ものすごいお久しぶりになります。リドルのホグワーツ編が始まる、のかな?
リドルのグリン家での生活になります。次で、入学式とかになると思います。
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鳥の鳴き声が、微かにする。それに、リドルは目を見開いて、勢いよく起き上がった。
たんと、飛び降りて、素早く着替えた。
しっかりとした綿のシャツに、動きやすいズボン。少しだけ気にくわないが、ダンブルドアからの贈り物のブーツは大変履きやすい。そうして、後見人のスキャマンダーがくれた農作用の前掛けをつける。
たったと、洗面所に行って顔を洗い、そうしてリビングに飛び込んだ。そこには、変わった生き物がリドルを待っていた。
背格好やシルエット自体で、リドルにとって連想できるのは銀行で見たゴブリンだろう。
けれど、それはゴブリンたちよりも貧相な背格好で、かつボロボロの服を着ている。とがった耳はまるで翼を広げた蝙蝠の様だった。
なによりも目を引くのは、大人の拳ほどもあるガラス玉のような瞳だろうか。
「坊ちゃま!朝ご飯の支度は出来ておりますよ!」
キーキーと甲高い声でそれはダイニングに置かれたサンドイッチを指さした。それにリドルは飛びつくようにサンドイッチを掴んだ。
「ルツは温室だろ?そこで食べる!」
「お行儀が悪いですよ!」
そんなエヴェドの言葉など無視して、リドルは家の中で一番、奥の扉にかけていく。扉の先には短い廊下と、硝子製の扉があった。
リドルはそれを開けた。そうすると、暖かな風を感じる。
温室の中は、多くの植物が生い茂っていた。
リドルはサンドイッチを片手にその温室を進んだ。その温室は、見た目よりもずっと広々している。曰く、魔法がかけられているそうだ。
なんでもそれぞれ植えられている植物の性質によって温度や湿度が調整されているらしい。
(確かに、いるところによって寒かったり、熱かったりするんだよな。)
リドルは、きょろりと、辺りを見回した。
(・・・・ニガヨモギ。)
ニガヨモギは眠り、ユリはやけど、オオバコは熱、イヌハッカは毒、ハシバミは魔力を宿して。
リドルはつらつらとルツに教わった知識を反復した。曰く、リドルは非常に物覚えがいいそうだ。そう言われると、リドルとしても鼻が高い。
曰く、製薬での特許などで生活をしているグリン家の薬草や魔法薬に関する知識は相当にレベルが高いそうだ。
それについてもたやすく飲み込むリドルにルツも嬉しげに多くのことを教えてくれる。
「ルツ!」
「ああ、おはよう。リドル。」
穏やかに微笑んだルツはジョウロを片手に微笑んだ。
「ルツは朝ご飯食べたのか?」
「私はとっくに食べましたよ。」
ルツはハシバミの木の手入れをしながらそう言った。彼女は、防水性の長靴に使い古した厚手の前掛けをしている。そうして、サラマンダーの皮で出来ているらしい手袋もしていた。毒性のあるものでも平気であるらしいそれは父からのお下がりであるらしい。
長い金の髪は結い上げており、まるで王冠のように輝いている。
リドルはそれを眺めながら、温室のところに置かれた簡素なガーデニングテーブルとイスについた。
リドルはまた暖かなサンドイッチにかぶり付いた。
(・・・焼いたパンに、こんがり焼いた鳥のソテーとレタスと、トマト。バターとこしょうもたっぷりだ。)
自分のいた孤児院では考えられないようなそれにかぶり付きながらリドルはそんなことを考える。そうして、食べ終わるとイスから飛び降りた。そうして、ルツの元に走って行く。
「ルツ、朝ご飯食べ終わった」
「うん?」
ルツはちらりとリドルの方を見た。そうして、穏やかな翠の瞳を細めて前掛けのポケットからハンカチを取り出した。それで、リドルの口元を拭った。
「それじゃあ、今日も始めようか。」
ルツはそう言って微笑んだ。リドルは少々の恥ずかしさで顔を赤くした。
ルツは魔法についての知識ではあまり教えてはくれなかった。それはルツ自身が学生ということもあった。
そうして、魔力の扱いを知るよりも、世界との付き合い方というものを覚えておいた方が良いと言った。
それは、周りの草木が自分にどんな効果があるのか、森に棲まうものたちとの付き合い方、森の歩き方、そんなことを教わった。
こんなのつまらないよ。
そう言わないで。魔力の扱い方を知る前に、この世界がどんなものなのか、君にとってどんな意味があるのか、知っておいた方が良いんだ。
なんで?
