時系列的に同い年でない人が同い年になっている人がいるのでご注意ください。
というか、マクゴナガル先生、リドルよりも十ぐらい違うんですね。
リドルは、ベッドの中でもぞもぞと寝ぼけた頭を叩き起こした。
ダイアゴン横丁から帰って時間が経った。リドルは、憂鬱な気分になる。今日という日が出来るだけ遅く来るようにと願っていたが、そうは問屋が卸さなかった。
その憂鬱さを振り払うように、リドルはいの一番にベッドを付けている壁に向き直った。孤児院の壁はボロボロで、くみ上げられたレンガが丁度外れるのだ。
リドルは、それをそっと外した。
レンガの中は、ぽっかりとした空間が広がっており、中には指輪が入っていそうな上質な小さな箱が入っている。
リドルはそれを手に取り、そっと箱を開けた。
中には、銀色の小さなペンダントが入っている。ただのペンダントではない、中には小さな鏡がはめ込まれている。
この鏡は両面鏡といい、特殊な作りらしく、マグルでいうところの電話のようなものらしい。
ホグワーツにいる間、手紙以外に連絡手段がないのは不便だから、ということでリドルがねだった呪文集のほかにルツが送ってくれたものだ。
リドルは、いつもは必死に隠している感情を、その顔いっぱいに広げた。そうして、その真新しいペンダントをうっとりと眺めた。
それは、リドルだけのものだった。
誰かが使っていたわけでも、誰かと共有しなくてはいけないわけでも、いつか誰かにゆずらなくてはいけないわけでもない。
リドルだけのものだった。リドルだけに与えられたものだった。
ルツとダイアゴン横町から帰って来た日、リドルはそのままぎりぎりまでダイアゴン横丁に居たかったのだがルツが断った、からずっと暇さえあればそのペンダントを眺めていた。
自分だけのもの、自分だけに与えられたもの。
赤子のまま孤児院に入れられたリドルの私物といえるものは、全てが誰かに譲られたものだ。本当の意味で、リドルだけの物はない。
そのために、ルツのくれたペンダントは、それだけ特別なもののように思えた。
孤児院の自分を虐める存在たちに盗られてはたまらないとそこに隠しているが、叶うなら肌身離さず持っておきたいものだ。
そこで、リドルはとんとんと、廊下を歩く音を聞いた。ペンダントを素早く隠し、ベッドから降りた。
こんこん、とノックの音が響く
がちゃりと扉を開けたのは、ルツであった。
「リドル、起きてるか?」
「・・・・起きてるよ。」
不機嫌さを隠そうとしたが、どうしても漏れ出てしまう。ルツは、そんなことを気にすることも無く、いつも通りであった。
「そうか、ならはやく着替えなさい。朝食の用意が出来るから。」
「うん。」
「・・・・もう少ししたら、私は学校行きの列車に乗らなくてはいけない。見送り、してくれるんだろう?」
「分かってるよ。」
下で待ってるからな。
ルツはそう言って、部屋を後にした。リドルは、とことこと小さな足音を立てて、キャビネットに近づいた。中をのぞくと、そこはリドルの私物と、ルツが退屈しないようにと置いていく数冊の本しか入っていない。
今日はリドルが来るなと願い続けた日、ルツがホグワーツへ入学する日だ。
「・・・・リドル。それじゃあ私は行くが。」
ルツが言いにくそうにリドルに言った。
二人は孤児院の門の前にいる。ルツは、マグルの中では目立つからと魔法のかかった小さなトランクを持っているだけだ。
「暇になったら、置いてある本を読んで。寒くなったら私の所にある、毛布を使いなさい。お前さんも使ったことがあるから知ってるだろう?布団に居れれば温まる様に父さんが加工してくれたものだ。あと、仕返しをするのは良いが、あまり目立つことをするな。面倒事は御免だろう?」
ルツは、黙り込んだリドルに言い含めようと言葉をかけていく。リドルは、不機嫌そうに地面を見つめたままだ。
どうしたものかと、ルツは悩む。
「何かあれば、鏡に話しかけてくれ。授業なんかで応答は出来ないが。夕方や朝なら大丈夫だから。」
「・・・・・分かってる。」
完全に分かってないだろうに。
子ども扱いされることは大嫌いなのに、こういったことに関しては徹底的に子どもなのだ。
リドルは、良くも悪くも、そう言ったところが年相応だ。
「・・・・そろそろ、私は行くが。」
「・・・・なあ。」
