孤独な蛇は、平淡な樹木の夢を見るか   作:藤猫

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リドルの組み分けになります。



感想、評価、ありがとうございます。
感想、いただけると嬉しいです。


運命の分かれ道

 

「なあ、本当にここにホグワーツへの道があるの?」

「そうだよー。」

 

リドルはそれに本当かよと、少しだけ上にある姉貴分の顔を見た。彼女は変わることなくにこにこと笑うだけだった。

それにリドルは目の前の光景をうろんな瞳で見つめた。

人々の行き交う、キングス・クロス駅。リドルは大荷物を抱えてルツと手をつないでいた。

 

「駅から行くのは知ってたけど、こんなマグルの往来する場所なの?」

「森を隠すなら、森の中。秘密を隠すなら、人の中が一番だよ。」

 

くすりとルツは笑った。

 

 

 

リドルはむすりとした顔をした。彼は今、たくさんの荷物でいっぱいになったトランクを一つ抱えていた。

なんでもルツの父が使っていたらしい、見た目に反してたくさんの荷物の入るそれ。

すでに書き込みのされた教科書に、入学前に幾度か着た制服、そうして、滅多に手放すことはなかった魔法の杖。

人前では出さないようにということで渋々トランクにしまい込んでいる。

そんなリドルに微笑み、彼女はその手を引いた。

 

「こっちだよ。」

 

人混みの中、ルツが歩いて行く。その後を、リドルはついていった。

そうして、たどり着いたのはプラットホームにあるレンガで出来た柱だった。リドルはそれになんだこれはと首を傾げた。ルツを見ると、彼女は楽しそうに微笑んだ。

そうして、勢いよくその場で柱に向けて飛んだ。ぶつかると思った。

そのまま、ぶつかって尻餅でもつくと思った。

 

「る!」

 

ひしゃげた声をリドルは出した。けれど、予想に反してルツはそのまま柱の中に吸い込まれていった。

 

「え?」

 

リドルは固まってその場でキョロキョロと辺りを見回した。どう見てもルツはその場にいない。

 

(ど、こに、きえた?)

 

リドルは慌ててトランクを抱え込んで途方に暮れた。冷静に考えればおそらく、その柱が学校行きの列車への出入り口なのだろう。

けれど、一人でその場に飛び込むのは少々戸惑いがあった。

入る上で何か特別な作法がいるのか、呪文は、体勢は、条件はあるのか?

 

「・・・リドルか?」

 

リドルが柱の前で途方に暮れていると、後ろから聞き覚えのある声がした。それに振り向いた、その先。

そこには一人、少年が立っていた。

灰色の髪に、黒の瞳。実直そうな印象を受ける顔立ち。

 

「・・・・・アラスター・ムーディ。」

 

リドルにとって忌々しいルツの同級生だった。

 

 

 

 

「どうしたんだ、お前。こんなところで一人なんて。」

「・・・僕だって今年で入学なんだけど?」

 

リドルはそう言うと、ムーディーはああ知っていると微笑んだ。リドルは、その反応を意外に思った。最後にあった時の印象からして、お世辞にも自分に対してそんな態度を見せるなんて思っていなかった。

が、再会したムーディーは肩の荷が下りたかのように朗らかに微笑んでいた。

そのあり方がやたらと不気味でたまらない。

 

「そうだったな。そういえば、ルツのやつはどうしたんだ?」

「ここ。」

 

指さした先の柱にムーディーはああと頷いた。

 

「・・・・リドル、いいか。ここは隠されてるが魔法使いの駅に繋がっている。呪文も、なにもいらない。思いっきり突っ込めばいいんだ。怖いなら目をつぶっていいぞ。」

 

それに対してリドルは胡散臭いものを見るような目をした。

ムーディーはあーと苦笑して、リドルに視線を向けた。

 

「なら、一緒に行くか?」

「なんでさ。」

「信用できないならそれが一番いいだろう。ほら、来い。」

 

ムーディーは持っていたトランクを抱えて、リドルに反対の手を差し出した。促すように差し出された手にリドルは迷うように視線を迷わせた。

が、それをまたずムーディーは、森の生活で鍛えられたとはいえ自分よりも幾分か小柄なリドルの体を抱え込むように引き寄せた。

リドルは今までにない扱いに固まった。ムーディーはその隙にリドルを引きずって柱へと飛び込んだ。

リドルは思わず目をつぶるが、体に衝撃は訪れない。そうして、くんと鼻を突く焦げ臭いそれ。

眼を思わず開ければ、そこには白い煙を吐き出す蒸気機関車、色とりどりのローブを纏った人々、そうして穏やかに微笑んでリドルを出迎えたルツの姿だった。

 

