ちょっと短めです。
書き手の仕事が始まるので、今以上にスローな更新になりますが、ご勘弁ください。
ルツの2年生は少し長めの予定です。
ルツは、ゆっくりと四つん這いになり、ゆっくりと進む。そうしていると、手からふかふかとした土の感触が伝わって来る。
そうして、自分の体にぶつかった木々がざわざわとこの葉擦れを奏でていた。鼻に付く、腐葉土のような、臭い。森のなかに放り込まれたような心地にはなるが、それにしてはあまりにも並んだ植物が整理されている。
風が吹くことも無く、静まり返ったそこには微かに誰かの立てる物音がした。
温室のガラス越しとはいえ、ぬくぬくと眠りに誘う様な日差しに思わずこのまま寝入ってしまいそうな気分になる。
辺りに漂う臭いは、ルツにとっては些細な慣れたものだ。
いや、本音を言えば、慣れ切った、ひどく懐かしい故郷のような親しみさえあった。
といっても、ルツは眠りに入りそうな意識を呼び起こした。そんなことをするよりも前に、やらなくてはいけないことがあるのだ。
ルツは植えてある株の一つ、一つをじっくりと眺めていく。そうして、ふんふんと鼻を鳴らして、何かの匂いを探す。
そうして、耳に微かな音が飛び込んできた。
いたい・・・・・
「・・・・見つけた。」
ルツは、とある一点で動きを止めて、おもむろにとある方向に向かっていった。
そうして、植えられたとある株の一つの根元に視線を向ける。
そこからは、微かな甘い匂いと、緑の茎には、白い斑点が広がっていた。
ルツはそれを確認すると、立ち上がり、自分と同じように広がっている畑を歩き回る男に話しかけた。
「ビーリー先生!」
それに、ゆっくりと人影が立ち上がった。
ひょろりとして背が高く、どこか気だるそうな男だった。無精ひげをはやしたそれは、いかにも草臥れた学者のような風体だ。
「・・・・なんだ、グリン。見つけたか?」
「見つけた!根腐り病!翠芯草の根元!」
ルツの言葉に、男は血相を変えてルツの元に歩き出す。そうして、ルツの見ていた白い斑点が広がった草を見て、ため息を吐き、その場から遠ざけた。そうして、おもむろに杖を振った。
すると、グリンの見つけた薬草の周りが一気に燃え上がり、焦土になった。
「っち、くそが。せっかく育てた翠芯草だっつうのに。」
「・・・・禁じられた森に入り込んだ生徒がいたんだっけ?」
「ああ、そうだよ。」
ビーリーは苛立ったように髪をがりがりと掻くと、すぐに踵を返す。そうして、ルツを振り返った。
くいっと、指で付いてくるように示した。
「まあ、おかげで早く終わった。茶でも飲んでけ。」
ルツはそれにこくりと頷いて、後をついて行く。
二年生になったルツは、新学期が始まってすぐに薬草学の教師であるビーリーからとある提案を受けた。
曰く、ビーリーはルツの植物に関する知識を買っているらしく、自分の手伝いをしないかというのだ。もちろん、謝礼は出すということだった。
ルツも、実は探していたものがあったため、それをビーリーに頼むこととした。
今、ルツがいるのは、ビーリーが個人的に使っている小さな温室だ。
学生たちの授業のために使うわけではないため、温室の中はお世辞にも安全とは言えない。知識を持たないものからすれば、毒にしかならず。知識を持つものからすれば、宝の山であるそこは限られた存在しか入ることが出来ない。
ルツも、許可された部分だけであるが、立ち入りを許可されたうちの一人だった。
ビーリーは、温室の隅に置かれた作業台の上に、欠けたポットやティーカップ、そうしてクッキーを置いた。
「ほれ、薬草茶とクッキーだ。」
「いただきます。」
ルツは、遠慮することも無くクッキーをもぐもぐと咀嚼する。ビーリーはそれを片肘を立てて眺める。
ルツは、ビーリーの知るグレイ・グリンとはあまり似ていなかった。その、見事な黄金の髪だけはよく似ていたが。
ビーリーは年下であったと言っても、少しの間同じ期間学び舎で過ごした男のことを思い浮かべた。
(・・・あいつは、ここまで愛想は良くなかったがなあ。)
そんなことを考えながら、ビーリーは、同じように薬草茶を啜った。
元より、ビーリーがルツに己の手伝いを望んだのは、彼女が魔法植物において高名なグリン家の跡取りであり、そうして彼女の父親と面識があったというのがある。もちろん、人手が欲しかったというのは本音だ。
彼がいる個人所有の温室は、非常に扱いの面倒なものが多い。そのために、管理も面倒なものが多いのだ。彼自身、教師としての役割もあるために、人手が欲しかったのだ。
けれど、それと同時に、ビーリーはルツ個人に対しての興味があったのは事実だった。