「うん?」
ルツはリドルのほうに体を近づけた。ようやく、言葉らしい言葉に、どうしたどうしたとルツはリドルの言葉を待った。
リドルは、顔を下に向けたまま、呟くように言った。
「・・・・お前の父親の本、置いていってくれ。まだ、全部読めてないから。」
リドルの口にしたその本、というのはルツの持っている父親の形見であった。一応は、革表紙でまとめられた本という体はなしているものの手描きの紙の切れ端をまとめ上げたものだ。
ルツの父親が個人的にまとめたもののようで、魔法生物や植物に関してのものだった。ルツは、それをリドルに好きに読んでいいと許可を出していた。
その行為は、リドル自身がルツという存在を気にかけるきっかけであった。
自分の宝物を、それも大事にしているらしい父親の形見を他人に好きに触らせるということがどんな意味であるか。
リドルには、そんな形見なんてないが、もしあればそれを赦すことなんてないだろう。
リドルが、ルツにそれを願ったのは、単に彼女を困らせたかっただけだった。
自分を置いて、仕方がないとはいえ、先にホグワーツに行くなんて。
リドルは、ルツから謝罪が来ると思っていたが、それに反して聞こえてきたのはトランクを開ける音だった。
「ほら。」
リドルは驚いて、顔を上げれば自分の顔の前には古びた分厚い革表紙の本が差し出されていた。
驚いたリドルは、思わずその本を受け取った。見上げたルツは、普段のぼんやりとした顔とは違い、柔らかく口元に弧を描いて微笑んでいた。
「・・・・リドル、私がそれを君に預けるのは、君がそれを守れる者だと信じているから。」
意地悪な奴らに、盗られたりしないでしょう?
その言葉に、リドルは、なんという感情を抱いたか、分からなかった。
ただ、ぎゅっと渡された本を抱きしめて、こくりと頷いた。
「・・・行ってらっしゃい。連絡、しろよ。」
「ああ、当たり前だ。君の助けになることが、私の役目なのだから。」
少女はそう言って、立ち上がり、トランクを持った。
そうして、幾度も、幾度も、リドルを振り返りながら、ゆっくりと道を歩いて行った。
リドルは、その背が見えなくなるまでずっと見送っていた。
宝物のように、その本を抱えて。
キングス・クロス駅。
一八五二年からロンドンの重要な窓口として機能しているこの駅にはその日、なんだかひどくおかしな人たちで溢れかえっていた。
時代錯誤な服装に、道化じみた装飾品を身につけた、なんだか変わった人たちが駅を歩き回る。
ルツは、そんな集団をすいすいと抜けて、無言でダンブルドアに示された場所に向かう。
それは、一見すればただの柱のようにしか見えない。九番線と一〇番線の間にある、レンガ造りの壁だった。
ルツは、その壁の前に立つ集団の後ろにそっと並び、そうして続くように壁の中に飛び込んだ。
文字通りに抜けた先には魔法族専用のプラットホームが広がっている。
ホグワーツへの唯一の道であり、魔法族だけの秘密であり不可視の入り口は通り抜けるには少々勇気がいる。
ルツは、プラットホームをごった返す魔法使いたちの間をすり抜けて、列車に乗った。
列車にいる魔法使いたちは家族との別れで、ルツに気をやることもない。
発車が近いといっても、家族との別れのために乗り込んでいない者も多く、空きコンパートメントが見つかった。
そこに入り込み、ダンブルドアのおかげで小さくなった荷物を棚に押し込むと、ようやく一息ついた。
そうして、考えるのはリドルの事だ。
リドルの下にある魔法道具たちは殆ど認識阻害の魔法が掛けられているが。それでも、ルツとしてはリドルを一人でマグルの中に置いておくことは避けたかった。
マグルにせよ、魔法族にせよ、根本的なことなぞ変わらないのだ。
生物とは異分子を嫌う。群れを成す生き物ならばなおさらに。
衣食住を共にしなければならないマグルたちの中に、魔法族を放り込むなんて馬鹿のすることではないかとルツは思っている。
本当のことを言えば、ダンブルドアにリドルと同じ年に入学できないかと聞いたが。特例でもないと、そういったことは赦されないそうだ。
ルツも、早く入学したがっているリドルの手前は隠していたが、本音を言うなら学校には来たくなかったのだ。
(・・・・リドルは大丈夫だろうか。)
両面鏡に呼びかけてみようか?
