孤独な蛇は、平淡な樹木の夢を見るか   作:藤猫

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一応、リドルは七歳ぐらいなので、これぐらい幼くてもおかしくないかな。
リドルが魔法界に行く時が早まってます。
次回からは少し、ルツ単体だけになります。


非日常の話

「・・・・・ルツに、面会ですか。」

 

その言葉に、アルバス・ダンブルドアは不思議そうな顔をした。

 

「ルツ・グリンが何か?」

「いえ、ルツ本人には問題はないのですが。」

「と、言うと?」

 

その日、ダンブルドアは新しくホグワーツ魔法学校の生徒になるルツ・グリンの面会のためにとある孤児院にやって来た。

そして、もう一人、何の偶然かは分からないが、その孤児院にいるというもう一人の入学予定者にも面会をしておこうと計画していた。

ただ、やけに渋られた反応にはさすがに反応せざるをえなかった。

 

「彼女は、良い子ですよ。大人しく、院の手伝いも率先してくれます。ただ、彼女と同室の、リドルがねえ。」

「リドル?」

 

その名前には聞き覚えがあったダンブルドアは、反復する様にその名を呼んだ。

 

「ええ。ルツが来てからはまだ大人しくなったんですが。他の子とよくトラブルを起こしていて。ルツは何くれとリドルの世話を焼いていますが。あの子、幾度か引き取りの話はあったんです。ですが、その話が出るたびに何故か立ち消えて。」

 

呪われている様で。

 

言外につけたされたそれに、ダンブルドアは顔を歪めた。

グリン、という名には覚えがあった。十数年前にも同じ姓を持った少年が一人、学校を卒業していったはずだ。

良くも悪くも、話題には事欠かなかった少年のことは、ダンブルドアもよく覚えている。

魔法族らしい苗字のルツのことは、おそらく彼の娘であることは予想は出来ていたが。

 

「ああ、ここです。」

 

ミセス・コールはそう言ってとある部屋の扉を叩いた。

 

「ルツ、あなたに面会です。」

 

開け放たれた部屋は狭く、小さな部屋に向かいあわせてベッドが置かれている。そうして、その真ん中に申し訳なさそうなキャビネットが一つ。

右側のベッドには、少年と少女は隣り合わせで座っており、革で製本された本を読んでいるようだった。

思っていた以上に仲睦まじ気な様子に、ダンブルドアは何故かほっとしてしまった。

ダンブルドアが部屋に入ると同時に、ミセス・コールが扉を閉める。それと同時に、黒髪の少年の方が素早く、年かさの少女の前に立つ。

ダンブルドアは、その後ろの少女に目を奪われる。

黄金の髪に、新緑の瞳は、彼の記憶する問題児とよく似ていた。

 

「・・・・こんにちは、ルツ・グリン。トム・リドル。私は、アルバス・ダンブルドアだ。」

 

トムと呼ばれた少年はダンブルドアをねめつける。

ダンブルドアは警戒心をあまり抱かれないように、近くに置いてあった椅子に座った。向かい合ったトムは、不審そうにダンブルドアを睨む。

そうして、吐き捨てるように言った。

 

「あなたは、ドクター?」

「いや、私は教師だ。」

 

それに、リドルは反論するために口を開こうとする。けれど、それよりも先に、ルツが口を開いた。

 

「アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。」

 

それに、二人の目がルツに向けられる。ルツは本を閉じ、じっとダンブルドアを見つめていた。

 

「リドル、警戒しなくてもいい。この人は、ホグワーツの先生だ。」

「ホグワーツって、前に言っていた?」

「ああ、そうだよ。そこの、変身術の先生だ。父さんも世話になったそうだよ。」

 

その言葉に、リドルは不審そうな表情を引っ込めはしなかったものの一応は引き下がる様な仕草をした。

それに、ダンブルドアは少しだけ意外に感じた。

リドルという少年に対して、ダンブルドアは、少しだけ遠い昔の親友と同じものを感じていたのだが。

リドルという少年のルツへの対応は、庇護しているという言葉がよく似合っていた。

それ故に、意外であった。

リドルという少年にとって、ルツという少女は守るに値する何かがあるようであった。

 

「・・・・・そう言えば、ホグワーツへ入学する年でしたね。手紙は、来ていませんが。」

「ああ。それは私が持って来たのだよ。ディペット校長の梟は年老いていてのお。」

「はあ。」

 