蓋を開ければ、少女は考えていたよりもずっと愛想もよく、そうして人間らしかった。
ビーリーが、ルツに手伝いを頼んだのは、彼の探す温室に入り込んだ犯人を捜すことにあった。ルツが、植物と意思疎通が可能な事は知っていたため、それを頼りにしたのだが。
植物に人の見分けがつくことはなく、計画はおじゃんとなった。
「・・・・先生、ほかに仕事はありますか?」
「あ?あー。そうだな。」
ビーリーははてりと首を傾げて、考える。他に、仕事はあったろうかと。けれど、彼女に任せそうなものなど、とっくになくなっている。
いや、本音を言えば、きっと彼女は己の代わりになることだって可能であるだろう。そんな確信が、ビーリーにはあった。
彼の脳裏には、己では追いつくことは出来なそうにない一人の男の顔が思い浮かんだ。
それを振り払うように、ビーリーは目を伏せた。
確か、より分けなくてはいけないものがあったはずだが。そろそろ、時間は昼に近い。いくら、休日と言ってもルツを解放しなくてはいけないだろう。
「・・・・とくにはねえな。」
「そうですか。」
ルツは、ぼんやりとした目で、それに頷いた。その眼を見て、ビーリーはしみじみ思う。
ああ、本当に、その眼は嫌になるほどあの男に似ていた。
「先生、あれ、見つかりましたか?」
「・・・・すまん。まだ、見つけられてないんだ。」
「そうですか。分かりました。では、私は行きますね。」
「ああ、また、頼む。」
ビーリーは、その背をぼんやりと眺めながら次にやることを考える。その時、何かを思い出したようにルツは振り返った。
「・・・先生!」
「あ、ああ。」
「温室に入り込んだ生徒、見つかったんですか?」
「いいや。まだだ。」
苦虫をかみつぶしたような顔で、ビーリーは応えた。それに、ルツは頷いて、今度こそ温室を後にした。
それを見送りながら、目下の問題である温室に立ち入った存在のことを考えた。
(・・・・そりゃあ、この温室にかけられた魔法は完璧ってわけじゃねえ。けどなあ、痕跡を一つだって残さずに温室に入り込むなんざ、ただの魔法使いに出来るはずがねえんだが。)
二年生になったルツの毎日というのは、ある意味パターン化されている。
ムーディたちと授業を受け、宿題をし、そうして休日にビーリーの手伝いをする。空いた時間には、リドルからの連絡を受けると言った風だ。
といっても、ホグワーツでの生活は、もちろん魔法を習うということが刺激的だというならば別だが、特段に変わったことはない。
いや、悩みは一つや二つはありはするが。
ルツは、ビーリーの手伝いからの帰り道、いつも通りてとてとと道を歩いていた。道を行くルツに、顔見知りたちはそれぞれに手を振ったりして挨拶をする。
そんな中、グリフィンドールのネクタイをした少女が、ルツに話しかけた。
「ルツ!」
「うーん?オーガスタかい。どうしたんだ?」
「どうしたものこうしたもじゃないわ!あなた、ハッフルパフの子に聞いたけど、大丈夫なの?」
怒り心頭のオーガスタに、ルツははてりと首を傾げた。
オーガスタはよく怒る。
例えば、ルツが他の生徒に意地悪とされたとか、そんな時に彼女はよく怒る、ルツとしては、あまり気にしていないことばかりではあるけれど。
それでも、ルツは自分のために怒ってくれるオーガスタを見ると嬉しくなる。自分のために怒ってくれる人は、自分のことを思ってくれる人だ、大事に思ってくれる人だ。
そんな人がいることは、とても嬉しいことなのだと思う。
そんな上機嫌なルツのことなど気にすることなく、オーガスタは苛々と怒鳴る。
「何が?」
「何が、じゃないわ!あなたこの頃変な奴に付きまとわれるそうじゃない!」
それにルツはまた、はてりと首を傾げた。そんなものに、とんと思い浮かべるものがなかったのだ。
その仕草に、オーガスタは怒鳴り声を上げた。
「何、分からないって顔をしてるのよ!」
そう言われても、少なくともルツにはとんと思い浮かぶことがなかったのだ。
事の発端は、少なくともルツは気にすることではないと考えているが、彼女の教科書がなくなったことだった。
最初は、どこかに置き忘れたのだと思っていた。教科書にも色々とメモ書きをしている。そのため、ルツはまずしもべ妖精に教科書の捜索を頼んだ。
調理室に一番に近いハッフルパフ生と、しもべ妖精は仲がいい。それに加えて、しもべ妖精はホグワーツの掃除を一手に引き受けている。少なくとも、ルツが立ち入りそうな場所はしもべ妖精の管轄のはずだ。
すぐに見つかると、その時ルツは考えていた。けれど、一週間たっても教科書が届くことはない。
