孤独な蛇は、平淡な樹木の夢を見るか   作:藤猫

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人生で一番に最高で、最悪の日

 

その時、トム・マールヴォロ・リドルはこの世で最高の日から、最悪の日まで転落した。

 

「・・・ねえ、もう少しそのしけた顔、なんとか出来ないわけ?」

「うるさい、お前には関係ないだろ?」

 

つんとすまして、ごちそうを目の前にしてなお、机に突っ伏す少年に、ミネルバ・マクゴナガルは呆れた顔をした。

そうして、周りの一年生もリドルの様子に困惑しながら、それでも目の前にあるごちそうに夢中らしく不思議そうな視線だけを寄越す。

リドルはちらりとハッフルパフ寮の机を見る。人垣のせいで目当ての人物は見えない。いや、見えない方がよかっただろう。

何せ、リドルの目当ての人物はきっといつも通りに笑っているはずだ。

 

ただ、そこにいて淡く笑っていることだろう。

 

ルツ、以前聞いたことがある。

 

ルツって、ルツ記から来てるの?

リドル、そんな敬虔な子だったの?

まさか、時々、そういう場があったんだよ。

いいや、違うよ。私は、単純にルツという単語から来てる。

何か、別の言語なの?

ルツというのはね、友人だとか仲間、という意味なんだよ。

 

(・・・ルツは、誰だっていいんだ。)

 

その名前の通り、それは、誰が側に居たとしても親しく、穏やかに振る舞う。リドルが居なくたって、どうせ。

 

 

 

寮は、一度決まれば変更することが出来ない。

なぜなら、それは創設者の意思だからだ。

忌々しい、あのボロボロの帽子のことを思い出す。

 

(燃やしてしまえばいいんだ!)

 

そんな苛烈なことを考えれども、リドルは抵抗もせずにグリフィンドールの上級生に連れられていく。

駄々をこねたいという気持ちはあったが、そんなみっともないことが出来るほどプライドがないわけではない。

 

ムスくれて、拗ねて、グリフィンドール寮の、割り当てられた部屋にやってくる。そこは、彼の望んだ黄色ではなく、赤と金に彩られた部屋だ。

同室の少年達が挨拶をしてくるが、我関せずでそのまま寝床に潜り込んだ。

 

(なんだよなんだよ!)

 

人生で最高の日になるはずだったのに。

その日は、リドルの人生で最低の日になった。

 

 

 

 

マクゴナガルはどうしたものかと頭を悩ませていた。

というのは、少しだけ距離を置いているとは言え、隣だって座っているリドルのことだった。

ホグワーツに入学してから数日経ったが、彼の不機嫌さは日に日に増していく。 

 

(いつまで拗ねてるのかしら?)

 

ホグワーツで望んだ寮に入れないというのは、ままあることだ。それこそ、代々その寮であることが当たり前でも、帽子の判定によってそれが覆されることはよく聞く話だ。

 

(大体、こいつがハッフルパフとか絶対にありえなかったのに。まあ、グリフィンドールも、あり得ないと言えば、そうだけど。)

 

その要望で、全力の不機嫌さを醸し出しているリドルに近寄る存在はいない。見目の良い顔立ちに、同級生達よりも恵まれた体躯、大人びた空気、その他諸諸によりリドルに近づく人間はいない。

もちろん、思春期だらけの子どもたちの中でそんなリドルの態度が反感を買わないわけではない。

けれど、そんなことを欠片だって気にもとめないほどに、リドルは優秀だった。

 

一年生ですぐにグリフィンドールの点数を稼ぎに稼ぎ、すでに教師陣の覚えもめでたい。

上級生達は、入学してすぐの新入生が不安から殻に閉じこもることはよくあるようでひとまず様子見と観察している。

そうして、リドルは見事に同級生から孤立していた。

その感情は様々だ。羨望、嫉妬、媚びを売るものさえいた。けれど、明確に、リドルに向けられるものが一つあった

それは恐怖だ。

優秀で見目も良いリドルからあふれる高圧的な空気はまだ幼い子どもたちを恐怖させた。

マクゴナガルはその少年の幼さを知っている。

そのためか、彼女はリドルのことは恐ろしくはない。それは、ただ、寂しいだけの少年だ。母親に甘えられないときの弟たちが拗ねるときとそっくりなのだ。

「・・・・いい加減にしたら?」

「何がさ?」

「そうやって拗ねるの。」

「・・・・拗ねてない。」

 

