バニーガールって良いよねって話。
「ダメですか?」
「ダメに決まってるだろう」
「バニーガールですよ?」
「それがダメだと言っているんだ」
織斑千冬は、目の複数の生徒を連れた生徒会長『更識楯無』を見る。楯無の眼には熱が篭っていた。
千冬は悟る、こいつマジだと。本気で我が弟にバニーガールの衣装を着せる気だと。
「見てくださいこの署名の数を!こんなに沢山の生徒が織斑くんがバニーガールの衣装を着た姿を見たいと願っているんです!!」
千冬は楯無が差し出した署名を綴った名簿を無言でぶん獲るとそれを掌で握り締めた。ああっ!と楯無の背後に居る生徒の一人が声を上げた。
「ダメだと言ったらダメだ!」
「生徒の総意なんですよ!?」
構想図も出来上がっているんですと生徒の一人が楯無の背後から千冬の前に出てくるとイラストを千冬に差し出す。美術部の生徒だったのか、無駄に上手い。ピンク色の背景で、一夏とおぼしき少年がバニーガールの衣装を着てポールダンスを踊っている絵だった。
絵の中の少年の股間は衣装に収まらなかったのだろう、文字通りもっこりしていた。
「フンッ!!」
「ああっ!?」
千冬は差し出された絵の両端を掴むと、力を込めてそれを破り捨てた。半泣きになりながら無残な姿となった絵を拾う生徒。
「こんなのあんまりですよ!」
「アンタに人の心はないのか!?」
こんな狂った案を要求してくる者達に善意の有無を問われるなど甚だ遺憾だった。もはやこれ以上は許してはおけぬと千冬はとうとう実力行使に及んだ。
「まともな案を出せ馬鹿共ォ!!」
「ぎゃあああああああああああぁぁぁ!?」
千冬の繰り出す出席簿の乱打に生徒たちは堪らず職員室から逃げ出した。
「ちょっ織斑先生痛いっ!」
楯無が先頭だった為、必然的に楯無が最後尾になり出席簿の殴打を他の生徒よりも余計に多く食らう羽目となった。
「全く馬鹿共が…」
千冬は額に浮かぶ汗を袖で拭いながら、背中を抑えて去っていく楯無を見る。あれは恐らくまた来るなと思いながら千冬は肩を落とす。
学園祭まで2ヶ月を切ったこの時期に挙がった学年全体で行うエキシビションの案が出てきたと思ったらこれである。
一夏がバニーガールの衣装を着て踊る姿が千冬の脳裏に浮かんだ、顔を羞恥に染めながらポールダンスを踊る一夏。
「…絶対に通すものか」
千冬の顔は少し赤かった。
楯無をトップとして結成された『織斑一夏にバニーガールの衣装を着せ隊』は項垂れたまま生徒会室までやって来た。彼女たちの顔は一様に暗い、ついでに背中も痛い。主に楯無の背中が。
「本気で打ってくるなぁ織斑先生…」
「でもどうしますか会長、これじゃ織斑くんバニーガール化計画が…」
これまでの計画が全て水泡に帰す、それは彼女たちにとって何としても避けねばならなかった。
これまで一夏にバニーガールの衣装を着せるというただ一つの目的を達成する為に、長い期間苦楽を共にした彼女たちだ。その落胆も一塩だった。
「せっかく色々考えたのに…」
「織斑くんのポールダンスとか、来客参加型の織斑くんを商品とした闇のオークションとか…」
落胆の声が次々と挙がる、内容はどうしようもないものだったが。
「…クーデターよ…」
「え?」
楯無は突如テーブルの上に乗り出すと声高々に宣言した。
「決めたわ!織斑くんをバニーガールにする為にも!私はこの学園でクーデターを興すわ!!」
何事かと呆気に取られる生徒達、そんな彼女たちを無視して楯無はなおも続けた。
「直談判がダメなら武力行使よ!織斑先生を倒して我々の願いを叶えるのよ!!」
「ちょっ…会長落ち着いてっ…」
「貴女は!!」
楯無は自分を制止しようとした生徒の目の前にテーブルの上から飛び出す、勢いに驚いた生徒は尻もちを着いた。
「見たくないの!?」
「ひっ!」
「織斑くんの!!バニーガールが!!」
爛々と輝く楯無の瞳、その目に正気は既になかった。しかしそれは生徒も同じだった。
恐らく想像してしまったのだろう、全身を黒いバニーガールの衣装に包んだ一夏の生々しい想像を。あのドスケベボディをドスケベ衣装に包んだドスケベな一夏の姿を。
「う、うん…」
「でしょォ!?」
室内は狂気に呑まれていた、更識楯無というクレイジーな女のクレイジーな計画が可決されるのはそれから暫くしての事だ。
結果だけ言うとクーデターは失敗に終わった、IS数機を使用した大規模な武装決起は織斑千冬という吉田沙〇里も裸足で逃げ出す霊長類最強女子の前に完膚なきまでに叩きのめされた。
クーデターの首魁、更識楯無は引くほどボコボコにされ現在は生徒指導室で反省文100枚の刑を受けている。
「出来心だったんですよ…」
「出来心でクーデターなぞ起こすな馬鹿」
千冬は木刀を肩に載せて目の前の馬鹿を監視していた、仮にも学園最強を名乗る生徒会長だ。いつ逃げられるかわかったものではない。
「ホントにダメなんですか…先生…」
「お前まだ言うか」
千冬は肩に載せた木刀をゆっくりと下ろすとその切っ先を楯無の方に向ける。
「実は第2案があるんですよ…」
「何だ?言ってみろ」
千冬の目は獲物を見つけた猛禽類のような鋭さだ、今この女の前で冗談のひとつでも言うのは自殺行為だろう。余程の馬鹿でもない限り、そんな事はしないだろう。
「…ブラジリアンビキニっていうのは」
馬鹿だった。
楯無の頭上に木刀が振り下ろされるのはそれから約1秒後の事だ。
リハビリ程度に書きました…