その時はすでにルツも諦めて、新しい教科書を取り寄せていた。溜め込んだグリン家の金庫には痛くもかゆくもなかったが、それでももったいないと思っていた。
けれど、ルツには不思議で仕方がなかった。
何故、自分の教科書が見つからないのか。
言っては何だが、ルツの教科書にそれほどの価値があるとは思えない。もちろん、ルツの家系や優秀な成績などから教科書に書かれたメモ書きを見たいものもいたかもしれないが。教科書にはでかでかとルツの名前が書かれている。有名なルツの名前が書かれた教科書なんてものを持っていれば噂になってもおかしくないはずだ。
名前も、盗難防止用にとムーディが貸してくれたインクでかかれている。
ルツは、自分の教科書をいったいどこに置いたのかと頭をひねった。
といっても、そんな教科書のことも、すぐに忘れてしまった。無くしてしまったものは、仕方がないと。
けれど、その教科書を無くした件に変な色が付き始めたのはそのすぐ後だった。
また、教科書がなくなったのだ。
この時は、さすがにルツもおかしいと思った。何と云っても、失くした教科の教科書は部屋から持ち出した覚えのないものだった。
といっても、同じ部屋のものが取ったという可能性も限りなく低い。メモ書きぐらいなら、見たいと言えば見せてもらえるのは分かり切ったことなのだ。
どうしたものかと考えていた次の日、また一冊教科書がなくなった。これには、さすがにルツも不審に思い、誰かに相談しようかと考えた。
さすがに二回も同じ教科書を買うのは勘弁したい。
そうして、次の日、こんどはルツが個人的なメモ書きに使っていたスクロールがなくなった。
さすがに可笑しいと思い、周りに相談したところ大騒ぎになったのだ。
誰かに付きまとわれているのではと騒ぎになったのだ。
ルツは、中身はともかく見目は良い方なのだ。
ムーディーも怒り心頭で犯人を捜そうとしたが、次の日もまたルツの私物が盗まれた。
けれど、女子側の部屋に男子が入れることも無く、わざわざ女子がそんなことをするとは思えない。
そんな混乱が寮を包む中、不思議な事があった。
なんと、ルツの無くしたと思っていた、というか盗られていたらしい私物が全てルツのベッドの上に置かれていたのだ。
教科書には、特に何かされた後はなく、自分で書いたメモ書きも筆跡もそっくりそのままだったのだ。
これには、寮生たちも首を傾げた。
なぜ、今になって教科書を返してきたのか。犯人探しに怯えたためだろうか?
いや、ここで怯える程度ならば、何故教科書なんてものを盗んだのか。
というよりも、仮にだ。ルツ本人への好意によってそんなことをしたのなら、もっと服だとか小物を盗めばいいものを何故、教科書やスクロールなのか。
第一、ルツの盗難騒ぎで、寮監が彼女の部屋に警報を仕掛けてくれたのだ。部屋の住人以外が人間が部屋に入った場合けたたましくブザーが鳴る。それさえも、一度だって鳴ったことはない。
このために、ルツの教科書の盗難騒ぎはなんともすっきりしないままに終わってしまった。特に、ルツの保護者枠に収まっているムーディなど怒り狂ったまま犯人を捜すのだと息巻いている。
「まったく!どうして、こういったことをあなたから聞かずに周りのうわさで聞くのかしら!」
ぷんすかと怒るオーガスタにルツは目を細めた。
静かにしているオーガスタよりも、感情を爆発させた彼女の方がずっと魅力的に見えるから不思議だ。
「うーん。そう言っても、私はあまり気にしていないしなあ。」
「何言ってるの!?人の私物がなくなってるのよ!もう少し気にしなさい!アラスターだって、色々と探してるみたいだけど。」
「・・・ムーディかあ。」
「どうしたの?」
ルツたちは今、中庭に面した廊下にいた。廊下に備え付けられたベンチに座って話し込んでいた中、ルツは憂鬱そうにため息を吐いた。
「・・・よく、分からないんだが。新学期が始まってから、ムーディの様子がおかしいんだ。」
「何、あなたたち喧嘩でもしたの?」
「いや、新学期が始まってから、何かムーディー、リドルのことやけに気にしてて。」
「リドル?そう言えば、私にもあの子のこと聞いて来たけど。」
「二人っきりにしたことはあったけど、何かあったのかなあ。そりゃあ、リドルはひねくれてるけど。ムーディがそれを気にするほど、心が狭いとは思えないけど。」
新学期が始まってから、ルツの生活は特に変わったことはない。
ただ、己の私物がなくなったこと、ビーリーから温室へ入り込んだ犯人を捜すこと、リドルへの贈り物が見つからないこと、この三つの悩みが付きまとうことを除けばだが。