ダンブルドアはそう言って、どこからか蝋で閉じられた封筒を差し出した。ルツは、それを破り、中を見る。

そこには、ホグワーツの名と、己の名前が確かに書かれている。ルツはそれを確認すると、手紙をじっと見つめているリドルに差し出した。

 

「いいの?」

「別に良いよ。」

 

リドルは恐る恐るその手紙を受け取り、手紙を眺める。それを確認して、ルツはダンブルドアを見上げた。

 

「・・・・ところで、何故、あなたが私にわざわざ?」

「いやのお。魔法使いの保護者がおらんものの所には、我らが行くことになっておるんじゃ。ダイアゴン横丁に行く術もないじゃろう?」

「ああ、それなら納得です。なら、これから学校のものを買いに行くんですか?」

「おお、そうしようと思っておるが。大丈夫かの?」

「ええ。構いません。」

 

その時、リドルがルツの服の裾を引いた。それにルツは顔をリドルに近づける。

 

「本当に大丈夫なのか?」

「・・・・・そう言われると。なんか不安になって来るな。」

 

ルツがちらりとダンブルドアを見た。

確かに、そう言われると、自分はダンブルドアという人物の顔を知らないのだ。目の前の存在が、どこぞの人さらいではないという保証はない。

 

ルツとリドルは、そっとダンブルドアから距離を取った。

それに、ダンブルドアはおっほんと咳払いをして、おもむろにキャビネットの方を見た。

 

「あー。それでは、そうじゃの。少しばかり魔法を見せようではないか。」

 

そう言うと同時に、キャビネットが燃え上がる。

ルツとリドルは目を見開き、それを見つめた。そうして、リドルが叫んだ。

 

「止めろ!」

「・・・・どうやら、中のものが出たがっているようじゃの。」

 

その言葉に、リドルよりも先に、ルツがキャビネットに向かった。リドルは、それに思わずなのか、苦い表情を浮かべる。リドルは慌てて、その後を追う。

ルツは、燃えるキャビネットをものともせずに、中を開ける。

キャビネットの中には、ルツとリドルの上着や、私物が入っている。

そんな中に、ルツの見慣れないブリキ製の箱ががたがたと揺れていた。ルツがそれを手に取ると、その揺れは収まった。

 

「・・・・リドル、君こんなの持ってたか?」

 

リドルは、そのブリキ製の箱を見て、顔をしかめた。そうして、ゆっくりと顔を背けた。

ルツは、リドルの顔に、ああと頷きブリキの箱を開けた。

ダンブルドアもそれを覗き込めば、中には子どものおもちゃやらが雑多に入っていた。

ダンブルドアは、それがリドルが他の子どもから奪ったものであることを悟り、警告するように言った。

 

「人から、物を盗んではならん。」

 

何となく、いけ好かないと感じていたが、その言葉でリドルは本格的にダンブルドアという存在を嫌いだと感じた。

 

(・・・・・ああ、嫌な目だ。孤児院の、僕を疎ましそうに見る大人と同じ目だ。)

 

ただ、その魔法の腕に関しては、好奇心をくすぐられる。自分も、あれほどの腕を持つことが出来たのなら。そんな、認めたくはないが羨望を感じさせられた。

そこで、リドルは自分を見るルツに気づく。

リドルは、思わずルツから視線を逸らした。

ダンブルドアはリドルが視線を逸らしたのが、ルツであることを何となく察した。ルツはというと、ブリキの箱を持ってリドルに不思議そうに問いかけた。

 

「なんだい、リドル。君もこういうおもちゃ欲しかったんじゃないか。」

「違う!」

「恥ずかしがることも無いじゃないか。へそくりが貯まってるんだ。今度、買いに行こう。」

 

ルツはそう言ってまるでとっておきの秘密を話す様に、リドルに囁く。リドルは、ルツのその言葉に苛々としながら首を振る。

 

「頭湧いてるのか!違うって言ってるだろ!!」

 

どうして、この女はいつもこうなのだろうか。リドルの意図を微妙に湾曲して彼女は行動する。ブリキの缶に入っていたものたちは、リドルが仕返しに彼らの宝物をコレクションしていたに過ぎない。

盗ること自体が目的であって、盗ったもの自体に興味はないのだ。

 