「ルツ!」

 

リドルはほっとしてルツの元に駆け寄った。彼女は穏やかに微笑んでトランクを置き、リドルを出迎えた。

腰に抱きつくように飛び込んできたリドルの背中に手を回した。

 

「ほら、あったでしょう?」

 

暢気に微笑む彼女はリドルからすれば非常に腹立たしいものだった。

 

「だからって置いてくなよ!」

「それは、ごめんね?でも、すごいでしょう。魔法の駅に続いている入り口。」

 

弾んだ声を出すルツに少し呆れながらリドルはため息を吐いた。ルツはようやくリドルを連れてこれたことが嬉しいらしく微笑んでいた。そうして、リドルの後を追ってきたムーディーに死線を向けた。

 

「やあ、ムーディー。リドルに付き添ってくれたの?」

「ルツ、お前、リドルを放っておいてどうするんだ。一人であの入り口を通るのは大変だろうに。」

「うーん、リドルならきっと大丈夫だと思ったんだけど。でも、確かにどうすればいいのかわからなかったね。ごめんよ。」

「いいよ、でも、二度とこんなことするなよ。」

「わかったよ。」

 

リドルはそれにルツを睨んだが、彼女は変わることなく微笑んだままだった。

 

 

 

「空いてるコンパートメントがあってよかったね。」

「ああ、早めについたおかげだな。」

 

リドルは荷物を備え付けの棚に置くムーディーとルツを眺めながら順番を待っていた。自分の荷物も押し上げようと考えていたが、そうはいっても背が足りないことはリドルもわかった。

ルツにでも頼もうかと考えていると、おもむろにムーディーがリドルのトランクを手に取った。

 

「お、おい!」

「届かないだろう。」

「あ、そうだね。リドルは少し高いかな。」

 

三人はそのままイスに座った。ルツの隣にリドルが、その向かいにムーディーが座っていた。

ルツとムーディーは学校での宿題や、今年度の勉強部分について話をしていた。リドルはひとまず会話に加わることなく、ルツにくっついてじっとムーディーを見ていた。

 

(おかしい。)

 

リドルは自分がお世辞にもムーディーから好かれているとは思っていなかった。初対面の折に、脅すように睨んでやったことを覚えている。

けれど、今回、何故かムーディーはやたらと友好的な態度を取ってきている。

何故かわからない。リドルはムーディーにとってそれほど有効な価値を示した覚えはないのだ。

リドルはルツの腰に抱きつくようにじっとムーディーを眺めた。

その時だ、コンパートメントのドアが叩かれる。三人はそのまま扉の方に視線に向けた。そこには、オーガスタ・ロングボトムと、見たことのある黒い髪。

 

「久しぶりね、三人とも。私と、この子もいいかしら?」

 

そう言ってオーガスタが部屋に招き入れた少女にリドルは顔を歪めた。

 

「マクゴガナル・・・・」

 

それに少女も顔を歪めた。

 

「リドル・・・・・」

 

オーガスタとムーディーは二人の間に起こった不穏な空気に驚いた顔をした。

 

 

 

リドルとマクゴナガルはばちばちと火花が散りそうなほどのにらみ合いを始めた。オーガスタとマクゴナガルはムーディーの隣に座った。

 

「久しぶりだな、マクゴガナル。」

「あなたこそ、久しぶり。」

「ふん、久しぶりすぎて顔なんて忘れそうだったよ。地味な顔をしてるしね。」

「へえ、私もあなたみたいなひねくれ者、覚えていようか迷ってたの。ルツさんとは、手紙のやりとりをしててそんなことは無かったけれど。」

「ふうん?僕はルツと毎日あって、魔法について教わってたよ。薬学だとか、薬草学だとかね?」

 

ばちばちと嫌みの押収のようなものを始めた二人に、オーガスタが向かいのルツに話しかけた。

 

(ねえ、どうしたの、これ。)

(うーん、リドルの学校のものを買いに行ったときに。仲良くなった、はずだったんだけど。)

(ルツの評価はあてにならんぞ。)

 