そうだね、リドル。魔法って、どうして特別なものだって思う?
誰もが使えるわけじゃないし、何でも出来るから?
なんでもっていうのは語弊だね。魔法にだってできないことはある。それこそ、今は科学の方が安易に出来ることもあるしね。ただ、魔法がすごいのは、過程を吹っ飛ばして結果だけを手に入れることが出来るところだね。
材料を切ったりせずにすぐにご飯が食べられるってこと?
そうそう、そういうことだよ。でも、そうだね。リドル、どうして闇の魔術が表に出ないかわかるかな?
ええっと、人を殺したり、悪いことに使いやすいから?
それもあるけれど。それ以上に、闇の魔術が起こせる結果は魔法でなくても起こせるからかな。
人を殺すことは、マグルにも出来るからってこと?
ああ、そうだよ。魔法が奇跡であり、結果を簡単に手に入れることが出来るなら。その真骨頂はなおすことであり、そうして育むことだ。
はぐくむ、こと。
死因がわからないことも、苦しめることも、操ることも、マグルだって難しいこともあるけれど、出来ないわけではない。でも、なおすことや育むことは難しい。善し悪しはあっても、その結果にたどり着くことは魔法使いの方が優れている。探求者というのが本質である魔法使いたちは、わかりやすい暴力を用いる闇の魔法使いを邪道とした。
だから、植物を育てることを先にやらせるの?
ちょっと違うかな。私たちは安易に世界に影響を及ぼしてしまう。ただの蝶の羽ばたきが遠いどこかで嵐を巻き起こすように。いつか、君が奇跡を起こすときが来たとき、その喜びと罪深さを知ることができるように。
その言葉の意味を、リドルははっきりと理解できなかった。未だ幼いリドルには、その言葉の意味が本当の意味でわからなかった。
ただ、ルツの柔らかな笑みを見ていると、それがとても大切なことのように感じられた。
土をいじって、水をやり、肥料を与える。
リドルが世話を命じられたニガヨモギはすくすくと育っている。確かに、地味な仕事であるが、頑張った結果が目に見えるのは嬉しくはあった。
そうして、薬草の他にスキャマンダーが来た折にやらせてもらえる魔法薬も楽しかった。大鍋をぐるぐるするのは、昔見た絵本の中の魔女のようだった。
そうやって、ある程度土いじりをして、薬草の話を聞いた後はリドルは自由時間になる。
基本的な勉強は定期的にスキャマンダーやダンブルドアがやってきて見てもらっている。そうして、宿題も置いていっているが、優秀なリドルには些細なことだ。
「ルツ、森に行ってくる!」
そういって、リドルはルツに借りた釣り竿を持って森の中に駆けだした。
「教えた道以外、行ってはダメだよ?」
そんな声を後ろに、リドルは慣れた道を歩き出した。
リドルの住んでいる森は、一応グリンの家の管理下にあるらしい。イギリスの中でも深い森が広がるそこは、昔から古い魔法生物たちの住処であったらしい。
変わり者のグリンはそこを住処として決め、放浪してはそこに帰るということを繰り返していたそうだ。
すっかりマグルに混じり、都会で住むものや村を形成し、森の中で暮らすものが少なくなった今では珍しい生活スタイルなのだという。
魔法生物が多くいる森は放ってはおけないが、だからといって管理するのもうま味が足りない。
そのため、自ら森に住み続けるグリン家に白羽の矢は当たった。少額の管理費と森の資源をある程度好きにすることを条件に、森の管理人をしているそうだ。
管理人であったルツの父親が死んだ後、魔法省が管理していたそうだが、現在はルツがある程度の範囲をカバーしているそうだ。
大人になったら、私もここに籠りっきりになるだろうね。
そんなことをルツが言っていたのを覚えている。
