は、優しい子だね。」
するりと、暖かな指先がいくども、リドルの頬を滑っていく。
それにリドルは歯を食いしばった。そうして、きつく、きつく、本を抱きしめた。
当たり前だ。だって、約束した。お前は、僕にこれを託してくれた。大事にするようにと、そう、約束したのはお前じゃないか。どうして、お前がその約束を疑ってるんだ。
当たり前だ、そうだ、だって、約束したから。
お前はいつだって僕との約束を守ったから。だから、僕だって、その約束を守りたかったのに。なのに。
「私はちょっと駄目な所が多いけれど、リドルは私に優しくしてくれるでしょう?だから、優しくしてくれた分は君に少しでも何かを返したくてね。頑張って贈り物を用意しようとして、手紙なんかも送れなくてね。」
私は駄目だねえ。
ルツはそう言って眉を下げて、まるで叱られた犬のような顔でリドルを見た。
「大好きだよ、リドル。」
はっきりと告げられた言葉に、リドルは目を真ん丸にした。まるで、つぶてを食らったピクシーみたいな顔だった。
「優しくて、賢くて、すごい君のことが、私を見捨てないで信じてくれていた君のことが、私はとても好きだよ。だからね、リドル。私と一緒に、生きてくれたら嬉しいんだ。一人ぼっちは寂しくて、悲しいから。君が一緒なら、嬉しいなって思って。」
翠の瞳が少年を見る。じっと、じっと、どんな言葉を吐いたって、優しく受け止めてくれると信じて疑わない彼女はじっと、彼を見る。
そうして、そっとルツはリドルのことを腕の中に引き入れた。自分の背中に回るそれ。暖かで、そうして、華奢なそれ。
リドルは、それに、自分の体から力が抜けていく気がした。
ああ、ああ、振りほどいてしまいたい。
リドルは、何故か、その女の側にいると、自分がたまらなく弱くなったように思うのだ。まるで、それがいないと、それが自分から離れていくと思うと、なにか喚き散らしてしまいたくなるのだ。
手を引いて歩いてよ。導いてくれると言ったのはお前だ。
見ていてくれ。自分が悪い子になってしまわない様に。
どこにだっていくな。一緒にいてといったのはお前だ。
ああ、そうだ、分かった。
(僕には、義務がある。)
一人で生きていけないなんて、知っているから。お前は、情けなくて、どうしようもないなんて分かっているから。
そうだ、手を引いて、甘やかしたのはリドルが先だ。
だから、自分はこれと共に居る義務がある。そうしたのは、始めたのはルツでも、手をつないだのは自分だから
そうだ、ルツはこうやって謝罪をしているから。だから、赦してやるのは自分の義務だ。
リドルはそんなことを頭の中で考えて、ルツと同じように、相手の体に本を抱えた反対の手を巻き付けた。
暖かなそれは、ずっと、ずっと、彼が望んでいるものだった
「おまえは、すぐにまいごになるからな。」
だから、ぼくがそばにいてやるよ。おまえは、なさけないから、だから、いっしょにいてやるよ。たからものをあずけたまま、とりにだってこれないものな。
ぐずりと鼻をすする音がする。それに、ルツはそっとその背を摩ってやった。
あやすように、宥める様に、嬉しいというように。
「うん、リドルはやっぱり優しいねえ。」
明日は、そうだ、絨毯でも買いに行こうか。君の好きな色の。カーテンに、カバーも買いに行って。そうだ、本も買いに行こうか。
この本棚は、君だけのものだから。君の好きな本で埋めるといいよ。
大丈夫だよ、ここは君だけの部屋で、君の帰るところだから。
声がする。あやすようにそう言って、リドルを甘やかす声がする。それがあんまりにも心地がよくて、リドルはうんと拙い声で返事をした。
ちなみに、学校での教科書盗難はルツに構ってほしかったエヴァドの仕業です。それによってルツの家に転がり込めたから幸運だったのかな?
感想いただけたら嬉しいです。