ムーディーの言葉にオーガスタはそれもそうかと頷いた。元より、ルツは色々と評価の上で雑なのだ。

 

「そう言えば、オーガスタとミネルバはどこで会ったの?」

「ああ、廊下でね。空いてる場所がないって悩んでて。私はあなたたちがどこかにいると当たりはつけてたから、そのまま連れてきたの。」

「ああ、それでか。」

「やあ、ミネルバ。手紙以来だね。」

「あ、ルツさん!はい、お久しぶりです。手紙では色々とありがとうございました。」

「ううん、ミネルバは頭が良いから、私も手紙を書くのは楽しかったよ。」

「はい、おかげでより、教科書の内容もわかりやすくなって。」

 

変わることなくのんびりとしたルツにミネルバはにこにこと笑った。元より、弟しかいない環境でルツのようなおっとりとした姉のような立場の彼女は非常に好ましかった。

事実、ルツと交わした手紙は楽しかった。

マクゴナガルが学校に行くことで魔法族のことが表沙汰になったことはよかったが、そうはいっても知識を蓄えられるのは教書と、そうして母が隠し持っていた数冊の本だけだ。

ルツとの手紙は新鮮なことばかりが知れた。

 

(この人以外に関しては。)

 

マクゴナガルはそう思って向かいで自分をにらみ付けてくるリドルに視線を向けた。ルツの手紙には少しであっても毎回のように目の前の存在が話題に上った。

話を聞く限り、ひどく優秀なのはそうだろう。

けれど、それとそれは別だ。

踏み込んでくるような嫌みな口調だとか、自分たちの会話に入ってくるところだとか、非常にマクゴナガルとしては面白くない。

 

「へえ、教科書、もう読んだの?」

「はい、面白かったです。」

「すごいな。大抵の奴は、文字の羅列は嫌がるんだが。」

 

マクゴナガルはそれにてれてれと頬を染めた。元より、母が魔法使いといってもマグルの世界で暮らすことを是としていたため、あまり魔法に触れては来なかった。

魔法界は。差別的な一面があるように思っていたが思う以上に友好的でほっとしていた。そこに呆れたような声でリドルは噛みついた。

 

「ふん、教科書を全部読んだくらいなにさ。そんなの当たり前だろ。」

 

それに対してルツではなく、ムーディーがたしなめるように言った。

 

「そうだとしても、勉学に対する姿勢は褒められるべきだろう。」

 

それに対してリドルはまた、驚いた顔をした。目の前のそれが自分にそんなことを言うなんて考えてもいなかったのだ。

 

「お前だってそう言われて、いい気分にはならないだろう?」

 

リドルはそれに対して不愉快そうな顔をしたがさすがに言い過ぎたと理解したのか、悪かったよと返事をした。

オーガスタは唐突にリドルをたしなめ始めたムーディーに不審な目を向けた。

 

「あんた、どうしたの?」

「まあ、どうかと思うことは言ったといた方がいいだろう。」

 

オーガスタはそれに意外そうな目をしたが、さほど気にはならなかった。なんとなく、ムーディーはリドルが逃げてそうな印象であったが、そうはいっても元より人がいい。

オーガスタは特別、その喧嘩を不快には感じなかった。

弟妹のいる彼女は、リドルのそれが焼き餅であることを理解していた。幼いその駄々について今のところ怒ろうとは思わなかった。

 

「そういえば、二人はどこの寮に入りたい?」

 

オーガスタはともかくと話題を変えることにした。それは新入生にとって何よりも食いつくものだろう。

それにリドルとマクゴナガルはぱっと顔を上げた。そうして、マクゴナガルはどこかうきうきとした顔をする。

 

「えっと、あまりどこというのは考えてなくて。でも、母さんはグリフィンドールだったから。」

「あら、なら私と同じ所に来るかもね。」

「そうだといいですね。」

「リドルはどこがいいんだ?」

 

ムーディーがそう言った。その時、ムーディーやオーガスタ、そうしてマクゴナガルはそれぞれで彼の行きたがる、または行くであろうと寮を予想した。

レイブンクローか、それともスリザリン。

なんとなくであるが、彼はそれに対して何よりも適性があるだろうと考えた。ルツによって事前情報があるのなら、彼はなんとなくレイブンクローにでも入りたがるのではないかと考えた。

リドルはムーディーの言葉に簡単に答えた。

 

「ハッフルパフ。」

 

それに三人は目を丸くした。

 

ハッフルパフ?