そんな不機嫌そうな声で何を言っているのだろうか。

マクゴナガルはちらりと隣を見た。そうすれば、ホグワーツの歴史に関する本を読んでいるリドルがいた。

リドルがホグワーツの歴史について調べているのは知っている。転寮という制度がない学校に実例がないか、今でも足掻いているのだ。

 

元より、性格的にハッフルパフに入れる器ではなかったのだろうに。

 

マクゴナガルはそう考えるが、さすがにそれを言うほど非道ではないし、愚かでもない。

そう言うならばマクゴナガルはリドルのことを気にする義理などないのだけれど。

元より善良であることと、そうして、気がかりなのはルツのことだった。

 

「じゃあ、会いたがってるルツをさけるのはなんで?」

 

それにリドルの睨みは更にキツくなる。

 

「・・・・会いたくないから。」

 

吐き捨てるようにそう言ってソファから立ち上がる。そうして、男子寮のほうに歩いて言ってしまった。

それにマクゴナガルはため息を吐いた。

 

(・・・・どうしようかなあ。)

 

 

(くそ!なんだよ!)

 

リドルはつかつかと足早に学校の通路を進んでいた。いつも通り、授業を終わらせて、すたすたと歩いていた。

丁度、人通りもなく誰もない廊下だ。

彼は、丁度、図書館からの帰り道を歩いていた。というのも、リドルはこの頃ずっとホグワーツの歴史について調べていた。

転寮というものをした実例がないかどうかだ。

けれど、残念ながら、そういった歴史はまったくと言っていいほど出てこない。寮の振り分けは創始者の意思だ。ならば、それに逆らえるものはいない。

リドルは頭の固い創始者達を憎々しく思いながら廊下を歩く。そんなとき、彼に声がかけられた。

 

「リドル!」

 

その声に思わずリドルが反応してしまったのは、聞き慣れたものだったせいだ。

振り向いた先にいた、見慣れた少年。

 

「ムーディ・・・・」

「お前、もう少し色々隠したらどうだ?」

 

 

 

「お前、すごいらしいな。ハッフルパフにまですごい新入生が入ってきたって有名だぞ。」

「・・・・だから?」

「褒めてるんだ。」

 

リドルはムーディを振り切ろうとしたが、さすがにあからさまに避けるように走り去るようなことも出来ずにそのまま歩き続けていた。

ムーディはそんなリドルに呆れつつ、そのまま横を歩く。

 

「一年生で、寮対抗の点も相当稼いでるらしいじゃないか。今年の優勝はグリフィンドールじゃないかって話だ。」

「・・・・あれは、一人でなんとかなるってもんでもないんだろ。なら、今からそんなこと言ったってしょうがないだろ?」

「それはそうだが、グリフィンドールには優秀な奴も多いからな。それに、お前みたいなのが加わったんだ。そんな噂が出るのも仕方がないだろ?」

 

リドルは不機嫌そうに余計に顔をしかめた。

 

ムーディのことは嫌いだ。

だって、その男はリドルが居るはずだった場所を奪ったのだ。けれど、それだって仕方がないと思っていた。何せ、彼がルツの隣にいるのは同い年だったおかげだ。

年下のリドルは、入学が遅れてしまったけれど、今年からは違う。

置いてきぼりの中、ようやく追いついたというのにこのざまだ。

 

(・・・・帽子は、こちらの言い分を聞いてくれなかった!)

 

年が離れていても、寮が同じならばまだよかった。

授業は無理でも、他の学校生活に関しては寮が同じならばなんとかなると思っていた。

だというのに、年も違い、おまけに寮が違えば関わりなんて殆どない。

 

 

いいかい、リドル。魔法使いはね、新しい同胞が暗闇に迷わないように灯をかしてあげるんだ。

 

ルツの言ったことを思い出す。

 

けれど、それはいつかルツがリドル以外の誰かの手を取ると言うことだ。いつかの自分のように、手を取ってあの家に招き入れるのだ。

その時、自分はどこに居るんだろうか?

 

ムーディとルツが共にいるのと見た時、その現実をリドルはまざまざとした質感とともに実感してしまった。

いつか、自分にしてくれたかのようにああやって隣だって違う誰かに手を差し出すのだ。

 

その時は、その時は、あの家にリドルの居場所はあるのだろうか?