「なら、どうして盗ったんだ?またなんかやられたのか?」

 

重ねて問われたそれに、リドルは動きを止めた。思わず、また視線を逸らしてしまう。それは、そうだと言っているのと同義だ。ルツは、全てを察して、ため息を吐く。

 

「リドル、何かをされたのなら、私に言えって言っただろう。誰にされたんだ?」

「何でもないって言ってるだろう!」

「なら、どうして盗ったんだ?」

「あー、もう!分かったから、返してくる!」

 

リドルは逃げるようにブリキの箱をひったくって扉を開けた。

リドルは、どうしてもルツに意地悪したという事実を隠したかったのだ。これ以上掘り返されるぐらいなら、コレクションを返す方が数倍ましだと考えられた。

さっさと行こうとしている後を追いかけるように、ルツが声を掛けた。

 

「リドル、それを返したら、一緒に魔法街に行こうか。」

「え?」

「先生、いいですよね。あの子も魔法族なのですから。」

「ああ、構わんが。」

 

その言葉に、リドルは顔を輝かせた。けれど、それを悟られるのが嫌なのか、表面上は冷静を装っていたが、その足取りは何よりも素直であった。

 

「・・・・ルツよ。」

「はい、何でしょうか。先生。」

「リドルのやったことをどう思う?」

 

ダンブルドアは、ルツという存在を善良なものであると感じていた。彼女は、確かにリドルという存在を大事にし、魔法界に連れて行ってやろうとしているのだ。

だというのに、ルツはリドルのした盗みということを咎めなかった。

返す様にということを促したとしても、その理由を問うても、ルツはリドルの罪を罰しようとはしなかった。

ダンブルドアは、ルツという存在を、測りかねていた。というよりも、自分と彼女の間に、何か、絶対的な溝があるように思えた。

悪ではないと分かっている。ただ、ルツの行動は、善でもなかった。

 

「さあ、どうとも?」

 

それに、ダンブルドアは口を閉じた。

悪いことでも、肯定するわけでも、ルツは心の底からどうでもいいというようにそう言い捨てた。

 

「・・・・何故かね?」

 

ダンブルドアは、そう問うた。

素直に問いかけをしたのは、ルツの父は、問えば応えることは答えてくれたためだった。ダンブルドアには理解の利かない返答であってもだ。

 

「物を盗られた彼らは、そうされても仕方がない理由があるからです。」

「・・・・それは、ふむ。どういった理由かの?」

「私たちは、事実、この孤児院には上手く馴染めていません。どうしても、力には制御が利かなくなることがあります。そうして、私たちが異分子であることは、共に生活していれば気づきます。先生、生きているものは残酷です。」

 

先生、知っていますか。魚も、群れを成せば一匹を標的にいじめられるんですよ。

 

ルツは、静かに微笑んだ。悲しそうだとか、苦しそうだとか、感情といえるような確かなものなどない、穏やかな微笑みであった。

その穏やかさが、ルツの言葉の何とも言えない残酷さを増させていた。

 

「私が来てからは、まだ、そういったことは減りましたが、リドルを殴ったり、ご飯を奪ったりするものはいます。大人に言っても、なくなりません。リドルは力を示さなきゃ甚振られるままです。私も同じです。甚振られるなら、私は抵抗します。」

 

先生、抵抗することはいけませんか。弱者のまま、傷つけられ続けることは、正しいのでしょうか。

ねえ、先生。

 

その声音は、無垢であった。無垢で、無邪気で、幼子のような素直な問いかけだ。

ダンブルドアは、それに、思わず目を閉じた。

その問いかけは、遠い昔に、誰かにしたことがあるものに似ていた。理想的で、きらきらと、美しく輝き続ける、そんな問いであった。

けれど、その果てに、その問いはあの子を傷つけた、殺して、しまった。

ダンブルドアは、誰かに胸をナイフで抉られるような痛みを感じながら、囁くような、絞り出すような声で言った。

 

「それでも、そうやって力を振るい続ければ、いつかその力はお前さんたちに帰って来る。傷つけられ続けるだけなのじゃ。やられたからやり返し続けていては、終わらんのじゃ。」

 

ルツは、その言葉の、その声の後ろにあるダンブルドアの後悔をみた。苦い、苦い、後悔を見た。

けして、納得しているわけではないけれど。けれど、そのひねり出すような声に、ルツは頷くことしか出来なかった。

 