そこまで考えて、こんこん、とコンパートメントの扉を叩く音がした。
扉の方を見ると、そこには灰色の髪に黒い瞳の少年が立っていた。ルツは、どうぞ、という意味を含めて頷けば扉が開けられた。
「すまないが、ここは開いているか?なら、座りたいんだが。」
「ああ、どうぞ。」
少年はそれに頷き、コンパートメントに入った。そうして、荷物を棚に入れ、ルツの向かいに座った。
ひどく生真面目な雰囲気で、ぴんと伸びた姿勢がその雰囲気をよけいに増させていた。ただ、その視線の運び方は、ルツが森で見た獣のように抜け目がない。
躾の行き届いた軍用犬のような印象を持った。
「すまないな。僕は、アラスター・ムーディだ。」
「ムーディ?」
ルツは思わず復唱した。ムーディーという家名には聞き覚えがあった。確か、それも父から聞いたのだ。
確か。
「・・・・優しい人が多い家だって聞いたなあ。」
その言葉に、少年の目が大きく見開いた。そうして、口を開き、大声で笑い始めた。
「あはははははははははははは!!優しい!?家がか!?」
「うん、まあ。父さんからは、そう聞いた。」
「ふ、あははあははははははは!!そんな変わった見解の御人がいたとは驚きだ!」
ルツは、何がおかしいのか理解できずにぼんやりとその笑い声を聞いていた。
父曰く、ムーディ家は、誰かを守りたいと願ってしまう、愚かで優しい人が多い家だと聞いていたのだが。
ひとしきり笑い終わったあと、ムーディはルツの方に体をずいと寄せて来た。
「で、いったい誰がそんなことを言ってたんだ?」
「うん?父さんにだけど。」
「父さん?」
「ああ、グレイ・グリン。自己紹介が遅れたけど、私はルツ・グリンだよ。」
「・・・・グリン?それは。」
ムーディがそう言ったその時、こんこん、と扉を叩く音がした。
二人が扉の方を向くと、そこにはこれまた背筋の伸びた同い年ぐらいの少女が立っている。二人が頷くと、少女は堂々とした足取りでコンパートメントに入って来る。
「すまないけど、ここ、座っても構わないかしら?」
「どうぞ?」
「ああ。構わんが。」
「ありがとうね。」
少女はそう言って持っていたトランクを棚に置こうとする。ルツは、それに立ち上がり、少女の代わりに棚にあげる。
「あら、紳士的なのね。」
「うん?大変そうだったから。」
ルツの言葉に、少女はくすりと微笑んだ。
美しい栗色の髪を背中まで伸ばしていた。勝気そうな顔立ちか、それともその正しい姿勢のせいなのか、ひどく人を寄りつけない雰囲気を持っている。
ルツは、少女には炎のような、ムーディには剣のような印象を受けた。
少女の瞳に宿る苛烈さは生来の気質の様だったが、ムーディの気真面目さには剣のように少しずつ築き上げたような感覚を覚えるからだろうか。
ルツの隣りに座った少女は、ムーディとルツに向けて上品に微笑んだ。
「わたし、オーガスタ・ロングボトム。あなた方は?」
「お前、ロングボトム家のものか?」
「ええ、そう言うあなたは?」
(ロングボトム?あー。純血の子か。あそこは、どうだっけ。近寄らない方がいいのかな?)
