クロウ隊3番機が着任しました   作:hamof15

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遅くなりました~
今回は長めです。


第5話 模擬戦争 中編

鎮守府護衛艦隊より数キロ先

 

「敵機はどこ?」

 

敵の攻撃隊を探すが、一向に見当たらない。

どうなっているんだ、偵察機からの情報ならここのはず…。

母艦からは電探もここを指していると聞いたが…。

次の瞬間、後方の太陽が少し暗くなった気がした。

 

「まさか‼」

 

太陽の光で目が焼き付きそうになる。

そこの光の中から黒い物体が近づいてくる。

その黒い物体はこちらに向けて光弾を放った。

咄嗟に操縦桿を引き、それを回避する。

周りでは被撃墜機が過半数だった。

 

「奇襲か‼」

 

敵は降下速度を維持したまま打ち漏らした機体を破壊していった。

敵機の性能は高すぎる。

 

「ただでやられてたまるか‼」

 

自分の後ろにいた敵機を振り払うように旋回をする。

敵はそれを追って旋回を始める。

後はこっちのものだ。

旋回戦の恐ろしさを見せてやる‼

フラップを下げ、速度を犠牲にするかわりに絶大な旋回性能が手に入る。

あっという間に敵の後ろについた。

光学照準器に敵の姿が入る。

 

「これで終わりだ‼」

 

20mm機銃が火を吹く。

敵の機体に向けて弾丸が吸い込まれていった。

相手から火花が散るのが見える。

そして操縦席の中で炸薬が破裂したのか風防が粉々に吹き飛んだ。

敵機は急速に降下し、海面にダイブし、海とキスする。

 

「よし‼ やっ…」

 

しかし、次は私の機体の翼がもがれる。

無数に飛んできた弾丸は、私の意識を遥か彼方へと追いやった。

僅かながら損害が出たがほぼ圧倒的な戦力差で制空権が取られた。

遅れてやってきた雷撃隊や爆撃隊が、悠々とその空域を飛び去ってゆく。

偵察機は報告を出す前に撃墜され、攻撃隊が迂回しているのは知らされなかった。

電探が捕捉したのは先行した戦闘機隊で、正確な位置や高度は分からず、圧倒的不利な状態で彼女らは戦闘を強いられ、全滅した。

この空戦での攻撃隊の損害は0だった。

______________

 

祥鳳型航空母艦二番艦「瑞鳳」

 

『敵に制空権が取られました…』

 

絶望的な報告が耳に入った。

既に陸攻の第二次攻撃隊は全滅したと報告は入っていた。

基地航空隊の最新鋭機、紫電を使っても倒せない演習相手、本当に相手は私たちと同じ艦娘なのだろうか?

こちらに残っているのは天山のみ、これではまるで歯が立たない。

 

『扶桑より報告、敵攻撃隊目視』

 

「対空戦用意、最後まで戦い抜くのよ‼」

 

次の瞬間、巨大な砲声が聞こえた。

扶桑と山城が三式弾を射撃したのだろう。

しかし、上空支援が無いとなると既に勝敗は喫している。

空に巨大な花が咲くのが見えた。

敵機の爆撃機編隊がそこに飛んでいる。

敵機が海面すれすれにも見えた。

対空砲が雷撃機を優先して迎撃を開始する。

砲声は鳴り止まず、海に響き渡る。

海面付近に多数の爆発が起きた。

調整された信管は海面に落ちる前に破裂し、破片をまき散らす。

しかし、常に動いている敵機には酷く無力だった。

面制圧できるほど正確な砲撃は私たちにはできない。

距離が更に近づき、機銃が一気に射撃を始める。

曳光弾が線を引きながら飛んでいくのが見えた。

しかし敵機はそれを気にせず、雷撃できる距離までくる。

これ以上まっすぐ進むのは危険だ。

 

「回避行動急いで‼」

 

ゆっくりと向きを変える船。

 

『敵機直上‼』

 

急降下を始めている5機が見えた。

あの高度ならもう避けられない。

 

「最後に雷撃機だけでも…」

 

飛び立ってもすぐ撃ち落されるのがおちだが、何もしないよりは…

しかし、格納庫にいる艦載機を出すには遅すぎる。

もう駄目だ…。

そう思った時だった。

突然、急降下中の敵機が爆発し、吹き飛ぶ。

その破片が周りにも突き刺さり、一機が翼が折れ、それ以外は操縦手がやられたのか、海面へとまっすぐ墜ちていった。

破片の一部が飛行甲板に降り注ぐ。

一瞬で敵機が5機撃墜された。

その次はこちらに来ていた雷撃機が吹き飛ぶ。

一体何が起こっているのか分からず、混乱する。

すると見慣れない飛行機が頭上を通過した。

 