(・・・・でも、どうしようか。確か、打撲を治す魔法薬があったはずだし。何とかそれを学校で覚えて、リドルに持たせてやらなくちゃ。)

 

ルツは、傷だらけのリドルを想ってそんなことを考えた。

 

 

漏れ鍋という寂れた古いパブの先。その大通りに足を踏み入れた時、リドルは魔法界がこんなにも身近に隠れていたのかと、愕然とし、そうして感動した。

基本的に、リドルは職員と共に居なければ外に出ることは出来ない。問題ばかりを起こすリドルを外に連れて行こうという奇特な存在もおらず、いくら外に出ることは出来なかったと言っても、こんなにも身近に己に望んだ世界があったのだ。

ルツは、自分の目の先に広がった世界を少しだけ懐かしそうに見た。

幼いころ、数度、父親に連れられて行ったことがある。

リドルは、自分の目の前に広がる夢のような世界を、きょろきょろと見回した。

とんがり帽子やマントを羽織った通行人はまさしく魔法使いに相応しく、立ち並ぶ店の数々はリドルには理解は及ばずとも、ひどく非日常に相応しいものが並んでいる。

そんな店の前では、井戸端会議に勤しむ女性たちが、何故かライトアップまでされている箒の前には同い年ぐらいの子どもたちがキラキラとした目をして並んでいる。

その他にも種々様々な魔法の品と思しい売り物がたくさん陳列されている。

そこで、リドルははっと我に返り、そっと後ろを窺った。ダンブルドアの姿があった。それに、リドルは、腹の底からかーっと、恥ずかしさがやってくる。

リドルの後ろには、にこにこと自分を微笑ましげに見つめるダンブルドアがいたのだ。はしゃいでいるなんて場面を見られたことに気づき、リドルは動揺する内心をプライドでねじ伏せて、何もなかったかのようにつんとおすましするように顔を上げた。

 

「リドル、はしゃぐのはいいけど迷子には気を付けてくれ。」

「はしゃいでなんていない!」

 

が、そんなリドルの慎ましやかなプライドに気づくこともなく、ルツはのんびりとそう言った。

ルツは、何故怒られているのか分からないという顔をした後に、リドルに向けて手を差し出す。それに、リドルは不機嫌そうな顔になる。

 

「リドル、私がはぐれてしまいそうだから、手をつないでくれないか?」

 

が、ルツの言葉にリドルは少しだけ考えるような仕草をした。

ルツという少女は、確かにしっかりしている様で、気を抜くと驚くほどにふっといなくなる。孤児院の中でさえも、消えてしまうほどにぼんやりすることがあるのだ。リドルは、一瞬で、ダンブルドアとルツを探し回る未来を想像して、その手を握った。

 

(・・・・まったく、僕がいないと変なことに巻き込まれるんだから。)

 

それと同時に、ほんの少しだけいつも年上面をしている相手に頼られるというシチュエーション自体には優越感を感じて悪くない。

ただ、後ろでにこにこと微笑まし気に眺めて来るジジイのことを考えなければ。

その予想通り、ダンブルドアは目の前で繰り広げられる幼い子どもたちのやり取りを微笑ましく見つめていた。

ダンブルドアは、どこか安心さえしていた。リドルという少年の幼さというものを目のあたりにし、彼が思っている以上に年相応の少年であることを知れたのだ。

翁の青い瞳は、そのきらきらと輝く知性の端々に、何とも言えない悪戯を成功させた幼さを垣間見せていた。

 

「それでは、二人とも、学校のものを買う前に、金銭を下ろしてこねばの。」

「・・・・ルツ、持ってるの?」

「ああ、父さんの残してくれた分がある。」

「なんでそんなのあるのに、孤児院なんかに来たんだ?」

 

ルツは、どこからか古く、大きなカギを取り出した。それを見たリドルの言葉に、ルツは困ったように笑った。

 

「ああ、金があっても、世話をしてくれる親戚もいないし。さすがに、子ども一人で暮らすのは無理だったんだ。母さんが死んだとき、丁度孤児院を紹介されてね。金自体は、学校とかのために取っておきたかったからさ。」

 