 

リドルの、リドルだけの部屋。リドルにだけ贈られた物。誰にもお下がりとして差し出さなくて良い物。

それが、自分だけのものじゃないなんてこと、気づきたくなかったのに。

 

「ルツが会いたがってるぞ。」

 

それにリドルの苛立ちが頂点に上がる。普段ならば、まだ、冷静に、冷徹に、淡々と振る舞えたのに。

あの手が自分から離れていくかもしれない事実が、どうしても耐えられない。

 

「あんたには関係ないだろ!?」

 

叫んだ少年が、すでに暮れて赤金色に染まった廊下の中で浮いていた。

 

「僕と、ルツとの間にあんたは関係ないだろ!?いくらルツとあんたが仲良くたって、僕とルツの関係に踏み込むような資格なんてないだろうが!」

 

ぎらぎらと、赤い瞳がムーディをにらみ付ける。

その、血の通いながら、冷たい敵意を潜ませる瞳にムーディは怯えるように一歩、後ずさってしまった。

それにリドルははっと嘲笑するように笑いながら、胸の中で苛々と火が燃える。

 

どうして、こいつはルツと一緒に居るのだろうか?

 

寮、ただ、帽子にそう言われたから振り分けられただけで、どうして自分の望みが叶わないのだ?

誰でも受入れるというのなら、自分だって資格はあるはずなのに。

 

入学してからルツが自分に会いたがっているのは知っている。

けれど、リドルはわざとルツを避けた。結局、別の寮で、年も違う存在を避けるのは難しくない。

そうだ、そうやって、食事の時間をずらしたり、寮に籠るだけで簡単に会えなくなるのに。

 

ルツは、ずっと平気そうだ。

 

いいや、きっと、ルツはわかっているのだ。いつか、手を貸されただけの、力だけで繋がった自分と別れが来ることを。

 

自分はいつか、あの家を飛び立たなくてはいけない。

 

だから、会えない。

きっと、ルツはリドルが遠くなってもいつも通り穏やかに笑っているのだろう。

それがわかっているから、リドルはルツに会えない。

会いたくない。

 

大好きだって言うくせに、あまりにも彼女はリドルの手を離すことにためらいがない。それが、とても、とても、とても。

 

リドルの何かを重くさせる。

 

リドルはムーディに何を言っているんだろうと息を吐き、そうして彼に背を向けて帰路につこうとした。彼は、以前と同じように自分を恐れたままだった。

けれど、また、背後からムーディの声がした。

 

「リドル。」

 

声をかけてきたことが意外で、リドルはムーディに振り返った。そうすると、ムーディは何故か、ルツがリドルを見るときと少しだけ似ている表情をしていた。

 

「ルツはな、お前に渡したいものがあるんだってお前に会いたがってたんだ。」

「・・・・で?」

 

吐き捨てるようにそう言うと、ムーディはリドルと目を合わせるように、今まで恐れていただろう己のそれと合わせるようにのぞき込んだ。

その目は、どこか、穏やかだった。

 

「リドル、僕とルツは確かに友人だ。そうして、同寮の同級生だ。」

「だから!」

「でもな、それと同時に、あいつはお前の家族だ。あいつが、どこの誰であろうと、あいつはお前の家族のままなんだ。」

 

まるで、己の内にある重くのしかかるような何かを見透かされたかのようだった。

思わず黙り込んだリドルに、ムーディは少しだけ楽しそうに笑った。

 

「あいつはな、鏡のようなやつだ。悪意には悪意を返すし、善意には善意を返す。僕とあいつが連んでいるのは、まあ、成り行きもあるが。それ以上に、ルツは浮世離れしてる奴で。俺がリアリスト過ぎる部分があるからだ。互いに極端な部分があるからな。でもな、リドル、お前だけは別だ。」

「別って、何が!?」

「お前がどんなに悪意を返しても、あいつが悪意を返した事なんてあったか?」

 

その言葉にリドルは黙り込んだ。

リドルとルツは最初はお世辞にも相性が良かったわけではない。何せ、リドルにとってルツは余りにも未知で、故に、遠ざけて、近づけなかった。

けれど、ルツはリドルに近づいた。

 

「・・・あいつは、来る者を拒まないが。去る者を引き留めない。ゆえに、あいつはどこにでもいるが、どこにも止まらない。だから、僕として言えるのは一つだけだ。」

 

ムーディはじっと目の前の、迷子のような子どもを見た。

それに、ムーディは、ああと思う。

 