「あれは…」

 

あの時見た、PJさんが見せてくれた機体が、見たこともない速度で飛んでいたのだった。

__________________

 

「FOX1!」

 

中距離対空ミサイルが奥にいる敵機に向かって飛んでいく。

残り対空ミサイルは0。

後はバルカン砲のみか。

弾数はフルに残ってる。

残弾表示がバグっているのを除いて、問題はないだろう。

レーダーでは敵は混乱状態になり、一時的に攻撃を中止し編隊を組み直すのが映っていた。

 

「さあ、一緒に踊ろうじゃないか」

 

増槽を海面に捨てる。

MFD(マルチファンクションディスプレイ)の左上にあるAAMと表示されているOSBを押し、武装をGUNに切り替えた。

ガンサイトはLCOS(リード算定式光学照準) モードにする。

 

「ガルム2、エンゲージ‼」

 

攻撃機を優先して叩く。

急降下して敵編隊に目標を定める。

そして編隊の先頭に立っている機体をロックする。

敵機がピパーの中心部に入った。

 

「Gun's Gan's Gun's‼」

 

チョンっと少し指切りをするぐらいでトリガーを引く。

毎分6000発の射撃速度を誇るM61A1が高速で弾丸を吐き出した。

それはピパー上にショットガンのようにまき散らされる。

敵機は木端微塵となり、海に消える

まき散らさられた弾丸に運悪く当たったのか、もう一機が翼がはじけ飛び、海にダイブした。

エアブレーキをかけ、残りをバルカン砲の餌食にした。

敵の直掩機がこっちに飛んでくる。

 

「その程度で俺を落とせるか?」

 

スロットルを上げ、敵機から離れる。

その間にも、別の攻撃機を狩っていた。

レーダーにはおよそ70以上の敵機、40機あたりが攻撃機だろう。

海面付近を飛んでいる機体を優先的に排除していった。

直掩機たちは挟み撃ちの作戦でこちらに襲い掛かるが、

 

「無駄だ‼」

 

正面の敵機はロックし、ピパーの中に入れる。

そして弾丸の雨を降らせた。

敵機は回避しようと機体を動かしたが、ショットガンのように広がる弾丸を避けきれず、爆発四散した。

後方のは無視していく。

 

「海面のは終わったかな、次は爆撃機だ」

 

あまり優先せず、ほっといたため、体制を立て直し攻撃用意に入っていた爆撃機を20mm弾が襲う。

焼夷榴弾が敵機を粉々に粉砕していく。

敵に大型機がいないお陰で楽々と作業が進んでいった。

トリガーを引けば一機、また一機と数を減らしていく敵。

まるで事務作業のような感覚である。

しかし、

 

「なっ!?」

 

機体に振動が走った。

衝突防止警報装置が作動していた。

真上を見ると、敵の編隊がこちらにダイブしてきていた。

あの距離から当ててくるとはな。

そこまで酷い損傷はない、小口径の弾丸か、当たり所が良かったのだろう。

アフターバーナーを点け、加速し、旋回をして振り切ろうとするが、敵直掩機はしつこくこっちをストーカーしてくる。

 

「当てやがったな、やり返させてもらうぞ」

 

敵の攻撃機はほぼ全滅しただろう。

敵直掩機は守るものが無くなり、お怒りのご様子だ。

しかし、運動性能はこっちが上手だ。

 

「20mmを喰らえ!」

 

まるで猛獣のような唸り声を上げるバルカン砲。

敵機はあっという間に粉砕された。

 

「しかし、この弾数は本当なのか…」

 

既にこの機体である装弾数の512発は既に撃ち尽くしている計算だが、HUDには残り数千発入っていると表示されている。

俺の相棒はいつの間にチートが使えるようになったんだ?

