【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
>> Maho
「「「「
幾度目かの“手ごたえのない勝利”の後の宴で杯を掲げる。
試合の後で恒例になったこの宴を、遠巻きに眺めてみる。
―――“弛んでいる”
漠然とそう感じた。空気が弛緩しきっている。どうしようもなく。
今回の試合を振り返ってみる。
防衛線を張った敵部隊を、私が突撃して貫き、エミがその突撃を援護し、
ボロボロになった防衛線を後ろからやってきた黒森峰部隊が千代美の号令一下で殲滅した。まさに圧勝と言えるだろう。
―――“弛んでいる”
不満が消えない。
戦場の空気とはとても思えないほどに弛緩している。戦車道の試合もそれは同じ、覇気が足りない―――そう思うようになった。
それはエミも千代美も同じようで、何とも言えない違和感を感じているような表情のエミと、険しい表情の千代美が何故だか印象に残っていた。
『強者に弱者の気持ちなどわからない』
頭を下げるエミに、そんな風にダージリンは語っていた。
“強者に弱者の気持ちはわからない”
その言葉が、無性に心に残っていた。
*******
黒森峰の過去の自分たちの試合のデータを見ていた。
どんどん過去に遡及していく。高等部から中等部3年、2年、1年生。
「―――これは……」
自分の在籍していない過去の黒森峰の試合まで遡及して映像を見ていた私は、その“結論”に達したのだった。
それから数日後。陸に補給に寄港した際に
「お母様。お話があります」
私は本家で母と対面していた。
>> Maho → Emi
某月某日。黒森峰学園艦は熊本に寄港し―――
「本日は、お目通りありがとうございます」
―――俺は西住本家に足を踏み入れていた。
とはいっても、実のところ西住家にやってくるのは実は初めてではない。
まぽりんの相棒として認知され、なんか「虎の翼」とか言う名前を付けられてからすぐのころに、まぽりんに「母に会ってもらいたい」とか言われて西住家にお呼ばれしたことがあり、その時にしぽりんこと西住しほさんと、その補佐をしている井手上菊代さんと面識ができていたりする。
今回、まぽりんに無理を言って面会させてもらったのだ。手土産に持参したティーガー屋の羊羹をスッと差し出しつつ頭を下げて御礼口上から入りそのまま相手の対応を待つ。
「楽にして良いですよ」の声がかかるまではそのまま。地獄のような時間を過ごす羽目になる。大体の人間はここで心が圧し折れて挨拶だけで終わることになる。
が、今回は退くわけにはいかんのだ。
「
まず最初に、短くそう切り出した。
「―――理由は?」
ざわりと周囲の空気が軋む。重圧が半端ないッスねしほさん(舎弟感)
傍らで笑顔を見せている菊代=サンも微妙に表情が揺らいでいるように見える。そんな圧力に負けないように気合を込めて、真っ直ぐ視線を向けてしぽりんに向き直る。
「―――このままでは、“今後の戦車道自体”に影響が出ます」
「―――続けて」
俺の言葉に目が真剣味を増す。驚いた様子がないのは多分、しぽりんも似た様な結論に達していたからだろう。同時に、首元にひたりと抜き身の刃を添えられているような錯覚を受けながら、震える声を精神で押し込んで、努めて平静な声を装った。
「―――結論から言うと、【強すぎる】んです。今の黒森峰が。
私と、まほと、千代美と、みほ。あとエリカや赤星とか粒よりの面々も含めて、強すぎるんです。実力があるメンバーが、他の学園艦より精強な戦車を有する学園に集まって戦車道やってるんですよ。
―――心が折れかけてるんです。おそらく強豪4校の中にすら被害が出てるはずです」
そう。装填速度3秒で連射されるヤークトの砲撃。その砲撃支援を受けて間をすり抜けて飛び込んでくるまぽりん。部隊の統制を崩すことなく建て直すアンチョビ、防御を固めながらゲリラ戦術による奇襲ができ、できる以上奇襲への対策も万全なみぽりん。攻守走全てにおいて万全過ぎて隙が無い。
「今年卒業する三年生は心が折れていて、折れていない生徒も多分、思っているはずです。
『今年一年は捨てて、
俺もまぽりんも、そしてアンチョビも来年は三年生。翌年には卒業することになる。そうなれば黒森峰の戦力は激減。『まだ勝負になる』レベルまで弱体化するという判断に至っても仕方がない。これに関しては他の学校を責められない。
だって俺が仮に相手チームの人間だったらこの厨パ相手に試合しろって言われたら秒で心が折れてコントローラー投げる自信があるし。
―――だがしかし、折り悪く“時勢”がそれを許してくれないのだ。
「―――プロリーグ発足のために各校が戦車道への造詣を深めていると聞いてます。そこでこの状態は非常にまずい。そう思うんです」
あと一年で俺とまぽりんとチョビが卒業するとはいえ、その一年はお通夜状態になるだろう。一方的な蹂躙劇、ワンサイドゲームになるそれを、『今年からプロリーグ発足しようと思ってます』と宣伝する日本の文科省が国交省を通じて海外のプロリーグ運営の人間を連れて見に来るような大会で見せたらどうなるか?