あのつかみ所のない同寮が言ったとおりだった。

この子どもは、きっと、これからどうにもでなれるのだろう。

悪しきものに、善きものにも。

 

「あいつは、これから、何者になったとしても。きっと、トム・リドルの家族であり続けるんだろうと思うぞ。僕と同寮でなくなった後も。」

 

ほら、行ってこい。

ムーディはリドルの肩を叩いた。

 

「あいつが手を引いてやる奴がいないと迷子になるのは、お前が誰よりも知ってるだろう?」

 

それにリドルは全てを理解したかのように、ムーディに背を向けて走り出した。

 

 

 

「よかった、リドル。この頃、会えなかったから。」

「・・・別に。」

 

ぷいっと顔を背けたリドルにルツは変わること無く穏やかに微笑み、そうして夕暮れに包まれた廊下にあるベンチに座った。

もうすぐ、寮に帰る時間のために人気はない。

 

二人がいるのは、グリフィンドールの近くの廊下に置かれたベンチだった。リドルに会うためにグリフィンドールにやってきたルツと丁度かち合ったことが幸いだった。

 

(ここ、どこだろう?)

「ここね、少し特殊な所にある場所だから。たぶん、管理人さんも。校長先生もなかなか来れない場所だから、あとで来る手順教えてあげるね。」

「・・・なんでルツが知ってるんだよ。」

「そりゃあ、ご先祖様にとっては庭のようなものだし。ここを作るときだって色々と手を入れてるからね。もう、先生達だって知らないような部分もたくさん知ってる。」

「そうなの?」

「ああ。」

 

ルツはそう言った後、物悲しそうに、どことも知らない宙を見た。

 

「・・・・もう、それを知っているものは居ないだろうけど。ロウェナの娘は死に絶え、ヘルガ、サラザールたちも直系は絶え、ゴドリックもまた、すっかりと絶えてしまった。血筋ではなく、せめて、知恵と物語を伝えられればよかったんだが。それさえも出来なかった。この城のたわいもない秘密も、楽しさも、恐ろしさも、もう、どれほど、誰が知っているんだろうか。」

 

そう騙る少女の横顔は、なんだか、とても老いていた。老いて、そうして、もの悲しそうで。

全てに置き去りにされた老人のようだった。

 

「ルツ?」

 

リドルのそれにルツはああと頷いた。そうして、ごめんねと頷きながらずっと抱えている箱を取り出した。赤い塗装がされている、簡素な箱だった。

リドルはそんな光景を見つつ、落ち着かなさそうに体を揺らした。

自分が、ルツを避けていた事実を本人から指摘され、何故と問われることが恐ろしかったのだ。

 

「それで、君にはこれをあげようと思っていたんだ。」

「それは?」

 

リドルのそれに、ルツは楽しそうに笑い、そうして、おもむろに自分の人差し指の先を噛みきった。

 

「な、何してるんだよ!?」

「これはね、ゴブリンに作って貰ったものなんだ。血筋のものしか開けられないから。鍵が血なんだよ。」

 

そう言って、ルツは、何かの紋様を箱の表面に描いた。そうして、ルツは箱に語りかけた。

 

「おはよう。」

 

その言葉と共にかちりと鍵が開く音がした。そうして、ルツは開けられた箱をそっとリドルに向けた。

箱は、布張りにされており。その中に何か、畳まれた布が入れられていた。

 

「・・・これは?」

「見てみるといい。」

 

それにリドルはその布を手に取ってみた。それはベルベッドのようで、さらさらとしていた、けれどそれと同時につるつるとしていた、それと同時にまるで水のようになめらかだった。

そっと畳まれた布を広げると、そこには、まるで、精密な絵が描かれたかのような刺繍がされていた。

 

金と赤の糸を主に使っていたが、それ以上に数え切れないような色を使って、金の獅子と金の髪をした女が刺繍されていた。

 

リドルは、それが魔法の力が込められていることをすぐに理解した。

 

「ねえ、これって!」

「これはね、うちのご先祖様から代々伝わってるものなんだよ。ゴドリックから貰ったものらしいんだけど。」

「ルツの家の家宝ってこと?」

「そんな仰々しいものじゃないよ。魔法の道具ではあるんだけど。どういうものなのか、よくわからないんだよ。」

「え!?」

「うちのご先祖様は父親のゴドリックと仲が悪くてね。これも、ゴドリックから贈られたはいいものの、次世代に語ることもなくそのまま。でもね、一つだけ遺言が残ってるんだよ。」

