みほエリは果てしなく素晴らしい   作:奇人男

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エミカスのEはピロシキのE
 




エミカス三次創作の同業者である、竜胆路紬様のダージリンさん被害者ルートのささやかな続きを書かせていただきました。
所謂四次創作です。

元ネタはこちらになります。
https://syosetu.org/novel/179404/15.html






※文中に引用した詩は、ウィリアム・ワーズワースの「雲雀に寄す」という詩です。


くろうさぎのみる夢

 

 

 

 

 

“天空の吟遊詩人 大空の巡礼者よ

 お前が地上を避けるのは 不安が多い故か

 それとも羽ばたき舞いつつ 心と目は

 地上に残した巣に注がれているのか

 そこへとお前は意のままに舞い降りる

 震える翼をたたみ さえずりをひそめ”

 

 

“山を飛び越え姿の消える瞬間まで

 向こう見ずにもさえずり続けるものよ

 お前は一瞬も巣を忘れない

 羽ばたきは草むらを揺るがしながら

 お前の歌声は 誇り高い巡礼者よ 

 春の野辺に響き渡る”

 

 

“森の繁みはナイチンゲールにまかせ

 輝く大空に羽ばたけ

 神々しい本能のままに

 世界を歌声で満たせ

 歩くことなく高々と舞い飛ぶ賢者

 天地の間を行き交うものよ”

 

 

 

 

 

不意に耳朶を打った穏やかな声が一編の詩を詠い上げ、私は不覚にも心地よさを感じてしまった。

それを恥ずべきことと内心で戒めながら、不本意な秘密を共有している『同居人』に、平静を装って言う。

 

「十八世紀の英国の詩人、ウィリアム・ワーズワースの詩ですわね」

「いい詩だな。いや、私には詩の良し悪しをどうこう言えるほどの教養はないけれども」

「善き言葉を受け入れられるかどうかはまず感性の問題よ。貴女にも人並みのそれが備わっているようで安心しました」

「全自動格言再生機が言うと説得力が違うな」

 

こうも明け透けな言葉を交わすのはまるで黒森峰やサンダースのようで、優雅には程遠いけれど、今更目の前の彼女に対してそんな風に取り繕うのも馬鹿馬鹿しくなってきているのが本音だ。

何しろあの日から六週間、六週間ですって? 本当に冗談みたい。

ほんの数名の諜報部員と、片手の指で足りるほどの保険医や用務員、それと他ならぬ私がこの秘密を抱え込んで、もう六週間!

戦車道チームの隊員達、アッサムやオレンジペコにさえこのことは話していない。まさしく前代未聞といっていい。

 

今の状況をよく御覧なさい。手足の生えたすばしっこい核爆弾がソファにもたれて、ワーズワースの詩を嗜んでいるのよ。しかも、聖グロリアーナ学園艦に身を置きながら、あの忌まわしい泥水を飲ませろなどとひっきりなしに要求してくる!

この子を匿っている私の気苦労といったら!

だのに、本人は私の気持ちなど知らんぷりでのほほんとバカンスを楽しんでいる。ほんの六週間前はストレス性の胃潰瘍で吐血するほどの状態だったのに、あの病状自体嘘だったかのよう。

あの日の私の決心を返して欲しいものだわ、まったく。

 

「……私はもう戻りますわ。何か欲しいものはありまして?」

 

ただしコーヒー関連の物品を除いて。

幾度か繰り返したやり取りを否が応にも思い返しつつ、返答を待つ。一ヶ月半もここに居座っているだけあって、彼女も私が目線で訴える内容によく気づくようになっているから、豆やミルが欲しいなどとは言わなくなってくれた。

今の彼女を私のチャーチルの装填手に据えたら、阿吽の呼吸で動けそう。それだけは絶対に御免被るけれど。

 

そして彼女――天翔エミは、少しだけ考えたあと、こんなことをのたまった。

 

「う~ん……たまには外に出たいな」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――月――日

 

たまには外に出たいと言ったらウルトラ怒られたでござるの巻。

 

いや、だってさ、この部屋退屈じゃない?

俺の部屋も大概だったけど、まずこの部屋、そもそもに物が少なすぎる。ベッドと机とソファとキャビネット、あとは冷蔵庫くらいしかない。クローゼットには何日か分の着替えがまとめて置いてあるだけだ。

テレビもないのはさすがに辛い。今ならボコのTVシリーズを三周はできそうなくらい俺は娯楽に飢えている。

何か退屈を紛らわせるものを持ってきて欲しいと言うと、ダージリンの趣味かどうかわからないが、小難しい純文学とか詩集ばかり。

よって俺は食っちゃ寝するくらいしかやることがないが、ダージリンは頑なにコーヒーを飲むのを許してくれないし。あ、こっちだって紅茶をお断りしてるからおあいこか。

 

しかし紙とペンすらダージリンに頼まないと持ってきてくれないのには困った。

俺が自傷行為に走らないようにハサミとかカッターの類を取り上げるのはわかるが、ちょっと神経質すぎない? 大丈夫?