最悪の場合、『八百長だらけの戦車道』とでも認知されかねない。そうなったら西住流としても日本戦車道協会としても醜聞以外の何者でもないのだ。
また、ワンサイドゲームってのはどうしても客の反応が渋くなる。客を沸かせる勝ち方に拘らなきゃいけなくなるならそれは本末転倒。西住流の理念からの逸脱にも繋がるだろう。そんなことになったら目も当てられない。
日本の戦車道が舐められて廃れることになる
↓
西住流も勿論舐められる羽目になる
↓
日本戦車道が廃れ西住流が廃れると、まぽりんもみぽりんの扱いも酷くなる
↓
みぽりんが曇る。
↓
メンタルをやられたみぽりんが戦車道を捨てる。原作と違い西住流も斜陽なのでどうしようもない。
↓
みほエリがいくえふめいになる。 みほエリどこ……?ここ……?
この程度の数式小学生でもわかる等式である。よいこのみんなは説明などせずとも理解していただろう。
「―――それで?」
しぽりんの様子は変わらない。ヒエッヒエに感じる空間で、どうにかこうにか声を絞り出す。
「―――黒森峰を出て、高校生大会の間だけ、別の学園に短期転校して、黒森峰と戦います。八百長ではなく、本気で倒すつもりで」
他の学園が「今の黒森峰には勝てない」、「三年が卒業した後の弱体化した黒森峰相手なら」と考えているのなら、【望み通りそうしてやればいい】。
その場合、戦力を削ぐとして最も黒森峰の戦略に必要ないのは誰か?
そう――――俺だ。
精々他より装填速度が速いだけでフィジカルが一般人以上の装填手。戦略を立てる脳もねぇ、他を率いる統率力もねぇ装填手の代わりくらいならいくらでもいるだろう(願望) 西住流の根幹であるまぽりんを補佐する“虎の翼”の役割として代わりはいるのか?という問いのために推挙できる人材はすでに存在している―――!!
そう―――
懐から記入済みの短期転校手続きの書類を取り出して広げる。今回の意思表明のために持ってきたものだ。お膳立ては先に整えておいて、後は仕上げを御覧じろ。これはどっかのブリカスの受け売りではあるが、こっちの意志が固いと思わせるには十分だったようだ。
差し出されたそれを見て、しぽりんは何故か深い深い溜息をついた。
「―――まほ」
「はい―――」
部屋の横で正座して成り行きを見守っていたまぽりんが俺の隣に歩み寄り、姿勢を正して座り、懐からスッと封筒を取り出す。
―――短期転校手続きだった(なんで?)
「―――やはりエミだな。私と同じ考えに行きついていたとは」
「は?え?へ??」
わけがわからん!!どういうことだ!説明しろ苗木ぃ!!?(ヘタレ眼鏡感)
「―――お母様。いえ、師範!我ら二名、戦車道の未来のため、何卒」
頭を下げるまぽりんに、深い深いため息を吐いたしぽりんは―――
―――なんか悟った様な諦めの表情をしていた(おい馬鹿やめろどうしてそこで諦めるんだよ頑張れ頑張れやればできる気持ちの問題ry)
「―――まほ。けじめとして、貴女を西住の家から勘当します」
「――――はい」
―――なんで?()
いや、違うのよ。俺としては打算があったのよ?みほエリを護ったし、まほチョビもできそうだし、だったら俺がここで居なくなって完成させたうえで、できれば大洗に多少なりと力添えしてもいいなぁって思っただけなのよ?