できればそのチートはミサイルで発動してほしかったが、そんな都合よくはなかった。

 

「残りもこれだけあればいける!」

 

全力射撃をしなければの話だが。

 

「俺の速度に追いついてみろよ‼」

 

_________________

 

鎮守府護衛艦隊 扶桑型戦艦一番艦「扶桑」

 

「凄いわね、まるで夢を見ているみたい…」

 

青い空で灰色の鳥が烈風を落としている。

灰色の鳥は私たちの軍の最新鋭機を嘲笑うかのように次々に粉砕していた。

あれには少し、恐怖を覚える。

 

「……同じ匂いがするわ」

 

あの戦闘機、あれに乗っている人は私と同じ不幸な感じがする。

大切な時期に、実戦に出れなくなったしまった私と同じ…。

 

「扶桑さん、あれ本当に味方ですか?」

 

対空見張り員が不安そうに聞いてくる。

 

「味方ですよ、敵なら私たちも攻撃されます」

 

敵の雷撃機などは来ていない、敵が戦闘機単機で来るわけがないので、味方しかないだろう。

それでも、たった一機で来るのは可笑しいですが…。

 

「!? 敵機‼」

 

「えっ!?」

 

油断していた。

生き残っていた最後の流星が、こちらに魚雷を落とす。

きっと、ずっと機会を待っていたのだろう。

そして不幸にも敵は私を狙ってきた。

本当に自分の不幸にはうんざりする。

山城が対空砲を撃っているが、もう遅い。

戦艦の鈍足じゃ、避けられるわけが…。

 

「!?」

 

次の瞬間、魚雷があると思われる場所が水飛沫を上げる。

そして空からブオーという音が聞こえてくる。

空を見ると、あの戦闘機が白い煙を吐きながら降下していた。

それはあり得ない速さで弾丸を海面に撃っていた。

海面はまるで弾け飛ぶように水飛沫を上げていた。

そして奇跡的に魚雷に当たったのか巨大な水柱が立つ。

その飛行機はその水柱を切り裂き、飛び去って行った。

自分の不幸を、救ってくれた?

今までも不幸な目に会い、仲間に迷惑をかけていたけど

 

「あれなら…」

 

私を不幸から守ってくれるかもしれない…。

なんでしょう、この感覚は…。

ただ、なにか、今まで違う。

近代化改修でも感じられなかった、希望というものを感じたような気がした。

あれに乗っている人について行けば、私の不幸も救ってくれるのでしょうか?

それなら、私はその人について行きたい。

_______________________________

 

「シンク・レート(降下率) ドント・シンク(降下するな)」

 

警報が鳴り止まない。

油断していた、まさかまだ攻撃機が生き残っているとは…。

バルカン砲もえげつない速度で残弾を吐き出していく。

 

「当たれぇぇぇ‼」

 

高度計の数字がどんどん小さくなっていく。

エアブレーキをかけて降下する速度を抑える。

しかし、あまり意味が無いような気がする。

バルカン砲がオーバーヒートしている。

 

「シンク・レート テレイン(地表) ドント・シンク プル・アップ(引き上げろ)」

 

 

駄目だ、もう機体を引き上げないと海面とキスする。

それだけはさけないと…。

そして瞬きした瞬間、目の前に水柱が立っていた。

 

「プル・アップ プル・アップ」

 

操縦桿を引き、機首を上げようとするが、目の前の水柱は避けられない。

 

「耐えてくれよ…」

 

そして機体が水柱と激突する。

激しい揺れを感じ、警報音が鳴り響いた。

機体のバランスが一気に崩れ、高度と速度が落ち、機首が下がる。

 

「踏ん張れぇぇぇ‼」

 

操縦桿を引き、高度を上げようとする。

しかし、先ほどの衝突で速度を落とし、上昇してくれない。

警報が鳴り止まなかった。

エンジンが逝かれて無いことを信じ、A/Bを点火する。

 

「上がってくれ‼」

 

エンジンが巨大な音が上げる。

速度もエンジンの音と比例的に速度が上がっていった。

高度も上がっていく。

 

「あぶねぇ…無茶するんじゃないな…」

 

魚雷を機銃で破壊しようとするんじゃないな。

運が無ければさっきの衝撃で機体がバラバラになっていたかもしれない。

 

「次は敵艦隊か」

 

バルカン砲は先ほどの射撃で残弾が半分以上消えている。

ミサイルはシーカーに影響がなかったら6発残ってる。

しかし、装甲が厚いBBやHC(重巡洋艦)は対地ミサイルは貫通できないだろう。

できても対空砲などを破壊できるかできないかだ。

となると装甲が薄そうなCV(航空母艦)かLC(軽巡洋艦)、DD(駆逐艦)に限定した攻撃となる。

事前の情報ならCVは四隻、LCが二隻、DDが二隻のはず。

空母を優先して叩くか。

でもそれだと対空能力が高いであろうDDが残る。

初めに2発で駆逐を滅し、その後4発で空母をやろう。

そしてこの世界の船、過去の船は魚雷発射管が外に出ているのを見たから機銃で誘爆を狙い、LCを攻撃する。

しかし、どこに発射管があるのか分からない以上、一点集中の攻撃ができない。

奇跡を信じるしかないか…。

するとレーダーに幾つもの点が映り始める。

 