 

そりゃあまあ、匿ってくれと言ったのは俺だ。

ダージリンがあちこちに根回しして俺の足取りを掴ませないように取り計らってくれているのには感謝してる。医者まで連れてきてくれたのには頭が上がらない。

 

でもちょっとくらいいいじゃん? 俺だって外がどうなってるのか知りたいし。

 

 

 

――月――日

 

とりあえずダージリンに頼んで、変装用の服を何着か見繕ってもらった。

すると、いいとこの女の子が入学式かピアノの発表会にでも着ていくような、黒を基調にしたフリフリのワンピースを持ってきた。顔を隠せるようにとつばの広い帽子も用意してくれた。

悲しいかな、俺の身長と体型を考えればこういうのが一番よく似合う。

 

ついでにハサミを頼んだら、持ってきたのは幼稚園児が使ってそうな刃先の丸まった工作バサミだ。どこまで徹底してるんだこいつは。むしろ嫌味か。

 

で、そのハサミを何に使うつもりだと聞かれたので、俺は答える代わりに実行して見せた。

頭の後ろでくくっている長ったらしい髪を、短い工作バサミを使ってジョキンジョキン、とね。

ほら、こうやって髪型を変えちゃって、変装すれば案外気づかれないかもだろ?

 

名案だと思ったのだが、ダージリンは絶句していた。というかドン引きしていた。

そしてまた説教を喰らった。解せぬ。

 

 

 

――月――日

 

かつて俺は、俺の日記を盗み見てしまってSAN値がピンチな秋山殿に甘いものを食べさせて事なきを得た。

しかしただ甘いものを食べればいいってもんじゃあない。

やっぱり人間、陰気な地下室を出てお日様の下に出ないと元気が出ないってもんだよな。

 

そう思うだろう、ダージリン?

心配しなくたって、俺とお前は歳の離れた姉妹くらいに見えていたさ。「いかにも」って感じの変装用サングラス持ってきたときはつい笑っちゃったけど。

 

聖グロの学園艦の街並みをゆっくり見て回れたのも面白かった。やっぱり黒森峰や大洗とはぜんぜん違う。フィッシュ&チップスの屋台ってマジであるんだな。

果たして噂どおりのマズさ、しかも下味をつけてないと思ったら塩とかお酢とか自分でかけるのか。カルチャーギャップがすごい。

 

あと、コーヒーは相変わらず許されなかったが、その代わりホットチョコレートをダージリンに飲ませることに成功した。

 

やったぜ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

エミさんが外に出たいなどと言い出したときに卒倒しなかった私の精神力の強さを評価してくれる人は、生憎と誰もいなかった。

 

でも、それだけで終わってくれたならよかったのに、まだ先があったのだ。

 

変装用の服を用意してくれと言い出したので、思いきりエミさんにお似合いの服を一式用意した。特にリアクションがなかったのは不満だったけれど、考えてみれば、この手の服がよく似合うと何百回となく言われてきたのだろう。

問題はそこからだった。予想外なことに、エミさんは私が用意した子ども用のハサミで、その長い髪を、躊躇うこともなく切り落としたのだ!

見る見るうちに、エミさんの髪は不揃いな長さで短く切り落とされてしまった。そして、エミさんはけろっとした顔でこう言うのだ。

 

「こうやって髪型を変えちゃえば、案外わかんないものだよ」

 

開いた口がふさがらないとはまさしくこのことだった。

同時に、この子はどれほど自分自身に執着がないのだろうと、私は少しだけ怖くなってしまった。

 

 

 

一回だけ、どうしても、一生のお願い、としつこく懇願され、ついに私は根負けした。

特別に、一日だけ気晴らしの外出を許すことにしたのだ。当然、保険医の診察と診断の上で、慎重に慎重を期して、だ。

本当に、自分から匿ってくれと言ってきたくせに、こっちの苦労も知らずに。私が破局を防ぐためにどれほど気を揉んでいるか。

エミさんのマイペースぶりにはつくづく呆れ果ててしまうが、しかし一度引き受けた手前、放ってもおけない。

 

そういうわけで、お目付け役として私も同行するという条件の下、私とエミさんは聖グロリアーナの街へ繰り出した。

 