「僕は、アラスター・ムーディだ。」
「アラスター・ムーディ?じゃあ、あなたがムーディ家の麒麟児かしら?」
「ふん、そんな大層なもんじゃないがな。」
「それで。あなたは?」
ぼんやりと考え込んでいたルツに、オーガスタがそう聞いた。それにルツが応える前に、興奮気味のムーディが言った。
「そうだ、お前さん、グリン家と言ったが。あの、グリン家なのか?」
「グリン家?あの、グリン家のこと!?」
「・・・・どのグリン家かは知らないけど。私の家は、グリンだが。そんなに慌てること?君たちの方が有名だと思うけど。」
それに、二人は余計に興奮したように言った。
「何を言ってるんだ!グリンだぞ、グリン!」
「あなたが、あのグリン家の方!?あの、グリフィンドールの末の子。親不孝者のアーヴェルの子孫!?」
「ああ、確かに御先祖様の名前はアーヴェルだけど。」
「まさか、今の今まで続いているとは。」
「すごいわ。まさか、グリンに会えるなんて。あなたも今年から入学?」
「そうだけど。そこまで有名なの?」
「当たり前だわ!というか、あなた、グリン家が有名でないわけないでしょう?」
「色々と有名になる理由があるだろうに。ゴドリックの子孫だというのに、一度だってグリフィンドールの寮に入ったものがいない、とかな。」
「ああ。その話か。」
実際の話をするならば、グリン家というのはしばしば歴史書にさえ乗っているほどに有名な家名であったりする。
そうして、純血、長く続いている魔法族の家系の中では特に有名なのだ。
事実、実際の話をするなら、ルツの家は何だかんだで純血と言っていいほどの血の濃さを保っていたりする。
グリン家の始祖の名は、アーヴェル。ついたあだ名は、親不孝者のアーヴェル。
ゴドリック・グリフィンドールの末の子にして、彼の人の騎士道を下らないと言い捨て、家を捨てた変わり者。
それが、グリン家の始祖であった。
その後も、グリン家は人と関わりをあまり持つことなく、人でない者や植物を愛し、学者のような生業を持つことで有名であった。
何よりもアーヴェルの話で有名なのは、彼の人がサラザール・スリザリンと、他の三人が交友を絶った後も、友好を保っていたという話だ。
ヘルガ・ハッフルパフを除けば、サラザールだろうが、ロウェナだろうが、我が父だろうが所詮は学ばせるものを選んでいる時点で、考え方は同じだろうに。
この言葉は、アーヴェルの変わり者ぶりを表す理由になっている。
「・・・・まあ、伝え聞く話では、ただの反抗期が激しかっただけの人だしなあ。」
「ゴドリックとした三日三晩の決闘の果てに引き分けた戦いを反抗期とまとめるのか。」
「すごいわ。まさか、グリン家の末裔に会えるなんて。ねえ、あなたはどこの寮に入りたいと思っているの?」
「寮?」
ルツはオーガスタの言葉に、はてりと首を傾げた。 それに、ムーディが嗤う。
「そういうお前さんは、どうなんだ?」
「私は、先祖代々グリフィンドールですので。」
「ふん、グリフィンドールの子孫ならば、グリフィンドールにか?」
「あら、それだけじゃないわ。是非とも、こんな紳士的な方ですから。仲良くしたいなって思って。」
「ほう。お前さんの言葉が正しいなら、僕はレイブンクローか。」
「寮かあ。ええっと、勇敢なグリフィンドール、勤勉なハッフルパフ、狡猾なスリザリン、知己なるレイブンクローだっけ?」
「ええ、そうよ。あなたも、ここにいきたいって寮があるでしょう?」
ルツは、それに心の底から不思議そうな顔をした。
「なんでそんなこと気にするんだ?」
「え?」
思いがけない言葉に、オーガスタは驚いたような声を上げた。その言葉に、ムーディは面白いことを聞いたかのように目を輝かせた。
「それは、どういう意味だ。グリン?」
「だって、寮がどこだろうと、それによって私の何が変わるっていえるんだ?」
「ほお。」
ムーディは続けて、というように頷いた。
「なんというか、どこの寮だって皆は聞くけど。逆に、寮が変わるからって何が変わるんだ?別に、どこだろうと、寝床や食事や、教わることに変わりがあるわけじゃないだろうに。」
「ですが、寮に入る者には、それぞれ決まった性質があるのよ。」
それぞれの寮に入るということは、自分がどんなものであるかの証明になる。ならば、自分がこういったものであると、信じるものあるはず。
「・・・何よりも、スリザリンは。」
「なら、君は、スリザリンに入れられたら、狡猾に振る舞うようになるのかい?」
「そんなことは!」
「それと同じことだ。」
ルツは、まるで夢見るように、窓の方を見た。
「例え、何処に行こうと、私は私でしかない。私は、私以上にも、私以下にもなれない。それに、誰だって、四つの寮のそれぞれの性質を大なり小なりもってるんじゃないかな?何かを成し遂げるために勇気を持ち、誰かを想う優しさを持ち、何かを知りたいという欲求があり、目的のための狡猾さを持っている。」
ルツは、そう言って、ゆるりと微笑んだ。先ほどと同じように、まるで夢見るかのようなぼんやりとした笑みだった。
「私は、変わらない。そう簡単には、変われない。どこにいこうと、私は、私として、愛し、嫌い、望み、疎み、憐れみ、悲しみ、寂しがり、学ぶ。」
少なくとも、どこの寮に入ろうと、私にとって君たちは変わらないかな。
その微笑みに、その言葉に、ムーディとオーガスタは変わり者の血筋を見た。
うーん、ルツの学校生活ってどれぐらい描写したものか