「しまった、遅すぎたか…」

 

敵の第二波だろう。

これを迎撃している暇は無い。

 

「音速で突っ込み混乱させるか、ソニックブームで敵機は破壊できるか?」

 

レシプロ戦闘機だろ、防弾ガラスが割れるか割れないかの間だろう。

エンジンを故障させれる? それも希望的だ。

なら無視していくか?

そうすると護衛対象を無視することとなる。

ていうかどんだけ艦載機を載せてんだ敵艦は、敵空母は移動要塞か?

 

「どうする…直掩機だけ墜として後は味方に頼むか…」

 

しかし、もし攻撃機がこちらの戦闘機より性能が高ければ?

それより、敵機は一体どうやって敵艦の位置を知っている?

偵察機? それともレーダー?

空から船ではなく、艦対艦のレーダーだろう。

なら通信している母艦を叩けばいけるか?

賭けだが、それしかない。

 

「速度的に、速攻で終わらせられれば…」

 

空母はミサイルで、戦艦はレーダーは露出しているはずだからそれを破壊する。

 

「残り燃料は、帰り分あれば大丈夫!」

 

そう考え、敵編隊の中央を突破する形で突入した。

_____________

 

数分後 赤城艦載機 第二次攻撃隊

 

「各機、警戒を怠るな」

 

第一次攻撃隊はたった一機の戦闘機に壊滅させられたらしい。

信用できないが、もし本当なら鬼神が飛んでいるとしか考えられない。

そんな鬼神に我々は勝てるのか?

我々の艦隊の最強と言われた一航戦の戦闘機隊を全滅された敵。

それは突然、目の前に現れた。

 

「? なんだあれは?」

 

小さい点が近づいてくる。

それはこちらに真っ直ぐ向かって来ていた。

 

『敵機‼』

 

ありえない、あんな速度で飛べる飛行機なんてある訳が…。

混乱している内に、敵から煙が吹き出した。

 

「なん…」

 

次の瞬間、目の前が真っ暗になる。

何が起こったのか理解する前に、私の意識が消えた。

M61A1が放った機関砲弾は一瞬にして一戦闘機編隊を吹き飛ばす。

それを見た攻撃隊は回避行動を取るが、不幸にも彼の射線に入ったものはショットガンのように広がる20mm弾を避けることはできずにバラバラになっていった。

直掩機が追おうとするが、亜音速で飛行するものを追いつくことはできなかった。

敵攻撃機編隊を突破したF-16は、敵艦載機が飛んできた方向から推測した敵艦隊の位置へと向かうのだった。

_____________

 

数分後 飛龍型航空母艦一番艦「飛龍」

 

『こちら攻撃隊‼ そっちに敵機が‼』

 

「こちら飛龍、了解‼」

 

まさか第二次攻撃隊も襲われるなんて…敵の航続距離は零戦かそれ以上、しかもプロペラが無い。

演習前に陸上戦闘機は航続距離が短いのしかないって言ってたのに…、蒼龍ちゃんの嘘つき‼

 

「も~、意味が分かんない‼」

 

『全艦、敵が来ますよ‼』

 

赤城さんが通信を入れる。

 

『こちら秋月、電探に機影を発見! 敵機と思われ…』

 

次の瞬間、眩しい光が目に入る。

そして秋月ちゃんの艦が黒煙を上げた。

鈍い音と爆発音が遅れて聞こえてきる。

 

「まさか、今のが敵の!?」

 

そして照月ちゃんの艦も爆発が起きた。

駆逐艦の高さを超える爆発が起こり、艦橋が吹き飛ぶのが見える。

魚雷に誘爆したのか、船体が真っ二つに折れるのが見えた。

そして、まるで時が止まったようにその状態で動かなくなる。

これが艦娘同士の演習で沈没艦が出ない理由。

轟沈してしまうレベルまで達するとその船の時が止まるのだ。

僅かこの数秒で、防空駆逐艦が二隻も撃破される。

 

「敵機発見‼」

 