リドルは、それに、自分が学校に行くときの資金について考える。その不安を察したのか、ダンブルドアがリドルに言った。

 

「安心しなさい。そのようなときのために、援助する制度もある。」

「・・・・そうですか。」

「さて、グリンゴッツに行こうかの。」

「グリンゴッツ!?」

 

ルツが、その名前をキラキラとした目で言い返した。

 

「あれですか!前に来た時、ものすごい楽しかったんだ!」

「たのし、かった?」

「ああ!」

 

その反応に、リドルは嫌な予感を感じながら、恐る恐る頷いた。

 

 

「あああああああああああああ、うそつきがあああああああああああ!!」

「あははははははははははははははははははははははっはははっはは!!」

 

結論だけを言うならば、グリンゴッツのトロッコ路線には、少年の叫び声と少女の笑い声で満たされた。

 

「・・・・リドル、そんなに怒らないでくれ。楽しかっただろう?」

「・・・・さあね。」

 

グリンゴッツを出たリドルは心の底から不機嫌そうな顔で、ルツから顔を背けた。繋いでいた手も解き、つかつかとルツの前を歩く。ルツは、どうやって機嫌を取るかと唸る。そうして、すぐに何かを思いついたのか、こっそりと囁くように言った。

 

「リドル、誕生日のプレゼント、まだだったっけ?」

「・・・・・・そうだけど。」

「お金、少しあるから後で何か贈るよ。」

 

その言葉に、リドルはちらりとルツの方を見た。そうして、呟くように言った。

 

「・・・・何でもか?」

「うーん、さすがにあまり高いものは無理だが。ある程度なら、奮発しても構わない。元より、その気だったしな。」

「まあ、別に気にしてないからいいけど。」

 

リドルは不機嫌そうではあったが、その言葉には素直に従い、またルツの手を握った。それに、何とも言えない和やかさを覚えながら、ダンブルドアが声を掛ける。

 

「それでは、プレゼントの前にルツの学校用具を買いに行こうかの。教科書やらは買っておく。ルツ、お前さんは学校の制服を作っておいで。」

「そうですね。二度手間になりますし。」

「制服作るって、どこでですか?」

「リドル、君は先生について行きなさい。」

「え?」

 

リドルは当たり前のようにルツについて行こうと考えていたが、ルツの言葉を反芻した。

見る見る不機嫌そうになっていくリドルに、ルツはのんびりといった。

 

「服を作るには時間がかかるし。君は、ダンブルドア先生と一緒に行った方が魔法界のことをもっと見られるだろう。それに、実際何を売ってるか見た方が、プレゼントを決めやすいだろう?」

「・・・・それは。」

 

リドルは出来れば、この自分を観察するような目をする老人とは御免こうむりたかった。ただ、ここでルツについて行くと言って理由を聞かれるのもごめんであった。

ルツにべったりであると思われたくもない。

リドルは素早く頭の中で、どちらのほうがましであるかと考える。

 

「・・・・絶対に終わった後に、一人でふらふらとするなよ。」

「ああ、大丈夫、ちゃんと待っているよ。」

 

ルツはそうのんびりと返すが、リドルははあ、と呆れたようにため息を吐いた。

 

 

からん、とベルの音と共に入った店、マダム・マルキンの洋装店の中は、少々混雑していた。

ルツは、今までの道中で散々言われたリドルからの注意を頭の中で反芻して、店に入る。

店の中は、自分と同じほどの子どもたちが、親を連れ立って制服の採寸を行っている。

 

「あら、ホグワーツへの新入生ですか?」

「ああ、はい、そうです。」

 

ルツは自分に近寄って来た藤色の服を着たふくよかな女性に頷いた。

 

「なら、ここに乗ってくださるかしら?」

 

そう言われた台に乗ると、ふよふよとメジャーが勝手にルツの採寸を済ませていく。黙ってされるがままにしていると、隣りの台に誰かが経つことが分かった。

 

「・・・こんにちは。」

 

一応と挨拶をすれば、隣りの少年はそれに反応した。

 

「ああ、ごきげんよう。」

 

やけに気取った声の少年は、あらためてルツを見た。

少年は、見事なプラチナブロンドをオールバックに固めていた。彼の造形はハンサムといってよかったが浮かべた見下すような表情のためか、傲慢さが前面に押し出されていた。

見た所、服事態も上等なもので、なかなかの地位の家の子どもであるようだった。

 

(・・・・純血主義の家の子か?)