いや、聞き間違いか?聞き間違えるほど発音が似ていることなど無い。ならば、聞き間違いなどではない。

 

(無理だろう。)

 

それは三人が同時に思ったことだった。リドルという少年の、性質、能力、もろもろと考えてもハッフルパフに入れる要素などはない。

 

「リドルはハッフルパフに入りたいのかい?」

「そうだよ。」

 

リドルはふんとすました顔でルツに言葉に頷いた。ルツは特別驚いた顔もせずに、ゆるゆると目を細めてそれに頷いた。

 

「寮で勉強のカリキュラムに違いは無いんだろ?」

「うん、そうだね。まあ、後々の伝手だとか、寮の空気とかはあるけれど。」

「それなら、別にどこでもいいだろう。なら、ハッフルパフに入ってお前の世話をしないと。いつまでも他人に迷惑かけてられないだろう。」

「そっか、リドルに心配かけてしまってるね。ごめんよ。」

 

なんともほのぼの、というのだろうか。そんな会話を前にムーディーたちはいいのだろうかと顔を見合わせた。

万が一にも、リドルがハッフルパフに入れることはないと思ったのだ。

けれど、ルツはそれにそうかあと微笑んだ。そうして、リドルの頭をそっと撫でた。

 

「リドル、君がそこに行きたいというなら、私はどこにでも行けばいいと思うよ。でも、これだけは忘れないでね。君が、どの寮に入ろうと、私はそれを誇りに思うよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、そんなすねた顔しないでよ。こっちまで鬱々しくなるじゃない。」

「うるさいな。放っておいてくれないか?」

 

リドルは鬱々とした気持ちでボートに乗っていた。学校まではルツと共に入れると思っていたが、予想に反して一年生だけは湖を小舟に乗って学校に向かっていた。

オッグという森番に連れられて、リドルはまるで夜空が溶け込んだかのような湖を眺めた。

大イカに挨拶をしておいで。

リドルはルツに言われるままに小舟に乗り込んだ。そうして、同じ船に乗ったマクゴナガルはそんなリドルの態度を呆れたように眺めた。

姉が恋しくてすねるその少年は、自分の知る性悪さとは無縁のように見える。

その時、マクゴナガルは勢いよくリドルの背を叩いた。

 

「リドル、ねえ!」

ボートの縁で湖を眺めていたリドルはそれに顔を上げた。そうして、リドルは、眼を大きく見開いた。

 

美しいものを、リドルは見た。

 

 

闇夜に浮かんだ、壮大な、そうして美しい牙城。

ざわざわと、なんの声かわからない、けれど、何かが自分に語りかけてくる。

おかえりと、そう、言っている気がした。

リドルはそれに魅入られたように見つめた。

 

ルツが言っていた、遠い昔、彼女の先祖が先を託す子どもたちのために作った学び舎。

誰かと共に生きていくためにある場所。古きを知り、新しきを見つける場所。

ホグワーツ魔法魔術学校。

リドルは、ただ、理解する。自分は、ここに帰ってきたのだと言うことを。

 

 

小舟を下りた先で、現れたのはサンタクロースのような老人だった。リドルは己が苦手とする存在に眉をしかめた。

 

「おお、ようこそ。一年生諸君。ここからは儂が引率を引き受ける。遅れぬようにしっかりついてきなさい」

 

現れた、アルバス・ダンブルドアは少年のほうをちらりと見て、そうしてパチンとウインクをして見せた。リドルはそれにふいっと視線をそらした。

 

 

リドルは荘厳な城の階段を上がり、じっとその扉を見つめていた。

不安そうに教科書の内容を呟いているマクゴナガルのことなど無視していた。寮の選定内容については知っている。

が、それをわざわざ他人に教えてやるような親切心など持っていなかった。

それよりも、リドルにとっては気にするべきことがある。

 

ダンブルドアに連れられた、先。

四つの寮の先輩たちも、輝くような銀食器も、盛られたごちそうも、宙に浮かんだ蝋燭。全てが思考の範囲になかった。

リドルはじっと、教師たちが待つ長机の前に連れてこられた。

教員用のテーブルは数段高い場所に座していたが、その前には一つの椅子と、そうして古ぼけたとんがり帽子があった。

それにリドルは眼を輝かせた。それは、リドルがずっと待っていたものだった。

帽子の皺が集まって、ついには顔のようなものになる。人面のような模様を持った帽子は、高らかに歌い始めた

 

 

 

やあやあ、来る子どもたち!