妖精さんが指を指した方向に双眼鏡を向ける。

すると灰色の何かが見えた。

それは今まで見たこともない速度でこちらに近づいてくる。

 

「直掩隊各機上がって‼」

 

間に合わないかもしれないけど、何もしないよりは…。

そして敵機は私の直上を通過する。

耳が痛くなるような音を出しながら飛んでいく。

 

「何なのよも~‼」

 

対空砲が空へと砲弾を撃ち上げるが、全く届かない。

敵機はいつの間にか見えない位置までに移動していた。

 

「今のうちに艦載機を…!?」

 

ふと顔を上げると、加賀さんから爆炎が上がっていった。

そして鼓膜が破けるのではと思うほどの轟音が海域に響き渡る。

 

「まさか一撃で…」

 

圧倒的な力の前に、もう見えいるしかないのかもしれない。

後を追うようにして赤城さんからも爆発が起こる。

そして次は…

 

「蒼龍ちゃん‼ 逃げて!!!」

 

その叫びは虚しく宙を切り、蒼龍ちゃんの艦が火を吹き上げた。

残る空母は私だけ、まるであの時みたいに…。

頭の中にあの日の記憶が呼び起こされる。

そしてついに私の順番になった。

黒い塊が飛行甲板に突っ込んできた。

AGM-65Eの遅延信管は飛行甲板を貫通し、格納庫内で威力を解放する。

136kg榴弾が炸裂し、格納庫は爆風でありとあらゆるものを破壊し、誘爆させる。

火が船体のあちこちから吹き上げた。

この艦橋にも…。

_______________

 

長門型戦艦一番艦「長門」

 

「飛龍轟沈(判定)‼ 一航戦と二航戦がやられました‼」

 

まさか、敵機がここまで強いとは…。

想定していた事態とは全く違う。

事前情報では全くなかった未知の最新鋭機、それはまるで悪魔のようだ。

一瞬にしてこちらの主力空母達が撃沈する力を持つもの…。

まるで味方では無いように一撃を躊躇せずに撃ってくる。

相手は相当な手練れだろう。

それが今度はこちらに飛んできていた。

 

「主砲、三式弾装填完了‼」

 

主砲が旋回するが、もう遅い。

対空砲が狙い撃つも、当たる気配すらない。

次の瞬間、敵機はこちらに機銃を放つ。

ありえない速度で飛んでくる弾は艦橋の防弾ガラスを容易く打ち破り、中で破壊をもたらす。

 

「っ‼ 報告!」

 

「航海長が意識不明!」

 

『対空電探がやられました‼』

 

「通信機器が破損、使用不能‼」

 

ダメージは予想以上に大きい。

本当に今のは機銃なのか?

 

「主砲、旋回完了‼ 仰角調整中‼」

 

主砲が敵機の居る方向を向いている。

普通は対空電探などで敵の位置を計算して砲撃をするが、潰された以上は目測でやるしかない。

命中率は絶望的だろう。

しかし、一人一人が熟練した腕を持つ妖精たちなら、やってくれるかもしれない。

 

「全主砲、仰角合わせました‼」

 

「全主砲、斉射! てぇぇぇぇ‼」

 

重い砲撃音が連続して耳に入る。

硝煙が甲板に立ち込めていた。

____________

 

「ファイア‼」

 

一隻目の戦艦をやり、二隻目を攻撃する。

こんな大きさの戦艦を見ることができるとは…。

ノースポイントでは同じような船が昔あった的な話を聞いたことあるな。

 

「BB相手にバルカン砲だけか…」

 

ここまで無力な攻撃と感じたことは少ないだろう。

せめて補給してからの方が良かったか?

まあ、そんな暇ないから飛んできたのだが。

 

「まあ、敵の対空砲は意味ないし、大丈夫だろう」

 

とりあえず、艦橋に20mmを叩き込む。

何発かが弾かれながらも、上部のレーダーと思われるものは崩れ、艦橋の強化ガラスはただのガラスのように粉々になる。

艦橋内は地獄だろうな。

そして次の目標に向かおうと方向を変えた時だった。

バックミラーを見ると、一隻の戦艦が爆煙を上げていた。

バルカン砲だけで弾薬庫が引火するわけがないし…。

まさか…

額に冷たい汗が流れるのを感じる。

反射的に操縦桿を捻り、その場から離れようとするが、遅かった。

後方に幾つもの花火が咲く。

そして大きな衝撃が機体を襲う。

 