 

早々にあたりを付けたルツは、採寸に戻るために前を向く。

 

「見た所、僕と同じ新入生かな?名前は?」

「新入生だけど。そういう君は?」

「ああ、これは失礼。僕はアブラクサス・マルフォイ。さて、君は?」

「マルフォイ?」

 

その名に反応したルツに、マルフォイは少しだけ表情を和らげた。

マルフォイと言えば、『聖28一族』が一つ。名乗り方や雰囲気からして、もしかすれば次期当主だろう。

 

(あんまり、あそこら辺とうちの一族は相性が良くないって父さんは言ってたっけ。絡まれて遅れたなら、リドルが煩いなあ。)

 

さりとて、ここで名乗らぬわけにもいかずルツは、言葉少なに名乗りを上げた。

 

「・・・・ルツ・グリンです。」

「・・・・グリン?あのグリンかい?」

 

マルフォイは少しだけ年相応の素直さで、グリンという名を読んだ。ルツは、はいと答えた。

 

「・・・・なるほど、グリン家が僕と同じ年とは。君たちの悪食は、かねがね聞いているが。実際に見るのは初めてだ。」

「悪食、ですか。」

「ああ、君、ところで。」

 

そこで、ルツの採寸が終わった。ルツは、これ以上絡まれると遅れてしまうかもしれないと台から降りる。別にこのまま話してもいいのだが、リドルの機嫌を取るのは面倒なのだ。

 

「すまないが、人を待たせてあるので。」

「ああ。そうかい。それなら仕方がないが。ところで君は、自分がどこの寮に入ると思う?」

 

割り込ませるような台詞を、アブラクサスはルツに聞いた。そうして、付け加えるように聞いた。

 

「ゴドリック・グリフィンドールの子孫として、グリフィンドールかい?」

「さあ。あなたのように、自分の在り方を一つと断じれるほど、己を知らないので。」

 

ルツの素直な感想として、言葉を吐くと、さっさと彼女は店員へと歩いて行く。その後を、アブラクサスはじっと、後を追うように意味深に眺めていた。

 

 

「・・・・・遅い。」

 

リドルは、ぼそりと不機嫌そうに呟いた。それを、本などが詰め込まれたトランクを持ったダンブルドアがなだめるように言った。

 

「そう言うではない。レディーの身支度とはえてして長いものじゃよ。」

 

二人は丁度、洋装店の前で待ちぼうけを食らっていた。

揶揄う様な声に、リドルは思わず吐き捨てた。

 

「あいつのどこがレディーなんだか。」

「ほう、それはどういったところかの?」

 

その言葉に、リドルは思わず黙り込む。話してもよかったのだが、その、ルツがレディーでないという理由を話しても信じてももらえないだろうと感じていたのだ。というか、リドルでさえ、実際見ていなければ信じなかっただろう。

というか、若干トラウマである。

あれは、ルツの前で初めてリドルが意地悪をされていた時の事だった。その時、リドルは丁度、ルツに貰った真新しい上着を着ていたのだが、少しだけ年上の少年たちに上着を盗ったのだろうと、無理やりに奪われそうになっていた。

のだろうと、無理やりに奪われそうになっていた。

その場面に出くわしたルツは、慌てて弁解したが、リドルを気味の悪いものだと断じていた少年たちがそんなことを聞くはずも無い。

そうして、少年たちは何よりも、そこそこ見目の良いルツがなんだかかんだとリドルに構うことを面白く思っていなかったこともそれに拍車をかけたのだろう。

とうとう、リドルをバケモノだと言い始めた彼らに、リドルは呆れた。目の前の存在でさえも、彼らの言うバケモノであるのだ。

ルツは、静かに目を細めた。リドルは、内心ではワクワクしていたのだ。もしかすれば、ルツの魔法を見ることができるのではと。

けれど、予想に反して、ルツは、無言で足を振り上げ、そうして少年たちの股間に一発ずつ蹴りを入れたのだ。

予想外のそれに、少年たちは蹲る。ルツは、そうして、短く言った。

 

「・・・この上着は、私がリドルにあげたものだ。君たちにどうこう言われる筋合いはないよ。」

 