リドルは森の曲がりくねった道をすいすいと歩いて行く。かれこれ、一年近く、森の中を遊び場として過ごしたリドルは孤児院にいた頃よりもずっと成長していた。
十分な食事に、山遊びをしていた彼の体は平均よりもたくましくなっていた。そうして、浅く日焼けしたそれは繊細な印象から精悍なそれへと変わり果てていた。そうは言っても、その顔立ちからして十分に魅力的であると言えた。
リドルは目的地である、川縁までやってきた。そこは岩の山場になっており、川魚が多くいる。リドルはそれに今日こそは、と決意した。
(・・・・今日も、つれなかった。)
リドルはがっかりして、釣り道具を片付け始めた。
リドルの釣りの趣味は、偏に彼の負けず嫌いさによる。最初、晩ご飯の調達にとルツに連れられていったが、ものの見事に結果はぼうずであった。
それに負けず嫌いの火がついて、仕掛けをいじっては川に来て釣りをしている。
が、結果はよろしくない。短気な気があるリドルには向いていない部分があるのだろう。
しょぼくれたリドルが立ち上がると、くいくいと服を引っ張るものがいた。
それにリドルが振り向くと、そこには二足歩行の狼がいた。
「・・・・なんだよ。」
不機嫌そうにそう言うと、その狼は両手に一つずつ、大きな川魚を差し出してくれた。
それにリドルは自分がぼうずであったことを無言で突きつけられたようで口元をへに曲げる。
が、リドルはそれを渋々受け取った。その魔法生物、または妖精、それは不躾すぎるからとルツ曰く隣人足るものは、ウルヴァーと言われている。
彼らは基本的によいものたちに分類されているそうで、意地悪をしなければよき隣人であるからとルツにも言われている。だからこそ、彼らの善意は受け取るようといわれている。
リドルも最初に彼らに出会った時は驚いた。
魔法生物の本を読破していたリドルさえも知らない存在であったため、すぐに逃げ帰った。ルツに言われた場所から出た覚えもないというのに出会ったそれのことをルツに話すと、彼女は苦笑気味に言った。
「ああ、リドル、なんだい、ウルヴァーたちに会ったんだね。」
曰く、彼らは釣りが好きなようで、何時間も石に座って魚を釣るそうだ。それ以外は、ただの狼の姿をしただけの生き物であるらしい。
「君が坊主だったから見かねて魚を分けてくれようとしたんじゃないのかな?」
「でも、そんなのいるの?本にだって書いてなかったのに。」
「今はうちみたいに森で生活するものも、わざわざ自給自足みたいな生活するものもいないからね。使う機会のない知識は省かれていくんだ。ウルヴァーたちもそれと一緒。」
昔は、珍しい友好的な種族だったから交流している家系もあったみたいだけれどね。
「・・・・・そうなの?」
そんなことを言っていると、窓辺の方がどさりと何かが落ちるような音がした。エヴェドがそれに反応し、確かめてくるとその場からいなくなった。
そうして、今のソファでくつろいでいたルツとその前に立っていたリドルの元にやってきた。エヴェドの手には、立派な川魚が握られていた。
「届けてくれたみたいだね。」
脂ののった川魚はその日の夕飯になった。
リドルは受け取った魚をじっと見た。見れば見るほどに、立派な魚だ。どうすればこんなにも立派な魚が釣れるのか是非ともご教授いただきたい。
「ヴァウ!」
元気なイヌの鳴き声にリドルはなんとも言えない顔をする。曰く、昔はこう言った生き物とも交流する術があったそうだがすったり廃れているそうだ。ルツ曰く、グリン家の倉庫をあさればそういった書物もあるだろうが。へたをすればウルヴァーたちも交渉のやり方を忘れている可能性もあるため、無駄足になることもあると言われている。