「遺言?」

「ああ。もしも、次に、グリフィンドール寮に入るものがいたのなら、それに渡すようにって。でも、知っての通り、うちの人間でグリフィンドールに入った人は出なくてね。だから、よかったよ。遺言が守れて。」

 

その言葉に、リドルは目を大きく目を見開いた。

 

「いいの?」

「当たり前だ。ようやく出た、うちの家出のグリフィンドール生だ。」

大事にしてね。

 

静かに微笑む、少女にリドルはじっとその刺繍のされたものを見る。

ハンカチには大きく、どちらかというとタペストリーというには小さなもの。

でも、それは、何よりも、ルツの家にまつわるもので。

 

それは、何か、あの家にずっと自分がいてもいいという担保のようで。

 

「ねえ、リドル。きっと、入学して忙しかったとは思うけど。慣れたら、もっと一緒にいれたらいいね。」

「・・・・そう、思ってるの?」

「違うの?」

 

きょとんとした顔に、リドルは何と言えばいいのかわからずにその布を見るような形で顔を下に向ける。

そんな中、ルツは嬉しそうに隣だったリドルに体を寄せた。そうして、その柔らかな髪に頬を寄せて、楽しそうに笑った。

 

「時間が出来たら、ホグワーツを案内してあげる。誰も、もう忘れてしまった場所も、みんなが知ってる場所も、たくさん案内してあげる。ここはね、人生ではきっと、本当に瞬くような時間に過ぎない長さを過ごすけど。ここはね、どんな人にとっても、一時的でも、招かれた誰かの居場所になるんだ。寄る辺なきものを、血でも、人種でも、財でもなく。在り方だけを受入れるんだ。」

きっと、君も好きになるよ。

 

温かな体温が、ルツの体から伝わって。それが、何か、ひどく目の奥が熱くなる気がした。

渡されたグリンとして証であろうそれに、リドルは何か、全部ががたがたと揺れてしまって。

問う気もなかったのに、聞いてしまった。

 

「・・・・お前は、嫌じゃないのか?」

「何がだい?」

「同じ、寮じゃないこと。」

「寂しいよ、寂しいけど。でも、嬉しかったんだあ。」

グリンがずっと待っていた、懐かしい、グリフィンドールの門をくぐった子どもだったから。

 

「嬉しかったなあ。」

 

まるで、遠い昔の物語が、本当であったことを嬉しがるような、無邪気な声だった。ルツはそっと、横からリドルの腹に片手を回し、そうして、もう片方でリドルの髪を梳る。

 

「君が、勇気があって、そうして誰かのために戦える子だって。そんな君を誇らしいと思うのは当たり前だ。なら、寂しいけれど。それでも、君がその赤と金を纏うことが、とても嬉しいから。」

だから、この寂しさぐらいは我慢しないと。私は、君の導き手なんだから。

 

ルツは己の服の裾をリドルが掴んだことを理解した。顔を下に向けているせいで、顔は見えない。けれど、自分の服にじんわりと暖かな水気を感じて何も言わない。

 

「・・・・なら、ちゃんと、時間を取ってやる。」

「そうか?」

「ああ、そうだ。もう、グリンの子どもは僕と、お前、だけなんだものな。だから、お前と同じように。この城のことも、覚えておいてやる。」

「・・・・そっか。そうだね。私が覚えていることを、君も、覚えておいて欲しいな。」

 

鼻を啜る音がした気がしたけれど、ルツはそれに何も言わなかった。

 

 

 

少女が、歩いている。

本来ならば、校長がいるはずの、校長室だ。

 

(本当は、違うけれど。)

 

遠い昔、この学校に始祖の四人が居たとき、校長という物は無かった。故に、ここは、彼ら四人が去った後に作られた部屋なのだ。

 

(ううん、違う、一応、皆がそろい話し合うための部屋だったんだろうけど。)

 

校長室を歩いてなお、歴代の校長の絵画たちはその少女に反応しない。故に、少女は淡々と歩き、そうして古びた帽子の前に立つ。

 

「・・・・何のようだ?」

「君に聞きたいことがあるんだ。」

 

そう言って、少女はその帽子を被る。そうして、幾つか言葉を交わす。

 

「・・・・そっかあ。」

 

帽子を脱いだ少女はため息を吐いた。

 

「まだ、残ってたのか。サラザールの血筋は。そうか、それなら。うーん。」

秘密の部屋の扉、開かないといけないのかな?

 

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