「うおっ!?」

 

何かが擦れ合う音や、ぶつかる音が聞こえる。

キャノピーはところどころにひび割れや傷ができる。

様々な警報が鼓膜を振動させた。

 

「メーデーメーデーメーデー! こちらPJ、被弾した‼ 無駄か…」

 

無線に呼びかけても誰も反応しない。

通じて無いから当たり前だが…。

幸い、エンジンが生きている。

エアインテーク(給気口)に破片が入らなかったのも幸運だった。

被弾箇所を計器や目視で確認する。

すると、主翼から白い霧が吹き出しているのが見えた。

 

「燃料漏れか…」

 

燃料計の減少スピードが加速している。

 

「基地までは持ってくれよ」

 

そう呟き、その空域から離脱した。

___________

 

数分後

 

燃料タンクが空になり、エンジンから火が消えた。

 

「基地までは戻れないか…」

 

幸いなことに、味方艦隊の近くまで飛んで来れた。

敵の攻撃隊は見かけなかったので、たぶん迷子になっているか、攻撃を終え撤退したのだろう。

攻撃をしたのなら犠牲はあっただろうが、生き残っている艦がいるので救助してくれるはず…。

そう信じて、滑空をする。

もちろん、滑空することを本業としているグライダーとは違うので落下スピードは速い。

そしてついに力尽きたのか、エルロンが宙を舞い、ラダーが動かなくなった。

もう、この機体は動かない。

高度は260mまで降下し、速度は360kmと失速。

機首が下がり、加速的に高度がどんどん下がっていく。

もうベイルアウト(緊急脱出)するしかないか…。

演習では失った機体は帰ってくると聞いたから、それを信用する以外あるまい。

 

「体を痛めませんように!」

 

そう祈り、レバーを引いた。

火薬式でキャノピーが最初に吹き飛ばされる。

次に射出座席が機体からブースターにより空に飛び出す。

その瞬間、体に10以上ものG(加速度)が体を襲う。

押し潰されるような感覚が全身にかかる。

意識が飛びそうになるのを必死に防ぐ。

速度0、高度0でもパラシュートが開く高度まで打ち上げてくれる射出座席の勢いはパイロットを生かしたいがために死ぬほどの苦痛を味合わせる。

まあ、演習では死なないらしいが…。

ブースターが止まり、座席が体から離れる。

俺の機体は海面に突っ込み、海中へと姿を消した。

本当に演習が終わったら機体は帰ってくるんだよな?

もし戻ってこなかったら格納庫に余ってる爆弾を基地で爆破してやる。

そう考えながら、海面へと降下した。

海面に着水したと共に、パラシュートは自動的に切り離される。

ライフジャケットのお陰で、しばらくは浮いていられるだろう。

まあ、味方が近くにいるので何時間も放置されなくて済みそうだ。

怖いには、サメにいきなり襲われるとか、スクリューに巻き込まれてミンチになることだ。

死なないとは聞かされているが、さすがに挽肉にはなりたくはない。

そう思いながら、なにもない大海原を漂っていた。

数分後、無事に着水地点に駆逐艦一隻が来てくれて、救助してくれた。

_________

 

朝潮型駆逐艦三番艦「満潮」

 

「味方戦闘機、墜落!」

 

激しい水飛沫が、少し離れた場所に上がった。

 

「搭乗員は?」

 

冷静に見張り員に聞く。

 

「あそこで落下傘で降下中」

 

さっきは戦闘機から風防を吹き飛び、火を吹き出して座席が飛んでいくのが見えたので搭乗員の安否が気になったが、無事らしい。

爆発したのかと思ったが、あれはなんだったのだろう。

 

「救助しに行きますか?」

 

「時雨に任せれないの?」

 

「時雨さんは距離が離れていますし、我々が一番近いですから…」

 

「仕方ないわね、助けに行くわよ」

 

「了解」

 

ゆっくりと船が降下している搭乗員の元へと向かっていくのだった。




遅くなってすみませんでした。
様々な用事がスケジュール表を埋め尽くしているため、1週間中には投稿するのが難しいかもしれません。
できるだけ早く投稿するようにしますが、遅くなっても怒らないでください…。
前編後編で終わらせる予定が予想以上に伸びたので中編となりました。
それと先ほど見たらUAが1000を突破してました‼
読んでくださっている方、応援してくださってる方、ありがとうございます‼
そして今更ですが感想くださった方、ありがとうございました。

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