何よりも、他人に教わるというのはリドルとしても悔しい思いがある。リドルはかるくため息をついた後、口を開いた。
「これで、今日の食事は大丈夫だな。そうだ、それなら、腹を満たすためのこれはもういらないなあ。」
リドルはそう言って物入れの中から、おやつ用にと渡されたスコーンを取りだした。ドライフルーツの大量に入ったそれを、リドルは岩の上に置いた。
「ここに置いておけば、欲しい奴が食べるだろう。さて、僕はもう帰ろうか。」
リドルはそう言って、その場から歩き出した、がさりと、葉の揺れる音がした後、ちらりと後ろを振り返るとウルヴァーはおらず、そうしてスコーンも消えていた。
(人でないもの、特に意思疎通の出来ないものへのお礼はあくまで歪曲的にすること。)
リドルはルツから教わったことを思い出した。
曰く、会話の出来ないものとの間では、物理的なお礼の方が喜ばれるためである。
リドルは今日も釣れなかったことにしょぼくれながら道を歩いた。
家に帰ると、ルツはいなかった。
「ルツは?」
「お嬢様ならいつもの森の見回りです。今日は釣れましたか、坊ちゃま!」
「・・・・なんだよ、嫌みかよ。」
「そのご様子では、またウルヴァーたちに魚をもらったのですね。」
リドルはエヴェドに魚を差し出した。今日はムニエルにしようかとエヴェドは台所に引っ込んでいく。
ルツは時折、一人で森の中を歩き回る。魔法省からの契約で森に異変がないか、マグルが入り込んでいないかを調べて回る。
魔法生物がいるところまでマグルが入り込むことはそうそうないが、自殺志願者などの場合はより深くまで入り込みたがる。
「そういう人って、本当に、時々奥まで入り込んじゃう人がいるんだよね。」
死と生という堺を超える覚悟をしたものは、時折、魔法の効果が薄くなるものがいるらしい。
森の中で、深く、濃い緑の臭いの中でルツはそう言った。
(今日は、どうしようかな。)
リドルはそのまま自室に戻った。そこは、澄んだ緑を基調とした部屋が広がっていた。
ルツはリドルの瞳の赤を勧めてきたが、リドルは緑が良いとねだった。
淡い色の、カーテンにカーペット。布団は、緑地に銀の刺繍がされている。植物の絵柄が描かれているそれはルツのものと色違いのおそろいだ。
ルツは青の小物が多い。
赤でも、緑でもないことは以外だったが、曰く、彼女は青色が一番好きらしい。リドルの嫌いな老人を思い出すため止めて欲しいが、彼女の趣味を否定することも出来ずにそのままにしている。
片付いていた机周りには読みかけの本に、ノート類が広がっている。そこには、ルツやスキャマンダー、そうしてダンブルドアから教わったことがまとめられている。
ちらりと見た本棚はすでにだいぶ埋まっている。
呪文集や歴史、魔法薬に薬草関係の本。すべては魔法に関係するそれは、人からすれば嫌な顔をするだろうが、リドルからすれば好きなもので埋まったそこは奇跡のように気に入っている。
(今日は、呪文の復習でもしようかな?)
リドルはそう思って、本を手に取ったとき、こんこんと窓を叩く音がした。それに、ちらりと窓を見ると、大きなフクロウがじっと自分を見ていた。
リドルはそれに目を丸くした。
自分にはフクロウでやりとりをするような存在に覚えはなかった。
いや、一つだけ、自分に手紙を送ってくれる存在に覚えがあった。
リドルは逸る気持ちを抑えつけて、窓を開けた。フクロウから手紙を受け取る。
差出人は、ホグワーツ魔法魔術学校。
急いで、乱雑に開けた手紙の中には、トム・M・リドルへの入学案内書が入っていた。
「ルツ!!エヴェド!!」
リドルは叫ぶように部屋から飛び出した。