ロンドンの街並みを再現したこの学園艦の風景は、私には見慣れたものだったけれど、黒森峰と大洗にいたエミさんにはとても新鮮みたい。

日除けの帽子と黒のワンピースを着たエミさんは、髪をバッサリと切ってしまったこともあって、まるで別人のよう。ウキウキと街を歩く姿は小さな黒ウサギみたいだった。確かに、遠目からではよくわからないだろう。

かく言う私も変装はしていた。エミさんと同系統の地味めな色の服装に加えて、カラーコンタクトにウィッグ。サングラスはエミさんに笑われたので置いてきた。普段私が街を歩けば、道行く人々に挨拶されて足止めされてしまうものだけれど、今は足取り軽く歩けている。

ビッグ・ベンをモデルにした時計塔や、ロンドン・アイを意識した川辺の遊園地の大観覧車、石造りの街のオアシスとも言うべきグリーンパーク。観光客が回るお定まりのスポットを、エミさんと二人でいくつも回った。シャーロック・ホームズ・ミュージアムの見学なんていつ以来だったか。

 

やがて私達は、マーケットの一画にあるカフェに立ち寄った。川に面した窓側の席に案内されて、ようやく一息つけた。朝から歩き詰めだったのでさすがに疲れてしまった。

私が紅茶を注文しようとすると、エミさんは先に店員に声をかけ、ホットチョコレートをふたつ注文してしまった。

どういうつもりかとひそひそ声の抗議をすると、エミさんはまた白々しい顔でこう言う。

 

「イギリス人だってホットチョコレートくらい飲むだろ。それにほら、いつもみたいに優雅なティータイムの作法を見せたら、ダージリンだってバレちゃうかも」

 

……ええ、エミさんの魂胆なんてわかりきっている。

紅茶党の私にあの泥水を飲ませようとしているけれどうまく行かないから、代わりにホットチョコレートで戦術的勝利を得ようというのでしょう。小癪な。

けれど、今は乗ってあげようと思う。正直言って、エミさんと議論をする元気はあまりなかったのだ。変装が見破られても面倒なことになるのは確かだった。

 

運ばれてきたカップを手に取り、口に運んだ。優しい甘さが、じんわりと身体の中に染み渡っていくよう。思わず、ほうっと息が漏れた。

エミさんは我が意を得たりとばかりにニヤニヤしていたが、無視した。

 

それからしばらく、静かな時間が流れた。

お互いの口数は少なかったし、予期せぬ聖グロリアーナ観光ツアーに付き合わされてしまって疲れていたけれど、何故だかとても安らいだ時間だった。

絶対にバレてはいけない隠し事を抱えた身で、ずっと気を張っていたから、こんな時間は久しぶりに思えた。

 

……まさかと思うけれど、エミさんは私を労うために外に出たいなんて言い出した?

 

いいえ、絶対に違う。この子が私にそんな気を遣うものか。自分が退屈していたから我が侭を言っているだけのこと。本当に呆れた人。

一瞬浮かんだありえない考えを否定していると、窓の外で鳥達の騒々しい鳴き声が聞こえた。川のほうに目をやれば、海鳥達が一斉に飛び立っていくのが見える。

ああ、エミさんに翼があったらよかったのに。そうすれば彼女は、みほさんとエリカさんの下から自分の力で飛び立ってゆくのに。どこまでも遠く、高く、人知れぬ空の向こうへ羽ばたいていってくれるなら、どれほど楽だったか。

 

そんな私の内心を知ってか知らずか、エミさんは、空を見上げながら呟いた。

 

 

 

“森の繁みはナイチンゲールにまかせ

 輝く大空に羽ばたけ

 神々しい本能のままに

 世界を歌声で満たせ

 歩くことなく高々と舞い飛ぶ賢者

 天地の間を行き交うものよ”

 

 

 

鳥達を見送るように諳んじたそれは、自由に天空を舞う雲雀を讃えた詩の一節。

 

エミさんはどこか遠い目をして、誰にともなく言う。

 

「……みほも、エリカも、飛んでいくんだ。どこまでも遠く、遠く、私なんかには届かないどこかへ。私は、二人を地上から見上げているだけでよかったんだよ」

 

エミさんが噛み締めるように口にした言葉を、私は表面上、聞こえなかったふりをした。

ここにいるのはダージリンでも天翔エミでもない。この言葉は西住みほにも、逸見エリカにも届かないのだ。

 

本当に、不器用な子。

 

だから私も、「――仕方ありません、もう少しだけ付き合ってあげましょう」と言ってやった。

目の前の誰かさんに届かなくても、それでよかった。




このルート、エミカスを匿ってることが露見したらダージリンさん死んじゃうんじゃないかなーとか思いながら書いてました。

竜胆路紬様、何か不都合がございましたらご連絡ください。すぐ消します
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