そんな眼をしないでおくれ!私は薄汚い帽子に見えたとしても、何の役にも立たないように見えたとしても。私は誰より賢い帽子!

あなたの行くべき場所を示す帽子!

 

遠い昔、偉大なる魔法使いたちが、私に知恵を授けたのです!

勇敢なるあなた!誰よりも勇ましく、戦うことの出来るあなたはグリフィンドールに行くといい!

賢いあなた!誰よりも賢しく、知ることを愛するあなたはレイブンクローに行くといい!

公正なるあなた!誰よりも誠実であることを是とするあなたはハッフルパフに行くといい!

狡猾なるあなた!誰よりも願いに忠実なあなたはスリザリンに行くといい!

 

さあさ、被ってごらんよ、この私!あなたがあるべきその場所に!あなたが行くべきその場所に!どうぞ、私が導こう!

 

 

帽子が歌いおわると、大広間は拍手の音で満たされる。

広間中の全員から喝采を浴びた帽子は、礼儀正しくお辞儀をして応えた。それにリドルは本当に帽子に意思があるように感じられた。

拍手が鳴り終わると、ABCの順に生徒たちが呼ばれていく。

そうして、等々、リドルの番がやってきた。

どくどくと、心臓が鼓動する。少しずつ、リドルは階段を上った。

生徒たちは、リドルの容姿に目を見開いた。

リドルは、ひどく美しい少年だった。

まるで、絵画の中から現れたかのような美しい見目。けれど、その体は非常にたくましい。

森の中での生活はリドルの体を十分に成長させていた。

まるで若い獣のようにしなやかな体に、少年の危うい空気と、美しい顔立ちはそのアンバランスさに生徒たちは魅入られたように見つめた。が、リドルにとってはそんなことに興味は無かった。

とんと、イスに座る。そうして、とんがり帽子がかぶせられた瞬間。

 

ハッフルパフ!!

 

頭の中で盛大に叫んだ。

 

 

組み分け帽子は基本的に被った瞬間に答えを出すことが多いらしい。リドル自身、聞く限りどの寮かと言われるとスリザリンかレイブンクローであると考えられた。

ただ、リドルの願いはただ一つ。

ハッフルパフに入ること。

組み分け帽子は本人の意思を尊重してくれる。それを聞いていたリドルは、それにかけることにしたのだ。

 

 

組み分け帽子は困惑していた。

何と言っても、今までハッフルパフを自ら望んでいたものなどそうそういなかった。

何よりも、組み分け帽子は帽子を被ってすぐに彼が、誰であるかを理解した。彼の中にある、創始者たちの意思が、少年が正当なるその血を継いでいることを理解させた。

そのため、組み分け帽子はかぶせられたその瞬間、スリザリンと叫ぼうと思ったのだ。

が、間髪入れずに響いた少年の意思に固まってしまった。

 

(あー、その、ハッフルパフに入りたいのかい?)

(そうだよ!ハッフルパフは誰でも受け入れるんだろう?なら、希望してる僕だって入って良いはずだ!)

 

そんなへりくつな。

帽子は頭なんてどこかわからないけれど、頭を抱えたくなった。

そんな少年の意思なんて無視してしまえばいいけれど、確かに少年はほかの寮に入るための資質がある。ならば、できるだけ当人の意思は尊重する。それが、組み分け帽子としてのあり方だ。

 

(その、君はスリザリン、それか、レイブンクローに入る資質がある。どちらかだ。)

 

それにリドルの眉間に皺が寄る。よりにも余ってスリザリンだなんて。

もちろん、自分にそういった資質があるのは認めるところだ。けれど、スリザリンにだけはリドルは絶対に入りたくなかった。

スリザリンは四つの寮の中でも孤立しているそうだ。血という、生まれた頃から決められたそれを是とする寮は最初から選ばれる者が決まっている。

ルツはそんなことは気にしないだろう。けれど、周りは違う。

学校内でも劣等生が多いと思われているハッフルパフとなれ合っているとわかれば五月蠅いものが出てくるだろう。

リドルはそれを黙らせる自信はあったが、いちいちそれを気にしなくてはいけないような生活はごめんだ。

 

(ハッフルパフ!絶対に、ハッフルパフ!)