短く発せられたそんな言葉も、痛みにもだえる彼らには届いていないだろうに。そうして、ルツは、リドルを連れてその場を離れようとするが、そこで立ち上がった一人がルツに殴り掛かろうとする。

が、ルツは、それをひらりと躱して、足を引っ掛け転ばせると、また無言でその腹に突きを一発加える。

三、四人ほどいた悪ガキどもは、ルツに触れることも出来ずに痛みに悶絶して廊下に転がった。

ルツは、それを冷静に眺めて、同じ目に遭いたくないなら、二度と下らないことはするなと言い捨てて、リドルを連れ出した。

 

リドル、魔法族でない者、マグルを黙らせたいなら物理の方が早いぞ。というか、魔法で殴るよりも、拳で殴った方が手っ取り早いぞ。

 

そんな爽やかな顔で言うことじゃないだろうと、リドルはドン引きした。

少しだけ、ルツに母親という存在を重ね合わせようとしていた部分もあるために、ものすごくしょっぱい気分にもなった。

というか、あまりに鮮やかな立ち振る舞いに少しだけ感心した。

その後、あの悪ガキたちはルツに殴られたことを訴えたそうだが、もちろん信じられることはなかった。

普段から大人しく、手伝いを進んでする彼女がそんなことをするなんて信じる存在がいないのは、当たり前といえば当たり前だろうが。

 

(・・・・魔法使いなのに、殴った方が早いって。)

 

確かに少年たちは、それからルツにもリドルにも何かしてこようとはしなかったが。リドルの胸には、なんだかなあという感覚は確かに残り続けている。

あの鮮やかな蹴りや突きを見た瞬間から、なんだかルツに逆らう気が失せたのも事実だった。少なくとも、今の所はルツには勝てないだろう。

 

リドルのそんなしょっぱい感覚を知る由もないダンブルドアは、重ねていった。

 

「・・・・あの子とは、仲がよいのか?」

「・・・・ええ、数少ない同類ですから。院の皆は、意地悪ですから。」

 

言葉少なのそれに、ダンブルドアは戒めを、少しだけ付け加えた。

魔法を使って誰かを傷つければ罰則があること、学校でそのようなことをすれば最悪退学であること。

 

「努々、忘れてはならんぞ。」

「・・・・はい、分かっています。」

 

その素直な言葉に、ダンブルドアは少しだけ言い過ぎたかと己を戒めた。

確かに少年は、どこかダンブルドアの旧友を思わせるが、あの少女が近くにいることを考えれば大丈夫だろうと判断した。

けれど、そこで、リドルはダンブルドアを見て、微笑んでいった。

 

「先生、ところで、一つ聞きたいんですが。」

「なんじゃろうか?」

「・・・・僕は、蛇と話が出来ますが。これって、珍しいですか?」

 

その言葉に、ダンブルドアは、思わず黙り込んでしまった。殺すことのできなかった動揺に、リドルはぞっとするような美しい笑みを浮かべた。

 

「・・・・稀では、ある。」

「そうですか。」

 

リドルは、深くは追及せずに、そういって黙りこんだ。

ダンブルドアは、そのリドルの行動に、己の考えを改めることを決めた。

リドルは、見事に、自分にとっての奥の手であるパーセルマウスであることを最高の瞬間で示して見せたのだ。己が特別であるという事実に確信を持って、ダンブルドアに示した。

それを、ダンブルドアは空恐ろしくなる。

そうして、改めて、ダンブルドアはリドルという存在から目を離すまいと固く誓った。例え、彼女の存在があっても、周りのために、そうして本人の為にも、そうすべきであると感じた。

彼が、間違いを起こす前に。

遠い昔、自分が止めることのできなかった、関わるべきでなかった、あの間違いと同じものが、起こらぬようにと、固く誓って。

 

リドルは、ダンブルドアの反応に確信を持った。

己は特別であるのだと。

蛇と話せるという事実は、特別なのだ。魔法使いという枠組みの中でも、自分は特別であるのだと確信が出来た。

自分よりも魔法に長けた老人さえも恐れる何かを、自分は持っているのだ。

 

(・・・・けど、ルツは驚かなかった。あれは、きっと、ルツも特別だからだ。)

 

きっと、ルツは自分と同じぐらいに特別であるから、自分に驚かなかったのだ。それならば、仕方がない。自分と同じものがいることは腹立たしいが、自分が特別であるという事実には変わりはない。