―――どうしてこうなった……orz
******* >> Emi→ Maho
時間は少し巻き戻り、数日前の早朝
私が母と対面していた時間に巻き戻る。
「私は黒森峰を離れた方が良いのかもしれません」
「……何故、そう思ったの?」
母の声色が恐ろしく冷たく感じられて、知らず首元を押さえたくなる感情に襲われた。まるで物理的に首元に刃を添えられているような圧倒的な圧の中、視線を外すことなく真っ直ぐ母を見る。
「―――私とエミの戦術は、『次が無い戦術』です。このまま私とエミが黒森峰に居続ければ、それは次代の黒森峰の戦術において、致命的な疵になります」
私が突撃して、エミが援護する。
黒森峰の必勝の策となったそれは、『西住流の体現者』である自分と、『体感3秒の高速装填』を可能としたエミという装填手を使ったヤークトティーガーの連続砲撃という現実的に見ても極稀な―――再現性のない条件を満たした場合のみの戦術である。
必勝の策であるからこそ多用していたそれに頼り切った黒森峰は、それが失われた時、かつての戦いが出来るようになるのか?
結論として、自分の頭の中には「無理だ」という結論が出た。
だから今、離れなければならない。黒森峰を救うために。
「今ならばまだ調整が間に合うのです。彼女が―――
安斎千代美が居れば、それが叶います。来年では遅いのです。」
千代美の作戦立案能力と戦術運用能力。策略家として、指導者としての統率力は今回の戦車道大会決勝戦を見れば誰もが認めるものだ。来年になり、我々が全員卒業してからではすべてが遅すぎる。
それでも、母は思案を続けていた。
西住流の次期家元と目されている母が、その次期後継者と目されている自分を学園艦から放逐して他校に放り出す。それは醜聞になりえる。師範としての指導力に疑問を持つものが現れる。それを危惧しているのかもしれない。
「次回の大会の間のみです。他校――陸の学校にでも渡って試合に物理的に出場できないようにして、黒森峰の戦術を封殺し、既存の黒森峰の戦術に強引に慣らすための期間を作る。その後は、学園艦に戻って独逸留学にでも参加は叶うでしょう」
そんな風に説明するも、やはり母は首を縦に振ることはなかった。
結局この話は持ち帰ることになり、一旦思案が必要となった。
そうして母を説得する方法を探している折に―――
「
―――エミが母と対面し、そんなことを言い出したのだ。
黒森峰のことしか考えていなかった私と違い、エミは『日本の戦車道』そのものについて考えていた。自分の都合、黒森峰の都合しか考えていなかった自分に恥じ入るとともに、エミの思慮の深さに心から感心しきりだった。
同時に、私の案を補強する提案も為された。
「―――黒森峰を出て、高校生大会の間だけ、別の学園に短期転校して、黒森峰と戦います。八百長ではなく、本気で倒すつもりで」
―――黒森峰と戦う。
その発想はなかった。西住流を体現する黒森峰と、西住流の薫陶を授けたもう一つの学園艦による対決。それならば、どちらが勝ったとしても『西住流の勝利』と言い張ることができる。母の経歴に余計な疵をつけることなく丸く収まる。
問題があるとすれば『思想の強い学園艦』を選んだ場合西住流の薫陶を授けても意味がない可能性があるが―――エミの思慮深さから鑑みれば、最早候補は頭の中に存在しているのだろう。
ならば、この提案に『全力で乗る』それ以外の選択肢など、とうに存在していなかった。
黒森峰の未来のため。
戦車道の未来のため。
私とエミはそのための踏み台になる覚悟がある。千代美に負担をかけてしまうことが懸念ではあるが……いつぞやの千代美の言葉を思い出す。
「次は敗けない!いや、次は私が勝つ!」
「いいや、次も私が勝つ」
あの日あの時の軽口のやり取り。
もう一度、千代美と敵としてぶつかり合う。そのお膳立ても同時に行える。
「―――まほ。けじめとして、貴女を西住の家から勘当します」
「――――はい」
決別を意味する母の宣告に、私は母の目を真っ直ぐ見て、短く答えた。
カス(チョビへの説明はまぁ、まぽりんがするだろ。しなくてもヘイトが俺に来るなら別にいいか)
マホ(西住流の内ゲバを装うことだから母が説明すべきだな。もし説明しないとすれば母がそうした方が都合が良いと考えたのだろう。喜んで悪役を担うとしよう)
シホ(黒森峰学園艦内のいざこざだから大人が口を出すのは筋違い。説明は自己責任ですべきね……)
チョビ「コミュニケーションを!!とれ!!!」