 

帽子はそれに困惑した。だって、この少年は、彼の人の血統なのだ。グリン以来の、創始者たちの末の子。

だというのに、この子には素質があるのに拒否するなんて。

無理矢理にでも、レイブンクローにでも入れてしまおうか。

そう考えたときだ。

 

(おい!絶対にハッフルパフに入れるんだ!)

(それはできんと・・・)

(入れるんだ!)

 

何という確固たるべき意思だろうか。普段ならば、さっさとスリザリンと叫んでしまうだろう。けれど、その、はっきりとした始祖の末の少年の言葉は帽子にかけられた魔法に影響を及ぼした。

それはバグだ。組み込まれた帽子に起こった、確かな齟齬。

 

(き、君はスリザリンに入れば必ずといっていいほど偉大になれる。どうだ、それは魅力的だろう?)

 

その言葉にリドルの中の野心が少しだけ振えた。

偉大になれる。己の名をとどろかせる。それは確かに魅力的なものだった。一瞬だけそれに悩んだが、その時、ハッフルパフの席に視線が向かった。

そこで見つけたのだ。

にこやかに談笑する、ルツとムーディーの姿を。

それにリドルの眉間の皺が深くなる。

 

(あいつ!!)

 

それにリドルの中で入学するときに決めていたことが蘇った。

ホグワーツでは、基本的に同じ寮で動くことが基本になる。

もしも、寮が違えば少ない休み時間ぐらいを共有するしかない。長い学校、唯一の夏休みはそれこそ短い。

同じ学校であっても、ルツと共に入れる時間は微かなものだ。その間に、ムーディーはルツと一緒にいるのだ。

ただでさえ、学年も違うというのに。同じ年格好の二人は、なんというか、一緒にいるのが普通に見える。彼らは自分の知らないところで交友を深めるのだろう。

リドルの中で、嫉妬心がめらめらとこみ上げる。

 

(ハッフルパフ!)

 

一瞬、言いくるめられると思った帽子にリドルは叫んだ。

 

(し、しかしなあ。)

(絶対にハッフルパフだ!)

(無理だ、レイブンクローで・・・)

(ハッフルパフ!絶対にだ、このポンコツ帽子!!)

(無茶を言わんでくれ!)

 

拒絶の意味を込めた帽子のそれに、堪忍袋の緒が切れたリドルは、小さくはあっても言葉を吐いた。

パーセルタングである彼の言葉、蛇の言葉で帽子に命令した。

 

「僕をハッフルパフに入れろ!」

 

シューシューという息を吐くようなそれを、生徒や教師は苛立ちのため息であると気にもとめなかった。

けれど、ダンブルドアだけは、それが彼の言った蛇語であると理解した。

組み分け帽子は困り果て、混乱した。

 

それは彼の中の、一人の創始者の証のような言語での命令。

魔法使いにとって、言葉とは魔法そのものだ、力を振るうための鍵だ。その言葉に、組み分け帽子の中に構築されたシステムにバグが起こった。

 

スリザリンはダメだという、レイブンクローさえも拒絶した。ハッフルパフに入る気質をあまりにも彼は持っていなかった。

本来ならば、妥協してさっさとレイブンクローに入れてしまうだろう。

けれど、組み分け帽子はバグっていた。

スリザリンも、レイブンクローも、組み分け帽子の選択肢は潰された。けれど、ハッフルパフだけはあり得ない。

が、ノイズの走ったシステムに一つの妥協案が示された。

確かに、彼はその寮にはふさわしくないかもしれない。けれど、皮肉なことに、本来の彼ならば持っていなかったものがリドルにはあった。

グリンという庇護者のための名誉を重んじ、そうして、彼を愛した少女への一心の執着と言える愛と、幼い献身があった。

少女のためにならば、己を奮い立たせる勇気があった。

その微かな素質に、ノイズの走ったシステムは、答えを導き出した。

 

「グ、グリフィンドール!!」

 

その言葉に生徒たちは歓声を上げた。その、美しい少年が己の寮に加わるのだとグリフィンドール生は眼を輝かせた。

ダンブルドアだけは珍しく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。そうして、リドルは絶望しきった顔をして、茫然とそれを聞いていた。

そうして、彼の姉貴分は、これ以上無いほどに嬉しげに目一杯の拍手をした。

 

 

 

 






何よりも苦労したのは、組み分け帽子の歌詞。
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