リドルは、今日見た魔法界というものを想って微笑んだ。この場所には、リドルの嫌う孤児院のような奴らはいないのだ。

そう思えば、そう思うほどに、リドルにとってここが素敵な場所のように思えてならなかった。

 

 

「・・・おい、大丈夫か?」

「うーん、大丈夫。」

 

ルツは最後に杖を買うためにと歩く道すがら、リドルに殆ど引っ張られるような足取りで、歩いていた。ふらふらとしたそれは、今にも倒れ込んでしまいそうだ。それを、リドルは慣れた様子で先導する。リドル自身、杖を売る店には興味があり早く行きたかったのだ。

ダイアゴン横丁の通りを暫く歩くと程なくしてその店はあった。

オリバンダー杖店。

看板には紀元前三八二年創業と書かれてある。事実だとすれば相当な老舗であることは間違いない店だった。リドルは、内心で本当なのかと胡散臭く思う。

ルツとダンブルドアに連れられて、店に入った。

ショーウインドーの外からでも十分に分かるくらい、店内にはものがぎっしりしている。

長方形の箱がずらりと縦に横にと、棚に並べられている。おそらく、その多くの箱のひとつひとつに杖が一本ずつ入れられているのだろう。

 

「おお、ダンブルドア教授、お久しぶりです。」

「こんにちは、ミスター・オリバンダー。お元気そうでなにより。」

 

入店を知らせるベルが鳴るや否や、奥の方からすごい勢いで梯子に乗った男性が現れた。

興奮した面持ちでダンブルドアに声を掛けた。

リドルはそれに、考えれば、ダンブルドアと共に居ると視線を多く貰ったが、やはり高名な魔法使いなのかと察する。

そこで、ダンブルドアとオリバンダーの注目はルツとリドルに移っていた。

 

「今日はこの子たちの付き添いで?」

「いや、女の子の方だけじゃよ。世界最高の杖を、と思っての。」

「はっはっはっは。それは光栄な事ですが。おや、もしかお嬢さん。グレイ・グリンのご息女で?」

「・・・・ええ、そうですが。ルツ・グリンと言います。」

「おお!覚えておりますとも!ヨーロッパナラの木に、ヴィーラの髪!変わり者中の変わり者の杖でした。娘であるあなたも、杖を選ぶのには苦労しそうですが。杖腕は?」

 

その言葉に、ルツは左手を差し出した。

オリバンダーは苦労しそうと言いながら、うきうきとしてその手に杖を乗せた。

リドルは、杖腕は何だと思っていたが、ルツの仕草からして利き腕で良いことを察した。

 

「ヨーロッパナラにユニコーンの毛。」

 

ルツは渡された杖を振るが、棚に並んでいた箱が雪崩になって落ちる。オリバンダーは杖をすぐに回収すると、また新しい杖と取り換えてゆく。

 

「うーん、難しい。だが、グリン家は大抵、ヨーロッパナラや黒檀が多いのだが。」

 

オリバンダーがそう言って、杖を物色する。十数本ほど試しても、杖は決まらない。そんな中、ルツがとある棚を指さした。

 

「すいません、あれ、見せていただけませんか?」

「あれ?」

 

ルツが指さしたのは、棚の一番上の、隅にある埃を被った箱だった。オリバンダーは少しだけ考えるような仕草をした後に、その箱を手に取り、ルツの手に乗せた。

 

「・・・・・マツにセストラルの尾毛。強力だが非常に扱いにくい。」

 

一度杖を振った。

すると、ルツの足下から、見る見るうちに大木が育っていく。オリバンダーの店には、青々とした緑が茂った。

そうして、ふっと、まるで夢幻のように消えてしまう。

オリバンダーはそれに、叫ぶように言った。

 

「・・・・・わしは、己で売った杖はすべて覚えておる。グリン家の者は、植物や動物と相性の良いヨーロッパナラか、黒檀であることが殆どであった。お嬢さん、あなたは、もしやすれば、今までの一族とは変わったことを成すのやもしれません。」

 

そういって、オリバンダーはじっと、ルツの杖を見た。

 

「マツにセストラルの尾毛。長寿であり死を受け入れる。本来ならば、合わせることはないものたちであるが。所有者に会えて、幸運じゃ。」

 

 

 

 

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